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正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第6話 3/3 - (2010/09/04 (土) 14:08:49) のソース

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*正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第6話 3/3

 「しねぇ!?化物!!」
 『くっ…させるか!!』
 「大丈夫か!?」
 『何悠長に人の心配してんの!!早くいって!!こいつらは私達がやっつける!!』
 「すまん!!」
 連戦連戦。どんどん散り散りになっていく一行…。後ろは振り向かない。だって、また笑顔で再会できると、信じてるから…!!

 だいぶビルの近くへとやってこれたあたし達。辺りから聞こえてくるのは有象無象の声。悲鳴や怒声。それ
らが混じり合って、負の叫びとなり街に木霊する。早く終わらせなきゃ…こんな事…
 「結構ビルの近くへとやって来たな…もう少しだ。タケゾー、カナミ、気を引き締めていけ」
 火燐は激励するようにあたし達に言う。「そっちもね」と返し、お互いを叱咤しあった。

 「…そこまでよ!」

 「此処から先は、この第三英雄冴島六槻と…」
 「第十一英雄、白石幸が通さない!!」
 ここで現れた英雄と名乗る連中…今までの奴とは感じが違う…
 月下に映るその姿は、英雄というよりは軍人。片方の奴は鉤爪。もう一方は…
 「悪いけど…異形が現れたっていう報告も上がってきてるし…ゆっくりやってあげる時間はないの」
 『"ゲール""ガトリング"』
 「命まで取りはしない…足を狙って、身動きを取れなくします!!」
 黒い髪の女が馬鹿みたいに長い銃身のガトリング砲を、あたし達に向けてぶっ放す。即座に反応したタケ
ゾーがあたしと火燐を物陰へと引っ張ってくれたおかげで被弾は間逃れた。あたしの立っていた地点にいく
つも弾の跡ができる。あぶなかった…
 「隠れても無駄よ…!」
 「大人しく捕まるべさ~!!」
 敵は手練のようだ。想定外…これは一体どうしたもんかな…
 「私に任せろ…異空召喚術で…この場を切り抜ける…」
 火燐はそう言って懐から儀式用の札を取り出す。異空召喚術…次元龍でも騎龍家の者しか使えぬ術…な
んでも異次元の人の形を写し取った"レプリカ"を呼び出すことができるらしく…まぁ、とにかくすっごーい技な
んだとか。この際どうにかなるなら何でもいいよ。
 すぐそこまで敵が近づいてくる。火燐は印を切り、冷静に言葉を発する。
 「異界に存在する強者よ…今一度我にその力を貸し与え賜え!」
 「なに…この光!?」
 火燐の持つ札の一枚が青白く光る…先程までまっさらだったその札に…何かが描かれ、刻まれる。
 札に書かれたのは『悪世巣寄生』という文字と…狐の化物の絵…
 「召喚!!現れろ!汝が名は"悪世巣 寄生"!!」
 光が一層強くなる。辺り一面を光が包み込む。耐えられなくなったあたしは堪らず目を閉じた。
 光が収まったかなと瞼を上げてみると、そこにいたのは狐の化物。まさにあの札に描かれているような…
 「我の名は悪世巣。寄生四天王の一人…」
 「な、何だべ!?」
 「悪世巣寄生・野狐とは我のことよ…愚かな人の子よ」
 狐の尾は、それはもう業火の如く燃え盛っていた。その巨体は、あたしの体の数十倍はあって…もしあの
大口で襲いかかられたらあたしの肢体なんて一口だろう。
 「また変なのが出てきたわね…白石さん、場の状況を見極めつつ応戦して!」
 「あいあいさー!!」『"ブレイブ""クロウ"』
 「ククク…お前達が何者かは知らぬが…その体、なかなか使えそうだ…寄生させてもらおうッ!」

 「さぁ、あれに気をとられている隙に…!」

―――…

 「召喚!現れろ!汝が名は"悪魔リリベル"!!」
 「F U C K …絶望がお前らのゴールデス!」
 「な、なんだぁぁぁぁあぁぁあ!?」
 「ば、バスだァァァぁぁァ!!」
 洋風の、不気味なバスが蒼い炎を纏い、警備隊に突撃する。地獄行脚はまだ始まったばかり。
 どこもかしこも血に塗れ、阿鼻叫喚の元狂気渦巻く、この街は一体どうなってしまったの?行けど行けど、
血の匂い。気がくるってしまいそう。ふと、自分の手を見てみると、真っ赤な手のひらが目に映った。自分
の手じゃないみたい。非現実過ぎて、実感が湧かなかった。いや、受け入れたくなかったんだ。逃げ出したく
なるような現実に目を背けたかった。でもそれは許されない。だってもう逃れられぬところまで来ているから。
 召喚術を連続で使い、流石に辛そうな顔をする火燐。次の敵には対応出来そうにない。…ここからはあた
し達の力で何とかするしか無いんだ。ようやくビルの真下までやってこれたんだから。

