Top > 【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】 > 異形世界・「白狐と青年」 > 第13話 1/2
白狐と青年 第13話 1/2
●
「目覚めたかいの、体は大丈夫じゃろうか?」
「……?」
白衣の老人の言葉に少女は目を瞬かせた。
目覚めたばかりの倦怠感に包まれた体を起き上がらせ、見覚えの無い老人を数秒見つめ、次に身の回りの物へと視線をさまよわせた。
自分が居る場所は様々な機械に取り囲まれたベッドの上らしいと少女が認識する間に、
老人は少女が不安に駆られてあちこちを見ていると思ったのだろう、安心させるような笑みを浮かべ、穏やかな口調で言い聞かせるように言った。
「わしは敵ではないぞい。君を健康にしたいと思っておる。異形については分かっていないことが多いんじゃが、君はまた複雑な事情がありそうじゃの」
言いながらベッドの周りの機械をいじっていく老人。しばらくいくつかの機械を見て、「計器的にはOKっぽいかの」と呟くと少女に向かって訊ねた。
「君は信太の森の中にあったカプセルから見つかったらしいんじゃが、よければそんなところになぜカプセルもろとも居たのか、教えてくれんかの?」
目に見える君の衰弱以外に何か問題があるのならそちらにも対処したいしの。
そう言う老人に対して何か答えようと少女は口を開き、
「――……?」
話すべき事柄が頭に思い浮かばなかった。仕方なしに首を振ると、白衣の老人は何かに思い当たったように呟いた。
「もしや、記憶が無いのかな?」
「……?」
白衣の老人の言葉に少女は目を瞬かせた。
目覚めたばかりの倦怠感に包まれた体を起き上がらせ、見覚えの無い老人を数秒見つめ、次に身の回りの物へと視線をさまよわせた。
自分が居る場所は様々な機械に取り囲まれたベッドの上らしいと少女が認識する間に、
老人は少女が不安に駆られてあちこちを見ていると思ったのだろう、安心させるような笑みを浮かべ、穏やかな口調で言い聞かせるように言った。
「わしは敵ではないぞい。君を健康にしたいと思っておる。異形については分かっていないことが多いんじゃが、君はまた複雑な事情がありそうじゃの」
言いながらベッドの周りの機械をいじっていく老人。しばらくいくつかの機械を見て、「計器的にはOKっぽいかの」と呟くと少女に向かって訊ねた。
「君は信太の森の中にあったカプセルから見つかったらしいんじゃが、よければそんなところになぜカプセルもろとも居たのか、教えてくれんかの?」
目に見える君の衰弱以外に何か問題があるのならそちらにも対処したいしの。
そう言う老人に対して何か答えようと少女は口を開き、
「――……?」
話すべき事柄が頭に思い浮かばなかった。仕方なしに首を振ると、白衣の老人は何かに思い当たったように呟いた。
「もしや、記憶が無いのかな?」
*
窓から差し込んでくる日の光に瞼を震わせ、クズハは過去の夢から覚めた。
ここは研究所内の居住区にある一室、クズハが以前使っていた部屋だ。
記憶のほとんどが欠落していたクズハは平賀に自分が発見された時の状況を説明され、
その言葉を諾々と受け入れながら衰弱していた体を回復させていき、やがてこの部屋を与えられた。
研究区を追われる以前からほとんど私物がない部屋は定期的に手入れがなされているのか部屋の主が居た頃と変わらず綺麗なままだった。
クズハはほとんどない私物の中でも大半を占める本棚へと手を伸ばした。そこには種々の勉強をした時に使った書物がある。
それらの背表紙に指を這わせ、今の世の中を一つ一つ理解していった頃を懐かしく思い、
魔法を本格的に学ぼうと思った理由が無事に果たされている現状に大きな喜びを感じた。
と、クズハは窓の外を見た。陽はもう随分と高くまで昇っている。
「あ、昨日の夜、少し遅かったから……」
そう口にしながらクズハは慌てて衣服に袖を通すと居住区内の廊下を食堂に向けて歩きだした。
そうしながら昨日の事を思い出す。
自分の正体、その存在が多くの人に支えられていた事実。これからも自分を認めてくれる人たちの力になりたいという強い思い。
そして、
傍にいて良いと言ってくれた……。
私はこれからこの思いを自らのよすがとしていこう。クズハは思い、自然とその面に笑みを浮かべた。
自身の回復も完全ではないのに目覚めたクズハの様子を見に来てくれた人。彼女を拾ってくれた人。
