あなたが笑うまで・上

※オリキャラ警報。あと長いです。


――気がつけば、私は一人だった。

虫や花を摂り、草原に佇み、枯草を床にする。それを繰り返した。
昨日は風が強かった。一昨日は曇っていた。一昨々日は……雨が降っていたような気がする。
それより前は――よく覚えていない。私は一昨日より前には存在していなかったのかもしれない。
夜が来た。月は輝き、風が満ちている。今日も変わらず過ごし、変わらず眠る。――はずだった。
僅かに、本の僅かだが、風向きが変わった。私はなんとなしに風上に振り返った。
「あら」
その先には、羽根のない、小型の妖精を連れた奴がいた。夜分の来客は初めてである。当然だと思う。眠りながら動くことはできないのだから。
「傷だらけなのに、やけに落ち着いてるのね。……白痴にでもなったのかしら」
そいつは私を拾い上げ、様々な方向から私の身体を観る。そして。
「……」
私を抱えたまま、その場を去った。
こいつの腕の中はなかなか温かく、心地よい。……今日はここで眠るとしよう。


目を覚ましてみると、前にいた景色のどれとも似つかない場所に運ばれていた。身体中が何やらむずむずする。どうやら何かを貼り付けられているようだ。
背後に気配を感じた直後、身体が宙に浮き上がる。体を掴まれながら、なんとか振り向いてみせると、昨日私を連れて帰った奴が佇んでいた。
「何もしないから、大人しくしなさい」
言われなくても、そうするつもりだ。
そいつは規則正しく凸凹した坂道を登り、色の違う壁を綺麗に引き剥がし(はじめから壁が剥がれていたのかもしれない)、私を高台の上に乗せた。目と目の高さが、こいつとだいたい同じになる。
「あなた、名前は覚えてる?」
なまえ? なんのことやらわからない。私が黙っていると、
「名前ってのは、他人からなんて呼ばれているかのこと」
そうなのか。だったら私には名前がない。こいつはなんと呼ばれているのだろう。聞いてみた。
「……あなた如きに名前で呼ばれる筋合いはないわ」
では適当に呼ぶとしよう。ええっと――
「自己紹介のときに喧嘩を売るのが趣味なの?」
よく意味がわからなかったが、『おばさん』では気に食わなかったらしい。何となく響きが良かったので個人的には気に入った呼び方なんだが。だったら――
『おねえさん』
「! ……まあ、それでよしとしときましょう。あなたも名前が要るわね。私がぴったりの名前をつけてあげる。……世界中、どんな言葉よりもぴったりの。いい、あなたの名前は――」


「まりさー、こっちにきなさい」
『おねえさん』の声のした方に私は向かった。
私に何の用だろう。
「食事にするわよ」
おねえさんは私を拾い上げ、高台(『椅子』と言うそうだ)の上に載せる。黄色の液体、葉っぱ、色の濃い肉など様々なものが収まった器が私の目線に映る。これは……食べられそうだ。
おねえさんが私のすぐそばの椅子に座る。
「さ、食べるわよ」
そう言うとおねえさんは先の丸い棒で黄色の液体を掬い、私の口元に寄せた。食べろということらしい。棒を加えると、じわりと熱さが口に広がった。美味かった。



「ゆっくりしていってね!!!」
「おーっ、まりさ来たかー」
「ゆっくりだ、まりさだ」
まりさはにんきものだよ! いっつもみんなにかわいがってもらってるんだ! きょうはおっかけっこしてあそんだ! きのうははしりまわってあそんだ! おとといはかけまわってあそんだ! そのまえは……おぼえてなーい!
まりさは、みんなからまりさって呼ばれるの! さいしょにだれかが「まりさだ」って言って、それからみんな、まりさ、まりさって呼ぶようになったの! だからまりさはまりさなの!
「まりさー、なでなでさせてー」
「いいよ! ゆっくりなでてね!」
「よ~しよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよく来たぞまりさ。三個か? 甘いの三個欲しいのか? いやしんぼめ!」
「べつにほしくないよ!」
「次わたし、わたしがなでる」
「私が頭にのっけるー」
「ゆっくり順番待ってね!!!」
にんきもの! にんきもの! たのしいよ! まりさがわらうと、みんなもわらうんだ!


