言いしれぬ重圧に心折れぬ様に、青年は球体に自らの掌を乗せ、ただ前へと気を集中させる。
彼の目下には半透明で蒼色に発光するパネルが広がっており、青年が掌を乗せている球体からは、無機質な数本のラインがパネル上に扇形となって伸びている。
青年の周りには近未来的な計器や物体がバランス良く配置されており、また、青年の目の前には大きなモニターが、外の様子を映し出す。
彼の目下には半透明で蒼色に発光するパネルが広がっており、青年が掌を乗せている球体からは、無機質な数本のラインがパネル上に扇形となって伸びている。
青年の周りには近未来的な計器や物体がバランス良く配置されており、また、青年の目の前には大きなモニターが、外の様子を映し出す。
目の前に見えるのは、遠く遠く見えている、出口かもしれない白く光る穴。だが、何時まで経ってもその穴へと到着する様子は無い。
青年が視線をその穴へと凝視させているのは、早くこの空間を抜けたいという願望ともう一つ。この空間の恐ろしさに、気が滅入りそうだからだ。
ふと目線を穴から逸らす、が、青年はすぐに視線を穴へと戻した。とてもじゃないが、恐ろしくて見ていられない。
青年が視線をその穴へと凝視させているのは、早くこの空間を抜けたいという願望ともう一つ。この空間の恐ろしさに、気が滅入りそうだからだ。
ふと目線を穴から逸らす、が、青年はすぐに視線を穴へと戻した。とてもじゃないが、恐ろしくて見ていられない。
穴から広がる様に、その空間―――――次元の狭間は、おぞましい音を立てながら蠢く。一見暗闇の様だが、それは違う。
次元は生きている。様々な時代の、様々な歴史の、様々な怨念と無念が成形するこの空間は、生き物の様に蠢いているのだ。
次元は生きている。様々な時代の、様々な歴史の、様々な怨念と無念が成形するこの空間は、生き物の様に蠢いているのだ。
「隆昭さん、大丈夫ですか?」
青年を気遣って、モニター上のブラウザに、銀髪のショートカットの少女が映る。銀髪の少女は心配そうに、青年に声を掛けた。
青年を気遣って、モニター上のブラウザに、銀髪のショートカットの少女が映る。銀髪の少女は心配そうに、青年に声を掛けた。
「あぁ……大丈夫。心配させてごめん」
青年は明らかに無理な笑顔を見せて、銀髪の少女に返答した。と、もう一つ、ブラウザが開く。
そのブラウザにはグラマラスな衣装に身を包んだ、不敵な笑みを浮かべる黒髪の女性が映っている。女性は口元に笑みを浮かべながら、青年に話しかける。
青年は明らかに無理な笑顔を見せて、銀髪の少女に返答した。と、もう一つ、ブラウザが開く。
そのブラウザにはグラマラスな衣装に身を包んだ、不敵な笑みを浮かべる黒髪の女性が映っている。女性は口元に笑みを浮かべながら、青年に話しかける。
「後一時間正味で着くから頑張りなさい。絶対に飲まれちゃ駄目よ」
青年は女性の姿を一瞥すると、再び穴に意識を集中させた。コックピットは滴温にセットされている筈だが、何故だろう。
先程から額に冷や汗が流れては、落ちる。もしかしたら、既にこの空間に飲み込まれているのかもしれない。この、人の業が成している様な、空間に。
青年は自らの精神を安定させる為、一息つくと女性に話しかける。
先程から額に冷や汗が流れては、落ちる。もしかしたら、既にこの空間に飲み込まれているのかもしれない。この、人の業が成している様な、空間に。
青年は自らの精神を安定させる為、一息つくと女性に話しかける。
「……スネイルさん」
青年に呼びかけられ、女性が視線をこちらに向ける。その目は青年とは対照的に、怯えや緊張と行ったものは全く見られない。
むしろ余裕があり、なおかつ冷静さを感じさせる。
むしろ余裕があり、なおかつ冷静さを感じさせる。
「もし未来に着いたら……まずは何をするんですか?」
青年の質問に、女性はんーと口元に人差し指を立てて数秒、考える動作をすると、明快な口調で答えた。
「貴方には正体を隠して貰うわ。あっちの世界じゃ既に貴方は死――――」
「マチコさん!」
女性と青年の会話に、銀髪の少女が慌てた様子で割り込んできた。少女の様子に、女性と青年が会話を中断する。
女性と青年の会話に、銀髪の少女が慌てた様子で割り込んできた。少女の様子に、女性と青年が会話を中断する。
