CR ―Code Revegeon― 幕間 capter1~capter2
暗い一室。
そこには一つの弱い電灯が部屋の中心に付いているだけで窓も無い殺風景な場所だった。
そんな場所に円形の机を置き、五人の人間が座っている。
この五人こそが『裏』と呼ばれる集団のメンバーだ。
ある者はその機関の長であり、あるものはその軍人であり、あるものは表向きの役職についていないものもいた。
ただ、明確なのは世界政府で行われている政治劇の仕掛け人であるのが彼ら『裏』であるというだけだ。
つまるところ、この五人の人間こそが実質的な世界政府の支配者なのである。
彼らはそれぞれ己を『現実主義者』、『思想家』、『道化師』、『皮肉屋』、『鉄の処女』と称しており、時折『集会』と称してこのように集まるのだ。
彼の目的はただ、一つ。とある願いの成就。
机の中心には一つのモニターが置かれている。
そのモニターには天狼、焔凰、模狗とのイーグルの鋼機部隊とリベジオンの戦闘の光景が映し出されていた。
「ふむ、中々興味深い結果を得たようだ。」
顔は暗闇で見えないが声からして男であるのもわかる。
強く、太く硬い声であり、ある種の貫録を感じさせるものであった。『現実主義者』そう呼ばれる『裏』のメンバーの一人であった。
「予想外でしたのが、あの鋼機部隊でしたわね、正直、アレを焚きつける為の捨て駒という事でしたけれど、至宝を使ったとはいえ、まさか鋼機で鋼獣を破壊するとは…我が機関にスカウトしたいぐらいですわ。それに02もイーグルに捕獲されてしまう羽目になるとは…。」
そう言ったのは女だった。モニターから発せられる光が彼女の金色の髪のみをうっすらと反射する。『思想家』である。
「確か、あれの指揮をしていたのは時峰九条の孫だったかな、なるほどねぇ~、納得がいくと言えば納得がいく話でもあるね。あの婆にしてあの孫ありといった所か…。」
先の男とは違う別の男、先の男とは違う細さと軽さを持つ。どこか愉快そうに物事を話す『道化師』。
「時峰九条ね、ウチの機関の軍事関係の連中が聞いたら、怯えるか殺気を滾らせる名前だなぁ~あー怖い、怖い。」
いかにも冗談っぽく、ふざけたようにまた別の女が言う。『鉄の処女』。
そのいかつい名前に似合わぬ砕けたような発言が印象的だった。
「なんでこんな女が第六機関の長なんてやってるんだか…。」
『現実主義者』でも『道化師』でも無い第三の男が中性的なその声でふざけた女を皮肉る。彼が最後のメンバー『皮肉屋』である。
「あら、こう見えても私は機関内で支持率70%を切った事ないのよ、私に踏まれたいなんて手紙まで送ってくる男までいるぐらいだし…。」
『鉄の処女』は誇らしげに言う。
「訂正、お前だけじゃなく第六機関が異常だ。」
「くす、褒め言葉として受け取っておくわ。」
とはいえこの女は外面では頭脳明晰でかつ女性を思わせない冷静かつ的確な行動の数々で資源枯渇の問題に苛まれていた第六機関を立て直した人物であり、その人とは思えぬ決断力と判断力に鉄の処女(アイアンメイデン)等という異名を持つ人物であった。
本人もそれを気に入り、裏のメンバーとしての名として『鉄の処女』という名を採用したまでだ。
他の人物も一癖も二癖も持つ、ある種の偉業を成し遂げた人間である。
そのぐらいでなければ、『裏』のメンバーたりえないのだ。
それに咳ばらいをし、『現実主義者』が自分の元に注目を集める。
「半年ぶりに集まったからと、和気藹々とやりたいのはわからなくもないがとりあえず、せっかく暗く重苦しい知的な雰囲気作ったんだからぶち壊さんでくれ。」
あ、だから真っ暗なのね?リアリストからロマンチストに改名した方が良いんじゃない?」
