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――アンタの無念はわかる。だが...このまま恨みをかかえ、進んでいけば行きつく先は...。


「ここだってのか?」


その声は、酷く弱々しかった。




空に浮かぶ島と言うと、天国に近い場所だと考えるだろう。
しかし、前戸という少年には分かってしまった。自分が今いる場所は、地獄に近いということを。
彼は一度、地獄を見たことがある。
メタファーと言う意味での地獄ではない。閻魔大王に本当に地獄を見せられ、“ウソのつけない舌”を付けられた。
この場所では、舌が勝手に動くということはない。
代わりに、付けられたのは死を呼ぶ首輪。

(ちがう…ちがう、オレは被害者だ!こんなことは間違ってる!)

少年特有の短絡的な思考と、浅い人生経験からでも分かることだ。
今ここにいる自分は、2年前にガキ大将の番崎に水をかけてしまった時とは比べ物にならないほど、命が危機に晒されている。
そして、小学生の自分は、他の強い奴のさじ加減で、簡単に殺されてしまう。
その身を震わせながら、辺りをキョロキョロと伺う。
誰かの姿は目に映らない。けれど、誰かが見ているような気がして、その場から走って離れる。

(とにかく、とにかく逃げなきゃ……死にたくない。オレは死にたくない!)

場所は見晴らしの良い場所から、鬱蒼とした森に変わる。
そうなったのは、すぐに隠れやすいと思っていたからだ。
勿論、そこで迷子になることなど、考えていなかった。
ヘンゼルとグレーテルのように、石やパンのかけらを来た道に置いておこうという考えも、当然持ち合わせていない。
ただ、誰かに追いかけられているような気がして、逃げ続けているだけだ。


不意に、誰かにぶつかった。
明らかに誰かの腹だった。
痛い訳じゃないがドォーンという弾力のせいで、たまらず尻もちを付く。


――オレは…、一生お前をゆるさない!二度とオレの前に現れるなァ!

「おい……」

その声を聞いて、嫌な予感を覚えた。そして、このような予感は大体当たるものだ。
太い脚、太った体、団子鼻、鋭い目つき。
あの時二度と視界に入れないと思っていたガキ大将が、そこにいた。

「うわあああああ!!!!!来るな!来るな!!来るなァ!!!!」

殴られる、やり返される、殺される。
頭の中を、そんな悪い言葉がグルグルと回る。
前戸は自分のしたことを正しいと思っているが、番崎がそんなことを分かってくれるような相手じゃないとも思っている。

「おい…ちょっと待てよ!」

「いやだ!やめろォ!!」

前戸の全身は震え、立って逃げようにも立ち上がることが出来ない。
片手だけを前に出し、せめてもの抵抗をしようとする。傍から見れば、酷く情けない姿だ。

「なあおい、落ち着……」

この時、前戸は知らぬことだったが、番崎の方が冷静だった。
彼はバカで騙されやすい性格だが、少なくとも今は、所構わず誰かを殴ろうという気は無い。
クラスメイトからも、昔に比べて丸くなったという評価をされるぐらいだ。
従って、彼は前戸に報復をしようという気持ちは、ほとんど無かった。

「ふーん。弱いものいじめなんて、悪い子だね。」

しかし、前戸がその事実を知ることは、残念ながら無かった。

「ああああああああアアアァアアァアア!!!!」

透き通るような声が聞こえた瞬間。空気が震え、地面が揺れる。
番崎が身体を押さえ、何かに苦しみ始めると、得体の知れぬ何かに姿を変えて行く。
人の姿とはまるでかけ離れた、巨大な何かに。


地面に尻を付けた状態で、最初に目に入ったのは、丸太のような、前戸など簡単に踏み潰しそうな足だった。
上を見上げると、人間とは全く違う顔に、見下ろされていた。
そこで初めて、怪物の全貌が分かる。
頭に不気味な紋様の走った、巨大な器を付けた、巨大な鹿か牛のような化け物だった。
分かるのは、前戸が見たことのある生き物では無いということだけだ。

