※東方キャラ登場注意です。二次設定も割りとふんだん。
※星になるゆっくりが出ます。
※割と長めです。時間が空いて暇で暇でしょうがない時推奨。
・序・
「雀は小骨が多くて嫌いなの」
その日は、やけに夜が永かった。
逃げる。
逃げる。
何だあいつは、何なんだあいつは。
葉を左手で掻き分け木々の枝から枝へ小さく飛ぶ、
木々の陰で自分の姿を少しでも隠すために。
進みづらい、飛びづらい、でも進む、またあいつに姿を見せるよりマシだ。
本当に何だっていうんだ、ふざけるな。
手も足も出なかった。あまりにも一方的だった。
ただの弾幕ごっこなのに、スペルカードルールだっていうのに、
どうして私の心臓は、このバクバクと唸る慟哭は止まってくれない。
嫌だ、もう嫌だ、あんな奴二度と見るのもゴメンだ。
翼が残ってて良かった。右腕みたいに失くなっていたら‥、
多分‥、私の全部が喰われていた。
そんなのは嫌だ、そんなのは。
私はまだ‥
私はまだ‥、歌いたい。
「追いついたわぁ。わざわざ私達の進む方向に逃げるなんて‥、貴女は親切なのね」
歌いたい歌がたくさんある、
のに‥!!
死が、私の脚を、命を鷲掴んだ。
「夜雀が出たってことは、じきに妖怪か何かが集まってきます。その前にここを去りましょう。先を急ぎますよ」
「ちょっと待って。小骨が‥‥」
「さっき、嫌いって言ってたじゃないですか」
「妖夢、好き嫌いは良くないわ」
ゆっくりSS 「夜雀たちの歌 ~起承~」
・起・
一年後。
人間の消える道
人間の通り道も、真夜中に出歩くものは獣か妖怪位。
少なくとも人の姿が見える筈も無い。
夜の森に、歌が響いていた。
へビィでロックな、音調の激しい夜の歌。
人っ子一人通らない夜の森、
そんな中歌っている者も、当然人間以外であった。
「来たれ、月明かりぃ、照らせ、夜の道ぃ、ナイトラインに我を通せぇ♪」
羽のついた特徴的な帽子を被った、背中に大きな翼を持つ少女。
夜雀の怪、ミスティア=ローレライは、人じゃとても登れないような高い木の枝にとまり、自由気ままに大好きな歌を歌っていた。
「そして生まれる人の道ぃ、阻む者なしナイトライン~♪」
言うまでもないことだが、彼女の趣味、生きがいは、歌うことである。
暇さえあればその自慢の歌声を森中に響かせては、他の妖怪達に五月蝿がれたり、迷惑がられたり、
無視されたり、退治されたり、歌に釣られてきた人間を歌うついでに攫ったりしている。
「人通る道ナイトライン~♪通った人は攫われる~♪主に私に攫われる~♪」
といってもこの夜雀の出る危険なこの道を人が避けるようになってから久しい。
最近この道を夜に通った人間といえば紅白の巫女と白黒の魔法使いと吸血鬼の従者くらいのものである。
故に夜雀はいつも独りで歌っていた。一緒に歌う妖怪も、聴いてくれる人間もいない。
歌うこと事態が楽しい夜雀にとってはそれで良かったのだが‥、
その夜は、いつもと事情が少し違った。
「「「ゆぅ、ゆぅ、ゆぅゆぅゆぅう~♪ゆっくりゆっくりゆゆっくり~♪」」」
「ああ~♪ここは地獄のナイトラ~‥、 って誰よ~。私の歌と被らせて歌う不遜な奴は~」
微かだが、確かに自分の歌と被って何者かの歌声が聞こえた。
それもやたらスローテンポな自分の音楽性とはまるで合わない音調だった。
ミスティアは妖怪の中でも気の短い方ではなかったが、自分の生きがいを邪魔されて黙っていられるほど寛容ではなかった。
せっかく良い気分で歌っていたのに‥。
ミスティアは軽い憤りを覚えながら、
バサッ、と
翼を広げ枝を飛び降り地上に着地する。
「ちょっと!!割り込まないでよ!!私が歌ってたの気づかなかった!?」
どうせ迷い込んだ妖精あたりが好き勝手に歌っているのだろう。
そう思ったミスティアは開口一番怒鳴り散らし、退治してやろうと掌を掲げたのだが‥。
「ゆゆ!?」「誰?」「何?」「後ろを取られた?」
「ゆ、ゆ、ゆっくちぃ!」「ゅ、ゅ、ゅゅゅ?」
それは、とても妖精には見えなかった。
ミスティアがさっきまで登っていた巨木、その根元には大きな穴が空いており、その中にそれらは居た。
少なくとも彼女が知る妖精の姿とはかけ離れた、よく分からない、
「な、生首…!?」
生物(ナマモノ)だった。
説明するまでもないだろう。
