ゆっくりパークの春夏秋冬 part 2
--九月--
空が高くなり、セミに代わって虫の声が聞こえるようになった初秋。
れいむ一家はコスモス畑にやってきた。土手には彼岸花も咲いている。
「さあみんな、ゆっくりとおはなをあつめようね!」
「うん、いっぱいあつめようね!」
いつも通り、おままごとのように声を掛け合うと、一家は花を集めだした。
母親が一頭と、同じぐらい大きくなった姉が二頭、メロンほどまで成長した子ゆっくりが
二頭と、それに例の居候ゆっちゅりーが一頭だ。
「ゆっしょ、ゆっしょ!」
「むっきゅ、むっきゅ」
「んゆーん、抜けないいい!」
口でくわえて引き抜き、土手に積む。病弱なぱちゅりーも、秋の澄んだ空気のおかげで調
子がいいのか、よく頑張っている。
増えていく花束のそばに座って、俺はぼんやりと景色を眺める。あたりには一家の他にも、
いくらかのゆっくりがいる。
あっちの畑にいるのは、やくも一家か。あの連中は三頭セットでいることが多いが、すぐ
キスしたり、毛づくろいっつーかしっぽのくわえあいなんかをして、やたら性的なんだよな。
それはともかく、今は仲良く白菜とダイコンを掘っている。うむ、そろそろ鍋もいいな。
こっちのススキの原で、ころころキャッキャと追いかけっこをしているのは、ゆっくりち
るのの姉妹だ。ゆっくりにしてはほどよく早い。ほどよく、というのはこないだ初めて、森
の中できめぇ丸を見たから言うのだが、あれは何かおかしい。残像が出ていた。
いまだに見たことがないのは、ゆっちゅりー以上に外へ出ないニートのゆぐやとか、出た
ら最後、一帯のゆっくりが捕食しつくされるといわれる、ゆっくりゆゆこぐらいか。ゆっく
りゃやゆフランもたまに見るし、他のほとんどのゆっくりも目撃した。
実にさまざまなゆっくりが、パークに住み着くようになった。
さて……これでいいんだろうか。
そこらじゅうにゆっくりがいる今の環境は、俺にとって確かに愉快だが、そのうち大きな
問題が起きたりはしまいか。
うーむ……。
「ゆっくりあつめおわったね!」
「おつかれさま、ゆっくり持っていこうね!」
気が付くと、俺の隣にぴょんぴょんとゆっくりたちがやってきて、車座になっていた。お
花摘みが終わったらしい。
「さあ、ゆっくりひっぱるよ!」
「ぱちゅりーはがんばってついてきてね!」
「むきゅっ、わたしもおすわ!」
そういうと積み上げた花束を押し始めた。
……いや、花束を押すって、おまえ。
「ゆゆゆぅ、くずれるよう!」
「おかーさん、うまくはこべないよ!」
「がんばってね、お花はおもくないから、ゆっくりはこべばいいよ!」
「そんなこといっても、むりだよう!」
ばらばらになっとる。子ゆっくりたちはコスモスの茎にからまってもがいてるし。
何をやっとんじゃ。
「やっぱりむりだよ!」
「おかーさんがひとりではこんでね!」
「どぉしてぞんなごどいうのおぉぉぉ!?」
あーあー、子供たちにそっぽむかれて、母れいむは泣き喚いとる。
ていうか無理なのは最初からわかってるだろ。どこまで段取り悪いんだ。
俺はため息を付いて母れいむの隣にしゃがみ、聞いた。
「おまえ、何してんの」
「ゆっ? てつだってくれるの?」
「誰がてつだうかバカ、こんなにたくさん花ばっかり持ってって、どうするって言ってんの。
花なんて野菜に比べたらすぐ枯れちゃうだろ」
「そんなことはわかってるよ! れいむだって二年もゆっくりいきてきたんだもん!」