席に足を置き大きく背延びをしながら『鉄の処女』は言う。
「あと1つはどこぞの馬鹿が、また全裸になっても我々の目には何も映らなくて済むという事だ。」
「あー、馬鹿って酷いなぁ、あれは僕なりのサプライズだったのにぃ…。」
ぷりぷりと怒ったように『道化師』が言う。
「馬鹿は無視して、本題を進めましょうか。」
そう言って、『思想家』は話を戻す。
「是、ちょっと今回の件で計画に支障が出てしまったしね。」
「まさか、こんな所で修正が必要になるとはねー。」
「当然だ、今回の計画で我々が扱っているのは人間だ。人間などという矛盾を抱えこんだ生物が軸とすれば予想の付かないアクシデントなぞ、いくらでも起こり得る。」
「本当にめんどくさいなぁー、んで、どうすんの?話だけ聞くには面白いけれど、これ、修正しようとすると相当めんどいよ。」
『鉄の処女』が机に伏して髪をいじりながら言う。
「僕、個人としてはこのまま進めてみるのも一興では無いかなとは思う。」
『道化師』が愉快そうにそう言った。
「それは何故だ?」
疑問を問いかけたのは『現実主義者』である。
それに喜々嬉々と道化師は答える。
「あいつは異端だ、これまで何人もの人間があれに挑戦してきたが、大抵は狂ってしまい、それを乗り越えてもその末にどちらかについた。でもね、あれだけの暴走を起こしてもまだあの機体はどちらにも傾いていないんだよ、これまでの例通りならば、傾いた時に機体に何らかの変化が起こる筈なのに、あの機体は暴走しただけで済んでいて、その中身は何も変わっていないんだ。これは凄い事だと思わないか?いくら適格者とは言え、そんな事は今まで一度も起こらなかったんだ。これの行く末を見てみるのも楽しそうじゃないか。」
『道化師』の行動原理はおそろしく単純だ。面白いか面白くないか、それだけに全てが注がれる。
面白い事の為にはありとあらゆる手を尽くし、そうでない場合は何の興味も示さない。
「私は不気味に思うよ。不確定因子は苦手でね、できればどちらかに転んでくれれば扱いやすかったのだが…。」
「まだ、どちらにも成っていないだけでこれからどちらかに傾くという可能性も否定は出来んな。」
「それを踏まえて、だよ、知らぬ事は幸福だ、知れる愉悦があるからね。僕らですら知らぬ事を知れるかもしれない数少ない機会だ、こんなに面白いイベントは無い、大事に生かしていこうじゃないか。それに彼のコントロール自体は簡単だ。あの行動原理は余りにもわかりやすいから、そこをちょいちょいと突いてやれば良い。」
「流石、その男がそうなる原因を作った張本人といった所か。」
『皮肉屋』が毒を吐く。
「おいおい、よしてくれよ、あの事態は僕にも想定外だったんだ、あんなに早く目覚めるなんて僕らの誰もが予想してなかっただろう?」
「とはいえ、UHが進行を開始したのは掴んでいた筈だ、もう少し被害を縮小する事も出来たろうに……そんなに人の死を見るのが好きか?」
「流石にそれは言い過ぎだと思うけれどなぁ。僕だって良心は痛むんだよ?死に何の感慨も持たないだけで…しかし、UHね、彼らに与えてやった正義の味方…上手く有効活用してくれるとありがたいんだけれど…。」
「わざわざ扱いやすい方をあげたわけだしねぇ、私たちの手元にあるのは見たモノ全部殺そうとする狂犬だけ、あれの調教はちゃんとやってるの?」
『鉄の処女』が『現実主義者』に聞く。
「ああ、既に自我は取り戻している。」
「へぇーすごいですわね、自我を取り戻せる可能性は2%以下じゃありませんでした?」
素直に関心するような感想を述べた『思想家』を見て、『現実主義者』は少し溜息を吐いた。
「というよりは元より自我は失っていなかったようだ、適合し、理解した上でああなっていると結論した。」