少女ミスティアは初めて見たようだが、この不思議な生物達こそ現在幻想郷、
惹いては外の世界の2chやニコ動で流行している(もうピークは過ぎたかな?)「ゆっくりしていってね!!」通称「ゆっくり」である。
どうやらこの木の根元に自然発生したと思われる空洞を巣としている家族(群れ?)のようで、
全員最もポピュラーだといわれるゆっくりれいむであった。
「ゆゆ!ここはれいむたちのおうちだよ!!あまり覗かないでよ!!エッチ!!」
群れのリーダーと思しきサッカーボール大のゆっくりれいむが一匹、威嚇のつもりかぷくっーと体全体を膨らまして抗議している。
「ゆっくりするなら少し覗いてもいいよ!」「しかしゆっくりするとは容易なことではないよ!!」「果たしてお姉さんにできるかな!!」
そしてさっきのより一回り小さい野球ボール大のゆっくりれいむが3匹。
それぞれ転がったり跳ねたりウィンクしながら息のあった会話を繰り広げる。
「ゅ、ゆっくちしていってね!!」「ゆっくちぃ」
最後にピンポン玉大の更に小さなゆっくりれいむが精一杯声をあげる。
状況がよく分かっていないようで、敵か味方かも分からないミスティアに向かって普通に挨拶した。
「な、誰よあんたたち…?ていうか何!?何なの!?」
見たことのないUMA達の登場に愕然としながら、ミスティアは思った疑問をそのまま口にする。
「ゅ?れいむはれいむだよ!」
と大れいむが答える。
「そしてれいむがれいむよ!」「れいむはれいむっていうんだよ!可愛い名前だよね!!」「仲間からは『れいむ』って呼ばれている、だがお前は『れいむ』って呼びな!」
と中れいむ3匹。
「れーみゅー」「みこみこれーみゅー」
と小れいむ2匹。
「はぁ?れいむれいむれいむれいむ‥、みんなれいむっていうの!?」
「そうだよ!5人合わせて『ゆっくりれいむ』だよ!!」
「合わせるも何も一緒じゃん!!」
ミスティアが目の前の理不尽に腕を大げさに振り上げ指をさしてツッコむ。意外と律儀な性格である。
「同じだってよ」「けらけらけらけら」「ゆっくりの名前も聞き分けられないとは」「おお、哀れ哀れ」
大中れいむがそれぞれミスティアを小馬鹿にしたような顔で笑いたてた。
ニヤニヤと口元を緩ませた、反射的に殴りかかってしまいそうな腹立たしい表情だ。
「意味分からない上に無意味に腹立つわね~ ん、れいむ‥」
その名前には聞き覚えがあった。
それにこの生首どもの姿、赤いリボン、どこかで見覚えがある。
「は‥!れいむ‥、霊夢ってたしか‥!」
ミスティアはその名前を知っていた。
いや、幻想郷で最低限の知能を持つ妖怪の中で、その名を知らぬ者などおるまい。
そう、それはたしか…、去年の夏の終わり、
夜がやけに永かったあの日‥、竹林で…、
‥‥‥‥、
ん、ん~、違ったかな‥、
そう、確か‥、今年の春、
やけに花が咲いて妖精どもが騒いでいたあの頃‥、
やっぱり竹林で‥、いや、でかい邸の前にあるでかい湖の上で‥、
‥‥雲の上で‥? いや、桜並木の上で‥? やたら長い川の上で‥?
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥?
‥う~ん、ん~、えと~、
思い出せない。何か紅白で脇をやけに強調した座布団的なイメージはあるけど、
「誰だっけ‥?」
「ゆ、だかられいむはれいむだよ!!」「れいむはれいむだよ!」「れいむはれいむだって」「れいむはれいむぅ!」「れーみゅだよ!」「みこみこれーみゅー」
「ああ、それは分かったから。 う~ん、まぁいいや」
思い出せないことはしょうがない。きっと自分にとってはどうでもいいことなのだ。
取り敢えずミスティアは相手が何であれ、忘れないうちに本来の目的に切り出すことにした。
「そうだ!あんた達!私が歌ってたところに割り込んでおかしな歌を歌ってたでしょ!困るのよね、歌の邪魔は!!」
「ゆ?歌って?」
大れいむが聞き返す。
「聞こえなかった?さっきまで私が歌っていた、『夜道のナイトライン』て歌よ!ナイトラインに我を通せぇ♪ってやつ」
ちなみにタイトルはさっきつけた。即興である。
「ゆゆ?あの歌、お姉さんが歌ってたの?」
中れいむのうち一匹がきょとんとしながら尋ねる。
「そうよ? ほら、やっぱり聴いてたんじゃない!」