「あー、そろそろ帰らないと、妖怪に襲われちゃう」
「妖怪なんて、本当にいるのかなあ」
「慧音先生がいるじゃない」
「いや、あーいうのじゃなくて……大人が言ってるような、頭からガブリと人間を食べるってやつ」
「僕知ってるよ! 急に大雨を降らして、家に閉じこもってる人間を襲う妖怪がいるって!」
「私もしってる! 真っ黒な目玉の妖怪がいるって!」
「このロリコンどもめ!」
「どれもうさんくさいなあ。まりさは知って……るわけないか」
「なんだとー! ばかにしないでよ~!」
「じゃあ、知ってるの?」
「しらない!」
「……だめだ、こりゃ」
「ねえねえ、本当に早く帰らないと怒られちゃうよ」
「ん、ああ。そうだな。じゃあ、また明日な、まりさ。まりさもちゃんとおばさんのところに帰るんだぞ」
「うん! ゆっくり帰るよ!」
「いや、早く帰れよ」
「うん! ゆっくり早く帰るよ!」
「……もういいや。じゃな」
「またね!」


「おばさん、ただいま!」
「おかえりなさい。ご飯できてるわよ」
「わーい!」
「ご飯の前に、砂を落して綺麗にしましょうね」
まりさはこの人にごはんを食べさせてもらってるの! それにいっしょにねむったりもしてるんだよ! 外から帰ってきたら、きれいにもしてくれる! まりさ、この人大好き!
「まりさ」
「なに?」
「明日はね、楽しいことがあるのよ」
「えーなになに!?」
「それは明日までの秘密……はい、綺麗になった。さあ、ご飯にしましょう」
「ご飯だー!」

まりさしあわせ! いまとってもゆっくりしてるよ!



この広くて、やけに整っている場所はおねえさんの住処らしい。『家』と言うそうだ。おねえさんは私に食事を与え、自分も食事を済ませた後、家から出て行った。しばらくしたら帰ってくる、家を歩きまわるのはいいが物に触らないこと、外に出ないこと、とのことだ。
私は一人になった。居る場所以外は、今まで通りのことだ。なので今まで通り、適当にそこらをうろつくことにした。
家にはたくさんの物が規則正しく並んでいた。四角いもの、丸いもの、曲ったもの、真っ直ぐなもの、色が濃いものそうでないもの。およそ外では見られないものばかりが、外よりずっと狭いこの場所に敷き詰められていた。それらの中に昨日おねえさんと一緒にいた小さな妖精があった。昨日見たもの以外にも、たくさんの妖精がそこには置かれていた。……昨日は飛び回っていたが、今日は一向に動く気配がない。死んだのだろうか。……動いているところをまた観てみたい。なぜだかふとそう思った。


「お嬢さん、どちらまで? よろしければお送りしましょうか?」
彼女が腕をゆっくりと掲げると、その軌跡に混沌とした空間が現れる。
「……相変わらず、趣味の悪いこと」
「あらあら、どこが?」
「全部よ」
「ずいぶんご機嫌斜めね」
「こうも頻繁に茶化しに来られたら、そりゃあね」
「それは心外だわ。悼む心は人妖問わず尊いものよ」
「単なる契約の遂行よ。料金分は働く、それだけ」
「ふぅん」
「気味の悪い笑みね。流石、云百年も生きてる妖怪ね」
「笑わないよりはずっとましよ。笑うことすなわち自己の崩壊。笑わない、ってことは、自己が希薄か、あるいは全くないということで……」
「……もう行くわ」
「ん。永琳は今留守だから、先に『お仕事』してくれば?」
「……!」
「ふふ。虚を突かれた顔も素敵ね。じゃあね、アリス」


「ただいま、まりさ。泥棒は来なかった?」
泥棒?
「ああ、わからないならいいのよ。……。まりさ、私はしばらく奥の部屋……向こうの方で、本を読……向こうの方にいるから、騒がしくしないで、ここで大人しくしておきなさい」
『部屋』、やら、『本』、やらよくわからないが、動かずに静かにしていろということだろう。
去り際におねえさんが何か呟いていたが、よく聞こえなかったので気にしないことにした。



「まりさ」
「ん~あと五分」
「何をいってるの。起きなさい。ご飯できてるわよ」
「ゆ! ご飯!」
「本当に単純ねえこの子は……」

「おいしい?」
「おばさんのご飯はいつもおいしいよ!」
「そう、そう。よかった。……まりさ、昨日の話だけど」
「?」
「やっぱり覚えてないのね……。えと、今日はね、里の外から人形師さんがやってくるの」
「にんぎょーしさん?」
「ええ、小さな人……んんと」
「妖精さん?」
「ん、まあそんなものね。とにかく見に行けばわかるわよ」

にんぎょーしってどんな人かな? たのしみ! 
お出かけするときは、まりさ、おばさんにだっこしてもらうんだ! おばさんのうでの中、らくちんで、あったかい! ゆっくりできるよ!

