Top > 【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】 > 異形世界・大は小を兼ねる
大は小を兼ねる 前編
右手に海を。
左手に山を。
そんな地方の漁村の事。
左手に山を。
そんな地方の漁村の事。
海に沈みかけた太陽半分が揺らめくようにとろけて茜。
夕刻であった。
逢魔ヶ刻に、さしかかろうという時分。
夕餉の支度をあるいは終わらせ、休まるような時刻である。
しかしその日、小さな漁村は騒ぎになっていた。
夕刻であった。
逢魔ヶ刻に、さしかかろうという時分。
夕餉の支度をあるいは終わらせ、休まるような時刻である。
しかしその日、小さな漁村は騒ぎになっていた。
住民のある五人が高熱で倒れてしまったのはつい数日前。
今日、その全員が全員、亡くなってしまったのだが、……不気味な事が起きた。
今日、その全員が全員、亡くなってしまったのだが、……不気味な事が起きた。
消えたのだ。
遺体の五体全部が。
小さな村の事である。
なんとも気味の良くない事件という事で遺族だけに留まらず、村の住民が総出で探した。
しかし一向に見つかる気配なく、日が傾いてきたというわけである。
遺体の五体全部が。
小さな村の事である。
なんとも気味の良くない事件という事で遺族だけに留まらず、村の住民が総出で探した。
しかし一向に見つかる気配なく、日が傾いてきたというわけである。
心当たりがないでもなかった。
山の中にある廃屋。
ここに最近誰かが寝泊りしている様子なのだ。
しかも、二人。
いや、人という単位であっているかどうかは分からない。
山の中にある廃屋。
ここに最近誰かが寝泊りしている様子なのだ。
しかも、二人。
いや、人という単位であっているかどうかは分からない。
異形が居ついたのではないか。
そう村の間で断定されていた。
廃屋を覗き込んだ者がいて、寝込んでいた人影の頭に角が生えていたと言うのだ。
そう村の間で断定されていた。
廃屋を覗き込んだ者がいて、寝込んでいた人影の頭に角が生えていたと言うのだ。
また、近づこうとする村人に、
「近づかないでください」
と見知らぬ少年が忠告に現れたと言う。
瞬きする間に、その少年も幻であったかのように消えたというから不思議である。
瞬きする間に、その少年も幻であったかのように消えたというから不思議である。
そして、決定的なのは。
二人が廃屋に居ついた時期と、五人が高熱で倒れた時期が重なるのだ。
無論、一日二日、前後して倒れる者もいた。
だがしかし、このタイミングは、無関係では有り得まい。
廃屋に打って入ろうと言う者もいたが、ほとんどの村人は戦々恐々とするばかり。
武器を手に取ろうとした者たちも、もうすぐ夜になるから明日にしようと及び腰が言う説得に応じる始末。
みんながみんな、恐いのだ。
二人が廃屋に居ついた時期と、五人が高熱で倒れた時期が重なるのだ。
無論、一日二日、前後して倒れる者もいた。
だがしかし、このタイミングは、無関係では有り得まい。
廃屋に打って入ろうと言う者もいたが、ほとんどの村人は戦々恐々とするばかり。
武器を手に取ろうとした者たちも、もうすぐ夜になるから明日にしようと及び腰が言う説得に応じる始末。
みんながみんな、恐いのだ。
そんな時。
一人の少年が、村に訪れる。
廃屋に近づくな、と忠告してきた少年とは違う。
旅慣れたような、少年である。
一人の少年が、村に訪れる。
廃屋に近づくな、と忠告してきた少年とは違う。
旅慣れたような、少年である。
結局、遺体は見つからぬまま。
例えば、あるいは、もしかすると遺体が勝手に歩き回っていたとすれば、
逢魔ヶ刻であるのに村人たちはそんな怪異に出逢う事もできなくて。
例えば、あるいは、もしかすると遺体が勝手に歩き回っていたとすれば、
逢魔ヶ刻であるのに村人たちはそんな怪異に出逢う事もできなくて。
魔に逢う時刻。
村は少年と出逢った事に相成る。
