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「ヒューマン・バトロイド」第14話

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匿名ユーザー

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リリは空を見上げて呟く。
「宇宙、か……」
リクにとっての宇宙とは何なのだろう?
自分が想いを寄せる彼は幼少期に戦場として過ごした宇宙をどう思っているのだろう?
「いい思い出がある訳ねーよなー……」
これからスタークは宇宙に飛ぶ。
協定により一度の打ち上げを許可されている。
この先に何があるのかは分からない。
リクは宇宙でしかるべき決着をつけたいと言っていた。
もちろんクルーは全員賛成した。
その為に準備を進めているのだ。
北極の夜は寒い。
昼間でも寒いが、別種の寒さもある。
気付いてしまったからこそ、真実と思われる事に気付いてしまったからこそ、リリは身震いをする。
怖い。
なぜここまでリクは……自分を偽れるのだろうか?
「なあ、宇宙にいるっていうリクの復讐相手……アンタは知ってるのか?」
誰にいうともなく空に問う。
「なあ、オレが欲しい答えを、リクの内側を、アンタは知ってるのか?」
ぼそりと呟くとリリは首を振って歩きだす。
確かめなくては………
リクにどういう意図があったのかを……


リクは通路の先を確認してから進む。
一応ブレインチップの反応をTypeα経由で確認しているのだが、一応用心している。
理由はあの謎の機体、破片も残さず消し飛ばしてしまったがあの機体は人の反応を感じ取れなかった。
だがリクは一番大きい可能性は無人機だから、だと考えている。
しかしあの機体の戦闘は無人機の運用では無い。
そもそも無人機は人的資源の損失を防ぐための手段で、戦場に出される時は基本的に有人機よりも数が多い筈だ。
たった1機の無人機というのはリクの警戒心を不必要なほどに高める。
その機体がこちらの攻撃を無効化してきた事もだ。
物理的なものだけでは無い。
敵機の回線から操作元を突き止めようとしたが、その通信を奪えなかった。
リクは自分が特別な電子戦能力、人ではありえない力を持っていると自負していた。
だがその相手だけはそれが出来なかった。
相手を特定できる材料はにはあと一つ。
その一つも埋まっている。
動きが機械的すぎる。
正確にこちらに狙いをつけて的確なタイミングで攻撃してきた。
「AI、それもかなり高い性能のだな……」
『心当たりはあります』
Typeαの起動準備をしていたイザナミは言ってくる。
『戦い方の癖とかもほぼ同じ、私の後に開発されたAIですね』
「そうか……性格を当ててみようか?」
リクはまた通路を確認して見つからない様に進む。
「頭に入ってる情報はかなりのものだが経験が足りない。理論は得意だが実践が苦手。合理的判断を取っているが自信のあまり合理的でない事
に気付けない時がある。総じて高性能だが傲慢で我儘なクソガキ。どうだ?」
『正解ですね。常に自信に充ち溢れてるめんどくさい子でした』
イザナミの言葉に苦笑する。
「じゃあ俺もめんどくさいか?」
リクは自分でそのAIの性格は自分に近いと思っていた。
『それもそうですね。今でもたまにめんどくさいです。例えば……今みたいに自分ひとりで宇宙に行くためにこっそり行動してる事とか』
「はははっ、違いないな」
リクは小さく笑うと次の通路に出ようとして、身を隠した。
「危ない危ない……流石に皆、こればっかりは許容してくれないだろうからな……」
人が通り過ぎるのを見計らってリクは施設の地下に準備されたシャトルの1機に近づく。
その時、誰かが近づいてきた。
シャトルの陰に潜んで相手を見る。
リキだった。
1機ずつシャトルを確認してリクのいるシャトルに近づく。
「とと……ここにいたか。リク」
「……よう、リキ」
リクはどうやってやり過ごそうかと考えながら返事をする。
「さて、お前は何で1人で打ち上げ回数を使おうとしてるんだ?」
「いーざーなーみー?なんでバレてるんだ?」
怒りをにじませながらリクはイザナミに聞く。
『えーっと………………てへっ☆』
「お前、圧縮されたいのか?」
『やめて下さい!圧縮だけは!データ圧縮だけは~!』
リクは溜息と共に肩を落とす。
「いい訳を聞こうか?」