「まりさ!」
いっつもあそんでるみんながいた!
「みんな、まりさが来たよ!」
「来た! まりさ来た! これで勝つる!」
「みんな、今日はまりさも一緒に人形劇を見るのよ」
「? どういうこと、おばさん?」
「ふふ、まあここに座っ……座る……? ま、まあ、ここでじっとして待ってなさい。じきにわかるわ」
「まりさ、ゲキチューはシゴ禁止だぜ!」
「そうそう、まりさいつもうるさいから、特に気をつけろよ!」
「わかったよ!!!」
「うるせえ!」
おばさんがわらってる! なんでだろ? なんだかまりさもおかしくなってきた! ふふ!

「……もし」
「はい、何でしょう」
「霧雨家の使いの者です」
「!」
「少々お時間をいただけるでしょうか……」
「……はい。まりさ」
「…………(なに、おばさん?)」
「まだ喋っててもいいのよ。それと、息は止めなくていいのよ」
「ぷっは! くるしかった! なに?」
「ちょっとおばさん向こうでお話してくるから、ここで待ってなさい」
「おばさんはにんぎょーげきみないの?」
「すぐ戻るから、ね?」
「はーい」


「そろそろだぞ」
「あの人、キレーなんだよなあ」
……ゆゆっ。たのしみー。
「あ、来た……!」
「来た! アリス来た! これで勝つ「お前さっきからうるせえよ!!」
「……静かに」
「はい」
「始まるぞ」
「お辞儀するときに目が合わないかなあ」
「……あれっ? 何か驚いてるぞ?」
「アリスさんでもあんな顔するんだ……」
「まりさ、お前の方見てないか?」
「(そーなのかな?)」
「まりさが知り合いに似てるとか」
「まっさかー」
「あっ、人形が出てきた。一、二、三……今日は八体だ」
「前より多いね」
「ほら、いいかげんみんなだまらないと……」
「うん……」
「……」

……?
…………!
!!
!!!!!
……!
!!
…………すごいすごい!!! 妖精さん、たくさんうごいてきれいきれい!」
(ま、まりさ! 黙れ!)
「うわーっ! うわー!! すげー!」
(駄目だ、聞いてない)
(口ふさげ!)
「わ、わわっ! とんだ、とんだ!」
(こいつ口でけえよ!)
(お前そっちから引っ張れ! 俺はこっちからやる!)
「むぐ、ぐ……?」

(あの小賢しい饅頭のような魔理沙的物体は……何なのかしら? ……ハッ、いけないいけない。集中しないと。人形遣いとして、こんなところでの失敗は許されないわ)


「『まりさ』のことですね?」
「そう呼ぶこと自体、今後は控えられた方がよろしいかと」
「……」
「だいたいはお察しの通りです。霧雨家は例の生物の出没にかなり困惑を覚えております。何せ、魔理……もとい、『彼女』とあれはあまりにも似すぎている」
「まりさを、どうしろと?」
「もともとはあれも妖怪の一種でしょう。野に還してやるのが自然の理かと」
「追い出せということですね?」
「結果的に、そういうことになるという解釈もできますね」
「あの子は、妖怪の巣食う土地で生きていけるような強い子ではありません。それは貴方にもわかるでしょう。あの子に死ねと仰るのですか」
「……『彼女』はここにはいない。いまさら昔の事を蒸し返されては困るのです。現に、『彼女』の話題がちらほらと湧きつつある」
「世間体、ですか」
「…………」
「あの子のときも、貴方達はそうだったんじゃないですか。あるべき姿を勝手に決めて、それを子供に押し付けて……」
「今日はこの辺りにしておきましょう。……こちらとしては手荒な真似はしたくない。また来ますので、いい返事をお待ちしてますよ」
「……」

