※前半ちょっとしたホラーです
※舞台は海外(多分)
※拙作「
あややと私」を見てからだとなお解りやすいかもしれません
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大学2年の頃の話だ。
今の年代も聞いたことがあるかもしれんが、ちょうどキャンパスの裏手の山から、「野良人間」が発見されてな。
聞いたことなかったか?野良猫や野良犬って言葉は知ってると思うが、それと同じ「野良人間」だよ。
いや、「野人(のびと)」って言った方がいいか。ホームレスって訳じゃない。野山で、普通の人間が生活していた訳なんだが、
文化的な住居や道具は持たないで(かろうじて服は着ていたらしいけど)寝泊りしてたんだそうな。食い扶持は自分で何とか動物
を捕まえるなり、そこら辺に生えてるもので何とかしていたらしいが、昼ごはんだけ「餌付け」されてた、という事実が大きく
取りざたされてなあ
誰にって――――――きめら丸にだよ。知らない話かね?
その町でゴルフ教室を営んでた奴だ。調べてみると、元々その「野人」が「ペット」としていたらしい。何でこんな関係になっ
たかを聞いてみたら、
「最初はきめら丸を山に捨てるつもりで山に登ったが、気がついたら自分が捨てられていた。一緒に野ゆっくりと野人になろう
と持ちかけたが、拒否されて、自分がよく食事を分けてもらうようになった」
「最初は彼を引取ってもらおうと思っていたんだが駄目だった。仕方がないので、豊かな自然と、比較的安全なあの山で暮らし
てもらうことにした」
と、こんな驚くべき証言が返ってきたんだよ。
まあ、この後「人間とゆっくりの関係について」と、極端な愛護派と排除派の不毛な論争が、右翼や左翼も参加して延々と続いた
訳だが、そんな事はどうでもいい。
当時としちゃ、自然と関心が集まった訳だ
「ゆっくりって、何の生物なのか?」
ってな。
わしが居た大学じゃ、悪く言えば、トレンドになった。「ゆっくりとは何か?」というテーマに絡めてレポートを書くのがだ。わ
しも書いたよ。中には本当に考えている奴もいたが、ポーズとして考えている振りをしている奴も多かった。かくいうわしもその一
だったさ。
しかし、わしは生物科だった。
文系の様に、観念論でごまかすわけにもいかん。
周りの面々とそれらしい表現や一応の考察ができないものか、始終話していた。端から見れば、ゆっくりに対して真摯に考えている
学生達に見えていただろう。
知っての通り、「ゆっくり生物学」っ分野は今まであるにはあったが、資料自体が殆ど無い。講義に使うのも大抵一冊あれば事足り
るし、講師もあまり真剣じゃない―――――これは今でもそうだろうな。
で、休憩室のベンチでコーヒーでも啜りながら、その日は他の友達と話していた。
ゆっくりって何の生物なんだろう?難に分類されるんだろう?―――――――――というか、それらしく、ちゃんと考えているふり
が上手くできる書き方や考え方って無いだろうか?―――――とな。
実際の構造なんぞどうでもいい。こっちに都合がよければ、さ。
そんな時に一人が言った
「そういや、ゆっくりってどうやって増えるんだ?」
それはそうだ。
生殖の方法によって、少なくとも何類かまでは解るだろう。しかし、今更そんな事を聞いてくるとは。物を知らない奴がいたも
んだと皆で教えてやったんだよ
「茎が生えてその先に赤ちゃんが実るんじゃない。常識的に考えて」
「胎生だよアホ。一人につき一人しか生まれないよ」
「卵生って本気で知らないの?」
「でかくないと生まれないんだよ。大きいと一度に4人ぐらい、顎の下からむにむに這い出てくる。きもいんだこれが」
「そうそう!!一度に9000個くらい産むんだけど、孵化するのが3個だけなんだよねー」
ほぼ一致せん。
人の数だけ生殖方法がある?
