小ネタ441 『とある研究者の死角』

憩い、というモノは誰にも在り、それは何も我が家ばかりではない。
そう、私にとってはさしずめこの研究室こそがそれに値すると言えるだろう。
ゆっくりに対し尽きることのない探求心を追い求める事に没頭出来、新たな認識への扉を開く事の出来る場所。

「その一時の合間に飲むこの香しき珈琲…地獄のように熱く、絶望のように黒く、恋のように甘い…」
「それおいしいの?」
「頗る…」
「ふーん」

まりさもそれを重々承知してか、この至福の一時を邪魔せず静かに佇んでいる。
さすがは生まれながらに『ゆっくり』を心得ている者と言えよう、私は良い助手に恵まれた。

「ふぁ~…ねむ…」
「まりさ」
「ゆ…なに?」

「眠そうな所すまない。しかしふと思ったのだ。
君たちゆっくりは『ゆっくりプレイス』なる住居のような溜まり場のような、所謂憩いの場的な空間を作る事に長けているという話を聞く。
その話から察するにプレイス、とは英単語で場所を意味するあの『place』なのだろう。そのボキャブラリィ、感心せざるを得ない。
さて まりさ、君にもその『ゆっくりプレイス』というモノを持っているのだろうか?
あるならばどのような形態、規模、意図、製作過程だったのかを是非聞かせてもらいたい」

「ゆっ、それはぷらいばしーだね!」

何という事だ…
まりさは私の至福の一時に干渉しない姿勢を貫いていたと云うのに
私と云う者は己の好奇心、探求心に身を任せた余りにまりさのプライベートな空間を根掘り葉掘り探ろう等という破廉恥極まりない態度を…

「じゃみせたげる!」
「!」
だと云うのにまりさは私に憤慨する所か怒りすら示さず、
あまつさえ『ゆっくりプレイス』訪問の許可まで…!
「ともだちにはないしょだぜ?」
「約束しよう」

私は良い助手に恵まれた、これからもその信頼に可能な限り応えよう。

「まりさのゆっくりぷれいすはここだよ」

まりさの案内先は変わらず研究室内、窓際に配置したデスクと棚と壁とのほんの僅かな空間(約20cm程)の隙間を指すと
徐にまりさはそこへと収まった。
特に何か特別なモノが在るわけではない、私が見る限り快適さと云う点も伺いしれない

「せまいの…いい…」

しかしこの表情、自分の収まるべき場所に収まっているという実感に満ちたなんとも穏やかな表情だ。
まさしくこれこそまりさの憩い『ゆっくりプレイス』なのだとする確かな証明であった。

「あ、そーだ。はいこれ」
「五百円硬貨?」
「こないだおとしたやつだよ」


報告―、
何が特別であるか、それは個々の認識によって定められるべきものである。
多数の同意を得るよりも代え難い価値が其処には在る。
時にそれは誰かの幸福に繋がるのかもしれない。

「これでこーひーぎゅーにゅーおねがい」

『以上』


by.とりあえずパフェ


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最終更新:2015年01月06日 21:16