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NEMESIS 第5話 告死天使 2/2


「さあ、どうぞ。少々散らかっていますがお寛ぎください。コーヒーと紅茶、どちらがよろしいですか?」

彼のその言葉に神谷、ステファン、クラウス、ベルクトがコーヒーを、ヒカリ、セフィリア、アリーヤが紅茶を頼む。
コクリと頷いてシュヴァルツは7人をリビングへと案内する。一人暮らしをやっているとは思えないほど大きなテーブルは10人はかけられるだろう。
部屋の様子もシュヴァルツの先ほどの言葉とは裏腹にとてもきれいに片付いていた。彼の仕事道具であるパソコンもその周りの書類もデスクにきれいに収まっていた。
テーブルに備え付けの椅子は10台用意されていてそれぞれ思い思いの場所に腰掛ける。3分ほどでシュヴァルツが戻ってきた。
彼が両手に握るトレーの上には8つのティーカップが湯気を立てていた。頼まれたとおりにコーヒーを4つ、紅茶を4つ持って各自に渡す。
そしてシュヴァルツは7人を全て見渡せる端の席に腰掛けた。

「さて、ご用件を窺いましょう。クラウスさんのその懐かしい格好を見る限り告死天使が再び必要とされるような事件が起こったと推測しますが」
「いやシュヴァルツ。そういうことじゃないんだ。実は…」

クラウスが彼に今回の事件を説明する。手元の紅茶にミルクと砂糖を入れてマドラーでかき回しつつ彼はクラウスの話を聞いた。

「そして、この神谷さんが今回の事件の犯人が告死天使なんじゃないかって疑惑を持って、みんなのところを回って一人ずつ確かめてるっていう訳なんだ」
「なるほど…それではその時のアリバイを証明すればいいわけですね。その時は確か近くのコンビニで夕食を買いに行っていましたが。証拠はこのレシートです」

と言ってシュヴァルツはポケットの財布からそのレシートを取り出し、クラウスに手渡す。通常レシートの上部には会計時の時間が記されており、
今回のレシートもその例に漏れずしっかりと時刻が記されていた。その時刻は犯行時刻の5分前だった。買ったものも弁当と飲料と
彼の言うように夕食であり、彼のアリバイもまた完璧であった。これで3人目である。

「実はシュヴァルツ。君にもう一つ頼みたいことがあるんだ。今回の事件、フィオによるとCWジェネシスが関わっていて証拠がつかめそうにないんだ。
 そこで君にハッキングしてもらえれば…と思うんだけど、どうかな?」
「…そうですね。では一つ約束して下さい。今回の件で私のことを捕まえたりしないと。フィオラートさんは約束を反故にする方ではないので」
「ああ、それならこれからみんなでアスナのところに集まることになってるんだ。フィオも来るからその時に話すといいよ」
「わかりました。では今回の件、承諾しましょう。何か進展があれば逐一連絡いたしますので。ではまた後でアスナさんのもとで」

そして一行はシュヴァルツの元を後にする。路肩に止めてあった車にも奇跡的に何の異常もなく再び車は発進した。後二人。

「なあ、今のあいつ。仲間に対してなんであんなに他人行儀なんだ?」
「アハハ…彼は昔からああなんですよ」

神谷が車の時計を確かめるとデジタル時計は午後3時を示していた。最初に出発したのが午前10時であり、実に5時間が経過していた。
だが残すところあと二人。二人ともこのスラムで暮らしている。これなら日没までにはこの聞き込みも終わらせられるだろう。
しかし、ここで神谷は信じられないものを目の当たりにする。車を急停車させ、慣性の法則に則って後部座席に座っていた5人が前のめりになる。

「ちょっとどうしたんですか?神谷さん」

先ほどのブレーキでぶつけた額をさすりながら問うたクラウスの言葉を完全に無視して神谷は運転席を降りて路肩へと走り出す。
そして何かを拾い上げてそれを抱えて再び運転席へと戻ってくる。隣のステファンがそれを見て思わず声をあげてしまう。
見ると神谷のその腕には生まれて間もないまだ臍帯がついたままの赤ちゃんが抱えられているではないか。