そんな訳があるか。
チョウザメみたいに、腹の中で卵を温めて、ある程度成長してから母体から出てくる、って説もあったが、胎生と、「実」
として「生える」ってのとは雲泥の差がある。
とりあえず「地面から発生して、うーぱっくかれみりゃが運んでくる」って話は最初から無視して、その場でまとめてみた
んだが、似たような意見があっても、微妙に違う(卵生だと、鳥のように固い殻で生まれて来る説と、魚みたいに極端な数の脆
弱な卵を産んで、少ししか生き残らないとか、な)。
何でこんなにばらけるのかと不思議に思ったが、もう一つ気がついたわ
実際に目撃した奴がいないんだ。
胎生を推している奴が言った
「カナダの『漉し餡分裂』っていう前衛映画で見た。主人公が『想像しえる限りの残虐行為』を仕出かそうと決めて、知り合い
のゆっくりの出産を手伝う振りをして、れいむのリボンの間から出てくる赤ん坊の舌を生まれた瞬間に引き抜いて殺すんだ」
卵生を推している奴も言った
「ドキュメンタリーとかでよくある――――いや、その手のコミックとかでかな?『GOBLINMAN』で、飼いゆっくりが1万個くらい
産むんだけど――――アザラシに食い荒らされて、一人だけ生き残って成長した、って設定だろあれ」
茎に実るって奴等も言う――――これが一番多かった
「交尾すると、している間に生えて来るんだよ。3人。根に近い所ほど栄養が行き渡るし、先端の子は死亡率が高い」
「いや、3日はかかるはずだ。生えてきかけた所を直ぐに刈り取られるシーンが、『西ドイツ第3ゆっくり加工所』にあっただろ」
「直ぐに生えて赤ん坊は2週間はぶら下がってるんだよ。それをもぎ取って食べるシーンってよくあるじゃん。映画でさ」
胎生は胎生でバラエティに富む
「リボンの間からなんてことあるか。『GOBLINMAN』で、顎の下から這い出てくる話があっただろ」
「だから、あのコミックは卵生設定だって。馬鹿か」
「顎かあれ?にんっしんすると胴に近いくらいナメクジ体系になるから、その時できる『下腹部』から出て来るんだよ」
「『西ドイツ第3ゆっくり加工所』で、頭出した瞬間に思い切り………」
「『西ドイツ第3ゆっくり加工所』は茎だって言ったじゃん」
「それは3rdシーズンだ。4thシーズンだと大体胎生でゴロゴロ産んでる」
「体つきは、ちゃんと下半身からだよな」
「いや、胴体があっても顎から出てくるだろ普通」
大抵の奴は、フィクションからでしか知識が無いんだ。
それも、微妙にホラーやアングラ系からの知識が多い。
わしも「茎派」だったが、それというのも、『ゆっくり・くるせいだーず』の2ndアルバムのジャケットに、茎から伸びている赤ちゃん
達のイラストがあったから、それとなく思い込んでいただけに過ぎん。
早速「ゆっくり生物学」のテキストをめくったが、肝心なところがまるで抜けている。よくこれで「生物学」としての教科書の体裁
を保っていられるものだ(種族別の好きな食べ物やアーティストの好みとか、そんなものばかりだった)。
「――――って、何でこんな所で言い争ってるんだ?」
そう
本人達に聞けばいい
どうもここら辺には理系のゆっくりが少なかったからな。
ちなみに実家の方に行けばかなりゆっくりの友達も多かったが、その大学じゃ中々作れなかった。連中が文系に固まってた、ってこと
もあるんだろう。
だから、わざわざ知り合いの知り合いを伝って、文学部にまで行ったよ
+++++
私はやまめ。
黒谷やまめ。あの子はきすめ。
いつも間違えられるけど、わたしはやまめ。どこにでもいるごく普通のゆっくりだよ
幼稚園から、学校もずっといっしょだったわたしときすめ。
何のトラウマがあるのかわからないけど、常になにかの容器に入り込んでいるきすめは、みんなに覚えられたわ。かわいいわよね。
私はおいしいところを、ぜんぶあの子にもっていかれたの。
そんなことはきにしなかったんだけど、名前を間違えられるのはやっぱりかなしいの。
しっとなんかしないわ。
でもね………
=====
俺たちはとんでもない事を見落としていたのかもしれない
まず「キスメ」をローマ字に直す 「KISUME」
次に「KISU」の部分を発音が同じ「KISS」に変える 「KISSME」
そして「ME」の前にスペースを入れる事で浮かび上がってくる文章、それは…
_人人人人人人人人人人人_
> KISS ME!!! <
^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^YY^^Y ̄
=====
なんて人間から言われるのに対して、
=====
な、なんだってー
という事は、良く混同される黒谷ヤマメもローマ字で書けば「YAMAME」
これは「YA + MAME」の合成語である事は明らかだ
「YA(young adult ヤングアダルト ((十代後半の青少年) 肉刺(まめ;手足の
皮膚が他の物とこすれてできる水ぶくれ)」
「若者の脚部の摩擦」
と、頭部に近い部位である口唇の摩擦を意味する「キスメ」とは対を成してい
る事になる
キスメとヤマメ―――この二つは陰陽の如く対の存在だったのか
間違いない、人類は滅亡する!
