レンジャーズ~Pink in the darkness~
起伏の激しい地面。剥き出しの岩石とそれに生える苔。さらには飛び出した木の根。そしてそれの本体の木々が、行く手を阻んでいる。
望は一人で森の中で息を潜めている。手にした武器はカーボンコーティングのブッシュナイフのみ。与えられた任務はただ一つ。逃げる事だった。
望は一人で森の中で息を潜めている。手にした武器はカーボンコーティングのブッシュナイフのみ。与えられた任務はただ一つ。逃げる事だった。
「くそったれ……。ああ腹減った」
愚痴が自然にこぼれる。森に入り既に二日経つが、携行食糧も無しに一人で放り込まれ、彼にとって最強の敵から逃亡しているのだ。唯一の味方は着ている黒い戦闘服だけ。
「ああ。来た来た来た……!」
息を潜めたまま、望は敵の姿を確認する。
戦闘服のステルスモードをオンにするようにイメージし、望の黒い戦闘服はそれに対応する。
独特の斑模様が現れ、黒いタイガーパターンとなる。今、伏せている地面に同調するように。体温を感知されないように電磁誘導で空気の層が作られ、熱が外へ漏れるのを出来る限り小さくする。
さらに呼吸のパターンを自ら調整し、可能な限り自然と同調しようと試みる。
戦闘服のステルスモードをオンにするようにイメージし、望の黒い戦闘服はそれに対応する。
独特の斑模様が現れ、黒いタイガーパターンとなる。今、伏せている地面に同調するように。体温を感知されないように電磁誘導で空気の層が作られ、熱が外へ漏れるのを出来る限り小さくする。
さらに呼吸のパターンを自ら調整し、可能な限り自然と同調しようと試みる。
そして、過疎ブラック――望を追う敵は辺りを見渡しながら、望を探している。手には望の知らない新型のカービンライフルを持ち、装備した探知システムをフル稼動させた戦闘服を着込み、ヘッドセットは上空からの支援を必死で受信している。
「あれが新型ライフル? 抜け駆けしやがって……。ていうかアイツに持たせたらヤバイだろ」
望は敵の恐ろしさを十分に知っている。一度見つかったら最後、一体どれほどの獰猛さを見せるのか。考えただけでも望は恐ろしくなった。
その敵は毒々しいまでのピンクの戦闘服を着込み、獲物を探している。過疎ピンク――白崎杏は、獲物の過疎ブラックを探している。
無線で現在の状況を上空に居るサポートメンバーへと報告し、杏は一歩、また一歩と森の中を歩いている。
ご多分に漏れず過疎レンジャー唯一の女性メンバーではあるが、中身は猛獣と変わらない。むしろ、下手な野生のトラより恐ろしい相手だった。
その敵は毒々しいまでのピンクの戦闘服を着込み、獲物を探している。過疎ピンク――白崎杏は、獲物の過疎ブラックを探している。
無線で現在の状況を上空に居るサポートメンバーへと報告し、杏は一歩、また一歩と森の中を歩いている。
ご多分に漏れず過疎レンジャー唯一の女性メンバーではあるが、中身は猛獣と変わらない。むしろ、下手な野生のトラより恐ろしい相手だった。
「よりによってなんで相手がコイツなんだ……」
望は見つからないよう祈りながら独り言を言う。
この状況より実戦で寄生と戦っていたほうがマシだと思っているのだ。
この状況より実戦で寄生と戦っていたほうがマシだと思っているのだ。
「……ピンク。ターゲットロスト。上空から見える?」
《いや、見えない。先程までそこら辺に居た。ステルスで潜んでると思う》
「ピンク了解」
《いや、見えない。先程までそこら辺に居た。ステルスで潜んでると思う》
「ピンク了解」
ピンクは上空を飛行する戦闘支援ヘリからの報告を受け、さらに辺りを見渡す。とても訓練の雰囲気では無い。
今のピンクに与えられた任務は過疎ブラックの捕獲。さらには開発中の新型の採用予定ライフルの耐用試験である。つまりは、いくらでも撃ってしまえと言う事だ。
実弾ではないがピンクの本性から行けば危険極まりない。
そして、彼女の動物的カンは自然の中の違和感に無意識に注意を向ける。研ぎ澄まされた嗅覚は、エサの臭いを的確にかぎ分ける。