しかも衰弱が激しい。このままでは死は免れなかった。赤ちゃんを後部座席のセフィリアに手渡し、神谷は半ば叫ぶように問うた。

「ここから一番近い病院はどこだ!」
「シオンのところなら10分で着きます。それ以外だと最低でも30分以上は…」

クラウスがいい終わるよりも早く神谷は車を急発進させる。やはり慣性の法則に基づき、今度は後頭部を座席にぶつける。
車に搭載されたGPSを目印に神谷は病院へと向かう。クラウスは10分だと言っていたが
彼は5分でたどり着くつもりであった。
いかにメインストリートといってもここはスラムである。車などほとんど通ってはおらず、神谷はガラガラの通りを爆走する。
次の交差点を右に曲がった先が病院だ。しかし、ここで非常事態が発生する。神谷たちのバンが交差点に進入しようとしたまさにその時、
左側から大型トラックが進入してきたのだ。絶望的な表情を浮かべる助手席のステファン。だが神谷はその表情を眉ひとつ動かすことはなかった。
全力でブレーキを踏み、ハンドルを全力で右に切る。バンはテールスライドを起こし、ドリフト状態で交差点に進入する。
その遠心力で後部座席の5人が左のめりになるがそんな状態でもセフィリアは腕の中の赤ちゃんを必死で抱え続けた。

「お願い…死なないで…」

セフィリアが涙を両目にたたえて祈る。その隣でヒカリもまた祈る。

「天国のお父様、力を貸して…!」

そして、ドリフトで交差点に進入した車は間一髪トラックの前に踊りでることができた。ドリフトから直線運動に戻すためにまたハンドルを調整し、
ステアリングを整える神谷。それから20秒で、ついに目的地の病院が見えた。駐車場に車を滑り込ませ、病院の入口にぴたりとつける。
車が止まると同時にセフィリアはバンの扉を開け放ち、病院に向けて全力で走りだす。自動ドアをくぐり、彼女は韋駄天のごとく病院内に
走りこんだ。残りの6人もさながら雪崩のように病院に突入した。神谷が病院に突入すると受付のところでサラサラの銀髪を肩まで伸ばした
クールビューティー風の女医がセフィリアの説明を聞き終えて、看護師たちに緊急手術の用意を促していた。
セフィリアから赤ちゃんをその女医に預け、彼女は赤ちゃんを抱えて手術室へと入って行った。そのドアが閉じ、ドアの上の『手術中』のランプが赤く点灯する。
手術室前に用意された背もたれのないソファに腰掛けて手術の成功を祈る7人。廊下を少ない蛍光灯と自動販売機から漏れる光が照らしているが
ひどく薄暗かった。7人の間に重い沈黙が流れる。両手を組み肘を腿の上に乗せて額をその組み合わせた両手に預けて両目を閉じるクラウス。
半ば放心状態で頭を隣のクラウスの肩に預けるセフィリア。無表情で天井を見上げるベルクト。両腕を組んで廊下に目を落とすアリーヤ。
そしてそんな重い沈黙に耐えかね、ついに神谷が口を開いた。

「クラウス、あの医者の腕は確かなんだろうな?お前が一番近いっていったからここに来たんだ」
「大丈夫です。シオンなら必ずあの赤ちゃんを助けてくれます」

シオン・エスタルク。彼女もまた告死天使のメンバーであり、歳は24。20歳のときに医師免許を取り2年前からこのスラムで
CIケールズの支援の元、病院を運営してこのスラムで毎日のように起きる事件によってでるけが人の手当てに追われているのだった。
時には瀕死の重傷を負った患者が搬送されてくることもあるがその蘇生率は実に93%を誇り、『スラムの神の手』という名で
告死天使8人の中で最も尊敬されている人物であった。そんな彼女だから大丈夫だというのがクラウスの根拠であった。
だが、神谷の表情は硬い。93%ということは残りの7%は救えなかったということだ。今回の赤ちゃんがその7%のほうに当てはまってしまうのではないかという
不安を神谷は捨てきれなかったのだ。
そしておもむろに左手首の腕時計を確認する。午後7時、手術開始から実に4時間がたっていた。
長い手術に耐えきれる体力があの赤ちゃんにあるとは思えなかったが、今は『スラムの神の手』が奇跡を起こすことを祈るしかなかった。
と、ここで看護師の一人が受付のほうから電話の子機をもって7人の元へとやってきた。

「あの、フィオラートさんと申される方からお電話がかかっているのですが…クラウスさんはどなたでしょうか?」
「ああ、僕ですが」

看護師から電話機を受け取り、クラウスは電話をつなぐ。その相手はやはり看護師の言うようにフィオだった。

「もしもしクラウス君?ボクたちみんなアスナちゃんのところに集まったんだけどいつまでたってもクラウス君たちが来ないから…シオンちゃんの
ところに電話したら手術中だっていうから、ここにいるっていうクラウス君に電話を繋いでもらったんだけど…一体どうしたのかな?」
「ああ、フィオ。実はね…」
「ええ!?それは酷いね…わかった。アスナちゃんがもうすぐ店を閉めるからそうしたらみんなでそっちに行くよ。シオンちゃんのところだね」
「うん、待ってるよ」

