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Yuri-3-044

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神聖領域の物語―Sacrifice―


44 :神聖領域の物語―Sacrifice―:2010/11/20(土) 20:37:42 ID:HWQBCQSO

 ・ファンタジー?
 ・少女×少女
 ・ちょい暗め展開

という感じなので、そういうのでも平気だぜ!って、方はどうぞー


45 :神聖領域の物語―Sacrifice―:2010/11/20(土) 20:39:30 ID:HWQBCQSO

彼女は自らの名を呼ぶ私の声に、長い黒髪をふわりとなびかせながら、振り向いた。
腰まで届く位に長く真っ直ぐな黒髪と、藍色の瞳が印象的なその少女―アーシェは、荘厳な雰囲気
を帯びたこの神殿の祭壇の前で、たった一人で、祈りを捧げていたところだった。

それでも彼女は祈りを遮るように、声をかけた私のことを咎めることもなく、いつもと変わらない様子
で、アーシェは私に向かって微笑みかけてくれた。

私は聖なる乙女候補者の証である飾り気の無い真っ白なドレスを身に纏って、こちらに微笑みかけて
くれていた彼女のことを本当にきれいだと―ただ、そう思っていた。
そして、その場所でそのまま立ちつくすようにして彼女の方を見ていた。


「……ミーシャ、どうしたの?」

アーシェは言葉を無くしたかのように、その場で立ち止ったままの私を見つめながら、いつものように優
しい声で、そう声をかけてくれた。
私は、彼女の声にふいに思い出したように、彼女へと要件を告げる。

「アーシェ、これから、ここに、ソフィア様がお越しになるって」
「そっか、それじゃあ、ここからは退かなくてはならないね」

祭壇の前に膝をついていた彼女は、そう言うと、その場から立ち上がった。
そして、私の傍へと来ると、そのまま、軽く私の手を引いた。

「ミーシャ、行こう」
「あ、うん」

私はそう短く返事を返しながら、そのまま手を引かれるようにして、彼女と一緒に神殿の外に向かって
歩いていった。


神殿の外には、回廊が張り廻らされていて、そこには神殿の中とは異なり、硝子には遮られていな
い、屋外ならではの陽の光が差し込んでいる。
神殿の外へと急に出た私達には、その陽の光は、一瞬だけれども、とても眩しいものに感じられた。

私とアーシェは、暖かな午後の光の差し込む回廊を抜け、回廊の間にある小さな中庭を通り過ぎる
と、この聖殿の更に奥の方にある庭園の方へと向かった。
聖殿の本殿よりも更に奥へと向かうことになる、この庭園側へと歩いていけば、後でお越しになるソフ
ィア様とかち合うことも無いからだ。


そう、ここは、私達、聖乙女とその候補となっている少女達のみが立ち入ることができるという決まりご
とを原則とした領域-聖殿と呼ばれる宮殿のように巨大な建物-聖殿の本殿-を中心として拡がる
広大な神聖領域の一角だ。
私達は、今、この場所で、聖乙女候補としての生活を送っている。

先程、私がその御名を口にしたソフィア様は、私達より1つ年上の真っ直ぐな長いプラチナブロンドと
菫色の瞳が美しい、つい先頃、新たに聖乙女としての任に就かれるようになったばかりの御方だ。
聖乙女が祈りに集中できるよう、聖乙女候補者の一人ひとりが、その自覚をもって、聖乙女に十分
な敬意を払うという、この聖殿内で最も優先すべき決まりごとの一つに従って、私達は、早々に神殿
を後にしていた。

それに、私はこのソフィア様がとても苦手だった。
ソフィア様は少女というには少し精悍な趣があり、ときには少年のようにさえ見えることもある、この私
の風貌と、波打つハニーブロンドの長い髪に、今のこの空の色をそのまま写したような深いブルーアイ
ズの瞳を大変気に入ってくださっている。

