ゆっくりきょうしゅうじょ3

「おはようございます、ぱちぇさん……朝っぱらから何を見てるんですかあなたは」
「むきゅ、だれかとおもったらやまぐちさんじゃないの」

さなえ教官の体調が回復したため授業が再開されるという報告を聞いて、久しぶりに教習所に行ってみると、受付のぱちぇが頭文字Dを見ていた。
画面上では、オレンジ色のS14とパンダトレノが雨の中バトルをしていた。賢太も強いはずなのに噛ませ臭しかしないのはどうしてだろうな。

「いまここででちょっとしたぶーむになってるのよ。ぶれいくるーむさんではずっとほうそうされてるわ」
「は、はぁ……」
「ねんのためにいっておくけど、みぞおとしとかぶらいんどあたっくとかいんべたのさらにいんとかは、ふつうにやるとうんてんしてるがわもくるまさんもこわれるから、ぜったいにやっちゃだめ、ぱちぇとのおやくそくよ」
「やりませんよ、そんなの……」

お、ハチロクが抜きに行った。



「えー、このあいだはおさわがせしました……あらためまして、がっかたんとうのさなえです。さなえとゆっくりがっかをまなんでいってくださいね」

教官が簡単な自己紹介を済ませ、さっそく授業へと入っていった。
……そういえば横浜さんがいないな。もしかして授業再開の連絡が届いてないのか?

「さっそくはじめましょう、てきすとさんのろくぺーじをひらいてください」

6ページを開くと、”第一段階 第一章 運転者の心得 1.交通規則を守る”という見出しが飛び込んできた。

「こうつうきそくさんは、ほこうしゃさんやくるまさんなどがどうろをあんぜんに、そしてえんかつにつうこうするうえで、まもらなくてはいけないきょうつうのやくそくごとです」

テキストには、二車線の道路のイラストが描かれている。車とバイクがスムーズに通行できている様を描いているのだろう。

「つまり、こうつうきそくさんをまもることはしゃかいじんとしてのきほんであって、これをまもらないひとはくるまをうんてんするしかくのない、とてもゆっくりできないひとということです」

交通規則の本を熱心に読んでいるありすの絵が描いてある。この絵は別になくてもいいのではないだろうか。

「どうろをつうこうするときは、こうつうきそくさんをまもるのはもちろん、まわりのほこうしゃさんやくるまさんのうごきにちゅういして、あいてのたちばにたって”おもいやりのきもち”をもってつうこうすることがたいせつです」

建物の外では、先に実技教習を行うクラスの授業が行われているのだろう、車のエンジン音や、時折急ブレーキを踏んだような音が聞こえてくる。
しかし、パンパンとうるさい。ここの教習車はランエボなんだろうか。教習所内ではミスファイヤリングシステムを切っても罰は当たらないだろうに。

「また、ふひつようなきゅうはっしんやきゅうぶれーき、えんじんのからふかしなどはさけて、こうつうこうがいをすくなくするようにどりょくをしなければなりません」

よく見ると、さなえは耳栓をしている。確かに外の音は聞こえにくくなるだろうが、それ以上に生徒の声が聞きづらいのではないだろうか。

「つぎは”うんてんのきんしについて”です。てきすとさんのじゅういちぺーじをひらいてください」

飛ばされた4ページほどにはいったい何が書いてあるのだろうか、そう思い読んでみると、なんと白紙。
どうやら、教官が補足した場合や板書などを記入するためにあけられているようだ。
それにしてもこんなに白紙はいらないだろう。リサイクルや無駄遣い禁止などが叫ばれている世の中とは逆行しているような気がする。

「むめんきょ、しゅきおび、かろううんてんや、かくせいざいやまやくをふくようしたじょうたいでのうんてん、ゆっくりしたせいびのできていないくるまさん、きょうかんがいないときのかりめんきょでのうんてんなどはぜったいにしないでください」

発情していると思わしきありすが車に乗ろうとしているのを静止しているみょんが描かれている。
そこまではいいのだが、ページの端にはそのありすとみょんが子供を作っている光景が描かれていた。なぜ二コマ目を作ったのかまったくわからない。