それからさらに2時間。時刻は午後9時を指していた。と、ここで『手術中』の赤いランプが消えて、扉からシオンがマスクと帽子を外して現れた。
そのシオンのもとに駆け寄り、手術の成否を確かめる7人。そんな7人をシオンはまずはなだめすかして落ち着かせる。

「まずは落ち着いてください。結論から申し上げましょう。手術は無事に成功しました。おそらくあと5分搬送が遅かったら間に合わなかったでしょう」

シオンのその言葉に一同の顔がパッと明るくなる。そしてまるでタイミングを示し合わせたかのようにフィオたちが病院へとやってくる。
この一日で会ってきたセオドール、フィオ、シュヴァルツ、そして会いに行く予定だったアスナ。さらには見覚えのない男が二人、一緒だった。

「おや、これはみなさんお揃いで。こうして8人全員が一堂に会するのは2年ぶりか。積もる話もあるだろうから休憩室に案内しよう。こっちだ」

途端に口調が変わるシオンに戸惑う神谷たち。しかし、告死天使のメンバーたちは何ら気にとめることもなく彼女のあとをついてゆく。
『関係者以外立入禁止』と表示されたドアを通りぬけ、その先が休憩室だった。病院らしい真っ白な壁紙にはカレンダーがかけられ、
蛍光灯も白い壁紙に会わせるように明るく光っていた。8畳ほどの休憩室の右奥にはシンクと冷蔵庫が備え付けられており、
シオンはそこで一同を休憩室備え付けのテーブルとパイプいすを案内し、グラスを人数分用意して冷蔵庫から取り出したお茶を注いでゆく。
長時間の手術で疲れているはずなのにそれを感じさせないきびきびとした動きでお茶を各自に配り、自分の席へと着く。

「さて、みなが一堂に会したということはなにか特別なことが起こったのだろう。クラウス君のその格好も久しいし。それに私にとって初対面の人間が
 3人ほどいるようだ。まずは自己紹介してくれないか?話はそれからでも遅くはないだろう」

初対面の人間というのはどうやらセフィリア、神谷、ステファン、ヒカリのようでありこの見慣れない二人の男とシオンはどうやら面識があるようだった。
釈然としないものを感じながら4人はシオンに自己紹介する。グラスに注がれたお茶を少しずつ飲みながらその自己紹介を聞き終えるシオン。

「君が噂のクラウス君の妹か。君の兄には随分と世話になったよ。そしてこちらが探偵の神谷さんとその助手のステファン君。
 探偵というと、旧暦にはいろんな小説家がいろんな推理小説を書いていたものだ。アーサー・コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』
 シリーズくらい読んだことがあるだろう?私は女性としてP・D・ジェイムズの『コーデリア・グレイ』のほうが好きなんだが」
「シオン。話がまた逸れてるよ」

話が途中で脱線するというのはシオンの特徴であり、そのたびにそのレールをクラウスが修正する役目を担っているのだ。

「ああ、すまないな。さて、次は私の番か…名前はシオン・エスタルク。見ての通り医者だ。『スラムの神の手』だなんて呼ばれているが私は人間だ。神ではない。
さて…アスナさん。君もこの4人とは初対面だったな。自己紹介を頼もうか」
「え、あたし?うん、あたしの名前はアスナ・オブライエン。歳は22。このスラムでケーキ屋をやってるんだ。3人ともよろしくね」

さて、これで全員の自己紹介が終わったかに思われた。しかし、ここでベルクトが口をはさむ。

「おいまだだ。あっちの2人だ。アスナとシオンは知っているようだが俺たち5人は初対面だ。身元を詮索する訳じゃないが最低限名前くらい教えて…」

ベルクトがいい終わるよりも早くにその男が口を開く。

「ゲオルグだ。このスラムの孤児院で職員をやってる。子供たちのおやつのケーキを買いに店にいったらこの3人が店長と話していて
 何かと思って事情を聞いたら…あとはこの有り様だ。子供たちにケーキを届けてまた店に戻りあんたたちについてきたってわけだ。
 そしてこっちがアレックス。俺の弟分だ。よろしく頼む。」

納得した様子で頷くベルクト。その後、ベルクト、アリーヤ、フィオ、セオドール、クラウス、シュヴァルツの順に自己紹介を2人にし、
ようやく全員の自己紹介が終わった。そして話はついに本題へと移り、まずは今回の小旅行の目的であった告死天使のアリバイから聞くことにした。