「ゆっくり聴いてたよ!」
と、大れいむ。
「家族みんなで聴いてたよ!」「あのお歌を聴いたから、れいむたちはゆっくり歌ってたんだよ!」
と、中れいむ2匹の息の合った返答。
「みんにゃでうたうのってたのちいね!」「ゆっくちぃ♪」
と。小れいむ。やっぱり状況はよく分かっていないらしい。
「て、ああ、そうなの?私の歌がきっかけで?」
その意外な返答にミスティアは軽く戸惑いながら、もう一度尋ねた。
「ゆゆ!そうだよ!!」「あんな歌は久しぶりに聴いたよ!」「れいむたちがみんなで歌うのも久しぶりだったよね!」
ゆっくり跳ねながら満面の笑みで答える大~中れいむたち。
余っ程歌うのが楽しかったのだろう、その台詞一つ一つからゆっくり達の満足そうな心情が読み取れた。
「あぁ、へぇ、そっか、そうだったんだ。そうだったのかぁ。にへへへ…」
さっきまでの憤りはどこへいったのか、ミスティアは顔を少し赤くして、だらしなく顔をにやつかせた。
歌うだけで幸せだから、普段は特に誰に聴かせるでもなく歌っているが、決して誰にも聴いて欲しくないという訳ではない。
聴いてもらえて、それでしかも、自分たちも歌いたくなるほど満足してもらえるのだったら、
相手が妖怪仲間でも人間でも謎の生首でもやっぱり嬉しいものだ。相手が人間の場合、その後攫ってしまうわけだが。
よく見たらこの生首どもも、なかなか可愛い顔をしている。初見は若干気持ち悪い印象だったが、
このふっくらとした外観、小生意気な顔立ち、そして動きに合わせてぴくぴく動く大きなリボン、愛でがいのありそうな要素満載だ。
「ねぇ、私の歌どうだった。良かったら感想を聞かせてよ」
ちょっと照れながら笑顔でミスティアはそう聞いた。
「ゆ、いいよ!アレだね!」
「「「ゆっくりできてなかったね!!!」」」
大一匹、中二匹が声を揃えてそう答えた。
「ゆ…、ゆっくりが、えと、何だって?」
気のせいだろうか、賞賛の言葉には聞こえない、そうミスティアは思った。
「歌うのがゆっくりしてなかったよ!」
と、大れいむ。
「音程の幅がありすぎてゆっくり歌えてなかったね!」「歌詞も音をとってるだけで意味が分からなかったよ!!」
と中れいむ二匹。
もしかして、誉められてない? そうミスティアは思った。
「あれはもう歌じゃなかったね!」「最近の若者は速さやあっぷてんぽだけを求めてるから困るね!」「大切なものを見失ってるね!」
うん、誉められてないなぁ、そうミスティアは思った。
「あんな歌を聴かされたらゆっくりなんてできないからね!!」「だからみんなでお歌を歌うことになったんだよね!!」「歌って気を紛らわすしかなかったんだよね!!」
あははは、なんだろう、心の中の空っ風がとまらないよ、そうミスティアは思った。
ちなみにその間、残りの一匹の中れいむは、
「‥‥‥」
何を思っているのか無言だった。
小ゆっくり2匹は、
「ゅー、ゅー、ゆっゆゆう♪」「ゅーゅーゆーゆーゆー♪」
別世界にいた。やっぱりよく分かっていないみたいだ。
「しかしお姉さんはあんな歌をあんない森中に響かせてよく恥ずかしくないね!」「よかったられいむたちがお歌の歌い方教えてあげよっか!?」「お歌が変なお姉さんでもゆっくり歌えるようにしてあげるよ!!」
ゆっへんと、3匹のれいむは無駄に胸を張り、明らかにミスティアを見下したような態度でニヤニヤと笑いかけた。
ああ、こいつらは‥、何でこんなにも私を苛立たせる言葉を蛇口から水を捻るが如く捻り出せるのだろう。
可愛いとか一瞬思ってしまった自分が憎いね、タイムマシン使って殴りかかりに行きたいね。
ていうかね、別にいいのよ?私の悪口はね。
普段から鳥頭とか焼き鳥とかフライドチキンとかステキな暴言を敵味方の区別なく受けまくってるからね。
べ、別に泣いてなんかいないわ。
ただね、歌の、私の歌への罵詈雑言はね‥、ほんとね、ダメなんだよ。
ほら、私達妖怪ってさぁ、身体の作りが丈夫な分精神攻撃に弱いからさぁ、
ああダメだ我慢できないていうかもともと我慢する必要なんてなかったんだねうんなかったよーストレスは身体に毒だようん逆襲しよう報復しよう諸君らは何を望むクリーク!クリーク!よかろうならばクリークだよ!一心不乱の大戦争だよはじまるよちんちん!!!