 ビルの入り口へと向かう我ら義勇軍…そこには人影が一つ…あたし達を待ち構えていたかのごとく立っていた。
 「よぉー…こんなとこまでわざわざ来るなんて、ご苦労なこった…」
 「お前も私達の邪魔をする気か?死にたくなかったらどけ!」
 「ハッ…威勢の良いクズ共だな、気に入った。第一英雄、炎堂虻芳…直々にお前らの相手をしてやるよ。光栄に思えよォ!!」

―遠くに聞いた声の主はただの…僕の祈りをこえて―

 今正に対峙せんというその時、突然聞こえてくる謎の歌。

 「な、なんだぁ…?」
 「これって、前にも…」

 ―今すぐ行く、西の暦から君を呼ぶペンギンかかか…― 

 「待たせたな!少年少女諸君!!」

 しゅたっ。両者の間に降り立つ見慣れたフード。肩に乗るあのペンギン。間違いない、あたし達に薬をくれた人だ。
 「何だてめぇ!」
 「我、義に流離い義に生きるもの…、今宵、彼らに義がありと判断し…助太刀に参った!!現世に巣食う悪の組織め!
私がムッコロしてあげるから覚悟なさーい!!ふんす!!」
 そういって、フードの人はローブを脱ぎ捨てる。その正体は…
 「"麻"法少女!オールバケーション!見参!!」
 そのフリフリした短いスカート。ピンク色の髪にシルクハット。そしてその手に握られているわ注射器とトイレ
のギュッポン。魔法少女というか変人にしか見えないそれは急速に場の空気を冷ましていった。
 「…魔女っ子&変身ヒロイン創作スレでやれ」
 「勘違すんなよ、私は麻法少女だっつってんだろうがハゲ!!…と、失礼、つい汚い言葉が出ちゃって」
 麻の字を強調して言うオールバケーション。そこは譲れないところのようだ。
 「さぁ少年少女諸君、ここは私に任せなさーい!」
 「え…いいのか?」
 ポカンとした顔でタケゾーは尋ねる。するとオールバケーションは「まっかせなさい!」と頼もしい返事を返してくれた。
 今は少しでも戦力が欲しい…願ったりも無いことだし。ここはオールバケーションに任せることにする。
 「いくよ、タケゾー、火燐!!」
 あたし達は駆け出した。奴の首はもうすぐそこ。ビル前の長い階段を二段飛ばしで登る。
 「通すかよ!!」
 銃剣銃を構える炎堂という男…だがそんな男の頬を何かがかすった。
 「…ッ!?注射器だと…?」
 「あなたの相手は私…覚悟はできてるでしょうね!」
 そう言って、オールバケーションがトイレのギュッポンを男に向けるところが見えた。今が機だと男の横を走
り去るあたし達。
 「ちっ…討ち洩らしたか…全く、俺らが『正義』に歯向かうたァ…いい度胸してんじゃねぇか…お前…」
 「私は己の信ずる『信義』を貫き通すだけだわ…行くぞ下郎!玉梓の一番弟子が我が力!地獄世界まで
轟け功名!」
 「ふん…往生しろ、カスが」 

―――…

 …絶望と逆境の中、あたし達はついにここまでやってきた。役所ビル内部。沢山の人が争って、苦しんで、
死んでいった。あたし達の望んだことはこんな事だったのかな?今はもう…わからないや…

