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「ヒューマン・バトロイド」第12話

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匿名ユーザー

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スタークが南太平洋中立国家群に停泊して3週間がたった。
連邦は戦力を整えて中立国家群の近くまで侵攻、宣戦布告の準備を行っている。
「さーて、向こうからホイホイ来てくれるとはな!」
リキはすぐにでも出撃できるようにスタンバイしている。
最初の1戦でリクを越える撃墜数を叩きだしたリキは既にエース認定されている。
守護狂神(ガーディアン)。
執拗に仲間を守る姿、そしてその為に10倍返しの勢いで弾幕を張る姿。
その2つから狂った守護神の二つ名をリキは手に入れた。
「ちょうどいいタイミングだ。これなら向こうとの交渉も上手くいく」
リクは水平線に見える連邦の大軍を見据えて言う。
誰もが交渉に脅迫というルビを頭の中でつけるほど冷酷な表情を浮かべるリク。
リクはクルーに自分の正体を暴露してから性格を偽らなくなった。
冷酷で少し傲慢で自信家。だが心を許した相手には常に真っ直ぐ向き合う。
クルーはそんなリクに殆ど戸惑わず、速攻で受け入れた。
[出撃準備!さっさとしろよ!]
ゴースの声がハンガーに響く。
結局、新しい艦長は置かなかった。
カルラは自分から辞退したし、ウィンスは首を横に振った。
リキも案に上がったが柄じゃないと断り、代わりに推薦されたリクも断った。
今はカルラは艦長代理として周りに助けられながら指揮をとっている。
「あれ、ウィンスさんは?」
戦闘になるとすぐにあらわれるウィンスが現れない。
リクは少し首をかしげていた。


青空を見上げる。
スタークの艦橋の上、非常口から抜けてすぐの所でウィンスは仰向けに寝転んでいた。
最近の自分の戦いぶりが、若いエースの活躍に押されている事を感じていた。
「そろそろ、歳かもしれんな……」
「そうかね?まだ40だぜ、俺達」
いつの間にか現れたジョージが言う。
「正確には42だがな。お前は若い波に何とも思わんのか?」
「まあ、思う所はあるさ。ラウルの成長なんか、正直予想外な程伸びたしな」
二人は自分達が取り残されていく感覚を、不思議と心地良い物と感じていた。
[そんな事言っていきなり引退されても困りますよ?]
突然通信がブレインチップに入った。
「リクか。どうやって繋げた?通信を遮断していた筈だが……」
[ハックして解除しました。連邦が来てます。さっさと戻って出撃準備してください]
リクはとりあえず伝えるべき事を伝えた。
「ブレインチップをハックだぁ!?お前、いくらなんでも規格外過ぎるだろ!?」
常識外の事をあっさりと事も無げにリクはやった。
[そんな事はどうでもいいんです。貴方達には教えて欲しい事がまだまだあります]
リクはただただ真剣に言う。
[リキは広範囲攻撃の効率的な方法を掴めていません。ミキは自分で全てやらなければいけないと思っています。俺も正直戦闘に関しての技術は
完璧に備わっていません。まだ教えてもらいた事も、盗んでしまいたい事も多すぎるんです。ですから……まだ俺達に背中を見せてください]
通信が切られる。ウィンスとジョージは少しその余韻に浸り、そして立ち上がった。


