ずっと 続く フェイント




 ※ゆっくり同士の決闘・性格の悪い子達・ちょっと不幸になるゆっくりが登場します

 ※無断ですが……即興の人の「わいるどまりさ」があんまりかっこよかったので、一部
  モデルにしてしまいました…………勝手に申し訳ありません


*++++++++++++++++++++++++++



 「信じられるのは、鍛えた餡子とトリックだよ!!!
  ―――れいむとまりさだから、どれだけ有利かだって?

  本当は、頭だけのゆっくりに、『種族』なんて関係ないよ!!!

  やるかやらないだけ!!!」


  ―――フィラデルフィア・霧雨(1977-2003)


+++++++++++++++++++++++++++



 「夢なんてかなうと思ってるの?馬鹿なの?」
 「げらげらげら」
 「ぱちゅりーにはぜったいにむりだよ!!!ゆっくりあきらめてね!!!」


 作文用紙を咥え、机の上にあがったまりさを追いかけようと、ぱちゅりーは必死で
追いすがったが、ゆっくりてゐが、またげらげらと笑いながらそれを後ろから体当た
りではばむ。


 「むぎゅう、返して!!!私の作文返してね!!!」
 「ねえねえ、なんて書いてあるの?なんて書いてあるの?」
 「『わたしのゆめ』――――わたしは、おおきくなったら、『むげん』のマスターになりたいです」


 教室がどっと笑いの渦に巻き込まれる
 ―――げらげらげらげ――――


 「わたしはからだがよわいので、かっこよく戦う『むげん』マスターにあこがれています」
 「あこがれています―――だってさ」
 「おお、みじめみじめ」


 頭からすっぽりと覆いかぶさったゆっくりてゐを、押しのける事もできず、はらはらとぱちゅりーは泣い
ている


 「いまは、わたしはぜんそくで『むげん』はむりといわれていますが、からだをきたえて、どうじょうへ
  はやくはいりたいです」
 「無理無理ー!!!」
 「野暮野暮ー!!!」
 「返して…………もうやめてえええええええ………………」


 恥ずかしさと屈辱で最早号泣するぱちゅりーを見て、更にゆっくり達は調子に乗った


 「さいしょは、『きょうらだい4きょうゆっくり』にしゅつじょうしたいで………す………
  そして、さいごは世界一をきめる、『だいいし……』ぷ………ぷぷ……ぷ……
  あーはっはっはっはっはー!!!
  流石『ゆっくりの知恵袋』は壮大だね!!!」
 「世界一?」
 「寝言は寝てから言ってね!!!」


 げらげらげらげら

 笑いのあまり、てゐが体を離したので、ぱちゅりーは必死で机の上のまりさから作文を奪い返そうとするが、
あっさりと返り討にあい、床に叩きつけられる


 「何が『むげん』マスターなの?馬鹿なの?できると思ってるの?」
 「おお、思い上がり思い上がり」


 悔しいが、全く他のゆっくり達の言うとおりであることを、ぱちゅりーは自覚していた。こんなちんけな同級
生相手に、今の自分は抵抗すらできていない。
 それでも、相手を許すことも、自分の夢を撤回することもできなかった。


 「むきゅっ できるわよ!!!」


 どっ
 げらげらげら

 教室は再び爆笑の渦に巻き込まれる


 「だったら作文をうばいかえしてみるんだぜ!!!」
 「むきゅー」
 「ほら、やっぱり無理だよ!!!ゆっくりあきらめてね!!!」
 「あ、あきらめられないわ!!!」


 必死で抵抗する―――体当たりされ、叩きつけられる―――また向かう―――を何度も繰り返した。
 持病の喘息がぶり返し、咳き込むぱちゅりーを見下ろしててゐが言う


 「やっぱりあんたには無理だと思うよ」
 「やってみなければ解らないわ!!!」
 「じゃあ、ぱりゅりーが『むげん』マスターになって大会に出たら、私の事、おもいきり殴っていいよ」
 「あきらめてたまるもんですか!!!その約束は忘れないでね!!!」