村は少年と出逢った事に相成る。
◇
「ミサキという女性はまだ村にいますか?」
大人びた少年であった。
妙にくたびれた旅装束。
腰に小槌を引っさげた、童子と言ってもいいような、少年である。
妙にくたびれた旅装束。
腰に小槌を引っさげた、童子と言ってもいいような、少年である。
もうそろそろ夜になる。
なのにたった一人で山を通って村まで来たのだろうか。
なのにたった一人で山を通って村まで来たのだろうか。
「ああ、あの子か。あの子はもういないよ」
準備していた葬儀も、送る遺体がなければどうしようもない。
だから葬儀を中断するために、その処理で村のあっち行ったりこっち行ったりをしていた竜二郎だが、
少年を無視することなく丁寧に応じてやった。
だから葬儀を中断するために、その処理で村のあっち行ったりこっち行ったりをしていた竜二郎だが、
少年を無視することなく丁寧に応じてやった。
ちょっとした休憩と、ミサキという少女について自分も気になっていたからだ。
「昨日までいたんだけどね、間違いないよ。もういなくなっちまってる」
「そうですか」
「そうですか」
やはり大人びた様子で礼をする少年に、竜二郎は訝しく思う。
昨日までこの村に滞在していた少女の名がミサキである。
気さくで明るい、十代も半ばの女の子。
旅すがらだと言い、村に滞在していたが一週間もいなかったはずだ。
昨日までこの村に滞在していた少女の名がミサキである。
気さくで明るい、十代も半ばの女の子。
旅すがらだと言い、村に滞在していたが一週間もいなかったはずだ。
そもそも地方の寂れた漁村である。
旅人自体が新鮮で、快く受け入れた。
しかし不審に思うのは、女の子の一人旅であると言う。
聞けば、親戚の所へ行くために海沿いに旅しているらしい。
このご時勢に危険が過ぎると心配げな声を誰もがかけたが、そのたびミサキは大丈夫だと明るく笑っていた。
旅人自体が新鮮で、快く受け入れた。
しかし不審に思うのは、女の子の一人旅であると言う。
聞けば、親戚の所へ行くために海沿いに旅しているらしい。
このご時勢に危険が過ぎると心配げな声を誰もがかけたが、そのたびミサキは大丈夫だと明るく笑っていた。
根拠のない自信だ。
今まで無事だったのは運がよかったからにすぎまい。
村の全員がそう思い、また旅立とうとすれば引き止めようと決めていた。
今まで無事だったのは運がよかったからにすぎまい。
村の全員がそう思い、また旅立とうとすれば引き止めようと決めていた。
そして、五人が高熱で倒れ、死に至るどたばたの内に消えていた。
引き止められる事を懸念して黙って消えたか。
ミサキに遅れて廃屋に住み着いた異形が恐くて消えたか。
はたまたミサキが遺体消失の犯人だから消えたのか。
引き止められる事を懸念して黙って消えたか。
ミサキに遅れて廃屋に住み着いた異形が恐くて消えたか。
はたまたミサキが遺体消失の犯人だから消えたのか。
いろいろ言われているが、真相は分からない。
そして入れ違うように現れたこの少年。
どういう関係であるのか、竜二郎でなくとも気にかかる事だろう。
そして入れ違うように現れたこの少年。
どういう関係であるのか、竜二郎でなくとも気にかかる事だろう。
「君はミサキちゃんの親戚か何かかな?」
「弟に、なります」
「名前は?」
「豆蔵」
「弟に、なります」
「名前は?」
「豆蔵」
自嘲……したように竜二郎は見えた。
まるで自分で自分を皮肉るような調子。
弟。
豆蔵。
本当だろうか。
少なくとも見た目は似ていない。
まるで自分で自分を皮肉るような調子。
弟。
豆蔵。
本当だろうか。
少なくとも見た目は似ていない。
「ふぅん……離れ離れになってしまって追いかけているのかい?」
「そんな所です。姉はどちらに行きましたか?」
「いや実は黙って出て行ってしまってね、行き先も親戚の所としか聞いていないんだよ」
「……そうですか。有難う御座います」
