早苗ちゃんとゆっくりピクニック!

私は日頃楽しみにしている事があります。年頃の女の子なら誰もが関心を抱くはず、もう分かりますね?

「今日のおっやつはカッスタードぉ! ふっふー♪」

そう、甘い甘いお菓子です! 私は日々これだけを楽しみに生きていると言っても過言では無いでしょう! 
さらに、今日のプリンはただのプリンではありません! 町の人気甘味屋で一日50個限定のカスタードプリンなのです!!!
ああ、ああ! 楽しみだなぁ!

「んっふっふ、キーングゲーイナー♪ っと…、あ。お茶、忘れてた!」

これはいけません! 甘い物と言ったらお茶、お茶と言ったら甘い物と二人は切っても切れない関係なのです!
私は急いでお茶を用意すべくカスタードプリンを居間のちゃぶ台に置き、台所へ向かいます。

「んもう、私ったらせっかちさん。でも、仕方ないよね。プリンが待ってるんだもんっ!」

普段絶対に言わない様な独り言をバンバン言っているのもプリンの効力でしょうか、世の中のパティシエさんはひょっとしたら魔法使いを凌駕出来るのでは無いでしょうか、うむむ…!

「まっ、今はプリン! 一日冷やして置いたプリンちゃん、待っててね~! 早苗お姉さんが暖かく迎えてあげるからね~! あ、そうだ! プッチンするためのお皿も持っていかないと!」

あの時、なんで最悪の想定を怠っていたのか、自分でも馬鹿だなあと思います。
せめて、1分でも! 30秒前の自分に一言告げられるとしたら! 
私は言うでしょう、『油断すんな!』と!
…私はお茶とお皿を持ちつつ浮足立って居間へと向かいました、その時です!

「さあ、お食べなさい!!!」

そこにはちゃぶ台の上で無駄に大きく構えて眉を吊り上げているゆっくりのれーむと、隣には見るも無惨に食い散らかされたカスタードプリンの容器が転がっています。
れーむの頬には器用にプリンの食べカスが付いていました。



「ゆ゛う゛う゛う゛、ゆ゛る゛し゛て゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!゛!゛!゛」

「駄目。許しません。後3時間はこのままですっ」

「も゛う゛や゛り゛ま゛せ゛ん゛か゛ら゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

私は寝室で寝っ転がっています、いわゆるふて寝です。
いつ買えるかわからない限定のカスタードプリン、せっかく手に入ったと思ったのに、何なんだお前は! もう!
余りの怒りから今日一日れーむを枕代わりに使う事を決めました。これくらいの罰は、ね?
いやあ、それにしても! たまりませんなあこの感触!
モチモチのぷにぷにのぎゅっ! バレーボール大の大きさがほどよく頭にフィットして、一日中抱き締めていても飽きませんよ!
寝返りを打った振りをして頬擦りなりキスなりできますし、ほのかに餡子の甘い匂いが鼻をくすぐって、いい枕ですよれーむは!

「…仕方ない、少し力を緩めるとしますか」

「ゆっ、やっと解放されたよ! おねーさん実はれーむが近くにいてドキドキする感情を隠す為にれーむに当たってるんでしょ、ツンデレねぇ~。どう、ムラムラする?」

お前は隙あらばそっちに誘導しようとしますが、私はその手には乗りませんよ!

「なんだ。おねーさんのケチ。お腹ぶよぶよ」

私は枕が当たっている頭部に思いきり力を込めて、自分の全体重をれーむに押し付けます。

「ゆ゛う゛う゛う゛、ゆ゛る゛し゛て゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!゛!゛!゛」

そうして冒頭に戻るわけです。れーむが泣いている理由はれーむ自身が調子に乗ったからであって、決して私が枕にしたから泣いているという訳ではありません。
もしそうだったら大分ショックです、私。

「…。れーむ、お前はどうしてれーむなのですか?」

「? どうしたのおねーさん、気でも触れたの?」

サラッと酷い事を言われましたが、こんな事でくじける私ではありません。

「いや、質問の仕方をちょっと格好つけてみたのですが、その結果がこれですね。れーむ以外に、れーむの様な饅頭はいますか?」

「ゆっ! いっぱいいるよ! お友達のまりさとか、おかーさんだとか!」

「ふうん、そうですか…」

私はれーむで頭をふにんふにんと押し付けては跳ね返りながら、まどろんでいて思考がやや遅くなっている脳で考えます。

「…今日。れーむがもし良ければですが、ピクニックにいきませんか?」

「ゆっ? れーむは別にいいけど、急にどうしたの?」

「いや、単に行きたかったですよ。ついでにれーむの仲間達に挨拶をするのもいいかなって。さあ、決まったなら行きましょう! 目指すはあの丘ですよ!」

私はすくりと立ち上がり、れーむを抱えて玄関に向かいます!