そう、ミスティアは思った。
「ゆゆ?」
まず手始めに大れいむ。
サッカーボール大のそれを巣から取り出し両手で持ち上げる。
そしてゆっくりと自分の顔に近づけ、ニコっと笑いながら、
星が瞬く綺麗な夜空を見上げ、
全身にありったけの力を込めて、
「そぉい!!!!」
その綺麗な夜空に向かって大れいむを思いっきり、
「ゆぁああああああああああああ!お空を飛んでるみたいぃいいいいいいいいいいい!!」
ブン投げた。
ミスティアだって妖怪の端くれ。謎の生首を夜空の星にすることなど造作もないのである。
「ゆああああああああ!!」「おかあああああああああさあああああああんん!!!」
輝く夜空の星の一つとなった母(?)の姿に、2匹の中れいむは驚きと恐怖が入り混じった叫び声をあげる。
「さてと」
ちょっとすっきりした笑顔でミスティアはその2匹に笑顔で話しかける。
「言い残す言葉はないの?」
「はぁ、やれやれ」「ゆっくりした結果がこれだとさ」
中れいむ二匹はやれやれとふてぶてしい顔をしながら、首をふって嘆息した。
「えいやっさぁ(永夜抄)!!」
2秒後、彼女らはやっぱり夜空に輝く星となった。
「まぁいい、良い機会だから大気圏突破を目指して見るか」「第一宇宙速度か、越えられるかな?」
「越えられるさ、お前と一緒なら」「フッ、そうだな。相棒」
そんな会話をしてたとか、してなかったとか。
ちなみにその頃の小れいむ2匹。
「ゅ~、おほしさまきれだにぇ~」「きらきらひかってるにぇ!」
やっぱりよく分かっていないのであった。
「さてと、あんたはどうする?」
クックックッと意地の悪い顔をしながらミスティアは高圧的に残った中れいむ一匹に尋ねた。
「ゅう‥、れいむをぶっ飛ばしてもいいけど、最後に一つだけお願いがあるよ」
対する中れいむは恐怖のためか多少プルプルと震えてるものの、毅然とした態度でミスティアの面と向かってそう言った。
「へぇ、何?言ってみなさいよ」
「ゆ、お姉さんの‥、」
「お姉さんの歌をもう一度ゆっくり聴かせて下さい!!」
「‥、へ?」
最初、ミスティアは冗談かと思った。
そしてその後すぐ、このれいむが助かりたいが為に、今更になって自分を持ち上げようとしているのだと思った。
「ああ、その手には乗らないわよ。あんたたちにとって私の歌は『ゆっくりできない』んでしょ?」
謎の生首相手とはいえ、自分の生きがいを持ち上げられた直後叩き落された傷跡は意外と深い。
ミスティアがこの生物の言葉を信じられなかったのも、当然といえば当然だったのだが。
「ゆ!!そんなことないよ! そんなことなかったよ!」
ピョンピョン飛び跳ねながら、中れいむはゆっくり熱く語る。
「歌詞も音程も乱暴だったけど、ゆっくりできてはいなかったけど、けど、れいむはすっごくゆっくりできたんだよ!!」
「すごくゆっくりしてないのに、すっごく透き通った声でね、身体の中の餡子が熱く滾って『頭が沸騰しそうだよぉ!』状態だったんだよ!」
「でもほかのみんなは『ゆっくりできない』って言って‥。れいむは分からないよ!ゆっくりしてるだけの歌なんてつまらないだけなのに!!」
今まで溜め込んできたものもまとめて吐き出しているらしく、甲高い声で発せられるその言葉は聞きにくいこの上なかった。
だが、
「‥‥‥‥‥、嘘言ってるわけでもなさそうね」
そういえば、さっき散々自分の歌が馬鹿にされていた時、この生首は黙っていただけだった。
それに、確か最初に「歌っていたのは自分だったのか」と尋ねてきたのもこの生首だった。
仲間の中でも変わり者だったって訳か。
「ふぅ、まいっか‥」
「ゆ!やったぁ!!ありがとね。お姉さん!」
苦笑。本当にこの生首たちはよく分からない。
すぐ笑ったり跳ねたり転がったり怯えたり星になったり、さっきから振り回されている自分が馬鹿みたいだ。
だが、そんなことは関係ないか。
ミスティアが歌うのは、歌うのが好きだから。
「そっじゃ、いくよ!!」
「ゆぅ、お耳をダンボ!」
「ゅ?なにがはちまるの?」「ゅっくちぃすゆの?」
その歌を誰が聴いていようと、聴いていまいと関係ない。
ただ、歌えれば、それでいい。
そして、また、森に林に夜雀の歌が響き渡る。
風が木々の枝を揺らす音も、夜に鳴く蟲の声も掻き消して、
もう歌しか聞こえない。
その日は結局、それ以上夜空に星が増えることはなかった。
・承・
2週間後、人の消える道、日没後。
「あ~ぁ~、暇ねぇ」
そんな呆けた声を出して、こんな夜道を堂々と闊歩する人間がいた。
