うーちえん・上

うーちえん

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  • 捕食種設定有りの世界観です。
  • ゆっくりが食べられるシーンが有ります。
  • すみません、ちょっと長めです。

以上、ご理解ご容赦ください。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
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人里から遠く離れた森の奥。
体付きのゆっくりれみりゃが、色とりどりの果物を手に抱えて飛んでいく。

たくさん食べ物を抱えているせいで、れみりゃの飛行はおぼつかなく、
おいしげる木々の隙間をフラつきながら縫っていく。

すると、生い茂る木々の先に、開けた場所が見えてくる。
そこには草花が咲き乱れ、小川の周囲には何匹ものゆっくり達がいた。

そこにいたゆっくりは、俗に言うれいむ種やまりさ種。
いわゆる被捕食種というカテゴリーに属するゆっくり達だ。
捕食種にカテゴライズされる、れみりゃ種からすれば、彼等はエサということになる。

れみりゃは、視線の先の花畑にたむろするゆっくり達を見て、
ニンマリ笑顔を作って、飛ぶ速度を上げる。

「うーうー♪」

独特の鳴き声をあげながら飛んでいく、れみりゃ。
花畑に佇む1匹のゆっくりれいむが、その声に気付いて、れみりゃを視界におさめた。

「ゆゆっ! みんな、れみりゃだよ!」
「「「ゆっ!」」」

れいむの声に反応する、他のゆっくり達。
通常、こうなった時のゆっくり達の行動はただ一つ。
食べられないよう一目散に逃げるだけだ。

「う~~~♪」

嬉しそうに声を上げながら、パタパタ近寄ってくる、れみりゃ。
しかし、花畑のゆっくり達は、その場から動こうとはしなかった。

やがて、れみりゃは、ゆっくり達の目の前までやって来てしまう。
そして、最初にれみりゃを見つけたれいむの前に下り立つ。

れみりゃとれいむ。
二匹のゆっくりの視線が、じぃーと交差する。

そして。
2匹のゆっくりは、互いに顔をほころばせた。

「う~♪ みんなおまたせだどぉ~♪」
「れみりゃ! ゆっくりしていってね!」

れみりゃは、手に持った果物の山を地面に落とす。
ゆっくり達は、れみりゃを警戒せずに、その果物にかぶりついていく。

「むーしゃむーしゃ♪」
「しあわせぇ~~♪」
「わかるよぉーおいしぃよぉー!」
「とってもゆっくりできるおあじだよ!」

美味しそうに果物を食べていく、ゆっくり達。
れみりゃが持ってきた果物は、どれもこのあたりには実らず、
また、多くが木の上になる、普通のゆっくりは食べることのできないものばかりだった。

「「「ゆぅ~~ん♪ いつもありがとう、れみりゃ♪」」」

お腹いっぱいになったゆっくり達は、幸せそうに微笑んで口を揃えた。
その言葉を満足げに受け取って、照れくさそうにする、れみりゃ。

「きにしないでいいどぉー♪ れみりゃとみんなはおともだちだどぉ♪」
「ゆふふ♪ さすが"えれんがんとでおしゃまな"おぜうさまだね!」
「うーうー♪ これくらいあさめしまえだどぉ」

無邪気に楽しそうに語り合う、ゆっくり達。

「れみりゃ、とおくまでいってつかれてない? ゆっくりやすんでいってね」
「うー♪ そうさせてもらうどぉー♪」

そう言うと、れみりゃは花畑にゴロンと大の字で横になる。
温かい春の陽射しがれみりゃを優しく包み込み、蝶がれみりゃの帽子にとまる。

「うー、ポカポカきもちいいどぉー……」

そのままウトウトしていく、れみりゃ。

「ゆゆ! れみりゃとってもゆっくりしてるよ!」
「ゆぅ~ん! れいむたちもゆっくりしようよ!」
「まりさもれみりゃといっしょにゆっくりするよ」
「わかるよーきもちいいよー」

ゆっくり達もまた、れみりゃを囲むようにひなたぼっこをはじめる。

「うぁうぁ~……ぽかぽかぁ~……」
「ゆぅー……あったかいよ……」

「ZZZ」
「ZZZ」

ゆっくり達は、そのまま仲良く昼寝を始める。
そこには、捕食種と被捕食種の関係は無かった。

そう、このゆっくりの群れとれみりゃは、共生関係を築き上げていた。

勿論、最初からこの平和な関係があったわけではない。
当初、れみりゃはれいむ達を食べようとしたし、れいむ達はれみりゃを拒もうとした。

それは、自然界における極々当たり前の日常風景。

しかし、昨年の秋頃を境に、
この群れとれみりゃの関係は変化していく。

元々、このれみりゃは、このあたりの生まれではなかった。
ゆっくりを密猟しようとする人間に捕まったところを何とか逃げだし、
見ず知らずの土地に迷い込んだ、言わば"はぐれ"れみりゃだった。

