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「ヒューマン・バトロイド」第15話 前編

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匿名ユーザー

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宇宙においての戦争。
それは世界においても2回目の試みだった。
世界地球主義連邦と宇宙開発同盟は互いに全軍の半数を打ち上げ、そしてかつての戦場の座標でまた戦いが起ころうとしていた。
二分された世界は、また同じ事を繰り返そうとしていたのだった。
だがかつての戦争とは違う点が2つある。
1つはキセノ・アサギの陰謀。
独自に動いている彼は世界の全てに復讐を行おうとしている。
もう1つはスタークの存在。
かつての戦争においての伝説のうち2つ――完成孤児とパワーアンプシステムを戦力として保有するこの艦は、一隻でありながら最大の戦力を
保持している。
この2つの戦力はかつての戦争とは違う結果を示すかも知れない。


「始まった……」
リクが見つめる宇宙の先には爆発がそこかしこで起こっている。
戦争だ。
かつて自分が見た戦争と何も変わらない。
変わった物は何だろうか?
「俺は……」
変われたのだろうか?
[全機出撃準備、これよりスタークは戦闘領域に侵入します]
「先に出る。射出してくれ」
[私も出ます]
リクとミキは先行して出撃する。
リクは機体速度がスタークより速い為、ミキはTypeαとはぐれない為。
射出されたTypeαの生みだす重力を利用してTypeβは加速していく。
今までにない程の戦場、しかしそれはリクにとって見慣れたもの。
その何の感慨も浮かばない心こそが自分の異常性の中枢なのだろう。
[リク!後ろ!]
「分かってる」
真後ろに機体を反転させながらショットマグナムを撃つ。
宇宙においての戦闘は相手の位置さえ分かっていれば死角はない。
恐らくこの戦場にいるパイロットの内8割は理解していないだろうが……
ミキもまた上下の無い戦闘に戸惑っているようで、動きが微妙にぎくしゃくしている。
手足を振り回して機体のバランスを取りながらスラスターで微調整を行う。
Typeβの下から迫る敵を蹴り飛ばして撃つ。
「索敵を全範囲で行え。空中戦以上の立体的な戦闘が必要になる」
[難しい事言わないでよ……]
振り回した粒子ブレードが敵を一機だけ切り裂く。
重力がないという事はそれだけ自分の固定観念が浮き出ると言う事だ。
特に上下からの敵襲は対応しづらい。
「流暢にやってられないな……30秒持ちこたえろ」
[分かった、気をつけてね]
ミキを残して一気に上へ。
スラスターで急停止してグラビティキャノン側面のハッチを開く。
片側64発の重力場弾頭ミサイルを発射可能な状態にしつつ粒子をグラビティキャノン自体にも収束させる。
胸部のグラビティジェネレーター内部のマイクロブラックホールが限界まで膨れ上がる。
効果的なポイントにロックオンマーカーが現れていく。
「全武装射撃体勢、一斉発射!」
正面の敵をプラズマと重力が消滅させていき、その範囲外の敵は重力場弾頭ミサイルが破砕していく。
視界の一面、いや視界の外までが黒に埋め尽くされていく。
広大な空白地帯が生まれる。これならいくらか慣れるだけの余裕が与えられるだろう。
『マスター!あれは!』
「ん?……なるほど……」
3機のHBが無傷でこちらに狙いをつけている。
1機は大剣とミサイルポット、アサルトライフルの装備、もう1機はバズーカとレーザーライフルにガトリング砲を肩に背負っている。
最後の機体は高出力のレーザーライフルを2丁にミサイルポットを装備している。
ミサイルの効果範囲にある筈の座標に立っている機体。
またもや立体式戦略盤に現れていない機体だった。
だがすぐにあらわれる。どうやらこちらの妨害をやめたらしい。
『機体情報……特殊な改造はありません』
「すぐに明らかになるさ。俺が暴く」
とりあえず牽制を行った後ミキと合流、その後各個撃破すればいいだろう。
牽制のためにショットマグナムを撃つ。
射程の短い散弾だが宇宙空間ならどこまでも等速で飛ぶ銃弾をばら撒けるのでかなり使い勝手がいい。
しかしその散弾の中を三機のHBが突っ込んでくる。
『何故ここまで止まらずに――』
「ッ、まずい!」
シールドを構えながら後ろに飛ぶ。
構えられた大剣が衝撃を伝える。
2機目がバズーカによる追撃を行い、3機目はレーザーでこちらの退路を奪う。
バズーカの弾を重力場フィールドで押しつぶしてこちらから前に進む。
大剣を構える機体をシールドで打ち飛ばして先にバズーカを装備した機体を狙う。
しかしその進路をレーザーで防がれる。
急いで急停止してショットマグナムを連射するがすでにバズーカ装備の機体は射線から外れていた。
後ろから大剣を振り下ろされたのでそれを受け止めて蹴り飛ばし距離をとる。
「なんだこいつ等は……」
連携が取れ過ぎている。
この感覚はTypeβと始めて戦った時と同じかそれ以上だ。
しかも動きも速い。
敵が2機でレーザーを連射してくるのをシールドで防ぎつつかわす。
今のグラビレイトにはレーザーに対応する手段がない。
リフレクションは空気による光の屈折を起こしてレーザーを曲げているから宇宙の様な真空中では発動できない。
強力な重力を起こせば曲げられるかもしれないが、重力による周囲へのリスクが大きすぎる。
「シールドに鏡面加工でもしてくるんだったな……」
『それで防げるかは微妙ですよ』
「分かっている!」
機体を横回転させて弾幕から抜ける。
反撃の為にグラビティキャノンを撃つがかわされる。
迫る3機に対して急いで対応を構築、大剣を横から蹴り飛ばしミサイルをかわしながらレーザーの弾幕を張られない様に移動する。
「リフレクションを使えないだけでこのざまか……」
[まぁ、それがその機体の一番の売りみたいなところがあったから、しょうがないと言えばしょうがないかな?]
コックピットに流れる声。日本語だ。
リクにとって忌むべき最大の敵。
「キセノォ!」