「み……未確認の機影を確認しました! 数は……」
少女の報告より早く、青年はモニターに目を移す。青年の目に映ったのは――――黄金色に輝く、「何か」。
その何かが、青年の目の前で腕を組み、超然として君臨している。青年は震える手をどうにか抑えながら、球体に自らの意思を伝達する。
少女の報告より早く、青年はモニターに目を移す。青年の目に映ったのは――――黄金色に輝く、「何か」。
その何かが、青年の目の前で腕を組み、超然として君臨している。青年は震える手をどうにか抑えながら、球体に自らの意思を伝達する。
「スネイルさん!」
「プログレス……? まだ完成していない筈じゃ……」
未だブラウザに映っている女性の顔からは、先程の余裕めいた表情は無い。逆に不測の事態に対して、動揺している様だ。
初めて見る女性のその表情に、青年はどうしようも無い不安と恐怖を抱く。ただでさえ、嫌な状況下なのに――――全く知らない敵が現れるなんて。
「プログレス……? まだ完成していない筈じゃ……」
未だブラウザに映っている女性の顔からは、先程の余裕めいた表情は無い。逆に不測の事態に対して、動揺している様だ。
初めて見る女性のその表情に、青年はどうしようも無い不安と恐怖を抱く。ただでさえ、嫌な状況下なのに――――全く知らない敵が現れるなんて。
「……何にせよ、こんな所で出会うなんて最悪にも程があるわ。鈴木君、早くヴィルティックを向こう側へ。今ならまだ間に……」
女性がそう言った瞬間、ブラウザが瞬時に閉じた。青年は、自分の目の前で起こった出来事が理解できない。
女性が乗っていた巨大なロボットが、一瞬のうちに「何か」の手刀によって頭部を貫かれたのだ。それも、何のモーションも無く。
「何か」に動きがあった様子は殆どない。先程から腕を組んだまま、その場に居ただけだ。だが、確かに今、「何か」によって女性の巨大ロボットは攻撃を加えられた。
青年の瞳孔が見開く。青年の頭の中で、何度も何度も自問自答が響いては消える。どうする、どうするどうするどうする!?
「何か」に動きがあった様子は殆どない。先程から腕を組んだまま、その場に居ただけだ。だが、確かに今、「何か」によって女性の巨大ロボットは攻撃を加えられた。
青年の瞳孔が見開く。青年の頭の中で、何度も何度も自問自答が響いては消える。どうする、どうするどうするどうする!?
「早く……早く逃げ……なさい……向こう……側へ……」
女性の声だけが、コックピット内に響く。「何か」は手刀を突き刺したまま、こちらを見る気配は無い。
だが、「何か」からにじみ出る強大さと禍々しさは、次元の狭間と一体となって青年を飲みつくしていく。青年の手は無意識に、球体から少しづつ離れていく。
だが、「何か」からにじみ出る強大さと禍々しさは、次元の狭間と一体となって青年を飲みつくしていく。青年の手は無意識に、球体から少しづつ離れていく。
「隆昭さん! 早く!」
が、銀髪の少女の悲痛な叫びで、青年は即座に我に帰る。首を大きく振り、頭の中で過去を振り返る。
そうだ、ここで死ぬわけには――――瞬間、脚部に大きな爆発音が響き、コックピットが上下に激しく揺れ動いた。
が、銀髪の少女の悲痛な叫びで、青年は即座に我に帰る。首を大きく振り、頭の中で過去を振り返る。
そうだ、ここで死ぬわけには――――瞬間、脚部に大きな爆発音が響き、コックピットが上下に激しく揺れ動いた。
「っつ! だが……」
青年の、呼吸が、止まる。
ほぼ零距離目前、「何か」がモニター前面で、青年を睨んでいた。青年は球体に対して、自らの意思を何度も投影するが何も起きない。
考えられる事は二つ――――動きが、完全に封じられたか、あるいは既に急所を……突かれているか。
次の瞬間、「何か」が背部から、機体色と同じ黄金色の巨大な光の翼を広げた。奇しくもその翼は――――青年の乗っている、巨大ロボットが広げるモノと酷似していた。
ほぼ零距離目前、「何か」がモニター前面で、青年を睨んでいた。青年は球体に対して、自らの意思を何度も投影するが何も起きない。
考えられる事は二つ――――動きが、完全に封じられたか、あるいは既に急所を……突かれているか。
次の瞬間、「何か」が背部から、機体色と同じ黄金色の巨大な光の翼を広げた。奇しくもその翼は――――青年の乗っている、巨大ロボットが広げるモノと酷似していた。