しかし、れみりゃ種というのは、ゆっくりの中でも一際甘えん坊で寂しがり屋な種族。
たとえエサを取ることは出来ても、一人では生きていくのは極めて難しい。

そして、生きていくのが難しかったのは、この花畑界隈に住むゆっくり達も同じであった。
先頃の秋から冬にかけて、この地方は異常気象に見舞われ、群れは食糧難に陥ってしまった。

さらに、異常気象のあおりを受けて、
本来はこのあたりには棲息しない野生の動物達が、
栄養価の高いゆっくり達を狙って、集まりだしたのだ。

野生動物の前では、れみりゃとて危険なのは変わらない。

互いのメリット・デメリット、そして共通の外敵の出現によって、
幸か不幸か、捕食種と被捕食種は協力関係を結ぶことになった。

れみりゃは、他のゆっくり達ではとれない高いところになる木の実や、
少し遠くの森の食べ物を、集めてくることになった。
れみりゃは飛ぶことが出来たし、
体つきがふくよかなぶん、れいむ達に比べて寒さに強かった。

その間れいむ達は、冬を越すための巣作りに専念し、
食べ物を集めてきたれみりゃを温かく迎えるようになった。
そして、甘えん坊で土地に不慣れなれみりゃのために、色々とお世話をしてあげた。

また、野生の動物や鳥たちに対しては、
れみりゃを筆頭に協力して追い払ったり、一緒に逃げたりを繰り返していった。

最初は利害関係のみのぎこちないものだったが、
次第に群れとれみりゃは互いを仲間として認め合うようになっていく。

そして、ついには捕食種と被捕食種の垣根を越え、
強い仲間意識を持ち合う"お友達"となったのだった。


   *   *   *


れみりゃは、願っていた。
このゆっくりした日々が、いつまでも続くようにと。

しかし、運命はれみりゃを弄ぶ。

「……う、うー?」

花畑でぐっすり眠っていたれみりゃは、なんだか体が重たいのに気付いた。
寝返りをうとうにもうまくできず、その違和感で目が覚ます、れみりゃ。

「う~~ぁ~~」

ゆっくりと目を開け、大きなあくびをする、れみりゃ。
すると、空には満点の星と、まんまる輝くお月様が見えた。
あたりは暗く、お昼寝のつもりが、すっかり夜になってしまっていた。

「うー♪ ゆっくりねすぎちゃったどぉ♪」

みんなを起こして、巣へ戻ろう。
れみりゃは体を起こそうとして……うまく起きることができなかった。

「う?」

それは、食べ過ぎてお腹が膨れた時に似た感覚だった。
何度か上半身を起こそうとするも、体が重たく、なかなか起きることができない。

「うーしょ! うーしょ!」

息を乱しながら、必死に起きあがろうとするれみりゃ。
額に汗を浮かべながら、えっちらおっちらようやく体を起こし、立ち上がることに成功する。

「ぎゃおー♪」

立ち上がれた喜びから、れみりゃは両手を大の字に広げて、自然と叫んでいた。
その叫び声を聞いて、周囲で眠っていたゆっくりたちも目を覚ます。

「ゆゆっ、もうよるだよ」
「ゆぅ~、はやくお家に帰らなきゃ」
「ゆっくりおひるねしすぎたけっかがこれだよ!」

れみりゃ種やふらん種など例外はあるものの、
夜は自分の巣でゆっくりするのが、普通のゆっくりの在り方だ。

故に、本来ならば足早に巣に戻るべきなのだが、
ゆっくり達は巣に戻るのさえ忘れて、目の前の異常に釘付けになる。

「うー?」

れみりゃは、キョロキョロ左右を見た後、
ゆっくり達の視線が自分に注がれていることに気付く。

「みんな~? どぉ~したの~?」
「れ!」
「う?」
「れ!」
「う~?」
「れ!」
「う~、それじゃわからないどぉ」
「「「れみりゃー! かっこいいー!!」」」

