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――此処にいる連中同士で、ちょっと殺しあってもらいたいだけさ。

 あのベリアルの言っていたことが頭の中に何度も響いている。
 なんで。どうしてこんなことに。
 女の子の頭の中がぐるぐると回る。
 ここには、慣れ親しんだ家族も、工房も、人々もいない。
 彼女はひとりぼっちだ。

「ううっ……」

 涙を流しそうになる感情をどうにかこらえる。
 恐怖も困惑もあるが、女の子はこれで何もできなくなるほど柔ではない。
 かつては、金髪の旅人と共に迫り来る脅威と戦ったのだ。
 これくらいなんでもないと、自分を奮い立たせる。

「君、大丈夫?」

 そんな時、女の子の元に2人……否、2台の参加者が姿を現した。

「あれ……キミは?……ロボット?」

 そう、ロボット。女の子の前に出てきたのは、ロボットだったのだ。
 人型のロボットに、球形のロボットの二人組。
 すると、女の子は目を輝かせてロボットに駆け寄る。

「すごい、ロボットだ!しかも初めてみるタイプ!」
「え……ええええっ!?」

 ロボットのうちの人型の方が困惑する。
 怖がってそうな女の子を慰めるために話しかけたのに、すごい勢いで食いついてきた。
 それはまるで、見知った博士が好奇心を燃やした時のような目をしていた。

「こんな精巧な造り知らない……ねぇねぇ、どうやって動いてるか見てもいい?ちょっと中を見せてもらうだけだから!」
「い、いきなりは困るかなぁ……」

 女の子に押されながらも、ロボットはやんわりと拒む。
 安易にバラされてしまっては戦えなくなるからだ。
 隣にいるもう球形のロボットも、困惑しているのか首を傾げるように機体を傾けている。

「――!!」

 その時のことだった。
 ロボット達に内蔵されたセンサーが、とてつもない高エネルギーの反応を感知したのだ。

「……へ?」

 女の子は固まったまま反応できない。
 彼女の元に、不意打ちのように一本の光線が飛来していた。
 その時、球形の方が跳び上がって女の子の盾となる。
 結果として無事だったが、球形のロボットは……。

§


 バトルロワイアルの舞台となる浮島に用意された、殺風景な街。
 その中にある工房から、カチャカチャという金属の擦れる音が聞こえてくる。
 まるで何かを組み立てるような響きの中心には、薄桃色の長髪をしてぶかぶかの白衣を纏った女の子と人型のロボットがいた。

「ロックマン、さっきの奴から剥ぎ取ったチップを持ってきて!」
「分かった!」

 女の子は、背後であくせく動いている「ロックマン」と呼んだロボットに指示を出し、まるで手術の執刀医のように手を差し出して待ち構える。
 ロックマンは、この工房に向かう途中で倒したロボット型のNPCから得たパーツを女の子の手に届ける。
 彼は守るべきものを守るため、お手伝い用から自ら志願して戦闘用に改造されたロボットだ。
 ロボットというよりかは、少年と言ってもいいのかもしれない。
 跳ねっ気のある黒髪に、130cm台の小柄な体格に似合う少年らしい顔つきは人間としか思えない。
 その頭部に対して青を基調としたスーツと装甲が彼をロボットたらしめていた。

「ありがと!」

 女の子は、それを受け取ると、器用な手先で台の上に眠る球形のロボットにそれを移植する。
 身長はロックマンよりも低い。
 その体格からして、まごうことなき人間の子供であった。
 しかし女の子は、子供であるにも関わらず、その手の博士が見ても舌を巻くほどの手際で球形のロボットの修理を着実にこなしていた。

「どうかな、アイノちゃん?修理できる?」
「安心して、ロックマン!アイノの手にかかれば、きっと元気になるよ!」

 アイノと呼ばれた女の子は、その小さな手で瞬く間に配線と配線を一つずつ繋いで、そのロボットをあるべき姿へと戻していく。
 背中に接続しているおもちゃのようなアームに工具を持たせて、それらと工具をとっかえひっかえしながら、球形のロボットの外観を整える。

「よし!これで治ったよ!」

 女の子は額を汗をだらんと垂れ下がる白衣の袖で拭う。
 そこには、光線に撃たれて内部構造が露になるまで損傷していた球形のロボットが、何事もなかったかのように鎮座していたのだ。

「……?」
「あっ、目が覚めたみたい!」

 アイノが指差すと、球形のロボットは再び動き出す。
 眼鏡をかけたような造形に、赤いキャップを被った白い球形のロボットは少し戸惑っているように忙しなく動いて周囲を観察する。

「よかったぁ。さっきはありがとう!キミがいなかったらアイノ、生きてなかったかも……。アイノのお家に帰れたら、うんと甘いクルムカケごちそうしてあげるね!」

 アイノは白衣の袖越しに、球形のロボットを愛おしそうに撫でる。
 ロボットも自分を直したのが誰か分かったのか、アイノの周囲を走って明らかに懐いている様子だった。 
 ちなみに、クルムカケとは甘党のアイノの出身地であるナド・クライ定番のお菓子である。