「動け……動けよ! ヴィルティック!」
青年が必死な形相で球体に力を込めてそう叫ぶ。だが、青年の意思に巨大ロボットは何の反応も見せない。
やがて「何か」は翼を羽ばたかせながら上昇し――――両手で貫いている、二体の巨大ロボットを軽々と持ち上げた。
そして――――勢い良く、二体を次元の狭間へと向けて放り投げた。それぞれ頭部と右肩を貫かれている二体は、何の抵抗も出来ず、次元の狭間へと飲みこまれていく。
青年が必死な形相で球体に力を込めてそう叫ぶ。だが、青年の意思に巨大ロボットは何の反応も見せない。
やがて「何か」は翼を羽ばたかせながら上昇し――――両手で貫いている、二体の巨大ロボットを軽々と持ち上げた。
そして――――勢い良く、二体を次元の狭間へと向けて放り投げた。それぞれ頭部と右肩を貫かれている二体は、何の抵抗も出来ず、次元の狭間へと飲みこまれていく。
真っ逆さまに落ちていく中、徐々に暗くなっていく意識。青年は呟いた。
「こんな所で……まだ何も……してないのに……」
「ごめん……メルフィー……」
次元の狭間から完全に消失した二体をしばらく見下ろし、「何か」は翼を収納すると、青年達が到着する筈だった穴へと飛んでいく。
「まだ調整が完全では無いな……まぁ良い。全ては――――」
――――――――――――――――――――――――この物語に、勝者は、いない――――――――――――――――――――――――
ビューティフル・ワールド
the gun with the knight and the rabbit
the gun with the knight and the rabbit
雲一つ無い、突き抜ける様に澄んだ青空を、三つ編みの少女が見上げた。心地の良い風に、三つ編みがふわりと揺れる。
少女の目の前には、澄み切った青空に似合う、牧歌的な草原が広がっている。陽気のせいもあって、少女はふわぁとあくびをして寝転がった。
空で二匹の蝶々が求愛行動をしているのか、可憐な軌道を描く。少女はしばらく蝶々の姿を見つづけると、眠そうな目をこすって体を起こし、振り返った。
少女の目の前には、澄み切った青空に似合う、牧歌的な草原が広がっている。陽気のせいもあって、少女はふわぁとあくびをして寝転がった。
空で二匹の蝶々が求愛行動をしているのか、可憐な軌道を描く。少女はしばらく蝶々の姿を見つづけると、眠そうな目をこすって体を起こし、振り返った。
「ありがとね、リヒター。私の修行に付き合ってくれて」
少女が声を掛けた先には、少女を見守る様に佇んだ、厳格な鎧騎士を思わせる、黒色のロボットが居た。
その佇まいは機体色と相まって、少女に対して深い忠誠心を感じさせる、深遠な雰囲気を醸し出している。
少女が声を掛けた先には、少女を見守る様に佇んだ、厳格な鎧騎士を思わせる、黒色のロボットが居た。
その佇まいは機体色と相まって、少女に対して深い忠誠心を感じさせる、深遠な雰囲気を醸し出している。
――――オートマタ。この世界における、ロボットの定義。
かつて、謎の事象によって世界が破滅し、もう一度人々が世界をやり直している中で発掘された言わば過去の遺産だ。
かつて、謎の事象によって世界が破滅し、もう一度人々が世界をやり直している中で発掘された言わば過去の遺産だ。
マナと呼ばれるエネルギーを主として、様々な用途に合わせて使用される。使用されると言ったが、各個意思を持ち、言わば人間とはパートナーの様な関係を築いている。
少女が話しかけたロボットも、このオートマタの一種である。
名は、リヒター・ペネトレイター。彼(どうやら声からして男らしい)には様々な秘密があるらしいが、それはまた別のお話。
少女が話しかけたロボットも、このオートマタの一種である。
名は、リヒター・ペネトレイター。彼(どうやら声からして男らしい)には様々な秘密があるらしいが、それはまた別のお話。
リヒターは自らの頭部を小さく振ると、その特徴に似合う、温かさを感じさせる落ちついた男性の声で、少女に返答する。
<いえ。マスターがお望むであれば、私は喜んで。しかし無理はなさらないでください>
「大丈夫。こう見えても、私結構体力あるんだから。けど、心配してくれてありがとう、リヒター」