「そんな所です。姉はどちらに行きましたか?」
「いや実は黙って出て行ってしまってね、行き先も親戚の所としか聞いていないんだよ」
「……そうですか。有難う御座います」
話は終わった。
と、言わんばかりに踵を返す豆蔵に、竜二郎はそれを引き止める。
と、言わんばかりに踵を返す豆蔵に、竜二郎はそれを引き止める。
「ちょっと君、まさかこれから……」
「追いかけます」
「止めなさい! この頃は山に異形もいついてしまったみたいなんだ。絶対に村を出てはいかん!」
「異形が? 山に?」
「そうだ。どっちから来たか知らんが、襲われずにこの村まで来れて君も運が良かったな。半分民宿になってる黒崎さん家に行くと良い。葬儀の準備にいろいろ使われていたが、部屋ぐらいは空いているだろう」
「葬儀ですって……?」
「追いかけます」
「止めなさい! この頃は山に異形もいついてしまったみたいなんだ。絶対に村を出てはいかん!」
「異形が? 山に?」
「そうだ。どっちから来たか知らんが、襲われずにこの村まで来れて君も運が良かったな。半分民宿になってる黒崎さん家に行くと良い。葬儀の準備にいろいろ使われていたが、部屋ぐらいは空いているだろう」
「葬儀ですって……?」
豆蔵の表情が強張った。
今の今まで子供に似合わぬ理知的な雰囲気から、身構えるような緊張が匂う。
今の今まで子供に似合わぬ理知的な雰囲気から、身構えるような緊張が匂う。
「何人……何人お亡くなりに?」
「……五人だが」
「……五人だが」
違和感。
普通、葬儀と聞いても一人死んだと思うのが普通ではないか。
何ゆえ、複数が死んだと考える。
普通、葬儀と聞いても一人死んだと思うのが普通ではないか。
何ゆえ、複数が死んだと考える。
「ご愁傷様です。それで……黒崎さんのお宅はどちらに行けば?」
そして。
また豆蔵に大人の気配が戻ってくる。
道を教えてもらうと、少年はやはり丁寧な礼を竜二郎に施し、もうすっかり暗い道を歩き出す。
また豆蔵に大人の気配が戻ってくる。
道を教えてもらうと、少年はやはり丁寧な礼を竜二郎に施し、もうすっかり暗い道を歩き出す。
◇
豆蔵は歩く。
村の道ではなく。
山道を。
いや、山道でさえなく獣道。
村の道ではなく。
山道を。
いや、山道でさえなく獣道。
竜二郎から道を尋ねた次の日だったり、もうすっかり平和を取り戻した時期……というわけではない。
黒崎家に、辿り着き、通り過ぎ、村を出て。
つまりは夜道の獣道である。
すっかり日も暮れ暗いというのに、うっそうと茂る木々に視界はほとんど封じられたに等しい。
にも関わらず。
豆蔵はどんどん山を進んだ。
まるで見えているかのように。
黒崎家に、辿り着き、通り過ぎ、村を出て。
つまりは夜道の獣道である。
すっかり日も暮れ暗いというのに、うっそうと茂る木々に視界はほとんど封じられたに等しい。
にも関わらず。
豆蔵はどんどん山を進んだ。
まるで見えているかのように。
実際、豆蔵が木々に足を取られたり、幹にぶつかったりする事はなく。
子供ゆえの身長と小柄だからと言って苦戦する事はなく。
歩き慣れているように山の奥へ奥へ、深くに深くに。
子供ゆえの身長と小柄だからと言って苦戦する事はなく。
歩き慣れているように山の奥へ奥へ、深くに深くに。
とは言え子供の歩みである。
歩幅の小ささはいかんともしがたい。
驚嘆すべき歩調を以ってして山を制さんとする豆蔵であるが、中腹に至るまでに随分と時間が経た。
歩幅の小ささはいかんともしがたい。
驚嘆すべき歩調を以ってして山を制さんとする豆蔵であるが、中腹に至るまでに随分と時間が経た。
そして足が止まった。
人の通った跡を見つけたのだ。
無論、それだけでは別段注意するに及ばない。
もふもとの村は漁村ではあるが山の恩恵を預かる事もありえるだろう。
人の通った跡を見つけたのだ。
無論、それだけでは別段注意するに及ばない。
もふもとの村は漁村ではあるが山の恩恵を預かる事もありえるだろう。