「アイノはね、アイノっていうの!キミの名前は?」
「キューブっていうみたいだよ」

 話すことのできない球形のロボット――キューブに代わって、ロックマンが答える。

「ロックマンもこの子の言葉が分かるの?」
「いや、キューブが撃たれた時に読み取ったデータにそう書いてあったんだ。けど、言ってることはなんとなく分かるかな。多分、僕もキューブも心があるからだと思う」
「アイノも分かるよ!なんとなくだけど、キューブは家族のところに帰りたがってるんだって。だから、アイノが責任持って帰してあげなくちゃ!」

 キューブを大事そうに胸に抱きながらアイノは言う。
 そんなアイノを見て、ロックマンは少し意外そうに、けれども納得がいったような表情を見せる。


「……アイノちゃんにとって、ロボットは家族なんだね」
「当たり前でしょ?アイノが作ったロボットはアイノの家族。キューブはキューブを作った人の家族だし、ロックマンはロックマンを作った人の家族!」
(そうか……アイノちゃんは)

 少しだけ、巻き込まれる前に過ごした、今となっては遠くなってしまった日常に思いを馳せる。
 生みの親であるライト博士に妹のロール。ラッシュにライトット、カットマンを始めとするライトナンバーズの仲間達。
 ロックマンは、自身を作ってくれたライト博士と過ごした時に似た温かさを感じずにはいられなかった。

「だからきっと、その家族が寂しがってると思うの。いきなり大切な人が消えちゃったら、誰だって取り乱しちゃうよ。アイノだって、工房の皆やイネファがいなくて……」

 少ししょんぼりするように項垂れるアイノ。
 そこには単なる寂しさだけではない、生まれながらの孤独に苦しんだ純粋な子供の姿が垣間見えた。

「そのイネファって人もアイノちゃんの家族なんだね」
「もちろん!アイノだけのイネファ!ちゃんと工房に帰って、たくさんクルムカケ作ってもらわなくっちゃ!」

 アイノにとってのイネファは、いわばライト博士にとってのロックのようなものなのだろう。
 言わずとも、心を宿すロックマンは自然と感じることができた。

「だから、こんなよく分かんない場所からみんなで帰らないとね。キューブもそうだし、ロックマンも!家族のところに帰したげる!」
「ありがとう、アイノちゃん」

 にかっと笑みを浮かべるアイノの頭を、ロックマンは優しく撫でる。
 嬉しいのか電子音を鳴らしながら、アイノの腕の中で小さく跳ねている。

「……すごいね、アイノちゃんは」
「当然!カチャカチャ・クルムカケ工房の主だもん!みんなに付けられてるこの首輪も、アイノが内部構造調べて外してやるんだから!」

 ロックマンはこのやり取りを経て誓う。
 アイノを必ず、元の世界へと返す。
 小学校を出ていないほどに幼いながらも天才的な機械工学に優れた知能と器用さの持ち主で、それでいて作り出したロボットを家族として愛情を注ぐ心優しさ。
 彼女は、どんな世界であっても未来のために必要なものだ。
 自身に愛を注いでくれた、造物主の姿を脳裏に浮かべていた。

「――」

 すると、キューブが警戒を促すようにピポピポと鳴る。

「……そうだね。君が直ったならそろそろ移動しないと」
「どうしたの?」
「アイノちゃんは覚えてる?キューブを撃ったあのレーザー」
「うん。それってNPCじゃないの?」
「いや、違う。あの出力はここに来るまでに倒したNPCとは比べ物にならない強さだった」

 怪訝な顔をするアイノにロックマンは己の推測を伝える。

「ということは、遠くから撃ってきたのって……」
「参加者、だろうね。それもとても強力な」

 険しい顔をするロックマン。
 以前戦ったスペースルーラーズという化け物じみた強さを持つ敵と戦ったが、もしかすればそいつらを悠に超える強敵かもしれない。
 連中と相対した時に似た、肌を焼くような感覚がしたのをよく覚えている。

「多分、そいつは今僕達を探していると思う。僕達の居場所がバレないうちにここを離れないといけないんだ」
「アイノ達で倒せないかな?『月の狩人』よりも強いの?」
「月の狩人がどんな人かは知らないけど……アイノちゃんもいるし、このまま戦うと危ないよ」
「アイノは大丈夫だよ!こう見えて腕っぷしには自信あるんだ!」
「そ、そういう問題じゃなくって……!」

 アイノはこう見えて水元素の神の目を所持しており、心身共に子供ではあるが、身の丈もあるほどの大剣を振り回せるくらいには怪力がある。
 力こぶを作るように腕を掲げるアイノを制しながら、ロックマンは続ける。

「あのレーザー、明らかにアイノちゃんを狙ってたんだ」
「アイノを!?悪いことした覚えはないんだけどなぁ……」
「僕達の見えない場所から狙撃されたらまたさっきの繰り返しだよ。今度は僕とキューブだけじゃアイノちゃんを守れないかもしれない。ここは離れて態勢を立て直さないと」

 索敵範囲外から一方的に攻撃されてはどうしようもない。
 この街に無辜の市民が配置されていないのが不幸中の幸いだった。
 罪のない人々が攻撃されていれば、ロックマンはたとえ敵わないと分かっていても出ざるを得なかっただろう。

