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Mad Nugget 第七話

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Top>ガンダム総合スレ

 「Mad Nugget」 第七話

  火星。惑星開発の手が伸びても赤を保ち続ける、冷砂の星。厚く薄い大気に包まれた極低温の星は、防護服無しでは
出歩く事さえ出来ない。

 ヴァンダルジアは何事も無く火星の大気圏に突入し、赤砂の広がるアマゾニス上空を飛んだ。
 懸念されていた火星軍による攻撃は無かったが、問題は意外な所で発生した。

 それは聖戦団との接触時の事……。ヴァンダルジアは火星基地への案内役である聖戦団の戦艦バグワムに砲口を
向けられた。アドラステアの発展型、砂色の4輪駆動巨大戦艦は、見る者を圧倒する。

「貴艦がヴァンダルジアである事を証明せよ」

 ヴォルトラッツェル艦長は、通信機の向こうの聖戦団火星分団長と名乗る男性に、訳の解らない要求をされた。
 艦体を赤錆色に染めたギルバート級、ヴォルトラッツェル艦長、ローマン大佐。これだけ揃ってヴァンダルジアと
認められないとは……。

「どういう事か、説明して貰おうか?」

 度々起こる想定外の事態に、苛立ちと呆れ半々で分団長に訊ねるローマン。その問に対する返答は、至って単純な
物だった。

「貴艦には、聖戦団の証である“蒼い鳥”が無い。シンボルを失くした艦をヴァンダルジアとは認識出来ない。許可無く
 降下すれば即座に攻撃を加える」

 杓子定規な対応を誰もが理不尽と感じたが、それより蒼い鳥の紋章が消えてしまった事が問題だった。
 響めく艦橋。その中で、ダグラスは犯人を知っていた。

(ハロルド……)
(俺か……)

 ……当のハロルドも困惑していた。
 啀み合い、延々と平行線を辿る話を続けるローマンと分団長。ハロルドは気不味い思いを抱えながらも他人事を
装っていたが、分団長と名乗った男性の声が聞き覚えのある物だと気付き、乱暴にローマンを押し退けた。

「寄越せ! この無能!」
「無能!?」

 驚くローマンに構わず、ハロルドは通信機を奪い取る。そして、怒りを帯びた口調で分団長に食って掛かった。

「手前、第2突撃隊のニーデスだな? 偉そうな口を利きやがって!」
「誰だ? 礼儀知らずな奴……」

 突然割り込んで来た不躾者に、不快感を示す分団長。それが逆鱗に触れたのか、ハロルドは声を荒げる。

「俺の声を忘れたか!! ニーデス大尉!!」
「ハ、ハロルド・ウェザー大佐!?」
「“特別”大佐だ!! 間違えるな!!」
「し、失礼しました!!」

 分団長は相手がハロルドと知ると、途端に緊張した声になった。しかし、ハロルドの怒りは収まらない。

「鳥だシンボルだと煩い奴だな!! これ以上グズグズ吐かすんなら、手前等の支援なんぞ要らん!! この俺が
 直々に聖戦団諸共叩き潰してくれる!!」
「いっ、いいえっ! 短気を起こさないで下さい!」
「何だとっ!?」
「す、済みませんでしたっ! 特別大佐!」
「解ったら、さっさと許可を出せぃ!!」
「はい! 今直ぐ!」

 皆が唖然とする中、ハロルドは胸を張って腕組みをする。その場に居た者は、ローマン以外誰一人として彼の言葉を
冗談とは思わなかった。ハロルドなら本気で聖戦団相手に戦闘を仕掛けかねない。戦中のハロルドの活躍振りを知る
者は、全てを破壊し尽くすバウの姿を容易に想像出来た。恐るべき事に、ダグラスとて例外では無く……。

 聖戦団は地下に基地を構えていた。バグワムに案内されたヴァンダルジアは、砂塵を巻き上げて平原に降りる。
 防護服を着込んだ乗組員と聖戦団員によって、物資がヴァンダルジアに運び込まれる中、ローマンは現在の情報を
整理する為に、数人の聖戦団員と共に地下基地へと移動した。

 ニーデス分団長は、ローマンの背中を見送り、悪態を吐く。

「いけ好かない奴だ」
「ニーデス、どうした? こんな所で突っ立って」

 その肩をハロルドが叩いた。ニーデスは身を竦めて振り向く。

「い、いいえ! 何でもありません!」
「……そう焦るなよ。お前、聖戦団員になったんだな」

 ハロルドは呆れた声で言った。取り敢えず、怒られなかった事にホッと息を吐くニーデス。歳はハロルドより1つ2つ
若いだけなのだが、過去に第1突撃隊と共に進軍した際、何度も救われた事実が彼を萎縮させていた。