森の中、朦朧とした意識の中で最初に感じた彼の感触を、匂いを、声を憶えている。
「がんばろう、もっと」
小さく呟きが漏れた。
食堂の方から彼の声が微かに聞こえて、クズハは銀に陽光を反射する毛が生えた耳をそばだて、小走りに駆けだした。
ここは研究所内の居住区にある一室、クズハが以前使っていた部屋だ。
記憶のほとんどが欠落していたクズハは平賀に自分が発見された時の状況を説明され、
その言葉を諾々と受け入れながら衰弱していた体を回復させていき、やがてこの部屋を与えられた。
研究区を追われる以前からほとんど私物がない部屋は定期的に手入れがなされているのか部屋の主が居た頃と変わらず綺麗なままだった。
クズハはほとんどない私物の中でも大半を占める本棚へと手を伸ばした。そこには種々の勉強をした時に使った書物がある。
それらの背表紙に指を這わせ、今の世の中を一つ一つ理解していった頃を懐かしく思い、
魔法を本格的に学ぼうと思った理由が無事に果たされている現状に大きな喜びを感じた。
と、クズハは窓の外を見た。陽はもう随分と高くまで昇っている。
「あ、昨日の夜、少し遅かったから……」
そう口にしながらクズハは慌てて衣服に袖を通すと居住区内の廊下を食堂に向けて歩きだした。
そうしながら昨日の事を思い出す。
自分の正体、その存在が多くの人に支えられていた事実。これからも自分を認めてくれる人たちの力になりたいという強い思い。
そして、
傍にいて良いと言ってくれた……。
私はこれからこの思いを自らのよすがとしていこう。クズハは思い、自然とその面に笑みを浮かべた。
自身の回復も完全ではないのに目覚めたクズハの様子を見に来てくれた人。彼女を拾ってくれた人。
森の中、朦朧とした意識の中で最初に感じた彼の感触を、匂いを、声を憶えている。
「がんばろう、もっと」
小さく呟きが漏れた。
食堂の方から彼の声が微かに聞こえて、クズハは銀に陽光を反射する毛が生えた耳をそばだて、小走りに駆けだした。
●
「それにしても、人に異形の体を……ねえ」
呆れたような色を持って発された彰彦の言葉に匠は首を傾げた。
「知らなかったのか?」
昨日の言動を思い返す限り、匠には彰彦は全て知っているものだと思われた。
そう告げると彰彦はいやいやと首を振り、
「キッコさんが『全く知らんわけでもないだろうて』って言ってただろ?
俺はクズハちゃんが元々人間だってのはキッコさんに聞かされて知ってたけどさ、なんで異形として生きてんのかまでは知らなかったんだよ。
俺りゃてっきりキッコさんがどっかで孤児でも拾ってきてこの子は異形に育てられたのだから異形の子よ! とかのたまってるのかと思ってたんだよな」
おかげで昨日の話にゃたまげた。と茶を啜る彰彦。
二人は朝食を摂る為に出てきた食堂で鉢合わせしてからずっと昨日の事を話し合っていた。
互いに誰かと話して自分の中で情報を整理したかったのだろう。
ひとしきり話し終わると彰彦は唐突に訊ねた。
「で? どうよ」
「なにが?」
せめて主語を言えと返すと、「そりゃ……」と彰彦は何か言葉を探し、
「いろいろと知って、どうなのかってことだよ」
「随分と曖昧だな」
そう答えながら、匠は彰彦の言葉を思案した。
昨日、話を聞いてしばらくの間呆然自失としていたクズハを思い出す。
放っておくとそのまま壊れそうで、つい声をかけずにはいられなかった……。
「……少し、クズハに聞かせるには早かった気がしないでもないかな」
「だろ?」
我が意を得たりと彰彦。
「もうちょい大人になるまで待っても良いって思ってたんだよ」
匠はキッコ相手に同じような事を言っていたのを思い出し、確かに……。と思い、「でも」と苦笑した。
「それだとたぶんクズハがまた自分が人を襲うんじゃないかと気にして精神的にきつくなってたと思う」
「キッコさんがクズハちゃんにちょっかいかけなきゃ問題無かったんじゃねえか?」
「それでも俺がクズハを知らないうちに追い詰めてた」
「あー、そういやキッコさん、んな事言ってたな」
「一応クズハには気を遣っていた、つもりだったんだけどな」
……難しい。
思い、深いため息交じりに頭を垂れた。
空気を変えるように彰彦が「そういえば」とわざとらしく口の端を楽しげに歪める。
「昨日のあれ、面白かったぜ?」
「あれ?」
さて、何か面白い事などあっただろうか?