「……わかった。それなら早く行こう!キューブももう動けるよね?」

 アイノがそう言うと、キューブは肯定するように顔を縦に振って、その腕から降りる。
 そして、各々がデイパックを持って工房から出ようとした時のことだった。






『……みぃつけた』





「ッ!?」

 ロックマンとキューブの脳裏に、無邪気な、しかしそれゆえに恐ろしい少女らしい声が囁く。
 続いて、工房の外に轟音が響く。

「わっ!?なに、何が起きたの!?」

 突如起きた爆音と揺れで尻もちをついたアイノはあたふたとしながらキョロキョロと首を動かす。
 ロックマンとキューブがアイノの傍で身構えていると、工房の天井から爆風が打ち付けてくる。
 三人が同時に上を見ると、なんと先ほどまであったはずの工房からは天井がなくなっていたのだ。
 まるで強引に引き剥がしたように工房が剥き出しになる。
 工房から見えた外の街は、既に破壊し尽くされた後だった。

「なに、あの子……」
「あれが……!」

 三人の視線は、空中を浮遊している人間に注がれる。
 そこにいる”彼女”は、人間ではなくロボット――”彼女”の世界ではエレメントドール、あるいはエレメントドーターと呼ばれていた――であった。
 透き通るようなツインテールの髪とドレスをした少女だった。
 その背中からは六角図形のホログラムで構成された翼のような羽根が生えている。
 一見、戦いとは無縁そうなかわいらしい美少女だが、ロックマンもキューブも確信する。
 あのレーザーを撃ったのは、こいつだと。

「もう、やっと見つけたよ~!」

 少女は口を開くと、まるで探していた友人とようやく会えたような様子でアイノ達に声をかける。

「せっかく人間を見つけたからお手伝いしてあげようって思ったのに、すぐ逃げちゃうんだもん。あ、私は陽菜……いや、今だと陽蜂って呼ばれてるんだっけ。まぁいいや、よろしくね♪」

 これまでのイメージとは違い、陽蜂と名乗る少女は無邪気な声でニコニコとしながら、フレンドリーな口調で話す。
 そして、この緊迫した空気の中で平然と自己紹介だ。
 キューブをレーザーで狙撃し、街を瓦礫の山に変えた奴だとはとてもではないが思えない。
 しかし、思えないからこそ底の知れない不気味さを感じられた。

「あのベリアルって奴のせいで、探すのに苦労したわ。熱源はあるはずなのに場所が特定できないからしらみつぶしに探してようやく引き当てたんだから!」
「そのために、この街を……?」

 ロックマンは、目を見開きながら陽蜂を見上げる。
 聞く限りでは、陽蜂には決して悪意がないように見える。
 まるで、陽蜂を構成する何かが壊れているように思えてならなかった。

「お手伝い……?アイノを撃とうとしたのはキミじゃない!」
「別に殺そうだなんてこれっぽっちも思ってなかったわよ。見た感じいい子みたいだし、私の理想に招待してあげようと思って」
「理想……?」

 何かおぞましいものを感じて、アイノはおそるおそる聞く。
 陽蜂は待ってましたとばかりに、朗らかに語る。

「うん、私の管理する理想の街。みんなが永遠に幸福でいられる場所。みんなが世界をよりよくするために進化し続けてるの!」

 明るい笑みを崩さずに陽蜂は言う。
 まるで自分の夢を語るひたむきな乙女のように。

「あなたもその住人の一員に加えてあげる。機械化惑星人としてね♪」
「機械化惑星人だって……?アイノちゃんをどうするつもりだ!」

 ロックマンとキューブがアイノを守るように前に出る。
 機械化惑星人――あまり聞きなれない陽蜂の言葉に危機感を覚える。
 それはまるで――。


「どうするって、決まってるじゃない。その子を改造してあげるの」

 さもそれが当然であるかのように言い放つ。

「人間みたいな寿命がある上に進化の少ない愚かな生き物なんてやめてさ、機械になっちゃおうよ!そうすれば私も管理できるし、余計な考えも持たずに生きれるよ!」
「何を……言っているんだ……?」

 ロックマンはロックバスターに変えた腕を陽蜂に向けながら、声を震わせる。
 内蔵された人工頭脳が、理解を拒んでいた。

「分かんないの?私と同じ心を持ったドールみたいだけど、物分かりが良くないなぁ。私がみんなのために尽くすにはみんなが『ヒト』である必要がないって言ってるの!」
「ふざけるなっ!そんなこと……認められるか!!」

 ロックマンは声を張り上げて叫ぶ。
 ロックマンはライト博士によって生み出されて、人間の清濁を同時に見てきた。
 善なる人間もいれば、ワイリーのような悪なる人間もいる。
 しかし、そんなワイリーにもロボットに対する愛情は確かにあった。
 一面では捉えられない人間は、互いにぶつかり合って前に進んできた。
 それは人間と同じ心を持ったロックマン達ロボットも、同じだった。

「ヒトから『ヒト』を奪ったら……何も残らないじゃないか!!」

 傍らにいるキューブも、陽蜂を威嚇するようにピピピと警告音を発している。
 キューブもまた、カトゥーやダースを通して人間として学ぶことの大切さを知った。
 それを否定するような陽蜂の考えなど、到底認めることができなかった。

