イーグル所属の車の中、それを運転するものを除き、そこには3人の人がいた。一人はイーグルの総司令である秋常貞夫、もう一人はイーグルにおける副官である琴峰雫、そして第六機関からとある事の調査にやってきたナノマシン開発の権威、レイン・フォード博士。
彼らは今、鋼機格納庫からイーグル本部に向けて移動している最中である。
彼らは今、鋼機格納庫からイーグル本部に向けて移動している最中である。
「しかし、何か酷い夢を見ていた気分です、オーガと頭から血を流したゴーストが自分の目の前で取っ組み合いを始めるなんて、あんなとんでもない夢は初めて見ました。しかし、夢にしては、やたら現実味があったようなぁ。」
三途の川を渡りかけたフォード博士は現実世界への帰還と共に、ほんの数分前まであった修羅場を忘れていた。
おそらくは人間が持つとされる自己防衛の機能が働き、その記憶を曖昧なものへと変換し、夢だと思いこむに至ったのだろう。
「いえ、それは夢です。」
「ええ、それは夢です。」
貞夫も雫も、先ほどの件を覚えていられると、イーグルの体面的にも問題があると判断し、そのまま夢であると押し通す事を決めていた。
「それにしてもいきなり倒れるなんて、なんか色々申し訳ない。僕も疲れているみたいですね、最近徹夜続きで研究だったせいでしょうか…。」
「大変ですねぇ、第六機関も、セレーネ代表も毎日、相当ハードなスケジュールで動いておられるとか…。」
「確かに大変ですが、やっと立て直せた第六機関です、このまましっかりと軌道に乗るまでは安心できません。」
フォード博士のその言葉には強い熱意が感じ取れた。
「ですが、今、世界に出て来てる鋼獣をどうにかしなければ、第六機関を復興させるなんて夢のまた夢なのが辛いところです。」
車の窓から外に広がる光景を見て、フォード博士はため息をついた。
「そうでしょうね、それに関しては第六機関も含む世界全体の問題です、なんとしても解決の糸口を見つけなければと思います。それでフォード博士、かねてからご要望のあった天狼の残骸を調べられて何か発見はあったのですか?」
第六機関の研究者であるレイン・フォードが何故このイーグルにいるかというと、それは第七機関の能力では原因を解明できない問題が一つあったからだ。
その問題の謎を解明するために第六機関からナノマシン研究の権威であるフォード博士を招きいれたのだが、招き入れる際にフォード博士は一つの条件をイーグルに提示してきた。
その条件こそが先の戦いで手に入れた天狼の残骸を調査させて欲しいといったものだった。
故に、秋常貞夫は天狼が格納されている、鋼機格納庫までフォード博士を同伴していったのである。
イーグルは先の戦いで天狼の翼の一部の残骸を入手していた、これは鋼獣の一部を始めて入手したという事であり、これを解析する事で鋼獣に対するなんらかの対策を立てるのに役立てると、最初はいきりたったものだった。
まさに城塞とでもいうべき防御力が大きな特徴であった鋼獣である。その胴体の一部でも手に入れば、それを解析する事で、それへの対策を練られるのではないかと考えたのだ。
だが、その望みは大きく裏切られることになった。
そもそも内部の作りが鋼機に使われているそれとはまったく別の未知の技術でありほとんどがブラックボックス化していて解析するにも1月や2月ではまったく時間が足りないという点が一つ。
これ自体は想定されていなかったわけではないが、一刻も早く敵の正体を突き止めたい彼らにとっては悪い報となった。
そしてもう一つ、鋼獣の装甲である、装甲の材質自体は特定できたのだが、それがあまりにおかしいのだ。
特定された合金ではとてもでは無いが、鋼機戦用グレネードどころか、鋼機が持つ大型アサルトライフルの銃弾を無傷で耐える等という事は出来ない。
ならば、何故あれほどの防御力があるのだろうか?