しかし、この歩き方、草々の分け方。
まるで子供が通ったかのような跡。
まるで子供が通ったかのような跡。
「……」
気になった。
興味がわいた。
ミサキの前に、異形を片付けるつもりで踏み入った豆蔵である。
もっと巨大な足跡があるとばかり思っていれば、真逆の跡。
異形だろう。
と、直感する。
自然、腰の小槌を握り締め、跡を追った。
興味がわいた。
ミサキの前に、異形を片付けるつもりで踏み入った豆蔵である。
もっと巨大な足跡があるとばかり思っていれば、真逆の跡。
異形だろう。
と、直感する。
自然、腰の小槌を握り締め、跡を追った。
程なく。
灯りが見えた。
廃屋である。
か細い火を灯しているのだろうが、こうまで暗くては嫌でも分かる。
草木をかきわけ、廃屋が設置されるに適した拓けた山の半ば。
灯りが見えた。
廃屋である。
か細い火を灯しているのだろうが、こうまで暗くては嫌でも分かる。
草木をかきわけ、廃屋が設置されるに適した拓けた山の半ば。
少年が立っていた。
「近づかないでください」
涼やかな声が豆蔵に届く。
品の良さそうな少年であった。
品の良さそうな少年であった。
大人びて固くとっつきにくい豆蔵に比べれば、物腰柔らかな立ち振る舞い。
にこやかな表情で廃屋を守るように立ちふさがる。
にこやかな表情で廃屋を守るように立ちふさがる。
「お前、異形か?」
豆蔵が言った。
立ちふさがる少年と実に対照的に、憮然とした態度。
応じる少年は悠然。
立ちふさがる少年と実に対照的に、憮然とした態度。
応じる少年は悠然。
「そうです、僕は異形です。だから子供は帰りましょう」
「帰る家、ねぇよ」
「ならばふもとの村まで送りましょう」
「旅立ったばっかりだ」
「ならば山の向こうまでお送りしましょうか?」
「いや、いいよ」
「そうですか。では、道中お気をつけて」
「まぁ待て。お前らに用がある」
「どういった用件でしょう?」
「村の人が恐がってるみたいでな。お前らを殺しておこうと思う」
「帰る家、ねぇよ」
「ならばふもとの村まで送りましょう」
「旅立ったばっかりだ」
「ならば山の向こうまでお送りしましょうか?」
「いや、いいよ」
「そうですか。では、道中お気をつけて」
「まぁ待て。お前らに用がある」
「どういった用件でしょう?」
「村の人が恐がってるみたいでな。お前らを殺しておこうと思う」
豆蔵が小槌を振りかぶる。
少年が上品に笑った。
少年が上品に笑った。
「無理です」
瞬間、大人さえも一息に叩き潰せそうな巨大な槌が少年に振り下ろされた。
大槌である。
轟と少年に豆蔵が振り下ろしたのは、見紛う事無く巨大な槌。
先程まで、つい先程まで小槌であったに関わらず、いかな不思議か丸太じみた槌となってしまっていた。
大槌である。
轟と少年に豆蔵が振り下ろしたのは、見紛う事無く巨大な槌。
先程まで、つい先程まで小槌であったに関わらず、いかな不思議か丸太じみた槌となってしまっていた。
ずしん、と少年に落ちた槌が止まった。
少年が止めた。
細く見えるその両腕で。
少年が止めた。
細く見えるその両腕で。
「へぇ」
「へぇ」
「大きさ自在の魔法の槌ですか」
「打出の小槌って言ってな」
「大きいですよ」
「じゃあ打出の大槌」
「適当ですね」
「作り主が面白半分に作った物だからな」
「よく持てますね。重くありません?」
「こっちの台詞だ。よく止めたな」
「見た目はこうですが、異形ですから。実はですね、僕とっても大きいんですよ」
「……奇遇だな」
「槌のお礼に、面白いものをお見せしましょう」
「……いや、いい。面白いって理由はもうお腹一杯なんだよ」
「へぇ」
「大きさ自在の魔法の槌ですか」
「打出の小槌って言ってな」
「大きいですよ」
「じゃあ打出の大槌」
「適当ですね」
「作り主が面白半分に作った物だからな」
「よく持てますね。重くありません?」
「こっちの台詞だ。よく止めたな」