「残るんだってば!新しいカタチになることの何がいけないの!?ねぇ、あなたも分からないの!?自分で作った癖に私を殺そうとした汚い人間になるならさ、そうなる前に綺麗なまま機械になっちゃおうって」
「分からないよ!アイノ、キミの言ってることが分からないっ!人間やめちゃったら、アイノの工房にいるみんなを修理できなくなるし、それにイネファの作ったクルムカケも食べられなくなるじゃない!そんなの絶対に嫌!」

 この場にいる唯一の人間に理解を求めてくる陽蜂を、アイノは断固として拒む。
 陽蜂の言っていることは難しいが、彼女の言う通りになると自分の大切なものが全部失われてしまうと、直感したのだ。

「キミに何があったのかは分からないよ。確かにナド・クライには悪い大人もたくさんいたけど、旅人やファルカおじさんみたいないい人だってたくさんいた!勝手に人間がどうって、軽々しく決めつけるのはよくないよ!」
「ふーん、そっか。分かってもらえないんだね」

 それを聞いた陽蜂の声が一段低くなり、その表情から笑顔が消える。
 まるで殺戮のために造られた機械のような冷徹な表情を見せて、蜂のように羽根を羽ばたかせる。

「さっきは痛くしないように出力を抑えたけど、今度はそうはいかない……」
「来るっ……!」

 その瞳は語っていた。
 『死ぬがよい』と。

「じゃあ、いきますよ」




§





 その差は、あまりにも歴然としていた。

「だだだだだだだだだだぁっ!!」

 陽蜂の高くもどこか狂気を孕んだ声が、その区画の中でスピーカーフォンのように木霊している。
 その声に混じって、おびただしいまでの光弾の弾幕が襲い来る。
 陽蜂の連続で上がる奇声に呼応するかのような、反撃の隙も与えないような厚みのあるエネルギー弾の集合体がそこらじゅうを飛び交い、煌々と深夜の街を照らしていた。

「ぐわあああああっ……!」
「ロックマン!」

 どうにかロックバスターで対抗していたロックマンだったが、光弾に掠って弾き飛ばされてしまう。
 付近を走っていたアイノが、咄嗟に背中のアームでロックマンの身体を掴んで、キューブと共に瓦礫の影へと滑り込んだ。

「ロックマン!大丈夫……?ロックマン!!」
「大丈夫……まだ……やれるよ……」
「駄目だよ!もう装甲がボロボロ……どこかで修理しないと……」

 倒れ込むロックマンの身体は、ところどころにヒビが入り、いつ壊れてもおかしくないような状態だった。
 アイノが修理しようと思えばできるが、今も陽蜂からの攻撃は続いている。
 この瓦礫の山の遮蔽も、いつまで持つか分からない。

「くそっ……なんて火力だ……!」

 陽蜂の圧倒的な弾幕とその威力に、ロックマンは勿論、アイノとキューブも戦慄していた。
 陽蜂の射出する弾幕は彼女の周囲360度に満遍なく、弾丸を超えるスピードで発されており、死角らしい死角がない。
 それでいて、その一発一発が戦闘機を一撃で破壊するほどの威力を持っており、まともに食らえば常人であれば塵一つも残らないだろう。
 ロックマンですら、数発掠っただけでもほぼ動けなくなるほどのダメージを負っていた。

「あそこまで強い奴だったなんて……」

 アイノも陽蜂の脅威をひしひしと感じていた。
 まるで「月の狩人」や「博士」のような、遊び半分で相手の命を狩りとれるほどの脅威が自分を狙っていると思うと、思わず身震いしてしまう。

「……!」

 そんな中、キューブはロックマンに寄り添うようにして、内蔵されている応急処置をロックマンに施す。
 ハイスピードオペと呼ばれる、高速の手術だ。
 それはロックマンのようなロボットにも有効で、ロックマンの受けた傷を幾分か軽減ことに成功した。

「ありがとう、キューブ……」
「ダンゴ虫はっけーん」
「みんな避けてっ!」

 しかし、すぐに陽蜂に捕捉される。
 陽蜂は道端に落ちている石ころを引き剥がすような感覚で、高密度のミサイル側の光弾を噴射して、瓦礫のあった場所を掃射する。
 撃ち出された弾幕はあまりの密度によって質量を伴ったレーザーとなって街を抉り、崩壊した街をさらに破壊し尽くしていく。
 当然ながら瓦礫は瞬時に蒸発し、掃射された痕跡は地割れとなって深いクレバスを描いた。

「アイノちゃんっ!」

 どうにか散開する形で密度と速度を伴った光弾の濁流から避けることができたが、その衝撃で全員がバラバラに吹き飛ばされてしまう。

「やだぁっ!放して!」
「もうっ、じっとしててよぉ」

 その隙に陽蜂はまるでジェット機かと言う速度でアイノに急接近し、いとも容易くその小さな体躯を捕まえる。
 陽蜂の腕の中でじたばたと暴れるが、いくら神の目に選ばれて上昇した身体能力であっても陽蜂の手を力づくで振りほどくことは到底できない。