 他のゆっくり達も反応する


 「じゃあ、れいむの事もけとばしていいよ!!!」
 「ちぇんも殴っていいよー」
 「投げ飛ばされてもいいよ!!!」
 「むきゅううう…………言ったわね……」


 よろよろと立ち上がりつつ、ぱちゅりーは全員を睨み返した


 「大きくなって後悔しないでね!!!」
 「のぞむ所だぜ!!!」
 「本気でできると思ってるの?馬鹿なの?死ぬの?」


 そして、何気なく言った言葉が、小さいぱちゅりーの胸にずっと残り続ける事になる


 「弱いぱちゅりー種に、できるわけ無いじゃん」



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 ―――控え室にて、椅子の上で、ぱちゅりーは目を覚ました
 どうして、こんな大切な日に、昔の思い出が夢に出てくのか


 「むきゅう………」
 「ぱちゅりー、本番前に居眠りとは、中々度胸がすわってきたもんだぜ」


 帽子の無い、やや浅黒い肌のまりさが前に立っている


 「むきゅっ、師匠!昨日は眠れなくって………おかげで頭はすっきりしたよ!!!」
 「それはなによりだぜ。しかし、随分うなされていた様だったが、あの時の特訓の夢でも見ていたの?」
 「いえ………子どもの頃の思い出です」
 「あの、牧場で馬にかじられかけたというアレか」
 「いえ………」
 「赤ちゃんの頃、れいむのりぼんを飲み込んで、保母さんに耳掻きでほじくりかえされて一命をとりとめた
  というアレか」
 「いえ…………って、何でそんな事を知ってるの……」
 「お客さん達に聞いたんだぜ」


 控え室には、たくさんのゆっくりと人間達がそろっていた。
 懐かしくも、決して忘れられない面々
 思わず、目頭が熱くなるのを、ぱちゅりーは押さえられなかった。


 「………ママ!!!」
 「久しぶり!!!よく、ここまでたどり着いたね!!!」


 そろそろ帽子もよれよれになりつつある、少し年老いたぱちゅりー。
 家を飛び出し、もう何年になるだろうか。
 彼女は、夢がかなうまでやらないと誓ったすりすりを堪えるのがやっとだった


 「本当に頑張ったわね!!!」
 「むきゅう、でも、本番はこれからよ!!!その言葉は最後に言って欲しいわ!!!」


 血(餡子?)のつながりは無くても、家族達も揃っている


 「ぱちぇ様、よくぞここまで………!!」
 「うー!!ここが、ふんばりどころだよ!!!」


 自分を、実の子どものように育ててくれたさくやさんと、おぜう様だ。
 再婚相手だという、ちぇんと、一緒に暮らしていた子れみりゃも、今ではすっかり大きくなっている――――
――というか、既に体無しの赤ん坊を連れている。やや気まずそうな顔した人間の女が隣にいるが、その子れみりゃ
とどういう関係なのかは今一解らなかった。
 人間達も、幾分老けていたが、忘れるはずも無かった


 「久しぶり!!!」
 「あの時のもやしっ子が、まさかここまで来るとはねえ」


 託赤ちゃんゆっくり所の、何やら情緒不安定なお兄さんと、やる気がないように見えたお兄さん、そして、ある時
をきっかけにやめてしまった人気者のお婆さんだ。
 ―――まだ続けていて、自分の事を覚えていてくれたとは


 「ゆ………ありがとう……ここまで来てくれて……」
 「いや、こっちこそ」
 「最高の晴れ舞台だね!!!頑張ってくるんだよ!!!」


 何やら少し照れくさそうにしている師匠


 「本当は、全部が終わってから皆とゆっくりさせたかったんだぜ。しかし、どうしてもってきかなかったし、お前も何か
  嫌な夢でうなされていたからな」
 「むきゅう、ありがとう。本当にありがとう!!! おかげですっかりゆっくりできたわ!!!」