『だって……マスターは死にに行こうとしてるじゃないですか。誰もいない1人の戦場で、地獄に向かって進んで、1人で死のうとしてるじゃな
いですか………』
リクは少し驚いた。
イザナミはどんな無茶でもリクの指示には従った。
もし無理なようなら警告や代替案で譲歩を求めた。
だが今のイザナミは完璧にリクの考えを否定した。
それも、リクの命を危惧して。
「と言う訳だ。まあ、その前から少しばかり警戒してはいたんだけどな」
「……悪いが、これだけは譲らない」
リクにも意地がある。
もし邪魔をするのなら本気で仲間を傷つけてでも1人で行く気だった。
「だろうな。お前はかなり頑固だから。だけどな……」
その殺気を受けてもリキは臆さずに言う。
「俺達にも譲れない、譲りたくないモノがある。お前から見ればちっぽけな、それこそ物の数に入らない様な俺達だがな………足手まとい扱い
はして欲しくない。隣で戦う事ぐらいはさせて欲しい」
しばしの沈黙、リクは首を横に振った。
「それでも、駄目だ。俺は一人で行く」
これから先はリクの個人的な理由の戦いだ。
それに巻き込みたくない、いや巻き込んではいけない。
リキはリクの意思を察すると溜息をついた。
「と言うと思ったがな……喰らえ!」
突然リキが取り出したのは筒、水筒のようだった。
蓋が開いて中身がリクに飛ぶ。
だがリクにはそういったガスや薬品のたぐいは効きづらい。
足止めが目的の殺傷能力の無い物ならなおさらだ。
「ぐほぉぁ!?」
殺傷能力どころか環境破壊しそうな代物なら別だが。
「はっはっはっ!油断したな、リク!これはミキの作ったスープ(の様なもの)だ!」
「ぎゅぁぁぁぁ!?」
びったんびったん跳ねるリクに大笑いしながらその危険物を飲ませるリキ。
紺色の液体のような気体のような物がリクの所々に掛かっている。
微妙にその部分の肌が変色している。
「どうだ、この威力!BTB溶液が黒く固まるんだぞ、これ!」
指示薬すらその役目を放棄する恐ろしい物体はリクをむしばむ。
「あれ?なんか煙……リク?何で耳の穴から煙出してるんだ?てか胃と耳って繋がってたっけ?リクぅぅぅ!?」
遂に力尽きたリクに大慌てで増援を呼び、医務室に運んだ。


北極のシャトル打ち上げ施設のマスドライバーにスタークが固定され、射出される。
一気に加速したスタークは地上を離れて宇宙に飛ぶ。
万能艦でもあるスタークは宇宙でも航行可能だ。
「大気圏離脱!地球を離れます!」
「重力の制御はあと27秒継続だ!」
『了解です』
Typeβの重力偏向粒子の能力で通常よりも遥かに加速するスターク。
その時アラートが鳴って大気圏外に待ち伏せする連邦の艦隊をレーダーが捕捉した。
「やっぱり読み通りに部隊はってたな。あれ」
「そりゃそうよ。これだけの戦力が好き勝手に動くのは阻止したいじゃない」
ゴースとシエルは殺し切れていない軽いGを感じながら世間話のように連邦の考えを議論していた。
進行方向には協定通り宇宙への打ち上げまでは敵ではない、つまり宇宙に到着した瞬間からは敵の連邦軍がこちらに攻撃を仕掛けようとしてい
る。
「HBの出撃が出来ない打ち上げ直後ならどうにかなると思ってたんですかね?」
一切速度を緩めずに敵艦の横っ腹に思いっきり衝突するスターク。
電磁フィールドを前面に最大展開していた為、こちらのダメージはほぼ無い。
轟音を上げながら真っ二つに折れた敵艦を突き抜けてスタークは大気圏外へと進んでいく。
「てて……リリさん、微速前進でポイントH‐22まで。お願いします」
カルラは衝撃の所為でぶつけた頭をさすりながらリリに指示を出すが、そのリリからは返事がない。
「リリさん?」
「……あ、悪い。聞いて無かった」
リリは慌てて指示通りに操舵を始めた。
「悩み事ですか?恋の悩みとか」
「…………あ、悪い。フィッシュ&チップスは好きじゃない」
「誰がそんな事聞きましたか!?」
今日のリリは上の空だ。
頭でも打ったのか、何か気になる事でもあるのか。
「リリちゃん、少し休んでこいよ。誰かに代わりをやらせるからさ」
「あー……悪い、頼んだ」
ゴースがそう言うとリリはすぐに立ち上がってブリッジを後にした。


「死ぬほど頭が痛い……て、地球!?もう宇宙に来てたのか!?」
死の淵から戻ってきたリクは、衝突の衝撃でよろよろとしながら医務室から出ると窓から外を見て叫んだ。
別に初めてではない。
だが宇宙と言うのはいまだに胸が高揚する。
「綺麗な星だ」
(すっごーい!)
