ちょっと変化球です
『狡猾ならずんば』
決戦終了から30分後、マネージャーを努めた1人のゆっくりにとりは取材陣にこう語る。
「材料・器具・コンディション・相手側のデータ収集等、万全を期したよ。
その意味じゃ8割の勝率が確信されていたと言っても普通は過言でないね。
ただ、本番の弱さを事前に克服できなかったのかな。取り乱してた。
自身の努力・トレーニングはほぼ完璧だったのに。いや、本当に」
問題は――――と、ここで俯き目を閉じ、にとりは重々しく述べる。
「敗因は、我々サポーターの方なんすよお」
==================================================
「違う」
あやは控室で、早速中継されているテレビを見ながらひとりごちる。
「――――あんた達のせいじゃない」
自分で、ゆっくりあやの陣営に黒星を再び作ってしまった。
思えば本当に優秀なスタッフ達だった。他の自分以外の19人のゆっくりあや専属スタッフ
の中でも、究めて優秀な方だったと思う。
『蠱毒』の準備はきつそうだったし、
『すりすり』や『耐久レース(仮)』に出た奴等
の健康管理も大変だっただろう。
しかし、10番勝負の中でも、自分の勝負程周りの協力が必要になる種目は無いだろう。
きめぇ丸 VS ゆっくりあや
十番勝負が一つ『料理』
恐らく最も雌雄の決定が困難であろう種目の一つだ。
変則的に、一試合中に5段階の項目に分かれる。
すなわち、調理場と運営が用意した材料のみを使うという公平な条件の元に行われる
それぞれのお題をもった勝負が4本。
第一項目・「豆腐」 第二項目・「カレー」 第三項目・「卵」 第四項目・「サラダ」
結果は2対2。
接戦である。
客席も理解していた。第五項目こそがまさしく本番中の本番である。
「自由競技」
献立の構成・食材・調理器具の事前調達・仕込み等はもちろんの事、会場の空調や建前上は
公平な審査員達の微細な嗜好・視覚的な効果を狙った盛り付けの研究、そのための食器の選定
や―――対戦者の傾向の研究に至るまで――――心理・情報・技術・根回し――――これ程
複雑な要素を総動員して戦う競技も少ないだろう。
1人ではできない。
にとりを初めとしたサポートゆっくり達は、収拾に、調達に、懸命に駆け回ってくれた。
大切な従業員達であり、いつもの常連さん達だった。
この十番勝負への出場が決まった時から、自然と集まって応援してくれたのだ。
本当に、精一杯やってくれた
なのに――――
だから――――
「悪いのは………あんた達じゃ…………!」
涙と鼻汁でベトベトになった顔面を綺麗に洗いながら、ゆっくりあやはついに叫んだ。
ぶんぶか今は頭だけの全身を高速でフルフル振り、勢いで回転してのけ反ってしまう。
「あの偽者が汚いせいじゃ! せいじゃせいじゃ!!! せいじゃあ!」
「いや、お前の実力不足からだろ」
背後のテーブルの上、ちょこんと座ったゆっくりすいか教授がちびちび何かを飲みながら
言う。
顔も(◯), 、(◯)になっている。
"  ̄ 'ー=-' ̄"
「自分の弱さを責めるなら解る。だが対戦者のゆっくり性に難癖つけるのはよくないな」
「だって私はできる限りの事をやったんです!私だって悪くない!」
「見苦しい。今まで前にでてきたゆっくりあやの中じゃ一番性質がわるいぞ」
「私は悪くない! 悪いのはあの偽者!」
「良いとか悪いとかじゃなくて………」
「うわああああああああああ!!!」
「いい加減にしろ!」
すいか教授は瓢箪を思い切り投げつけた。取り乱していてもゆっくりあやはすんなりそれを
避けきったが、それを見越していたか、教授はその場でジャンプしてあやの背中に回る。
サクリ、と角の先端が刺さる。
「あったたたた」
「落ち着きたまえ。これはお前が首を突っ込んだ勝負なんだ。何があっても勝者が正義で
敗者は悪だ。裏事情やら事実やらをまくし立てても、世間はそうとる」
「『スポーツマンシップ』なんて無いって事ですか……」
「無いな。
しかし、『すりすり』や『納涼』はともかく、鼻血の我慢に共食いのバトルロワイヤルやら、
そこらに比べるとまだ普通の勝負だっただろう」
とは言えとは言え。
「納得いきません!」
そう―――――
いくら何でも、あのきめぇ丸は、酷過ぎた。多分向こうの二十人の陣営の中でも鼻つまみ者に
違いない。
あの3番勝負に出ていたきめぇ丸達に比べれば何とも
だって………
料理も野球も戦争さw
食い物なんざ旨くて早くて安くて健康によくて味と見た目と匂いと食感がよくて
地球環境への配慮がありゃあ、それで十分なんだよwww
汚い? 勝てばいいんですよwwww /ハ\
,,、 _/-─-i‐ヘ- ..,,_
./ ハ\ ,..::'"´:└──'─'::::::::::::`'::.、
, r' ´ ̄ ̄`゛'┘ー . /:::::::/::::::::!::::::::::::';::::::::::::`ヽ;:::::ヽ. 『料理は心』!!!