「ゆうっ!? おねーさん、ゆっくりしていこうよ!」

「駄目です! 私は『急がば回れ』と言う言葉よりも『善は急げ』と言う言葉の方が好きなんです!」

「そんな、横暴な、殺生な! まるで下に立つ人の事を考えて無いよ、なんて無責任な! かぁー、これだから最近の若者は駄目なんだ! もっとれーむ達の事を労ったっていいんじゃないの!?」

「置いて行きますよ」

「是非ともご一緒させてください」

私はピクニックの準備をするべく昼食のサンドイッチをサッと作り、家具部屋から持ってきたバスケットの中に入れます。
レジャーシートも持ったし、こんなものでしょう! 私とれーむは玄関を出て、近くの原っぱへと向かいました。



「ゆうっ! ちょうちょさんが舞っているよ! 待って~!」

雪も溶け、季節はすっかり春に近付いて来ました。
少し前までは湖は雪一面で覆われていたはずなのに、今では日射しが暑いくらいです。
私たちは、紅魔館前の湖にやってきました。

「れーむ、余りはしゃぎすぎると湖に落っこちますよ」

「ゆうっ! れーむはそんなおっちょこちょいじゃないよ、平気だもん…、ゆ゛っ!?」

ほら、言わんこっちゃ無い! 
ちょうちょを追い掛けるのに夢中で前を見ていなかったれーむはちょうちょが湖に行った事に気が付かず、すってんころりんと可愛らしく湖に落ちていきました。
しかし、れーむにとって水に落ちるなんて死活問題のようで、れーむは『やばい! ゆっくりできない!! おねーさん助けて!!!』と懇願しています。
全く、私がみていなかったらどうなってたことやら!
私はタオルを持って湖に溺れている(つもりでしょうが私にはプカプカ浮かんでいる様にしか見えません。水の幅もれーむの口ほどにもありません)れーむを抱え、手に持っているタオルでれーむを優しく拭いてあげます。
まあ、饅頭ですし。浸っているだけでも重症になるのでしょう。れーむはくすぐったそうに目を細めて体をよじりながらタオルに体を擦りつけています。
れーむから水っけが無くなったら、れーむは『ありがとうおねーさん!』と大きな声で叫び、今度は原っぱに咲いているつくしに興味を持ったのかぴょんぴょん跳ねてつくしに向かって行きました。
可愛いなあ、もう!

「れーむ! 遊びたい気持ちはわかりますが、ご飯にしましょう! さっきれーむが私のプリンを食べちゃったから、私のお腹がペコペコですよ」

「ゆうっ! ご飯だあ! 何を作って来たの?」

「今日はサンドイッチです。お前が沢山食べるから、多目に作ってきましたよ」

先程サッと作ったと言いましたが、それでも沢山サンドイッチを作って来ました。具体的に言うと、私一人ではまず食べきれない量です。
れーむと二人でも無理かも。じゃあ、なんでそんなに作ってきたか?

「ゆっ! ゆっくりしていくんだぜ! おねーさん、私もご一緒させて欲しいんだぜ!」

ほら、きた! れーむ以上に神出鬼没なこいつ、まりさ! 
恐らく家にいてもいつの間にかいただろうし、ピクニックに来ていても来るんじゃないかと踏んだ結果がこれです。ドンピシャです!

「ええ、いいですよ。お前も来るだろうと思って、多目に作ってきましたので」

「ゆっ、ありがとうおねーさん! 太っ腹!」

「ゆゆっ、駄目だよまりさそんな事を言っちゃ! おねーさんは本当に太っ腹なんだから!」

私は何も言わず無言でれーむの頭にゲンコツを落としました。

「ゆう、本当に太っ腹なのか? でも、わたしはぽっちゃりめの方が好きだぜ! おねーさん!」

どう反応すればいいのかわからない微妙なフォローを貰いましたが、まあ誉め言葉として受け取っておきましょう。

「…ゆふっ。そうだ、れーむ! あれをやろう!」

「えー、あれ? いいよ、やろっか!」

抽象語を使われて何がなんだかさっぱり事情を呑み込めませんでしたが、れーむたちが言っていた『あれ』とは、すぐにわかることになりました。
まず、れーむが私から見て右側に、まりさが左側に移動します。止まって、胸を張り上げ、眉を吊り上げて得意気に二人は叫びました。