リクは頭を抑える。
考えない様にしていたのに、この光景は思い出してしまう。
(こんな星にすんでるんだね、僕等は)
(正確には僕等の同類って事になるけど。僕達は宇宙で育ってるからな)
(それでもすごいよ。これが人間がもってるたからなんだよ?)
「がっ………ぁあ!?」
思い出される光景。
隣にいた仲間の心地。
後ろで見守ってくれていたあの人のぬくもり。
(あなた達にも名前をつけなくちゃ……)
(いりませんよ。僕等はべつになくても構いませんし)
(だーめ!名前は重要なの!それがその人の生きる道を決めるんだから!)
無くした物を思い出す。
(知ってるか?くーりって名前には空を制するって意味が込められてるんだって)
(僕も同じだよ。陸から飛び立つ羽根って意味なんだって)
いつの間にか忘れていた物、それは――
(あなたは今日から――。どう?いいでしょ?)
(ありがとうございます…………菜穂さん)
「リク?大丈夫か!?リク!」
いきなり揺さぶられて気がついた。
どうやら廊下の真ん中でうずくまっていたようだ。
「リ、リ?あれ、俺は……」
「いや、通りかかったら倒れてたから………ほんとに大丈夫か、リク?」
リクは少しだけ顔をしかめる。
「?どうした?」
「いや、少し感傷的になっただけだよ。大丈夫、じゃあ」
リクは立ち去ろうとする。
「ちょっとまて!」
リリに袖を掴まれる。
いつの間にか消えていた重力の影響で体が少し浮く。
「少し、いいか?」
リリは何かを思いつめた様な顔でリクを見た。
リクが無言で頷くのを見てリリは告げる。
「宇宙、苦手なのか?」
「え?」
「お前にいい思い出が無い場所だろ?だからフラッシュバックでもしたんじゃないか?」
リリは純粋にリクの心配をしている。
その純粋さはリクにとって眩しくて、遠ざけたくなるものだ。
「重力が無いと気持ちが悪くなるんだ。それだけだよ」
「そんなに……」
リリは俯いて呟いた。
「そんなにオレ達は頼り無いか?」
その言葉には若干の怒りがこもっていた。
リリはいまだに自分達に全てを明かしてくれないリクに対して、そして辛さを一人で背負うしかないと思ってしまわせるほど頼り無い自分達に
対して怒りを感じていた。
リクはリリの言葉に足を止めていた。
「………そんな事はない、俺は充分頼ってる」
「そんな訳ないだろ!お前は常に自分を偽ってる!何でそんな風に出来るんだよ!そんなに平然としてられるんだよ!」
リリの怒りが溢れだして、リリの目から周囲に少し水滴が浮く。
「誰でも自分を偽ってる。俺もそんなに変わらない。変わらないんだ」
なぜここまでリリが叫んでいるのかを、リクは理解できない。
「オレは少なくとも無理だ!こんな風にとり乱してしちゃうんだ!オレは……ア、アタシは……お前が……」
リクは気付くと同時に思う、これ以上は駄目だ。
リリは顔を上げる。
上気して顔が赤くなったリリはしばらく目を泳がせて、小さく言った。
言わないでくれというリクの願いは届かない。
「アタシは……お前が好きなのを、隠すのがつらい………」
リクは反応できない。
「アタシは、お前が隠してる物を一緒に背負って、お前の支えになりたいと思ってる………それが、アタシの本音だ」
そこにはいつものように、男っぽく恥ずかしがりやで堂々としたリリはどこにもいなかった。
ただ、1人の少女が身を切られそうな沈黙に耐えているだけだった。
「………………おれ、は……」
だがリクは言い淀む。
答えられない。
「もしかして……ミキの事か?」
「…………」
「……やっぱり……お前―――」
少しだけ残念そうな笑みを浮かべている。
リクは失敗をした。
全て分からない、そんな反応をしていればよかったのだ。