,r' , r ' ` 、 /:::::::::::;'::::/::ハ:::::::::!:::!:::::::::::i:::::::';::::::::',
_i;,._,イ ハ, ト、人N、 ' , !::::::::::::|:::/メ!_|::::::/!/|-‐ァ:;ハ:::::::ト、::;;_!_ 愛情なくしては美味しい料理は作れません!
(. .) /Vヾ V::::::r=-!、 ヽ !::::::::::;ハ:7__,.ハ|/ 、!__ハく!::!::::::/:::::::::| `ヽ
,. ‐<;'''`. 〈 rr=-::::::::: ┳ .'i ノ ) 八:::::/|::::i`(ヒ_] ヒ_ン)|:/:::::::::::::! くソ
ヽ,_,ノ ハ ┳ ー=‐'┃ レrレ' ! ヽ;ハ|::7" ,___, /:::!::::::::/:::::;ハ
, -〈 ヾ lハ _> ┃ __,l' {._.) ム /;:> ヽ _ン ";';::::/:::::::::/
! _..ノ Vル、人 `r 'ハ/>‐、 _ノ´:::::ヽ、, |::/::::::::::::/
` - ___,. ,r 'iレ' '、 _ノ ´  ̄/´:::::`>ー-一'レi::::::::::/' 【伝統と格式の河城飯店所属・ゆっくりあや】
レ'"´ ル"レ
【三ツ星レストランNight Sparrow所属・ きめぇ丸】
↑こんなだもの
何か色々違和感あり過ぎだし………
入場時はまだ普通だった。
握手も向こうからしてきた。
何だかパン生地をビニールに詰め込んだような感覚が不気味で、テンションが下がったが、
ここは別に狙った訳では無いだろう。
―――続く第一項目の「豆腐」
会場中央には、運営が用意した食材が置かれていたが、そこから臭豆腐を選び、自らの調理台
へとトタトタ走るあやを、きめぇ丸は………
「私は転校生かっ! って話ですよ!!!」
蹴った。
と言うか、足を延ばして躓かせた。
よく見ると6メートルは離れた所にいたのに、足を無理して伸ばして『おお、たまたまたまたま』
と誰にもばれずにだ。落ち込んだあやは、おからの唐揚げしか作れなかった。
―――続く第二項目の「カレー」
見事としか言い様の無いコントロールで、きめぇ丸はあやの鍋にコンデスミルクとメエプルシロップ
を投げ込んだ。勿論カメラにも映らなかった。
「仕方がないから、予定を変更して激辛キムチカレーを激甘トロピカルカレーに作り直しました。
材料に容器用のパイナップルが無かったらどうなっていたか……」
「運営もカレー勝負によくそんなもの用意していたな」
―――続く第三項目の「卵」
きめぇ丸の動きが変にゆっくりし過ぎていると思っていたら、あやの動きを逐一観察し、徐に
作り始めたのは、同じオムハヤシライスだった。
「『同じものを作るけど、実力は自分の方が上だ』と言わんばかりに!」
「ああ、だからいきなりオムおでんに無理に変更したのか。審査員もよく……まあ勝ったから
いいじゃないか」
―――続く第四項目の「サラダ」
きめぇ丸は、 また 蹴った。というか、躓かせた。10メートルも離れた位置から的確に。
あやは泣きながら人参と牛蒡たっぷりの天魔サラダを提出し、きめぇ丸は韮と紫蘇の風味豊かな
蔵馬サラダで勝利を収めた。
「あいつ………『どこまで卑怯なんだ!』って問い詰めても『おお、偶然偶然』って」
「二回もひっかかるかなあ」
そして、多少やる気をなくしていた一般客達(何故なら自分達は見ているだけで実際に食べられない
から)も沸き立つ中、きめぇ丸はついに本性を現した。
これでもか、という成金趣味の調理具・調味料の数々。
更に用意した食材は
ト-、___
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l´` ,,__ _,、 【捕獲レベル88:】 ヘ ___.