「「ゆっくりしていってね!!!」」

「…はい。ゆっくりしていきますよ」

それを聞いた二人は安心したのかそれぞれ『ゆふー』と安堵の息を吐き出しました。
何で気を張っていたのかはまるで謎ですが、可愛らしかったのは確かです。

「…ふふ。ゆっくりしていきますよ。それじゃあ、サンドイッチを食べましょうか」

私はバスケットからレジャーシートとサンドイッチの入った包みを何個か取り出し、レジャーシートを青く茂る芝の上に置きます。
そして、サンドイッチの入った包みの内二つを開けて、れーむたちに見せてあげます。

「ゆうっ! おねーさん、話がわかってるんだぜ! …わあ、卵のサンドイッチだぁ!」

「ゆっ、卵とツナのサンドイッチはれーむのだよ! まりさはそのお野菜さんのサンドイッチでも食べててね!」

「ゆっ! まりさだって卵は好物だよ! でもツナが好物っていうのはれーむらしいかもな、子供らしいんだぜ!」

「ゆううう、なんでれーむが子供なのさ!」

「ツナって食べ物は舌が馬鹿な子供だからこそ美味しいって感じる食べ物なんだぜ! まりさみたいな『オトナ』はツナなんか好きじゃないんだぜ!」

「ゆ、ゆうっ、酷いよお…」

「…あら、残念です。私は、ツナが好きですよ?」

「ゆ、ゆっ? おねーさんも、子供舌なのか?」

「ええ。私はツナが好きなので、ツナの入ったサンドイッチを多目に作ってきました。これ以外の包みが、そうなんです。
ツナが苦手なまりさは楽しめないなあって、残念に思ったんです」

「ゆ、ゆぐっ!? 別に、普段食べないだけで苦手ではないんだぜ! まりささんは嫌いなものが無いんだぜ!」

「でも、『子供』の食べ物だから食べたく無いのでしょう? 無理して食べて貰ってもお互いに嫌な思いするだけですし。私とれーむ、二人で食べますよ」

「ゆぐうううううう…!!!」

私の言葉攻めが聞いたのか、まりさは悶絶した表情を浮かべています。
下手に格好つけたりするからです! 私は、とどめに二言だけ言います。

「…最後に二言だけ言います。まりさは、本当に普段からツナを避けているのですか? ツナをおいしく感じないのですか?」

「…ゆ、ゆぅ。ごめんなさい、負けましたなんだぜ。ただ、ツナは子供の食べ物だっててれびが言ってたから。まりさもそう言えば格好いいかなあって思って言っただけなんだぜ」

「全く。あまり格好つけすぎて自分の首を絞めないようにしてくださいね。さあ、食べましょうか」

「ゆうっ。肝に銘じるんだぜ!」

「ゆっ? れーむたちは首が無いから、首は絞まんないよ?」

「言葉のあやですよ…、あっ!」

れーむの質問に答えるついでにサンドイッチに注目すると、もうすでに何も無いではありませんか!
もう一つの包みも開けられてるし、してやられました…。
れーむ、出来ますね!

「ゆ、ゆうっ!!? お、おいれーむ! お前、一人で食べ過ぎなんだぜ!」

「だって、お腹減ってたんだもん!」

「減ってたとしても、配慮と言う物をだなあっ!」

「まあまあ、まだバスケットにありますから」

私は二人をなだめながらバスケットにある余りの包みをレジャーシートの上に乗せ、開けてあげます。

「さて、いただきます!」
「いただくんだぜ!」「いただきまぁーす!」
「お前もう食っただろ!」

賑やかな声が草原中にこだましていきます。



「ふぅー。食った食った、なんだぜ!」

まりさは苦しそうに、かつまさにこの世の幸せを噛み締めるかの様な笑顔を浮かべて芝生の上に寝転がります。
食べてすぐ横になると牛になりますよ!
それとも饅頭だから牛みたいになった方がいいのでしょうか。