そう、人間である。夜雀たちの縄張りになってからは決して人は近寄らないようにしていたこの廃道に、
たった一人で出歩いている。言うまでも無く命に関わる無謀な行為だ。
だが、その人間にとって『命に関わる無謀な行為』というものは、大きな意味を持っていなかった。
「どうせなら、輝夜もこういう夜に襲ってきて欲しいもんだわ。いつも邪魔な時にいて、居て欲しい時に居ないんだから‥」
蓬莱の人の形、決して死ぬことのない少女、藤原妹紅。
普段は迷いの竹林に独り居を構える彼女だが、いつでも竹林にいる訳でもない。暇になれば散歩にぐらい出かける。
普通の人間でない彼女にとって、幻想郷とはいえ本当に危険な場所はほとんどない。
「何か面白いことでも‥、ん‥?」
ふと少女は立ち止まる。
自然な音でない何かが、彼女の耳に届いたからだ。
「この歌声は‥」
そう呟くと彼女は、その音の聞こえる方向を見つめると、身体を地面からふわりと遠ざけ、真っ直ぐ目的地に向かい飛んでいった。
「中身を開いて火で炙れ、そぉい♪」「ゆゅう、ゆぅう、ゆゆっゆ♪」
その音が、誰かが歌っている歌だと気付ける距離になると、その歌声の主もあっさり見つけることができた。
この森の中でも比較的高めといえる木の天辺の枝の上。
器用に座りながら、身体を歌に合わせ揺らしながら楽しそうに歌っている後ろ姿が見える。
相変わらず歌ばかり歌ってるやつだ。
「よぉ、大将。随分景気良さそうね」
気兼ねなく後ろから声をかける。
「美味いぞ食え食え八目‥、って何よ誰よ、歌の邪魔するのは」「ゆゅゅゆ~♪ ん、だぁれ?」
歌を中断し、ちょっと怒ったような声をあげその少女は振り返る。
「悪いね、邪魔しちゃった?」
「あんたは‥、ああ、迷いの竹林の焼き鳥女」
「もっとマシな呼び方はないの?夜雀の屋台屋」
苦笑しながら答えた。
ミスティア=ローレライは妖怪にしては珍しく、焼き八目鰻の屋台を経営している商売人である。
売る場所はあまり選ばず、迷いの竹林にもしょっちゅう売りに来ている。そこでのお得意様の一人がこの藤原妹紅だ。
妖怪と人間ということもあり、初対面時は弾幕バトルの流れになり、ミスティアは退治されかけたりしたが、
焼き八目鰻を何枚かご馳走することで事なきを得た。
その日から、この二人は出会ったら挨拶を掛け合う程度の仲にはなっていた。
「最近うちの方に来ないと思ってたら、こんなところで油売ってたのね」
「ああ、すいませんねぇ。最近はここで歌うのがちょっと楽しくなってきちゃって」
少し照れるように頭を掻きながら笑うミスティア。
そこでふと、妹紅はミスティアの肩の上に乗っている違和感に気付いた。
「そいつはそうと、その肩の上に載ってるのって‥。ゆっくりって奴かしら?」
「ゆゆ?れーむのこと?」
何かミスティア以外にも余計な声が一つ聞こえるな、と妹紅は先刻から思っていたが、
それは思い違いでなかったらしい。今夜は月明かりも出ていない暗夜だったので気付かなかった。
「ああ、そうらしいよ」
ミスティアの肩の上には、例の中れいむ一匹がゆんゆん誇らしげに立っていた。
「れいむはゆっくりれいむだよ!ゆっくりしていってね!!」
お決まりの挨拶を元気よく妹紅に向ける。
「へぇ、人(妖怪)に慣れてるんだねぇ。しかし『れいむ』っていうだけあって、本当に霊夢にそっくりだな」
そう言いながら、妹紅は中れいむの頭をぽんぽんとなでた。
「ゆっゆゆ~!!」
何だかよく分からないが中れいむは満足そうだ。
「霊夢‥、って誰だっけ?前にも何か思い出せそうだったんだけど、脇みせびらかしてる座布団なイメージしか出てこなかった‥、
ダメね、てんで思い出せない」
ミスティアは頭を軽く抱えながら、溜息をついた。喉の上辺りまで出掛かっている気はするのだが。
「気にしないで、それで大体合ってるし」
そう言いながら、何を思ったか妹紅は自分の頭の上に中れいむを乗せる。
「ゆゆ!お空を飛んでるみたい!!」
擬似的とは言え空を飛んでいることに感動したのか、中れいむはきゃぴぃはしゃぎたてた。
「おいおい、思いのほか可愛いわね‥。それより夜雀よ、このゆっくりどうしたの?あんたに随分入れ込んでるみたいだけど」
落ちないように両手で中れいむを支えながら、妹紅は目の前の妖怪少女に尋ねた。
「いやぁ、それが色々複雑な事情が相重なっちゃってねぇ」
「ふぅん、言ってみなよ。聞いてあげてもいいわ」
「そうかい、じゃしょうがない。聞かせてあげようかしら」