 「きょうはわたしのでばんはないとおもっていたのに…ほかのひとはなにをやっているんですか。ふぇふぇ」

 「え…?」
 戦慄が走った。てっきりこのフロアには誰もいないものだと思っていたから。誰かいる。そう言えば、この声
…どこかで聞いたことがあるような…いや、そんなはずない。だってあの子は…私達とあんなに…
 嫌な予感ばかりが脳裏を過ぎる。どうして、悪い予想というものは当たりやすいのか…
 「お前…何でここに…?」
 「ふぇ!おやおや、タケゾーにカナミにかりんじゃないですか。いったいどーした?」
 声の主…それは昨日、あんなにあたし達と笑い合っていた…トエルだった。この長い金髪ツインテール。見
間違えるはずも無い。
 「お前こそ…何でこんなとこにいんだよ…」
冷や汗が吹き出す。この先は知りたくない。きっと…残酷な現実が待っているから。
 「…そりゃおまえ、このビルのえらーいひとをごえーするためにこうやってここにいるんですし!ふぇふぇ」
 「そうか…お前…あいつらの仲間だったのかよ…」
 タケゾーはそう言って腰の刀を抜く。明らかな敵対。刀が暗い室内にキラリと光る。トエルはそれを黙って見ていた。
 「ふぇ?なかま?よくわからんけどがそーゆーのじゃないですし。というか、はものをむけるのはやめてください」
 「うるせぇよ…友達だと思ってたのに…嘘だったのかよ…!」
 「?…ともだちじゃないの?ふぇふぇ」
 「友達なら…黙ってここを通せぇ!!」
 「それはできないですし」
 運命は…いつも残酷。なんて、捉え方の一つに過ぎない。でもこんなのって…こんなのってない。誰のせい
にすれば、この憎悪を鎮めることが出来るのか。
 …やっぱり、運命のせいにする他無いのだろう。
 「なんでだよぉ!友達じゃんねぇのかよ!」
 「ふぇ!ともだちだからといって、はんざいこーいをみのがすりゆうにはなりませんし」
 「お前…一体なんなんだ…?」

 「"えいゆう"です。12えいゆう…HR-500・トエル」

 そう言ったトエルはまるで、機械のように冷たい瞳をしていた。

 「…そうかよ…おい、カナミ…」
 「何…タケゾー…」
 「お前、火燐連れて先に行け」
 「は?」
 それはつまり、タケゾーが一人で、トエルに挑むっていうこと。今まで"英雄"と名乗る連中は皆、強力な力
を持っていた。トエルだって…例外じゃないはず…
 「何いってんの!?それじゃあタケゾーが…」
 「こいつは…俺がやらねぇと気がすまねぇー!!だから行け!」
 「そんな…タケゾーを一人になんて出来ないって…」
 「いいから!!」
 鬼気迫る表情で、タケゾーはあたしを突き飛ばした。そんなあたしの手を、火燐は黙って引く。
 「ちょっと…!」
 「カナミ…私たちは何のためにここまでやって来た?」
 火燐は埋もれかけていた何かを引きずりだすように、あたしに問いかける。何のため…そうだ、皆の場所を、
街を、ほむっちを守るためにここまでやって来たんだ。その為に…
 「それを守るために…沢山の人が…死んだんだ…」
 「だからこそ…絶対に勝たなくちゃいけないだろう?」
 「でも…こんなのおかしくない?守るどころか…」
 「考えるな!!時間は戻らない。死んでしまった人間は生き返らない。前に進むしかないんだ…!!」
 そう言って、火燐はあたしの手を引いて走り出した。同時にタケゾーが刀を構え、トエルに斬りかかる。
 あんなに仲良くなれたのに。あんなに笑い合えてたのに。その二人は今…刃を交えている。
 タケゾーは優しいね…今この瞬間にも斬りあっている相手に対して、涙を流せるのだから。口では強がって
ても、本当は戦いたくないんだ。あたしはタケゾーのそういうとこ、大好きだよ… 

―――…

 長い長い廊下。一体どれだけ続くのか?とうとう義勇軍はあたしと火燐の二人だけ。皆は…無事なんだろうか?
 「…カナミ?」
 あたしは走る足を止める。いきなり止まったもんだから、火燐は怪訝そうな顔をした。
 「…ゴメン…やっぱあたし、だめみたい…」
 皆のことを考えても…やっぱり…一番に浮かんでくるのはタケゾーの顔だった。アイツのこと以外、考えら
れないんだ。あいつを一人にしないって決めたんだ。だから…
 「あたし…やっぱり戻る…!」
 「こういう場合って、引き止められた試しが無いよな…いいよ、行ってきなよ。ここから先は…私一人で十分だ」
 「ごめんね…火燐…」
 そうして、あたしは来た道を全速力で戻った。前だけを見ること…あたしには出来なかったよ。
 それは一匹の獣のように、吹き荒ぶ竜巻のように。とにかく走った。体裁なんて気にしない。がくがくと痙攣
し、悲鳴をあげる足腰にムチを打ち、韋駄天。ようやくあたしはタケゾーの居るフロアまで戻ってきた!!