鋼獣の謎を解明するに足る端末だと思われたそれは、逆に謎を深めるだけの結果となってしまった。
そこで、そのような申し入れがあった際に、第七機関は調査した事で得たことを全て開示する事、条件に天狼の調査を認め、今、ここにフォード博士がいるというわけである。
「しかし、お一人で来られたのが以外でした、もっと他の研究者もお連れになるものだと思っていたので…。」
雫はフォード博士がイーグル本部に訪れてからずっと疑問に思っていたのを口にした。
これまた、おかしな話なのであるが、フォード博士はイーグル本部に来た際、一緒に来ていた第六機関の人間はたったの二人で、一人は、長髪を後ろで束ね、サングラスをしたスーツの男、
もう一人は、流れるような銀髪が象徴的なかの有名な鋼機乗りグレイヴ・スクワーマーであった事だ。
その時、雫はサングラスの男も研究者だと考え、グレイヴ・スクワーマーはその護衛であると見ていたのだが、サングラスの男は貞夫に書類を渡し、貞夫はそれを見た後、少し悩ましい顔をし、人を呼び地下の特別療養室へと案内をさせたのである。
地下の特別療養室には貞夫の一人息子である、秋常譲二がいる。
この事は周知の事実であったが、一体、彼らは彼に何のようで会いにいったのだろうか?
雫は貞夫にその件について問いただしたが、「話せない」と一点張りで会話切られてしまった。
そして、スーツ姿の男にグレイヴ・スクワーマーも付いて行ってしまい、レイン・フォード博士と鋼機格納庫に向かったのはフォード博士とそれに同伴した貞夫と雫のみであった。
そこで雫は思うのだ、理由に関しては皆目見当がつかないが彼らの本来の目的は鋼獣では無く、秋常譲二の方なのでは無いかと…。
「ああ、それは、一つとしてはまあ、一人で十分だからという事ですね、僕はどうも調べ物を集団でやるのが苦手で、それに今回の調査は非常に簡単なテストでしたし…。」
「それで、なんらかの結果は得られたのですか?」
貞夫は興味深そうにフォード博士に尋ねる。
「ええ、それはもう、ある意味、鋼獣に関しては大発見レベルの代物なんじゃないかな!」
フォード博士は新しい発見をして、それに興奮を禁じえない無邪気な子供のような笑顔でそう答えた。
「ほう、それは面白そうですね、ここから本部に付くまで10分ほどあります、良ければ簡単にお聞かせ願えないでしょうか?」
「ええ、いいですよ。」
フォード博士は手持ちの革のバッグを開き一つの電子端末を取り出した。
ほんの1分ほどその端末を操作した後、車内に設置された、モニターに端末の先を向けて、エンターキーを押した。
「今、ビデオファイルを2つ程、転送中です、一つ目は第六機関がかつて戦った鋼獣、ウィングシャーク、こちらの言葉に合わせると『羽鮫(はざめ)』との戦闘記録の映像です、あ、映りましたね。」
モニターに光が入り、一つの光景を映し出す。それは第六機関領土内の海における第六機関所属の戦艦と鋼獣との戦闘記録だった。
羽鮫は名が体を表すように、鮫のようなシルエットの背に大きな二枚翼がある事が印象的な鋼獣であった。
「まあ、そちらの方にも既に話としては知られていると思いますが、2ヶ月前に我が第六機関が誇る海軍が1体の鋼獣に10隻の戦艦を沈没させされるという大敗を記録した映像です。」
モニターには羽鮫が水中から空中へ、空中から水中へとありとあらゆる場所を泳ぎ海軍を翻弄する姿が映し出されている。
海軍の戦艦は雨のように弾丸と魚雷を羽鮫に向けて発射するがそれをいとも容易く回避し、その攻撃全くダメージの内容に動き回り、海軍の戦艦をその牙で沈めてゆく。
「何度見ても思いますが、この鋼獣というのはデタラメもいい所ですね、我々科学者がまともにモノ考えてるのがアホらしくなりますよ。」
「まったくです。ですが、これの何が今回の調査に関係あるのですか?」
雫がフォード博士に、同意と共に疑問を投げかけた。
それに、フォード博士は真剣な顔つきで、
「まあ、もう少し待って、ください…えーと、あ、そうここです、ここからが重要です。」
一隻の戦艦が羽鮫に向けて特攻を始める。特攻を始めた戦艦は既に羽鮫から多大なダメージを受け、戦闘能力をほとんど失っていた。
おそらくはこのまま戦えば沈没を免れない所で一隻が羽鮫に対して最後の博打に出たのだろう。