 そう、悪夢など関係ない。
 夢は夢だ。昔の嫌な思い出など………


 「これで、本番もゆっくりして………」


 と、視界の隅に映ったゆっくり達を見て、ぱちゅりーは固まってしまった。
 ガタガタと痙攣し―――それが止まると、今度は顔が紅潮する


 「ゆっ? どうしたの?」
 「むきゅうう………全くゆっくりできない奴等がいるわ!!!」


 その怒りが、多少伝わったか………視線の先のゆっくり達は、思わず震えて後ずさった。


 「何しに来たの!!!」
 「お、応援に来たんだよ………!!!」


 忘れるはずもない
 特に、卑屈な薄ら笑いを浮かべているゆっくりてゐには…………


 「おうえん?誰の?」
 「ぱ、ぱちゅりーのだよ………!!」
 「友達……じゃない。当然だよ!!!」


 一気に怒りが頂点に達した。
 夢でのじとじとした思いが、全て蒸発した様な気分だった。


 「ゆっくり出て行ってね!!!」


 家族や、本当の友達達は目を丸めている


 「何がともだちよ!!!散々ゆっくりの夢を馬鹿にしていじめておいて、よくこんな所にこられるわね!!!」
 「そ、そんな事無いよ!!!テレビで毎日応援していたよ!!!」
 「ぱ、ぱちぇならできると、昔から思ってたよ!!!」


 床におかれた絆創膏の箱を、思い切り投げつけた


 「出て行ってね!!!ゆっくりしないで出て行ってね!!!」
 「そんなあ……」
 「それにあなたたち、約束はおぼえてるでしょ!!!」


 表情が凍りつく。
 どうやら、素で忘れていると思っていたらしい


 「まずは、れいむ!!! 約束どおり、あなたの出産に立ち会って、うまれてくる赤ちゃんを口の中で転がして
  吐き出して泣かせてあげるわ!!!」
 「えええええええええ!!?」
 「次にちぇん、約束どおり、これかららんしゃまの尻尾を見るたびにトウガラシを口の中にねじ込んであげる
  から、半年後にはらんしゃまに出会っただけで、口の中が辛くなる体にしてあげるわ!!!」
 「わ、わからないよお」
 「それからてゐ!!!あなたは(  ―――自主規制―――  )て一生生きればいいわ!!!」
 「そ、そんな約束してないよおおお」
 「殴ったり蹴ったりするだけのはずだよお」
 「覚えているようね!!!」


 しまった、という表情。
 やや呆れつつ、ぱちゅりーはひっぱたく体勢をとり始めた


 「その辺にしておくんだぜ!!!」


 と、まりさ師匠が割ってはいる。


 「一部始終を見せてもらったぜ!!!」
 「―――そりゃ、さっきからここにいましたからね」
 「家族や小さい子がいる前で、無抵抗なゆっくりを殴るのはよくないぜ」


 改めて、子れみりゃと(よく解らない人間の女が抱いている)孫れみりゃを見ると、やや怯えているのだった。


 「―――こんな奴等のために、体力を使うのも馬鹿ね」


 机によじ登り、ぐびぐびとスポーツドリンクを飲む
 と、もう時間が来てしまった


 「うわああああああああ!!! もっといい気分で本番に行きたかったのに!!!」
 「仕方が無い。今からもう一度気合を入れ直していくんだぜ!!!」


 心配そうな家族全員に、改めて会釈し、大丈夫だからと言い聞かせて、控え室の扉へ向かう。
 すれ違いがてら、昔の同級生達には言ってやった


 「有名になると、『親戚』と『昔の友達』が増える、人間がよく言うけどって本当ね!!!」
 「もうやめるんだぜ、ぱりゅりー。――――ただ、お友達のみんな。これだけは言っておくぜ」


 まりさ師匠は、先にぱちゅりーを押し出してから言った。




 「元々頭だけのゆっくりに、種族の差なんてあんまりないんだぜ」



 とにかく釈然としない気分で、会場までの長い長い、気の遠くなるほど長い廊下を2人は歩く。
 ここまでの道のりは動揺に長かった。
 あまりのゆっくりできなさに、毎日泣いたし、毎日逃げ出しかけた。

 しかし、それでもぎりぎりまで諦めず、ここまで続けてこられたのは――――何が支えだったか。
 夢か。
 見返したいという怨念か。
 後戻りなどできないという焦燥感か。
 前向きな向上心か。
 いや……………………


 「本当につらいことばかりだったぜ」
 「むきゅう……」


 ジープ・ブーメラン・滝・丸太といった、拷問すれすれの道具を使った特訓
 心を鬼にして鍛えなければならなかったまりさ師匠も、さぞ辛い毎日だっただろう。
 それは、理解できる。