 「くぅ!はぁ!!」
 「ふぇ!もうあきらめろ。こどもはおうちでぬくぬくとおんしつやさいのよーにそだっていればいいですし」
 タケゾーは、もう衣服がボロボロで、そこら中擦り傷だらけだった。一方、トエルは全くの無傷。余裕綽々の
表情をみせている。あたしが助けなくちゃ…
 「はあぁぁぁぁぁぁ…」
 魔素を掌に集中させる。それは次第に赤い光となり、燃え盛る。くらえ…あたしの一撃ッ!!
 「やあああぁぁぁぁッッ!!!」
 「!?…カナミ…?」
 火の玉はあたしの手を離れ、トエルに襲いかかる。あたしはこれでも魔法に関しては自信があった。
 「ふぇ!しょせんはこどもだましですし!」
 『"ガード""ウォール"』
 だがしかし、現実は甘くなかった。光の膜がトエルの周りを覆う。火の玉はその膜に弾かれる。あたしの魔
法は当然…届かない。
 でも…タケゾーが無事であることは確認できたから…それでいい。
 「カナミィ!!」
 「タケゾー!生きてたんだ!」
 「勝手に殺すな!!つーか、何で戻ってきやがった!!」
 「言ったでしょ!タケゾーを一人にしないって!それに二人なら…この逆境も乗り越えられると思ったから!」
 「へへ…馬鹿だなぁ…お前…」
 タケゾーには言われたくないと思った。
 「ふぇ!こりないなおまえら!ふぇ!ふぇ!」
 トエルは双剣を振り回し、その刃先をあたし達二人に向ける。覚悟を決める時だ…
 「なぁ、トエル…もう…お前と昨日みたいに笑いあうことって、できねぇのかな…?」
 タケゾーはこれが最後のチャンスだとトエルに訪ねる。
 「そんなことないですし。いまかれひきかえせばいいだけ、ふぇふぇ」
 まぁ…こういう答えが返ってくるだろうなとは思ってたけど…これで決心がついたよ。
 「そうかもしれないなぁ…でもよぉー…もう俺達は戻れないとこまできてんだ」
 「ふぇ?」
 「だから…倒させてもらうぜ…お前をッ!!」
 タケゾーは注射器を取り出した。あの薬の入った注射器…それを注入するため、腕を捲り、そして…針を刺した。
 「うおおぉぉおぉおぉぉぉぉぉおおおおおおッッ!!!』
 先程まで迷いのあった少年は消え、現れた修羅の獣。
 『トエル…おれはぁ…お前を殺してでも…先へ進む!!』
 「…いぎょー…」
 『"異形感知。セーフティーモード解除。対象を殺傷相当と見なし、実行レベルを上げます"』
 どうやらトエルもやる気みたいだ…これで、どっちかが勝って、どっちかが死ぬんだ。
 『カナミ!!魔導剣だ!!』
 「うん!わかった!」
 魔導剣…アタシとタケゾーの合体技。魔素の炎をまとった刃で敵に切り込む…実際にやった試しはないけ
ど…大丈夫。二人ならやれる。
 「はぁぁぁぁ……いっけぇぇぇッ!!」
 徐々にオレンジの炎を纏い始めるタケゾーの刀。そうしてどんどん火力は上がっていき、火柱と形容しても
遜色ないほどの大きさまで膨れ上がった。
 『いくぞ…トエルッ…!』
 「ばけものたいじはえいゆーのつとめ、いざまいらん!あすのため!ふぇ!」 
 『うおぉぉんッ!!』
 炎を纏う刀と、薬により異形化したタケゾーの体。一気に有利になるのかと思えば、そうはいかなかった。
一振、二振。トエルの死角を狙ったり、変則的な太刀捌きをしてみても、トエルにそれが当たることはない。
どんなに切れ味の良い刀も、当たらなければただの棒。
 そこでタケゾーは更なる攻勢に出る。奇をあてらってバックステップからの紫電回し蹴り。これもトエルに防
がれる。これは想定済みだったのか、すぐさま遠心力を掛けた振り向きざまの一太刀をトエルにお見舞いする。
 『"ガード""ダブルセイバー"』
 『何ィ!?』
 これだけ手筈を踏んでも、攻撃は防がれる。尚もトエルの優勢は覆らない。その体捌き、もはや人間の域
にあらず…といったところか。そういえば、体力もタケゾーよりあったし…ホント、この子には驚かされるばかりだな。
 『くっそ!!』
 徐々にタケゾーの動きが鈍り始める。元々疲労していた体を更に酷使しているんだもん。そりゃ動きもにぶるよ。
 「ふぇふぇ。もうそろそろらくにしてあげますし!」
 『"ブレイブ""ダブルセイバー"』
 空圧の刃がトエルの双剣の刀身を覆う。おそらく仕留める気でいるのだろうね。それに感づいたタケゾーも
迎え撃つ構えをとる。多分…次の一撃で勝負が決まる。根拠のない予想が、あたしの中では確信に近いものとなっていた。
 『きやがれえええええええッ!!』
 タケゾーは刀を胴と垂直になるように構え、先を見据える。視線の先には、同じく今一閃を繰り出そうとして
いるトエルの姿があった。
 どっちが勝っても、どっちが負けても、やっぱりあたしは涙をながすんだろうな…

