がんばれ赤さくや
「ゆっくち、しょうしゃなめいどになりましゅわ!」
一昨日くらいから、家の木の下にゆっくりが住み着いたようだ。
これがどうやら希少種のゆっくりさくやで、さらにまだ子供、むしろ赤ん坊に近いらしい。なんでこんなちっこいのが一匹でいるのかとも思うのだが、野生のようだし、遠巻きに観察してみることにした。
朝
「おじぇうしゃま、おきがえのじかんでしゅわ!おぜうしゃま、ちょうしょくのじかんでしゅわ!おじぇうしゃま!…」
どうやら発声練習らしい。巣の外でゆっくり大声あげて大丈夫かと思ったがそこはゆっくりさくや、真後ろに巣穴を用意してすぐに飛びこめるようになっているようだ。
まだまだ明らかに赤ちゃん言葉なのが微笑ましくいっそこのまま飼いたいのだが、そこはこらえる。
昼
「ゆっ!ゆっ!ゆっ!ゆっ!むーちゃ!むーちゃ!」
こんどはご飯のようだ。こっそり離したところに置いておいた野菜の切れ端をちゃんと見つけてくれた。かなりがっついてるが大丈夫だろうか…
「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇ~!」
ちゃんとお決まりのセリフも叫んだが、
「ゆっ!ご、ごちちょうちゃまでちたわ!」
しょうしゃなめいどとしてはこれが正しいらしい。
昼過ぎ
「えちゃーにゃりゅみーきゅ!え、えちゃーにゃりゅ、…」
また発声練習かと思いきや、小枝の切れ端をくわえては投げ、くわえては投げを繰り返している。ああやってナイフ投げを学ぶのか?あ、投げた後ちゃんと拾うんだ。
「ゆっ!」しゅっ べしっ
おお!うまいこと花にあてて、花びらを2枚落とした。落ちた花びらの真ん中に立って叫ぶことには、
「まじかるしゃくやちゃんしゅたー!」
すっげえ喜んでる。このへんはまだ子供らしく、ずーっとゆっくりしていた。
数十分後、
「ゆぅ…おじぇうしゃま、おねむのじかんでしゅわ…」
ゆっくりした結果がこれらしく、遊び疲れてか巣にもどった。
夕方
声の代わりになにやらぼたぼたと音がするので見てみると、なにやら極小サイズのプリンが数十個もできていた。今度はプリン作りの練習か。昼飯をやたらたくさん食ってたのはこれのためだったんだな。
「おじぇうしゃま!ぷっでぃんを、
おもち、いたち、まちたわ!」
すこし疲れ気味な顔色のなかに、それを補って余りある充実感のみなぎった顔をしている。ところどころカラメルソースらしきものがなかったり、上下がさかさまになったりしているのは子供ゆえだろう。いろんな意味で食べちゃいたいぜ…
さて、びっくりしたのはこの後である。
「ゆっきゅり!」
なんと赤さくやから、自身の体とほぼ同じサイズのプリンが出てきた。やっぱ物理法則とか関係ないらしい。
赤さくやはというと、びっくりさせた結果がこれだよ!ということはなく、満足そうにゆっくりしていた。
夜
赤さくやだし、「ゆっきゅりおやしゅみしましゅわ!」とかいって寝てると思ったが、自分と同サイズのプリンの横で、むしろそわそわしているようだ。髪飾りや三つ編みをきれいにしたり、プリンを整えたりと忙しい。
そんな赤さくやのもとへ、
「ゆっくりしていってくださいですわ!」
「ゆっくちちていってくだしゃいでしゅわ!」
なんと大人のゆっくりさくやが現れた。けっこう大きく、髪飾りもこざっぱりとしている。ゆっくりながら、なるほど瀟洒なゆっくりだ。
ひとりで固唾を飲んで見守っていると、大さくやが突然、大きなプリンを食べ始めた。
「むーしゃむーしゃ…」
赤さくやを見てみると、「しょれはしゃくやのぷっでぃんだよ!ぷんぷん!」と泣き出したりすることもなく、俺より真剣なまなざしで、大さくやを見ている。
「…」
一瞬の沈黙。そして、
「…しあわせー!」
大さくやが叫ぶと同時に、赤さくやは満面の笑顔で大さくやに飛び込んだ。
「おかあしゃん!しゃくや、しょうしゃなめいどになりまちたわ!」
「さくやはがんばりましたわ!これで、とってもゆっくりしたしょうしゃなめいどのなかまいりですわ!」
なるほど把握した。二匹のさくやは親子で、このプリンは大人になるための試験みたいなもんなんだな。
「すーりすーり!」「しゅーりしゅーり!」
再会の喜びを親子で分かち合いながら、二匹は茂みに向かって帰っていく。まだ子供は子供なので、親のそばにいる必要があるのだろう。
すこしさみしい思いをしながら見送っていると、不意に親さくやが振り向いた。
「おにいさん!さくやをみまもってくれてありがとうですわ!」
「ゆゅ?」
子さくやは何のことだかわかっていないようだが、親さくやに促され初めて顔を合わせた俺にむかって、精一杯大きな声で言う。
「おにいしゃん!ありがとうですわ!」
笑顔大爆発で、ようやく最後にでしゅわをですわと言ってくれた子さくやを、俺は手を振り回して見送った。
あたりが暗くて、くしゃくしゃの顔がさくやたちから見えないことに感謝しながら。
- ああ。こういうの好きだな。
頑張っているゆっくりを見守る。一見さらりとしているけど、
これが人間とゆっくりの自然な関係なんじゃないだろうか。
-- 名無しさん (2008-11-11 16:12:45)
- 不思議生物としてのゆっくりと、動物的なゆっくりが無理なく混ざってて面白かった。
さくや種らしさも上手く表現されてて良かったよ。 -- 名無しさん (2008-11-19 18:19:25)
- 心がキュンッとしました。大ツボです。
-- 名無しさん (2009-03-13 16:21:12)
- おもわずほほえんでしまいました(=´∀`)人(´∀`=) -- そそら (2011-08-17 22:47:36)
- あるえ?鼻のおくが鉄くせぇ -- 名無しさん (2012-08-08 15:11:45)
- いいですね〜 。+゚(*ノ∀`) -- 名なし (2012-08-16 21:03:03)
最終更新:2012年08月16日 21:03