『システムオールグリーン、起動します。稼働率62%、各計器異常無し、稼働率安定、電力安定、関節ロック解除、マイアットシステム接続良好

「了解した、出撃する」
1つの機影が光学迷彩で完璧に隠された"それ"から出撃する。
異常なスピードで宇宙を横切るその機体はすぐに戦場までたどり着き加速を停止する。
様々な光が生まれるその戦場をパイロットはうつろな目で眺める。
それは生きる意味を見失った目だ。
「マイアットシステム起動、周囲の敵機を殲滅する」
バックパックから6つの小さな物体が分離される。
1つが2mほどの大きさの物体はすぐに戦場に飛びだして、流れ弾に当たらない様に飛びまわる。
1つの物体が連邦所属の機体の後ろに接近、マズルフラッシュを見せながら次の目標へと向かう。
物体に撃たれた機体はすぐに爆散した。
たった2m物体に内蔵された機関銃に装甲を破られて。
すぐに戦場に混乱が走り、捕捉できない敵が牙をむく。
両軍ともに次々に撃墜されていき、そして6つの物体が元の機体のバックパックに戻る。
マイアットシステム、小型火器内蔵浮遊端末の略称で正式にはMiniature,Arm,Inner,Aviation,Terminal,system。
遠隔操作できる移動砲台のようなものだ。
「次の宙域に向かう」
パイロットはまだ足りないとでもいうかのように殺戮を続ける。
それが復讐への近道とでもいうかのように。