「なるほどな…神谷さんの言い分にも一理ある。だが生憎私も犯人ではない。その時間は診察中でな。証明するものは…カルテを取ってこよう」

いったん休憩室を後にし、3分ほどでシオンは一枚の紙を手に再び休憩室へと戻ってきた。

「医者という職業は患者との信頼関係で成り立っている。故に軽々しく他人に見せられるものではないが仕方ない。特別に見せよう」

と前置きしたうえでシオンはそのカルテを神谷へと手渡した。シオンはそう言っていたがカルテというのは一般人から見ても何が書いてあるのか
さっぱりわからないものであり、このカルテもその例に漏れていなかったが、診察時間だけはしっかりと数字にて記されていて、その時間はまさに事件が起きた当時だった。
ただ、このカルテが医療関係者以外に読めないことをいいことに誰かが書いたものを持ってきたのではという可能性を指摘したが、
この病院にシオン以外の医師はおらず、あとは彼女を補佐する看護師が6人いるだけだ。しかもその看護師はカルテを読むことはできても書くことはできない。
『憂鬱』をゆううつと読むことはできても書くことはできないのと同じ理屈である。医師学校にてきちんとした指導を受け、
医師免許を取得するための勉強の中でようやく書き方を覚えることができるのだ。これで4人目。シオンのアリバイも固まった。残るは…アスナだ。

「あたしは…次の日の分のケーキを作るために生地を仕込んでたかな。混ぜたり、焼いたりするのはスタッフのみんなでもできるんだけど
材料の調合は生憎あたししかできないんだ。その時間あたしがいなかったりすると次の日にお店にケーキがならべられなくなっちゃうんだ。
確かゲオルグさんたちがケーキを買っていったのはその翌日だったよね?」

ゲオルグはなにも言わずに財布の中から領収書を取り出した。みるとその時間は確かに犯行時刻と重なっていた。
つまり、アスナが犯人だとしたら翌日店頭にケーキは並ばず、故にこの領収書も存在しえないということだ。これで5人全員に完璧なアリバイがあることが分かった。
しかし、神谷の表情はいまだ硬いままだ。この小旅行の目的は達せられたはずなのに。それを不思議に思ったステファンが神谷に尋ねた。

「ああ、告死天使は本当に8人だけなのかと思ってな。もしかかしたら9人目のメンバーがいてお前たち全員が共犯で匿っている可能性もなくはない。
 馬鹿げていると笑ってくれて構わない。だが最初にも言ったろう。俺はお前たちが犯人だという確固たる証拠が欲しいと。
 そのためにはあらゆる可能性をつぶして懐疑的に物事を見なければならないんだ。お前たちを愚弄しているつもりは毛頭ない。どうかわかってくれ」

神谷のその言葉にクラウスは徐に懐から一枚のきれいに折りたたまれた紙を取り出してそれをテーブル上に広げた。
それは2年前、告死天使が貴族たちの陰謀をせん滅するために結束力を高める意味合いでケビンが書かせたものだった。その内容はこうだ。

『どんな困難や危機にぶつかろうとも決して切れることのない絆を誓うものはこれに自らの名前を記し、血判を押すべし』
と記されており、その下には告死天使のメンバーの名前と血判が存在していた。

アリーヤ・シュトラッサー
シオン・エスタルク
アスナ・オブライエン
シュヴァルツ・ゾンダーク
セオドール・バロウズ
クラウス・ブライト
ベルクト・ニコラヴィッチ
フィオラート・S・レストレンジ

これは、ケビンの死後リーダーであるアリーヤが元本を保管し、残りのメンバーがコピーされたものを持っているという訳だ。
つまり、この書留こそが告死天使がここにいる8人だけだということを証明しているのだ。
これを見てようやく神谷は安堵の表情を浮かべる。そして8人に「疑って悪かった」と頭を下げる。
しかし、8人は疑われたことに対する怒りよりも素直に疑惑が晴れたことをただ喜んでいた。ここで、セフィリアが不安そうな表情でシオンに尋ねる。

「あの、シオンさん。あの赤ちゃんはこれから先どうなるのでしょうか…?」

それを聞いてシオンはゲオルグに目くばせをし、彼は無言で頷いた。そしてシオンは彼女に切り返した。

「ああ、それなんだが…ゲオルグさんの孤児院に預かってもらおうと思うんだ。彼は信頼できる人物だ。安心していい」

それを聞いてセフィリアが一気に安心した表情を浮かべ、ゲオルグの元へ駆け寄る。クラウスも彼女に並んで頭を下げ、口をそろえて言った。

「どうかあの赤ちゃんをよろしくお願いいたします」

そしてセフィリアは願う。あの赤ちゃんがこれから先幸せに暮らせることを…

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