内側を暴かれたからぼろが出た。
「―――最初から全部気付いてたんじゃないか?」
見抜かれてしまった。
気付いていたからこそミキの事には反応せずに済んだ。
反応せずにいて、それの方が不自然だと気付いた。
それほど動揺するようにリリは仕向けて、リクの内側を探ったのだった。
「最初から、アタシの気持ちも、ミキの気持ちも理解して、分かってて、アタシもミキも遠ざけてたんじゃないか?」
「…………やめてくれ」
リリは見抜いた。
リクの本質を、その胸の中で隠していた事実を。
「全部知ってて、気付いていて、それを見ないふりしてたんだろ?」
言い当ててしまう。
「気付いていて、それを見ないふりして、傷つけないよう、傷つかないようにしてたんだろ?」
「…………いつ気付いた?」
リリは薄く笑いながら言う。
「ほんの少しだけ、違和感があった。きっと普通のお前ならミキの料理に文句の一つでも言ってるだろ?そこから思い返して、アタシらと他の
奴らへの態度の違いに気付いた」
そう気付いていた。
リクはリリの気持ちにもミキの気持ちにも気付いていた。
「鈍感鈍感言ってたアタシらの方が鈍感だったんだ」
リリは力なく笑って地球を見る。
「なんでそんなめんどくさい事をしたんだ?アタシらが好みじゃないとか?」
「………仲間を認める事と、受け入れる事はぜんぜん違うんだ。俺には受け入れる度胸がない」
かつて信じた親友、同類だった筈のクーリは養父とリクを裏切った。
「せっかく認められる仲間がいるのに、裏切られるのは怖い。だから何も変わらない様にしたかった。ただのわがままだよ」
リクは少しだけ泣きそうな顔をしていた。
信じる事を受け入れてしまいたくなかった。
「アタシはさ………お前を救いたかったんだ」
「え?」
リリも泣きそうな顔をしていた。
「お前が心の奥底に隠してる過去とか、想いとか、弱さとか。そういうのをアタシも一緒に支えて歩いてみたいって思ったんだ」
リクは強い棘を持った言葉を聞き続ける。
「でも、お前の過去を解き放ったのはミキだった。アタシは何も出来ていなかった。せめて残りの弱さとか想いとかを、とも思ったんだけどな
………過去に縛られないお前はとても正直だった。アタシに入り込む余地なんて無かったんだよ。絶対に人に明かせない所しか残って無いのに
、それを暴いても救いにならないから」
「違う、リリの言葉は確かに俺に変わるためのファクターを創ってくれた」
「それ、多分だけど酔っぱらってた時の言葉だろ?それじゃあ意味がない」
リリは苦笑いしながら首を振る。
リクは少しでもリリを擁護しようと言葉を考える。
「あー、いいんだ。アタシはケジメの為に話してる。もう意思は変わらない」
「リリ?」
リクに向き直ったリリは胸倉を掴んで怒りを湛えた眼をした。
「とりあえず、殴らせろ。乙女の純情をよくも無視してくれたな?」
「………分かった」
もちろんの如くリリの拳はきつい。
隔壁を殴り飛ばす本気の拳が飛んでくるだろう。
リクは歯を食いしばり目を瞑る。
悪くて死ぬか、良くても大けがは絶対にするだろうな、そんな風に覚悟も決められていた。
不意に、頬に温かい感触が触れた。
目を開くと自分の視界の右下にライトブラウンのポニーテールが見えた。
「え……へ!?リリ!?」
リクの頬に触れさせていた唇をリリは離してリクの胸を押す。
無重力の中、リリの体はリクから離れていく。
「これでチャラにしておいてやるよ!」
顔を赤くしながらも満面の笑みを浮かべるリリ。
「子供っぽいけどさ、これで吹っ切れた。ありがとな!」
そのままリリは去って行った。
ほんの少しの水滴が通り道に浮かんでいた。


リリは泣いている。
リクに聞こえない所でひたすらに泣いている。