頭を掻き苦笑いしながら、ミスティアは語りだした。
もしかしたら誰かに話したかったのかもしれない。
自分とゆっくりの、これまでの不思議な関係を。
これまでは誰とも話す機会のなかった、自分とゆっくりのこれまでの日々を。
♪
謎の生物、ゆっくりたちの家族と遭遇し、
些細なことから大1匹、中2匹を空のかなたへブン投げ、
でも残ったれいむ達には歌を聞かせて喜ばせた。
そんな不思議体験があっと晩。
その翌日から、ミスティアは同じ木の上で歌うことが多くなった。
例のれいむ一家が暮らす巣穴がある木の上だ。もっとも今はミスティアによるぶん投げによって、
その数は半分に減ってしまっていたが。
何を思ったかミスティアは、仕事や狩りを行わない日はいつもその木の上で歌うようになった。
「んーしょ、んーしょ、また来たよ!!ゆっくりさせてね」
「おわっと‥、またあんたか。よくそんな体型でここまで登ってこれるわね‥」
「ゆっくり登れば容易なことだよ!でも疲れたぁ~」
「あーもう言わんこっちゃない。そんな身体が縮むくらい無理しなくてもいいのに」
「ゆゅ~、でもお姉さんの歌近くで聴きたいんだもん!」
「ねぇ‥、今更だけどさぁ。あんた、私のこと恨んでないの?恐くないの?あんたの家族を星のしたのは私よ」
「ゆゆ~ん、確かにそうだけど‥、ちょっと恐いけど、みんなには帰ってきて欲しいけど‥、
でも、れいむはお姉さんの歌好きなんだもん!!しょうがないよね!!」
「ふぅ、呆れた。そう言われちゃうとねぇ。仕方ないか、おいで」
「ゆゆ?」
「ほら、ここならもっとよく聴こえる」
「ゆゅ、たか~い。ここならお姉さんの顔も近くにあるから、す~りす~りできるね!!」
「いや、それは気持ちわるいからよして」
♪
「それで、さっきはあんたの肩の上に乗っていたわけか、こいつ」
妹紅が頭の上の中れいむを指差しながらそう聞いた。
「ゆゅ~、最早あそこはれいむのゆっくりスポットだよ!誰にも渡さないよ!」
何故か聞いてない方の生物が先に答える。
「勝手に決めるな」
厳しく指摘するミスティア。
「私も別に欲しくないよ」
妹紅も冷静に流した。
「ゆ、ゆがぁあああん!!」
♪
少し経ってミスティアはそのいつもの木に登る前に、中れいむを迎えに来るようになった。
ゆっくり達は夕方には大抵巣の中にいるから、わざわざ捜す必要はなかった。
「ゆゅ、こんにちはおねーしゃん!ゆっくちちていってにぇ!!」「ゆっくちー」
「ゆっくりしていってね!!」
「あー、はいはい。ゆっくりしないでとっとと上登るわよ」
別に毎回長い距離を登ってくる中ゆっくりを哀れんだからではない。歌ってる最中に乱入されて歌を中断されるのが嫌だからだ。
他意はない、多分。
「さて、今日はどんな歌を歌おうかしら」
「ゆ!れいむはお星様の歌がいいよ!!」
だが、いつも側に自分の歌を聴いてくれる客がいるということは、存外、悪い気分ではなかった。
♪
「‥‥、良かったねぇ、れいむ。コイツお前のこと愛してるってさ」
妹紅はミスティアを指差しニヤニヤ笑いながられいむに話しかけた。
「ぶぁ、馬鹿!!誰もそんなこと言ってないじゃない!!仕方なくよ、仕方なく。他意はなーいーのー!!」
ミスティアは手をぶんぶん振りムキになって言い返した。
「可愛くてごめんね!!」
じゃん!と、ここぞとばかりにアピールする中れいむ。
「五月蝿い、馬鹿ぁああ!!」
ミスティアの綺麗なアッパーカットが決まった。
妹紅に。
♪
そしてまた暫くして、中れいむはミスティアの歌に合わせて一緒に声を合わせ歌うようになった。
最初はゆっくり歌うことしかできなかった中れいむであったが、好きこそものの上手なれ、だんだんミスティアの歌に合わせるのがうまくなってきた。
「曲がる雷、天を打ち鳴らっせ♪」
「ゆっゆっゆ、ゆっーゆっゆっゆゆゅー♪」
また、木の上で歌うだけでなく、とめどもない会話をする時間も増えていった。
生物と夜雀、その知能レベルに大きな差はないようで、思いのほか会話は弾むことが多かった。
それ以前に、このれいむとミスティアのシンガーとしての波長が合っていたということも大きな理由かもしれない。
「おかーさんとおねーちゃんたちがいなくなっちゃったから、ちびたちのごはんはれいむが集めてるんだよー」
「へぇ、苦労してんのねぇ(こいつ三女だったんだ‥)」
「ごはんを集めるのって大変なんだよー。毎日の重労働でれいむ潰れちゃいそうなんだよー」
「潰れやしないでしょ。いや、饅頭ならそういうことも…、ていうかそういや潰れそうだったわね、一昨日くらい」