 「本当に、よく耐え抜いたぜ」
 「それは、全部がおわってから言う台詞だって言ってましたよ」


 過酷な修行の日々は、ぱちゅりーの胸に大きな自信となって、灯を点らせていた。
 しかし、同様に直前の昔の悪夢と、白々しい同級生達の顔がそれを時折邪魔するのだった。
 本番前だというのに………
 何を今は考えるべきかと眉をひそめた、その時だった


 「あ…………ああああ………!!!」
 「驚いたぜ」


 同級生達とは違い、本気で戦いあった、そして、家族と同様に愛すべき者達が、廊下に待ち構えていた


 「本当は、優勝してからこうしたかったんだよ………」
 「ちょっと動揺してるって聞いたんだよ!!!」


 今までの試合の対戦者達である。
 実にその9割が、れいむとまりさだが、彼女には全員の区別がついた。帽子やリボンがそれまでの修行の
ためか、一部どこか破損していると言う事もあるが、一度戦った相手を、忘れるわけが無い


 「ゆっくり頑張ってね!!!」
 「ぱちゅりーなら絶対大丈夫だよ!!!」
 「このまりさ様を倒したおまえが、まける訳ないぜ!!!」
 「なに、意地悪なむかしのともだちのことなんて気にするな!!!」
 「勝って、わらいとばせばいいんだよ!!!」


 ずっと堪えていたものが、溢れてしまった


 「みんな………ありがとう」
 「泣くのは勝ってからだよ!!!」
 「まけたらしょうちしないからね!!!」
 「ファイトだぜ!!!」


 グジグジと涙を拭き、もう迷いも不安も無くなった事が、まりさ師匠には解った


 「本当に、ありがとう、皆の衆」


 最後に――――準々決勝であたっためーりんが声をかける

 今大会、ぱちゅりーと同じく、れいむ・まりさ種以外で唯一の出場者だった相手だ。


 「じゃお!!!あなたに先を越されちゃうのは悔しいけど、がんばってね!!!」
 「だいじょうぶよ!!!」


 いつの間にか、扉がもう迫っている。


 「さあ、本番だぜ」
 「師匠!!!ばっちりだよ!!!」
 「お前が、この『MUGEN -YUKKURI道-』の歴史を変えるのぜ」


 段々「ぜ」の使い方がおかしくなっていくのは、師匠の緊張した時の癖だった。



 ==================================================



 ――――『MUGEN -YUKKURI道-』―――――


 世界4大ゆっくり格闘技

 ・老人から子どもまで、健康のため最も人気の    ―――――――「ゆっくり相撲」(勝敗が通常つかない)
 ・ゆっくリンピック公式種目に認定された      ―――――――「格闘技っぽいなにか」(※正式名称です)
 ・タイ発祥の、軍隊訓練にも採用されている     ―――――――「ゆっくり残像拳」(対人間用に15世紀頃に考案)



 その中でも、「最もゆっくりできない流派」として知られているのが、この『MUGEN -YUKKURI道-』
 通称「むげん」である。
 源流は、古今東西の、ゆっくり同士の決闘や、対人間・野生動物・妖怪に用いられていたの実践技を、11世紀に頃に
フランスでゆっくり達にまとめられたものを、13世紀にゆっくりれいむ(リングネーム・『すとろべりー・博麗』)が
正式に総合格闘技として昇華し、広めたものである。
 歴史としては最も古いが、その内容は実戦を想定しているだけあり、実に過酷な上、非常に敷居が高い。
 考案者達の種と、当時のゆっくりの種族の数の多さが影響しているためでもあるが、当初は「れいむとまりさ以外は
この技をおぼえるべからず」という決まりがあり、公式の試合では、決して他の種が参加する事はおろか、道場入りする
ことすらできなかった。

 その排他的な姿勢は、16世紀の「まろんぐらっせ・霧雨(1504-1598 イタリア)」の



 「まりさか、れいむにあらずんば『むげん』マスターにあらず」



 や、同時代の「ぷりんあらもーど・博麗(1556-1606 台湾)」の



 「他のゆっくり達にも『むげん』をおしえてほしいって?だったら一口餃子一年分もってきてね!!!」



 や、次の世代の「がとーしょこら・霧雨(1610-1638 ウズベキスタン)」の



 「『むげん』ができないんなら、『ゆっくり相撲』を続ければいいんじゃなあい?
  ――――って、何アレ?
  え?
  相撲?
  「B」じゃないのアレ? 
  「B」だと思ったぜ あっはっはっはっはっは!!!」