「見た目はこうですが、異形ですから。実はですね、僕とっても大きいんですよ」
「……奇遇だな」
「槌のお礼に、面白いものをお見せしましょう」
「……いや、いい。面白いって理由はもうお腹一杯なんだよ」
豆蔵がうんざりするのも構わず。
少年から漂う迫力が増していく。
まだ十歳やそこいらに見える小柄が、圧倒してくるような圧力を放つ。
少年から漂う迫力が増していく。
まだ十歳やそこいらに見える小柄が、圧倒してくるような圧力を放つ。
ぐ、と大槌が押し返される感触。
それと共に少年の肉体が膨れ上がる。
津波のように魔素を撒き散らして、立ち上がる気配。
それと共に少年の肉体が膨れ上がる。
津波のように魔素を撒き散らして、立ち上がる気配。
大槌が弾かれれば月に照らされ。
廃屋さえ凌駕する巨大な猪が豆蔵を見下ろしていた。
廃屋さえ凌駕する巨大な猪が豆蔵を見下ろしていた。
「でけぇ……!」
「降参してください」
「ふ、くっくっくっくっ、くはははは、はははははは!」
「……?」
「おい、豚野郎! でかくなれるのはお前だけじゃねぇ!」
「降参してください」
「ふ、くっくっくっくっ、くはははは、はははははは!」
「……?」
「おい、豚野郎! でかくなれるのはお前だけじゃねぇ!」
ずしん、と大きな槌を地に叩きつけて豆蔵が呵呵大笑。
大見得を切って槌を頭上で振り回す。
するとどうだ。
少年の体躯がみるみる大きくなっていく。
健やかに四肢が伸び、たくましい青年の肉体へと変貌していくのだ。
筋骨隆々に育った大人の姿で大槌を背負い、凛と猪を睨みつける。
大見得を切って槌を頭上で振り回す。
するとどうだ。
少年の体躯がみるみる大きくなっていく。
健やかに四肢が伸び、たくましい青年の肉体へと変貌していくのだ。
筋骨隆々に育った大人の姿で大槌を背負い、凛と猪を睨みつける。
「そして、槌の大きさもお前を潰すぐらいのでかさにできるんだよ、猪お化け!」
風を切って……否、風を叩いて槌を振りかぶれば、なるほど、みるみる巨大さを増していく。
確かに、猪の異形を叩き潰しえる巨大さだ。
確かに、猪の異形を叩き潰しえる巨大さだ。
「いいか猪、村を脅かす異形は許さんと思っていたがもうどうでもいい」
「殊勝な心がけでしたのに」
「それよりも何よりも子供だったのがでかくなって強くなるって言うのが許せねぇ。パクってんじゃねぇよこのパクリ野郎!」
「言いがかりじゃないですか!?」
「殊勝な心がけでしたのに」
「それよりも何よりも子供だったのがでかくなって強くなるって言うのが許せねぇ。パクってんじゃねぇよこのパクリ野郎!」
「言いがかりじゃないですか!?」
打出の大槌が勢い良く振り下ろされた。
◇
がらりと廃屋の戸が開けば、しんどそうな鬼が出てきた。
鬼である。
頭に角。
間違いのない、鬼であった。
しかし一般の成人男性ほどの身長で(角除く)、人を取って食ってしまいそうなほどに凶悪な相貌でもない。
そしてなにより、酷く弱った様子である。
まるで高熱に中てられているような。
鬼である。
頭に角。
間違いのない、鬼であった。
しかし一般の成人男性ほどの身長で(角除く)、人を取って食ってしまいそうなほどに凶悪な相貌でもない。
そしてなにより、酷く弱った様子である。
まるで高熱に中てられているような。
「瓜坊」
「あ、駄目だよ寝てなきゃ!」
「あ、駄目だよ寝てなきゃ!」
瓜坊と呼ばれた巨大な猪が心配げな瞳でたしなめる。
巨猪の威容ではあるが、その双眸には優しさや理知が宿ったままである。
巨猪の威容ではあるが、その双眸には優しさや理知が宿ったままである。
「それ、何だ」
「えーっと、異形の恐怖を挫かんと奮闘する槌戦士……?」
「逆に挫かれてるってどうよ」
「いや、どうと言われても」
「えーっと、異形の恐怖を挫かんと奮闘する槌戦士……?」
「逆に挫かれてるってどうよ」
「いや、どうと言われても」
そこにはボロ雑巾のようにボコボコにされて少年の姿に戻ってる豆蔵の姿が!
