「綺麗ごとだなぁ、兄弟。お前さんの言ってる事は」
蒼穹に浮かぶ島に誂えられた中世風の民家の一室。
そこで、二人の偉丈夫が向かい合っていた。
1人は高級そうな椅子に腰を掛け、胡散臭い笑みを浮かべる男。
もう一人は、その男を精悍な顔つきで見つめる男。
「プロ・レスリング。いいねぇ、"遊戯(ショー)"の一つとしちゃ立派な文化(エンタメ)だ」
俺もそこに異論はねぇ。
そう言って軽薄な調子で続ける椅子に腰をかけた男は、実に目を引く風体をしていた。
坊主頭に、並びの良い歯を白黒に染め、軍服の様な丈の長い外套に身を包んだ偉丈夫。
彼は相対する男に己を「キャスター」と呼ぶように言った。
「だが、本物(ガチ)じゃない。そして、この島は本物の殺し合いが求められてるんだぜ?」
両手を広げて、煽る様に捲し立てるキャスター。
こうして切り出す直前に男から語られた物語…男がプロレスラーである事実。
その件を発端とした、今自分達が置かれている現実の再提示を、今彼は行っていた。
ともすれば、男の生業の全否定であったが───男が動じる事は無かった。
ただ、瞳に意志の炎をたたえるのみで。
───言われ慣れてやがるか。そう判断したキャスターは、更に話を続ける。
「生憎、俺みたいな奴が召喚されてる以上、単なる人間の興行師にできる事は少ねぇだろうさ」
キャスターの見立てで言えば、目の前の男はただの人間としては腕っぷしに自信がある様子だったが。
それでも自分の様な英霊(サーヴァント)…人を超えた存在には手も足も出ない。
そう踏んでおり、事実その見立ては寸分の狂いなく正しかった。
キャスターの目の前に立つ男はやはりキャスターの言葉を否定しない。
ただじっとキャスターを見つめ、その言葉を受け入れている。
2人が出会った時、キャスターの能力の一端を目の当たりにしていたからだ。
「俺はこの戦いに関したちゃ観客だ。死にたいわけじゃないが必死こいて生き残る動機もねぇ。
ベリアルの奴が言う願いってのも……ま、美味い飯をたらふく食って、いい女を抱きたい。その程度だ」
そこで、始めて相対する男が口を挟んだ。
では、アンタはこの殺し合いでどうするつもりなんだ?と。
生への執着も叶えたい願いも無いが、死にたいわけでもなく。
所作は冷静で、恐慌を起こしている様子もない。
だからこそ、キャスターがどう動くのか、男には読めなかった。
そんな彼に簡単さ、と一言前置いてから、キャスターは明快な答えを提供する。
「言ったろ?俺は観客だって、この恐怖劇(グランギニョル)に巻き込まれたお前さん達───
お前さん達がどんな選択をして、どんな戦いを見せるのか…そんな行く末を見物したいのさ。最前列でな」
明快に、快活に。
キャスターは己の行動原理を開示した。
ただ全てを見届けたい、最前列で。それだけがこの殺し合いにおける彼のスタンス。
その結果、消滅──命を落とすことになったとしても。そう彼は締めくくった。
「……キャスターさんよ、アンタの言いたい事は分かったよ
正直、話の内容はよく分からんけど、それでも伝えたい事は伝わったつもりだ」
キャスターの弁舌に一区切りがついたと判断した男が口を開く。
語られる話の内容は彼にはよく理解し難かったけれど。それでもキャスターが言いたい事は分かった。
プロレスラーだか何だか知らんが、ただでさえ短い寿命を更に縮める様な真似はするな。身の程は弁えた方が少しでも長生きできる。
彼が言いたい事の本質は、そう言う事なのだろう。
「プロレスはショー…はい、ショウ(そう)です。
……………だけど、流してきた血と汗は本物ですよ」
お道化た様に冗談を飛ばした後、真剣な眼差しに切り替わって男は己の認識を述べる。
キャスターの力の一端は既に見せて貰った。
彼が何者かはハッキリ言って額の無い自分には理解不能だが、その力については疑いようがない。
用は人型のゴジラの様な連中がこの地にはいるのだろう。
そんな連中と比べれば、ポンコツ・レスラーの自分など紙細工同然。プロレスも言う通り遊戯に過ぎない。
それは正しいと思う。だけど、それでも。
「それでも俺にはプロレスしかないんです。
飯を食う時も女を抱いている時も、寝るときも…夢の中でさえプロレスの夢を見る位だった」
全身にガンが転移し、元より未来の無い身体。
プロレスラーとしても肘や膝、身体のあちこちが悲鳴を上げて、余命宣告された期間はとっくに過ぎている。
だが、それでも自分は今ここにいる。まだ死んではいない。
それはきっと、自分はプロレスに生かされているからだと男は信じていた。
「俺は死ぬとしても…最後までプロレスラーでいたいし、プロレスって奴を伝えたいんだ」
だから、彼はプロレスラーとしてこのバトルロワイアルを止めたかった。
ただでさえ死に体の身体。生き残れる可能性が奇跡に等しいとしても。
絶体絶命の大ピンチからの大逆転はプロレスにとって最高の見せ場だから。
「プロレスラーは『超人』ですからね。奇跡って奴が起こせるかもしれない」
それが彼の結論だった。
それを述べた後、男は一拍をおいて。
キャスターに協力の要請を切り出す。
アンタが観客でいたいなら最前列を用意してやる、と。
「だから……アンタが俺のスポンサーになってくれ」
真っすぐにキャスターを見据え、禿頭を下げて。
同時に不敵に笑みながらキャスターに伝える。
損はさせねぇ。生で見るプロレスって奴は面白いぜ、と。
対するキャスターは、直接YESNOを答える事はしなかった。
「……俺の生業は物書きだが、元々演劇にも小説にも興味はなかった」
一聞しただけでは要領を得ない語り口。
実際それを聞く男も何の話をしているのかという顔を浮かべてしまう。
だが、それにも構わず、キャスターは徐々に語気と語り口を早めて語り続けた。
「何しろ、世には退屈な悲劇って奴が溢れてたからな。
翻ってこの殺し合いは悲劇としちゃ秀逸だ。お前さん達みたいな今を生きる者達の強制拉致!