そう言って、少女はリヒターに明るい笑顔を見せた。屈託の無いその笑顔には、しっかりとした意思と、母性的な優しさが垣間見れる。
リヒターは少女の笑顔にツインアイを鈍く光らせる。彼には人間の様に表情は無いが、何かしら少女に対して思う事は、こうして伝えている。
そう言って、少女はリヒターに明るい笑顔を見せた。屈託の無いその笑顔には、しっかりとした意思と、母性的な優しさが垣間見れる。
リヒターは少女の笑顔にツインアイを鈍く光らせる。彼には人間の様に表情は無いが、何かしら少女に対して思う事は、こうして伝えている。
「あ、そうだそうだ……。あのさ、リヒター」
少女はそう言いながら、傍らに置いた輪っかの形の何かをリヒターに見せる。リヒターは膝を着くと、その何かにじっとツインアイで見つめた。
興味が沸いたのか、ツインアイの奥の人間で言う瞳孔――――サーチカメラが伸縮する。少女が笑顔を浮かべたまま、リヒターに続けて言う。
興味が沸いたのか、ツインアイの奥の人間で言う瞳孔――――サーチカメラが伸縮する。少女が笑顔を浮かべたまま、リヒターに続けて言う。
「ちょっと花飾りを作ってみたんだ。リタちゃんにあげようかなって思って。可愛い……かな」
リヒターは少女と花飾りを交互に見ると、静かな口調で答えた。
<とても綺麗だと思います。彼女も喜ぶと思いますよ>
「ホント? リヒターがそう言うなら大丈夫。小さい頃を思いだしながらやってみたけど、結構上手く行くもんだね」
花飾りを両手で掲げて、青空を見上げながら少女は再び草原に仰向けに寝転がる。気持ち良いくらい、空が真っ青だ。
花飾りの間から見える青空を見つめたまま、少女はリヒターに囁く様に話しかける。
花飾りを両手で掲げて、青空を見上げながら少女は再び草原に仰向けに寝転がる。気持ち良いくらい、空が真っ青だ。
花飾りの間から見える青空を見つめたまま、少女はリヒターに囁く様に話しかける。
「早く……早く師匠みたいに一人前のマスターになりたいな。それで……世界中を旅してみたい。この、広い世界を」
<……きっと、マスターならなれますよ。私も……その夢を叶えてみたいですから>
「私も、リヒターとなら叶えられると思う。頑張ろう、一緒に」
微笑みを浮かびながらそう、リヒターに返す少女の目には、優しさと健気さが入り混じり19歳という年よりずっと、大人びた印象がある。
微笑みを浮かびながらそう、リヒターに返す少女の目には、優しさと健気さが入り混じり19歳という年よりずっと、大人びた印象がある。
「さっ、休憩終わり! 夕方になるまで頑張……」
草原から立ち上がった少女の耳に、奇妙な音が聞こえる。奇妙といって、体に不調があるとかそういう事ではない。
何か耳鳴りの様な音が聞こえるのだ。具体的に言えば……何かが、落ちてくる音。
草原から立ち上がった少女の耳に、奇妙な音が聞こえる。奇妙といって、体に不調があるとかそういう事ではない。
何か耳鳴りの様な音が聞こえるのだ。具体的に言えば……何かが、落ちてくる音。
「リヒター、何か聞こえる?」
少女の問いに、リヒターは出来る限りセンサーを集中させる。1秒……2秒……気づく。
確かに少女が言う通り、奇妙な音が空から聞こえてくる。言うなれば、何かが落下してくる、そんな不吉な音だ。
確かに少女が言う通り、奇妙な音が空から聞こえてくる。言うなれば、何かが落下してくる、そんな不吉な音だ。
<はい。遠方から確かに……。音が鳴っている方向は……>
リヒターはセンサーをあらん限り限界まで集中させ、その音がどこから鳴っているかを調べる。分かっている事は遠方である事と、落ちてくると言う事。
と、南方で動きを止め、空へと頭部を向ける。サーチカメラを伸縮させ、落下物の姿を確認……。
……リヒターはどう反応すれば良いか、非常に戸惑う。落下物の姿は何と言うか――――巨大な、人の様だ。
何はともあれ、もしアレが爆発物でも持っているとしたらここに留まる事は非常に危険だ。リヒターは少女に振り返り、冷静な声で伝える。
と、南方で動きを止め、空へと頭部を向ける。サーチカメラを伸縮させ、落下物の姿を確認……。
……リヒターはどう反応すれば良いか、非常に戸惑う。落下物の姿は何と言うか――――巨大な、人の様だ。
何はともあれ、もしアレが爆発物でも持っているとしたらここに留まる事は非常に危険だ。リヒターは少女に振り返り、冷静な声で伝える。