もう二度とパクリなんて言わないよ。
もう二度とパクリなんて言わないよ。
「やっぱりもうちょい人里離れた所が良かったみたいだな」
「でもじゃっくんの体力が……」
「でもじゃっくんの体力が……」
じゃっくん。
この鬼の呼称である。
鬼ではあるが、この鬼、正確には天邪鬼と呼ばれる異形である。
故、あまのじゃく→じゃく→じゃっくん。
一方、巨猪の異形は瓜坊と呼ばれているわけだが、
あんまりと言えばあんまりな呼び方で、仲良しこよしと言えば仲良しこよしな呼び方であった。
この鬼の呼称である。
鬼ではあるが、この鬼、正確には天邪鬼と呼ばれる異形である。
故、あまのじゃく→じゃく→じゃっくん。
一方、巨猪の異形は瓜坊と呼ばれているわけだが、
あんまりと言えばあんまりな呼び方で、仲良しこよしと言えば仲良しこよしな呼び方であった。
「結構治った、もう大丈夫」
「嘘ばっかり」
「天邪鬼だからな」
「それじゃあやっぱり駄目なんじゃない。ほんとじゃっくんって……」
「……おい、瓜坊」
「嘘ばっかり」
「天邪鬼だからな」
「それじゃあやっぱり駄目なんじゃない。ほんとじゃっくんって……」
「……おい、瓜坊」
体調を崩したじゃっくんを寝かせようと、瓜坊がなお言い募ろうとする途中。
じゃっくんが山のふもとを指差した。
いくつもの灯りが揺れていた。
火で道を照らして非難しているのか、火を焚いて一塊になっているのか。
間違いなく村の人間が恐れているがありありと分かった。
じゃっくんが山のふもとを指差した。
いくつもの灯りが揺れていた。
火で道を照らして非難しているのか、火を焚いて一塊になっているのか。
間違いなく村の人間が恐れているがありありと分かった。
「あちゃ」
「派手にやってたからな、お前ら」
「僕じゃなくてこの人がズンズン地面を叩くから」
「どっちでもいい。頃合だ。これ以上村の人らを恐がらせてもいかんからな、山の向こうまで場所を移そう。お前、その姿のまんまで派手に跳べよ」
「うん、じゃあ掴まって」
「派手にやってたからな、お前ら」
「僕じゃなくてこの人がズンズン地面を叩くから」
「どっちでもいい。頃合だ。これ以上村の人らを恐がらせてもいかんからな、山の向こうまで場所を移そう。お前、その姿のまんまで派手に跳べよ」
「うん、じゃあ掴まって」
弱った体でじゃっくんが瓜坊にしがみつき。
「……待て。そいつも連れて行くのか?」
見れば、巨猪が器用に豆蔵を抱え込んでいるではないか。
「え、うん。旅の途中みたいだから、山の向こう側まで送ってあげておこうかなって」
「お人良しめ。殺しにかかってきた相手だろう」
「でもそれは村の人たちのためだったし」
「パクリがどうたらって聞こえてたぞ」
「……出発進行ー」
「お人良しめ。殺しにかかってきた相手だろう」
「でもそれは村の人たちのためだったし」
「パクリがどうたらって聞こえてたぞ」
「……出発進行ー」
家屋ほどの大きさで、なお身軽く巨猪が跳躍してみせた。
巨猪の姿のままできる限り木々を傷つけぬように移動せんとする配慮だが、
夜の暗がりでも村人たちにはっきりと山を去る姿を見せ付ける意味合いを作っている。
少しだけ村がざわつくような気配を瓜坊は背中に感じ、あっという間に山の反対へと躍り出てしまった。