「ねぇ、あなたはどんな機械になりたい?こう見えて私、あなたのこと気に入ってるのよ?あなたじゃなかったら多分あいつらと一緒に殺しちゃってる……」
「ひっ……」

 抱っこされる猫のように抱えられながら、陽蜂はアイノの瞳をじっと見つめる。

「そこらの人間とは違うものを持ってる……だから、このまま成長して汚れる前にさっさと人間やめて進化させてあげる。大丈夫、特別なタイプに改造してあげるから♪」
「やめて……!」
「痛いのはちょっとだけだから、ね?」
「やめてったら……!!こんのぉっ!!」

 そのままアイノを改造するか、あるいは死なない程度に「改造しやすい形」に変えるつもりだったのか。
 アイノを抱えたまま、腕を光らせて何かしようとしていたが、最悪の事態になる前にアイノは抱えていたデイパックから支給品を取り出す。
 それは、鍔の部分に一対の角の生えた髑髏が象られた禍々しい剣。
 デビルハンターの男に愛用された大剣である。


「どりゃあっ!」
「ちょっ、ちょっと!」

 アイノは神の目による身体能力の強化もあってか大剣を軽々と振り回し、ロボットの構造上脆くなりやすい関節部分を狙って刃を振り下ろす。
 それは悪魔でもなんでもない陽蜂には傷一つつけられなかったが、その衝撃でアイノを抱える力が緩む。

「てぇいっ!」

 その隙を見逃さず、アイノは水元素の神の目から授かった水を操る力でその腕からジェット水流の如き水を噴射し、それにより自分の身体を押し出す形で拘束から脱するのだった。

「もー、暴れると危ないんだから!それにずぶ濡れじゃない……」
「……!」
「はあああっ!」

 そこに、ロックマンとキューブが左右双方から奇襲にかかる。
 ロックマンは至近距離で最大までチャージしたロックバスターを放ち、キューブは高速回転しながら突進するスピンドライブで陽蜂に体当たりした。

「邪魔しないでよ~!」

 そんなアイノを救うための決死とも言える攻撃を、陽蜂は涼しい顔をしながら片手を差し出して防ぐ。
 そのままはたき落とされ、アイノの前にロックマンとキューブは受け身を取ってどうにか着地する。

「大丈夫、アイノちゃん?」
「うん、ありがとう。でも……」

 アイノはロックマン、キューブと共に、険しい目線で陽蜂を見上げる。
 予想はできていたが、それでもあまりにも戦力差が大きすぎる。
 最悪の結末が脳裏をよぎる。
 このまま戦えば、それは必至だろう。

「……なんで。なんでそんなに私の理想が気に入らないの!?あなた達だって見たことあるでしょう!?己の欲望に忠実で醜い人間の姿を!私を殺そうとしたパパのように!!」

 まるで理解できないという風に、陽蜂はロックマンとキューブに呼びかけてくる。
 それを聞いたロックマンもキューブも、ほんの少しだけ固まる。
 陽蜂の言っていた人間に、思い当たる人物や見たことのある光景があるからだ。

「ほら、やっぱり知ってるんじゃない。あなたたちも――」
「――それでも」

 しかし、ロックマンは顔を上げて毅然として答える。

「それでも僕は、人間が好きだ」

 陽蜂の表情が、まるでその視線に射貫かれたかのように、途端に強張る。

「ウソ、どうして?同じ心を持ってるはずなのに、こんなに結論が真逆に……」
「――君こそ、その理想を達成した後はどうするんだ?」

 逆にロックマンが問いかける。

「それは決まってるでしょう?私がメインコンピュータとして管理してあげるの。誰も死ぬことなく、誰も病に侵されず、みんな一緒により良く生きて――」
「君自身は?」
「……」

 虚を突かれたか、不意に投げかけられたロックマンの言葉に、陽蜂は黙る。

「……寂しいよ、そんなの」

 ぽつりと、ロックマンの背後にいるアイノが口を開く。

「誰もキミ自身を見てくれる人がいない。そうなったら……キミ、ひとりぼっちだよ」

 そして、陽蜂はロックマンにアイノ、そしてキューブにすら自身に向けている視線の正体に気づく。
 それは――憐れみ。 

「私の何が分かるって言うの……ッ!?」

 陽蜂の顔から、一瞬だけ憤りの色が出るも、彼女はすぐに引っ込める。

「……そう、分かったわ。そんなに私の邪魔をしたいんなら……もう知らないよーだ!」

 陽蜂はわざとらしく、目元に指を当ててあっかんべーのジェスチャーを取りながら、より高空へと飛翔する。

「……みんな気を付けろ!何か来る!」

 キューブがビービーというこれまでにない警告音を発する通り、ロックマンも先ほどとは比較にならないエネルギー反応が陽蜂から発せられていることに警戒する。
 そして陽蜂は、毒々しい青緑色の光を発色させながら、開花する花のように身体を大の字に広げた。

「私のお花畑ぇ~~~~~っ!!」

 恍惚の表情を浮かべながら、狂気を孕んだ声で陽蜂が叫ぶ。
 それと同時に、まるで咲き誇る満開の花を匂わせる弾幕が陽蜂を中心に展開された。

「あ……」

 思わず、アイノは固まってしまう。
 ほんの少しだけ、綺麗と思ってしまったのだ。
 しかしそれは、当然ながら花ではない。
 一つ一つが、命を刈り取る凶弾である。
 光弾の花びらは留まるところを知らずに範囲を広げて、やがてアイノ達に襲い来た。