[久しぶりだね、リク・ゼノラス。そしてイザナミも]
恐らくは3機の機体を経由して通信を行っているのだろう。
[俺が新たに作った量産傭兵(カスタムアーミー)はどうだ?完成孤児(パーフェクトアーミー)の製作法を見直していくらか簡略化したんだが
、結構苦戦しているようだな]
「量産傭兵!?お前はまたッ!」
自分の様な人間がまた生みだされている。
それはリクの心を揺さぶる。
機体をレーザーが掠める。
[やっぱり簡略化した分身体が壊れやすくてね……殆どクーリと同じくらいの能力に収まりはしたが……まあ、"失敗策"とはいっても奴もまた、
完成孤児の端くれではあるからな。成功と言えば成功だろう]
そう、彼もまた完成孤児。
たった2人の生き残りの1人だった。
だからこそリクはクーリを信頼していたし、劣等感を感じていたクーリはリクを裏切った。
「お前は……どこまで人を踏みにじれば気が済むんだァァ!」
[おかしなことを言うなぁ。お前が何で人の側に立ってものを言っているんだ?この……化物が]
レーザークラスターが放たれ、それを必死にかわす。
「俺を化物にしたのはお前だろうが!だから俺はお前を――」
[違うな。俺はそんなことを指して化物だなんて言っていない。お前が、人を殺して愉しみを得るから化物と言うんだ]
大剣をシールドで受けてグラビティキャノンをチャージ、弾きながら撃つがそれすらもかわされる。
「俺はもう殺す事の悲しさを知っている!」
[それも違う。お前はまだ命の意味を知らないだろう?殺すこと自体に忌避感を感じていない。だから思い知るといい]
突然敵機のバズーカがこちらでは無い場所を向いた。
同時に攻撃がやみ、そちらを見る余裕が生まれる。
バズーカが照準を合わせている先は――仲間がいた。
スタークが展開している部隊の1機が狙われていた。
それに気付いた時にはすでにバズーカは着弾していて、頭が真っ白になって行く。
バズーカが次の標的に選んでいたのは白い機体、Typeβだった。


ミキはいつまでも戻ってこないリクを探していた。
既に4分以上の時間がかかっている。
周囲を仲間がフォローしてくれているとはいえかなりきつい。
重力がなくても使用可能な武器は刺突刀しかない。
小型小銃は粒子の力で弾丸を打ち出す仕組み、ワイドグラビティや粒子ブレードも攻撃力は粒子頼みだ。
『後方から敵接近しています!』
「くっ……」
粒子グレネードを投げつけて重力を強化して迎撃する。
すでにグレネードの半分を使いきった。
緊急的とはいえ重要な武装を使いきってしまう事だけは避けたかった。
『上方から1機接近!』
ミキが急いで上に注目した瞬間、視界には防ぐことのできない距離に敵機がブレードを構えていた。
すぐに機体を捻った事で右肩のブースターが切断されるだけですんだ。
その敵機は灰被り(グレーボマー)が横から放ったミサイルの餌食になる。
[ボヤボヤするな!]
「すいません!」
近づく敵を斬り、そして蹴りつけるが一向に数が減らない。
「リクはまだなの!?」
『Typeαは現在戦闘中の模様です。どうやら苦戦していると思われます』
そちらの方向を向けばレーザーの光が見える。
そちらに向かって加速しようとしたその時だった。
爆発が機体の右側で起きて、右手が消し飛んでいた。
「どこから!?」
『詳細不明です。注意を……危ない!』
次の瞬間、アラートがなる。
そして爆音と共に視界がふさがって行く。


爆発。
もうリクには何も見えていない。
真っ白になった頭は五感を遮断した。
立体式戦略盤の機能で頭に作られた戦場が収縮していき、崩れ去る。
気付けばまだTypeβがいた辺りにまだ狙いをつけている敵機の装甲を拳で貫いていた。
正確にコックピットだけを貫かれた機体は誘爆もせずに機能を停止した。
[これがお前の罪だ。あの時の俺と同じ暗闇に堕ちろ]
キセノはその言葉を最後に通信を切ったらしい。
『マスター?』
「そうか……死んだのか……」
今の数秒で命が、自分の良く知る命が奪われた。
「死んじゃったのか………ハハハ……ククッ……うあぁああぁあぁあぉぁっぁおああぁぁぁぁ!」
そうだ、奪われた。
こんな奴らに、人に命じられるままに人を殺して、その意味も考えない奴らに。
Typeαに搭載された全ての演算処理をたった2機に対して使用する。
たった1人で80000人以上の人間を殺せる完成孤児の力が2人に牙をむく。
大剣を構えた敵機が攻撃をかわしつつもう1機に回し蹴りをくらわせる。
精密な重力操作によって機体重量がいつもよりも跳ね上がっている。
一瞬で機体を上下に等分すると拳で殴りつける。
敵機の回線から機体に加わる電気信号を読み取り動きを予知するリクに攻撃は当たらない。
「なあ!お前の死を見せてみろよ!俺に命の意味を見せてみろよ!」
両肩に抜き手を突き込み、胸部装甲を引きちぎる。
そしてグラビティショットマグナムの銃口をむき出しのコックピットに突き付ける。
「絶望の声を……俺に聴かせてみろ」
一撃でパイロットを殺す散弾を5発撃ちこむ。
すでに機体は原形を残していない。
後ろからその隙をついて残った1機が突っ込んでくる。
しかし一瞬でその姿が消えさる。
大剣を振り下ろした敵機がTypeαを探す。
「後ろだ」
精密操作で真後ろに回りこむようにTypeαを動かしたリクは聞くもの全ての寿命を縮める様な声が聞こえる。
急いで後ろを向いた敵機の頭部を殴りつける。
そしてまたTypeαの姿がかき消える。
「そうだよ……これだよ……これだから………」
シールドと拳と脚を使いながら敵機を嬲り殺しにしていく。
「これだから人殺しはやめられない」
[や、止めてくれ!]
リクは攻撃をやめない。
「人は自分の命を脅かす存在に恐怖を抱く。その恐怖の感情が……本当に愉しくて堪らない!」
[何で……俺が何をしたっていうんだよ!お前の仲間を殺したのは俺じゃない!]
「俺の前に立った。それだけじゃないか」
既に声は聞こえない。
恐ろしさのせいで喉が動かないようだ。
散弾を撃ち込んで命を絶つ。
「こうなったらもう……俺自身を終わらせるしかないじゃないか」
そこには本物がいた。
本物の化物がそこにはいた。
人では無い、人になろうとして、皮を被り損ねた化物がいた。