「ソ…ソ…ソソゲー!!」

人の言葉のような、獣の鳴き声のような、大鐘を思いっきり叩いた時の音が混ざったような鳴き声が響いた。
その声の異質さから、もう人間では無くなってしまったのだと、否が応でも分かった。

「無事で良かった。」

地獄より恐ろしい世界で、その声は不相応に綺麗だった。
真っ白な衣に、美しい金色の髪。片目を顔で隠しているが、端正な顔立ち。
極限状態なら、その男を神と錯覚してしまいそうだ。
しかしこの男こそが、番崎を怪物に変えたという事実は、揺るがなかった。
怪物は男の顔を見ると、頭を下げ、借りてきた猫のように大人しくなる。

「この子は悪い子だから、こんな怪物になっちゃった。」

「ま…待てよ……番崎を…戻してくれよ……」

どうしても、気持ち悪い姿になってざまあみろとは言えなかった。
2年前、人生を壊されるほど怖がらせてきたのに、それからは良い奴になって。
だから納得できなかった。
何かしてやれることはないかと言ってきたから、好きなだけ殴った。
痣が出来るほどの暴行を加え、それでも怒りは収まらなくて
怖がる顔を見たくて、ゲームセンターで知り合った仲間に金まで渡した。
それでも、こんな姿に変えられることは、望んではいなかった。望んでいなかったはずだ。

「どうして?君を襲った悪い子を、バケモノにしてあげたんだよ。」

その声は綺麗で、ひどく静かだった。
恫喝や脅迫は、全く感じられない。そのはずなのに、全身が震え上がる。
迂闊な言葉を発すれば、すぐに怪物にされるか、殺されるかだ。言葉じゃなく、彼の第六感がそう告げた。

「そ、そうだ!オレはコイツに仕返しをしたかったんだ!コイツが人の姿で、苦しむ所を見たかったんだ!
で、でも、こんな姿になったら、それが出来ないじゃないか!!」

「そうだなあ…じゃあ代わりに悪い人を、5人ほど殺して、その首輪を取って来てよ。」

神を模倣したその男は、地獄の王以上に歪んでいた。
子供を弄び、腐りきった正義を説き、そして―――

「でも…オレに、そんなこと……。」

「大丈夫だよ。武器ならあげる。」

男が取り出したそれは、一瞬飾りのついた金属バットのような何か。
かつて番崎に対して見せた獰猛な攻撃性は、すっかり鳴りを潜めてしまった。
こんなもので人を殴ろうという気は、全く起きなかった。

「上にかざせば、竜巻を起こすことが出来るんだ。」

摩訶不思議な力を持つ武器は、ずっしりと重たかった。
前戸には知らぬことだが、それは非力な魔術師のために作られた武器だ。恐らく重く感じたのは、他の理由だろう。

「それに、いざとなればバケモノになったこの子が、守ってくれるよ。僕の命令は絶対なんだ。」

それは言い方を変えれば、監視役が付くと言うことだ。
前戸の頭はそこまで考えることは出来ず、ただあるがままのことを、受け入れるだけになっていた。
男は赤白のボールを僧衣の袂から出すと、立ちどころに怪物は、ボールに吸い込まれる。
ポン、とそのボールも投げ渡された。
緊張しすぎて、ゆっくり投げられたそれでさえ、掴み損ねそうになる。

「そのボールを投げれば怪物は出て来るからね。結構強いんじゃないかな。」

あまりにも非現実的な出来事を、立て続けに目の当たりにして、しばらく固まっていた。
ここは、自分のいるべき場所じゃない。目の前の男からはすぐに逃げなければいけない。
そんなことは分かっているけど、逃げられない。
片手に魔法の杖、もう片方の手に不思議な力を持つボール。その中には、自分が憎んでいた人間だった何かが入っている。