 という公式の言葉が受け入れられてしまったことからもうかがえる。
 17世紀後期より、当時の世界チャンピオンであった「ばななおむらいす・博麗(?-1689)」が、特例として
実験的に体なしのれみりゃに参加権を認めたことで、その門戸は他の種にも開かれる
 18世紀には、正式にどの種も道場入りは許可されるようにはなった―――が、依然としてれいむ・まりさ
以外の公式試合の出場は認められなかった。
 そして20世紀、第3489回(推定)目の世界大会である夏の「だいいしん・ぱーれんゆっくり覇」に、初めて
みょん(リングネーム・『ちぇりーばぶるす・魂魄』)が実力から出場がみとめられ、ついに扉は全てのゆっく
りに開かれる

 しかし、その後春のアジア大会「きょうら・だいよんゆっくり殺」で幾度かベスト8入りを果たすめーりん
いた程度で、未だに、世界水準で記録を残したれいむ・まりさ種以外のゆっくりは存在しないまま、現在に
いたる


                   ――民明書房刊「お賽銭を入れるのはココでいいのかしら?」より抜粋――



 ==================================================



 大歓声の中、リングに上がる。
 あまりの数の大声の中、体の中のクリームが振動する気さえしたが、不思議と怯えは無かった。
 試合の始める前の、張り詰めた空気はいつまでたってもあまり慣れなかったが、今回はそれを超えた何かが
あった。


 ――国家斉唱  ご起立下さい

 ♪  朝起きて  飯食う  その後  テレビ見る



 「どうなんだぜ?世界の頂点で自分の国を背負って戦う気持ちは?」
 「むきゅー 最高よ!!!これで勝てたらもっとうれしいわ!!!」


 ふと見ると―――観覧席には、いくつもの自分を応援する垂れ幕が。
 そして―――――それを持って応援しているのが、自分と同じ、ぱちゅりー達だと解った時


 「師匠、わたしをここまで支えてくれたものが何なのかわかりました!!!」
 「むっ、それは何なのぜ?」
 「昔、夢を馬鹿にされて、ぱちゅりー種も馬鹿にされて――――そんな事は無い、って証明しようと、意地になって
  ここまできました。でも、それだけじゃなかった」
 「そ、そうなのかぜ?」


 意地とか―――マイナスの気持ちだけではない。
 種なんて関係なく――――『むげん』が好き――――という気持ち。
 そして、馬鹿にされても、本来動じるべきではないほどの、「ぱちゅりー」としての種族への誇りと自信



 「ゆっくりしてくるよ!!!」
 「ゆっくり勝ってくるんだぜ!!!」


 最後の対戦相手となるれいむが、リングに上がる。



 「両者、前へ!!!」


 まずは一礼。
 そして、試合前には欠かせない儀式


 『『ゆっくりしていってね!!!』』


 次に、先攻後攻のじゃんけんである。


 「じゃーん」
 「けーん」


 「ぽん」といえないのは、「顔ジャンケン」であるからだ。


 『『あーいこーで』』


 決定には35分を費やした。
 先攻はぱちゅりーである。



 「構え!!!」
 「ゆっ!!!」
 「むきゅー!!!」


 和太鼓が激しく打ち鳴らされた
 ドンドコドコドコ ドコドコドコドコ ドンドン ドン

 名乗り上げ


 「戦う前に一つ言っておく事がある お前は私を 厨キャラだとおもっているようだが、別にカンフーマンでも倒せる」
 「聞きなさい 実は私は 一回叩かれただけで 死ぬぞう!!!」



 ―――FIGHT!!!!


  先攻―――

  助走無しで飛び上がるぱちゅりー。先手必勝がこの競技の勝利の鉄則である。


 「上から来るぞ!!!気をつけろ!!!」


  客席からの声が飛交う。


 「いや、下からだ!!!」


  相手のれいむ(リングネーム/ふーごぱんなこった・博麗)は、早くも足元を警戒し――――そして、左右を見渡している


 (―――流石、大会5連覇を決めた、百戦錬磨のゆっくり!!!)