ゆっくり達は、興奮した様子で一斉に叫んだ。

「れみりゃ、どうしたんだぜその姿!」
「とってもゆっくりしたかっこうだね♪」
「とってもとかいてきよ!」

異口同音にれみりゃの姿を褒め出す、ゆっくり達。

「う、う~♪ あ、ありがとうだどぉ」

首を傾げるれみりゃ。
そのれみりゃの足下に、一匹の赤ちゃんれいむがやって来て、目を輝かせた。

「きょーりゅーさん、ゆっくりしていってね!」
「うー!?」

……恐竜。
そう、れみりゃは寝ている間に、その姿を変えていた。
俗に"ゆっくりゃザウルス"あるいは"れみりゃザウルス"と呼ばれる姿に。

「うっうー☆かぁーっこいいどぉー♪」

れみりゃは、小川の下までよったよった歩いていき、水に映る自分の姿を見て感嘆の声を上げる。
そこに移る姿は、緑色のディフォルメされた愛らしい恐竜のぬいぐるみのようであった。
人間の感覚からすれば、間違いなく"かわいらしい""ゆるい"と表現されるだろうその姿も、
ゆっくり達からすれば極めて"かっこよくて""えれがんとで""おしゃれ"に感じられた。

「うぁーうぁー♪ しゅってきだどぉー♪」

れみりゃは、「うーうー♪」と上半身を揺らしたり、
腰に手をあてて「おしぃ~り♪ ふ~りふ~り♪」と尻尾を振ったりしては、
水面に映る自らの姿に惚れ惚れして、歓喜の声をあげる。

「れみ☆りゃ☆う~♪ ぎゃお~♪」

喜びのダンスを踊り、バンサーイの姿勢で決めポーズを取る、れみりゃ。
その姿を見て、周囲のゆっくり達も楽しそう。

「すごいよ、れみりゃ!」
「とってもゆっくりしてるよ! すてきだよ!」
「これならフクロウさんやオオカミさんもこわくないね!」

ゆっくり達の祝福を受け、れみりゃは照れつつも興奮をおさえられない。

「うう~~♪ みんなぁ~ありがとぅだどぉ~♪ かわいしゅぎてぇ~ごめんねぇ~だどぉ♪」

その時、れみりゃの胸の内は、幸せでいっぱいだった。
これで自分はもっともっとみんなとゆっくりできるに違いない、そう確信していた。

だから。
まさかこの姿が原因で大変なことになるなんて、考えもしなかった……。


   *   *   *


「ちょっと、れみりゃ! ゆっくりしないでしっかりしてよね!」
「う、うぅ~、ごめんだどぉ……」

山の獣道を往く、れいむとザウルスれみりゃ
だが、慣れた感じでピョンピョン跳ねていくれいむに対し、
れみりゃは息を荒げながら、"ひぃこらひぃこら"れいむの後をついていく。

「う~こら、う~こら、うふんうふん……」
「おそいよれみりゃ! ゆっくりしないで、れいむについてきてね!」
「う~~♪ れみりゃのかりしゅまぼでぃなら~こんなでこぼこみちらくしょーだどぉ♪」

立ち止まり、ハァハァ息を荒げながら胸を張る、れみりゃ。
れみりゃは、ザウルス化した自分の体に絶対の自信を持っていた。

「うっふぅ~ん☆しゅびどぅばぁ~♪」

両手を胸の前でにぎって、ぶっりこのように上半身をクネクネ左右に揺らす、れみりゃ。
可愛い自分の姿を見せることで、少しでもれいむにゆっくりしてもらおうと思った故の行動だった。

「いいかげんにしてよ! れみりゃはさっきから口ばっかりだね!」
「うっ!?」

れいむは、ゆっくりできない表情で、れみりゃを冷たく眺めている。
おかしぃなぁーと首を傾げる、れみりゃ。

「もうみんな先に行っちゃたんだよ! はやくしないとごはんをあつめられないよ」
「う~、ごめんなちゃい……」

俯き、もじもじ謝る、れみりゃ。
れみりゃは、このれいむとペアを組んで、
山を越えた先に生えている苔桃を採りに行く最中だった。

だが、れみりゃは不慣れな山道や、凸凹の獣道に悪戦苦闘し、
れいむをイラつかせていた。

これが1回2回のことならば、れいむとてこんなにゆっくりできない気持にはならなかっただろう。
だが、あの日ザウルス化して以降、れみりゃは常に群れのゆっくり達をイラつかせてしまっていた。

