「おおーい! ケーキ買って来てやったぞ!!!」
朝方、チラッと頭を過ぎった事を夕方まで覚えていた俺は、きちっとケーキを買って家に急いだ。
「おにーさんおかえりなさい!!
ゆっくりできるね!!!」
てっきり真っ先にケーキケーキと騒ぎ立てるかと思ったが、それよりも俺の事を気遣ってくれたらしい。
嬉しいことには変わり無いが、なんとなく虚しい。
「はら!! ケーキ買って来てやったんだからこっちにも反応しろよ」
目の前でケーキの箱をチラチラと動かす。
「ゆゆ!! おにーさんありがとうね!!!」
いっぱしの野良ゆっくりは振り子のようにそれに合わせて目を動かすんだが、コイツは至って普通の反応。
まぁ、そんな反応を示したら、俺が拾う前に駆除されてたけどな。
「お前なー、もうちょっと反応しろよ!!」
「ゆ? れいむはとってもうれしいよ?」
訳が分からない、とでも言うように首ならぬ頭を傾げる霊夢。
「俺が言いたいのは。うれしい!! ……あっ、これ私が大好きなモンブラン……。○○さん、私が好きなもの知ってたんですか! 嬉しいです!! っていう反応だよ!!」
「ゆ?」
「……。いや、今のは忘れろ!! そのゆっくりブレインですっきり今すぐ忘れろ!!」
何口走ってんだ? 俺。
「わかったよ!! でもおにーさん、あしたはおやすみでしょ!! きょうはさきにおふろにはいろうね!!」
そういえば、休みの時は先に風呂に入ってたなぁ。
「おし! 今沸かすからちょっとまってろ」
「うん!! ゆっくりまってるね!!!」
蛇口をひねって数分、そこには草津も東山もびっくりの温泉が!!
うん、ただ入浴剤を入れただけなんだけどね。
てか、東山ってどこ?
「おし!! おーいれーむ!! おれはさきにはいってるぞーーー!!!」
「ゆっくりまっててね!!!」
バタバタと脱衣所まで飛び跳ねてきた。
そのままバタバタと服が脱がないで入ってくる。
「○○さん……。その、じろじろ見ないでください。え? その……司書服は結構帰させを……」
「おにーさん!! ゆっくりはいるからお湯をかけてね!!」
……。
「ほら」
「!! おにーさん!! これおみずだよ!!! つべたいよ!!!」
「しってるぞ。わざとだ!!」
「ゆゆ!! わるいおにーさんはこうだよ!!」
ばっしゃーーん!!!
勢いよくふろに飛び込んできやがった。
「ゆ!! ゆゆ!!」
「うわっぷ!! わかったよ!! おれにまけだ、あやまるよ」
「すっきりーーー!!」
くそ、今度寿司に練り辛子入れてやる。
「おにーさん!! はやくからだあらっておうたをうたおうね!!!」
「あーーー。そうだな、よしこっちこいゆっくりはやく洗ってやるぞ!!」
「ゆゆ♪」
霊夢の体を洗った後、自分の体も洗い終えた俺たちは、再び浴槽に入り込んだ。
「きょうは何を歌う?」
「ゆ~~……!! かもめが翔んだ日うたいたいよ!!」
「よっしゃ!! いくぞ!!」
「ゆ!!!」
……
少し逆上せてしまったが、風呂で気分よく歌えたのでよしとしよう。
「おにーさんいいおゆだったね!!!」
「そうだな。ちゃっちゃと飯食うぞ。その後はお待ちかねのケーキだ!!」
「ゆゆ!! おにーさんれーむはけーきたべたいよ!! でもおにーさんのごはんもいっぱいたべたいよ!!!」
ははは、それも作戦だ。
せいぜい腹いっぱい食って苦しみやがれ。
「お前なら十分食えるだろ? ほら、直ぐに作ってやるからテーブルの上片付けとけ!」
「ゆゆ!!」
昼間、遊んでいたボールやら、人形を片付けているのをちら見して、俺は自慢の料理を作る事にした。
今日の夕食はオムライス。
それにサラダ、かぼちゃスープだ。
「ほら、おにーさん渾身の料理の数々だ。心して食え」
「ゆ~~♪ いただきまーーす!!!」
もぐもぐと五十センチはあろうかというオムライスを勢いよく食べていく霊夢。
「!! うぐぐ……!!」
あーー馬鹿だ、喉に引っ掛けやがった。
「ほら、水」
コップに水を汲み勢いよく流し込ませる。
「……ぷはぁ!! ゆーー!! びっくりしたよ!!」
ペチン
「ゆ!!」
「いそいで食うからだ。もっとゆっくり食え!!」
「おにーさんのりょうりが……」
「分かってるよ。でもお前は急ぎすぎだ!」
「ゆーーきおつけるよ!!!」
うん。分かれば良いんだ。
純粋だなァ、そんなに勢いよくがっつい、て……。
「ゆゆゆ!!! うぐ……」
はぁ……。
ペッチーン
――
「ゆーあたまがいたいよ!!」
「お前が急いで食うからだ、昼間だったどうするんだそのまま天国に行っちまうぞ?」
「大丈夫だよ!!!」
ん? えらい自信だな。
「どうして?」
「おひるはゆっくりたべてるよ!! でも、おゆうはんはおにーさんがつくったりょうりがおいしいってわかってほしいからいそいでたべてるんだよ!!!」
へー。こいつなりに色々考えてるんだな。
「わかったよ。でも、もう少しゆっくり食べろ。毎回水を取りに行ってたんじゃ俺がゆっくり食えない」
「うん!! こんどからはゆっくりたべるよ!!」
本当かぁ?