私のことを「私の愛する義妹」とも呼んでくださることもある程に、私に対して特別な想いと愛を持って
接してくださる御方なのだけれど。


それは、まだ十二になったばかりで、幼なさの残る年頃だった私が、ソフィア様と同室のあの部屋に住
まうようになり、彼女をお義姉様と呼ぶようにと、言い渡されたあの頃から―私が十七歳になろうとし
ている今に至っても、ずっと変わってはいない。
それでも、今の私は、ソフィア様のその想いと、私を愛でてくださるあの行為を以前のように、素直に
受け入れることが出来なくなっていた。

私が年齢を重ねていくなかで、そういったことに疎いながらも、あの行為がもっと違う、特別な意味さ
え、持つことになるものなのだと、徐々に徐々に、理解できるようになってきたあの頃から、それを受け
入れることは、私にとって、本当に少しずつ、痛切な苦痛を伴うものへと変っていった。

でも、それは、私がこの聖殿で暮らす限り、今も、あの時には、お義姉様と呼ばされる、ソフィア様との
絶対的な服従関係を強いられる、あの関係が保たれ続ける限り、続いていくものだ。

ソフィア様が聖乙女となり、私の同室のお義姉様では無くなってしまった今も、その数は減ってはいる
ものの、それはずっと続いているのものだから。
私への愛故に行うのだと、あの御方が仰っている、あの行為は、今もなお、続けられているのもので、
これからも暫くの間、あの御方によって、強いられてゆくことになるのだろう。


私はアーシェと連れだって庭園へと向かうその途中で、ぼんやりとそんなことを考えていた。
アーシェはふいに、先程よりもほんの少し強い力を入れるようにして、彼女の柔らかく、暖かい両方の
手のひらで隣を歩いていた私の右手を、ぎゅっと包み込むように握ってくれていた。

それに気付いた私が、彼女の方へと振り向くと、彼女は私を見つめたまま、何も言わずいた。
彼女は私が考えごとをしていた、その間、横に並んだ私と一緒の歩調で歩くようにと、ただそれだけを
心がけてくれていたようだった。

私は、私にとって一番大切だといってもいい、今ではめっきり少なくなってきてしまった、アーシェと二人
きりで一緒にいられる本当に大切な時間だというのに、随分と深刻な表情をしていたようだ。

アーシェは、きっと少し憂いを帯びた気持ちになっていたにもかかわらず、自らの気持ちを隠すようにし
して、私へと微笑んでくれた。
こんなふうに、私の隣で、ただ何も言わずに、傍いてくれたアーシェの存在に、私は今まで、どれ程、救
われてきたかわからない。


今までずっと、アーシェが傍にいてくれたからこそ、自分の魂の奥底までも縛りつけられるかのような、
この聖殿での生活を乗り越えてこられたんだと思う。
自分の存在さえも消し去りたくなるような気持ちになることも度々あったが、彼女は、全てを知ってい
て、それでもちゃんと私の傍にいてくれたのだから。

「アーシェ、本当にごめん」
「ミーシャが謝ることなんて、何もないよ」

小さな、呟くような声で謝罪の言葉をぽつりと述べた私に対して、アーシェは即座に、真剣で、真っす
ぐで、そして真摯な表情で私を見つめながら、そう、きっぱりと言い切った。

「ありがとう」

私は彼女のその言葉に、なぜかほっとして、その場で泣きたくなるような気持ちになっていた。
それでも、私がそんな気持ちを抑えて、彼女に向かって、精一杯の笑顔と感謝の言葉を返すと、彼女
も、私が無理に笑っていることなど、お見通しの筈なのに、私にあわせて、普段と変わった事など何も
無いのだというように微笑んでくれた。


「さ、早く、庭園の方に行こうよ」
「うん」

私とアーシェは、互いに繋いでいたままにしていた手のひらを一度、どちらからともなく放すと、庭園の
奥の方に位置する、大きな木々が見える、いつものお決まりとなっている場所へと向かって駈け出し
ていった。

そして、それこそ、まるで、どちらがあの場所に早く着けるのかと、ただ、無邪気に競争をして遊んでい
た、何も知らない小さなあの頃に戻ったかのような笑顔で互いに微笑みあった。

 *Fin*


ちょっと暗めお話にお付き合いをいただきありがとうございましたー
百合ものって、書くのが難しいなーと、実感しましたよ
でも、今度投下するときは、もう少し明るい話にしたいです…
どうぞよろしく



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