人里の広場で。
今日も今日とてゆっくりちぇんの相手をする。
「わかる、わかるよー」
ちぇんも勝手がわかっているのか、俺の愛撫(性的な意味はない)に心地よい格好で応えていた。
と、そこに不吉な気配。
「……ぇぇぇん」
「何だ……?」
どこからともなく聞こえてくる重低音の響きは、まもなく音源を俺にさらした。
「げえっ、ゆっくりらんしゃまっ!」
俺は叫んだ。
だってそうだろう?あの忌むべき姿が涙を流しながら、尻尾をぶんぶんと回転させて、俺のいとしいちぇんに向かって一目散に突撃してくるのだから。
「ちぇんは渡さん!渡さんぞー!」
とっさに両腕でちぇんを抱きかかえる。
俺のちぇんに、あんな教育に悪いものを見せてたまるか。
「わ、わからないよー」
ちぇんが俺の腕の中でうめく。スマン。ちょっと抱きしめる力が強すぎたか。
いや、突如現れたゆっくりらんしゃまと、俺。どちらを優先すべきか迷っているらしい。
ものすごく不本意だ。
そういえば、と俺はちぇんを小脇に抱えたまま、ご都合主義空間からバズーカ砲のようなものを取り出した。
それは谷河童から大枚をはたいて買った弾幕マシーンで、俺はそれをらんしゃまに向けて撃つ。
キュー、キューカン、ババーァー
マシンから放たれる無数の緑色ポロロッカ。
だが。
「ちぇええええええええん!」
ゆっくりらんしゃまは一向にひるまずこちらに向かってきている!
それどころか、
「少女臭だって言ってるでしょぉぉ!」
ゆっくりゆかりんが突如スキマから身を乗り出してこちらに迫ってくるではないか!
「え、何で?!」
「わ、わからないよー」
おびえる一人と一匹(?)。
「こうなったら、豆符『アブリャーゲ』!」
適当に、目標に向けて腕を振り下ろす。もう自棄だ。
何故か放たれる肌色のスペルカード。人間、必死になればスペルカード程度はつかえるもんなんだね。
それは一直線にゆっくりらんしゃまの額に向かい、
ぱく。
「むーしゃ、むーしゃ。しあわせー」
食われた。
「ちぇええええええええええええん!!!」
「なにぃ! 効かないだとっ?」
「永遠のじゅうななさいって言ってるでしょぉぉぉ!!!」
ひい、二つのゆっくり生命体は必死の形相でこちらに向かってきている。
絶体絶命か、と思われたとき、
なんと、俺のちぇんが立ち上がったのだ!
足がないではないか、などと野暮な突っ込みは言ってはいけない。俺のちぇんは胸をはり、本物の橙様のようなかわいらしい気迫で、迫りくる二匹に向かっていったのだ。
「凛々しいちぇんも可愛いよ可愛いよちぇん……ハッ」
俺が一瞬の間恍惚のときを過ごしていた間に、ちぇんはらんしゃまに擦り寄られていた。
しかも、
「少女臭ぅぅぅ」
俺はゆっくりゆかりんにのしかかられていた。ゆかりんの放つなんともいえないにおいは、俺の筋力を硬直させるには十分であった。
「くっ、俺のことはかまうな!にげるんだちぇん!」
俺の言葉もむなしく、先ほどまでの気迫はどこへやら、ちぇんはらんしゃまにされるがままになってしまっている。
もうだめだ……と思われたそのとき、意外な救世主が現れた。
「こら~! らんしゃま、他人のちぇんに興奮しちゃだめなの~」
そういってこちらに駆けてくるのは、八雲の式の式、橙様だ。
どうも橙様はゆっくりらんしゃまの飼い主らしい。
橙様はゆっくりらんしゃまと、ついでにゆっくりゆかりんを引っぺがして持ち上げた。
「どうもありがとうございました、助かりました橙様」
「いえ。私こそ、うちのゆっくりらんしゃまとゆっくりゆかりんが迷惑かけちゃって、ごめんなさいです」
そういって俺にぺこりと挨拶する橙様はなんともかわいらしかった。さすがはゆっくりちぇんの本家本元のことはある。
それでは、俺のちぇんと一緒に帰ろうとしたとき、またもや呼び止められた。
「ゆっくりちぇんは、たまにゆっくりらんしゃまとあそばせたほうがいいですよぉ~」
大きなお世話だ。俺のちぇんは俺だけのものだ。ほかの誰にも嫁にはやらん!
そういうことをオブラートに包んで橙様に伝えたら、クスリ、と笑われた。
「あなたは、まるで藍様を見てるみたいです」だって。
「そんなに愛されているなんて、あなたのゆっくりちぇんは幸せ者ですね」
「ありがとうございます」
「でもほかのゆっくり種とのコミュニケーションは大事ですよ?」
「そうですか」
「あっ、そうだ!こんど八雲のおうちにゆっくりちぇんをつれて来てもらえませんか?きっと藍様も喜びます」
八雲藍さまだと? ゆっくりちぇんのトップブリーダーのあの方に?
それは光栄だ。俺とちぇんのさらなる家族愛を深められるいい機会かもしれない。
しかし……
「少し考えさせてください」
連れ立って、家路にいぞぐ俺とちぇん。
「わかるよー」ちぇんは疲れてはいたようだが、上機嫌だ。
俺はというと、先ほどまでの会話を反芻していた。
俺はちぇんにたいして過保護すぎるのだろうか?
「ちぇんや」
なに?と振り返ったちぇんに向かって聞いてみた。
「ゆっくりのともだち、ほしいかい?」
ちぇんはすこし考えた後、
「わからないよー」とつぶやいた。
俺の周りを一周し、俺の頭にぴょんと飛び乗った。
そして、
「わかるよー」とだけいい、笑ったのだった。
そうか、お前は俺の気持ちをわかってくれたのか。お前は本当にいいゆっくりだな。
ならば、俺も決断を下さなければならない。
そうやって決まった八雲一家訪問。それには、また別のエピソードがあるのだが、今日語るのはこれくらいにしておこう。
ゆっくりちぇんを飼ってみた そのさん
完
- ガチでちぇんと暮らしたいんだが。可愛すぎる。 -- 名無しさん (2009-03-28 03:11:21)
- 愛は弾幕を越えるのかー
あとゆかりんが愉快すぎるw逆に可愛い -- 名無しさん (2009-05-18 21:23:25)
- お兄さん限界突破w -- 名無しさん (2009-05-18 22:05:53)
- 第1話やこの話みたいに「わ、わからないよー」とぷるぷるしてるちぇんを想像するといろいろたまりません。
ちぇんかわいいよちぇん…… -- 名無しさん (2009-05-19 14:48:42)
- 作者さんの話を読んで、ちぇんが好きになりました。可愛すぎる! -- 名無しさん (2010-04-06 18:40:14)
- 素晴らしい。 -- 名無しさん (2010-11-25 11:44:43)
- 可愛すぎるちぇん。 -- 名無しさん (2012-12-02 15:17:11)
- ちぇん可愛い -- ちゃんかわい?って思ったやつ、屋上な。 (2012-12-22 20:26:34)
- 少女臭ww -- 名無しさん (2014-07-19 22:33:14)
最終更新:2014年07月19日 22:33