オーディルはスタークが出港するのを見ていた。
いつもなら既に出撃の準備をして侵入者へ警告を送っているタイミングだが、交渉の場にいた若い男――リクの計略の為に待機している。
「彼らに任せる事は正しいんだろうか?」
「我々は切羽詰まった状態です。利用できるものは利用しなければ」
部下の言葉を理解はするが納得は出来ない。
自分達がこの土地を守る事を決めたのは義務感でも頼まれたからでもなく、この土地を愛しているからだ。
それを横から現れた奴らに、結果として役割を譲っている。
「どうしても悔しいな……向こうの方が上手くやれると思っているから尚更……」
[そうでもありませんよ?]
「……いきなり通信を入れてきてどうした?そもそもお前達に通信コードを教えていない筈だが?」
無許可のうえ恐らくハックして通信を入れてきたリクに警戒を露わにするオーディル。
[いえ、少し人と話したい気分でして]
「わざわざこちらに通信を入れる必要が無い。そっちにも人がいるだろう?」
[あー、今はレールガンの弾倉にいるんで誰とも喋れないんです]
「ちょっと待て、何で弾丸同然の扱いなんだ?」
不可解だった。底知れない迫力を醸し出し、まるで見て来て練ったかのような計略を立て、そしてなぜか弾丸になっている。不可解だ。
[出撃の為ですね。まあ、出撃できないんですけど……]
「だろうな、そんなもんで出撃したら死ぬからな」
[あ、死にはしませんよ?それに嫌な訳でもないです]
「マゾなのか?」
[違いますよ!?]
気付けば会話のペースに巻き込まれている事に気付き、オーディルは咳払いの後話を促そうとして―――。
[えっと、用件があるんですが……この地域をこの際、ちゃんと国にしちゃいましょう]
盛大にこけた。
「そんな思い付きで国が出来るか!政治舐めてんのか!?」
[貴方なら、出来ますよね?]
リクの声の質が変わる。こちらに有無を言わせない物を乗せてくる。
「……俺に出来る訳がない。いや、そんな事はしたくない」
[この国を救うためでも、ですか?]
「救う、だと?」
リクはなめらかに言葉を紡ぐ。
[守るだけでは既に限界でしょう?だから攻められる事を無くしてしまえばいい。救うんです、この国を。誰でも無い、貴方の決断で]
「国に代表が必要なら別の者でもいいだろう?なぜ俺に―――」
[無駄話はやめろよ]
リクは一気にたたみかける。
[この国の人たちはあんたを信頼してる。常にこの国を守ってきたあんたを、だ。国家の纏まりが必要なのが確かに理由だが、俺達に出来る事な
んてただのお節介、押し付けがましい恩の押し売りだ。だがあんたに出来る事は違う、あんた自身が築き上げた物を形にしてもいいんじゃない
か?]
「……出来ると思うか?こんな荒事でしか役に立たない様な俺なんかが」
[むしろあんた程適任な人もいないと思う。人づての話からの判断と、国を見た感想だけだが、その頭の回転と求心力があれば充分だ]
オーディルは悩み、そして一つの結論を出した。


[俺は世界を同時にハックする様な真似をするから戦闘はできない。20分間、時間を稼いでくれ]
リクの作戦とそれに伴う自分の役割が艦内の全てのクルーに伝えられる。
「相変わらずふざけたスペックね……」
「仕方ないだろ?アイツは人の枠を無理矢理越えさせられたんだから」
ミキは作戦の内容に驚きを隠せない。そもそも、前提条件から聞いた事がない。
激戦区である北極の真実、しかもそれは同盟側が仕込んだ話。
「そんな簡単に物事が読めるってのは違うだろうけどな」
リキは水分を取りながら気楽に言う。
「そうでもないかもよ?」
ラウルは端末で最終調整を行いながら言った。
「人の脳は電気信号で動いている。詰る所、脳も一種のコンピューターなんだよ」
「何が言いたいの?」
ラウルは作業の手を止めてこちらに指をさしながら言った。
「リクは脳に干渉できるかもしれない。そうでなくても内部の思考を覗けるかも知れない」
「はぁ?そんな事出来る訳ないだろ」
リキは馬鹿らしいと首を振るが、ラウルはいたってまじめに告げる。
「普通なら、いや、16年前なら話は別なんだけどね……ブレインチップがあるから……」
ブレインチップは第三次世界大戦時に開発された。
これによって、小規模の通信なら脳を介して行える。
つまり、脳はブレインチップを通して世界に開いている。
「だが、そんな小規模な通信領域で何が出来るの?無茶をしちゃえば相手を殺す様なものでしょ?」
脳に過剰な負荷をかければ、すぐに人は死んでしまう。そうでなくても廃人になる。
「あくまで可能性だよ、可能性。出来るとは言って無いし、知らないし、興味も無い。でも、ひょっとしたらひょっとするかもよ?」
ラウルは作業の終わった端末を閉じながら話を締めた。
ミキは機体を見つめる。
Typeβの左肩にはかつての自分を示す黒蝶のモチーフ、守護狂神(ガーディアン)の胸部にはでかでかと攻撃的なデザインの盾のモチーフが新
たに刻まれていた。