<マスター、ここから離れましょう。こちらに危険が及ぶ可能性があります>
「う、うん……」
「う、うん……」
リヒターにそう返事しながらも、少女は釈然としない何かを感じていた。上手く言葉に出来ないが、漠然とした妙な予感を。
先導するリヒターについていきながらも、少女は落下物に視線を向け続ける。
先導するリヒターについていきながらも、少女は落下物に視線を向け続ける。
<さぁ、お早く>
「……待って、リヒター」
歩いている足を止め、少女は落下物の方へと振り返った。その目はじっと、落下物へと向けられている。というより、釘づけになっている。
「……待って、リヒター」
歩いている足を止め、少女は落下物の方へと振り返った。その目はじっと、落下物へと向けられている。というより、釘づけになっている。
<……マスター?>
動こうとしない少女に若干の焦りを感じながらも、リヒターも振り返り、落下物にツインアイを向ける。
すると驚くべき事に、落下物の落ちていくスピードがだんだん遅くなっている事に気付く。いや、それだけではない。
落下物に、蒼いもや……いや、オーラの様な物が見える。そのオーラは、落下物を衝撃から護っている様だ。恐らくスピードが落ちているのはこの為だろう。
動こうとしない少女に若干の焦りを感じながらも、リヒターも振り返り、落下物にツインアイを向ける。
すると驚くべき事に、落下物の落ちていくスピードがだんだん遅くなっている事に気付く。いや、それだけではない。
落下物に、蒼いもや……いや、オーラの様な物が見える。そのオーラは、落下物を衝撃から護っている様だ。恐らくスピードが落ちているのはこの為だろう。
「……行こう、リヒター。あれには、多分人が乗ってると思う」
<……マスター、ですが>
少女はリヒターに振り返ると、ツインアイをくりっとした目で見つめた。リヒターも少女の目を見つめ返す。
数秒間、少女とリヒターは見つめ合うと、リヒターは膝を着いて、少女に言った。
<……マスター、ですが>
少女はリヒターに振り返ると、ツインアイをくりっとした目で見つめた。リヒターも少女の目を見つめ返す。
数秒間、少女とリヒターは見つめ合うと、リヒターは膝を着いて、少女に言った。
<私の肩に乗って下さい。ですが、少しでも危険を感じたらすぐに離脱します。良いですね>
「ありがとう、リヒター」
「ありがとう、リヒター」
リヒターの肩に乗って、少女は落下物の着地したであろう地点まで急ぐ。落下時に衝撃に備えて身構えていたが、不思議な事に衝撃音も無ければ、衝撃さえ無かった。
数十メートル先に、落下物の姿が見えた。少女は緊張の為か、無意識に唾を飲み込む。リヒターが恐る恐る、落下物へと近づいていく。
数十メートル先に、落下物の姿が見えた。少女は緊張の為か、無意識に唾を飲み込む。リヒターが恐る恐る、落下物へと近づいていく。
距離にして1メートル程、少女とリヒターの前に現れた落下物の姿は、この世のモノとは思えない、奇妙な物だった。
どちらも人の形を模しているものの、その姿は明らかに人ではない。無機質な色彩、露出した電子部分、そして曲線と直線が入り混じった、硬質なフォルム。
間違いない。どちらもロボットだ。しかしこれほど巨大なロボット、見た事が無い。種類からして、オートマタではない事だけは分かる。
どちらも人の形を模しているものの、その姿は明らかに人ではない。無機質な色彩、露出した電子部分、そして曲線と直線が入り混じった、硬質なフォルム。
間違いない。どちらもロボットだ。しかしこれほど巨大なロボット、見た事が無い。種類からして、オートマタではない事だけは分かる。
<……如何なさいますか?マスター>
「……どうしようか」
「……どうしようか」
人が乗っていると確信し、助ける為に来たものの、実際に落下物を目の前にすると驚きのあまりどうするべきか、少女の思考は混乱する。
もしかしたら異星人が送り込んだ刺客? それとも政府が開発した大型オートマタ? あるいは……止めよう、勝手な推測を立ててもさらに混乱するだけだ。
もしかしたら異星人が送り込んだ刺客? それとも政府が開発した大型オートマタ? あるいは……止めよう、勝手な推測を立ててもさらに混乱するだけだ。