「……あれ?」
ミキは目を開く。
目の前で起きた爆発はミキには届いていない。
モニターにはダークヴァイオレットの機体が見えた。
[生きてるか!?]
「え、ええ……何が?」
守護狂神(ガーディアン)がTypeβの目の前で攻撃を止めていた。
[新装備、レーザーウォール。こいつだよ]
レールガンの装備されていない左手に装着された小さなボックスを見せながら言う。
[レーザーをボックスから放射状に展開、シールドにする武装だ]
『被害無し、先程の爆発からあなたが?』
[おうよ!]
傍に飛んできたミサイルをレーザーウォールで防ぐ。
飛んできたレーザーも同時に打ち消す。
「助かったわ……ありがとう」
[それより、まずい事になった]
リキは誇らしげな声を低くして言った。
[お前はすぐにリクを追え。なんかすごい勢いで戦場の中心まで飛んでる]
それと同時にメッセージが届く。
『読み上げます。これより重力場粒子の異常圧縮による重力爆発を起こす』


「指定領域までを爆発に巻き込むためスタークならびにスターク所属部隊は撤退しろ。以上です」
スタークのブリッジでも同時刻に読み上げられた。
「そんな……つまりこれって……リク君が自爆するつもりって事よね!?」
シエルが大声を上げる。
「何考えてんだよ、あいつは!」
ゴースが苛立たしげにモニターを叩きつける。
「リクさん……貴方は……」
カルラは目を見開いている。
驚愕に包まれる仲間達の中でただ1人、リリだけは違う感情に包まれている。
「……………んな……」
ぼそりと呟いたリリを全員が見つめる。
「っざけんじゃねぇぞ!ただ逃げただけじゃねぇか!!あの根性無しがァァ!!」
バキッ!
「あ……」
怒りのあまり、リリがスタークの操縦桿を握りつぶした。
「あ……っじぁねぇよ!?何やっちゃってんのリリちゃん!?」
「悪い、思わずやっちゃった………」
強化プラスチック製の操縦桿がボロボロと崩れる。
「これじゃあ領域外に逃げる事もリクを説得しに行く事も出来ないじゃん!」
「こんな状況下でもやっぱり締まりませんねぇ……修理できそうですか?」
[いやいや、そんな所の予備パーツとか無いから。無理だから]
モニター越しにラウルがぶんぶんと手を振る。
「仕方ありませんね。ミキさん、リクさんの説得を頼みます」
返事がない。代わりにリキの声が聞こえる。
[……カルラさん、ミキはとっくのとうに通信切って飛んでってる]
「全員が全員予想外な動きをしますねぇ……」
カルラは既に悟りでも開きそうな遠い目をしていた。