「つぎのぺーじにうつって、うんてんしゃのこころえについて。じどうしゃさんをうんてんするときは、けがのりょうようなどでできないばあいをのぞいて、かならずしーとべるとさんをしてください。じょしゅせきやこうぶざせきでも、かならずしめるようにしましょう。また、どうじょうしゃさんのあんぜんにきをくばるのも、うんてんしゃさんとしてのせきにんですね」

教科書の”後部座席の人にも、させるように努めましょう。”という一文が赤で少し消され、”後部座席の人にも、させ======ましょう。”となっていた。
恐らくこのテキストは道交法改正前から使っているのだろうが、何とも修正の仕方が雑である。

「いじょうでだいいっしょうはしゅうりょうです。ここでちょっとしたみにてすとさんをはさみますね。いまのないようはまるっきりかんけいないもんだいもほぼかくじつにまざってるでしょうが、といてみてください」

そういうと、さなえは第一回ミニテストと書かれたプリントを2枚配り始めた。しかし、今の授業とまるっきり関係ない問題をなぜ組み込んだんだろうか。

「まるばつけいしきのもんだいさんがぜんぶでじゅうもん、たぶんいっぷんかにふんでできるとおもいます。では、ゆっくりはじめてください」

さなえの合図で、一斉にプリントが表向けられ、テストが始まった。


”問1.交通事故や故障者を見かけたら、連絡や救護などの協力をしなければならない。”

まあ○だよな。

”問2.事故を起こすと、被害者に対する損害賠償だけでなく、行政上・刑事上の責任も生じる。”

こんな話、今の授業にあったか?答えは一応わかるが、完全にテキスト無視だ。

”問3.小さな子供を車に乗せるときは、目の届きやすい前部座席に乗せるのが良い。”

○……いや、×だな。子供は後ろでチャイルドシートに座るのが一番だ。

”問4.車を運転するときは、自賠責保険だけではなく、任意保険にも加入する。”

もう少し先にこんな単元があったような気がするが……。とりあえず○。

”問5.走行中に窓から紙くずなどを投げ捨ててはいけない。”

もはや自動車と関係なくなりつつあるような。

”問6.シートベルトを着用するときは、シートに深く腰掛けてから行う。”

やたらと○が多いのは俺の気のせいなんだろうか。

”問7.車に乗り降りするときは、交通量に関係なく車の右側から行う。”

×、だよな……?
ただ前の列だとシフトレバーが邪魔になって、逆側からだとものすごく乗りにくそうだけど…

”問8.交通法規に違反しない範囲であれば、自分の考えで勝手に運転しても良い。”

自分と勝手がどうも引っかかるんだよな……
とりあえず×にするけど、これは間違ってるかもな。

”問9.自動車検査証を紛失すると困るので、コピーしたものだけを車に置いて、運転した。”

なくしものをよくする俺的には○であってほしいけど、まあ×だろうな。
そういえば部活の合宿の時とかに、保険証のコピーを持参するように言われてたけど、あれってよかったのか?

”問10.イライラしていると運転が荒っぽくなるので、自分の心理状態を気配って運転する。”

○だな……いや、×だ。こういうひっかけはよくあるって聞いたことがある。
そもそもイライラしてるときは車を運転するな、とかそういう結論のはずだ。高速とかで出口とかサービスエリアとかが遠いときにそうなったらどうすりゃいいんだとかいう話は完璧無視だ。


「まだできていないにんげんさんはいませんか? いないみたいなので、かいとうようしさんをかいしゅうしますね!」

さなえが解答用紙を1枚ずつ回収していった。

「それではもんだいようしさんをだしていてくださいね、これからてすとのかいせつをしますよ!」

その場で解説をしてくれるとはありがたい。もやもやしたものはきっちりしてから帰るに越したことはないだろう。

「まずはといいちばん、これはまるですね。こうつうじこやこしょうしゃさんをみかけたら、せっきょくてきにきょうりょくしないといけませんよね」

この辺りは復習というよりも、むしろモラルを問われている問題なんだろう。

「といにばん、これももちろんまるですね。けいじじょうのせきにんはばっきんだけでなく、きんこやちょうえきなどけいむしょにはいるばあいもあり、またぎょうせいじょうのせきにんはめんきょていし、めんきょとりけしなどのしょぶんがあります」

この問題を間違えた人がいるんだろうか、そう思いつつあたりを見渡すと、前の方に頭を抱えている人がいた。

「といさんばん、これはばつです。こどもはこうぶざせきさんにちゃいるどしーとさんをつかってのせてあげてください。ちなみにろくさいみまんのこどもは、はついくのていどにおうじたちゃいるどしーとさんをつかってくださいね」