「……おばさん、どうしたの? ないてるの?」
「まりさ!? いつからそこに……ぶほっ!」
「あはっ、おばさんが変なのー! 泣きながら笑ってる」
「あのー、いろいろとお伺いしたいことはあるのですが、とりあえずこの饅頭を私の頭からどけてもらえませんか?」
「あのね、まりさにんぎょーげきすっごくたのしくて、かんどうして、口をおもいっくそひっぱられて……」


「……ということなんです」
「なるほど(人間らしい、馬鹿げた話ねえ)。あれ……いや、あの子は確かに魔理沙に瓜二つですね」

「おばさーんアリスおねえさーん、こっちで妖精が飛んでるよー」
アリスは口の両脇に手を当てて、遠くにいるまりさに向けて軽く叫んだ。
「それチルノだからピチューンしときなさーい」
「はーい」
「あたいったら、ネタキャラね!」
ピチューン

「魔理沙……さんのことをご存じで?」
「ちょっとした腐れ縁です。……で、どうなさるおつもりで?」
「里を出て少しした場所に、空家が何軒かあります。そこに匿おうかと」
「ひとまずそうするのが賢明かもしれませんね」
「マーガトロイドさん。お願いがあるのですが」
「……応えられる範囲であれば」
「まりさのために、たまにでよろしいですから人形劇を見せていただけないでしょうか。お金はもちろんお支払いします」
「……」
「あの子はいつも幸せそうですが、こんなに喜んでたのは始めてなんです……私には、わかるんです。どうか、お願いします」

「アリスおねえさんのにんぎょーげき、またみたいな!」

二人の会話が聞こえようもない距離にいるまりさは、跳ねまわりながらそう叫んだ。
(……間が悪いこと。いや、この場合は良いのかしら)
「わかりました。そういうことなら」



私に以前とまた同じ、繰り返しの日々が訪れた。もっとも今回は少し様子が違う。一番大きな違いはおねえさんの存在である。おねえさんは私に多くの物の名前を教えた。そのおかげで家にある物をどう呼ぶか、はだいたいわかるようになった(それがどういうものかは未だにわからずじまいなのだが……)。おねえさんは食事も時間がくれば私に与えるし、凍えずに眠れる場所も確保してくれる。今まで以上に景色が移り変わりに乏しくなったが、生きていくには充分だった。
私は今日も、変わらず朝の食事、いわゆる朝ごはんを食べている。おねえさんの膝の上に乗り、口の中に食物を運んでもらう作業だ。
「まりさ」
おねえさんが私を呼びかけ、私は見上げる。
「今日、出かけるから。夕方には帰るわ」
私はこく、と頷いた。
おねえさんは出かけるときは、決まって朝ごはんの時間に私にそれを伝えた。そして朝ごはんが終わると、居間を出てから二番目の部屋に入り、しばらくして恰好が変わって出てくる。そして外に出ないように、物に触らないようにと一通り私に注意をしてから家を出るのである。なぜ外に行くのだろうと考えたこともあったが、面倒になったのですぐにやめた。おおかた、いろいろな物を調達しに行っているのだろう。これだけたくさんの物が家にあるわけだし、そう考えるのが理にかなっている。
私は今日も多くの物を見、一瞥し、眺め、凝視していた。気になるのはやはりあの妖精……いや人形だ。以前私が眺めていたら、おねえさんが名前を教えてくれた。
よくわからないが、何か惹きつけられるものが人形にはある。人形はおねえさんを小さくしたような形で、服と呼ばれるいろんな種類の布を上に羽織っている。いろんな姿かたちがあって、見ているのはいい暇つぶしになる。人形の置いてある棚の横には、たくさんの小物が並べてある。光る粒粒に長短ある布きれ、模様が描かれた球など、名前もまだわからないものばかりだ。その中で私は白くて長い布きれが一番のお気に入りだ。人形に被せるのには大きすぎるから、おそらくはさみというもので切る予定なのだろう。


人形がゆらりと宙を舞う。緩急ある全身の動行は躍動感を雄弁に表現し、精緻に作り込まれた手足は麗しさを率直に描写する。静止しそうで、しかしてとめどなく彼女らは踊る。やがて背中から一本の光筋が差し込み、彼女らは肩を落として演舞を終えた。
「やあ、見事見事。墓石の前でも役者が一流なら映えるもんだ」
演舞の主催者は息を撫で、背後からの来訪者に目をやる。
「ずっと覗き見してた割には堂々と出てきたわね」
「人聞きの悪いことを。私だって参りに来たんだぞ」
ほれ、と言って柄杓が突っ込まれた水桶を揚げる。
「……里の人間、とはみなしてるってことね」
「いや、これは私の独断だ。俗に言うお忍びってやつだな」
「……」
墓石に近づき、水をかける。
「余計なことは言うつもりはない。私が好きでやってることだ」
「……」
「……」
「あれは持ってるか。形見のつもりで渡した」
「人形棚の横で飾りになってるわ」
「そうか……被り物はついに見つからんかったが、お前さんなら新しく作れるだろう、アリス」
「ええ……そのつもりよ」