昨日はクズハの事を聞いて色々と精神的に大騒ぎで面白い事は特に無かったはずだ。
キッコの人化には驚いたが……。
匠が考えていると彰彦が嬉々として話しだした。
「あれだよ。お前キッコさんとクズハちゃんの事で揉めてたじゃねえか。
クズハちゃんを危ない目にあわせたくなくて寂しがらせてキッコさんに付け込む隙を与えた匠と、保護しておいてその体たらくはなんだと責めるキッコさんの図」
「ああ、あれか……」
思わず渋い顔をする。
「あれな、家庭を疎かにして姑に叱られてる駄目な男って感じに見えたぜ?」
彰彦の言葉に匠は渋面を濃くした。小さく告げる。
「……姑怖過ぎだ」
ちげえねえ、と彰彦が笑い、お、と何かに気付いたような声を上げて手を振った。
「クズハちゃーん」
彰彦の視線の先に目を向けるとクズハが小走りにやって来ていた。
小さく息を切らしたクズハは「おはようございます」と頭を下げる。
少し前に起きたばかりなのだろうか、寝ぐせがついた長い髪が頭の動きに合わせてサラサラと流れる。
「おはよ、昨日は大変だったな」
彰彦が労うように言う。
「いえ、私はもう大丈夫です。私よりも、宴会の方が大変だったんじゃないですか?」
「あー、あれな……」
たははと笑う彰彦に匠が半目を向けて深く頷く。
「まったく、飲みたいだけだったろ。お前たち」
昨日、クズハが笑みを見せたタイミングを見計らってキッコが「匠もクズハも色々と知ったことだしの、記念に宴でもしようぞ」と言い出した。
「二年振りの帰郷祝いも兼ねてじゃな!」
そう平賀も賛同し、
「キッコ、待つんだ」
「平賀のじいさんもちょっと待て」
「まあいいんじゃねーの? せっかくだしパーっとやろうぜ? パーっと! なっ!」
「……え、あ……はい」
反対意見はあっさり棄却され、結局なし崩し的にささやかな宴席が設けられていった。
「まあ、そんな派手な宴会でもなかったじゃねえか。匠もクズハちゃんも飲まなかったし」
「規模は確かにささやかだったはずなんだがな……」
彰彦に匠はため息交じりに返す。
たった六名、しかも飲む気にはなれなかった匠とクズハ。
飲んだ末に起こる事態を予測していたのだろう明日名の三名は酒には手を出していなかったのにも関わらず、
気が付いたら周囲にはダース単位で酒瓶が転がっていた。
「……キッコ、平賀のじいさん、彰彦のせいで妙に大変だった」
結局日付が変わるまで酒飲みたちに付き合う羽目になった匠達は朝が遅くなっている。
「そのくらい許せ」
落ち着いているくせにどこか気位の高そうな声が背後でした。振り返ると笑みを浮かべたキッコと明日名が居る。
「やあ、おはよう三人共」
それぞれに挨拶しながら困り顔をする明日名。
「昨日は本当に迷惑をかけたね」
「いや、迷惑かけたのはそこの女狐とチャラい野郎だから」
「どこからどう見ても人間の美女に向けて何を言うか」
「俺のどこがチャラいよ?」
「キッコのそれは変化だろ。彰彦はそのチャラチャラしてるネックレスやらピアスやらをどうにかしてから言え」
えー。と文句を垂れる二人をとりあえず視界から外す。その様に明日名が微苦笑した。「平賀博士から言伝だ、念のための検査があるからクズハは来るように。とのことだよ」
検査という言葉にクズハがピクンと反応した。少し硬い声で「はい」と返事をする。