閉鎖空間での殺し合いの強制……あぁ、小説にしたらきっと百年先にも残る一流の悲劇になるだろうさ。
まぁ、ハムレットには及ばねぇかもしれねぇがな」
キャスターが生前見たハムレットという悲劇。
その悲劇だけは別格だった。圧倒された。
欄乱と瞳を光らせ、キャスターの語りは続く。
「だが、俺の見たハムレットはシェイクスピアの書いた本物じゃなくてな。
デュシスの旦那が原作を壊しに壊して自分の再解釈した"もどき"だったんだ」
本物(ガチ)に比べればもどきでしかない贋作(フェイク)。
───だが、そのもどきに俺の人生は変えられた!
両手を翼の様に広げ、役者の様に高らかに叫び。
「これだけは、誰にも否定させねぇ……!
偽物(ショウ)だろうと何だろうと、お前の熱意は本物だよ、サムソン!」
謡うように滑らかに。
キャスターの握ったペンが走ると共に、川の流れにも似た細い黄金の光が"サムソン”と呼ばれた男の元へ走る。
それはキャスターが英霊としての宝具の開帳を示す光に他ならなかった。
「お前みたいな馬鹿を
化け物共の驚き役で終わらせるにゃ勿体ねぇ。
お前みたいな奴こそ、英雄であるべきだ………『銃士達よ、風車に挑め(マスケティアーズ・マスカレイド)』!」
「なっ…何だぁっ」
対象の人生を改稿することにより、脆弱な人間を、一流のサーヴァントとの戦闘すら可能な英雄へと変える。
それがキャスターの、アレクサンドル・デュマ・ペールの宝具だった。
光が到達すると共に、サムソンの脳内に一瞬でデュマが書き記した英雄譚がインストールされ。
同時に彼の肉体に人を超えた、超人たる力を与える。
呆気に取られるサムソンに対し、デュマは得意げに笑って。
「兄弟、アンタの言う事は綺麗ごとだ。だがな、俺は綺麗ごとが嫌いじゃない。
何故かって?それは────綺麗ごとほど、よく売れるんだよ!」
で、そこでだ、兄弟。
「俺はベリアルの野郎の元に辿り着いたら言ってやりたい事があるんだよ。それが何だか分かるか?」
尋ねるデュマに対し、サムソンは腕を組んで少しの間考えて。
直ぐに答えへと至り、デュマと同じタイプの笑みを伴って答える。
タイミングすら、ほぼ同時に。
「「───殺し合いなんぞより、こっち(俺の書いた綺麗ごと)/(プロレス)の方が面白れぇだろ?」」
【サムソン高木@ロックアップ-我らあかつきプロレス団-】
[状態]:全身に癌転移。首と膝と肘に痛み(大)、『銃士達よ、風車に挑め(マスケティアーズ・マスカレイド)』
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:プロレスラーとして、プロレスをしてやる。
1:殺し合いはしない。
2:キャスター(デュマ)には最前列でプロレスを見せてやる。
[備考]
※参戦時期は和田アキ男との有刺鉄線デスマッチ以降、荼毘に伏すまで。
【キャスター(アレクサンドル・デュマ・ペール)@Fate/strange Fake】
[状態]:魔力消費(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:作家として、最前列でこの恐怖劇の行く末を見届けたい。
1:殺し合いそのものに興味はない。
2:頼むぜプロレスラー、せいぜい筆の乗りそうな物語を見せてくれ。
[備考]
※はぐれサーヴァントとして現界しています。
最終更新:2026年03月23日 09:33