Top > 【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】 > 異形世界・狸よ躍れ、地獄の只中で
第四話『刀語、でござる……だ、題名考えるのが面倒だっただけでござる! パクリとかじゃござらんし!』
愛刀を佩いて藤ノ大姐の元へと戻った迅九郎は、屋敷の玄関先にぼってりとうずくまっている奇怪
な物体を見とがめ、眉をひそめた。
な物体を見とがめ、眉をひそめた。
「……大姐様、何でござるか? このぶくぶくのぱんぱかぱんに膨れ上がった虎柄の毛玉は」
「何を言うておるのじゃ狸……というのは流石に酷かのう。こうまで大きく変化してしまってはな。ほ
れ、さっきのあの猫じゃよ。同じ模様をしておるじゃろ」
「あの猫……? 確かアカトラとかいうあの無礼な? いやいやお待ちください大姐様。確かに無礼な
猫ではありましたが、こんなはち切れる寸前の水風船のような体型ではなかったはず」
「何を言うておるのじゃ狸……というのは流石に酷かのう。こうまで大きく変化してしまってはな。ほ
れ、さっきのあの猫じゃよ。同じ模様をしておるじゃろ」
「あの猫……? 確かアカトラとかいうあの無礼な? いやいやお待ちください大姐様。確かに無礼な
猫ではありましたが、こんなはち切れる寸前の水風船のような体型ではなかったはず」
「アホ狸! 大姐様のお話聞いとらんかったんかニャ! これは変化の術なのニャ! ちょ、ちょっと
失敗しちゃって、こんなぱんぱんになっちゃったけどニャ」
失敗しちゃって、こんなぱんぱんになっちゃったけどニャ」
ぶくぶくの毛玉が喋っている。その声もまたややふくよかな感じになってはいるものの、確かにあの
甲高くてよく通る、さっき聞いたばかりの声だとわかった。最後のほう、だいぶ自信なさげにぼそぼそ
なってはいたが。
甲高くてよく通る、さっき聞いたばかりの声だとわかった。最後のほう、だいぶ自信なさげにぼそぼそ
なってはいたが。
「アカトラよ、術の鍛錬は日々怠ってはならんと言っておいたはずじゃよ?」
「ご、ごめんなさいニャ大姐様……」
咎める、というよりは優しく諭すような藤ノ大姐に、毛玉は素直に謝る。さすが、年季が違うななど
と、迅九郎は勝手に得心した。
「ご、ごめんなさいニャ大姐様……」
咎める、というよりは優しく諭すような藤ノ大姐に、毛玉は素直に謝る。さすが、年季が違うななど
と、迅九郎は勝手に得心した。
「まあよいよい。さて、では狸よ。乗れ」
「は?」
「は? じゃのうて。なんじゃその妙に心がささくれ立つ声色と表情は。この毛玉の背に乗れと言うて
おるのじゃ。ほれ早く」
「は?」
「は? じゃのうて。なんじゃその妙に心がささくれ立つ声色と表情は。この毛玉の背に乗れと言うて
おるのじゃ。ほれ早く」
ぱんぱんに膨れ上がり、もはや本来猫であるとは思えない大きさにまで達している毛玉。とは言って
もやはり本来は所詮猫。背に乗ったりして大丈夫なのだろうか。柄にもなく冷静な思考を回そうとした
迅九郎だったが、それを許さないのが鬼のババア。
もやはり本来は所詮猫。背に乗ったりして大丈夫なのだろうか。柄にもなく冷静な思考を回そうとした
迅九郎だったが、それを許さないのが鬼のババア。
「まったくもう、何を躊躇しておるのじゃこの狸めは。わしが乗れと言ったらさっさと乗るのじゃ。ほ
れどすーん! なんちてな」
考え込む迅九郎にほぼ不意打ちの形で、ガラ空きの背後に渾身の体当たりをかます鬼のババア。奇襲