「了解。じゃあ行こうか」
匠が立ち上がろうとし、
「わざわざ立ち会うようなものでもない。≪魔素≫の流れを見る役をするついでに我がクズハに付き添おう」
キッコが匠を遮るように言い、そのままクズハの背後まで歩み寄り、その背にしなだれかかって頭に顎を乗せた。
「わ」
「相も変わらず好い感触だの」
キッコの金髪とクズハの銀髪が混ざる。胸に押し潰されて呻いているクズハを露わにした尻尾で巻きつける。
「えーと、キッコさん、やめてくださいませんか?」
「よいではないかー」
クク、と喉の奥で笑いながらキッコは機嫌よさげにクズハを撫でまわす。
見かねて何事か言ってやろうと匠は思い、
「じゃあ、任せようかな。でもクズハが困っているからそれはやめるように」
今度は明日名に先を越された。
「その間、俺達は外で適当に食べ物でも仕入れてくるよ。坂上君も今井君もそれでいいね?」
そう言って明日名は匠と彰彦の肩に手を置く。
匠はキッコにクズハを任せる事に微妙に不服を感じながらも頷いた。
呆れたような色を持って発された彰彦の言葉に匠は首を傾げた。
「知らなかったのか?」
昨日の言動を思い返す限り、匠には彰彦は全て知っているものだと思われた。
そう告げると彰彦はいやいやと首を振り、
「キッコさんが『全く知らんわけでもないだろうて』って言ってただろ?
俺はクズハちゃんが元々人間だってのはキッコさんに聞かされて知ってたけどさ、なんで異形として生きてんのかまでは知らなかったんだよ。
俺りゃてっきりキッコさんがどっかで孤児でも拾ってきてこの子は異形に育てられたのだから異形の子よ! とかのたまってるのかと思ってたんだよな」
おかげで昨日の話にゃたまげた。と茶を啜る彰彦。
二人は朝食を摂る為に出てきた食堂で鉢合わせしてからずっと昨日の事を話し合っていた。
互いに誰かと話して自分の中で情報を整理したかったのだろう。
ひとしきり話し終わると彰彦は唐突に訊ねた。
「で? どうよ」
「なにが?」
せめて主語を言えと返すと、「そりゃ……」と彰彦は何か言葉を探し、
「いろいろと知って、どうなのかってことだよ」
「随分と曖昧だな」
そう答えながら、匠は彰彦の言葉を思案した。
昨日、話を聞いてしばらくの間呆然自失としていたクズハを思い出す。
放っておくとそのまま壊れそうで、つい声をかけずにはいられなかった……。
「……少し、クズハに聞かせるには早かった気がしないでもないかな」
「だろ?」
我が意を得たりと彰彦。
「もうちょい大人になるまで待っても良いって思ってたんだよ」
匠はキッコ相手に同じような事を言っていたのを思い出し、確かに……。と思い、「でも」と苦笑した。
「それだとたぶんクズハがまた自分が人を襲うんじゃないかと気にして精神的にきつくなってたと思う」
「キッコさんがクズハちゃんにちょっかいかけなきゃ問題無かったんじゃねえか?」
「それでも俺がクズハを知らないうちに追い詰めてた」
「あー、そういやキッコさん、んな事言ってたな」
「一応クズハには気を遣っていた、つもりだったんだけどな」
……難しい。
思い、深いため息交じりに頭を垂れた。
空気を変えるように彰彦が「そういえば」とわざとらしく口の端を楽しげに歪める。
「昨日のあれ、面白かったぜ?」
「あれ?」
さて、何か面白い事などあっただろうか?