=====
――――なんて
もうね
でも、わたしはそんなことでじぼうじきになったり、「妬ましい」なんてわめいたりしないわ(既にやってる娘がいるし…)。
腹黒な工作もしない
___,∧"´:ト-、 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄Y
>,ゝ/ヽ、ノ::V:::_」∠::::7ァ_>ァ、 _,,.. -――C○ィ )  ̄ ̄\
.,:'ィiヽ':::_>''"´  ̄ `ヽ!, // ̄ヽ ゝ○o _ ヽ
/ キア'" ', 、`フ Y //\ / \`L_ ',
,イ / / ,ハ! / ! _!_ i ! Y .,' / ゝ、__,..-、\  ̄`i う) i
'、!,イ ,' /´___!_ i ハ _ノ_`ハ/ ノ | / i イ ,ヘ ヽ \ ` し' |
ノ ', レ、 !ァ´ノ_」_ノレ' レ' ソ`Y i、( ゝ、| 斗jナ ル ヽ、ナ‐- ',ヽ、 ハ ! \
( ソ'´ Vi ■■■■■■■ハヘノ' T{∧{■■■■■■■i} リ `T ‐ヽ
y'´ ! !. '" ,___, "'ノノハ _ノ ム!"" ,___, ""/ !_」
,' ! , ヽ、_,ゝ'"'" ヽ _ン '"',ハ ! ゝ._ノ人 ヽ _ン ∠ノ |
'、 ゝ、ノ )ハゝ、, ,..イノ ソ `ー‐ >, 、 _,. <_Z_ /ノ/
`ヽ(ゝ/)ヽ,ノイi,` ''=ー=':i´ノ´ンノ / ̄_ヽ`ー-一'イ==≠二
じゃあ、どうやってたまりにたまったうっぷんをはらしているかって?
それはね………
+++++
と、言う訳で、授業前だというのに、机の上でガツガツと昼食のサンドウィッチを貪っているまりさの一人に聞いたのだよ
「まりささん」
「ゆっ?」
「ちょっと聞きづらいんだけど」
――ゆっくりってどうやって子供を作るのかな?
――勿論研究の為に、参考として聞かせてもらいたいんだ。
丁寧に言ったよ。
しかし、まりさは半眼になり、横目でこちらを睨みながら無言でサンドウィッチをかきこむと、敷いたナプキンにぺっと唾
を吐いてその場を去ってしまった。
「可憐な乙女に子供の作り方聞くとか、マジひくわー」
そりゃそうだ。
仕方ないから、ちゃんと話したことも多い、社会部のありすがいたんで、皆で聞きに言った。
「やあ、ありすさん。―――お、この新しいカチューシャ良いっすねえー!」
「ありがとうー!」
「とっても都会派!!」
「ゆゅぅ…………解ってるわね!!!」
「ところでさ、研究で調べてるんだけど………ゆっくりの生殖方法って、少し教えてくれない?」
「…………………」
「…………………」
「可憐な乙女に子供の作り方聞くとか、マジひくわー」
その後何人かにも聞いたが駄目だった。
仕方ないから、行きつけの喫茶店の店員にも聞いてみた。あんまり邪険には扱われなかったが、最初にはやっぱり
「可憐な乙女に子供の作り方聞くとか、マジひくわー」が出て、それからもう少し粘ると
「え~?何々?聞いちゃうの?思春期なの?セクハラなの?」
とやたら笑顔で照れながら返して来た。
順序が逆だ。
最初にそうして照れて見せて、その後しつこく聞かれてから怒ればいいものを…………
もう少し粘ってみると、その内聞こえない振りを始めた。
「何?赤ちゃん?赤ちゃんなんてどこにも見えないよ?何言ってるの?」
と、来たもんだ。
何というか、これが実はゆっくりの習性の一つなんじゃないかと思うんだ。
探したら、大学に資料が残っていたよ
ほれ、このDVDじゃ
======= VTR START ======
研究員 「れみりゃさん、教えてください。あなた達ゆっくりは、どのような形で子供を作り、種を保存しているのですか?」
れみりゃ 「う~?」
研究員 「教えていただけませんか。今後の研究のためです」
れみりゃ 「そんなこと、恥ずかしくて教えられないぞぉ~」
研究員 「お願いしますよ」
れみりゃ 「いやぁ~ん~ はぁずかしいぞぉお~ れみぃの口からは、いえないぞー」
研究員 「真面目に聞いてください。何も嫌がらせで質問している訳ではありません」
れみりゃ 「そんなこといったってぇ」
研究員 「……………」
れみりゃ 「かれんなおとめにこどものつくりかたとか、まじひくぞぉ~」