「いわゆるカミカゼですね、目的は仲間の退路を作る為の足止めだったらしいですが、船に残った艦長レイ・マグツァート大佐と彼についていった勇士達が特攻をしかけました。」
クルー達は大破し、沈むのも時間の問題の船を巧みに操り、特攻し、見事に羽鮫に直撃させる。
「止めます、ここを注目してください。」
モニターに映し出された戦場光景の動画が一時停止された。そこには沈み行く戦艦と、その戦艦を発生源とする煙が充満している。
その煙の中に薄らと羽鮫の姿が見える。
「よく、見てください、煙で明確には見えませんが羽鮫に何か違和感を覚えませんか?」
そうフォード博士に言われ、雫と貞夫は羽鮫を注視する。
煙故に鮮明に見えるわけではないが、確かに動画の中にある羽鮫には何か違和感があるのだ。
先ほどまで、映像で圧倒的力を見せていた羽鮫とは何かが違う。
何が違うのだろうかと先まで、その目に映っていた羽鮫の記憶と照らし合わせた。
貞夫は納得したように頷いた後、
「頭部が、潰れているのかな?」
とたどり着いた違和感の答えをフォード博士に告げる。
そう言われて雫も納得がいったように煙の中にいる羽鮫を見る。
確かに先ほどまで映像に映っていた羽鮫と比べて、頭部の部分の尺が短くなっているのだ。
おそらくは特攻した戦艦により頭部が陥没したのだろうと雫は結論した。
「ええ、そうです、ここで羽鮫は水中に潜り、2分ほど沈黙します、我々はついに勝利したのだと考えました。ですが、ご存知の通りそうでは無かった。」
そう言って、フォード博士は停止していた映像を再び端末を操作して動かした。
そこから先の展開は有名な話だった。
再び羽鮫は水中から現れる、何事も無かったように無傷の姿で…そして、羽鮫は艦隊に壊滅的な打撃を与えていった。
「我々が着目した問題点はおわかり頂けたでしょうか?」
フォード博士の問いに少し考えた後に雫は答えた。
「確かに特攻した戦艦から受けたダメージで頭部が陥没していたのに、再度現れた時には、何故か無傷であったという事でしょうか?」
「ええ、そうです。」
「ですが、そうなると、鋼獣は自身の受けたダメージを何らかの方法で自己で回復したという事になりますね。」
「その通りです。」
そうして、雫の考えに頷くようにフォード博士は答えた。
「鋼獣といえば、まず注目されるのは驚異的とも言える防御力でした、鋼機が形態するような大型アサルトライフルでもまったくダメージが与えられず、ミサイル攻撃からも無傷で帰ってくる。
我々は一体どのような装甲を用いてあの機体を守っているのか?という考えに囚われる事になりました。ですが、もし、その前提が間違っていたとしたら?と我々はこの記録から考え得たのです。
言うなれば、鋼獣は防御能力が高いのでは無く、再生能力が高いのでは無いかと…ダメージを受けていないのではなく、ダメージを受けた個所を即座に修繕しているのでは無いかと?」
雫は息を呑んだ。
「しかし、そんな技術はありえない。」
「ええ、そうです我々の今の技術力では世界政府のありとあらゆる機関の力を集めたところで自己再生能力を持つ機械などと言ったものは我々の文明では開発出来もしないでしょう。
ですが、あり得ない防御力を持つ敵という正体を考えると、この考えが一番腑に落ちるのではないかと、我々の機関の人間は考えました。
そこから我々は未知の技術があるという前提で、可能性としてはどのような手段を用いればこの再生が可能になるかという研究を行ったのです。
所詮、現実味の無い推論の一つに過ぎない為、当初は大した研究予算も無かったのですが、代表がその研究に目を付け、自身のポケットマネーから資金を捻出する事になりました。
そしてその際に、僕にも声がかけられました。推論で一つ強い根強い説がありまして、その是非を問うのに僕の力が必要になったわけです。」
「ですが、貴方の専攻は―――――まさか…。」
疑問を問いかけようとした貞夫は何かに気づいたように押し黙った。
「お気づきになりましたか?そうです、僕の専門はナノマシンです。つまりは――」
「もし、その推論が正しかったとすると鋼獣の再生能力はナノマシンによるものだというのですか?」
雫が驚きに声を露わにする。
「まあ、そんな所です、ちょっと待ってくださいね。」
フォード博士は端末を操作し、モニターに映る映像を切り替えた。
モニターには先ほどと同じく海が移される。