本人は自慢したつもりらしいが、これに反応したのが娘たちだった。「ゆぅぅ~っ!?」
と声を上げて抗議する。
「たべものじゃなかったの?」
「ごちそうだとおもったから、ゆっくりがんばったのに……」
「おかーさんはたよりにならないね! もうれいむたちはじぶんでごはんをさがすよ!」
「えっ……」「おねーちゃん?」
「だいじょうぶ、おともだちのまりさが、ゆっくりどんぐりを拾えるところをおしえてくれ
たの! 今日はそっちへいこうね!」
「う、うん……」「ゆっくりいくよ……」
娘たちは、長女に連れられて行ってしまった。母は絶望に目をカッと見開いて、涙を滝の
ように流す。
「れ゛い゛む゛の子どもだぢが、いっぢゃっだあぁぁぁ……!」
「バカだと子育ても大変だな……」
友達以上恋人未満のゆっちゅりーですら、ちょっと離れたところから困ったような目で見
ていた。俺は同情して、後ろかられいむの頭をよしよしとなでてやった。
「んで、結局なによこれ」
「いいよ、れいむは一人でゆっくりもっていくよ……」
母れいむは、花の山からひとたばのコスモスをくわえると、のそのそと進みだした。俺と
ぱちゅりーは並んでついていく。
母は草原をすぎて、川べりまで来ると、丸木橋のそばに花束を横たえた。そして川面を眺
めながら、ぽつりと言った。
「れいむのあかちゃん、てんごくでゆっくりしてね」
おおう。
お供えか……。
この餡子脳生物が、何ヵ月も前のできごとを覚えているなんて、なにかの間違いじゃない
かと思ったが、そうではなかった。れいむは花畑へ戻って、もうひとたばをくわえると、今
度はひまわり畑のほうへと去っていった。
ぼけっと立っている俺の足元で、ゆっちゅりーが言った。
「むきゅ……あっちでもれいむの赤ちゃん、なくなったの?」
「一匹、れみりゃに食われてたな」
それを聞くと、ぱちゅりーも花をくわえて、母れいむを追っていった。
「んー」
俺はあごのあたりをぽりぽり掻いて、しばらく考えた。
……まあ、ストレートなことをするのは、性に合わんからなあ。
別の日。俺は川べりで石に腰かけて、丸木橋を観察する。
「きょうはひまわり畑にいこうね!」
「そろそろたねがいっぱいおちているはずだよ!」
初見のまりさ家族がやってきた。母まりさを先頭に、丸木橋をわたり始める。
「ゆっくりわたってね、きをつけてね!」
「おかーちゃん、ゆっくちわたうよ!」
あーあー、あんなちっちゃい子供を連れて来ちゃって。まだゴルフボールサイズじゃねえ
か。ぴょんぴょんはねて、丸太に乗るのも一苦労だ。やっと乗っかって、危なっかしくぽよ
んぽよん進み始めたと思ったら……。
つるっとすべってあっという間に落ちた。
「おかーちゃっ、がぽっ、おがあぢゃあぁああん!」
「あ゛あ゛あ゛、まりざのあかぢゃああん!!」
川水に巻き込まれ、どんどん流される。まだ親指ぐらいの高さしかない黒い帽子が、浮き
つ沈みつ消えていく。
母まりさは絶叫しながら対岸を下り始めたが、半ば覚悟していたことだろう。水に落ちた
ゆっくりの末路は、十中八九、水死だ。あのれいむの娘も、ここで死んだ。
「なんでごんな゛ごどになるのぉ゛ぉ゛ぉ゛……ぉ゛?」
喚き散らしながら跳ねていたまりさが、ふと足を止めた。
丸木橋の下流に、川を斜めに横断する形で、網が張ってあった。そこに引っかかった赤ま
りさは、流れのままに岸までくるくると押されていき、昔の洗濯場のような浅瀬にころんと