)  ̄ ノ Z蟹ノ ハ ヽ、
(⌒,___,⌒ / キ ___ ,'ズ 」ノレレハノノ)〉
/ ヽ_ ノ ノ < ,.::´:::::::::::::::::`ヽ l i ノr=-::::r=ァYノ
/ ヽ_ _ ィ ヽ ./´¨ ̄ ̄ ̄ ̄`` 、 ハ ハ " -=-' ")ハ
/ ', / ,.:-――――一- 、! / /| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|\.
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lヽ ', ll | }:::;/ ̄ _____,.リ  ̄ ̄|:::::::::| |
l tソ / )ソ Y /::::::::::::::::::::::::::{ .ト---|----------| 【捕獲レベル428】
ヽ l ゙、 /.:::::::::r '''''''''''''''''弋
1 ,-t / ヽ::::;ィ'’ ...::::::::::::...゙ヽ
| / | 丿 ∨ /: ( ヒ_] ::::::::ヒ_ン`ヽ
l / } ( ヽ_/::::::::::::::::::,___,::::::::::ヾ
} { ㎜ `ー-z__;;ヽ _ン:::::;;;;ツ
㎜ ¨゙"゙"゙ヾ" 【捕獲レベル92】
「金に飽かせて、大方美食屋に頼んで仕入れたのに決まってますよ!」
「そういうお前だって」
./ヽ、__
,,r''"´  ̄ ̄ `"''//`ー∠
/ ヽ!_/ヽ>
/ 「__rイ´ ',
i゛ \ / |/.l i
l (ヒ_] ヒ_ン) l ノ
!. "" ,___, "" レ'
l l ヽ _ン l , l
| l ,| l l
! l ,! | l
l ゛i / l i゛
゛i ヽ / / /
ヽ,__,,,ゝ く ノ /
ヽ ゛" / __
_ ) 、(二"'''ー'"ー'__ヽ
r'  ̄  ̄ヽ,)‐-,,_ ´┴'ノ
ヽ__,,-──-、__,ノ【捕獲レベル17】
「あれは、元の食材の生きている状態がどんなか見たいから、わざわざ高尾山まで登って尻尾の
先だけ斬ってもらったんです!」
「おお……弱いのにわざわざ……」
捕獲レベル17というのも今となっては大した事は無い様に感じるかもしれない。が、こいつは
高尾山の3合目あたりという割かし近場に出没する上に、別段素早いとか運びにくいとか腐り
安いなどの特性がある訳では無い。単純に17と言う数値は、料理人には、高い。
そうしてできた献立は――――
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃【きめぇ丸のメニュー】 【ゆっくりあやのメニュー】 .,┃
┃カニとおりんりん蘭慟セルクル仕立て 浅蜊ご飯 ,.┃
┃ホンチュリースープ 大根とわかめの味噌汁 ,┃
┃アカエイの黒幕カルパッチョ 鯵の開き ,.┃
┃静葉ザウルスのロースト キウイソース ソーナンスカーの生姜焼き.┃
┃むっちり紫もやしのカラメル煮込み 茄子と豆腐の煮物 .┃
┃白鵺のラクリマクリスティー ほうれん草のおひたし ┃
┃オータムメロンシャーベット ,,┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
「これで、何で負けたのか理解できません」
「本格料理(?)と家庭料理の対決か。完全に同じ土俵とは言い難いが、ある意味得意分野での
引き出しを全て出し切っての対決だから、最も公平な勝負と言えるんじゃないか?」
でもでもまとめれば……
ゆっくりあやは、用意したホワイトボードに書き並べた。
【きめぇ丸】 【ゆっくりあやのメニュー】
信念: 「勝てばいいんだよw 旨けりゃなww」 / 「料理は心!」
流派; 本格派(笑 本場中華だのフレンチだの…) / 古き良き、あくまで大衆派
材料: 資金に物をいわせて各国の高級食材(笑)を… / あくまで庶民派 だから誰でも買えるものを。ただし安全なものを!