三途の川を渡りかけたフォード博士は現実世界への帰還と共に、ほんの数分前まであった修羅場を忘れていた。
おそらくは人間が持つとされる自己防衛の機能が働き、その記憶を曖昧なものへと変換し、夢だと思いこむに至ったのだろう。
「いえ、それは夢です。」
「ええ、それは夢です。」
貞夫も雫も、先ほどの件を覚えていられると、イーグルの体面的にも問題があると判断し、そのまま夢であると押し通す事を決めていた。
「それにしてもいきなり倒れるなんて、なんか色々申し訳ない。僕も疲れているみたいですね、最近徹夜続きで研究だったせいでしょうか…。」
「大変ですねぇ、第六機関も、セレーネ代表も毎日、相当ハードなスケジュールで動いておられるとか…。」
「確かに大変ですが、やっと立て直せた第六機関です、このまましっかりと軌道に乗るまでは安心できません。」
フォード博士のその言葉には強い熱意が感じ取れた。
「ですが、今、世界に出て来てる鋼獣をどうにかしなければ、第六機関を復興させるなんて夢のまた夢なのが辛いところです。」
車の窓から外に広がる光景を見て、フォード博士はため息をついた。
「そうでしょうね、それに関しては第六機関も含む世界全体の問題です、なんとしても解決の糸口を見つけなければと思います。それでフォード博士、かねてからご要望のあった天狼の残骸を調べられて何か発見はあったのですか?」
第六機関の研究者であるレイン・フォードが何故このイーグルにいるかというと、それは第七機関の能力では原因を解明できない問題が一つあったからだ。
その問題の謎を解明するために第六機関からナノマシン研究の権威であるフォード博士を招きいれたのだが、招き入れる際にフォード博士は一つの条件をイーグルに提示してきた。
その条件こそが先の戦いで手に入れた天狼の残骸を調査させて欲しいといったものだった。
故に、秋常貞夫は天狼が格納されている、鋼機格納庫までフォード博士を同伴していったのである。
イーグルは先の戦いで天狼の翼の一部の残骸を入手していた、これは鋼獣の一部を始めて入手したという事であり、これを解析する事で鋼獣に対するなんらかの対策を立てるのに役立てると、最初はいきりたったものだった。
まさに城塞とでもいうべき防御力が大きな特徴であった鋼獣である。その胴体の一部でも手に入れば、それを解析する事で、それへの対策を練られるのではないかと考えたのだ。
だが、その望みは大きく裏切られることになった。
そもそも内部の作りが鋼機に使われているそれとはまったく別の未知の技術でありほとんどがブラックボックス化していて解析するにも1月や2月ではまったく時間が足りないという点が一つ。
これ自体は想定されていなかったわけではないが、一刻も早く敵の正体を突き止めたい彼らにとっては悪い報となった。
そしてもう一つ、鋼獣の装甲である、装甲の材質自体は特定できたのだが、それがあまりにおかしいのだ。
特定された合金ではとてもでは無いが、鋼機戦用グレネードどころか、鋼機が持つ大型アサルトライフルの銃弾を無傷で耐える等という事は出来ない。
ならば、何故あれほどの防御力があるのだろうか?
鋼獣の謎を解明するに足る端末だと思われたそれは、逆に謎を深めるだけの結果となってしまった。
そこで、そのような申し入れがあった際に、第七機関は調査した事で得たことを全て開示する事、条件に天狼の調査を認め、今、ここにフォード博士がいるというわけである。
「しかし、お一人で来られたのが以外でした、もっと他の研究者もお連れになるものだと思っていたので…。」
雫はフォード博士がイーグル本部に訪れてからずっと疑問に思っていたのを口にした。
これまた、おかしな話なのであるが、フォード博士はイーグル本部に来た際、一緒に来ていた第六機関の人間はたったの二人で、一人は、長髪を後ろで束ね、サングラスをしたスーツの男、
もう一人は、流れるような銀髪が象徴的なかの有名な鋼機乗りグレイヴ・スクワーマーであった事だ。
その時、雫はサングラスの男も研究者だと考え、グレイヴ・スクワーマーはその護衛であると見ていたのだが、サングラスの男は貞夫に書類を渡し、貞夫はそれを見た後、少し悩ましい顔をし、人を呼び地下の特別療養室へと案内をさせたのである。
地下の特別療養室には貞夫の一人息子である、秋常譲二がいる。
この事は周知の事実であったが、一体、彼らは彼に何のようで会いにいったのだろうか?