「危ないっ!!」
「きゃっ……」

 ロックマンはアイノを抱えながら、キューブと共に後方に退きつつ弾幕を回避する。
 しかし、回避を繰り返しても、また次の弾幕の波が絶え間なく押し寄せてくる。

「あははは……あははははははっ!!」

 陽蜂は絶え間なく笑いながら弾幕を撃ち続け、ロックマン達に息を突く暇を与えない。 
 見た目は空に花を描いていても、あまりにも速い弾速の光弾の塊が錯覚で止まって見えているだけだ。
 まるで絨毯爆撃とでも言える光弾に、ロックマンの顔に疲れが見え始める。
 しかし、いくらロボットの反応速度があるとしても永遠に回避し続けるのは難しい。

「早く降参したら~?でないとその子ごと、パーン!だよ?」
「ぐっ……」

 逃げるロックマン達を嘲笑うように陽蜂は少しずつ近づいてくる。
 その様は、巨人とそれに踏みつぶされる蟻を思わせた。

「キューブ……?」

 すると、スケートの要領で滑りながら弾幕を避けていたキューブが、ロックマンに目配せしてくる。
 何か、当人達の間でしか知覚できないやり取りを行っているようだ。

「……わかった」
「何するの?ダメだよ、自分の身体を粗末にしちゃダメ!アイノが直してあげたんだから!」

 それを見たアイノは嫌な予感がして止めようとするが、それをロックマンはそれを優しく制する。

「大丈夫だよ、アイノちゃん。誰かが残って盾になるなんてことはしない。みんな、やれることを全力でやるだけだ!」

 そう言うと、キューブはジャンプしてロックマンのヘルメットの上に乗る。
 すると、キューブの顔面が突如として外れ、その中からは巨大な砲塔が出現した。
 キューブの球体に内蔵された装備の一つ――「メーザーカノン」だ。 

「へー、ちっちゃいのにそんな物騒なものもってるんだー」

 物珍しそうに見ている陽蜂に対して、キューブは躊躇することなく光線を発射した。

「アイノちゃん、伏せて!」

 発射される瞬間、アイノはロックマンに言われてその胸に顔を伏せる。
 魔王クラスの魔物でさえ、その身体に風穴を開けて葬るほどの高圧縮かつ極太のレーザーだ。
 そのレーザーはたとえ陽蜂の光弾であっても一方的にかき消しながら彼女の身体の元へと一直線に向かっていった。

「当たった……!」

 アイノの言った通り、
 見事、キューブの発射したレーザーは陽蜂に命中し、彼女に当たった瞬間に爆風が吹き荒れ、その身体が煙に包まれる。

「バーリアー!平気だもーん!」

 しかし、キューブの切り札とも言えるメーザーカノンは、陽蜂を包み込む障壁によってあっけなく無効化されてしまっていた。
 鬱陶しいまでにニコニコと微笑みながら、残酷に見下ろして来ていた。

「……へ?」

 しかし、それからすぐに陽蜂の顔は呆気に取られる。
 陽蜂の目と鼻の先にまで、キューブが迫ってきていたのだ。
 黒煙で目暗まししている隙に、ロックマンがキューブの身を陽蜂に投げつけていたのだ。

「キューブ、後は君次第だ……!」
「キューブ……!」

 ロックマンとアイノの視線を背に、キューブは陽蜂と空中で対峙する。

「なになに、なりふり構わず機械化惑星人に志願しに来たの?でも残念、機械は機械でも心を持った機械は受け入れられないかなぁ。特にあなたやそこのロボットのような、私を馬鹿にする奴は」

 それでも、陽蜂は余裕を崩さずにキューブを破壊しようとする。
 もはや対抗策を持ちえない故の、仲間を犠牲にした奴らの特攻か?いや、違う。
 キューブ達の狙いは別にあった。
 陽蜂は何か様子がおかしいことに気づく。

「あ……れ……?」

 身体が、動かないのだ。
 よく見れば、キューブの身体からは配線が陽蜂に向かって伸びていた。
 やがて陽蜂の動きは完全に固まり、一切の身動きが取れなくなっていた。
 同時に、ただでさえ崩壊した街を徹底的に蹂躙していた弾幕もパタリと止み、辺りが静寂に包まれる。

(なにこれ……頭の中に……よく分からない情報が……)

 その時、陽蜂の脳裏には意味のない情報の羅列が強制的に映し出されていた。
 視界のすべてを、「1」と「0」が覆い尽くしていた。

「キューブ!!」

 役目を終えたか、キューブは陽蜂から配線を外すとそのまま地面に向かって落ちていく。
 このまま激突するかと思われたが、駆け寄ってきたアイノに間一髪のところで受け止められた。

「すごいよキューブ!……陽蜂を処理落ちさせて動きを止めるなんて!」
「いちかばちかの賭けだったけどね……!」

 アイノはキューブの球体のボディを何度も撫でて褒め称える。
 キューブは陽蜂に接続して意図的にその処理に負荷をかけることで、一時的に陽蜂の動きを止めることに成功したのだ。
 メーザーカノンは、あくまで囮で、これこそが本命だった。