「まあ良い。それより、お待ちかねのケーキだぞ!!」
デン。
とテーブルにデコレーションモンブランを登場させる。
「ゆーーー!!!」
あまりの大きさに言葉も出ないか。
「どうだ? 美味しそうだろ?」
「うん!! おにーさんれーむははやくたべたいよ!! きってちょーだい!!」
「オーケーちょっと待ってろ」
慣れた手つきで切り分けてゆく。
伊達に仕事先でケーキきってるわけじゃないぜ。
「ほら! 召し上がれ」
四分の一ほどを切り取ってやり霊夢の前へ。
「いただきまーす♪」
先ほどの言葉は本当だったようで、ゆっくりとケーキを食べていく霊夢。
「本当にゆっくり食べてるな」
自分の分を食いながら、ふと思った事を霊夢に問いかける。
「うん。それに、おにーさんのつくってくれたけーきのほうがおいしいから、もっとゆっくりたべてるんだよ!!!」
げんきんな奴だ。
「そうか、じゃあもうケーキは買ってきてやらん!!」
「ゆゆ!! どーしてーー!! けーきもっとたべらいよ!!」
「俺が作ってやるからだ。文句あるか?」
「!! ないよ!! れーむもんくないよ!!!」
ひまわりの様な笑顔で喜ぶ霊夢。
口の周りにクリームが付いているのもご愛嬌だ。
「ゆゆ! おにーさんおかわり!!」
「はや!!!」
――
明日は休みだが、今日は早く寝る事にした。
霊夢と遊ぶためじゃないぞ、新メニューの開発のためだ。
「ゆゆ!! おにーさんなにかおはなししてね!!」
めんどくせー。
「金色の闇とイヴのそれぞれの性格の違いの話でいいか?」
「ゆ? なにそれわからないよ?」
俺も話してやるつもりは無い。
「じゃあこんな話はどうだ?」
「ゆゆ!! どんなおはなし」
「あるところに、生まれつき記憶力に障害を持った女の子が居ました。その子は幼いときに両親に……」
全てを話し終える前に、俺も霊夢も寝オチしてしまった。
翌日、予定通りに新メニューの開発を行う。
「よし、霊夢これはどうだ?」
「ゆゆ!! おいしーよ!!!」
「こっちは?」
「これもおいしーよ!!」
「……じゃあこれは?」
「とってもおいしーよ!!」
ペチン
「ゆ!」
「嘘つくな、今のは唯の重曹だ」
「ゆ~~。だっておにーさんが作るりょーりはおいしいんだもん」
「それは嬉しいんだけどな。これは店で出すものだから、もうちょっと詳しく教えろ。塩加減とか」
「ゆゆ!! 分かったよ!!」
「よし、じゃあこれからだ!!」
……。
それからは全ての料理を出し終えるまで霊夢は美味しい美味しいと言い続けていた。
当然だ、それは完成した新メニューだからな。
不味いものは入っていない。
「どうだ? おいしかったか?」
「うん!! とってもおいしかったよ!! これならおうちにだれをよんでもゆっくりしてもらえるよ!!!」
ふふふ、ばーか俺がそんな男に見えるか。
良いか? 俺が呼ぶのは紅魔館の司書さんか薬売りのウサギさんだ。
しかも、ただ食事を作るだけじゃない。
「ほら、朝飯つくったぞ!!」
「んーー。おはようごじゃいますーー○○さん……」
「おいおい寝癖酷いぞ。ちゃんと髪梳かしてこいよ」
「んーーおいしい。○○さんが梳かしてーー♪」
そう言って、朝食を食べながら彼女の髪を梳かしてだな……。
「うぐ!!! ゆゆゆ……」
……?
「ゆ!! ぐぐぐぐ!!!!」
……はぁ。
「ほら!!」
「ゆぐぐ!! ……ゆ~♪」
ペチン
「ゆ!!」
「急いで食うなって言ったろが!」
「ごめんなさい。でもね!!」
ん?
「きょうはいっぱいおいしーのがたべれて、しあわせーーー!!!!」
そうかい。
幸せそうな所残念だが、当分こんな思いはできないぞ。
量は多くしてやるが、明日からはまた腕によりをかけた質の料理だからな。
俺は、食器を片付けながら、今日の夕飯のメニューを考えていた。
そうだ、カレーにしよう。
To be next