過疎ピンク――杏は岩と土の地面に銃を向け、一発だけ発砲する。そしてそこに居た望は背中に粉末を固めた模擬弾を受けてしまう。
今のピンクに与えられた任務は過疎ブラックの捕獲。さらには開発中の新型の採用予定ライフルの耐用試験である。つまりは、いくらでも撃ってしまえと言う事だ。
実弾ではないがピンクの本性から行けば危険極まりない。
そして、彼女の動物的カンは自然の中の違和感に無意識に注意を向ける。研ぎ澄まされた嗅覚は、エサの臭いを的確にかぎ分ける。
過疎ピンク――杏は岩と土の地面に銃を向け、一発だけ発砲する。そしてそこに居た望は背中に粉末を固めた模擬弾を受けてしまう。
「痛ぇ! そしてやべぇ!」
「……居た。ピンク攻撃開始」
「……居た。ピンク攻撃開始」
ピンクは何の躊躇も無くフルオート射撃をする。訓練だが手加減など一切ない。おまけに射撃の正確性は地上戦闘をメインにしている陽斗と望にも劣らないほどの腕前だった。
「うををを!!」
「……」
「……」
逃げ回る望を無表情で撃ちまくる杏。それは寄生を撃つ時と変わらない、徹底した無慈悲な物。
「舐めんなぁ!」
望は反撃を試みる。訓練内容は捕まるなという事だ。戦うなとは言われていない。武装は敵わないが命を奪われる程の物でもない。
望は戦闘服のステルスを解除し、格闘戦モードに切り替える。ヘッドセットのバイザーにその旨が表示され、望の身体能力は強化される。
銃弾から逃げつつ木を蹴り、真上へ高く跳躍した後に今度は真下へ蹴りを繰り出す。空中へ繰り出された高速の蹴り脚の反動を利用して一気に地面へ到達したら、次は銃が役に立たない間合いまで一気に詰める。
望は戦闘服のステルスを解除し、格闘戦モードに切り替える。ヘッドセットのバイザーにその旨が表示され、望の身体能力は強化される。
銃弾から逃げつつ木を蹴り、真上へ高く跳躍した後に今度は真下へ蹴りを繰り出す。空中へ繰り出された高速の蹴り脚の反動を利用して一気に地面へ到達したら、次は銃が役に立たない間合いまで一気に詰める。
人間は上下の動きに弱い構造をしている。たとえ過疎レンジャーとて例外ではなく、高い跳躍から瞬時に地面へと移動した望の動きは杏の予想を超え、懐への侵入を許してしまった。
望は一気にカタを付けようと低い位置の重心を膝の進展で上へ持ち上げる。得意の左のアッパーで顎を貫き、動きを止めてまた逃亡する腹積もりだった。
左拳が杏の顎に接近し、今まさにインパクトするであろう時。望は一時的な勝利を確信したが、人間の皮を被った猛獣はそれを間一髪でかわし、身を反らしながら手にしたライフルの銃床で望の腹を打つ。
戦闘服で防護されているが、相手も同じ装備で強化されている。肋骨に激しい痛みを感じた望は膝を付き、杏はライフルをくるりと切り返し膝を付いた望の後頭部を打つ。
そして地面に付したブラックに銃口が突き付けられ、ピンクのヘッドセットに搭載されたカメラでそれを見ていた上空のヘリから無線が入る。
望は一気にカタを付けようと低い位置の重心を膝の進展で上へ持ち上げる。得意の左のアッパーで顎を貫き、動きを止めてまた逃亡する腹積もりだった。
左拳が杏の顎に接近し、今まさにインパクトするであろう時。望は一時的な勝利を確信したが、人間の皮を被った猛獣はそれを間一髪でかわし、身を反らしながら手にしたライフルの銃床で望の腹を打つ。
戦闘服で防護されているが、相手も同じ装備で強化されている。肋骨に激しい痛みを感じた望は膝を付き、杏はライフルをくるりと切り返し膝を付いた望の後頭部を打つ。
そして地面に付したブラックに銃口が突き付けられ、ピンクのヘッドセットに搭載されたカメラでそれを見ていた上空のヘリから無線が入る。
《訓練終了だ。今回はブラックの負けだ。ピンク、X―Rの安全装置を作動させよ》
「……弱者め」
《何を言っている? 命令に従え》
「……弱者め」
《何を言っている? 命令に従え》
