絵描きの額縁の中

 ※「ゆっくり創作」って何だろう?という考えから始まりました
 ※「ゆっくり」自身の出番は極少です
 ※少し未来の、本当の現実世界のお話です
 ※特定のモデル、はいません
 ※決して、何かの批判ではありません


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 「この位置でいいかな?」
 「グッド」


 少し高めの壁に設置したから、お祖父さんはベッドに横たわりながらいつでもその絵を見る事ができた
 若い頃旅行した時に購入したらしいが、どこに売っていたのだろう。やたら上等な額縁にいれられた絵。構成はいたtってシンプルで、
変にディフォルメされた少女2人の生首が、コミック調にふきだしに中国語(もしかしたら日本語)で何かを叫んでいる
 右側は、黒髪のリボンをつけた、何やら自信満々の不敵な笑みを浮かべ、左側は金髪にアナクロな魔法使いのような帽子を被っ
ているが、眉をしかめ、何かに不満でもあるように、人をおちょくった顔で笑っている。


 「結局どういう意味なのこれ?」
 「どういう意味だったんだろうなあ。そもそも原作者がいないから解らんよ」
 「何それ」
 「まあ、これでわしの人生は変わってしまった訳だ」


 それはそうだろう。普通の絵も描けるのに、こんな生首ばかりを描き続けてしまったのなら、生活もおかしくなる


 「お爺さん、何回も聞いちゃうけどさ、何でこいつらだけ描き続けたの?」
 「―――こいつら本当に可愛いだろう?世界一可愛いものが目の前にあるんだ。描かずにはいられないさ」
 「可愛いか・・・・?需要はあったんだから、メイド長でも」
 「メイド長、日本人にはゴツく描きすぎてると不評だったがなあ・・・・・・」
 「もう少し稼げたはずだよ」


 家族もできず、こうして隣の部屋の若造に、たまに来てもらうだけの老後ではなかっただろう。
 気丈に、明るく振舞っていたが、そろそろ分かれも近いことを二人は悟っていた。短い付き合いだったが、楽しかった。


 「散々言われたよ。『現実を見ろ』ってな。もっと需要のある絵を描いて、小さい仕事だけポツポツもらうだけのその日暮らしなんてやめろって。
  生首お化けばかり描いてて何が楽しいんだって」
 「いや、こいつらを描いている時が、お爺さんが一番楽しそうな時だったってのは知ってるけどさ」
 「わしの人生は、現実との戦いじゃったよ。こいつら『ゆっくり』が実在しない現実とのな―――――長かったし辛かったが、楽しかった」
 「何かもう終わるみたいな雰囲気出してるね。縁起悪いなあ」


 コーヒーを淹れつつ、彼はなるべく明るく言った。


 「んな事いってないでさ、たまには描いてみない?『ゆっくり』もいいけど、お爺さん『TOUHOU』絵描きじゃん。『チューゴク』描いてよ『チューゴク』!!」
 「お前は本当に美r・・・・・『チューゴク』が好きなんだな。一つ教えておいてやろう。あいつは本当は『チューゴク』っていう名前じゃない。もしも
  日本人にあって『TOUHOU』の話を将来した時、『チューゴク』なんて言ったら、熱心なファンにお前は・・・・・・」
 「ちょ・・・・何だよそれ?散々話の中でそう呼ばれてたじゃない!! 本当は何ていうのさ!!」
 「一話目を読み返してみろ」


 ローカル雑誌に10年近くにわたって掲載された、とある日本の、一昔前に大流行したゲームの2次創作4コマがきっかけで2人は出会った。2・300年
程前の日本か韓国を舞台にしているらしい世界で、様々な少女達が織り成すホノボノコメディ。
 吸血鬼の館の門番をしている、寝てばかりいる中国人風のキャラクターが彼はお気に入りだった。
 成長して雑誌を買い、毎週の楽しみになって読みふけってるいたら、2年後に終わった。何やらやるせない気持ちでいて、隣の部屋の老人となん
とはなしに話す機会があり、連載の事を切り出してみたら、作者だった。
 世の中広いようで狭い。