価格; 多分バカ高い / 非常にリーズナブル
「自分を持ち上げ過ぎだ…… これだけ見ても、きめぇ丸がそこまで悪い事にはならんだろう」
「加えてあの悪辣さ!普通は私が勝つでしょう?」
「お前は色々毒されてるな。沢山のフィクションや悪平等(ちと古いか?)、底の浅過ぎる道徳観、
お涙頂戴の劣化なボランティア精神。確かにあのきめぇ丸は悪人だが、これは何勝負だ?」
料理勝負である。
「相手の性格が良いか悪いか、お前の努力量なんてものは大した意味を成さないんだ。
『汚いことしても勝てばいい』より『料理は心』の方が正しい事くらい誰でも解る。
だがそれが勝敗に直結しないことくらい、小学生どころか園児でも解るぞ」
「あやややや…… それは言わない約束ですよう」
本当はあやだって解っている。そこまで甘ったれた人生観は持っていない。しかし、ここまで後味の悪い結果は
初めてで、それを受け入れてしまうのは、今までの信念どころか、これから先の指針をも疑わなければならない気が
してしまうのだ。
教授は、やや優しげにゆっくりあやの背中をさすってくれ、二人は無言で仕度をすると、控室を後にした。
「あのきめぇ丸だって、あの方向でお前以上の努力をしたんだろう。ただそれだけさ。『これをバネに頑張れ』としか言いようが無いな」
「そうですね。そういう事にしか」
「まああれだ。お好み焼とかもんじゃ焼とか、あとはお茶漬けセットとかにしておけばよかったな」
「あー…… 喰う側の裁量で色々作れる、自由度が高いって奴ですね。シャブシャブセットとか」
「手巻き寿司って手もあったぞ」
さて―――フロアに出ると……
「み、皆…………」
河城飯店の従業員達とお得意さん達一同、その他知り合い達で結成された応援団が待っていてくれた。
その顔には怒りは無い。労いはあったが、憐れみも無い。ゆっくりあやの敗北を認めはしたが、先程教授の言った
『これをバネに~』をそのまま表情で伝えている。本人以上に、未来を見越している顔だ。
何の事は無い―――――― 一度負けたが、過去は否定しきれないし、未来も疑うことはないのだ。
胸いっぱいになったあやは、涙をこらえて駆け寄ろうとした
と、その時だった。
_人人人人人人人人人人人人人人_
> おお、馴れ合い馴れ合いww <
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
振り向けば
/7 「l /7
`<ヽ, 「:l /ヽ._,,,...,, |:l _/"ニニノ
丶,`:-': '-..,「‐/ @ ':,:.:.^`ヾご/
 ̄ ̄ヾ/:,'-‐r-‐‐'、 ヽ ヽ
ノ lヽ j /、lヽ ト、 .', よかったなあwwwwwwwwwwwwwww
h'´ r'"イ .ノ\| .r=ァ レ'{ } なぐさめてくれる仲間がいてwwwwwwwwwwwwwwww
{ヽ.,l r=- l11`○!
レ1ヽ'、 'ー=ョ 人ル ノ`。 ,,,,ノノメメ彡ミミ彡ミ:
o'レ~7'ヽ、 ノ.:ミ三=三=ミミミ彡`,..:.::;;;:;:`,..:.::;:ミ
○' `彡:ヽ、,、.メ.::::::ミ≡ ヽ :::;;::`,..:.::;:`,..:.::;:`,..:.:ミ
/彡:::.:.:`,..:.::.:.:;;/ | :`,.::;;::`,..:.::;;.::`,..:.::;ミ
/ `- ソ~~ ̄ヽ^^) /| ::;;::`,..:.::`,.`,.;;.::`;ミ'''
( /__ ~~~ / | ::;;:`,.:.:.::;;..`,.;ミ''
`--´~メ!川ハ`---´ | :`,.:;;::`,..:.;;ミ''
何故か、“格闘技世界チャンピオン”『きめら丸』に一人で進化している。
「き、きめぇ丸お前……」
「そんなんだから私に負けたんですよwwwwww」
「だからって戦った相手n」
「そんな感じでずっと傷の舐めあいでもやってればいいんですよこの負け鴉wwwwwwwww」
「そんな、わたs」
「ずっと底辺に這いつくばってるのがお似合いですよ三流がwwwwwwwwwwwwww」
何というか、もうきめぇ丸どころか、ゆっくりですらない………
傷口に塩を塗りたくるためだけにこいつはやって来たのか。 こんな奴に負けたのか。
何なんだ。この終わり方は。 酷い。酷過ぎる。
少しだけ救いがあったと思ったら、すぐに引きずり降ろされた。いや、神は引きずりおろすためだけに、
少しだけ浮かせてくれたのか。あの現人神や女神なら違和感の無い話だ。