『目標地点まであと30秒、グラビティジェネレーターの粒子圧縮率、臨界点に達します』
マイクロブラックホールを内部に保ち、そして最大の効果を示す場所で重力をまき散らす。
「イザナミ……ありがとう。もうここまででいい、お前のデータをスタークに送信する」
『マスター……』
イザナミはそう呟くと機体の右手をオートで動かして、肩のアンテナの1本を圧し折る。
「は?」
『やっちゃいました。てへっ☆』
「お前は何をやってんだよ!?アンテナが1本でも折れたらお前を送れないじゃないか!」
イザナミのデータを経験ごと送信するにはTypeαのフルパワーが必要だ。
そのフルパワーをイザナミ自身が放棄した。
『マスター、私はこの機体自体なんです。そしてマスターを守る事を第一に考えています。なので私は残ります』
「お前……分かった。何も言わないさ……」
これは壮大な自殺だ。
自分と言う化物を殺せるのは自分自身しかいない。
それが自分がやってきた事の責任だ。
艦長を殺して気付いた事は、死の意味の半分にも満たなかった。
自分が心を開いて初めて気付いた。
きっと死は人のせいを奪うと言う事、殺しはその先に存在した筈のその人の全ての感情も思いも記憶も奪ってしまう事だ。
もし、自分のせいで死んでしまった人たちが生きていたならと思うと恐怖で身がすくむ。
自分が化物たるゆえんはそこにあったんだと思った。
この心が化物なんだと思った。
だから死ななければならないと思った。
しかし死んでしまっては仲間を守れない。
なら敵を巻き込んで死ぬしかないじゃないか。
『ポイント到達、グラビティジェネレーター暴走開始。自壊まであと―――』
[リク、死なないで!]
リクは目を見開く。
その姿を探して拡大、バズーカが直撃した筈のTypeβがこちらに向かっているのを確認した。
「なんで……生きてたのか……くっそ、離れろ!ミキ!もうこの機体は!」
Typeαの胸部ハッチが開いて内部から少しずつ黒い球体がせり出す。
宇宙での戦闘を死で終わらせる重力の塊は今にもそのエネルギーを爆発させようとしている。
[リク、死なないで!あなたに死なれたら私はもう………]
Typeβはブースターを最高出力で加速しながら迫ってくる。
「死なせてくれ……俺はもう壊れてる……治らないんだよ!」
[そんな事であなたは逃げるの!?逃げないで!逃げるな!]
ミキは叫ぶ。
力の限り叫んでいまだにスピードを上げていく。
[私に死ぬことを許さなかったあなたが!自分を殺そうとするな!]
「違うんだよ……俺は違うんだ……生きていちゃいけないんだ!化物である俺が、人のふりなんて、するべきじゃなかった!」
[あなたは人でしょう!誰があなたを化物だって言ったって、私達はあなたを認める!]
「自分で自分を信じられなくなってしまったんだよ!」
[そんな事は私達には関係ない!]
思わず何も言えなくなってしまう。
こんな風に自分の意志を無視されてしまうとは思っていなかった。
[あなたが死ぬ事は私の生きる理由が無くなってしまう事なの!]
TypeβがTypeαに突っ込む。
重力塊が白い粒子に包まれていく。
[あなたの命にも意味がある事を……分かって!]
重力塊が弾けて周囲に、外向きの衝撃波を飛ばす。
純粋な重力の衝撃は周囲から機械の残骸を弾き、戦闘を続ける連邦と同盟のHBを砕いて行く。
その中心に居る二機は全くの無傷だ。
『……ハッチ解放します』
イザナミが強制的にコックピットのハッチを開く。
すでにミキはコックピットから出てこちらを見ていた。
「なんで……」
俯いているリクをミキは引っ張り、そして抱きつく。
「もう馬鹿な真似はやめて……私を一人にしないで………生きていてくれるだけでもいい……あなたがいなきゃ駄目なの……好き……リク……
好き……」
リクは顔を歪める。
「やめてくれ。本当に、もう殺してくれ」
「何で!?命の意味を知ったのでしょう!それなら死を選ぶなんてやめて!」
「違うんだよ……もう何もかもが………」
弱々しくも涙は見せず、リクはぽつりと内面を漏らす。
「気付いてしまったから、俺がしてきた殺す意味に気付いてしまったから………他人に必要とされて、他人を必要として、人を殺す事は奪う事