  上と見せかけて、下からのフェイントと見せかけ、最後には横から来る
  ガード後の「左(右)からじゃねーか!!!」のきめ台詞も、もう脳内で用意されている事だろう。

  しかしだ


 (―――これは、予測できる?)


 ぱちゅりーは、最早ガラ開きとなったれいむの脳天へ急降下した


 「ゆゆっ!!!」


 ぶみょん


 クリーンヒット!!!
 ぐらぐらとよろめくれいむを尻目に、ぱちゅりーは無難に着地し、なおも相手へ構えを続ける


 「そのまんまうえからじゃねーか!!!」


 4回ほど回転を続け、れいむはその場に倒れた。
 審判のらんしゃまが近寄り、話しかける


 「こんてにゅー?」
 「ゆ、ゆっくり今までのパターンに慣れた結果がこれだよ!!!」


 ややあって、対戦相手はがくりと目を閉じた。
 なおもファイティングポーズをとり続けるぱちゅりーに歩み寄り、尻尾でいなす。


 「――――勝者…………!! ノーレッジ・芋紫(リングネーム)!!!」



 ―――新王者の誕生の瞬間であった

 ―――それも、世界初のれいむ・まりさ種以外の




 一瞬静まり返った会場から、最高潮に興奮したゆっくりと人間達の歓声が沸き上がり、会場を揺らした


 「――――本当に歴史を変えたんだぜ」
 「………頑張った……本当に頑張った………!!!」


 自分でもまだ信じられないといった顔のぱちゅりーの背中を、師匠がぽんと頬で叩き、れいむが運ばれた
のを確認してから、家族達がリングに上がって駆け寄る。


 「おめでとう!!!」
 「ゆっくり勝ったね!!!」
 「む……むきゅっ!!!でも、少し早いわよ!!!」


 そう、これからまだ大切な儀式がある。
 おそろしく年老ったらしい大会名誉会長のれいむが、メダルを咥えて歩み寄ってくる


 「私はれいむだけど、こうしてあなたが今までの常識をうちやぶってくれて嬉しいよ!!!」
 「わたしもよー!!!」
 「こうしていると、昔人間あいてに、ニューヨークでバスケしてお菓子をかっぱらっていた時の事を思い
  出すよ。まあ、その後ちんぴらに絡まれて死に掛けたんだけど、その前私はアジアの辺りをあなたと同じ
  ぱちゅりーやえーりんと一緒に廻っていて……」
 「むきゅう、その話長くなります?」
 「ごめん…………」


 渡されたメダル(中身はチョコレート)を、ぱちゅりーは口で受け取った


 「むーしゃ むーしゃ  しあわせー!!!」


 これを言うために、頑張ってきたといっても過言ではない。
 インタビュアーのきめえ丸が、マイクを向ける


 「ついに新王者となられたわけですが、お気持ちは………!!」
 「ありがとうございます」


 改めて周りを見ると、すぐ近くの特別応援席に、控え室に来てくれた面々が、同級生も含め揃っている。


 「―――ここまでこられたのは、ともだちとお師匠のおかげです。私は元々体が弱かったし、大きな事は
  いえないです」


 目頭が熱くなるのを堪える


 「――――でも、『〔むげん〕が好きなら、れいむもまりさもない、元々頭だけのゆっくりに、種の差なんて
  あんまり無い、と言う、  かつてのチャンピオン(フィラデルフィア・霧雨〕の言葉に勇気付けられてがん
  ばりました!!!