雫は貞夫にその件について問いただしたが、「話せない」と一点張りで会話切られてしまった。
そして、スーツ姿の男にグレイヴ・スクワーマーも付いて行ってしまい、レイン・フォード博士と鋼機格納庫に向かったのはフォード博士とそれに同伴した貞夫と雫のみであった。
そこで雫は思うのだ、理由に関しては皆目見当がつかないが彼らの本来の目的は鋼獣では無く、秋常譲二の方なのでは無いかと…。
「ああ、それは、一つとしてはまあ、一人で十分だからという事ですね、僕はどうも調べ物を集団でやるのが苦手で、それに今回の調査は非常に簡単なテストでしたし…。」
「それで、なんらかの結果は得られたのですか?」
貞夫は興味深そうにフォード博士に尋ねる。
「ええ、それはもう、ある意味、鋼獣に関しては大発見レベルの代物なんじゃないかな!」
フォード博士は新しい発見をして、それに興奮を禁じえない無邪気な子供のような笑顔でそう答えた。
「ほう、それは面白そうですね、ここから本部に付くまで10分ほどあります、良ければ簡単にお聞かせ願えないでしょうか?」
「ええ、いいですよ。」
フォード博士は手持ちの革のバッグを開き一つの電子端末を取り出した。
ほんの1分ほどその端末を操作した後、車内に設置された、モニターに端末の先を向けて、エンターキーを押した。
「今、ビデオファイルを2つ程、転送中です、一つ目は第六機関がかつて戦った鋼獣、ウィングシャーク、こちらの言葉に合わせると『羽鮫(はざめ)』との戦闘記録の映像です、あ、映りましたね。」
モニターに光が入り、一つの光景を映し出す。それは第六機関領土内の海における第六機関所属の戦艦と鋼獣との戦闘記録だった。
羽鮫は名が体を表すように、鮫のようなシルエットの背に大きな二枚翼がある事が印象的な鋼獣であった。
「まあ、そちらの方にも既に話としては知られていると思いますが、2ヶ月前に我が第六機関が誇る海軍が1体の鋼獣に10隻の戦艦を沈没させされるという大敗を記録した映像です。」
モニターには羽鮫が水中から空中へ、空中から水中へとありとあらゆる場所を泳ぎ海軍を翻弄する姿が映し出されている。
海軍の戦艦は雨のように弾丸と魚雷を羽鮫に向けて発射するがそれをいとも容易く回避し、その攻撃全くダメージの内容に動き回り、海軍の戦艦をその牙で沈めてゆく。
「何度見ても思いますが、この鋼獣というのはデタラメもいい所ですね、我々科学者がまともにモノ考えてるのがアホらしくなりますよ。」
「まったくです。ですが、これの何が今回の調査に関係あるのですか?」
雫がフォード博士に、同意と共に疑問を投げかけた。
それに、フォード博士は真剣な顔つきで、
「まあ、もう少し待って、ください…えーと、あ、そうここです、ここからが重要です。」
一隻の戦艦が羽鮫に向けて特攻を始める。特攻を始めた戦艦は既に羽鮫から多大なダメージを受け、戦闘能力をほとんど失っていた。
おそらくはこのまま戦えば沈没を免れない所で一隻が羽鮫に対して最後の博打に出たのだろう。
「いわゆるカミカゼですね、目的は仲間の退路を作る為の足止めだったらしいですが、船に残った艦長レイ・マグツァート大佐と彼についていった勇士達が特攻をしかけました。」
クルー達は大破し、沈むのも時間の問題の船を巧みに操り、特攻し、見事に羽鮫に直撃させる。
「止めます、ここを注目してください。」
モニターに映し出された戦場光景の動画が一時停止された。そこには沈み行く戦艦と、その戦艦を発生源とする煙が充満している。
その煙の中に薄らと羽鮫の姿が見える。
「よく、見てください、煙で明確には見えませんが羽鮫に何か違和感を覚えませんか?」
そうフォード博士に言われ、雫と貞夫は羽鮫を注視する。
煙故に鮮明に見えるわけではないが、確かに動画の中にある羽鮫には何か違和感があるのだ。
先ほどまで、映像で圧倒的力を見せていた羽鮫とは何かが違う。
何が違うのだろうかと先まで、その目に映っていた羽鮫の記憶と照らし合わせた。
貞夫は納得したように頷いた後、
「頭部が、潰れているのかな?」
とたどり着いた違和感の答えをフォード博士に告げる。
そう言われて雫も納得がいったように煙の中にいる羽鮫を見る。
確かに先ほどまで映像に映っていた羽鮫と比べて、頭部の部分の尺が短くなっているのだ。
おそらくは特攻した戦艦により頭部が陥没したのだろうと雫は結論した。
「ええ、そうです、ここで羽鮫は水中に潜り、2分ほど沈黙します、我々はついに勝利したのだと考えました。ですが、ご存知の通りそうでは無かった。」
そう言って、フォード博士は停止していた映像を再び端末を操作して動かした。
そこから先の展開は有名な話だった。
再び羽鮫は水中から現れる、何事も無かったように無傷の姿で…そして、羽鮫は艦隊に壊滅的な打撃を与えていった。
「我々が着目した問題点はおわかり頂けたでしょうか?」