訓練を監督していたヘリの乗員が命令を伝える。しかし、次の行動は常軌を逸した物だった。それは、杏の本性をそのまま露呈してしまう。
《!? 何をしている!? 訓練は終了だピンク!!》
監督が叫ぶ。杏はそれを聞いているはずだが、まったく従う様子は無い。
杏は、地面に伏せる望に対して至近距離から銃弾を浴びせていたのだ。
杏は、地面に伏せる望に対して至近距離から銃弾を浴びせていたのだ。
「いてててててててて!!!!!」
《ピンク!! 止めろ命令だ》
「うるさい……」
《ピンク!! 止めろ命令だ》
「うるさい……」
杏は発砲を続ける。マガジンが空になるまで撃ちつづけ、杏のマグチェンジの一瞬の隙を付いて望は脱出する。
「このクソバカ! いい加減にしろっての!」
「弱い奴が悪い」
「弱い奴が悪い」
杏はやたらと暗い声で言う。殺気は訓練のそれでは無い。実際、杏は殺す勢いで望に攻撃を仕掛けている。
《ピンク! 命令だ! 訓練を終了し回収ポイントへ移動せよ!》
「……」
「……」
《仕方ない……。ピンクの兵装を外部オペレートでロック。ブラック、ピンクを倒して回収ポイントまで連行せよ》
「うわ……。ブラック了解」
「うわ……。ブラック了解」
杏の持つライフルのトリガーが突然ロックされる。ヘッドセットは機能を停止し、戦闘服も同様にパワードスーツとして機能を果たさなくなり、身体にフィットしていた物が緩くなってしまう。
それに装着されていた薄いボディアーマーや間接を保護するパッドは自らの重みで垂れ下がる。杏は一瞬の内に戦闘能力を奪われてしまった。
こうなってしまえば、もはや望の敵では無い。みぞおちへ一撃を食らった杏は気を失い、そのまま倒れ込む所を望に抱えられてしまう。今度こそ訓練終了だ。
それに装着されていた薄いボディアーマーや間接を保護するパッドは自らの重みで垂れ下がる。杏は一瞬の内に戦闘能力を奪われてしまった。
こうなってしまえば、もはや望の敵では無い。みぞおちへ一撃を食らった杏は気を失い、そのまま倒れ込む所を望に抱えられてしまう。今度こそ訓練終了だ。
「ブラック、ヒステリー女を確保。移動して合流する」
《了解ブラック。帰投するぞ》
《了解ブラック。帰投するぞ》
※ ※ ※
蛍光灯。次に白い天井。その次は明らかに怒りに満ちた霧崎作戦参謀が見える。
腹部に鈍い痛みがある。そこでようやく、自分が敗れたと知る。場所は医務室だった。
望に倒された杏は、気を失ったまま運び込まれていた。
「……白崎杏。説明して貰おうか」
腹部に鈍い痛みがある。そこでようやく、自分が敗れたと知る。場所は医務室だった。
望に倒された杏は、気を失ったまま運び込まれていた。
「……白崎杏。説明して貰おうか」
腕組みをしたまま仁王立ちした霧崎が声を震わせながら言う。本気で怒っている。
「どうした白崎杏。黙っていては何もならない」
「敵に敗れました。それだけです」
「命令違反と危険行為については何もなしか」
「イヤならメンバーから外して戴いて結構です」
「ふざけるなよ白崎杏。お前が理由もなく選ばれたと思っているのか? 外せるならとっくに外している!」
「敵に敗れました。それだけです」
「命令違反と危険行為については何もなしか」
「イヤならメンバーから外して戴いて結構です」
「ふざけるなよ白崎杏。お前が理由もなく選ばれたと思っているのか? 外せるならとっくに外している!」
霧崎の怒りは剣幕となって現れる。それを正面から受ける杏は平然としている。馴れているのだ。いつもの事だから。
「私は敵を殺すだけです」
杏はそう言って起き上がる。長く少しウェーブのかかった黒髪は寝癖でぐしゃぐしゃになっていた。それに手櫛を通して、白い脚をベッドから出し置いてあったスリッパを履く。
「白崎杏。お前は自分の立場を解っているのか?」
「ええ。よく理解しています。寄生を殺すチャンスを戴いた事には感謝しています」
「ええ。よく理解しています。寄生を殺すチャンスを戴いた事には感謝しています」
「ふざけたガキだ」