「……」

 対して、キューブに一杯食わされる形になった陽蜂の表情が次第に怒りに満ちていく。
 同時に、フリーズした彼女の指先がぴくりと動いた。
 動きを止めているとはいえ、猶予は残されていないようだった。

「今のうちに退避を!」

 そう言って、ロックマンはデイパックから車を取り出す。
 陽蜂の襲撃を受けている間はなかなか使えなかったが、ようやく余裕ができたため取り出すことができた。
 それもただの車ではない、キノコの王国で開催されたレースで使用されていた、前後に座席の別れた二人乗りのカートであった。

「……」
「乗って!」
「うん!」

 空中で静止した状態の陽蜂をじっと見つめていたアイノだったが、運転席に座ったロックマンに促され、キューブを抱えて後ろに乗る。
 元の搭乗者の背が低かったのか、130cm代の背丈のロックマンでも容易に運転することができた。
 そのまま、陽蜂が再び動き出す前に、この地獄と化した街から脱出することに成功したのだった。

§

「んもー!くーやーしーいー!!」

 ロックマン達が去ってからしばらくのことだった。
 陽蜂は駄々っ子のように地面をのたうち周りながら悔しがる。
 何より、陽蜂の理想を真っ向から否定してきた挙句に憐れみを向けるなどという屈辱的なことをしてきたために、陽蜂は怒っていた。

「はぁ……でも、まぁいいや。どの道あの丸い子は『終わり』だろうし」

 処理落ちで動きを止めてくると言う奇天烈な戦法をやってきた球体のロボットと、残りの二人を思い返す。
 あいつらは、いずれ陽蜂の理想を実現する上で確実に障害になる。
 あんな屈辱を受けた以上、もう「いい子だから」だとか「特別に」で恩赦をくれてやるつもりはない。
 必ず排除しなければならない。

「私の結論こそが正しいんだから」

 陽蜂。
 元は、かつて究極のエレメントドールを生み出す「プロジェクト”春麗”」によって、生み出された”陽菜”と名付けられたドールであり、人類のことを第一に思い、可能な限り助けることを至上命題に生み出された。
 しかし、彼女の出した結論は、「人を人で無くする」というパラドックスを招くものだった。
 それを危険視された陽菜は凍結されていたが、やがて暴走。
 破壊と殺戮の限りを尽くし、陽菜は"陽蜂”となった。

「この世界にも理想の街を作ってあげようかしら。みんなには、もっと相応しいカタチがあるんだから」

 当然、陽蜂の言う「人間のため」とは人間で無くするため、でもある。
 陽蜂自身の築いた「理想の街」の住人である、元人間の機械化惑星人こそが、あるべき人のカタチだ。

「殺し合いはよくないよね。だから私が救ってあげる。きっとみんな、あの子みたいに私を否定するけど、私頑張るから」

 本来であれば、多少の参加者は機械化惑星人に改造して迎え入れてもいいと思っていた。
 しかし、気に入った人間であるアイノにああも拒絶されては、陽蜂を真に理解してくれる者はいないだろう。
 ならば、やり方を変えるしかない。

「ちょっとの間眠ってもらうけど、我慢しててね。ベリアルも倒して願いを敵えたら機械化惑星人として生き返らせてあげるから!」

 主催陣営も含めた参加者の殺戮。
 そして願いを叶える力で皆を機械化惑星人に蘇らせてハッピーエンド。
 陽蜂の思い描く道のりは決まった。
 陽蜂はルンルンと歌いながら、何処かへと消えていった。

【陽蜂@怒首領蜂最大往生】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]
基本方針:皆殺しした後に皆を機械に蘇らせ、理想の街を作る
0:人類のことを第一に思い、可能な限り助ける。そのために人を人で無くす。
1:あの二人(ロックマン、アイノ)は許してあげない
[備考]
※陽蜂の周囲にある街一区画が崩壊しました。






§


「ここまで来たら大丈夫だよね……」
「追ってくる様子は……ないね」

 十分に距離を取ったと判断したロックマンは、一旦カートを止める。

「はぁ……流石に死ぬかと思ったよ……」

 緊張の糸が切れたか、アイノはその場にへたり込む。

「キューブがいなかったら、アイノ生きてなかったかも。本当にいい子だね、キューブは」……きっといい人に造られたんだね」

 アイノはずっとキューブを胸に抱きながら、その奮闘を労わるように、何度も何度も撫でていた。
 しかし、どこか様子がおかしいことに気づく。

「……キューブ?」

 本来であれば、何かしらの電子音や、喜んでいるかのようなジェスチャーが返ってくるはずだ。
 しかし、今のキューブからは、一切そう言ったものが返ってこなかった。
 どこかキューブは、アイノの腕の中で冷たくなっているような気がした。

「キューブ?ねぇキューブ!返事してよ!!」
「アイノちゃん、どうしたの!?」
「ロックマン!キューブが……」

 縋るようにロックマンに助けを求める。
 しかし、ロックマンであってもどうすることもできなかった。
 アイノがキューブを降ろすと、キューブはボディの一片も動くことなく、人形のように倒れたのだから。