フォード博士の問いに少し考えた後に雫は答えた。
「確かに特攻した戦艦から受けたダメージで頭部が陥没していたのに、再度現れた時には、何故か無傷であったという事でしょうか?」
「ええ、そうです。」
「ですが、そうなると、鋼獣は自身の受けたダメージを何らかの方法で自己で回復したという事になりますね。」
「その通りです。」
そうして、雫の考えに頷くようにフォード博士は答えた。
「鋼獣といえば、まず注目されるのは驚異的とも言える防御力でした、鋼機が形態するような大型アサルトライフルでもまったくダメージが与えられず、ミサイル攻撃からも無傷で帰ってくる。
我々は一体どのような装甲を用いてあの機体を守っているのか?という考えに囚われる事になりました。ですが、もし、その前提が間違っていたとしたら?と我々はこの記録から考え得たのです。
言うなれば、鋼獣は防御能力が高いのでは無く、再生能力が高いのでは無いかと…ダメージを受けていないのではなく、ダメージを受けた個所を即座に修繕しているのでは無いかと?」
雫は息を呑んだ。
「しかし、そんな技術はありえない。」
「ええ、そうです我々の今の技術力では世界政府のありとあらゆる機関の力を集めたところで自己再生能力を持つ機械などと言ったものは我々の文明では開発出来もしないでしょう。
ですが、あり得ない防御力を持つ敵という正体を考えると、この考えが一番腑に落ちるのではないかと、我々の機関の人間は考えました。
そこから我々は未知の技術があるという前提で、可能性としてはどのような手段を用いればこの再生が可能になるかという研究を行ったのです。
所詮、現実味の無い推論の一つに過ぎない為、当初は大した研究予算も無かったのですが、代表がその研究に目を付け、自身のポケットマネーから資金を捻出する事になりました。
そしてその際に、僕にも声がかけられました。推論で一つ強い根強い説がありまして、その是非を問うのに僕の力が必要になったわけです。」
「ですが、貴方の専攻は―――――まさか…。」
疑問を問いかけようとした貞夫は何かに気づいたように押し黙った。
「お気づきになりましたか?そうです、僕の専門はナノマシンです。つまりは――」
「もし、その推論が正しかったとすると鋼獣の再生能力はナノマシンによるものだというのですか?」
雫が驚きに声を露わにする。
「まあ、そんな所です、ちょっと待ってくださいね。」
フォード博士は端末を操作し、モニターに映る映像を切り替えた。
モニターには先ほどと同じく海が移される。
ただ、違うのはそこにはもはや羽鮫はおらず、一隻の平たい船が、海に向けてワイヤーを垂らしている事だ。
サルベージ。
その光景はその言葉を思い出させるに至るものだった。恐らくはサルベージの対象となっているのは――――
「これはまだ、発表していない映像ですので、ある意味、他の機関の方には初めて見せる代物になります。時間にして羽鮫との敗北から二日後ですね、
羽鮫に沈没させられた船をサルベージする事によって鋼獣のなんらかの痕跡を探そうとしていたわけです。そこで我々は予想だにしないモノを見ました。」
ワイヤーで沈没した戦艦が引き上げられていく、海は海面に泡がたち深い青は徐々に別の色を海面に露わにしていく、そうして引き上げられる戦艦の残骸が映像に――――
「えっ…。」
思わず声をあげたのは雫だった、それは確かに残骸であった、残骸であったのだが…そもそもこれは何の残骸だったのだろうか?
そこにはそこらかしこが欠けている、否、齧り潰されていると表現するべき戦艦の姿があった。
それはあまりに異質な姿であると言えるだろう、そもそも沈没する際、艦橋まで破壊されるような状態にはなっていなかった筈だ。
それも水圧に潰されたのでは無く、噛みちぎられたように無くなっている。
つまりは羽鮫は沈没後、海中で、戦艦を再び喰らったという事になる。
沈没の時点で勝敗は決したというのにその上でさらなる追い打ちをかけ、完膚無きまでに破壊する。
異常なまでのオーバーキル。
確かに過去に鋼獣との戦闘においてこのような事を鋼獣がした事は決してないとは言えない、むしろそのような事例は多数報告されている。
先の、ブラックファントム捕獲作戦で戦闘した狗を模した鋼獣も鋼機を破壊した後でさらに食すという謎の行動を取っていた。
獣と名を称してはいるものの鋼獣も所詮は機械である。とするならば、それは余りに意味の無い行動では無いだろうかという疑問はある。
だが、所詮は意味不明の敵と獣を模したその型作りから直感的にそのあり方が生物として正しいようにも感じられ深く研究された事は無かった。
その為、単に悲惨残虐で終わられていた事実だが、あえてこれを見せるという事はそれはそれだけで終わらないという意味を持つという事だ。
もしこの行動に意味があったとするならば、それはどういう意味を持つのか?