無理やりにでも頭を冷静にして、もう一度落下物を観察して見る。蒼いオーラで守られていたものの、どちらの装甲も酷く焼け爛れている。
ここに落ちてくる前に負った損傷なのかどうかは分からない。リヒターにもう少し歩いて貰い、更に観察を続ける。
白い落下物の方は右肩に、紅い落下物の方は頭部に歪んだ穴が空いている。こちらは間違いなく、ここに落ちてくる前に追ったであろう損傷個所だ。
ここに落ちてくる前に負った損傷なのかどうかは分からない。リヒターにもう少し歩いて貰い、更に観察を続ける。
白い落下物の方は右肩に、紅い落下物の方は頭部に歪んだ穴が空いている。こちらは間違いなく、ここに落ちてくる前に追ったであろう損傷個所だ。
「……なんだか可哀相だね。こんなに傷つけられて」
ポツリと、少女の口からそんな言葉が出た。可能な事なら、修理してあげたいが……正直、オートマタのノウハウが落下物に通じるとは思えない。
しかし如何するべきか……。もしも師匠が仕事で出かけていなければ、指示を仰げるのだが……。
しかし居ない人を嘆いていても仕方がない。一度やおろよずに帰り、皆にこの事を――――。
しかし如何するべきか……。もしも師匠が仕事で出かけていなければ、指示を仰げるのだが……。
しかし居ない人を嘆いていても仕方がない。一度やおろよずに帰り、皆にこの事を――――。
<マスター、人がいます>
リヒターに呼びかけられ、少女は考えを中断する。気づけば何時の間にか、落下物の周辺に人が横たわっていた。
人数にして三人。少女はその人達が怪我……というか死んでいないか鼓動が速くなる。が、一瞥した限り、怪我らしい怪我は見えない。
ホッと胸を撫で下ろし、少女は一先ず、どんな人達かを確かめて為、リヒターに下ろしてくれる様、頼む
人数にして三人。少女はその人達が怪我……というか死んでいないか鼓動が速くなる。が、一瞥した限り、怪我らしい怪我は見えない。
ホッと胸を撫で下ろし、少女は一先ず、どんな人達かを確かめて為、リヒターに下ろしてくれる様、頼む
「リヒター、悪いけど下ろしてくれる? ちょっと確かめたいの」
<不用意に近づかれて危険です。まだ身元も分からないのに>
「大丈夫。何となく……何となく、この人達は悪い人じゃないって気がするから。だから、お願い」
<不用意に近づかれて危険です。まだ身元も分からないのに>
「大丈夫。何となく……何となく、この人達は悪い人じゃないって気がするから。だから、お願い」
リヒターは不安に駆られながらも、膝を着き、少女を下ろした。少女は小声で感謝して、一番近くで横たわっている、銀髪でショートカットの少女の近くに寄ってみる。
ふと、銀髪の少女の姿に、少女は妙なな感覚を覚える。落下物も落下物だが、銀髪の少女が来ている服……? もこれまた奇妙だ。
体のサイズが分かる程、ピッチリしているその服は、触ってみると金属の様に冷たい。おぼろげに見える、血管のように細いラインが全身に走っているのも奇妙だ。
一体どんな材質で出来て……と、他の二人の来ている服もそんな感じである。デザインこそ違えど。
ふと、銀髪の少女の姿に、少女は妙なな感覚を覚える。落下物も落下物だが、銀髪の少女が来ている服……? もこれまた奇妙だ。
体のサイズが分かる程、ピッチリしているその服は、触ってみると金属の様に冷たい。おぼろげに見える、血管のように細いラインが全身に走っているのも奇妙だ。
一体どんな材質で出来て……と、他の二人の来ている服もそんな感じである。デザインこそ違えど。
そっと肩に手を掛け、意識があるか呼びかけてみる。が、いくら呼びかけても、銀髪の少女が起きる兆しは無い。
まさか……いや、でも血色は良いし、怪我をしている様子も……。と、その時だ。
まさか……いや、でも血色は良いし、怪我をしている様子も……。と、その時だ。
『……聞こ……えるか?』
突然、男性の声が聞こえ、少女の体がビクッと驚嘆する。リヒターが滑り込むように少女の前に立ち、臨戦態勢を取る。
男の声は、頭部に損傷を負った紅い機体から聞こえてくる。少女はリヒターの背後に隠れながらも、男性の声に耳を傾ける。
男の声は、頭部に損傷を負った紅い機体から聞こえてくる。少女はリヒターの背後に隠れながらも、男性の声に耳を傾ける。