「それはなんというか…。」
「ああ、恐るべき事だよ、しかし、我々には歓迎すべき事だ。コミュニケーションはとれているのでもうひと押しといった所か…。」
「となると、やはり02は今は放置し、我々の狂犬の方を軸に計画を進めるのが得策といった所か…。」
「だね、賛成、僕としてもあれは放置しておきたい。」
「異議なし。」
「個人的には不確定因子を放置するのは余り、気が進まないのですが…。」
「それでいいっしょ。」
全員一致で結論が出る。
「しかし、イーグルの生存者の件はどうするよ、3名だっけ?」
『道化師』が言う、それに『現実主義者』は怪訝な顔をして言う。
「書類上は2名だ。1人は既にこちらと合流している。」
彼らの計画通りならば、現時点で鋼機部隊のメンバーは全員死亡しており、それを脚色し、自分たちの都合いの良いように電波に乗せて発表する予定だったのである。
だが、彼らが予想外の活躍を見せ、02が生存者を守った為に帰還者が出てしまった。
「狩石シャナでしたっけ?あなたがイーグルに送り込んだスパイの…。」
「そうだ。残っているのは秋常譲二とシャーリー・時峰の二名、しかし、シャーリー・時峰は精神的なダメージが大きかったようでな。また、戦線に立つのは難しいようだ。」
「それは残念、彼女になら『英雄』の役割を任せられると思いましたのに…。」
至極残念そうに『思想家』は呟いた。
「まったく、いつも僕らが欲しい人材は必要になると手に入らなくなるよね。」
「半分はお前が面白半分で食いつぶすからだろうが!」
その時だけ、『皮肉屋』が感情を露わにした。
「わわ、怖い、怖い。皮肉屋は皮肉ばっかり言っててよー、もう。それに3年前の事はもう水に流した筈でしょ、しーつーこーい。」
『皮肉屋』は抜き出しそうになった感情の刃を納める為にぐっと握りこぶしを握り込む。
「お前もあまりふざけるな、それでは逆撫でしているのと同義だ。」
『現実主義者』が『道化師』に釘を刺す。
それに対して『道化師』は、「はーい」と生返事を返す。反省の色等微塵も見られない。
「ところで、その『英雄』に関して、個人的に思う所があるんだけれど、いい?」
『鉄の処女』が提案を始め、周りはそれをするのを促し、沈黙した。
「沈黙はOKという事ね、シャーリー・時峰の方は勿体ない事になってしまったけれど、もう一人の生存者。秋常譲二だったかな?彼を『英雄』にしてみるのはどうかしら?」
ふん、と『皮肉屋』はその発言を笑った。
「命令も聞かず、勝手に突撃して撃墜された阿呆だぞ、そんな男が『英雄』など出来るものか。」
「あらぁ、聞けば、天狼に襲われる街を思っての出撃だったのでしょ、今のご時世には珍しい正統派熱血漢じゃない、腕も十分みたいだし、なれる素質は十分だとは思う。あとは精神的に未熟な点を逆に長所として私たちが宣伝広告してやれば一気に『英雄』になれるよ。自らの身と心を削って人の為に戦うモノ、うーん、大衆は自分たちに無償の奉仕をしてくれる信仰対象を願っている!それに何より顔立ちもいいしね。」
そう頬を赤く染めて、高説を垂れる『鉄の処女』に対して、
「一目惚れしましたわね。」
「また、一目惚れしたのか…。」
「飽きない奴だな。」
一同が同じ感想を返す。
「な、何よ!悪いの!?」
「いや、それにかかる宣伝費とか仕掛けにかかる金を全て第六機関が持ってくれるのならば、あたしは文句は言いませんわ、失敗しても損するのはあなただけですし。」
「異議なし。」
「好きにすれば良い。」
『道化師』は微笑んでその光景を見つめている。
「な、何よ、あなた達、馬鹿にして!いいよ、やってやる、やってやろうじゃない!!」
「恋する処女は可愛いなぁ。」