研究員 「ねぇ~ん~ そんな事言わずに教えてほしいぞぉ~」
れみりゃ 「うー!うー!」
研究員 「うー!うー!」
れみりゃ 「う、う……うー!?」
研究員 「恥かしがらないでぇ~ 教えてほしいんだぞぉ~」
れみりゃ 「でも、きいちゃうの~?ししゅんきなの?せくはらだぞー、それ」
研究員 「おしえてほしいぞ~」
れみりゃ 「うー!うー!」
研究員 「うー!」
れみりゃ 「………………………………」
研究員 「うー!」
れみりゃ 「………………………………」
研究員 「ねえ、お…………………………………」
れみりゃ 「………………………しつこいわね」
研究員 「u……………………………………………………………………」
れみりゃ 「さっきから何よ、こっちが嫌がっていることを何度も聞いてきて。何かしら?あなた達人間は、平気でゆっくり相手に
自分達の性行為の方法について、堂々と正しく質問する事ができるの?それが恥かしくないのかしら?」
研究員 「ええ、その…………」
れみりゃ 「誰だって聞かれたくないことがあるでしょう。学問のため?発展のため?それが何にでも通じる免罪符だと思ったら
大間違いよ。それに、そこから得た知識を何に応用するのか、私にここで最初から説明できて?」
研究員 「………………………………」
れみりゃ 「勝手な好奇心をおしつけないでちょうだい。それから、ゆっくりを馬鹿にしないで」
研究員 「………………………………………………」
れみりゃ 「あなた達が嫌な事は、私達も嫌なのよ」
研究員 「………………………あ………………………あ………………………うぅ…………」
れみりゃ 「うー?」
研究員 「………………………うー………………………」
れみりゃ 「うーっ!!!」
研究員 「うーっ!!!」
れみりゃ 「うーっ!!うーっ!!」
研究員 「うーっ!!うーっ!!」
れみりゃ 「うーっ!!うーっ!!」
研究員 「うーっ!!うーっ!!」
======= END ======
――――可哀想に……………………この後、彼は入院してしまい、それからこの分野には戻れなくなったそうだ。
今は、ボーリング場で働いておる
さて、直接聞く相手が大体いなくなったので、わしは師匠に訪れる事にした。所属していたゼミの教授だ。コーヒーもって向かったよ。
師匠は流石に大学内にTENGAを持ち込むのは憚られたのか、コーヒーカップに入り込んでゆっくりしていた。
「君から来るのは久しぶりだな」
「先生。教えてほしいんです」
――――そう、先生はゆっくりすいかだったんだな。
流石に大学で生物学教えて飯食ってる相手だから、「恥かしい」だの「言いたくない」だのとは言わんだろうと踏んだんだ。
「改まって何かね?」
「ゆっくりの生殖方法についてなのですが………」
「可憐な乙女に子供の作り方聞くとか、マジひくわー」
変わらなかった。
まあ、あれだ。いかに普段は理路整然とした研究者だったとしても、絶対に通じない、やってはいけない宗教上のタブーなどが
人間にもあるだろう。それが、ゆっくり達にとってはあの質問だったんじゃないかと思うんだ。
しかし、先生はやっぱり先生だった。
落ち込んで肩を落とすわしに、優しく笑いながら聞いてくれた
「そんな事を聞いてどうするつもりかね?」
「ゆっくり、という生物自体は一体何なのかを考えておりまして…………」
「今流行のテーマだね。さしずめ、レポートのとってつけのネタの一つにでもするつもりだろう」
見抜かれておったよ。それでも先生は
「まあ、興味を持つのは良い事だ。愛の反対は憎しみではなく、無関心だというからな」
「先生、僕は何を見れば…………どこかに野生にゆっくりなどはいないでしょうか?」
「『野生のゆっくり』だって?」
先生はクスクスと笑い始めた
「久々に聞いたな、その単語は。確かに、一昔前―――50年も前なら、そんな単語もしっくりきただろう」
「と、いうと?」
「野生のゆっくりが見たいかね」
カップから出ると、まだ濡れているのに、ノートの上にまたがって先生は両手でペンを持ってガリガリと何かを書き始めた
「この場所へ行きたまえ。まだ、『野生のゆっくり』というものが残っている」
そこは、特に昔の自然が残っているというわけでもない――――ちょっとした郊外に過ぎなかったんだ
最終更新:2009年01月20日 22:42