「ゆうっ。れーむもお腹いっぱい! おねーさん、ありがとね!」

「ありがとうなんだぜ!」

「いえいえ。お粗末様でした」

サンドイッチに必死に喰らい付いている二人の姿と言えばそれはもう目からうろこもんでしたね!
一口食べる度に『うめえ! めっちゃうめえ!』と叫ぶからあまり食が進まないまりさに、『しあわせ~!!!』と叫び絶頂を向かえヘブン状態になるれーむ!
どちらも物凄く私のツボを押さえてくれましたよ、ええ!!!
まあ、ずっと見ていたからお陰で私が食べれたサンドイッチの数は二つなんですけども。とほほ…。
ちなみに、れーむの食べたサンドイッチの数は大体三包みです。
一包み6つサンドイッチを入れてきましたから、18個食べた計算になります。
…すげぇ!

「ゆうっ、お腹がぱんぱんだよ! 喋るのすら辛いかな…」

そりゃあ、そんな小さなバレーボール位の大きさであんなに食べるからですよ。
私は苦しそうにまりさの側に横たわるれーむの頭を撫でてやりました。

「ゆ、ゆぅ~」

「あ、おねーさん! れーむだけずるいんだぜ、私もして欲しいんだぜ!」

すると、まりさが羨ましかったのかして欲しいと言いました。私はまりさの頭を撫でてやると、今度はれーむから『まりさの頭を撫でている時間が長いよ! れーむにもしてよね!』 と指名をくらってしまいました。
面倒臭くなった私は一片に頭を撫でるため、れーむとまりさをそれぞれ私の膝の上に乗せて頭を撫でてあげます。
れーむが嫌にずっしりしていると感じたのは内緒です。

「ゆうっ! おねーさん、こしょばゆいよ!」

「ゆっ! まりささんとしても、膝の上はちょっと恥ずかしいんだぜ…」

「うーん、そうですか。でも、膝の上ってそんなに嫌ですかね?」

「ゆっ、嫌というか、その…。す、素直になると乗っていたいんだぜ」

ややツンデレ気味のまりさが下にうつ向きながらそう言いました。
とてもかわいいですね、反則級です。

「? れーむは、おねーさんの膝の上好きだよ! 暖かいもん」

「あはは、れーむは無知ですねえ」

「むっ、れーむは無知じゃないもん! 色々な事を知ってるもん、ねーまりさ?」

「ああ、確かにれーむは無知だな。加えて、場を読めないな」

「ゆがーーーーーーーーーん!?」

れーむの大袈裟な反応に笑いながら、私たちはひなたぼっこをしながらの会話を楽しみました。



「ん、ああ…。もう夕方かあ」

気が付くとどうやら私たちは寝てしまったみたいで、辺りは夕暮れに染まっていました。時々くる風が冷たくて寒いです、やはり春も明けたばかりだし夕方になるとまだまだ冬を感じますね。

「ゆっ、おねーさんおはよう! ゆっくり眠れた?」
まりさは既に起きていたみたいで、私は『ゆっくりできました』と答えました。
私は未だに私の膝の上で寝ている寝ぼすけさんの頬を叩き、起こしてあげます。

「ほら、れーむ! もう夕方ですから帰りますよ!」

「ゆ、ゆうっ!? もうそんな時間!?」

「もうそんな時間だぜ。全く、いつも忙しいおねーさんだったらともかく、いつも寝てばっかりのれーむがそんなに寝ててどうするんだぜ」

「ゆっ、別に寝てたっていいじゃん! れーむは大器挽回型なんだよ!」

「それを言うなら大器晩成だぜ、全く、何も始まらないんだぜ…」

れーむたちのやりとりはずっと聞いていても飽きないのですが、こちらも夕食の準備がありますから帰らなければなりません。
心惜しく思いつつ、れーむたちに別れの挨拶を告げます。

「じゃあ、私は帰ります。また遊びましょうね! れーむ、まりさ!」

「ゆっ、じゃーねーおねーさん! また遊びに行くよー!」

「まりさも行くんだぜー!」

「プリンは食べないでくださいねー!」

私たちは大声で会話をしながらそれぞれの方向に歩いて行きます。いつしか、どんどん小さくなって見えなくなってしまいました。
私は空になったバスケットを振り回しながら帰り道を辿りました。




「あ、れーむのお母さんに会うの忘れてた…」


おしまい


  • ありがとーゆっくりできたよ -- 名無しさん (2009-03-27 20:28:37)
  • 魔理沙がいいね! -- おい (2011-07-27 21:03:18)
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最終更新:2011年07月27日 21:03