昨日はクズハの事を聞いて色々と精神的に大騒ぎで面白い事は特に無かったはずだ。
キッコの人化には驚いたが……。
匠が考えていると彰彦が嬉々として話しだした。
「あれだよ。お前キッコさんとクズハちゃんの事で揉めてたじゃねえか。
クズハちゃんを危ない目にあわせたくなくて寂しがらせてキッコさんに付け込む隙を与えた匠と、保護しておいてその体たらくはなんだと責めるキッコさんの図」
「ああ、あれか……」
思わず渋い顔をする。
「あれな、家庭を疎かにして姑に叱られてる駄目な男って感じに見えたぜ?」
彰彦の言葉に匠は渋面を濃くした。小さく告げる。
「……姑怖過ぎだ」
ちげえねえ、と彰彦が笑い、お、と何かに気付いたような声を上げて手を振った。
「クズハちゃーん」
彰彦の視線の先に目を向けるとクズハが小走りにやって来ていた。
小さく息を切らしたクズハは「おはようございます」と頭を下げる。
少し前に起きたばかりなのだろうか、寝ぐせがついた長い髪が頭の動きに合わせてサラサラと流れる。
「おはよ、昨日は大変だったな」
彰彦が労うように言う。
「いえ、私はもう大丈夫です。私よりも、宴会の方が大変だったんじゃないですか?」
「あー、あれな……」
たははと笑う彰彦に匠が半目を向けて深く頷く。
「まったく、飲みたいだけだったろ。お前たち」
昨日、クズハが笑みを見せたタイミングを見計らってキッコが「匠もクズハも色々と知ったことだしの、記念に宴でもしようぞ」と言い出した。
「二年振りの帰郷祝いも兼ねてじゃな!」
そう平賀も賛同し、
「キッコ、待つんだ」
「平賀のじいさんもちょっと待て」
「まあいいんじゃねーの? せっかくだしパーっとやろうぜ? パーっと! なっ!」
「……え、あ……はい」
反対意見はあっさり棄却され、結局なし崩し的にささやかな宴席が設けられていった。
「まあ、そんな派手な宴会でもなかったじゃねえか。匠もクズハちゃんも飲まなかったし」
「規模は確かにささやかだったはずなんだがな……」
彰彦に匠はため息交じりに返す。
たった六名、しかも飲む気にはなれなかった匠とクズハ。
飲んだ末に起こる事態を予測していたのだろう明日名の三名は酒には手を出していなかったのにも関わらず、
気が付いたら周囲にはダース単位で酒瓶が転がっていた。
「……キッコ、平賀のじいさん、彰彦のせいで妙に大変だった」
結局日付が変わるまで酒飲みたちに付き合う羽目になった匠達は朝が遅くなっている。
「そのくらい許せ」
落ち着いているくせにどこか気位の高そうな声が背後でした。振り返ると笑みを浮かべたキッコと明日名が居る。
「やあ、おはよう三人共」
それぞれに挨拶しながら困り顔をする明日名。
「昨日は本当に迷惑をかけたね」
「いや、迷惑かけたのはそこの女狐とチャラい野郎だから」
「どこからどう見ても人間の美女に向けて何を言うか」
「俺のどこがチャラいよ?」
「キッコのそれは変化だろ。彰彦はそのチャラチャラしてるネックレスやらピアスやらをどうにかしてから言え」
えー。と文句を垂れる二人をとりあえず視界から外す。その様に明日名が微苦笑した。「平賀博士から言伝だ、念のための検査があるからクズハは来るように。とのことだよ」
検査という言葉にクズハがピクンと反応した。少し硬い声で「はい」と返事をする。
「了解。じゃあ行こうか」
匠が立ち上がろうとし、
「わざわざ立ち会うようなものでもない。≪魔素≫の流れを見る役をするついでに我がクズハに付き添おう」
キッコが匠を遮るように言い、そのままクズハの背後まで歩み寄り、その背にしなだれかかって頭に顎を乗せた。
「わ」
「相も変わらず好い感触だの」
キッコの金髪とクズハの銀髪が混ざる。胸に押し潰されて呻いているクズハを露わにした尻尾で巻きつける。
「えーと、キッコさん、やめてくださいませんか?」
「よいではないかー」
クク、と喉の奥で笑いながらキッコは機嫌よさげにクズハを撫でまわす。
見かねて何事か言ってやろうと匠は思い、
「じゃあ、任せようかな。でもクズハが困っているからそれはやめるように」
今度は明日名に先を越された。
「その間、俺達は外で適当に食べ物でも仕入れてくるよ。坂上君も今井君もそれでいいね?」
そう言って明日名は匠と彰彦の肩に手を置く。
匠はキッコにクズハを任せる事に微妙に不服を感じながらも頷いた。