「ゆぅ~! どぉーして、れみりゃのくせにとべないのぉ!」
「……うー、それをいわれるとつらいどぉ」



そう、ザウルス化してしまうと、れみりゃは羽を失い飛ぶことができなくなってしまう。

当初こそ、強そうで格好良くて可愛い、ザウルスれみりゃを祝福する群れ達だったが、
"飛べない"という事態に気付いて以降は、その態度も徐々に変わっていった。

それまで、れみりゃが負っていた役割、遠くの場所のエサ集めが出来なくなり、
群れは、全員で手分けして食料集めをすることになってしまっていた。

とはいえ、それは本来生物としては当然のこと。
多少ゆっくりする時間は無くなってしまうが、それだけならば群れのゆっくり達とて文句は言わない。

だが、肝心のれみりゃが、このようにエサ集めを満足に行うことが出来ないのが、
他のゆっくり達の気持をイライラゆっくりできなくさせていた。

また、ザウルスれみりゃは飛べないばかりか、
手足が短く体も重たいため、野山を移動するには非常に不向きであった。
その上、ずんぐりむっくりした体は燃費効率が悪く、すぐに疲れてお腹がすいてしまう
普通のゆっくりでも何となる獣道でさえ、簡単にバテて動けなくなってしまうほどだ。

今や、群れの中では、れみりゃのことを
"ゆっくりできない、役立たずの大メシぐらい"などと評する者さえいた。
現金なものだが、自然環境を生き抜く上では、それとて当然の感情だ。

だが、れみりゃ本人は、この事態を深刻には考えていなかった。
"いざとなればなんとかなる"
"自分がなんとかしなくても、きっと「さくや」が助けてくれる"
……本能レベルで擦り込まれた楽天的思考が、れみりゃの危機感を欠如させていた。



「でもでもぉ~、れみりゃはつかれちゃったんだどぉ~♪ ここでしばらくおやすみするどぉ~♪」

そう言うや否や、どすんとお尻から座りこんで、木の幹にもたれかかる、れみりゃ。

「あんよがぱんぱんだどぉ~、いたいのいたいの~ぽぉ~い♪」

れみりゃは、そのふくよかな手で、ずんぐりむっくりした短い足をさする。

「れ~むもこっちくるどぉ~♪ おあしなぁ~でなぁ~でしてあげるぅ~♪」

れみりゃの言葉にウソは無かった。悪意も無かった。
それどころか、体の大きな自分がこんなに大変な思いをしているのだから、
体の小さなれいむは自分以上にゆっくり休みたいに違いない……そんな善意から出た言葉だった。

けれど。
れみりゃさえいなければ、今頃とっくに苔桃を"むーしゃむーしゃ♪"できていただろうれいむは、
そんなれみりゃの態度にすっかりお冠になってしまう。

「れみりゃはやる気がないんだね! ゆっくりりかいしたよ!」
「うー?」

無邪気故に、れみりゃはれいむが何故怒っているのかを理解できない。
ただ、自分のせいでれいむがゆっくり出来ていないことだけは、何となく感じていた。

「もういいよ! れみりゃはゆっくりかえって、こどもたちのめんどうでもみててね!」
「れぇーむ、おこっちゃいやいやぁ~♪ れみりゃは、いっしょにゆっくりしたいどぉ~♪」
「だらしないれみりゃとは、いっしょにゆっくりできないよ! ぷんぷん!」

れいむはプクゥーと頬を膨らませると、そのままれみりゃに背を向けて獣道を跳ねていく。
一方、ポツーンと取り残されたれみりゃは、悲しそうにその場でうずくまる。

「おかしぃどぉー…… こんなにゆっくりできる、かりしゅま☆ぼでぃーなのにぃー」

れみりゃは、ザウルス化した自分の体を眺めて、首を傾げる。
お気に入りの体に変わって以降、どうにもうまくいかない。
れみりゃは短い腕を組んで、悩みだした。

「……う~~~~! おあたま、じんじんしてくるどぉ」

が、いくら考えようと、答えには辿り着けない。
やがて、れみりゃは悩むのに飽きて、パァと顔を輝かせて立ち上がる。

「しょーがないどぉ♪ くよくよしててもゆっくりできないどぉ♪」

あの花畑に帰ろう。
あそこでまたゆっくりお昼寝しよう。
れみりゃは踵を返して、のっしのっしと元来た道を戻っていく。

そして、その道中。
れみりゃは先ほどれいむから言われたことを思い出していた。

(こどもたちのめんどうでもみててね!)