「でも、ゆっくり我慢するよ!星になったおかーさんとおねーちゃんが帰ってくるその日まで!」
「ああ、うん、そうねぇ(アイツら生きてるのかしら‥?)」
「ねぇ、お姉さん!!みんな、いつ頃ゆっくり帰ってくるかな!?」
「うう‥、うん、きっと、すぐ帰ってくるんじゃないかな‥」
生意気な生首を星にしたことは後悔してない、だが、このときの笑顔は正直効いた。
胸が少しズキズキした、せっかく忘れかけてたのに。
後にミスティア=ローレライはそう語った。
♪
「‥‥‥、出会いの時の話を聞いたときも思ったが、あんたは本当に酷いやつだなぁ」
半分呆れ、半分からかうように妹紅は淡々と言った。
「う‥、五月蝿いな‥!しょうがないじゃない!!あの時は本当に腹が立ったんだからさ!!」
ミスティアはその発言に対しそっぽを向いて、少し怒ったように返した。
「ふぅん、そっか」
目を逸らすのはミスティアが罪の意識を多少なり感じているからだろう。
普段そんな仕草をしょっちゅうやる相手と長い間付き合っていた妹紅には、それが何となく分かったので、それ以上の追求は避けた。
「それに、私だって何もしてない訳じゃないし」
♪
それからも、もっとたくさんのことがあった。
良心の呵責からか、ミスティアが八目鰻の蒲焼を中れいむ一家に差し入れしたり、
「べ、別にあんた達のためじゃないんだからね!屋台の売れ残りよ!腐ったらもったいないから」
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!」「むーちゃ、むーちゃ、ちあわしぇー!」「ちあわしぇー!」
「‥‥、ああもう卑怯だわ‥!ほんと卑怯だわ‥!とくにちっこいの!」
小れいむ2匹もミスティアの歌を求めて木に登ってきたり、
「ゆっくちのぼゅよ!」「ゆっくちゆっくち」
でもやっぱり無理があって落ちたり、
「ゆゅ、おちてゅ~!おちょらを飛んでるみたい!!」「ゆっくちおちるよ!」
ミスティアに寸前のところで助けられたり、
「馬鹿。ちっこいのに無理すんじゃないの」
「ゅゆ~、ありがちょ、おねーしゃん」「ゆっくちたちゅかったにぇ!!」
でも、木の上から心配して妹たちを見下ろしていた中れいむが、
「ゆぅ、大丈夫かな‥てゆああああああああああああああ」
バランスを崩して木から落ちたり、
「ゆぅううううううううう、重力さんゆっくりしてぇえええええ!!」
「あ‥」
流石のミスティアも突然の自体に救助が遅れ、そのまま地面に激突したり、
「ゆっくりした結果が‥、むぎゃああぁ‥」
「‥‥、死んだ?」
「ゆ、ゅ、ゆ、何とか生きて‥るよ‥」
奇跡の生存を果たしたり、
「ふぅ‥。何気に丈夫よね、あんたら」
「おねーちゃん、ちゅげぇ!」「ゆっくちしゅげぇ!」
そんな平和で他愛も無い日々が続いた。
「違う、発声のときの声は、こうっね、アーーーーーーーーーーーー、ってやるの」
「ゆーーーーーーーーー」「ゅーーーーーー」「ゅっくちーーーーー」
「違うってば、アーーーーーーーーーーー、だって。『ゆ』じゃない」
「ゆーーーーーーーーーーー」「きゅーーーーーー」「りぃーーーーーー」
「「「ゆっくりしていってねーーーーーーーーーーーーーー」」」
「そうか、わざとだな。わざとなんだなお前ら」
気がつけば、ゆっくり達はミスティアの歌のパートナーとして、
ミスティアはゆっくり達の食生活に欠かせない親代わりとして、
それぞれにとって欠かせない存在となっていた。
共生とも寄生とも違う、仲間とも家族とも違う
不思議な絆が二種の間に刻まれつつあった。
しかしミスティアはれいむ達と親しくなればなるほど、
この生物達も存外悪いものではないと思えるようになればなるほど、
いつかこのれいむ達の親姉妹をぶっ飛ばしたことを後ろめたく感じるようになった。
謎の生物とはいえ、この森に生きる命の一つ。どんな生物とはいえ、親がいなければ子には満足な成長も望めない。
今のところ大きな問題が無いのが救いだが、それもいつまで続くか分からない。
ミスティアは夜雀であってゆっくりではない、絶えずつきっきりでれいむ達の面倒を見てやる訳にもいかないのだ。
やっぱり、ゆっくりの面倒はゆっくりが見なくてはならない。自分なんかではない、本当の家族であるゆっくりが。
だから、ミスティアは‥、
♪
「―という訳でね、今現在こいつの家族を絶賛捜索中なのよ」
「さっきまで思いっきり歌いまくってなかったか?」