『私は……この機体の……人工知能……スチュアート……貴方……達に……頼みが……ある』
スチュアートと名乗る男性の様子に、少女はハッとしてリヒターの前をすり抜けて、近くに寄る。
紅い機体の頭部には、リヒターで言うツインアイだろうか、スリットを思わせる部分が見え、淡く点滅している。
紅い機体の頭部には、リヒターで言うツインアイだろうか、スリットを思わせる部分が見え、淡く点滅している。
<マスター>
「大丈夫」
リヒターに心配ないと言った感じで手を上げ、少女はスチュアートの言葉に、耳を傾け続ける。
「大丈夫」
リヒターに心配ないと言った感じで手を上げ、少女はスチュアートの言葉に、耳を傾け続ける。
『そこにいる……三人を……安全な場所に……運んで……くれ……』
少女はスチュアートの言葉に深く頷くと、真剣な面持ちで、スチュアートに言った。
「……分かりました。ですが、一つだけ。出来れば……貴方達の事を教えて貰えますか?」
『信じ……られないかも……しれないが……我々は……未来から来た…世界を……救うために……』
予想だもしない答えに、少女の目が丸くなる。リヒターも驚いているのか、臨戦態勢を解いていた。
限界が近いのか、スリットの点滅が次第に消えていく。聞こえていた音声に、ノイズが混じり始める。
限界が近いのか、スリットの点滅が次第に消えていく。聞こえていた音声に、ノイズが混じり始める。
『理解は……してくれな……くても……良い……だが……その三人だけは……救って……くれ……それが……私の……願いだ……』
「……分かりました」
『すま……ない……』
スリットの光が消えた。完全に事切れたようだ。場に、言いしれぬ沈黙が流れる。
白い機体と、赤い機体。そして未だに目を覚まさない、身元の分からない三人。未来を救うため――――何もかも、分からないことだらけだ。
もしかしたらとんでもない事に巻き込まれているのかもしれない。だが、そんな事はリヒターと関わった日から――――。
スリットの光が消えた。完全に事切れたようだ。場に、言いしれぬ沈黙が流れる。
白い機体と、赤い機体。そして未だに目を覚まさない、身元の分からない三人。未来を救うため――――何もかも、分からないことだらけだ。
もしかしたらとんでもない事に巻き込まれているのかもしれない。だが、そんな事はリヒターと関わった日から――――。
「リヒター」
少女は振り返って、リヒターに真摯な目で、言った。
「この人達を、やおよろずに運ぼう。ライとルガ―さんを呼んで」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……で、あの人達は誰なの?」
珈琲を一口飲み、理知的かつ聡明そうな趣の青年、ライディース・グリセンティが掛けている眼鏡を人差し指で上げた。
珈琲を一口飲み、理知的かつ聡明そうな趣の青年、ライディース・グリセンティが掛けている眼鏡を人差し指で上げた。
「遥ちゃんが言うには、草原で行き倒れていたらしい。しかも三人揃ってね」
筋骨隆々にして、麗しい金髪と逆三角形が眩しい漢、ルガー・ベルグマンが、その姿に似合わぬ小さなティーカップに注がれた珈琲を飲みながら、ライディ―スに答える。
二人は同時に、二階の客人用の部屋に目を向ける。あの部屋に、少女が運んでほしいと切願した、行き倒れた三人が寝ている。
とはいえベッドは二つしか無いので、運んできた三人のうち、男一名はソファーに寝かせているが。
筋骨隆々にして、麗しい金髪と逆三角形が眩しい漢、ルガー・ベルグマンが、その姿に似合わぬ小さなティーカップに注がれた珈琲を飲みながら、ライディ―スに答える。
二人は同時に、二階の客人用の部屋に目を向ける。あの部屋に、少女が運んでほしいと切願した、行き倒れた三人が寝ている。
とはいえベッドは二つしか無いので、運んできた三人のうち、男一名はソファーに寝かせているが。
「しっかし妙な衣装だよね。何かのスーツなのかも知れないけど、あんな形状のスーツ、見た事無いよ」
ライディ―スの疑問も無理は無い。まぁあの三人が目覚めたら聞くつもりではあるが。
ライディ―スの疑問も無理は無い。まぁあの三人が目覚めたら聞くつもりではあるが。
「それにしても……リタちゃんとたまちゃん、それにリヒターは何処に?」