『道化師』がおちょくり、『鉄の処女』の声は泣き声に変わる。
「ぐすっ、いつかあんたら絶対に呪ってやるんだからぁ…。」
その光景を見て、『現実主義者』は溜息をいた後、
「では、『英雄』の件は『鉄の処女』に一任するが異論は無いな?」
「異議なし。」
「おっけー。」
「見ものですわね。」
再び一致する。
「ふむ、これで論議しなければならない事は大体終わったかな。」
「ええ、久しぶりに有意義な時間でしたわ。」
「…ふん。」
「良い暇つぶしになったよ。」
「まずは1stアタックの方法から考えないと…これまでの失敗を糧にして―――痛っ。」
『鉄の処女』改め『恋する処女』は脳天に落とされた手刀の痛みに涙ぐみながら頬を膨らませ、それを与えた『現実主義者』を睨むように見つめる。
「頼むから、自分の世界に入り浸るのは一人の時にしてくれ。」
『皮肉屋』を除く2名から失笑が起こる。
「さて、そろそろこの集会を閉めようと思うが、他に何か話がある奴はいるかね?」
数刻ほどの沈黙。
「ふむ、予定より少し早いが、これにて解散としようか、だが、忘れるな、我らの行動の全ては計画の成就の為に行っているのだと…。」
「全ては愛の為に!」
「全ては怒りの為に!」
「全ては快楽の為に!」
「全ては真実の為に!」
裏のメンバーが己の理念をあげて、誓いを謳う。
それぞれ目的は違えども、その目的を叶える為に求めるものは同じモノ達だ。
それが『裏』という組織であった。
「よろしい、CR計画、第二段階に移ろうではないか諸君。」
そこには一つの弱い電灯が部屋の中心に付いているだけで窓も無い殺風景な場所だった。
そんな場所に円形の机を置き、五人の人間が座っている。
この五人こそが『裏』と呼ばれる集団のメンバーだ。
ある者はその機関の長であり、あるものはその軍人であり、あるものは表向きの役職についていないものもいた。
ただ、明確なのは世界政府で行われている政治劇の仕掛け人であるのが彼ら『裏』であるというだけだ。
つまるところ、この五人の人間こそが実質的な世界政府の支配者なのである。
彼らはそれぞれ己を『現実主義者』、『思想家』、『道化師』、『皮肉屋』、『鉄の処女』と称しており、時折『集会』と称してこのように集まるのだ。
彼の目的はただ、一つ。とある願いの成就。
机の中心には一つのモニターが置かれている。
そのモニターには天狼、焔凰、模狗とのイーグルの鋼機部隊とリベジオンの戦闘の光景が映し出されていた。
「ふむ、中々興味深い結果を得たようだ。」
顔は暗闇で見えないが声からして男であるのもわかる。
強く、太く硬い声であり、ある種の貫録を感じさせるものであった。『現実主義者』そう呼ばれる『裏』のメンバーの一人であった。
「予想外でしたのが、あの鋼機部隊でしたわね、正直、アレを焚きつける為の捨て駒という事でしたけれど、至宝を使ったとはいえ、まさか鋼機で鋼獣を破壊するとは…我が機関にスカウトしたいぐらいですわ。それに02もイーグルに捕獲されてしまう羽目になるとは…。」
そう言ったのは女だった。モニターから発せられる光が彼女の金色の髪のみをうっすらと反射する。『思想家』である。
「確か、あれの指揮をしていたのは時峰九条の孫だったかな、なるほどねぇ~、納得がいくと言えば納得がいく話でもあるね。あの婆にしてあの孫ありといった所か…。」
先の男とは違う別の男、先の男とは違う細さと軽さを持つ。どこか愉快そうに物事を話す『道化師』。
「時峰九条ね、ウチの機関の軍事関係の連中が聞いたら、怯えるか殺気を滾らせる名前だなぁ~あー怖い、怖い。」
いかにも冗談っぽく、ふざけたようにまた別の女が言う。『鉄の処女』。