とても辛い気持ちが後から後から溢れる。
そして彼女はそっと呟いた。
ありがとうと。
出会えたことがうれしかったと。
頬を叩いて顔を引き締め、前を向く。
とても胸の内側が痛いけど、それでもリクを好きになれて良かったと思った。
これから先はリクとはただの仲間だ。
ふと、歩き出したリリは物音を聞いた。
そちらの通路に入るとラウルがこけていた。
「………聞いてたな?」
「マジすいませんでしたァァ!」
リリは溜息をついてあと二つの足音に向かってラウルを引きづりながら歩く。
「ふぅ、今回ばかりはお前とリキとゴースに感謝するぜ。傷心の乙女のストレス解消用サンドバックになってくれればいいから」
「イヤダァァァァ!!」


「一体材料に何を使ったんだ?さすがにあの状態は危険だったぞ?」
「自分でも何が悪かったのか……とりあえず高枝切りばさみは使わなかったんですが……」
ミキはウィンスに自分が作った料理がリクにどんな効果を与えたかを聞いていた。
「それは調理道具じゃねぇ。まず道具を勉強したらどうだ?」
パイロットの休憩所に入ってきたジョージは、そう言いながら手に持った大量の何かをパイロットに配る。
「何ですか、これ?」
「宇宙用のパイロットスーツ。さすがに宇宙での戦闘は気を配らないとな」
宇宙に上がった最後の世代であるジョージやウィンスは理解しているが、若い世代は宇宙空間の過酷さを話でしか知らない。
その為、宇宙用のパイロットスーツを着るという発想が抜け落ちているのだ。
「別に撃墜される訳は無いので大丈夫ですよ」
ミキがそう言うと休憩所にリクが入ってきた。
リクはジョージの持っている物に目をやるとすぐに近づいて受け取ろうとする。
「パイロットスーツですよね?」
「おうよ、ほら」
「ありがとうございます」
リクは受け取ってすぐに確認し始めた。
そして納得するとすぐに着替えてこようと更衣室に向かう。
「あれ、リクは着るの?」
「え?何言ってるんだ、ミキ。着ないと危ないだろ?」
リクはそう言うと姿を消した。
「な、あいつだって着ないと安心できないんだよ。宇宙ってのはそれだけ危険なんだ」
それを見てぞろぞろとパイロットが更衣室に向かう。
数分で戻ってきたパイロット達は慣れない着心地に少し戸惑っていた。
「ねえ、リク。本当にこんなの必要なの?」
ミキは少しきつい胸元を気にしながらリクに聞く。
「当たり前だ。これがなかったらハッチが破壊された時とかも危険だろ」
そう言うとリクはすぐに休憩所を出て行った。
リクとしてはついさっきリリを自分の所為で泣かせてしまっていたのでミキと顔を合わせづらいだけだったが、ミキの目にはそれが何か素気な
く映った。
「み、ミキは、いるっすか……」
入れ替わりにボロボロのラウルが入ってきた。
「いる、けど……大丈夫?」
「駄目だ、大丈夫な訳ないっす。とりあえず、これを渡すまでは気を、失えなかったから……」
そういって差し出したのはグラビレイトのコックピットに備え付けてあるヘルメットだった。
しかし少し形状が変わっていて、顔の下半分は露出していたのにそれが完璧に透明な材質で覆われている。
目の周りを覆っていたモニター部分は取り外しが可能になっている。
「こいつも、宇宙用……スーツだけじゃ、不十分だから……」
そう言うとラウルは、やっと……眠れると言って気を失った。
「あーあ、ったく……徹夜で作業してるのにまた危険ないたずらなんてするから……」
「何をやってたんですか?」
ジョージがラウルを担ぎながら呟いた事が気になってミキは聞いた。
「なんか、グラビレイトの改造だとよ。一機に同種の粒子炉が二つ付いてるらしいから、それを二機で分けて二種類にしようとしたんだと。ま