を受けた迅九郎は赤い虎柄の毛玉へ目がけ、声を上げることもできずに崩れ落ちていった。
れどすーん! なんちてな」
考え込む迅九郎にほぼ不意打ちの形で、ガラ空きの背後に渾身の体当たりをかます鬼のババア。奇襲
を受けた迅九郎は赤い虎柄の毛玉へ目がけ、声を上げることもできずに崩れ落ちていった。
「成程。やはりこのアカトラとやらは化け猫の類でござったか。しかしこの背中、ふかふかとしてなか
なか心地よいなあ」
「こ、こら狸! あんまりもふもふしちゃダメニャ! くすぐったいのニャ! バランス崩して落っこ
ちても知らんニャ!」
「わしもアカトラの背に乗るのは久しぶりじゃが、ほんにそなたの背は落ち着くのう。毛並みもよいし、
柔らかいし」
「大姐様までもふもふしちゃダメニャ! ダメニャ!!」
なか心地よいなあ」
「こ、こら狸! あんまりもふもふしちゃダメニャ! くすぐったいのニャ! バランス崩して落っこ
ちても知らんニャ!」
「わしもアカトラの背に乗るのは久しぶりじゃが、ほんにそなたの背は落ち着くのう。毛並みもよいし、
柔らかいし」
「大姐様までもふもふしちゃダメニャ! ダメニャ!!」
屋敷の玄関先での悶着から数刻。迅九郎は藤ノ大姐とともに、アカトラの背に跨って地獄の空の人と
なっていた。この「空を飛ぶ」というのも、化け猫アカトラが持つ術の一つだそうだ。地獄の化け猫は
結構多才なのだなと、迅九郎は少し感心していた。
なっていた。この「空を飛ぶ」というのも、化け猫アカトラが持つ術の一つだそうだ。地獄の化け猫は
結構多才なのだなと、迅九郎は少し感心していた。
しかし何より、その背の心地よいこと。あまり速度は出せないらしく、ふわふわのんびりと揺られる
その感覚と相まって、眠りの世界に誘われることすでに数度。早くも自分がなぜ今この背に乗っている
のか忘れそうになっている迅九郎だった。
その感覚と相まって、眠りの世界に誘われることすでに数度。早くも自分がなぜ今この背に乗っている
のか忘れそうになっている迅九郎だった。
もう何度目かもわからない睡魔の襲撃にいよいよ屈服しかけた、ちょうどその時。
「狸よ」
背後にいる藤ノ大姐が声をかけてきた。眠気を振り切って答える。
「狸よ」
背後にいる藤ノ大姐が声をかけてきた。眠気を振り切って答える。
「何でしょう」
「退屈じゃ。何か面白い話を聞かせよ」
「は?」
「は? じゃのうてえ。なんでそなたの「は?」はこうも神経を逆なでられるのじゃ? ほれ、なんか
あるじゃろ? 面白い話。例えば……」
「退屈じゃ。何か面白い話を聞かせよ」
「は?」
「は? じゃのうてえ。なんでそなたの「は?」はこうも神経を逆なでられるのじゃ? ほれ、なんか
あるじゃろ? 面白い話。例えば……」
藤ノ大姐はそこで、思いっきりわざとらしい溜めを作った。こういうわざとらしさというのは、相手
も次の言葉をうすうすは感づいているだろうという前提があって意味をなすのだが、ぼんやり狸の迅九
郎の場合は話が別だ。迅九郎は次の言葉が何かなど考える気さえなかった。すでにまた眠気に襲われか
けてすらいた。
も次の言葉をうすうすは感づいているだろうという前提があって意味をなすのだが、ぼんやり狸の迅九
郎の場合は話が別だ。迅九郎は次の言葉が何かなど考える気さえなかった。すでにまた眠気に襲われか
けてすらいた。
「そなたの持つ刀について、とかな」
「……この刀。童子切について、でござるか」
「そうそう。その『童子切』についてじゃ」
「……この刀。童子切について、でござるか」