打ち上げられた。
「あああ、赤ぢゃああ゛あ゛あ゛ん!」
騒々しく駆け寄った母まりさが、べろべろとほっぺをなめる。じきに、ぴゅうっと水を噴
いた赤まりさが、つぶれな瞳をぱっちりと見開いた。
「ゆっくちちてってね!」
「あああああ、よかっだあぁあぁぁ!」
「あっ、おがーちゃん、こあかったよぉぉ!」
「よかったね、たすかったね! ゆっくりしていってね!」
対岸から一部始終を見ていた俺は、笑いをこらえるのに必死だった。
人間なら膝までにも達しない川で、あの大げさな再会劇。
ほんとに滑稽な連中だ。
その夜のことだ。
「ううん……」
丘の上の小屋で寝ていた俺は、異様に迫力のある気配のようなものを感じて、目を覚まし
た。
部屋の中は暗い。その闇を、巨大な物体が占領していた。目をしばたたいて見つめた俺は、
じきに驚愕した。
「おまえは……」
満々とはちきれんばかりに膨れた頬。天井近くから俺を見つめる、自信に満ちあふれたま
なざし。数知れぬ小さなリボンで彩られた金髪と、何よりも天井を突き破らんばかりに堂々
たる漆黒の三角帽子。
「……ドスまりさか!?」
ドスまりさ、魔法の森の奥深くに住むといわれる、ゆっくりの長だ。俺は一度も見たこと
がないが、里の人々の間でも、確かにいるという説や、ただのデカまりさの見間違えだとい
う説、ゆっくりたちのハッタリだという説などが入り乱れて、真偽はいまだ確かめられてい
ない。
そいつが、俺の小屋に現れたのか。
ドスまりさの巨大な帽子のつばに、わらわらと小さな影が湧いて、俺に声をかけた。
「にんげんさん、あなたはひるま、ゆっくりまりさのあかちゃんがおぼれたとき、なにをし
ていたの?」
「ひ、昼間? あのときはおまえ、おれは反対側の岸にいたから……」
「でもにんげんさんなら、ゆっくりかわにはいってたすけられたね!」
「それなのに、あかちゃんをみごろしにしてわらっていたね!」
「それだけじゃなくて、ほかにもたくさんのゆっくりをみごろしにしたね! おおきなこう
えんをつくって、ゆっくりをあつめたのは、みんながしぬのをながめて、たのしむためなん
だね!」
「「「にんげんさんは、ゆっくりできないわるいひとなんだね!!!」」」
「いやちょっと待てよ、おおいっ!?」
ぬうっ、と巨大なドスの影が俺に覆いかぶさった。
――潰される!
俺は腕を上げて、必死に身を守ろうとした。
そのとき、細く澄んだ声が響いた。
「まって、ドスまりさとみんな!」
俺は振り向いた。開け放たれた引き戸の闇に、紫色の影がぽつんとわだかまっていた。
「……ぱちゅりーか?」
「そのひとは、わるいひとじゃないわ。わたしがほしょうします」
「ぱちゅりーは、にんげんさんにたすけられたね! だからいいひとだとおもいこんでいる
んだね!」
ドスの眷属どもに言われたゆっちゅりーが、きゅっ? と驚くのが見えた。
ぱちゅりー本人すら知らないことを、こいつらは見通しているのか……。
「しらないわ。でも、わたしはそのひとのことをしってるわ。
わたしはきのうのおひる、おもてのひろばでゆっくりしていたの。そしたら、このひとが
川にはいって、いっしょうけんめいあみをはっているのがみえたわ。
そこは、いぜんれいむのあかちゃんがなくなったところ。あんなことがにどとおきないよ
うに、このひとはあみをはったのよ」
うおお、おい。なんだその長台詞。息続くのか、大丈夫か!?