あ、機体バランスの関係で出来なかったらしいが。さらに守護狂神とかの新装備も開発してたみたいだな」
グラビレイトのフォトングラビティを生みだす粒子炉は胴体部分に二基搭載されている。
粒子の能力をフルに生かすためだが、それぞれの粒子炉はほぼ同型の為互換性はある筈だ。
しかし、現在の二機のグラビレイトは追加装備という形だが特殊な改良が施されている。
粒子の性質を変えてしまうとその追加装備が充分に能力を発揮できない。
「だからミキちゃんよぉ、リクからあまり距離をとるなよ?あいつの強化した重力が無けりゃ、Typeβはただ少しばかり速いだけの機体になっ
ちまうからな」
そう、Typeβは重力がなければ戦えない。
無重力空間で発生する重力なんて微々たるものだ。
「分かっていますよ、そのせいで彼に負けたんです。学習くらいしますよ。それで、いたずらって何を?」
「なんとなく理解しました」
リリはそう言うとヘルメットを被ってスーツと繋げ、そして休憩室から出て行った。


『地上での遠隔操作実験は良好、向こうから制御を奪われる事もありませんでした』
アマテラスの報告をキセノは目を閉じて聞く。
『さらに例の機能も良好、Typeαの攻撃を無傷で受け切りさらに重力場フィールドも破りました』
「でも、その後はプラズマで一撃、だったよな?」
キセノはからかうように聞く。
『そうですね、廃棄の手間が省けました』
「言うねぇ、まあいいけど」
キセノは少し笑いながらアマテラスを茶化す。
『……あまりからかわないでください。反応に困ります』
「それだけ成長したって事だろ?しかし……上手い事考える奴もいるな……」
自分が考えていなかった重力場粒子の運用法を見せるグラビレイトにキセノは愉快さを感じていた。
それだけ優秀な技術者がいるのだろうが、それは関係ない。
なぜならその技術者は型にはまった能力しか見せられていない。
キセノのようにピースを作るのではなく、ピースの組み合わせ方を考えるような技術者がどれだけあがこうと問題無い。
「報告の続きは?」
『分かりました……ここの完成率ですが、すでに9割7分を超えています。最終決戦には間に合うかと思われます』
アマテラスは報告を続ける。
恐らく始まる戦い、同盟と連邦の宇宙での戦争はキセノにとってただの前座にすぎない。
『そして'彼'ですが、その後も問題ありません。やはり演算能力に関する資質はあったようで、少し訓練すればスサノオのアシスト無しでもマ
イアットシステムの制御は行えます。長時間は持ちませんが』
「いや、充分充分。それで、上がってきた方の'彼'とコンタクトは取れたか?」
『こちらの使者と接触、こちらに向かってきていますが……』
「どうした?」
アマテラスが言い淀む。
『自機が破壊されている為新しい機体を用意して欲しいとのことですが、その装備と機体の改造に関する一覧です』
目の前に出てくる表を見てキセノは目を丸くする。
「へえ、これは面白い」
『本物でしょうか?』
「どうでもいいさ、要望通りの物にプラスして少しサービスしてやってくれ。あまりバランスは崩さない事と一応本人の了承を得ておけ」
『分かりました。最後に、同盟軍内部に潜入しているこちらの兵は全員出撃メンバーに選ばれました』
キセノは立ち上がる。
「これで駒はそろった。この復讐劇にそろそろ幕を下ろそうじゃないか……そうだろ、菜穂」
本命は秘密裏に、そして衝撃的に。
宇宙なんかに気を取られてしまうから、彼等は全てを失うのだ。
目標は、地球。
そして、人類。
キセノは、端末の画像データを開いて、すぐに閉じた。


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