「そうそう。その『童子切』についてじゃ」
眠気は、すっかりと覚めていた。
ふわふわと浮遊するように飛ぶアカトラの背中の上で、迅九郎は背後にいる藤ノ大姐のほうに体ごと
向き直る。空の上なのだが、彼はその辺意識していないのか、臆することもなくひょいひょいと身軽な
身のこなし。おそらく何も考えていないだけなのだろう。
向き直る。空の上なのだが、彼はその辺意識していないのか、臆することもなくひょいひょいと身軽な
身のこなし。おそらく何も考えていないだけなのだろう。
「まず、先に申し上げておくべきことがござる。実はこの刀……」
「う、うむ」
「う、うむ」
わざわざ空の上で体の向きを変えて、真摯な表情で語る迅九郎に、藤ノ大姐も少し身構える。迅九郎
の尻のあたりから、ごくりと唾を呑むような音がする。アカトラだ。両者とも、迅九郎の次の言葉を聞
き逃すまいと構えている。
の尻のあたりから、ごくりと唾を呑むような音がする。アカトラだ。両者とも、迅九郎の次の言葉を聞
き逃すまいと構えている。
「この刀、刀身がないのですよ」
「は?」
「ニャ?」
「おや、聞き逃したんでござるか? この刀、刀身がないのですよ。刀身がないのです、この刀」
「は?」
「ニャ?」
「おや、聞き逃したんでござるか? この刀、刀身がないのですよ。刀身がないのです、この刀」
藤ノ大姐、「は?」と言った表情からまるで動かない。それはきっとアカトラも同じだろう。おそら
く迅九郎の言葉は聞こえていない。
空気の読めない侍、迅九郎。追い打ちをかけるように、
「証をお見せするでござる。じゃじゃん! どうでござる? 刀身ないでござろう?」
く迅九郎の言葉は聞こえていない。
空気の読めない侍、迅九郎。追い打ちをかけるように、
「証をお見せするでござる。じゃじゃん! どうでござる? 刀身ないでござろう?」
となぜか愉快気に言って、鞘から柄を引き抜いて見せる。その言葉通り、ぎらりと鈍く揺らめく、数
多の妖物の血を吸ってきたいわくつきの刀身など、そこには存在しなかった。
多の妖物の血を吸ってきたいわくつきの刀身など、そこには存在しなかった。
藤ノ大姐はいまだに「は?」の表情のまま凍りついていた。ぱちぱちと瞬きをしていることから、と
りあえず生きてはいるようだと、迅九郎は無用の納得をした。
りあえず生きてはいるようだと、迅九郎は無用の納得をした。
かちん、と小さな音を鳴らして、刀身のない刀を鞘へと戻す。ふっと一つ、小さな息をつく。
「言うまでもないことですが、『童子切安綱』という銘の刀は、この世……ではなく、現世に一振しか
ございませぬ。まあ厳密にいえば『童子切』などというのは銘ではなく……いやそれはいいとして。由
緒ある武家、源氏のさるお方が鬼退治に使われたとされるのが、童子切安綱でござる。大姐様であれば
勿論、御存知でいらっしゃいますね」
ございませぬ。まあ厳密にいえば『童子切』などというのは銘ではなく……いやそれはいいとして。由
緒ある武家、源氏のさるお方が鬼退治に使われたとされるのが、童子切安綱でござる。大姐様であれば
勿論、御存知でいらっしゃいますね」
「む、無論じゃ。あの頃は酒呑の一族も……あ、なんでもないぞ。ほれ、続けよ」
「源氏の御名と輝かしい名声に泥をかけるつもりは毛ほどもありません。ただ、真の童子切安綱は、拙
者が持っているこの刀なのです」
「ほうほう。謎がみすてりいというやつかの。面白いのう、続けるのじゃ」
「源氏の御名と輝かしい名声に泥をかけるつもりは毛ほどもありません。ただ、真の童子切安綱は、拙