れいむの言葉を何度も頭の中で繰り返し再生する、れみりゃ。
やがて、その頭上でピカーンと電球を点灯させる。

「うっう~~♪ いいことおもいついたどぉ~♪ れみりゃってばやっぱりてんさいだどぉ~♪」

れみりゃは、今の自分が群れに貢献できる新たな方法を考えついたのだった。
そうとなっては、善は急げ。

れみりゃは両手をバンザイするように突き上げ、
笑顔満面で叫びながら、ドタドタ走りだした。

「ぎゃおー♪ ぎゃおー♪」

目指す先は、群れをまとめる長老ぱちゅりーのところだ。

れみりゃは、自分の足が疲れるのも、
息が荒れるのも、ベタベタ汗が気持ち悪いのも厭わず、
とにもかくにも興奮冷めやらぬ様子で走っていく。

「うー! ぱっちぇー!」

れみりゃは、花畑のそばに立つ大木の洞の中へかけこんでいく。
洞の奥には、ゆっくりぱちゅりーがいた。

「むきゅ! どうしたのれみりゃ!?」

れみりゃは、苔桃を採りに行ったのでは?疑問に思うゆっくりぱちゅりー。

ゆっくりぱちゅりーは、ゆっくりの中では賢い種だ。
それ故に、なんとなく事情を察して、溜息をつく。

「むきゅ~、また疲れてもどってきちゃったのね。ダメじゃない、れみりゃ」
「う~! あのね~あのね~!」

れみりゃは、ぱちゅりーの言葉を遮るように、高らかに宣言する。

「れみりゃねぇー♪ "うーちえん"のかりしゅま☆しぇんしぇーになっちゃうどぉー♪」
「……む、むきゅきゅ~?」

突然の発言に、困惑するぱちゅりー。

当のれみりゃはといえば、言ってやったりと得意満面。
ぱちゅりーの反応を心待ちにしているようだった。

「……おねがいれみりゃ、ゆっくりせつめいしてね」
「……う?」

結局、ぱちゅりーがれみりゃの発言を理解し、
群れにその新しい掟を説明するまでには3日の時間を要するのだった。


   *   *   *


数週間後、朝靄かかる森の奥、
花畑から少し離れた洞穴の前に、ゆっくりれいむの親子がいた。

50cm近い大きさの親れいむの傍らで、
まだソフトボール大しかない赤ちゃんれいむが、ヒラヒラ飛ぶ蝶を追って元気に跳ね回っている。

我が子の元気な姿に顔をほころばせながらも、
親れいむは、無邪気に遊ぶ我が子に、少し心配そうな調子で話しかけた。

「ねぇ、おちびちゃん、うーちえんはゆっくりできる?」
「ゆぅ~ん♪ うーちえんはちょってもゆっくちできるよおかぁしゃん♪」

親れいむのやや懐疑的な表情に対し、赤ちゃんれいむは一寸の曇りも無い笑みで答える。
その笑顔を見て、苦笑いするれいむ。

「れいみゅはだいじょーびゅだからぁ、おかーしゃんはおいちぃものいっぱいとってきてね♪」
「ゆふふ♪ ゆっくりまかされたよ! おちびちゃんはゆっくりまっててね!」

幸せな親子の会話。
親れいむは、これから群れの他の大人ゆっくり達と食料集めに出かけるところだった。

けれど、その間かわいい子供達を放っておくわけにはいかない。
自慢の我が子なら巣でお留守番していてくれると信じてはいるが、
それでもどんな外敵やアクシデントがあるかはわかったものではない。
まだまだ無力で無知な赤ちゃんや子供のゆっくりでは、野ネズミ1匹でさえ致命的な危険になりかねない。

そこで、親ゆっくり達は、食料集めに出ている間、子供達を預けることにしたのだ。
他ならぬ、このシステムを考えたものの所へ。

「ゆゆっ! れみりゃはゆっくりしないでおむかえにきてね!」

洞穴に向かって、叫ぶ親れいむ。
すると、間もなく洞穴の中からぬぅ~と影があらわれる。

「う~♪ あはようさんだどぉ~♪」

その影の正体は、件のザウルスれみりゃだった。
その姿を見て、親れいむは少しイラっとし、赤ちゃんれいむはピョンピョンれみりゃへ向かっていく。

「おそいよれみりゃ! おちびちゃんがくたびれちゃうよ! ゆっくりりかいしてね!」

いらつく様子の親れいむ。
しかし、これには理由があった。
この親れいむこそ、先日エサ採りの際にれみりゃとケンカ別れしたれいむだった。

この親れいむとて、れみりゃのことは仲間だと思っている。
しかし、大事な子供を預けるとなれば、むしろ心配事の方が多かった。
エサ集めさえできないれみりゃに、果たして可愛い我が子を任せて大丈夫なのか?
その愛情故の不安感が、れみりゃに対するイライラとなって現れてしまう。