「……ぜは、ぜは、ぜは……」
ああやっぱり息切れした。
ドスの帽子の上で、ひそひそと妖精じみた相談の声がしたかと思うと、もう一度疑問の声
が投げかけられた。
「でも、にんげんさんのちからなら、ゆっくりがおちない、ひらたいはしをつくることもで
きるはずだよ。ひらたいはしを、どうしてゆっくりとつくらないの?」
なんつう鋭いツッコミだ。マジモンだな、このドス。
「それは……」
ゆっちゅりーは言い淀む。なんぼ賢いといっても、しょせんゆっくりだからなあ。俺の微
妙な気持ちは、わからんだろうな。実際、ゆっくりを可愛がるだけなら、マンションの中で
飼う方がずっと楽だし、当人たちも喜ぶんだよな。
「……それは、わからないけど、とにかくこのひとはいいひとなの!」
「どうしてそんなことがいえるの?」
「だって……」
ゆっちゅりーが、ぶるっと大きく身を震わせるのが見えた。
次に聞こえたのは、ほそいほそい、涙声だった。
「……わたしは、ほんとうにこわいにんげんを、しっているもの」
ああ……。
「このひとは、あのにんげんとはちがうもの」
ゆっちゅりーの影から、小さな光がぽろぽろと落ちていた。
俺は、柄にもなく、胸が痛くなってしまった。
本当は、俺もやつらも、そんなに違わないんだけどな。
起き上がって、ドスに向き直る。
「やあ……初めまして、ドスまりさ」
ドスの目がこっちを向く。それを見返して、俺は苦笑気味に言った。
「泣かせちゃいかんだろ、泣かせちゃ。せっかく忘れていたのにさ……」
しん、とドスたちは静まり返った。
と、その周囲にきらきらと金色の粉のようなものが漂い始めた。あ、と俺はドスにまつわ
る噂のひとつを思い出す。これはあれだ、みんなをゆっくりさせてしまう、ドスの不思議な
粉だ。
その名もゆっくりパウダー……。
「ゆぅぅぅっくり、していってねぇぇぇぇ~」
低く深い声とともに、俺の意識は途切れた。
「ゆっくりしていってね!!!」
「……お?」
家の外からの、普段どおりのゆっくりコールで、俺は目を覚ました。
起き上がり、部屋を見回す。異常は何もない。
夢か?
落ち着いて考えれば、あんな馬鹿でかい代物が、この小さな小屋に入ったわけがない。
だが――。
引き戸を入ったところで、ゆっちゅりーが寝ていた。入れた覚えはまったくないのに。
俺は近づいて、ゆさぶった。
「おい、起きろ。おい」
「きゅぅ……きゅぅ……んきゅ?」
喘息持ちらしく、笛っぽい寝息を立てていたゆっちゅりーが、ぱちりと目を覚ました。周
りを見て、俺を見上げる。
「むきゅ……」
「うむ、言わんでいい」
何か言いたそうにしていたが、その顔だけで十分だった。
引き戸を開けて、外を指し示した。
「ほれ、行けよ。れいむが心配するぞ」
「う、うん……」
「あ、ちょっと待て」
台所の戸棚ををあさって、つまみのミックスナッツを持ってきた。
「持ってけ、種とか好きだろ」
「……どうして?」
「口止め料だ。れいむには言うなよ」
俺はウインクした。ゆっちゅりーは小さくうなずいた。
袋をくわえて犬小屋へ回ったゆっちゅりーが、「ゆっくりしていってね! はやおきだっ
たんだね!」と一家に迎えられるのが聞こえた。
--十月--
野に赤とんぼが舞い、山に菊の花咲き乱れ、森にきのこが生える秋。
ゆっくりたちがそこらじゅうで、ブドウやリンゴなどの果物の下に群がって「ゆううう、
とどかないようー!」と、べそをかきながらぴょんこぴょんこ跳ねる季節だ。
一年で一番、やつらが可愛い季節かもしれん。
俺は一頭の珍しいゆっくりと知り合った。頭だけのゆっくりきめぇ丸だ。ある日、たまた
ま草むらの小道でばったり出会ったので、俺のほうからアプローチしてみた。
「おお、のろいのろい」
言いながら、左右に反復横とびしたのだ。
きめぇ丸にもいくつかのタイプがあるらしいが、そいつは運良く、俺の期待した「無口・
意地っぱり・ツンデレ系」きめぇ丸だった。俺の挑戦を見ると、すぐさま受けて立ち、高速
で左右にヘッドバンキングしはじめた。
「おお、よゆうよゆう」
「なんのっ! おお、いくぜいくぜ!」
ここで、今まで語らなかった俺の私事を、ひとつだけ明かそう。
学生時代、学業よりも飯よりも反復横とびが得意だった!