「それも知っています」
「それも知っています」
杏は立ち上がり、医務室の脇にある洗面所へ歩きだす。
上官である霧崎には何の敬意も示さない。彼女が何かしらの感情を覚えるの物は、たった一つだけ。
霧崎は呆れたと言わんばかりに首を振り、無言で医務室を出て行く。諦めに近い表情だった。杏はそれに目もくれずに洗面台の前まで行き、鏡に写った自分を見る。
ウェーブがかかった髪は肩にかかり、前髪が目元を怪しく隠している。その奥の目は何の輝きも持たず、どこまでもダウナーなイメージが付き纏う。
整った顔立ちと白い肌はそれらと組合わさって無機質な雰囲気を作りだし、杏は自分でそれを見て、まるで心ない人形のようだと思う。
そして、実際に自分には心が無いと自分で思っている。自分が感情を剥き出しに出来る相手はただ一つ、寄生だけなのだと。それはとても純粋で、どこまでも深い憎しみの感情。
杏は蛇口からでる冷たい水で顔を洗い、仮想の寄生との訓練で高ぶった感情を冷やす。
杏にとって望は、寄生の変わりに過ぎなかった。
上官である霧崎には何の敬意も示さない。彼女が何かしらの感情を覚えるの物は、たった一つだけ。
霧崎は呆れたと言わんばかりに首を振り、無言で医務室を出て行く。諦めに近い表情だった。杏はそれに目もくれずに洗面台の前まで行き、鏡に写った自分を見る。
ウェーブがかかった髪は肩にかかり、前髪が目元を怪しく隠している。その奥の目は何の輝きも持たず、どこまでもダウナーなイメージが付き纏う。
整った顔立ちと白い肌はそれらと組合わさって無機質な雰囲気を作りだし、杏は自分でそれを見て、まるで心ない人形のようだと思う。
そして、実際に自分には心が無いと自分で思っている。自分が感情を剥き出しに出来る相手はただ一つ、寄生だけなのだと。それはとても純粋で、どこまでも深い憎しみの感情。
杏は蛇口からでる冷たい水で顔を洗い、仮想の寄生との訓練で高ぶった感情を冷やす。
杏にとって望は、寄生の変わりに過ぎなかった。
※ ※ ※
「いってぇ……。ふざけやがってあの姉ちゃん」
「いつもの事だな」
「勘弁してほしいよもう……」
「いつもの事だな」
「勘弁してほしいよもう……」
望は隊員官舎に居た。部内で至急される食事にありつきながら、訓練内容を松栄に愚痴っている。
「まぁ見つかったのが悪いと思って切り替えるんだな」
「無理だろそれ。どう考えてもおかしいって。いつもあんなの後ろに乗せて、よく平気なツラでジェット操縦できんなオッサン」
「別に普通だよ。飛んでる時は彼女と戦うわけじゃないんだ」
「達観してるな。陽斗はどこ行った?」
「今はイエローと霧崎参謀に呼ばれてる。訓練内容とX-Rの試験結果の方向だな」
「陽斗の相手したんだろ? どうだった?」
「捕まえたよ。なかなか苦労したがね」
「なんだ二人ともアウトかよ。つまんねぇ」
「無理だろそれ。どう考えてもおかしいって。いつもあんなの後ろに乗せて、よく平気なツラでジェット操縦できんなオッサン」
「別に普通だよ。飛んでる時は彼女と戦うわけじゃないんだ」
「達観してるな。陽斗はどこ行った?」
「今はイエローと霧崎参謀に呼ばれてる。訓練内容とX-Rの試験結果の方向だな」
「陽斗の相手したんだろ? どうだった?」
「捕まえたよ。なかなか苦労したがね」
「なんだ二人ともアウトかよ。つまんねぇ」
蒸したジャガ芋を頬張りながらグダグダ漏らしている。杏に対してはかなりの不満があるのだ。
言動と反比例して規律を重んじるタイプの望は、杏がレンジャー内の地雷に感じられる。
そしてその地雷をうまくコントロールして、チームで活動している松栄には少しばかり尊敬の念も抱いていた。
言動と反比例して規律を重んじるタイプの望は、杏がレンジャー内の地雷に感じられる。
そしてその地雷をうまくコントロールして、チームで活動している松栄には少しばかり尊敬の念も抱いていた。
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