者が持っているこの刀なのです」
「ほうほう。謎がみすてりいというやつかの。面白いのう、続けるのじゃ」
刀身ない発言の衝撃もようやく薄れてきたか、藤ノ大姐は迅九郎の話にずいと身を乗り出す。はだけ
た着物の中が見えかけて、さすがに焦った迅九郎は、腰にさした愛刀に目をやる。
た着物の中が見えかけて、さすがに焦った迅九郎は、腰にさした愛刀に目をやる。
「源氏の御大将が使われた安綱の刀身は、もともとこの刀の刀身でした。いつ、どうしてこの刀の刀身
だけが失われたのかは拙者存じません。ですが拙者がこの刀を手にした時、この刀もまた『童子切』と
呼ばれていました。そしてまた、そう呼ばれるにふさわしい力を持つ刀だったのですよ、こいつは」
だけが失われたのかは拙者存じません。ですが拙者がこの刀を手にした時、この刀もまた『童子切』と
呼ばれていました。そしてまた、そう呼ばれるにふさわしい力を持つ刀だったのですよ、こいつは」
真剣な表情で綴られる迅九郎の言葉に、ふむふむと納得しかけていた藤ノ大姐だったが、ここであか
らさまな矛盾に気付く。
「待つのじゃ狸。その刀、刀身がないじゃろうが。刀身がない刀に力も宝もあるものか」
「あ、さすがです大姐様。あっさりばれてしまいました」
らさまな矛盾に気付く。
「待つのじゃ狸。その刀、刀身がないじゃろうが。刀身がない刀に力も宝もあるものか」
「あ、さすがです大姐様。あっさりばれてしまいました」
てへ、という表情でうそぶく狸。藤ノ大姐、大噴火寸前である。
「されど、拙者の持つこの『童子切』にはちょっとした秘密があるのです。この刀の――」
「お喋りはそこまでニャ! 鬼婆、近いニャ!」
「されど、拙者の持つこの『童子切』にはちょっとした秘密があるのです。この刀の――」
「お喋りはそこまでニャ! 鬼婆、近いニャ!」
アカトラの緊迫した声が、迅九郎ののんびりした言葉を遮った。アカトラの発言で迅九郎はようやく
当初の目的を思い出した。鬼婆退治。確かそうだったはずだ。
当初の目的を思い出した。鬼婆退治。確かそうだったはずだ。
屋敷からどれほど飛んできたのだろうか。時間で言えば結構長かったように思うが、なにぶん毛玉と
化したアカトラはただ浮遊しているだけで、速度などないに等しかった。それを考えれば、距離は大し
て離れていないのかもしれない。
化したアカトラはただ浮遊しているだけで、速度などないに等しかった。それを考えれば、距離は大し
て離れていないのかもしれない。
真っ黒の厚い雲に覆われた空と、灰色の濃い霧に覆われた、眼下に広がる沈みこんだ大地。華やかで
きらびやかな花の蔵屋敷が、幻であったかのようにも思えてくる。
きらびやかな花の蔵屋敷が、幻であったかのようにも思えてくる。
地獄。ここは、やはり地獄。誰もが厭うその地へと、自分は落ちた。
――無意味なことなど何もない。何かを無意味だと思うかどうかは、己の気持ち一つだ。
生前、そんな言葉を誰かから聞かされたような気がする。
自分はこの言葉に賛成はしなかった。でも今、少しだけ――
自分はこの言葉に賛成はしなかった。でも今、少しだけ――
「死でさえも、意味はあるのだろうか。地獄に落ちたこと、心ならずもそこに留まっていること。それ
ら全て、意味があるというのだろうか」
ら全て、意味があるというのだろうか」
少しだけ、信じてみようかと思った。
第四話『刀語、でござる……だ、題名考えるのが面倒だっただけでござる! パクリとかじゃござらんし!』終