急な休日出勤の代わりに突如休みを与えられたが
私には予定など何一つなく、これといってやることもない。
暇な時は外で積み上げている本を読むに限る。なので何時ものように、バック片手に
とある公園のベンチへとやってきた。
と、ベンチの上でゆったりとしている奇妙な物体Xが目に映った。
あちらも私の存在に気がついたらしく、こちらの方を向くと
「ゆっくりしていってね!!!」
ふてぶてしい笑顔で挨拶をしてきた。
金髪の髪に黒いとんがり帽子のゆっくり。まりさである。
このまりさは、最近このベンチに現れたゆっくりである。会社への抜け道によくこの道を利用していたので
まりさとはそれなりに顔を合わせた仲だ。
「ん、なら遠慮なくゆっくりさせてもらおうか。」
そう言ってまりさの隣に座った。
バックから適当な本を取り出して読み始める。
まりさの方も、私の存在を特に気にしていないらしく、先ほどと同じようにゆっくりと鎮座していた。
私は一度集中すると、周りが全く見えなくなるタチである。
それゆえに仕事中、目の前から声をかけられている事に気づかない事が多々ある。
どうやら今回もそうらしく
「ねえおじさん?」
「……ん?」
気が付くと、目の前に幼稚園児程度の男の子が三人ほど居た。
困ったような顔をしているので、おそらく何度も呼び続けたのだろうか。
「ああ、気付かなくてごめんよ。どうしたんだい?」
三人のうちのひとりが答えた。
「あのまりさに触ってもいい?」
ずっと隣に居たせいか、どうやら私がまりさを飼っているとでも思われたのだろう。
私の判断で決める訳にもいかないので、まりさに尋ねてみた。
「あの子が触りたいそうだが、どうだい?」
「ゆっくりしていってね!!!」
間髪いれずにまりさは答えた。相変わらずハッキリとした声である。
「わー!すっごいもちもちしてるー!」
男の子は目を輝かせながら、まりさのほっぺをプ二プ二と掴んだり引っ張ったり
あるいは顎をたぷたぷしたりている。
こうして見ると、意外と子供を持つのはいいかもしれないと思ってしまう。
その為にも一刻も早く誰かが二次元に行ける装置を開発しますようにと、心の中で神に願った。
「ねえねえ?これたべる?」
そういって男の子はまりさの前に何かを差し出した。
包紙からして、貧弱一般人では手が届かきそうにないチョコだ。
正直に言おう。私が貰いたい。
しかしこのいたいけな子供がまりさにあげたチョコを強奪するような、鉄の心を私は持ち合わせていなかった。
仕方なく、こっそりと妬ましい横目でまりさを見る。
まりさは舌を伸ばしてチョコを口の中へ入れる。
するとピカー!っと顔が輝きだした。
「むーしゃ!むーしゃ!しあわせー♪ありがとうおにーさん!!!」
目の前の男の子達をおにーさんと言うのは年齢的にいかがなものかと思うのだが
そんなことは当人たちには関係なく、お互いが喜んでいた。
その後、同じ様な事が何回か続いた。
昼食を取りに近くのコンビニに行ってる間に、女子高生に持ち運ばれそうになってたりもしたが
「ゆっくりはなしてね!!!」
と、いつもとは全く違う拒絶を示した為に失敗していたりもした。
そうして、日が傾き、そろそろ時間は
夕暮れになった。
だいたいの本は読破したので、私も家に帰る事にした。
隣には相変わらずゆっくりとしているまりさが居た。
そんなまりさに、一つ問いかけた。
「まりさ、私の家に来ないか?」
まりさは首を横に振った。
「ゆっくりまってるよ!!!」
「そうか。」とだけ言うと、私は立ちあがった。
そして荷物から、先ほどコンビニで買ったおにぎりを3個とのり弁を一つ取りだす。
その後、それらが入っていたビニールの中にまりさを入れた。
その上からもう一枚のビニールを被せ、まりさはボールのような状態でベンチに置かれた。
「今日は夜中に雨が降るからな。気をつけるんだよ。」
「ゆっくりー♪」
まりさは上機嫌なのだろう。声がいつもより高くなっていた。
「それじゃあな。また今度。」
「ゆっくりがんばってね!!!」
私は本格的に日が落ちた公園の中を歩きだした。
まりさはずっとあそこで何かを待っていた。
私くらいの人間が通るたびに、まるで知ってる人間かのように反応する。
何故まりさがあそこに居るのか?一体誰を待っているのか?待っている者は果たして帰ってくるのか?
最後に関しては私にもわからない。
数ヶ月後。まりさは地元のTV局の取材を受けるまでの知名度を持った。
お陰であの場所は騒がしくなった。まりさにとっては食べ物やら遊び相手やらが増えて
喜ばしいようにも見えなくもない。
しかしまりさは待ち続けていた。ずっと。あのベンチで。
- イイお話ですね~。忠犬ハチ公みたいです -- 名無しさん (2009-03-12 10:52:22)
- ハチ公ほぼまんまだけど、オマージュとして出来が良くて何より可愛いからいいや。 -- 名無しさん (2010-04-21 13:45:04)
- え!?
あのまりさ、まだ待っているんですか!?
そうですか・・・こんなにうれしい日はない・・・
うぉぉぉおおお!! -- 音楽家骸骨 (2012-11-07 22:36:40)
最終更新:2012年11月07日 22:36