「ウララララララララララララララララララ!」
恐るべき速さで土煙を立てて横とびを反復しまくり、ついにきめぇ丸をギブアップさせた
のだった。
「おお……ハァハァ……はやい、はやい……ハァハァ……」
あの嫌味なジト目で、のてぇん、と道端に崩れて、はぁはぁ息継ぎしているきめぇ丸は、
とても可愛かった。(もうおわかりだろうが、俺はたいていのゆっくりは可愛いと思ってし
まうのだ)。
ともあれ、それがきっかけで俺はきめぇ丸と友誼を結んだ。
このことは、ある心配を抱いていた俺にとって、大いに助けになった。
ある心配とは、肉食ゆっくりの問題である。
ゆっくりれみりゃや、ゆっくりフランなど、一部のゆっくりはゆっくりを食べる。
そいつらとの関係をどうするというのが、俺の心配事だった。
問題を解決するには、まず問題を把握せねばならない。そこで、きめぇ丸に協力を頼むこ
とにした。里でレンズ付きフィルムを買ってきて細工し、彼女に渡して言った。
「ゆっくりゃたちの食事風景を見かけたら、撮ってきてくれ」
きめぇ丸は快く(だと思う。いっつもあんな風な、うろーんとした顔なので、よくはわか
らんが……)承諾してくれた。
やがて彼女が撮って来た写真を現像して、俺は渋い顔になった。大体想像はしていたが、
ゆっくりゃたちによる被害は、ゆっくりパークの中でも、外とたいして変わらなかった。
当たり前といえば当たり前だ。パークに屋根はないのだから。
「うむーううう」
俺は呻吟した。
対策は、できないこともない。パチンコ(ゴム管ともいう、Y字型の飛び道具だ)か何か
を持ち歩いて、見かけ次第ぶっ殺すことだ。何十頭か殺せば、いかにおバカなゆっくりゃと
いえども、パークを避けるようになるだろう。
だが、それでは虐待お兄さんじゃないか!
俺は、れみりゃだってゆっくりさせてやりたいのだ。
その気になれば、ゆっくりたちが緊急避難できるように、パークじゅうにシェルターを作
ることも可能だ。中古のドラム缶をたくさん調達して、小さめの穴を開けて転がして置けば
いいのだ。
しかし、あまり人工的な対策を取るのも気がすすまなかった。そっち方面で理屈を突き詰
めると、屋内飼いすればいいという結論になってしまう。
理想は共存だ。
だが、あのアホれいむたちとアホゆっくりゃの共存が、想像できん。
どう考えても共食いする。
「ぬぅーん……」
俺は毎日頭を悩ましていた。
そんなある日のこと、俺は一本の柿の木のそばを通りがかった。柿の木なんて一年で伸び
るものじゃない。巫女の土地だった時代から生えているものだ。
そこでは、例によって野生のちぇんたちが、泣きながらぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
「ううー、わからないよー!」
「ゆっくりとれないい!」
「はいはい」
無意識に返事をしつつそちらを見た俺は、ふと、木の枝の上にゆっくりゃがいることに気
づいた。
体つきのタイプだ。あのイノセントな笑顔を浮かべて、口元からよだれをぼとぼと落とし
て、ちぇんを見下ろしている。ちぇんは素早い。逃がさず捕まえるチャンスをうかがってい
るのだろう。
……いや?
ゆっくりゃがバサッと羽ばたいたかと思うと、熟れた柿をブチッともぎとって、飛び去ろ
うとした。なんだ、目当てはそっちか!
「ちょっと待ったあぁぁぁ!」
俺は上着を脱ぎざま、丸めて投げつけた。残念ながら当たらなかったが、「うあうあー!