巨猪の姿のままできる限り木々を傷つけぬように移動せんとする配慮だが、
夜の暗がりでも村人たちにはっきりと山を去る姿を見せ付ける意味合いを作っている。
少しだけ村がざわつくような気配を瓜坊は背中に感じ、あっという間に山の反対へと躍り出てしまった。
そしてふもとまでたどり着けば。
じゃっくんと豆蔵を寝かせて、瓜坊は少年の姿に再び変じてまた山に戻ってしまった。
じゃっくんと豆蔵を寝かせて、瓜坊は少年の姿に再び変じてまた山に戻ってしまった。
「起きてるんだろう」
じゃっくんが火をおこしながら横たわる豆蔵に声をかける。
「バレバレか」
豆蔵が起き上がる。
バツ悪そうな、居心地悪そうな顔であった。
バツ悪そうな、居心地悪そうな顔であった。
「お前ら、いい奴だな」
「……何がだ」
「村の人たちへの配慮だよ」
「恐がられるのは、仕方ねぇよ。だからそれなりには対応するさ」
「二つ、お前に謝る」
「?」
「すまん、殺そうとした」
「いいよ、瓜坊に返り討ちにされたし。で、もう一つは?」
「お前の高熱についてだ」
「……何がだ」
「村の人たちへの配慮だよ」
「恐がられるのは、仕方ねぇよ。だからそれなりには対応するさ」
「二つ、お前に謝る」
「?」
「すまん、殺そうとした」
「いいよ、瓜坊に返り討ちにされたし。で、もう一つは?」
「お前の高熱についてだ」
焚き火ができた。
豆蔵の、大人びた顔が照らされる。
じゃっくんの疲労した顔も。
豆蔵の、大人びた顔が照らされる。
じゃっくんの疲労した顔も。
「いや、お前のせいじゃないだろう、これは」
「いや、俺のせいなんだよ」
「……話してもらおうか」
「お前、ミサキって女の子に会わなかったか?」
「ミサキ?」
「十代半ばで髪が長くて……」
「あぁ」
「いや、俺のせいなんだよ」
「……話してもらおうか」
「お前、ミサキって女の子に会わなかったか?」
「ミサキ?」
「十代半ばで髪が長くて……」
「あぁ」
気だるそうに、じゃっくんが思い当たる。
そう、この熱が出る直前。
瓜坊と二手に分かれて食料を集めていた時分。
一人、女の子に会っている。
そう、この熱が出る直前。
瓜坊と二手に分かれて食料を集めていた時分。
一人、女の子に会っている。
「名前までは知らんが会ってるな、その子に。いや、会ったと言っても、ちょっとお互いに姿が見えたってだけだ。喋ってもねぇ」
「そいつに移されたのさ」
「……病気をか? んな馬鹿な」
「そういう風に作られた女だ。七人に感染させて遺体を乗っ取るミサキ。俺はこいつを追っている」
「追ってる?」
「殺し損ねたんだよ、俺はこいつを。だからお前が感染させられたのは、俺のせいだ。すまん」
「そいつに移されたのさ」
「……病気をか? んな馬鹿な」
「そういう風に作られた女だ。七人に感染させて遺体を乗っ取るミサキ。俺はこいつを追っている」
「追ってる?」
「殺し損ねたんだよ、俺はこいつを。だからお前が感染させられたのは、俺のせいだ。すまん」
豆蔵の態度は真摯だ。
真剣だ。
疑う気には、なれない。
真剣だ。
疑う気には、なれない。
「……も、ちょい詳しく話を聞かせろ。いや、待て、瓜坊がすぐに帰ってくる。それから聞かせろ」
程なくして。
瓜坊が戻ってくる。
高熱にうなされる一人の坊主を抱えて。
瓜坊が戻ってくる。
高熱にうなされる一人の坊主を抱えて。