血の染みる廊下で、悪魔は動く。
ギシギシと音を鳴らし、床に穴を空け、ゆっくりと歩みを寄せる。
その悪魔は巨大な半身より、少女を見据える。
「どうした?まだ降伏しないのか?」
いびつな声が廊下に響く。
「はぁ…はぁ…」
少女は立っている、血溜まりのうえで。
耳をえぐられ、腹を貫かれ、それでもなお自身の生んだ血の上で立ち続けている。
「お、お姉…」
「大丈夫!私は気にしなくていいから…早く!」
時は数分前に遡る。
◆
暗い病院だ、改装は2階、高くはない、だが奥行きがある。
そんな暗闇の中、泣きながら走る少女が一人いた。
「はぁ…はぁ…誰か…誰か!」
ディパックを担ぎながら、廊下を走っている。
名を石月こより、何の能力もないただの少女である。
「誰か、誰かいませんか…!」
なぜこよりはこんなにも焦っているのか?
彼女は自他共に認めるしっかり者である、本来ならば混乱と恐怖に陥ることさえあれど、こんな何もかもかなぐり捨てて走るような人間ではない。
「誰…きゃっ!」
走ってるさなか、脚をくじき転んでしまう。
「うぅ…早く…誰かを…」
何とか立ち上がろうとするも、足の痛みがそれを許さない。
けど、何もこの世は彼女に厳しすぎるわけではなかった。
そこに現れたのは―――
「わっ、女の子…!?待ってて、動かないで!」
耳から細の長い何かを垂らす、ラフな格好をした少女。
彼女にとっての救世主である。
◆
「…とんでもないことになっちゃったな…」
そう、少女、耳郎響香…ヒーロー、イヤホンジャックは暗い病院で呟く。
「そもそも私、オール・フォー・ワンと戦闘してたはずなんだけど」
ヒーローと敵の頂上決戦、その最中、彼女は敵一の巨悪にして全ての元凶、オール・フォー・ワンと対峙していたはずだった。
なのに今は、このように殺し合いの最中にいる。
「殺し合い…か…何処の誰だか知らないけど、少なくともヴィランってことしかわからないかぁ…」
敵(ヴィラン)、彼女の世界での悪人たちの呼称だ。
だが、当然彼女はベリアルの存在を見聞きしたことはない。
「確かバックが…これか」
バックを見つけ、中を漁る。
とにかく基本の支給品と、出てきたのは。
「なにこれ…刀…?」
綺麗に研がれた刀、説明書も付いているようだった。
「ただの刀に説明書…?何々?三歩…」
耳郎が説明書に目をやった次の瞬間だった。
―――誰か…誰か…!
「!人…しかも小さい女の子だ…!」
遠くからの叫びを彼女は聞き逃さない。
彼女の個性「イヤホンジャック」、たとえ遠くからの声であっても、これさえあれば聞き取れる。
「あっちだ…!」
そう言うと耳郎は駆け出し――
今に至る。
◆
「よし…軽い捻挫だから、安静にしてれば大丈夫だね」
「…あの…えっと…耳郎さん、なんとお礼をすればいいか…」
「あぁ、いいよいいよ、ヒーローとして、人として当然のことしたまでだし」
こよりは耳郎と出会ったことで、なんとか落ち着きを取り戻していた。
「ヒーロー…なんですか?」
「あれ?ヒーローを知らない?そんなこと…」
「漫画の中のヒーローみたいな方なんですね!かっこいいです!」
「あはは…そう言われると照れるかな」
変な気配もなく、談笑する二人。
その時、耳郎がある疑問を投げかける
「で、こよりちゃん、なんであんなに焦ってたの」
「あっ!それは…」
こよりが語ろうとした次の瞬間だった。
「!この音…何…?」
「ひっ…!あれが…あれが…!」
耳郎は聞き取った、目線の先の暗闇から聞こえる足音を。
こよりは怯えている、その対象にすでに出会っているかのような反応と共に。
ここで、再び疑問を再提示しよう。
なぜこよりはこんなにも焦っているのか?
「あぁ…そこにいたのか…」
暗闇の中から声が響く。
その声は低い男性の声かと思えば、雑音と共に女性の声に変わり、更に継ぎ目もなく少年の声になる。
鉄の足が床を穿つ音と共に、機械が躍動と共に動く音もある。
「ッ…!」
耳郎が悪寒に襲われる、この悪寒は感じたことがある
(嫌な感じ…オール・フォー・ワンの邪悪さに似た…!)