リクは目を閉じている。
キセノの行動と第三次世界大戦時の日本の戦力分布、そして隙間を埋める理論で作戦を練った。
後は自分がいかに早く掌握するかだけだ。
「流石に世界を股にかけるハッキングは意識が飛ぶかもしれないからな……その時は電気ショックよろしく、イザナミ」
『了解しますが、あんまり推奨しませんよ?もう少しやんわり、ツンデレ幼馴染風に起こしましょうか?』
リクは既に目をつぶって集中しているため、聞いていない。
『無視ですか。瞑想してキャラが迷走する私を無視しますか。あれ、今の上手くないですか?イザナギ』
『わざわざそんな事で通信を入れないでくださいよ……』
リクは言い争うAIを気にせず流れを頭の中に再現する。
まず今回の追撃隊の母艦を足がかりに連邦のサーバーに侵入、そこから大容量の通信領域と演算装置をコントロール、そしてお目当ての施設の
掌握。
過去の自分でもやった事の無い程、演算を行う事になる。
恐れていた自分と向き合い、その自分にしかできない事をやる。
『敵部隊視認可能距離まで到達しました』
「わかった、やろう」
リクは目をつぶりシステムを起動、そしてハッキングを開始した。


[貴国は我らの陣営の逃亡者をかくまっている。その逃亡者の引き渡しを願いたい。なおこの警告に従わなかった場合、我々には貴国との戦争を
行う準備がある]
「ふざけた事を言いますね?我々の国家は中立国家ですよ?そこに戦争など……もう少し冷静になってみればどうです?」
オーディルは中立国家群代表として連邦の大将との交渉を行っている。
「それに、貴方達の要求には我々への利益が無い。そもそも犯罪者の引き渡しの条約が無い状態でそんな事を行う必要も無い」
[戦争を回避できる事は充分な利益になりえないと?]
にやりと笑い、オーディルはさらに舌戦を繰り広げる。
「我々の戦力を知らないとは言わせませんよ?今まで近づいてきた侵入者を排除してきた我々の」
[今回の戦力は今まで貴国が1回の戦闘で倒してきた戦力の10倍以上の戦力がある。それでも引かないと言うのか?]
「なかなかに戦力を集めていますね。ですがそんなに用意するなんて、随分と我々に怯えているようですね」
リクから頼まれた事は2つ、そのうちの1つはこの交渉を出来るだけ引き延ばす事だった。
[……ならば見せてやろう、本物の戦争の恐ろしさと言う物をな]
ブツリと通信が切られる。
「ふぃー、百戦錬磨、叩き上げの軍人は迫力が違うな……全員に通達、連邦が宣戦布告してきた。防衛隊は今すぐ戦闘準備、スタークにはもう
出撃してもらってるから任せておけ。それと……超大型レーザー、ミョルニルもチャージしておけ」