しかし、当の子れいむの方は、そんな親れいむの不安をよそに、さっそくれみりゃにじゃれつき始めていた。

「おはよぅ~れみりゃちぇんちぇ~♪」
「ごあいさつえらいどぉ~♪ かりしゅま☆しぇんせぇ~が、いいこいいこしてあげるどぉ♪」

れみりゃは、足下でピョンピョンしている赤ちゃんゆっくりを持ち上げ、
その頭を優しく撫でてあげる。

「ゆぅ~~~ん♪ いいきもちぃ~♪」
「そぉーだどぉ♪ れみりゃのぷりてぃーはんどぉーきもちいいいどぉー?」

仲の良さそうな、れみりゃと赤ちゃんゆっくり。
その様子にひとまず安心したのか、親れいむは食料集めに出かけようとする。

「れみりゃ、おちびちゃんをゆっくりたのんだよ!」
「う~らじゃ~♪ れみりゃにおまかせだどぉ~!」

片手で赤ちゃんれいむを抱えたまま、もう一方の手で敬礼の真似事をするれみりゃ。
親れいむは、名残惜しそうにチラチラ子供を見ながら、森へと姿を消していく。

「おかーしゃんいってらっちゃ~い♪」
「ゆっくりしてくるどぉ~♪」

森を進む親れいむへ、手を振るれみりゃ。
やがて、親れいむの姿が完全に見えなくなったのを確認して、
れみりゃは洞穴の中へ入っていく。

「ちぇんちぇー、みんにゃはぁ~?」
「もうみんなきてるどぉー♪ おちびちゃんもいっしょにゆっくりするどぉー」

赤ちゃんれいむを抱えたまま、どたどた洞穴の中を進んでいくれみりゃ。
元々夜間活動の得意なれみりゃは、暗い洞穴の中でも目が利いた。

「ちぇんちぇー、みゃっくらでこあいよぉー」
「あんしんするどぉー、このかりしゅま☆おびじんしぇんしぇーがついてるどぉ♪」

実のところ、夜目が利くとはいえ、れみりゃ自身はあまり暗いのが好きではなかった。
暗い夜中に一人でいると、"こあいおばけ"が出てきそうで、心細くなる。

だが、この赤ちゃんれいむのように、自分を慕い頼ってくれる存在が、
れみりゃの中に勇気を湧かせていた。

「ゆ! あかりゅくなってきちゃよ!」
「うーうー♪」

やがて、しばらく歩いていくと、視界が明るくなる。
れみりゃと赤ちゃんゆっくりは、洞穴を抜けて外へ出る。

「ゆゆ! ちぇんちぇーがもどってきた!」
「ほんとだ! れいむの赤ちゃんもいっしょだね」

洞穴を抜けたれみりゃ達に、声をかけるのは、先にその場所にいたゆっくり達。
みな、れみりゃが群れの大人ゆっくりから預かった、子供達だった。

れいむ種、まりさ種、ありす種、ぱちゅりー種、ちぇん種、みょん種…。
生まれたての赤ん坊もいれば、もうすぐ成人の比較的大きめのゆっくりもいる。
その数は、30匹近い。

「はいどぉ~ぞぉ~♪」
「ゆっ! ありがとうちぇんちぇー!」

れみりゃは、抱えていた赤ちゃんれいむを地面に降ろしてあげる。
赤ちゃんれいむは、れみりゃにペコと頭をあげるようなジェスチャーをしてから、
先に待っていた友達たちのところへ跳ねていく。

洞穴の先にあるこの場所は、周囲を絶壁に囲まれた窪地になっていた。
ここならば他の動物に見つかる危険性は少ないし、もし見つかっても襲われる心配も少ない。
鳥が赤ちゃんゆっくりを狙ってくる可能性はあったが、
少しの鳥くらいならば、れみりゃ1匹でもなんとか追い払うことはできる。

この場所は、"うーちえん"のためにれみりゃが苦労して見つけたとっておきの隠れ場所だった。

「みんな~、きょうも~えれがんとぉなかりしゅま☆しぇんしぇーと、ゆっくりすごすどぉー♪」
「「「ゆ~~い!」」」

れみりゃの呼びかけに、子供達は元気に返事をする。
ここ数週間でお馴染みになった、"うーちえん"の朝の光景だ。



"うーちえん"
数週間前に、れみりゃが長ぱちゅりーに提案した内容である。
それは、要は食料集めの苦手なれみりゃが、群れの子供達を一手に引き受けるという提案だった。