「細かいことは気にしないでね!!」
ミスティアは語り疲れたのか一旦大きな溜息をついてから、妹紅の顔を見て言う。
「まぁ、そういう訳だからさ。私の方でも時間が空いた時は捜してるし、射命丸にも捜索頼んどいたんだけどさ‥。
手がかりは見つからなくてねぇ。あんたが良ければさ」
「OK、大将。私も捜してやるよ」
ミスティアが全部の台詞を言う前に、妹紅は大きく頷いてそう言った。
そして、ニヤリと笑い、
「その代わり、今度あんたの屋台行く時は目一杯ご馳走になるけど、それでもいい?」
「了-解。あんたがタダで動いてくれるとは思って無かったわよ。その代わり、成功報酬だかんね」
ミスティアはやれやれと首を振りながら答えた。
「お姉さん、ありがとう!!ゆっくり捜してね!!」
れいむも妹紅の頭の上でゆっくり跳ねながら(本当に器用な奴である)、真下にいる少女にお礼を言った。
「ああ、頼りにしてな」
そうしてまた妹紅は頭の上の中れいむを撫で撫でしてあげた。れいむがまた「わきゃー」と気持ち良さそうに身をよじる。
「それはそうと、そろそろ返しなさいよ、ソレ」
ミスティアが右手を差し出して、妹紅に中れいむの返却を求めた。
「おや、夜雀のジェラシーって奴かい?」
「ぶぁ、だから違うわよ!!」
「可愛くてごめんねー!!」
「だから五月蝿い!!」
♪
ずっと続くかに思われた、その平穏。
だが、その平穏を乱す者は確かに、そしてゆっくりと彼女達に迫りつつあった。
明けない夜はない。だが、同じように、夜の来ない一日など絶対に有りはしない。
それが『生』に対する『死』であるならば、
尚更のことだろう。
―同時刻 冥界 白玉楼―
「ねぇ、妖夢」
「何ですか?幽々子様」
台所に立ちトントンと包丁を振るう半人半霊の少女に、この邸の主人、西行寺幽々子はだるそうな口調で話しかけた。
「何か珍しいものが食べたい」
「今日の晩御飯はホッケの塩焼きですよー」
変わらぬ包丁捌きで少女は淡々と答えた。こういったやり取りは手馴れているようだ。
「違うの、そういうんじゃなくてー。もっと普段はとても食べられないような、珍しい味覚を味わいたいのよー」
「味噌汁もついてますよー、あと漬物もー」
淡々とトントンと、同じように少女は答える。
「ねー妖夢、人の話聞いてるのかしら?」
「聞いてます。そんなこと言ったって、珍しいものというものは滅多に手に入らないから珍しいものなんですよ!
そんな食材ここにあったらとっくに幽々子様のお腹の中に収まってます!!! そう‥」
「あの巫女の顔した饅頭みたいに」
「違うわ、妖夢。あれはゆっくりれいむよ。名前は正しく呼ばないと」
「そんなことどっちでもいいですよ。ほら、料理の邪魔ですから、さっさと出て行ってください」
邪魔臭そうに手を払いながら少女は主人を台所から追い払う。
このままここに放置していたら、際限ないつまみ食いを始めて食卓に出る料理の量が半分になってしまう。
そういう主人なのだ、この亡霊は。
「え~。妖夢ったら意地悪ね~。主人がこんなに困ってるのにぃ」
「そんなに食べたいのなら、食材をご自身で調達してきて下さい!幽々子様が何と言おうと今日の晩御飯はホッケです!塩焼きです!」
少女は断とした態度を崩さない。もしかしたらホッケの塩焼きが好きなのかもしれない。
「ん~‥。そんな珍しいものなんて‥あ、そうだ!」
「確かあのゆっくりれいむ、夜雀に襲われたって言ってたわよねー」
「そうなんですかー?私は聞いてませんよ」
「そして、自分の巣は人間の里に続く、人が通らなくなった廃道にあるとも言っていたわー」
「それも私は聞いていません。いつ聞いたんです?まぁ、夕食前なんだからそんな出歩くような真似は控えて‥」
「…………………」
「幽々子様、どうしたんですか? 急に黙りこくっちゃって。幽々子様―?」
少女は振り返り主人に対し呼びかけた。
しかし返事はない。
少女は無言で台所から出て、周りを見渡す。
しんとした廊下。
もう日が沈んだというのに明かりのついていない居間。
辺りを漂う無数の幽霊。
その空気は少女にこう告げていた。
『亡霊の姫はドロンしました。幽霊なだけにね!!」
「‥‥‥ああもう!!やってられないこの職場!!!」
涙目になりながら、少女は頭を抱えてうずくまった。
ホッケ‥、せっかく焼いてるのに‥、どうしよう‥。
「あまり、お腹いっぱいにならないうちに返ってきて下さいよ、幽々子様‥」
書いた人:かぐもこジャスティスの人
最終更新:2009年04月05日 11:06