?」とびっくらこいたゆっくりゃが、姿勢を崩して落ちてきた。
すかさず捕まえ、襟首をつまんで吊るす。
「よし、ちょいとばかり質問だ。おまえ、柿なんか食うのか?」
「うあー? このあまいの、れみりゃのだぞぅー! あげないぞぉー!」
ああ、甘いからか。
考えてみれば、肉食系ゆっくりが肉まんなんかなのにくらべて、獲物系(ってのもひどい
言い方だが)ゆっくりは、たいてい甘いな。
……ん? つまり、甘けりゃなんでもいいのか?
「あのさ、ゆっくりゃおまえ」
「なんだぞぅ?」
「ぞぅじゃねーよ。おまえらが一番好きな食べ物って、なに? やっぱゆっくりれいむなの?」
「れみりゃはぷっでぃんがすきだぞぉー! ぱっふぇーも、とるてーも、けーきーもだいす
きだぞぉー!」
言ってたよ、それ。いっつも。
好きでゆっくりを食ってるわけじゃなかったんだ!
と、いうことはだ。
「……よし、行け」
俺はれみりゃを離してやった。「べつのごはんをさがすぞぉ~!」と飛んでいったやつを
見送り、俺は考えを煮詰めた。
間もなく俺は、パークの中の森に近いくぼ地に、DIYで一基の特別な施設を作った。
それは高さ三十センチほどの足、数本で支えられた、直径五メートルのテーブル。ゆっく
りゃに対抗できない、三十センチ以下のゆっくりたちを助けることを目的とする。
要するにゆっくりシェルターである。ぐあー俺センスねえ。
まあいい。
シェルターとは名づけたが、ただの避難所でない。そこには餌がある。それはテーブルの
下の中央に置かれた、果物の山だ。今のところはパーク内の木々から回収したものを積んで
ある。先々パーク内で手に入らなくなったら、外から何か持ち込まねばなるまい。
かなり人工的だが、そこは妥協した。
用は、「俺が」手伝ったと思われなければいいのだ。
俺は仕掛けを作っただけで放置した。ゆっくりたちに自力で利用法を発見してもらうため
だ。
と言っても、そんな願いがかなうことはさらさらない。今の俺はよく知っている。
そこで例のぱちゅりーに協力を依頼した。ついでに、成果確認のためにきめぇ丸にも。
あー、なんかもうゆっくりどもに干渉しまくりだが……まあいいか。
数日後、きめぇ丸が報告に来てくれた。彼女は左右にヒュンヒュン飛ぶだけで、コメント
らしいことは口にしなかったが、その撮って来た写真が雄弁に語ってくれた。
襲ってきたゆっくりゃから逃げ、シェルターの下に隠れて、おそるおそる果物を差し出す
ゆっくりたち。
シェルターは低く、翼あるゆっくりゃは入れない。ゆっくりたちを追ったゆっくりゃは、
シェルターの下にごちそうがあるのを見つける。一般に思われているのと違って、彼女らは
別に食べ物としてのゆっくりが好きなわけではないので、そのごちそうのほうをほしがる。
ここで、ゆっくり側に取引の余地が生まれる。
果物を渡す代わりに見逃してもらう、という。
狙い通りそれが行われたことを、きめぇ丸のカメラは見事にとらえていた。シェルターに
逃げ込んだれいむとまりさのカップルが、おそらくぱちゅりーが流した噂を思い出して、ビ
クビクしながらゆっくりゃに果物を差し出し、コミュニケーションを成立させたシーンを――。
わかってる。
気休めだ。
俺がごちそうを補給しなければこいつは成り立たない。そんな代物は俺ルールに抵触して
いる。
でも今のところは……これしかない。
ゆっくりパークと名づけはしても、名前の通りの楽園にするのは、難しいものだ。
ところで、最近きめぇ丸が俺の前に現れてヒュンヒュンすることが増えたんだけど、これ何?
前 次
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YT
最終更新:2008年11月01日 00:28