  『むげん』は本当に大好きです!!!  そして――――」


 特別席まで歩んでいく


 「遠くから、わたしを支えてくれた家族や友人、ライバル達――――そして」


 やや怯え気味の、同級生達
 そこへ―――ー-頬を突き出す


 「昔、私がここまで『元々頭だけのゆっくりに、種なんて関係ない』と、一番頑張るきっかけを作ってくれた学
  校のみんなあなたたちがいてくれたから、私はここまで頑張れました」


 恐る恐る、ちぇんが頬を寄せる


 「これが終わったら、西ドイツの旧加工所を再稼動させて、あなたたちの家族をそこへ全員ぶちこむか、
  変態ドーナツ屋へ二束三文でうりはらってやろうかと考えていたけど、全部が終わった今、私は
  とてもいい気持ちよ!!!」
 「ぱ、ぱちゅりー……………!!!」
 「あんなやくそくなんかどうでもいいわ!!!本当に感謝しているから、いまは、すりすりさせてね!!!」


 号泣しながら、かつてのいじめっ子たちは殺到した。


 「ごべんねええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
 「あの時いじめたり笑ったりして、わるかったよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
 「ぱちゅりーだから無理だなんて、そんなことなかったよねえええええええええええええええええ!!!」
 「ありがとおおおおおおおおおおおおお!!!」
 「ありがとおおおお!!!」
 「ほんとうにごべんんんんんんんんんんんん!!!」
 「わたし、ゆゆこだけど明日からやっぱり断食がんばるうううううううううううううう!!!」
 「ちるのだけど、資格とるのあきらめないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 一人一人にすりすりをしつつ、ぱちゅりーも笑いながら泣いた。


 そう、「種」なんて関係ない―――――一人一人が、諦めかけていた目標を達成する事を、口々に誓い始めた。


 そして―――最後の一人


 「てゐ」
 「ご………ごべん、いじわるして……」
 「もういいって」
 「本当に…………『種』なんて関係ないよね!!!」


 すりすりを続けていると、不意にその接着した部分が、上に持ち上がった


 「むきゅっ!!?」




 てゐの下から、胴体が伸びている。
 どうやら、比較的小さい胴体を、柔らかい首の部分に押し込めて、今まで体無しとして生活していたらしい。




 「いや―――周りがみんな生首だからさ、一人胴付きだと色々かえっていじめられそうじゃない?だからそれ
  が怖くていじめっ子になったのかもしれないんだよ!!!
  でも、そんな必要な無いって解ったから、これからは皆と――――」


 ―――と、思い切りぱちゅりーは後ずさった。


 「…………あれ?」


 他の同級生達と並び、何やら忌むべきものでも見ている顔をしている


 「えっ?」
 「……………あなた、胴付きだったの?」
 「そ、そう…………かえっていじめられるの怖くて、他のゆっくりいじめを………」
 「な、何ていうか………」


 マイクを構えなおして、ぱちゅりーは言った。





 「きもい 主に からだが きもい」
 「ええええええええええええええええええ!!?何それえー?」



 しかし、庇おうとする者はどこにもいない。
 それどころか


 「ええー?マジ胴付きー?」
 「きんもーい」
 「胴付きが許されるのはあ、れみりゃかふらんかえーりんかてんこ……くらいよねー」
 「きゃはははは」


 かつてのいじめっ子仲間までもが


 「ちょwww何あんたら?さっきまで『種』なんて関係ないって言っておいて何それ?」
 「いや、『元々頭だけの』ゆっくりには、って意味だし。あんた胴あるし」
 「差別だアアアアアアアアアアアアアアアアアアああ!!!」
 「元々、そっちの方が有利なんだからいいじゃない」
 「いっしょに扱ってよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 いや、でもさ


 「何ていうの?『種は関係ない』って言っても、一応違いはあるんだよね」
 「違いはしょうがないよね」
 「とりあえず、偉そうでKYな胴付きはとっとと出て行ってね!!!」


 言い返せないてゐは、踵を返すと、わざわざぱちゅりーが入場してきた扉から会場を飛び出して行った。


 「おまえら全員、西ドイツのドーナツ屋へうりはらってやるうううううううう!!!」


 「おお、こわいこわい」も言えず、師匠まりさと家族達は、呆然とその後姿を見送るしかなかった。




 ――――その後、デンマーク移住したてゐは、そこでの経験を活かし「乳首ファイヤー」なる新競技を
開発し、祖となる。

 人間も行う紳士のスポーツとして、 世界4大ゆっくり格闘技は、世界5大ゆっくり格闘技となるが、
それはそれでまた別の話である。



                       了




  • この国歌斉唱の国歌って「これ国歌でよくね?(イオシス) 【歌詞あり】」
    だよね。 -- 名無しさん (2014-04-14 01:01:49)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年04月14日 01:01