「はい! 御二方が敗戦後も逃亡しながら抗戦を続けていると聞きまして!」

 ニーデスの答えはハロルドの表情を曇らせた。何か失言したかと、ニーデスは慌てる。

「あの……何か?」
「……全く、どいつもこいつも……」
「ウェザー特別大佐?」
「ちっ、何でもねえよ! 手前の命だ。精々大事にしろ」
「はいっ!」

 機嫌の悪くなったハロルドから逃げる様に、敬礼して立ち去るニーデス。
 ハロルドは足下の砂を蹴散らし、赤く濁った火星の空を見上げて、小さく零した。

「ダグ……何も彼も、総代表の思惑通りなのか? 下賤の俺には解らんね……」

 俯いて軽く首を横に振った後、ヴァンダルジアに目を遣ったハロルドは、開け放ってあるMS格納庫に運び込まれる
1機のMAを見た。

 アイボリーの蟹の様な機体は、一見すると小型のビグロに見えるが、その正体は突撃隊と共に地球圏に随行した
応急救護隊のMS、QザクのMA形態。ザクⅠを祖とし、ガンダムアシュタロンの機能を一部取り入れた、搬送・修理・
補給・回収を一通り熟す、完全に作業用の機体。名はレスキュー・ザクに由来する。大戦中は一撃離脱戦法を応用した
迅速な行動で、突撃隊を支えて来た。

 額に角があるのは指揮官機。ハロルドは眉を顰める。

「おいおい、まさか……」
「ハロルド・ウェザー君、こんな所で何をサボっているのかな?」

 背後から逞しい女性の声。振り返ったハロルドは、先程のニーデスの様に身を竦めた。

「げぇっ、クーラー隊長!」
「特別大佐殿、随分な御挨拶じゃないか」

 爽やかに笑い掛ける女性は、元応急救護隊長フランシー・クーラー少佐。
 未だハロルドとダグラスが士官学校上がり立ての少尉だった頃、何度彼女に怒られながら機体の修理を受けたか
知れない。当時クーラーは中尉で、現在2人は階級では追い越したのだが、救護を受ける側の立場は覆し難く、今でも
頭が上がらない存在となっている。

 ハロルドは頭を抱えた。

「どうして救護隊長まで聖戦団に……」
「好きで入った訳じゃない。終戦後の撤退時、救護隊の仲間を逃がす為に、連邦軍相手に一暴れしてしまってな……。
 木星に帰るに帰れなくなってしまった。ここの連中は似た様な事情を抱えた者ばかりさ」

 悲しそうに目を伏せるクーラー。しかし、直ぐに明るい表情に戻り、ハロルドの肩を叩く。

「それも昨日までの話だ。今日から補充要員としてヴァンダルジアに乗艦する事になった。宜しく頼むよ、特別大佐」

 げんなりするハロルドを見て、彼女は一層嬉しそうに笑うのだった。

 物資の補給が済んだ後、ハロルドとダグラスは聖戦団の基地内で、ニーデスを始めとする元突撃隊員達との再会を
懐かしんだ。彼等の話によると、聖戦団には敗残兵とは別の集団が存在し、物資の用意等を行っているとの事だった。
背後にはアーロ・ゾット総代表が居る。誰が言った訳でも無いが、皆その様に理解していると言う。
 再戦の時は近い。そこから戦中の話になり、昔語りが始まった。

 昔語りは武勇伝から賞金の話に移り、元突撃隊員の一人が思い出した様に言う。

「賞金と言えば、流石ですね。50ミリオンでしたっけ?」
「何の話だ?」

 ダグラスが尋ね返した所、別の元突撃隊員が答える。

「御存知無いんですか? 中将と特別大佐は、賞金首なんですよ。その額、何と50ミリオン!」

 ハロルドとダグラスは顔を見合わせた。50ミリオンとは、並の人間が何世代掛けても到底稼ぐ事の出来ない金額。
 ダグラスは深刻な面持ちで独り呟く。

「それ程の額となると、軍が手を出さなくとも、賞金稼ぎが放って置かないだろうな……」
「当たり前だ。俺なら軍を辞めてでも仕留めに出るぜ」
「ハル……」

 ハロルドの言葉に反応し、横目で睨み付けるダグラス。ハロルドは決まり悪そうに釈明する。

「いや、飽くまで俺が連邦兵だったらの話。例え話……」
「敵襲っ!! 西方より、こちらに接近するMSの大集団有り!! 総員迎撃態勢に入れ!!」

 直後、スピーカーから聖戦団員の叫び声。ハロルドとダグラスは元突撃隊員達との別れの挨拶もそこそこに、
防護服のメットを抱え、ヴァンダルジアへと急いだ。

 2人がヴァンダルジアのMS格納庫に駆け込んで間も無く、艦は彼等を待っていたかの様に、浮上を開始した。

「遅い!! 何をしていた!?」

 背後からの怒鳴り声に、驚いて振り向く2人。そこには腰に手を当て、仁王立ちするクーラー少佐が居た。
 彼女の右手に握られている小型の通信機は、メリメリと悲鳴を上げている。怒り様からは、何度も2人に呼び掛けた
痕跡が窺えた。しかし、肝心の受信機能があるメットを置いて話し込んでいた彼等には届かなかった。