 「ふぇ!しししてしかばね!」
 『…ッ!!』

――――――

―――

―

 「ひろうものなし…!!」
 一瞬、刹那の時の中で勝負はついた。あたしの目の前に広がっていた光景は、正中線に沿い、深々と刻まれた傷から鮮血を吹き出すタケゾーと、返り血に身を赤く染めるトエルの姿だった。
 『ぐあっ…』
 「タケ…ゾー…」
 今まで共に過ごしてきた幼馴染。いつも一緒だった幼馴染。そんなアイツが今、目の前で血を吹いて倒れている。
 「う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
 それからのことは、あまり記憶にない。でも多分、薬を注射して、トエルに襲いかかって…そして…



 「ねぇ、タケゾー」
 「なんだよ、カナミ」
 気がついたら、アタシとタケゾーは二人、隣り合うようにして倒れていた。今までの出来事が全部夢なんじゃないか
…なんて思ったりもしたけど、おびただしい量の流血が、あたしを一気に現実へと引き戻すのだ。
それに、あたし達はこの出来事を夢にしてはいけない。沢山の罪を犯した。沢山の命が果てたこの出来事を。
 「あたしさ…前々から言いたいことがあったんだ…聞いてくれる?」
 「なんだよ…改まっちゃってよぉー…」
 「あたし…アンタのことが好き。異性として」
 「…そうか」
 タケゾーは天井を見上げ、そう、ボソリとつぶやく。しん、とした空間。アタシとタケゾーの二人だけがそこにいた。
 さっきまであれほど五月蝿かった街の方も、今は嘘みたいに静まり返っている。まるでこの世界にあたしと
タケゾーの二人だけしか存在していないんじゃないか?そんな錯覚に襲われる。
 「答えは…?」
 「…ゴメン」
 「だろうね。わかってた」
 「…わかってたのかよ。じゃあ何でわざわざ…」
 「死ぬ前に、言っておきたかったから…告白しないままあの世になんて、行ける訳ないもん…」
 でもこれで、後悔しないで…あの世へと旅立てるよ、タケゾー。 
 「あんた…ほむっちの事、好きでしょ…?」
 「な…」
 不意にほむっちの名前が出て、狼狽えるタケゾー。もう、わかり易すぎる。
 「バレバレだっつの」
 「なぜ…わかったんだよ…」
 「幼馴染ですから」
 「はは…かなわねぇなぁ…カナミには…」
 「初めてほむっちにあった時のこと覚えてる?」
 「ああ…あの山で舞を踊ってた…」
 「あんときにさ…すでにあんたはほむっちに惚れてたんだよ…」
 「…かもなー…」
 あの日からすべてが始まり、そして今の自分達がある。後悔はしない。寧ろ誇ってもいい。皆がいたから楽
しかった。あなたがいたから毎日がドキドキの連続だった。
 「俺達…死ぬのかな…」
 「死ぬんじゃない…?」
 「やっぱ、地獄行きだよなぁー」
 「だろうねー…」
 「怖いな…」
 「…二人一緒にいけば怖くないよ」

 タケゾーと二人なら、恐れるものなんて何も無いんだから…!


 今までの日々の記憶が蘇る。へぇ、これが走馬灯か。
 ふと、辺りを見回すとそこはいつもの山の中。タケゾーの体は随分縮んでいて、まるで数年前のタケゾーだった。
 丘の上に皆が集まっているのが見える。あ、ほむっちもいるじゃん。
 これは…あたしの夢だ。死にゆくあたしに向けられた、最後の贈り物。
 「行こうぜ」
 あの頃の小さいタケゾーはあたしの手を引き、皆の元へと駆けていく。いつの間にかあたしも小さくなって
タケゾーの後を着いていくのだ。
 「いこう、二人で…!」



 死は永遠に、二人を結びつける。想いは色褪せること無く。 

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…カナミ達のお話はこれでおしまい。
カナミもタケゾーも、冴島も白石も炎堂もトエルも、言ってしまえば人々を守る為、何か大切なものを守るために戦っただけ。

これは…そんな優しい人間達のお話。

さて、この話だけではまだ終りではありません。全容を把握するにはまだまだ不十分。
それでは…次のお話…

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―次回予告

第六話「テロリストのウォーゲーム」#2

「龍神の夢、約束の明日」

乞うご期待ください…。 

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