[敵機接近、数は全体で200前後、内前衛と思われる機体は40程]
[よし、砲撃準備をお願いします。1番、3番レーザー、ミサイルは1から18まで、直後HBを出撃させて対空砲火開始]
カルラの指示で艦内が一気に動き出す。
「ミキ・レンストル、行きます」
砲撃を確認してミキは出撃する。
『敵艦砲撃、来ます』
何発かのレーザーが迫るがミキは機体を捻ってかわす。
『敵機接近、数7』
敵機がこちらを囲むように動くが、ミキは右手の粒子ブレードで連携を阻害する。
「粒子を火器に」
『了解』
左手には粒子対応型自動小銃を持ってさらに敵機をかき乱す。
完全に動きが散漫になった所で撃墜する。
『さらに敵機接近、数4』
目の前に迫る機体に対応しようとした時、背後からのミサイルがその敵機を撃ち抜いた。
[お前は先に行け]
「分かりました、気をつけて」
ウィンスの指示に従いミキは加速する。
前衛の層をすり抜けてその後ろに一切止まらずに攻撃を仕掛ける。
「はぁぁぁっ!」
粒子ブレードを伸ばしてすれ違いざまに斬り、小銃とワイドグラビティで弾幕を後方に展開する。
ミキが通り過ぎたラインに合わせて爆炎が散る。
その時警告音が鳴る。
『艦砲射撃来ます、スタークに直撃コースです』
「させない!」
ミキはブレードを腰にマウント、腰の後ろにセットされているグレネードを手にとる。
「イザナギ、リフレクション展開!」
グレネードを投げ、爆破。
その爆風は黒い粒子が混ざっている。
近づくレーザーが粒子の近くを通り、軌道を変える。
「上手くいくものね。少し驚いたわ」
グレネード内部の重力場粒子でTypeβに使えないリフレクションを使ったのだ。
「これで防御も万全。さて、行くわよ!」
リクのハッキング終了予定まで、あと15分。


スタークに近づく前衛の排除を行う灰被りに1機が接近する。
[この……老兵がァ!]
どうやらエース級らしい機体が接近してくる。
「その老兵に太刀打ちできないで、何を言うか」
敵機の装備は遠距離から中距離の狙撃戦型、中、近距離の砲撃型のウィンスの戦闘スタイルとは相性は良くない。
[くそっ!何故当たらない!]
その手に握られたアンチマテリアルライフルが空の弾倉を吐きだす。
「そこだ」
左手に持ったガトリングがその隙を詰める。
敵機のライフルはマニュピレーターごとひしゃげて火花を生じさせる。
[ぐあァ!?っざっけんな!!]
無事である左手で予備のライフルを取り出すが、片手だけでは反動を消せず、狙いも滅茶苦茶になる。
[畜生が!ンで当たらねェ!]
「そういう台詞は……」
加速した機体の蹴りで銃口を逸らしてガトリングを敵機胸部に向ける。
「狙いをつけてから言え」
金属が千切れる音と共に爆散する機体。
ガトリングの弾倉を取り換えながらウィンスはリクの言葉を考える。
「まだ教えて貰いたい事がある、か……」
先程のエースもセンスは良かった。
だが彼に足りなかった物は、経験に裏打ちされた戦闘技術。
ウィンスにとってあり溢れている物。
「なるほど、さっきの彼には感謝しなければな……」
リクのハッキング終了予定まで、あと5分。