「このいえひろいね!」
「まりさ、今日からあなたはここに住むのよ」
「?」
「……ここでご飯を食べて、ここで眠るの」
「わかったーがいはくだ!」
「……そう、外泊。……まりさ……」
「??」
「一人でも……大丈、夫?」
「ひとり?」
「おばさんはね、自分の家に帰らないといけないの。でもまりさは、ここにいなければいけないの。でも、おばさんね、毎日会いに来るから。一人なのはちょっとだけだから。だから……」
「……」
「まりさ…………」
「………………わかった! おるすばんだ!」
「そう、お留守番……お留守番……頑張って……」
「おばさん、なかないで。まりさ、いい子でここにいるから」
「うん……本当にあなたは、小さい頃のあの子みたいで………………」


「アリスおねえさんだー!」
「はいはい、アリスおねえさんですよ(棒読み)」
「マーガトロイドさん、来ていただいてありがとうございます」
「構いませんよ、お仕事ですし。では準備するので」
「はい。まりさ、おねえさんの邪魔にならないように向こうの部屋で一緒に遊ぼうね」
(……この調子じゃ頻繁に会いに来てるみたいね。いつまで周りにばれずにいられることか……。まっ、関係ないか。準備準備)


「またもやアリスおねえさんだー!」
「はいはい、アリスおねえさんリターンズですよ(棒読み)」
「今日もお願いします……」


「懲りずにアリスおねえさんだー!」
「はいはい、帰ってきたアリスおねえ……ってあれ? おばさんはどこかしら?」
「これ!」
「ん?」

『霧雨家に感づかれたようで、しばらくここには来られそうにありません。本日分のお代に併せて、当面の分をお支払いさせていただきます。厚かましいようですが、余ったお金でまりさの生活に必要なものを整えていただけると助かります。急なことゆえ、礼を失する対応になってしまい大変申し訳ありません……』

「おばさんきのうここにきて、これだけおいてアリスおねえさんにわたすように、って言って帰っちゃったの。まりさ、字よめない。おねえさん、よめる?」
「読めるわよ。……この袋にお金が入ってるのかな」
「重たいよ、そのふくろ」
「……これだけあれば、半年はアリス劇場見放題ね。……はあ。困るのよね、こーいうの」


「おねえさん、こんにちはー!」
「相変わらずあんたは元気ね。しばらくぶりだけど、特に心配はなさそうね」
「しんぱいないよー!」
(ご飯もちゃんと決められた量を食べてるし、水も大丈夫ね。知能が低そうに見えて、意外と後先を考えられるみたいね)
「きょうはどんなおはなしなの?」
「今日は、小生意気な空飛ぶ巫女が美しい大自然を破壊し尽くすお話よ」
「たのしそう!」
「……冗談よ」
(とはいったものの、そういう破天荒な話にせざるを得ないくらいネタがないのよね。……まあ、これだけ短期間に多くの劇をやれば脚本が足りなくなることなんて目に見えてたわけだけど。次来るときには何をしよう……)
「ゆっ?」
「はあ。あんたは悩みがなさそうでいいわねえ。あんたみたいなのを使えたら……!」
(その手があったか! ふふ、これは受けるぞお!)
「おねえさん、すごくうれしそうだね。ぶっちゃげ、ちょっとキモい」
「……ハッ!」
(何で私が夢中になってるのよ……これは仕事よ、仕事……確かにネタは浮かんだけど、ここまで大袈裟に喜ぶことでもないじゃない……)
「さ、さ、じゃあそろそろ今回の劇をはじめまーす」


「それじゃあ、また今度、一週間後ぐらいかな、多分」
「おてんきわるいから、ゆっくり早く帰ってね!」
「どっちなのよ。……そういえば、最近雲が多いわね。台風でも近づいてるのかしら……」


下に続きます。
あなたが笑うまで・下

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最終更新:2008年10月06日 00:10