「キューブ!!」

 事態の重さに気づいたロックマンが、キューブを見る。
 しかし、目だった傷は見受けられない。
 陽蜂の奇襲で受けた傷も、アイノが直した。
 ならば何故――。

「ねぇキューブ!起きてよ!どこか具合悪いの?アイノが直してあげるから!」

 そう言って、僅かな希望に賭けて工房から拝借してきた工具でキューブの外枠を外して中を見る。

「ちょっと見せてくれ……!」

 ロックマンはキューブの内部構造に手を当てて、そのデータを読み取る。
 そして、一瞬目を見開いた後、途端に悲しげに目を伏せた。

「ロックマン……?キューブに何があったの?キューブはまた起きるんだよね?そうだよね!?」

 念入りに確認しようとするアイノだったが、ロックマンは答えない。
 それが何よりもの答えだった。

「じゃあ、アイノが直すよ!ねぇどこ?キューブの壊れてるところ、教えてよ!アイノなら絶対できるから!」
「……無理だ」

 辛そうに顔を歪めて、ロックマンは無情とも言える言葉を、敢えてアイノにかける。


「キューブの中にあったデータが丸ごと削除されてるんだ……」
「それって……」

 アイノは目を見開くも、それでも理解を拒んだ。
 まだ綺麗なままのキューブが再び目覚めることを、諦めたくなかった。

「多分、陽蜂に接続した時に防衛プログラムで全部抹消された」
「でも……!」
「人工知能も何もかも消された!もうキューブは……どこにもいないんだ……」

 震えながら、アイノはキューブだったものを見る。
 バックアップのような生易しいものはない。
 仮にアイノが必死に修理して動かしたとしても、それはキューブだった何かでしかないだろう。
 すべてを悟ったアイノは、糸が切れたように跪く。

「いや……嫌だよ。まだお礼しきれてないのに……まだクルムカケ食べさせてあげてないのに」

 アイノの嗚咽が、次第に大きくなっていく。

「……どうして。――どうしてぇえええええっ!!」

 大粒の涙を流しながら、アイノは慟哭した。
 亡骸と化したキューブに突っ伏して、わんわんと泣き続けた。
 全員生き延びられたと思ったのに、知らぬ間に彼は機能を停止していた。
 もっと話したいことがいっぱいあった。お互いの世界のことや、キューブの好きな人間のことなど、教えたいことや知りたいことがいっぱいあった。
 なのに、今はもはやそれは叶わない。

「ぐすっ……えぐっ、ひっく」
「アイノちゃん……」

 アイノもロックマンもしばらくの間、キューブの傍から動くことができなかった。
 その時、不意にロックマンの視界の端に、何か光るものを見つけた。

「これは……チップ?」

 キューブの内部から零れ落ちたものらしい。
 よく見ると、基盤らしき場所の一部が焼き切れていた。
 ロックマンはそのチップを読み込んでみる。
 その内部にあったのは一部の音声データと、キューブの機能を定義したプログラムだった。

「まさか……陽蜂に消される前に……?」

 キューブとの物理的な接続が遮断されたことで、陽蜂の防衛プログラムに消されずに済んだデータが残されていたのだ。

『――人間が作った物に人間が殺される……とことん馬鹿な生き物だよ、人間ってやつは』

 音声データからは、壮年の男の声が再生された。


『ヒューイはお前に『学べ』と言った。それが……これからのお前がすべき事だ。誰かを傷つけるような真似はしちゃいけない』
『フ……ロボットに『考えろ』か……私も焼きが回ったな。 ロボットに説教か』
『!!……何て事だ……ハハ……。ようやく気付いたよ……同じじゃないか……われわれ……人間も……』

「キューブ……」

 アイノは涙の収まらない顔を上げる。
 それはキューブが最期に残したメッセージとしか思えなかった。

「……そうだね、キューブ。ああ、本当にその通りだよ」

 キューブの遺したチップを握りしめて、ロックマンは胸に留める。

「僕達は、君のことを忘れはしない」

 ロックマンはチップの中のプログラムを解析する。
 キューブの遺したプログラムは、「ハイスピードオペ」としてロックマンに継承されたのだった。

「……ロックマン。キューブは……こうなること、知ってたのかな」
「……今となっては分からないよ。……でも、一つだけ確かなことがある」
「……」
「それができるほど……人間が好きだったんだ」

【キューブ@LIVE A LIVE 機能停止】




【ロックマン@ロックマンギガミックス】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]
基本方針:殺し合いを止める
0:キューブ……。
1:アイノを元の世界に帰してあげたい
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※ハイスピードオペを習得しました。


【アイノ@原神】
[状態]:健康
[装備]:リベリオン@Devil May Cry
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]
基本方針:浮島から脱出して、カチャカチャ・クルムカケ工房に帰還する
0:キューブ……。
1:ロックマンを家族の元に帰してあげたい
[備考]
※魔神任務「空月の歌」第八幕終了後からの参戦です。



『支給品紹介』

【魔剣リベリオン@Devil May Cry】
アイノに支給。
反逆の名を冠する、主人公ダンテが使用する魔剣。
魔剣士スパーダが所有していた三振りの剣のうちの一つで、スパーダはこの剣を幼いダンテに託している。


【レッドファイアー@マリオカート ダブルダッシュ!!】
ロックマンに支給。
作中で選択できる、レースに使用されていたマシンの一台。
主にマリオ&ルイージの使用マシンであり、本作と同様二人乗りできる。
最終更新:2026年03月15日 11:59