ゆっくりにとって子供は宝だ。

故に、通常食料集めには半分の大人ゆっくりが出かけ、
残りの半分が、子供達を外敵から守ったり、世話をしたりすることになる。

もし、その子供達の世話を、れみりゃ一人が担うのなら、
他の大人ゆっくり達はみな食料集めに行くことができる。
結果的に、集められる食料は、大幅に増えるはず。
それが、れみりゃの提案内容だった。

とはいえ当初、その案は賛否両論だった。
確かに、食料集めの効率は良くなるだろうが、
仲間とはいえ我が子を捕食種のれみりゃに預けるのには不安が残った。

だが、結局れみりゃの案は採用されることになる。
この件が審議されている間、れみりゃが群れを狙った野ウサギを追い払ったのが決定打となった。

強いれみりゃならば、きっと子供達も守れるはず。
親ゆっくり達はそう考え、"うーちえん"は群れ公認のシステムとなったのだ。



それから、れみりゃはこうして子供達と毎日を過ごしていた。
つがいを持ったことも、子供を育てたこともないれみりゃにとって、
子供達の世話は苦労と戸惑いの連続だったが、同時に今まで感じたことの無い充実感もあった。

だから、れみりゃは精一杯"かりしゅま☆しぇんしぇい"をつとめようとした。
もし、親のことが恋しくなって泣いている子ゆっくりがいれば、飛んでいき、

「うぅ~、だいじょうーぶぅ? だいじょーぶぅ? うー、れみりゃがいてあげるんだどぉー」
「ゆぅ~、えっぐ、えっぐ……」
「ほーら、いないな~い………う~~っ♪ いないいな~~い……………うっう~~~っ♪」
「……ゆ、ゆふ、ゆふふ♪」
「う~~おちびちゃんわらってくれたどぉ♪」

と、子ゆっくりが笑顔を取り戻すまであやしてやった。
また、子ゆっくりどうしがケンカをしているのを目にすれば、

「けんかしちゃ"めっ"だどぉー」
「でも、れーむがわるいんだよ! れーむがまりさおぼうしをからかうんだもん!」
「どぉーじでぞんなごというのぉー! まりざがれいみゅのおりぼんばかにするからでしょー!」
「う~~~、どっちもけんがしちゃだめだどぉー! けんかするとゆっくりできなんだどぉー!」
「ゆっ! れいむがあやまるならゆるしてあげなくもないよ!」
「ゆゆ! なにいってるのわるいのはまりざのほうでしょ!」
「う~~! けんかしちゃうわるいこは、たーべちゃうぞぉー!」
「「ゆっ!?」」
「ぎゃおー♪ なかよくしないこ、たーべちゃうぞぉー♪」
「「ゆぅ~~~ん!」」
「ぎゃおーぎゃおー♪ ぎゃおおーーん♪」
「れ、れいむ! ここはまりさがなんとかするから、ゆっくりにげてね!」
「や、やだよ! まりざがたべられちゃうよ!」
「まりさはれいむにゆっくりしてほしいんだよ!」
「ゆぅ~~~まりさぁ~~~!」

と、ケンカする子供達に"ちょっとしたお仕置き"をして驚かせ、

「いいこたちだどぉー♪ ゆっくりなかなおりするどぉー♪」
「「ゆぅ?」」
「おどろかせてごめんちゃ~い♪ てへ☆」
「ゆぅ~~~! しぇんせいひどいよぉー! まりさたちびっくりしちゃったよ!」
「ゆぅ~~ん! しぇんしぇいは、れいむとまりさにゆっくりあやまってね!」
「ごめん~ごめん~だどぉ♪ でもでも~ふたりももぉーけんかしちゃダメだどぉ?」
「「ゆ! もうけんかなんかしないよ! ゆっくりわかいしたよ!」」
「うーうー♪」

ケンカしていた子供達を仲直りさせてあげたりもした。

お昼ともなれば、窪地に自生している草花を子ゆっくり達に食べさせてあげ、
れみりゃ自身も子ゆっくりでは届かない位置に実っている木苺をとって一緒に食べた。

れみりゃからすれば少々足りないくらいの食事だったが、
それでも子供達が甘い木の実を欲しがれば、困ったように笑ってから、分けてあげた。

「む~しゃむ~しゃ♪」
「も~ぐも~ぐ、ごっきゅん♪」
「あまあま~おいちぃ~どぉ~♪」

お腹がいっぱいに膨れたら、次はお昼寝だ。
温かい太陽の下で、大の字になって横になる、れみりゃ。
子ゆっくり達も、れみりゃのまわりに集まってきて、れみりゃの体に頬をすりつけながらウトウトしていく。