 「あの漫画描いてたから、さぞ部屋の中は『チューゴク』と『コマッチャン』だらけだと思ってたのにさ、生首だらけじゃない」
 「そのお前の言う『チューゴク』の『生首』もたくさん描いてやったぞい。可愛いじゃないか・・・・・あと、『コマッチャン』も正式名称じゃない」
 「そうなの?本当の名前を教えてよ!!!」
 「ブランデーだ」


 お爺さんは上半身だけ起き上がっていた。
 震えているから、無理をしている事は解った。


 「ちょっとちょっと!!」
 「一杯注いでくれや。そしたら、『チューゴク』と『コマッチャン』の本名を教えてやる」
 「一杯だけだよ?」


 棚から瓶を探していると、背中に少し嘆くような声を受けた


 「本当にこいつら可愛いな。ただ可愛いだけじゃないんだ。完璧じゃない、イラっとくる可愛さだが、その不完全さのお陰で、わしにとっては最高の
  天使だったよ」
 「ああそう。何度も聞いたさね」
 「わしも、ゆっくりしたかったよ・・・・・・・・でも、楽しい人生だった」


 ブランデーは中々みつからなった。


 「ねえ、どこにあるの?」
 「―-――――ああ、ゆっくりしていくよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「へっ?」


 瞬間


 「「「ゆっくりしていってね!!!」」」


 思わず振り向くと、時計だった。何やら悪趣味な、抑揚のない機械音の声が。驚く事ではなく、単なる目覚まし時計の音声である。


 「驚くなあ・・・・・」


 何とかブランデーを注いで、ベッドへ向かう


 絵描きは、その時もう事切れていた



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 葬式には、兄弟らしい老人が数人来ただけだった。
 死体は、その町の墓地に埋葬された。実家との折り合いがあまりよくなかったのか、引取るつもりも無かったらしい。
 生前の希望であろう、墓碑には簡単にこう描かれている


 「 TAKE IT EAST !!! 」


 結局「チューゴク」の本名も解らないままだった。
 数日間、何が起こったのかわからなくて、涙もでなくて、彼はぼんやりと過ごした。何をすればいいのかも解らなくて―――通常なら遺品整理屋
がやってくる筈なのに、いつまで立っても部屋はそのままだったので、勝手に入っては絵の資料などを読みふけっていた。
 題材にした、「TOUHOU」についても、英訳された資料がいくつかあったので読みあさった。
 「チューゴク」の本名が、「紅美鈴(Hong Mei-ling)」、「コマッチャン」が「小野塚(Onoduka)」だという事も解った(何故『チューゴク』だったのだろう?)。
 が、そこで彼はちょっとした事実を知る

 公式の資料には、「ゆっくり」を説明している箇所が一つも無かった

 お爺さんの「TOUHOU」4コマ漫画は好きだった。そこに当たり前のように、ゆっくり達は出てきたし、お爺さんが真面目に描いた絵にも、沢山の登
場人物達とともに――――吸血鬼の館で、神社で、悪魔の山で、地底の城で、天空で、活躍する英雄達や妖怪達の傍らに、いつも生首達が
いた。
 だから、当然「TOUHOU」の登場人物だと思っていたのだが・・・・・・


 「お、オリジナルキャラクター?」


 とはいえ、お爺さんが飾っていた絵は、明らかに他人が描いたものだった。
 比較的後期に生み出されたものなのかと、新しい資料を町まで行って探したりもしたが、見つからなかった。
 代わりに、膨大な量の2次創作の本が見つかった。 これは、少し多すぎた。そうした文化があること自体は間違ってはいないが、それにしても多
かった。