そのいかつい名前に似合わぬ砕けたような発言が印象的だった。
「なんでこんな女が第六機関の長なんてやってるんだか…。」
『現実主義者』でも『道化師』でも無い第三の男が中性的なその声でふざけた女を皮肉る。彼が最後のメンバー『皮肉屋』である。
「あら、こう見えても私は機関内で支持率70%を切った事ないのよ、私に踏まれたいなんて手紙まで送ってくる男までいるぐらいだし…。」
『鉄の処女』は誇らしげに言う。
「訂正、お前だけじゃなく第六機関が異常だ。」
「くす、褒め言葉として受け取っておくわ。」
とはいえこの女は外面では頭脳明晰でかつ女性を思わせない冷静かつ的確な行動の数々で資源枯渇の問題に苛まれていた第六機関を立て直した人物であり、その人とは思えぬ決断力と判断力に鉄の処女(アイアンメイデン)等という異名を持つ人物であった。
本人もそれを気に入り、裏のメンバーとしての名として『鉄の処女』という名を採用したまでだ。
他の人物も一癖も二癖も持つ、ある種の偉業を成し遂げた人間である。
そのぐらいでなければ、『裏』のメンバーたりえないのだ。
それに咳ばらいをし、『現実主義者』が自分の元に注目を集める。
「半年ぶりに集まったからと、和気藹々とやりたいのはわからなくもないがとりあえず、せっかく暗く重苦しい知的な雰囲気作ったんだからぶち壊さんでくれ。」
あ、だから真っ暗なのね?リアリストからロマンチストに改名した方が良いんじゃない?」
席に足を置き大きく背延びをしながら『鉄の処女』は言う。
「あと1つはどこぞの馬鹿が、また全裸になっても我々の目には何も映らなくて済むという事だ。」
「あー、馬鹿って酷いなぁ、あれは僕なりのサプライズだったのにぃ…。」
ぷりぷりと怒ったように『道化師』が言う。
「馬鹿は無視して、本題を進めましょうか。」
そう言って、『思想家』は話を戻す。
「是、ちょっと今回の件で計画に支障が出てしまったしね。」
「まさか、こんな所で修正が必要になるとはねー。」
「当然だ、今回の計画で我々が扱っているのは人間だ。人間などという矛盾を抱えこんだ生物が軸とすれば予想の付かないアクシデントなぞ、いくらでも起こり得る。」
「本当にめんどくさいなぁー、んで、どうすんの?話だけ聞くには面白いけれど、これ、修正しようとすると相当めんどいよ。」
『鉄の処女』が机に伏して髪をいじりながら言う。
「僕、個人としてはこのまま進めてみるのも一興では無いかなとは思う。」
『道化師』が愉快そうにそう言った。
「それは何故だ?」
疑問を問いかけたのは『現実主義者』である。
それに喜々嬉々と道化師は答える。
「あいつは異端だ、これまで何人もの人間があれに挑戦してきたが、大抵は狂ってしまい、それを乗り越えてもその末にどちらかについた。でもね、あれだけの暴走を起こしてもまだあの機体はどちらにも傾いていないんだよ、これまでの例通りならば、傾いた時に機体に何らかの変化が起こる筈なのに、あの機体は暴走しただけで済んでいて、その中身は何も変わっていないんだ。これは凄い事だと思わないか?いくら適格者とは言え、そんな事は今まで一度も起こらなかったんだ。これの行く末を見てみるのも楽しそうじゃないか。」
『道化師』の行動原理はおそろしく単純だ。面白いか面白くないか、それだけに全てが注がれる。
面白い事の為にはありとあらゆる手を尽くし、そうでない場合は何の興味も示さない。
「私は不気味に思うよ。不確定因子は苦手でね、できればどちらかに転んでくれれば扱いやすかったのだが…。」
「まだ、どちらにも成っていないだけでこれからどちらかに傾くという可能性も否定は出来んな。」