リキの部隊は前衛の処理を終えるとすぐにTypeβの元に向かう。
「大丈夫か?」
[当たり前よ。私がこの程度で音を上げるなんてありえない]
ミキの素気ない言い方はリク以外の男性に対して共通の物だ。
苦笑しながらリキは言う。
「まあ、とりあえず援護すっからな」
レールガンで敵の連携を崩し、そこをこちらの部隊で各個撃破。
ミキはその間、敵に対して牽制をして部隊を守っている。
「しっかし……流石の火力だな、コイツは」
操縦桿を撫でながら呟くリキ。
[当たり前でしょう?ありあわせの予備パーツとはいえ、出来てる物が金若王なんだから]
義父からその恐ろしさを聞かされていたミキは少し身震いをする。
「場合によっちゃ核よか危険だからな、安全装置ってのは重要だなっと」
次の標的にレールガンを撃ち、両肩のレーザーを上下のタイミングをずらして連射する。
流石に味方を弾幕には巻き込めない。
[ミョルニル、発射準備完了です]
「お、来たな」
[行くわよ!]
通信でレーザーの発射準備を確認した為、フォーメーションを変更する。
Typeβが残っているグレネードを遠投する。
「よぉっと!」
レールガンで纏めて狙撃、爆破する。
「行くぜ、接続!」
レールガンを投げ捨て、電力供給用のアダプターを露出させる。
Typeβのバックパックから少しだけ端子がせりあがる。
そこにアダプターを差し込み、ジェネレーターを接続する。
[イザナギ、リフレクション!]
『了解』
狙撃されたグレネードの粒子が一気に操作されてリフレクションを形作る。
巨大な重力レンズが視界を歪めていく。
Typeβで一気に消費される電力を守護狂神が補給していく。
隙だらけになっている二機を他の機体が囲み、攻撃を防ぐ。
『規定値達成、以後この規模を維持します』
[発射して!]
大陸中央の超大型レーザー、ミョルニルがレンズに向かって発射される。
重力レンズは特殊な形に設定されていて、そのレーザーは曲がる事はしなかった。
ただし、収束する。
俯角がマイナスに設定されていたレーザーは収束されて敵部隊が展開している真下の海面に突き刺さる。
雷神の武器の名を冠する一撃は海水を一気に沸騰させて水蒸気爆発を起こす。
真上の敵機を蒸気が呑みこみ、蒸し焼きにする。
さらに向こうからの攻撃は熱と蒸気で遮断。
一点から無駄なく広範囲に広がる水蒸気の壁に敵機は回りこむ事も出来ない、筈だった。
「やば!雲が!?」
[どうしたの?]
しかし今回は運が悪かった。
上空を巨大な雲が覆ったからだ。
それは日光が遮られて守護狂神のソーラーパネルが、つまりはリフレクション維持のための電力が維持できない事を意味している。
レーザー光も降り注いでいるが、水蒸気で陰っていて充分なエネルギーに変換できない。
『出力低下、これ以上のリフレクション維持は不可能です』
[嘘でしょ!?ここで来られたら……]
まずい、本当にまずい。
本来ならこの方法で残りの5分をしのぐつもりだった。
もしこちらに敵部隊が残っても守護狂神の攻撃で一気に撃墜するつもりだった。
しかし、雲が出てしまってはそのどちらも出来ない。
「出ろよ……こんなとこで足手まといになれるかよ………」
リキは雲を見つめて、絞り出すように呟く。
「リクの為の時間稼ぎも出来ないとかって………そんな事が許せる訳ねえだろ……退けよ……出ろよ……太陽!」
その時、ミョルニルのレーザーが一筋だけ空に向かった。
そのレーザーは雲を突き抜けて、太陽を見せる。
『電力回復、維持可能です』
[いっけぇぇ!]
周囲の海水の温度が一気に上昇、蒸気が予定通りの壁を作り出した。
リキはシートに力を抜いて体を預けて呟いた。
「なんだよ……かっこいいじゃねえかよ………」
遠距離からリフレクションの制御を奪うのではなく、同調してほんの少し制御を借りる。
そんな真似が出来る奴は、恐らく世界に一人しかいない。
[遅くなって悪かったな。ま、切り札は最後まで取って置く物らしいしな]
予定よりも3分43秒早く、リクのハッキングは終了した。


「さて、世界地球主義連邦の皆さん。俺は白い魔弾(ホワイトバレット)、リク・ゼノラス。元連邦軍中尉です。今回は連邦にある情報を持って
して交渉を持ちかけたいと思い、こうしています。戦闘態勢を収めてください」
リクは連邦軍に対して奪い取った通信領域で告げていく。
[貴様……舐めているのか?我々は戦争の真っただ中なのだぞ?]
「その戦争だって貴方達が勝手に始めたんでしょう?」
大将の通信にそう返すリク。
「とりあえず、皆さんを廃人にでもすれば話ぐらいは聞いていただけますか?」
[ふざけるなと言っている!そんな出来もしない事を脅しに―――]
「貴方達のブレインチップ、その制御権は今俺が握っています」
[……何!?]
驚きの声が連邦軍の兵に上がる。
[出来る訳がない!]
しかし大将はそれを否定した。
信じなかった、次の言葉がでるまでは。
「出来るんですよ、完成孤児(パーフェクトアーミー)である俺なら」
[ッ!?]
ざわめきが一気に広がる。
[そ、そんな根拠はどこにある!]
「今、俺は連邦のサーバーを掌握しています。その証拠ならお見せできますが?」
リクはそういうとホロスクリーンで表を表示する。
「第2隊2番、第5隊4番、第8隊1番、第12隊6番」
[な、何を……!?]
リクが番号を告げた直後に連邦側の機体が4機、機能を停止した。
その機体の部隊と番号は一致していた。
「これでどうです?こちらは結構大きな情報を握っているんですが」