その答えをフォード博士は興奮交じりに答える。
「我々は、先の戦いで沈黙した2分の間に羽鮫はこれを行ったと考えています。つまりは――羽鮫は沈没した我が機関の戦艦を体内に取り込んでそれを素材に自身の体を再構成したのでは無いかと考えたわけです。」
「ですが、そんな事どうやって、そもそも彼らの体を彩るそれとは材質も違いますし…。」
純粋な疑問を雫は投げかけた。
「そこで、私の専門であるナノマシンが登場するわけです、つまりはナノマシンを用いて素材を体内で分解し、自身の体に合うように選別し再練成する。そのような事が鋼獣の中で行われているのではないか?と考えたわけです。」
貞夫が頷く。
「それで、調査を願いだしたというわけか、それで、フォード博士、何らかの結果は得られたのですか?」
「ええ、まあ、細かいところまでは、研究所まで、あの欠片を回してもらわないとならないのですが、今回は簡単なチェックだけさせてもらいました。ナノカメラを用いて、軽い耐衝撃実験を行わせてもらいましたが、その際に得られた映像がこれです。」
モニターにナノ単位で拡大された、天狼の装甲が映される。
突如、波のようなものが見え、一カ所に本当に小さな隙間が空いた。
フォード博士が装甲に衝撃を与えたのだろう。
そして、小さな隙間に向けて隙間の空いてない部分から何か、小さな何かが湧き出て、その隙間を埋めていく…。
「これは…まさか、装甲全てがナノマシンだとでもいうのかね!!」
「ええ、僕もこれほどのものだとは思っていませんでした、もはやこれは装甲というよりは装甲のようなものにナノマシンが擬態していると称する方が正しいのかもしれませんね。」
フォード博士がそう告げたのと同時に車が停止する。
それは彼らの乗る車両がイーグル本部に到着した事を意味した。
三人は車を降り、イーグル本部のビルの中に入っていく…。
サルベージ。
その光景はその言葉を思い出させるに至るものだった。恐らくはサルベージの対象となっているのは――――
「これはまだ、発表していない映像ですので、ある意味、他の機関の方には初めて見せる代物になります。時間にして羽鮫との敗北から二日後ですね、
羽鮫に沈没させられた船をサルベージする事によって鋼獣のなんらかの痕跡を探そうとしていたわけです。そこで我々は予想だにしないモノを見ました。」
ワイヤーで沈没した戦艦が引き上げられていく、海は海面に泡がたち深い青は徐々に別の色を海面に露わにしていく、そうして引き上げられる戦艦の残骸が映像に――――
「えっ…。」
思わず声をあげたのは雫だった、それは確かに残骸であった、残骸であったのだが…そもそもこれは何の残骸だったのだろうか?
そこにはそこらかしこが欠けている、否、齧り潰されていると表現するべき戦艦の姿があった。
それはあまりに異質な姿であると言えるだろう、そもそも沈没する際、艦橋まで破壊されるような状態にはなっていなかった筈だ。
それも水圧に潰されたのでは無く、噛みちぎられたように無くなっている。
つまりは羽鮫は沈没後、海中で、戦艦を再び喰らったという事になる。
沈没の時点で勝敗は決したというのにその上でさらなる追い打ちをかけ、完膚無きまでに破壊する。
異常なまでのオーバーキル。
確かに過去に鋼獣との戦闘においてこのような事を鋼獣がした事は決してないとは言えない、むしろそのような事例は多数報告されている。
先の、ブラックファントム捕獲作戦で戦闘した狗を模した鋼獣も鋼機を破壊した後でさらに食すという謎の行動を取っていた。
獣と名を称してはいるものの鋼獣も所詮は機械である。とするならば、それは余りに意味の無い行動では無いだろうかという疑問はある。
だが、所詮は意味不明の敵と獣を模したその型作りから直感的にそのあり方が生物として正しいようにも感じられ深く研究された事は無かった。
その為、単に悲惨残虐で終わられていた事実だが、あえてこれを見せるという事はそれはそれだけで終わらないという意味を持つという事だ。
もしこの行動に意味があったとするならば、それはどういう意味を持つのか?