れみりゃは、寝返りをうって子どもたちをつぶさないよう気をつけながら、
青空を往く雲を眺めて日向ぼっこを楽しんだ。
その、ゆっくりとした時間を満喫した後。

「みんなぁ~そろそろおきるんだどぉ~♪ りっぱな"れでぇー"になるためのれっすんのおじかんだどぉ~♪」

2時間後、れみりゃは子ゆっくり達を起こし、自身も立ち上がった。
「レッスン」とは言うものの、それは言わばお遊戯の時間だった。
現に子ゆっくり達も、「おゆうぎのじかんだぁ~♪」と嬉しそう。

「う~~、今日は~あたらしいダンスをおしえてあげるぅ~♪」
「わーーい! だんすだんすぅー♪」
「とってもゆっくりしたひびきだよ!」

喜ぶ子ゆっくり達。
ちなみに、昨日は一緒に歌をうたった。
一昨日は、れみりゃのお腹の上でトランポリンをした。
つまるところ、仲良く楽しくゆっくりすること、それがれみりゃのレッスンでありお遊戯の時間だった。

「みんな~、かりしゅま☆だんさぁーな、れみりゃのおまねしてねぇ~ん♪」
「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」

れみりゃは、両手を上げ、足を交互にどったんばったん上げながらリズムをとっていく。
顔は笑顔で、リズムにあわせて歌を口ずさみだす、れみりゃ。

「う~う~うぁうぁ~♪ う~う~うぁうぁ~♪」

それは、れみりゃ種が感情の発露やコミニケーション、さらには示威行動の一環として行うダンス。
俗に"うぁうぁ☆ダンス""のうさつ☆ダンス"と呼ばれる踊りだ。

その実にゆっくりしたリズムにあわせて、子ゆっくり達も体を動かし始める。
もちろん、手足が無いため完全に同じ動きはできないが、そこはゆっくり。
なんとなくリズムをあわせて、楽しく動いたり歌ったりすればOKだった。

「ゆっゆ~ゆぁゆぁ~♪」
「ゆぅ~ゆぅ~ゆぁゆぁ~♪」
「うっうー♪ みんななかなかおじょうずだどぉー」

れみりゃは「かりしゅま☆しぇんしぇいも、まけてられないどぉ♪」と言って、ダンスに熱を入れていく。
ザウルス化してから身につけた新テクニック"おしり~ふぅ~りふぅ~り♪ のうさつ☆イェアー♪"を披露し、
子ゆっくり達から賞賛を受ける、れみりゃ。

要は、リズムにあわせて尻尾を左右にフリフリするだけのことだったが、
尻尾の無い普通のゆっくり達からすれば、その動きはとても珍しくて魅力的に思えた。

「ゆぅ~~ん! しぇんしぇ~しゅごぉ~~い!」
「ゆゆ! まりさだってまけねいよぉ!」
「ありすのとかいはなだんすだってしゅごいんだから!」
「うぁうぁー♪ ゆっくりおどるどぉー♪」

れみりゃと子ゆっくり達は、時間が過ぎるのも忘れて、お遊戯のダンスを踊り続ける。

「う~う~うぁうぁ~♪ う~う~うぁうぁ~♪」
「ゆぅ~ゆぅ~ゆぁゆぁ~♪ ゆぅ~ゆぅ~ゆぁゆぁ~♪」

れみりゃ種と、被捕食種の子ゆっくり達が一緒にいる。
しかも、みんな一緒になって"うぁうぁ☆ダンス"を踊る。
それは、一見すると異様な光景であった。

実際、れみりゃは以前ある親ゆっくりから注意を受けたことがあった。
曰く、子供が"うーちえん"でおかしな歌を覚えてきてゆっくりできないと。
確かに、れいむ種が"うぁうぁ"リズムを刻むのは、ゆっくりの常識からすればおかしなことだ。

けれど、れみりゃはそんな常識よりも、
子ども達がゆっくり楽しんでくれていることの方が大事だと考え、子供達もまたそれを望んだ。

親ゆっくりの言うことも群れの論理からすれば一理あったが、
あまり群れを作らず"生来のお嬢様体質"であるれみりゃと、常識などまだよく解らぬ子供達。
そんな"うーちえん"の仲間達にとって、いまこうしてゆっくり楽しむのに勝ることなど何もない。

故に、れみりゃと子ゆっくり達は、疲れて動けなくなるまで、ダンスを踊り続けるのだった。

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最終更新:2008年10月19日 07:04