「遥ちゃんの話を聞いて、草原へと全速力で走って行ったよ。メカニックとしての魂がうずうずしてきやがった!って。
状況が状況だから、事態を把握する為にたまちゃんも一緒に。状況説明にリヒターを連れてね」
「……つくづく凄いな、リタちゃんのバイタリティは。まぁ、たまちゃんとリヒターがいるから暴走はしないだろうけど……」
「遥ちゃんの話を聞いて、草原へと全速力で走って行ったよ。メカニックとしての魂がうずうずしてきやがった!って。
状況が状況だから、事態を把握する為にたまちゃんも一緒に。状況説明にリヒターを連れてね」
「……つくづく凄いな、リタちゃんのバイタリティは。まぁ、たまちゃんとリヒターがいるから暴走はしないだろうけど……」
客人用の部屋――――中々高級そうな二つのベッドと、壁際のちょっとチープなソファーの上に三人は寝ている。
ベッドの真ん中で、少女は誰が目覚めてもすぐに対応出来る様、椅子に座って待っている。こうして1時間経過しているが、健気に。
だが考えるべき事が沢山ある為、退屈はしない。とにかく全てが謎すぎる。巨大ロボット、変な材質の服、そして……。
ベッドの真ん中で、少女は誰が目覚めてもすぐに対応出来る様、椅子に座って待っている。こうして1時間経過しているが、健気に。
だが考えるべき事が沢山ある為、退屈はしない。とにかく全てが謎すぎる。巨大ロボット、変な材質の服、そして……。
と、銀髪の少女が徐々に両目を開きはじめる。少女は慌ててイスから立ち上がる。
銀髪の少女は両目を開けた。が、状況が分からないのか、ぼんやりとした表情だ。
少女に気付いたのか、銀髪の少女は顔をそちらに向けた。その表情には、はっきりと不安の色が浮かんでいる。
銀髪の少女は両目を開けた。が、状況が分からないのか、ぼんやりとした表情だ。
少女に気付いたのか、銀髪の少女は顔をそちらに向けた。その表情には、はっきりと不安の色が浮かんでいる。
「あ、あの……私達……」
「無理しなくて良いからね。……怪我とかしてない?」
「無理しなくて良いからね。……怪我とかしてない?」
「か、会長! そんな困りますよ! 俺まだ童貞ですよ!?」
すっとんきょんな声をあげて、ソファーで寝ていた青年が転げ落ちた。青年の馬鹿馬鹿しい目覚めに少女と銀髪の少女が、一斉に青年の方を向く。
当の青年は寝ぼけ眼で周囲をきょろきょろすると、銀髪の少女と少女が見ている事に気付く。サーッと分かりやすいくらい、顔が青ざめていく。
次に青年が取った行動は何かを考えているか、それとも照れ隠しか深く俯いて、首を捻っている。どうやら全く状況が飲み込めていないらしい。
当の青年は寝ぼけ眼で周囲をきょろきょろすると、銀髪の少女と少女が見ている事に気付く。サーッと分かりやすいくらい、顔が青ざめていく。
次に青年が取った行動は何かを考えているか、それとも照れ隠しか深く俯いて、首を捻っている。どうやら全く状況が飲み込めていないらしい。
続く様に、もう一つのベッドで寝ていた、黒髪の女性が目を覚ます。
女性は二人の様な反応など露知らず、堂々と背伸びをして、一あくび。全く慌てる様子も無ければ、不安な様子もない。
そして第一声はこれまた能天気な物だった。
女性は二人の様な反応など露知らず、堂々と背伸びをして、一あくび。全く慌てる様子も無ければ、不安な様子もない。
そして第一声はこれまた能天気な物だった。
「……どれくらい寝てたのかしら。あんまり寝すぎると首が痛くてね~。年取るのってホント、嫌だわ」
女性の発言に、三人はポカンと口を開けた。無理は無い。女性から危機感とかそういうものが全く感じられないからだ。
女性は立ち上がった少女に目を向けると、じっと見つめた。蛇に睨まれた蛙のように、少女は女性に見つめられて動けない。
数秒、女性はそうしてふむふむと頷くと、ポンッと掌を叩いて、言った。
女性は立ち上がった少女に目を向けると、じっと見つめた。蛇に睨まれた蛙のように、少女は女性に見つめられて動けない。
数秒、女性はそうしてふむふむと頷くと、ポンッと掌を叩いて、言った。
「取りあえず貴方の事、みっちゃんって呼ぶわ。三つ編みだから」
「……一条です。一条遥です。私の、名前」
第 一 話
遭遇
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