―――こんなオチがあってたまるものか。
打ち震えるゆっくりあやに、とどめとばかりにきめぇ丸は付けくわえた。
「あんたの『真心料理』(笑)、私も試食したんですが、あれから何がか口から出そうでねえwww
笑ってしまいそうですよあーっはははははははははははは!!!! ゆゆゆっゆゆゆゆゆゆゆゆ
げられげらげらげらげらげらげらげらげー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そうさ私は料理の神! お前らは私にひれ伏すのみさげーっっららげらげらげらげらげらげら」
無表情のまま高笑いを続けたきめぇ丸は上を向きなおも笑い、ついにはのけ反り、ひっくり返って
後頭部をしたたかに床にぶつけたが、まだ笑っていた。あまりにも笑いすぎて、全身が痙攣をおこして
いる。ちなみに表情は最初から全く変わっていないから、怖い。
「げらげらげらげらげらげらげ………」
「!?」
もう呼吸困難になって息も絶え絶え、声もでないのに、それでも笑っている。
そして口の中から、何やら黒い煙がたなびき始めた。
「こ、これは……!?」
「これぞまさか、あの………」
ゆっくりあやは、これみよがしに、大声でスタジオ中に響き渡るように言った。
「これはあれだ、その、何だ。硬度に根を詰めて調合やら珍しい食材やらを煎じまくった結果、
色々良くない具合に色々反応を起こして、『トぶ薬』っぽい成分が、味と引き換えにできて
しまったとかいうパターン!! つまり」
~♪空を自由に飛びたいな
「はい!胡蝶夢丸!」
あん…あ…ん……あん…… とっても…大…好き♪~
「「「「「「な、なんだってー!!!?」」」」」」」
「きっと、彼女の作った料理にはそのトブ薬がふんだんに含まれているに違いありません!
今すぐ調理場の調査を!」
騒然とするスタジオ。
「あや…… お前って奴は……」
呆然と、心底悲しそうに軽蔑しきった眼差しを送るすいか教授をしり目に、ゆっくりあやは
密かに拳を握りしめた。悪魔のような顔で……
「試合に負けて勝負にかったどころか、トぶ薬を審査員に食べさせていたという事が分かれば
もう結果自体も……!」
と、きめぇ丸は起き上がった。
// ヽ,
,.└''"´ ̄ ̄ `ヽ、
,. '´ 、、 ヽ ヽ
ノ , lヽ j ━、lヽ ト、_,,.', _人_
r'´ r'"イ .ノ━| .レ f?i心'レ' { } `Y
{ !、 l仟?i 弋cソ) / `'''l.>‐ .、
レヽ.,ト' 弋cソ ー=‐' / l 、,,_,,ノ 。 *
,}' ', /ヘ, /レ' ,/ >‐、
7'´レ1 ヽ 人ル'レ' 'i、_ ゚*
レ~i` ヽ 、_ ( "
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・長い……とても長い、恐ろしい夢を見ていた気がします」
唖然とするゆっくりあやを殊勝に心配しつつ、きめぇ丸は続けた。
「そう……この日の勝利のために、私は自分で自分を追い込んでいた。そして、いつしか自分を
見失っていた。だから……許されない事ですが、気が狂ってあなたに酷い事を……」
「……ええーと、あーと……」
「そんな自分を止められなかったのは、私自身の弱さです。本当にごめんなさい!」
「まあその」
「あなたの『真心の料理』と、その姿勢。実にお見事でした」
スタジオから戻ってきたゆっくりにとりが、別に薬物は検出されなかったことを告げる。
先ほど口から上っていた黒い煙は、このきめぇ丸の悪い心や、何か悪魔とか憑き物とか、そうした
精神的な良くない存在の具現化とかそうした説明ができるのだろう。
ガタガタと震えるゆっくりあやの拳を、しっかと握りしめ、きめぇ丸は言った。
「ありがとう! あなたの料理のおかげで、私は正しい心を取り戻しました!
いつかまた、正々堂々と勝負しましょう!!!」
勿論この様子は、会場に生中継されていた。
巨大なモニターに映し出された二人の姿に、早苗さんもイズン様もさめざめと泣いて、感動の
コメントを送っている。
勝利を目指して、いつしかダークサイドに堕ちていた料理人。
それを救ったのは、ライバルだった相手の真心………
つまり、ゆっくりあやの『真心料理』は本当に他者を救う力を宿していた訳だ。
完璧な終わりではないだろうか?
取材陣にフラッシュをたかれながら、ゆっくりあやは泣きながら笑っていた。
いや、笑いながら歯ぎしりを繰り返していた。
そして、心の底から納得していた。
「こういうパターンかよ………」
了
最終更新:2011年09月04日 21:36