 そこには、お爺さん以外が描く「ゆっくり」の姿があった。


 「あれれれれれ?」


 主人公達の、極端にディフォルメした形態の一つかと思い始めていたが、皆どれも似たような顔つきだ。複数の作者に、こんな偶然がある訳がない。
内容は、一キャラクターとしてしっかり登場するものから、単なる背景としてまで――――例えるなら、テヅカオサム作品の、「ヒョウタンツギ」に近いものか。
 彼は更に調べる事にした。

 驚くべき事に、「ゆっくり」という存在自体による創作群があった。

 とりあえず、「TOUHOU」のキャラクターを下地にして、生首お化け達が生き生きと描かれていた。何かを象徴する生物を越えた存在として―――
時には、そうした「生物」として
 そういえば、お爺さんは「TOHOU」以外にも、「ゆっくり」単体の絵を沢山描いていた。
 舞台は現代社会だったり、大自然の中だったり――――兎に角、自由に、作者それぞれの解釈で、「ゆっくり」達が生き生きと描かれていた。


 きっと、お爺さんと同じ思いの人達だったのだろう


 絵の中の彼女(?)達は、皆愛らしく描かれていた。
 話の中から、一体「ゆっくり」とは何なのだろうと彼は読み解こうとしたが、設定やその存在定義自体が作者によって大幅に違うので、なおの事混乱する
 例えば、「水を被っただけで溶けてしまう」という前提で、雨を浴びてしまう悲喜劇があったかと思うと、海水浴に行って大暴れするような活劇もある。当然、
内容もコメディからホラーまで、本当に自由。自由すぎるとさえいえる。


 「何なんだ?『ゆっくり』って何なんだ?」


 しかし―――その頃には、彼も「ゆっくり」達がいとおしく思えるようになっていた。
 首だけと言う、極端にディフォルメされた形態と、人によってはムッチリとした柔らかそうな質感で主に描かれ、ちょっと相手を挑発したような顔や、見たままの
性格や喋り方など、ちょっと生意気な幼児を髣髴とさせる愛らしさがある。





 それから幾日か経って、彼は、改めてお爺さんの墓参りへ向かった。
 何かがそこで解る訳はないとは思うが、お爺さんをあれだけ虜にしたものの正体に触れ――――そして、その本当に愛らしいと思っていたものを描き続けた
彼のことが、今は違って見えていた。もう一度、返事は返ってこないが、墓に向かって尋ねたい気持ちだった。

 と、墓は参拝した者達の花束で埋め尽くされていた。

 中には、手作りの小さな「ゆっくり」の縫ぐるみまで備えた者もいた。雨に濡れてしまったそれは、漫画で水を浴びて大怪我をする悲劇を彷彿とさせて少し
心苦しい。
 彼が到着した時には、先客がいた。
 東洋人らしく、目を閉じて合掌している。
 去り間際、こちらに会釈しつつ、少し年配の東洋人は、微笑みつつ言った。


 「ゆっくりできなかった様ですが、好きな『ゆっくり』を描き続けられたんです。幸せだったと昔言ってました」


 これだけ愛されていた画家だったとは知らなかった





 更に――――ありえる話ではあるが、お爺さんの作品が評価され始めたのが、1週間後であった。

 芸術家が、死後評価されるという事はありがちな話しだし、元々名誉や賞賛を求めていた人ではなかったのだが、タイミングを見計らったかのような評価のさ
れ方は、流石に皮肉を通り越して、なにかの悪意かとも思えた。
 きっかけは、日本の漫画やアニメ文化のこちらの新解釈で取り入れアートが、再評価される様になったという――――一時のブームに過ぎないのだが、
「TOUHOU」を中心に描き続け、また独自のタッチ(『ゆっくり』のこと)を持っていたお爺さんは、異色の画家として取り上げられる事になったのだった。
 ニュースにて、ようやく『ゆっくり』とは何なのか―――その根源が、アスキーアートにある事も紹介されたが、そんな事はどうでもよくなっていた。