「それを踏まえて、だよ、知らぬ事は幸福だ、知れる愉悦があるからね。僕らですら知らぬ事を知れるかもしれない数少ない機会だ、こんなに面白いイベントは無い、大事に生かしていこうじゃないか。それに彼のコントロール自体は簡単だ。あの行動原理は余りにもわかりやすいから、そこをちょいちょいと突いてやれば良い。」
「流石、その男がそうなる原因を作った張本人といった所か。」
『皮肉屋』が毒を吐く。
「おいおい、よしてくれよ、あの事態は僕にも想定外だったんだ、あんなに早く目覚めるなんて僕らの誰もが予想してなかっただろう?」
「とはいえ、UHが進行を開始したのは掴んでいた筈だ、もう少し被害を縮小する事も出来たろうに……そんなに人の死を見るのが好きか?」
「流石にそれは言い過ぎだと思うけれどなぁ。僕だって良心は痛むんだよ?死に何の感慨も持たないだけで…しかし、UHね、彼らに与えてやった正義の味方…上手く有効活用してくれるとありがたいんだけれど…。」
「わざわざ扱いやすい方をあげたわけだしねぇ、私たちの手元にあるのは見たモノ全部殺そうとする狂犬だけ、あれの調教はちゃんとやってるの?」
『鉄の処女』が『現実主義者』に聞く。
「ああ、既に自我は取り戻している。」
「へぇーすごいですわね、自我を取り戻せる可能性は2%以下じゃありませんでした?」
素直に関心するような感想を述べた『思想家』を見て、『現実主義者』は少し溜息を吐いた。
「というよりは元より自我は失っていなかったようだ、適合し、理解した上でああなっていると結論した。」
「それはなんというか…。」
「ああ、恐るべき事だよ、しかし、我々には歓迎すべき事だ。コミュニケーションはとれているのでもうひと押しといった所か…。」
「となると、やはり02は今は放置し、我々の狂犬の方を軸に計画を進めるのが得策といった所か…。」
「だね、賛成、僕としてもあれは放置しておきたい。」
「異議なし。」
「個人的には不確定因子を放置するのは余り、気が進まないのですが…。」
「それでいいっしょ。」
全員一致で結論が出る。
「しかし、イーグルの生存者の件はどうするよ、3名だっけ?」
『道化師』が言う、それに『現実主義者』は怪訝な顔をして言う。
「書類上は2名だ。1人は既にこちらと合流している。」
彼らの計画通りならば、現時点で鋼機部隊のメンバーは全員死亡しており、それを脚色し、自分たちの都合いの良いように電波に乗せて発表する予定だったのである。
だが、彼らが予想外の活躍を見せ、02が生存者を守った為に帰還者が出てしまった。
「狩石シャナでしたっけ?あなたがイーグルに送り込んだスパイの…。」
「そうだ。残っているのは秋常譲二とシャーリー・時峰の二名、しかし、シャーリー・時峰は精神的なダメージが大きかったようでな。また、戦線に立つのは難しいようだ。」
「それは残念、彼女になら『英雄』の役割を任せられると思いましたのに…。」
至極残念そうに『思想家』は呟いた。
「まったく、いつも僕らが欲しい人材は必要になると手に入らなくなるよね。」
「半分はお前が面白半分で食いつぶすからだろうが!」
その時だけ、『皮肉屋』が感情を露わにした。
「わわ、怖い、怖い。皮肉屋は皮肉ばっかり言っててよー、もう。それに3年前の事はもう水に流した筈でしょ、しーつーこーい。」
『皮肉屋』は抜き出しそうになった感情の刃を納める為にぐっと握りこぶしを握り込む。
「お前もあまりふざけるな、それでは逆撫でしているのと同義だ。」
『現実主義者』が『道化師』に釘を刺す。
それに対して『道化師』は、「はーい」と生返事を返す。反省の色等微塵も見られない。
「ところで、その『英雄』に関して、個人的に思う所があるんだけれど、いい?」
『鉄の処女』が提案を始め、周りはそれをするのを促し、沈黙した。