「僕も君も、悪い人たちを倒して、元の世界に戻りたい。別に嫌がる必要は無いでしょ?」

「…だよな!この世界にも、番崎みたいなクソ野郎がいっぱいいるはずだよな!」

叫んだ。叫んだつもりだった。しかしその言葉は、ひどく力が無かった。
息を吸ったような感覚が無い。汗をかいているのに、身体がひどく冷たい。
それでも精いっぱい叫ばないと、何か大事なものが、壊れてしまいそうだった。

「それじゃあ、首輪が集まったら、ここに来てくれない?」

逃げるかのように、前戸は去って行く。
今はとにかく、この場から逃げ出したかった。
悪人は殺す。死にたくない。そうしなければならないと分かっていても、力が入らなかった。



【前戸@ウソつき!ゴクオーくん】

[状態]:健康
[装備]:天罰の杖@ドラゴンクエストVII モンスターボール(ディンルー)@ポケットモンスタースカーレット/バイオレット
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:死にたくない
1:悪い奴を5人殺し、首輪を取って来る……べきなのか?
2:番崎はあんなバケモノになるとは思ってなかったんだ
[備考]
※参戦時期は115話終了後。ただし、ウソのつけない舌は外され、ウソをつくことも出来ます。




「あーあ、やっと行ってくれた。幻術(コレ)、バレたらどうしようかと思ったよ。」

ほっと一息つき、笑顔を浮かべて、小さくなっていく彼の背中を見る。
幸か不幸か、前戸は気づいていなかった。
番崎は、厄災を呼ぶ怪物に姿を変えられたのではない。
その過程は、男の幻術により、そうであったかのように見せられただけだ。


本物の番崎は、本物のディンルーが放った地割れに飲み込まれ、死んでいる。
つまり、前戸が番崎に謝罪することは、過去を背負って、前を向くことは。
既に、不可能となっている

「ベリアル…だっけ。アイツを殺せば、あの人は経文をくれるかなあ……」

地の底に視線を送り、今後のことを考える。
彼もこの世界から脱出し、ベリアルの討伐を目論んでいる。
神にこのような仕打ちを与えることなど、あってはならないことだから。
そしてそのためには、邪悪な存在を殺し、不必要な存在を間引いて行かなければならない。



【番崎竜丸@ウソつき!ゴクオーくん 死亡】


【カミサマ@最遊記】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1(何の武器)
[思考]:遊んで、最後にベリアルを殺す
1:前戸くんはどう働いてくれるかな?
2:人形は無いけど、魂は集めたい。なるべく悪人のもの
3:悪い奴はなるべく殺しておきたいけど、優勝はしてもしなくても良い
[備考]
※参戦時期は本編開始前(金閣兄弟にも会う前)
※幻術が適用される範囲が制限されています。少なくとも原作のように、山一帯を幻術で包み込むことは不可能です


【支給品紹介】

【天罰の杖@ドラゴンクエストVII】
カミサマに支給された両手杖。振りかざすと中級魔法レベルの竜巻を打つことが出来る。
魔法とは異なり、魔力によって威力が変わることは無いが、反面、魔力が切れた者や、魔法のない世界に生まれた者でも使える

【モンスターボール(ディンルー)@ポケットモンスタースカーレット/バイオレット

カミサマに支給されたモンスターボール。以下はディンルーについての説明とする
大昔パルデア地方に封じられた災厄ポケモンの1体で、遥か大昔の古の儀式で使われた器に注がれた恐怖の感情が、周囲の土石を巻き込んだことでポケモンとなった。
巨大な器のようなものが付いた頭を振り下ろし、地震・地割れを起こす技を得意とする。
覚えている技は『じだんだ(一度攻撃を外した際後に当てると、威力が倍)』、『カタストロフィ(相手のHPを半分。死の寸前にのみ相手を殺せる)』、『じわれ』、『いわなだれ(当たれば低確率で相手を怯ませることが出来る)』
最終更新:2026年02月28日 19:04