 「お爺さん、どう思うかなあ・・・・・」


 生きていたら、やはり喜んでくれるだろうか。
 「ゆっくり」に可愛さを見出してしまった人達は、それから少しずつ増えてしまった様で―――――半年後には、近所のスーパーのPOPが、マスコットを使った
「ゆっくり」になっていた。
 ただし、左右で「れいむ」と「まりさ」の位置が逆になっているのはご愛嬌。
 ブームだからどれだけ続くか解らない――――が、リバイバルとして「TOUHOU」を二次創作する人達は、大抵マスコットとしてゆっくりを描くようになったし、
全く関係の無い、先程のスーパーマーケットの広告などにも、ゆっくりはその姿を見せる様になった。

 大元のアスキーアートが作られてから、どれだけの年月が経ったかはわからないが、「ゆっくり」は確実に生き続けるていた。
 何かカオスで自由な存在として―――愛らしい、一つの生物として――――それぞれの沢山の人たちの解釈の中、ゆっくりは確かに生き続けて行った。

 かつての名画家がくらした部屋として、お爺さんの部屋は、大切にされていた。
 彼は、お爺さんが息を引取った時のことを思い出して、部屋を覗いて見た。


 「あの時・・・・・・」


 ブランデーの場所を聞いたら、お爺さんは「ゆっくりしていく」と噛み合わない解答をしたしたが――――あの、無機質な目覚まし時計の声を、「ゆっくり」の声と
勘違いしたのかもしれない。
 そう考えると、決して現実ではないが、今際の岐波に、お爺さんは本当に「ゆっくりと会いながら」息を引取ったのかもしれない。
 幸せな人生である。


 「いや、でもまてよ・・・・・・・?」


 あの目覚まし時計が鳴ったのは、お爺さんが答えた後だったのだ。と、いう事は、自分が語りかけるのとほぼ同時に、誰かが「ゆっくりしていってね」とお爺さんに
向かって話した事になる


 「実際に自分で幻を見たのかな?何にせよ、それはそれでいいじゃないか・・・・・・」


 彼は、改めて、寝たきり状態でもよく見えるように配置された、「れいむ」と「まりさ」の絵を眺めた。

 ―――ここで、この絵の中にお爺さんが移っていたら本当のホラーだよなあ・・・などと苦笑しながら。


 「う、うわあああ!!?」



 上等な額縁の中では、ギザギザの吹き出しだけ残して、「れいむ」と「まりさ」が絵の中からいなくなっていた。




                                    了




 ――あとがき――


 以前、同じテーマで書いたSSが、自分自身予想しない意味を含んでしまい―――見た人に大きく不快感を与えてしまいました。
 本当に申し訳ありませんでした。

 同時に、どうしても描きたいと思っていたテーマが、この話でした。

 本スレで、「ゆっくりが実在しないこの現実が時折悲しくなる」という書き込みを見たのが始まりでした。
 本当にゆっくりが存在しない世界で、実際には出てこない現実と向き合う、常軌を逸するほどの極端なゆっくり好きがいたら―――
というテーマを、前向きに書けないかな?と思った次第です。
 結果としては、単なる願望の羅列と、最後は変なファンタジーになってしまいました(苦笑)
 本当にまだまだ精進です

 ここまで付き合ってくださった方。ありがとうございます
 本当に対立煽りの意図はなかったのですが、そこに私の嫉妬やら無理解や心の狭さなどが滲んでしまったものを、表に出してしまい、
本当にご迷惑をおかけしました。

  • 以前アップロードされたものを偶然読んでいたのですが、それとはまったく違う話で驚きました。
    (てっきり争点になっていた箇所だけ改変されるのかと思っていたもので)
    しかも、より深みの増したお話になっています。
    やはりオクラさんは只者ではないなぁ…。 -- 名無しさん (2009-03-28 06:22:24)
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最終更新:2009年03月28日 06:22