だと気付いたんだ………その人の未来を奪って、その人に関わるであろう人全ての未来を壊すことだって………俺は……そんな事をして……笑
ってたんじゃないか……ろくに意味も理解せず殺してたんじゃないか…………最低だ……取り返しのつかない程の罪じゃないか……」
ミキは黙ってそれを聞き、そして静かに口を開く。
「それは、私も同じ罪を犯している。でも、私は自分で死のうなんて思わない。だって、私も目をそむけてるんだもの」
リクを抱きしめる腕に力を込めつつミキは呟いていく。
「あなたは強くあろうとし過ぎてる。確かに死を正面から受け止めている人達だっている。でも、私はそこまで強くないから……だから目をそ
むける。あなたもそれでいいの」
リクは項垂れる。
「無理だよ。俺が生きる理由も、生きてきた道も、全てが血ぬられている。それを捨てるなんて―――」
「捨てる事を恐れるな!」
ミキは叫ぶ。
かつて死を望む自分にリクが重なったように思えたから、その救いを自分が与えるのだと吠える。
「私はあなたに救われた、あなたは殺す以外のことだってできる!それでも生きるのが辛いなら、仲間を信じればいい!何のための仲間だと思
ってるの!?信じて、頼って、依存して、それでも受け入れてくれる仲間がいるじゃない!」
強く、あの日のリクほど冷静になんてなれないけど、その代わり自分を、ミキ・レンストルという想いの塊の全てをさらけだして。
そしてそれが家族以外に出来るほど強くなれた自分がいる事に驚く。
そう、これがリクが刻みつけたもので、そして今の自分が一番大切にしているものだ。
「一旦休みましょう。誰もあなたを認める事に強さなんて基準にしてない。人が生きていけるのはどんな面でも自分を認めてくれる人がいるか
ら。私は、あなたの全てを認めてる。その強さも、弱さも、暗い感情も、真っ直ぐな思いも、全てを認めてる」
ぶらりと垂れていた手が少しだけ持ちあがった。
恐れるようにピクリと動き、そしてミキの体から一定距離で止まる。
「……頼っていいのか?」
「うん」
少しずつ手がミキに近付く。
「弱くてもいいのか?」
「当たり前よ」
その手はミキの体に触れるか触れないかぐらいの場所でまた止まる。
「もう……泣いてもいいのか?」
「いいよ。弱みを見せる事をよしとしないなら、せめて私の前だけでは泣いて。私はそれを受け止める強さなんて無いかもしれないけど、あな
たは少し楽になれるはずだから……もちろん、そうしたいって思ってくれるならだけど………」
恐る恐るといった感じでリクの手がミキに触れる。
その手に力がこもり、ミキを抱きしめる形になる。
「ぅあ………っく………ぁぁ」
リクは生まれて初めて弱さを露呈させた。
16年生きて、その中で呑みこんできた弱さの全てを吐きだすかのように、リクは泣き続けた。
5分ほどリクは泣き続けて、そして落ちついた。
ミキを抱きしめる手は離さなくともその目に涙はもう浮かばない。
「もういいの?」
「うん、ありがとう」
少し離れて、リクはミキの顔を見つめる。
そして途中で何かに気付き肩を落とす。
「やっぱり、宇宙っていうのは不便だ……」
「どうして?」
ミキは全く意味が分からないと言う風に首を捻る。
「だってさ……したい時にキスも出来ない」
「き、きす?」
「そう、キス。口づけ、接吻、口吸い」
ミキは慌てたように目を白黒させている。
本当に不意打ちでキスしてたら心臓が止まってたんじゃないかと思う程の慌てっぷりだ。
「あう、え?だってそれって、やっぱりそういうことで、そうなるとやっぱり、そ、そういうこと?」
「そういう事が微妙に分かりづらいけど……流石に2回目も返事が出来ずっていうのはかっこ悪いからな」
「2回目?」
「告白されるのがって事」
リクは再びミキを強く抱き寄せて言う。
「俺の傍にいて下さい。弱くても生きていけるように、あなたと一緒にいたいです」
「………約束してくれる?絶対に弱さをこらえない事、勝手に死のうとしない事」
ミキもリクの身体に手を回す。
「もちろん。この命、きっとあなたより短い命だけど、それが続く限りあなたの傍で、あなたを愛し続けます」


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