「沈黙はOKという事ね、シャーリー・時峰の方は勿体ない事になってしまったけれど、もう一人の生存者。秋常譲二だったかな?彼を『英雄』にしてみるのはどうかしら?」
ふん、と『皮肉屋』はその発言を笑った。
「命令も聞かず、勝手に突撃して撃墜された阿呆だぞ、そんな男が『英雄』など出来るものか。」
「あらぁ、聞けば、天狼に襲われる街を思っての出撃だったのでしょ、今のご時世には珍しい正統派熱血漢じゃない、腕も十分みたいだし、なれる素質は十分だとは思う。あとは精神的に未熟な点を逆に長所として私たちが宣伝広告してやれば一気に『英雄』になれるよ。自らの身と心を削って人の為に戦うモノ、うーん、大衆は自分たちに無償の奉仕をしてくれる信仰対象を願っている!それに何より顔立ちもいいしね。」
そう頬を赤く染めて、高説を垂れる『鉄の処女』に対して、
「一目惚れしましたわね。」
「また、一目惚れしたのか…。」
「飽きない奴だな。」
一同が同じ感想を返す。
「な、何よ!悪いの!?」
「いや、それにかかる宣伝費とか仕掛けにかかる金を全て第六機関が持ってくれるのならば、あたしは文句は言いませんわ、失敗しても損するのはあなただけですし。」
「異議なし。」
「好きにすれば良い。」
『道化師』は微笑んでその光景を見つめている。
「な、何よ、あなた達、馬鹿にして!いいよ、やってやる、やってやろうじゃない!!」
「恋する処女は可愛いなぁ。」
『道化師』がおちょくり、『鉄の処女』の声は泣き声に変わる。
「ぐすっ、いつかあんたら絶対に呪ってやるんだからぁ…。」
その光景を見て、『現実主義者』は溜息をいた後、
「では、『英雄』の件は『鉄の処女』に一任するが異論は無いな?」
「異議なし。」
「おっけー。」
「見ものですわね。」
再び一致する。
「ふむ、これで論議しなければならない事は大体終わったかな。」
「ええ、久しぶりに有意義な時間でしたわ。」
「…ふん。」
「良い暇つぶしになったよ。」
「まずは1stアタックの方法から考えないと…これまでの失敗を糧にして―――痛っ。」
『鉄の処女』改め『恋する処女』は脳天に落とされた手刀の痛みに涙ぐみながら頬を膨らませ、それを与えた『現実主義者』を睨むように見つめる。
「頼むから、自分の世界に入り浸るのは一人の時にしてくれ。」
『皮肉屋』を除く2名から失笑が起こる。
「さて、そろそろこの集会を閉めようと思うが、他に何か話がある奴はいるかね?」
数刻ほどの沈黙。
「ふむ、予定より少し早いが、これにて解散としようか、だが、忘れるな、我らの行動の全ては計画の成就の為に行っているのだと…。」
「全ては愛の為に!」
「全ては怒りの為に!」
「全ては快楽の為に!」
「全ては真実の為に!」
裏のメンバーが己の理念をあげて、誓いを謳う。
それぞれ目的は違えども、その目的を叶える為に求めるものは同じモノ達だ。
それが『裏』という組織であった。
「よろしい、CR計画、第二段階に移ろうではないか諸君。」
To be continued
予告
ただ、ただ、辛い一日だった。
女が俺の前で自身の頭にナイフを突き立て、笑顔で俺を抱く日。
そこまでして悪夢は俺を追ってくる。
許してはくれない、逃がしてはくれない。
だから俺は再び戦わなければならなかった。
女が俺の前で自身の頭にナイフを突き立て、笑顔で俺を抱く日。
そこまでして悪夢は俺を追ってくる。
許してはくれない、逃がしてはくれない。
だから俺は再び戦わなければならなかった。
CR第二章「悪夢」
忘れられるものなど、悪夢では無い。
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