「追われる身だという自覚が無いのか!?」
「解っています。50ミリオンの賞金首ですから」

 ダグラスは落ち着いた声で冷静に返す。ハロルドは、これ程までに相棒が頼もしく思えた時は無かった。
 一瞬だが、声を詰まらせたクーラー少佐の隙を逃さず、ダグラスは畳み掛ける。

「クーラー少佐、俺とハルが迎撃に出ます。防塵加工は済んでいるんですよね?」
「あっ、ああ……」
「有り難う御座います。ファルメ整備班長にも、お伝え下さい」

 ダグラスは丁寧に頭を下げる。クーラーとファルメ以下整備班が、敵襲に備えてバウ・ワウに防塵加工を施していた
事は御見通し。鋭い洞察力……そこに在るのはスタッフへの“信頼”。
 勢いを殺がれ、返す言葉を失くしたクーラー少佐を見て、ハロルドは思う。ダグラス・タウン、恐るべし。

 バウ・ワウに乗込んだハロルドとダグラスは、遥か遠方、西方から押し寄せて来るMSの大群を迎え撃つべく、赤い
砂海に飛び込んだ。バーニアを吹かして、ゆっくり砂を踏み締めると、ふわりと周囲に赤い粉が舞う。

 モノアイを前方に向けると、砂煙を巻き上げながら迫り来る、多数の陸戦型ガンダム。各々、武装もカラーリングも
区々。鈍足歩行を置き去りに、ホバー進行、スラスター飛翔、それ等に並んでクラフト、フライト、ビームローター!

 ダグラスは相手が火星軍でない事に、安堵の色を滲ませて息を吐く。

「火星の賞金稼ぎ共か」
「金の力は怖いねぇ……」

 応えるハロルドの声は笑いを含む。突撃隊を知らぬが故に、実力差も解らず飛び込む愚か者への嘲けり。
 しかし、交戦距離に入ろうかという所で、先頭をホバー走行していた陸戦型ガンダムが転げた。
 その足下からはクローアームが伸び、ガンダムの足を確と掴んでいる!

「中将! 特別大佐! ここは俺達に任せて下さい!」

 威勢の良いニーデス分団長の声と同時に、砂の中から姿を現すディゴッグの集団!
 続いてディゴッグの後方から出現した真っ黒なMSは、ゴルカ・ニーデスの愛機、バーバラガ!

 ディゴッグはゴッグの派生後継機。砂漠を海原に見立て活動する水陸両用MS。接地面積を増やす巨大な足に、
土中に潜行するドリルクロー、腹部に内蔵されたメガ粒子砲は水中でも減衰しない特殊仕様。奇襲を掛け、次々と
ガンダムを破壊して行く。
 バーバラガはトトゥガの後継機に当たる重砲撃MS。両肩に載せたビームガトリングキャノン、両腕のビームキャノン、
全身を覆うビームシールド、不動の要塞は敵機の進撃を許さない。

 陸戦型ガンダムを喰い止める火星の聖戦団。元軍属の前では、賞金稼ぎなど幾ら数で優ろうが雑魚同然。
 何もする事が無くなったハロルドは、シートに凭れて手を頭の後ろで組み、元同僚の活躍を見守った。

 ……退屈である。ハロルドは暫らく敵味方入り乱れる戦線を茫然と眺めていたが、ふと浮かんだ疑問をダグラスに
投げ掛けた。

「ダグ、奴等は何処で情報を仕入れたんだ?」
「連邦軍の反対派がリークしたんだろう。表立っては主流派に逆らえないから、裏から手を回したのさ」
「成る程、そういう事か。御苦労な事だが、この程度で……」

 ドザァッ!!

 暢気に会話する2人の目の前で、ニーデスのバーバラガが宙に舞った。

「何事!? あのバーバラガをっ!?」

 身を乗り出して驚くハロルド。重武装MSを吹っ飛ばしたのは、濃い紫色の鎧に身を固めたガンダム。
 バーバラガに劣らない鈍重な外観で、ドライブ粒子と砂塵を吹き上げ、低空飛行しながら猛然と突進して来る!

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