チャイルドシートを使わなくちゃいけないというのは知ってたが、細かい種類があるとは知らなかった。

「といよんばん、こたえはまる。にんいほけんさんはぎむではないですが、おおきなじこがおきたばあいに、じばいせきほけんさんではまかなえないがくになったりするので、かにゅうしておくべきです」

ほんとうはもっとあとにやるないようのはずなんですけどね、とさなえ教官が付け加えた。

「といごばんはまる、これはきけんというよりもどうとくてきもんだいですね。まどからかみくずさんをなげすてるようなゆっくりできないにんげんさんに、うんてんめんきょさんはにあいません」

まったくもってその通りだと思う。

「といろくばんはまるです。こうしないとうんてんするときにしせいがあんていしません。しーとべるとさんはただしくちゃくようするようにしてくださいね」
「先生、質問です」

前の方に座ってた、俺と同じくらいの背格好の奴が手を挙げた。

「深く腰掛けるとペダルに足が届かなくなる人はどうすればよいんですか?」
「せんもんてんさんにいけば、ぺだるさんのかばーさんをぶあついものにとりかえたりすることができるので、あんしんしてくださいね」
「ありがとうございます」

そういうアイテムもちゃんとあるのか。やっぱり困ってる人は多いんだろうか。そう思いながらテキストの余白にまとめてると、周りの人が慌ててテキストを取り出した。学科終わってないのになぜ仕舞った。

「といななばんはばつです。こうつうりょうのおおいときは、ひだりがわからのったほうがあんぜんですよ」

いずれにせよ、あまり逆からは乗りたくないな。

「といはちはばつですよ、まるにしたゆっくりできないにんげんさんはいませんね? じぶんほんいのうんてんをしないのがげんそくですよ」

納得。そういう意味だったか。

「といきゅうばんはばつです。めんきょしょうさんやけんさしょうさんは、こぴーしたものだけだとふけいたいのあつかいになりますよ」

やっぱり偽造とかそういう観点からも駄目なんだろうな。

「といじゅうばんは、いがいかもしれませんがばつです。いらいらしてうんてんして、じこをおこしてしまってはいけないから、うんてんしないほうはいいということみたいです」

予想通りか。親が普段から、教習所はこういうせこい問題を出してくるから気を付けろって言ってたけど、今日その意味がはっきりとわかった。

「ちなみにさなえてきには、このもんだいはまるですね。すでにうんてんしているばあいはどうしようもないですし」

それが普通の感覚だと思う。
などと考えていると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った……というよりも言った、か。みょんと思わしき声がチャイムの音を再現していた。正直、無理がある。

「では、きょうのじゅぎょうはこれでおわりますね。みなさん、めんきょさんがとれるようにゆっくりがんばってくださいね!」

そういうと、さなえは教室から出ていった。それを合図に、ほかの学生が次々と席を立った。
あまりここに長居している意味もないので、俺もそこそこに荷物をまとめて教室を出た。


受付に戻ると、今度はぱちぇが電車でDのゲームをやっていた。四国の特急が飛んでいるのを見ると、最新作か。

「むっきゅ、わるくおもわないでちょうだい、いんべたのさらにいんは、くうちゅうにえがくらいんなのよ!」
「高低差のある地形だからできる、掟破りの短絡線……」
「どさんせんすぺしゃるらいんよ!」
「またなにをしてるんですかあなたは。しかも223で土讃線スペシャルから降りてくる2000GTの下に回り込むとか、普通しませんよ」

しかも223を選んでるということは、少なくとも1作目は確実に持っているということになる。このぱちぇ、もしやスピード狂か。

「あーけーどばんでないかしら……」
「同人ゲームですし、多分一生出ないですよ」

  • 結構長くなってしまいました…
    以後、学科にしても実技にしても、たぶんこれくらいの長さになると思うので、ご理解いただければ幸いです… -- 作者 (2012-09-03 08:50:04)
  • 昔受けた身としては「おぉ、あんなひっかけあったなー」と懐かしく思いました。
    イニD見てるという事は…次は湾岸ですかね(をい -- 名無しさん (2012-09-04 17:04:19)
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最終更新:2012年09月04日 17:04