重い足音がだんだんと近づいてくる。
「逃げるな、私は君を…」
月夜が、彼女たちの前に立つ敵を照らした。
「生きるための糧にするんだ」
鉄の蜘蛛のような脚、機械仕掛けの人のような腕。
そして、ピエロの格好をした、むき出しの歯と片目だけ眼光を備えた顔。
かつておもちゃ会社の暗部で行われていた、悍ましい実験の始まり。
名を、実験体1006、Prototype
◆
「ッ!」
「おや…お前は…見たことがない、新しい客人か」
歪な声が廊下に響く、耳郎はすぐさま臨戦態勢を取る。
話してわかるような相手じゃない、言葉こそ喋っているがわかりあえるような相手じゃない
「こよりちゃん、下がって!」
「…はい!」
こよりが耳郎の後ろに下がる、Prototypeは変わるように耳郎を見据える。
「まるでヒーローだな」
「残念!ホントにヒーローなの!」
イヤホンジャックが腕の利きにつく。
そこから放たれるのは、強力な波動。
「…」
Prototypeがたじろぐ、それを見た耳郎は笑みを浮かべる。
「どう?私のハートビ…」
だがそのその喜びは。
「…は?」
いとも容易く崩れた。
鋭く、Prototypeの指が、彼女のそれを引きちぎった。
耳郎は一瞬何が起きたのかを理解できなかった、そして痛みが遅れて襲う。
「ッッッッッ!」
「あ…あ…」
「脆いな、ヒーロー」
Prototypeはまた指を合わせ。
「ッ!」
予感した耳郎は、痛みを堪え、横に動く。
だが。
「遅い」
「ぐ…ああああああ」
無慈悲にも、少女の脇腹はえぐれた。
彼女の下の血溜まりは、どんどんと大きくなる。
「どうした?まだ降伏しないのか?」
「はぁ…はぁ…」
Prototypeの問を無視し、耳郎がこよりに目をやる。
「お、お姉…」
「大丈夫!私は気にしなくていいから…早く…早く逃げて!」
「え…?」
耳郎から発せられた答え、それにこよりは驚きを隠せなかった。
「だって…そんなことしたら…!」
「私は大丈夫!だから、私のディパックも持って逃げて!早く!」
耳郎は叫ぶことしかできない、後ろを振り向けば、目の前の怪物に必ず二人揃って殺される。
「…わかりました…必ず、必ず生きてください!」
こよりは耳郎の意思を汲んだのだろう、2つ分のディパックを持つと、廊下の奥へと走り出した。
「…逃さな…」
「それはこっちのセリフ!ハートビートサラウンド!」
「ほう…」
Prototypeが動こうと足を進めようとした瞬間、耳郎が音で動きを止める。
Prototypeは先ほど同じく難なく動こうとするが、動かない、1本削ったはずなのに、先ほど以上の威力、Prototypeもやすやすとは動けない。
彼女の魂の叫びが、怪物の動きを止めているのだ。
「何が貴様をここまで引き立てる?」
Prototypeは耳郎に問う、見ず知らずの子供相手に、なぜここまで命を張る?
「簡単だよ…私が…ヒーローだからだ!」
音波の勢いが増す、Prototypeの足が揺らぐ。
「あぁ、あれとは違う、本物のヒーローか」
しかし。
「なら」
この悪魔は。
「ささっと殺さないとな」
正義を凌駕した。
「ッ!」
Prototypeの爪が、イヤホンジャックをきり落とした。
もう音波は出せない、つまり。
「痛むか?ようやく人間としての感性を戻したか?」
今の彼女に、戦闘手段はない。
「しま…あぐっ!」
Prototypeが巨大で耳郎を押し倒す、そして、その鋭い足を腹に突き刺した。
「あ…あ…あああああああ!」
「こうなれば、ヒーローもただの人間だな」
Prototypeが、指をまた束ねる。
(…ここで終わりか…まだ、ちゃんと夢も果たせてないのに)
耳郎は確信した、もはや自分に勝ち目はない、あるのは死のみと。
(…でも、ヒーローには、慣れたかな)
そして、Prototypeの指が、彼女の首を貫いた。
「ありがとう、ヒーロー、これで私はより、生きながらえるようになった」
悪魔は夜光に照らされ、血溜まりの上で不気味に笑った。
【耳郎響香@僕のヒーローアカデミア 死亡】
【Prototype@POPPY Playtime】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:生き残る
1:邪魔な参加者を殺す
[備考]
参戦時期はリリーのお茶会の後です
◆
逃げる、言われた通りに。
「はぁ…はぁ…」
すでにこよりは病院の入り口にまで来ていた。
Prototypeも追っては来ていない。
ただ、ひたすらに襲うのは。
「はぁ…はぁ…うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
後悔のみ。
「えぐ…これは…」
涙ながらに見つけたもの、それは持ってきた耳郎のディパックから飛び出る刀の柄と紙。
「…これは…えっと…斬魄刀…?」
紙と刀を手に取る、紙に書かれていたのは刀の説明。
「…えっと…おいで、三歩剣獣…」
そう呟いた、次の瞬間だった。
「え…?」
目の前が、黄色くなる、いや黄色くなった原因はすぐわかった、黄色い何が目の前にいる。
自分の背後に気配を感じる、まさかPrototypeかと振り向けば、そこにいたのは骸骨の
化け物。
「は…?え…?は…?」
少女の後悔を塗りつぶすように、困惑が彼女を襲った。
【石月こより@sola】
[状態]:健康、疲労(中)、後悔(大)、困惑(大)
[装備]:三歩剣獣@BLEACH
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3、耳郎響香のディパック(ランダム支給品×0~2含む)
[思考・状況]
基本方針:生きて帰る
1:え…は…え?
[備考]
参戦時期は蒼乃との記憶が消える前。
支給品紹介
三歩剣獣@BLEACH
元は耳郎響香に支給
護廷十三隊十一番隊副隊長、草鹿やちるの斬魄刀
自身の前と後ろに2体の怪物を召喚する特性を持つ特異の斬魄刀。
前、使用者、後ろが同時に攻撃するがそれぞれ攻撃の間合いが違うという特徴があり、前に進めば前の怪物が、後ろに逃げようとすれば後ろの怪物が攻撃するという特性を持つ。
最終更新:2026年03月12日 21:40