会談の場にはオーディルとリク、連邦側から大将とその部下が2名同席している。
「で、その情報と言うのは?」
苛々とした様子で大将が告げる。
「ああ、まずはこっちを」
リクは後ろからひきずりだしたガリスを引き渡す。
「この人、今回の逃亡の首謀者です。さっさと持って行って下さい」
恐らくガリスと密約を交わしたのは大将である筈。
だが、ガリスを引き渡してしまえば捕えざるを得ない。
「この程度で交渉材料になるとでも?」
「いえ、本題は今からです。貴方達は激戦区北極の戦況を知っていますか?」
「そんな事は分かりきっているだろう!」
机を強く叩き、怒鳴り散らす大将。
「ええ、そうですね。両軍の大型ジャミング装置の所為で連邦、同盟は互いに内部の情報が掴めず、そんな中に援軍を送らざるを得ない」
被害も、情勢も、敵の勢力も分からずじまい。
この状態が開戦時からずっと続いている。
「こんな事は普通はありえないが……徹底的に情報が封鎖されている。それがどうしたというんだ?」
「じゃ、そのジャミングをきりますよ?」
「は?」
ホロウィンドウを展開、そこにジャミングで見る事が出来ない北極の監視映像が映される。
いまだに映像は映らない。
しかしリクが指を鳴らした瞬間、その映像が明瞭になった。
「これは……そんな!?どうなっている!」
大将は目を見開いて見ている。
オーディルも驚きを隠せていない。
「この様子だと……世界がだまされていたようだな」
そこには、戦場など無かった。
「実はここのジャミングは一つの勢力の思惑によって行われていた。激戦区北極の真実、これが俺が手に入れた情報です」
ただ白い雪原しか映っていない。
いや、一か所だけ違う。
「これは……」
黒い影、それは遠過ぎておぼろげにしか映らないが、何かの施設のように見える。
「これの正体が知りたいなら、こちらの条件を呑んでもらいましょうか?」
リクはにやりと笑ってその映像を切る。
連邦の監視映像の最大望遠状態でも影しか映らない。
それの正体を知るためにはリクに頼るか、部隊を送るしかない。
「ふん、貴様らに頼る必要など----」
「部隊を送るまで、諸々含めて1ヶ月ですかね?それで間に合うとでも?」
リクは少しばかり顔を引き締め真剣に告げる。
「正直、状況は切羽詰まってます。この場で決断していただきたい」
「………条件は?」
大将はリクに少しだけ焦りの感情を見て、状況を悟った。
オーディルはそこに契約書を提示する。
「この先4年程でいい、この国への不可侵をお願いしたい」
「………少し待っていろ」
部下に指示を出し、15分程通信を行う大将。
「緊急会議で了承させた。電子通達書を送ろう」
オーディルはそれを見て、頷いた。
「この施設は、シャトルの打ち上げ場です」
「何だと!?」
今度こそ、リクが感じている危機の正体が伝わった。
「我々からもう一つだけ条件があります。この施設の制圧に協力する代わりに、一回だけ施設を使わせていただきたい」
大将はもう通信もせずに首を縦に振った。
「少しいいか?この事を同盟軍は……」
「知っているでしょうね。恐らく約1ヶ月前から」
大将の顔が引き攣る。
それもそうだろう、連邦に加盟している国はこれを恐れているのだから。
「確実に、鉄の雨が降ります」


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