その答えをフォード博士は興奮交じりに答える。
「我々は、先の戦いで沈黙した2分の間に羽鮫はこれを行ったと考えています。つまりは――羽鮫は沈没した我が機関の戦艦を体内に取り込んでそれを素材に自身の体を再構成したのでは無いかと考えたわけです。」
「ですが、そんな事どうやって、そもそも彼らの体を彩るそれとは材質も違いますし…。」
純粋な疑問を雫は投げかけた。
「そこで、私の専門であるナノマシンが登場するわけです、つまりはナノマシンを用いて素材を体内で分解し、自身の体に合うように選別し再練成する。そのような事が鋼獣の中で行われているのではないか?と考えたわけです。」
貞夫が頷く。
「それで、調査を願いだしたというわけか、それで、フォード博士、何らかの結果は得られたのですか?」
「ええ、まあ、細かいところまでは、研究所まで、あの欠片を回してもらわないとならないのですが、今回は簡単なチェックだけさせてもらいました。ナノカメラを用いて、軽い耐衝撃実験を行わせてもらいましたが、その際に得られた映像がこれです。」
モニターにナノ単位で拡大された、天狼の装甲が映される。
突如、波のようなものが見え、一カ所に本当に小さな隙間が空いた。
フォード博士が装甲に衝撃を与えたのだろう。
そして、小さな隙間に向けて隙間の空いてない部分から何か、小さな何かが湧き出て、その隙間を埋めていく…。
「これは…まさか、装甲全てがナノマシンだとでもいうのかね!!」
「ええ、僕もこれほどのものだとは思っていませんでした、もはやこれは装甲というよりは装甲のようなものにナノマシンが擬態していると称する方が正しいのかもしれませんね。」
フォード博士がそう告げたのと同時に車が停止する。
それは彼らの乗る車両がイーグル本部に到着した事を意味した。
三人は車を降り、イーグル本部のビルの中に入っていく…。
そんな中で、雫が貞夫に小声で呟いた。
「簡単に説明願えますかといったのに、やたら回りくどかったのは気のせいでしょうか?――要約すると鋼獣の装甲はナノマシンで出来てて、銃弾などの攻撃をそのナノマシンで分解して、自身に取りこんでると言う事ですよね?」
貞夫はそういう雫に苦笑して、
「学者なんてもんは皆あんなもんだ、きっと本当は理屈原理から全てを話したくて仕方ない人種なのだから、あれでも簡単に説明したつもりなんだろうよ。」
「はぁー、そういうものですかねぇー。」
そう納得がいかないように雫は小声で呟く。
その時、雫の持っているカバンの中から携帯電話のバイブレーションが鳴った。
雫は、貞夫とフォード博士に一言謝り、そこから離れ電話に出る。
「いぇ~い、雫、元気~?貞夫の馬鹿坊主の面倒はちゃんと見れてるかい?」
携帯電話のスピーカーから雫の鼓膜に響いたのは雫も良く知る女性の声だった。
「簡単に説明願えますかといったのに、やたら回りくどかったのは気のせいでしょうか?――要約すると鋼獣の装甲はナノマシンで出来てて、銃弾などの攻撃をそのナノマシンで分解して、自身に取りこんでると言う事ですよね?」
貞夫はそういう雫に苦笑して、
「学者なんてもんは皆あんなもんだ、きっと本当は理屈原理から全てを話したくて仕方ない人種なのだから、あれでも簡単に説明したつもりなんだろうよ。」
「はぁー、そういうものですかねぇー。」
そう納得がいかないように雫は小声で呟く。
その時、雫の持っているカバンの中から携帯電話のバイブレーションが鳴った。
雫は、貞夫とフォード博士に一言謝り、そこから離れ電話に出る。
「いぇ~い、雫、元気~?貞夫の馬鹿坊主の面倒はちゃんと見れてるかい?」
携帯電話のスピーカーから雫の鼓膜に響いたのは雫も良く知る女性の声だった。
「で、どうだった?セレーネ。」
イーグル本部、地下2階にある特別治療室から用事を済ませ出てきた第六機関代表セレーネ・リア・ファルシルに対して語りかける影があった。
辺りには人気は無く、閉鎖された空間に、清潔な電灯の光が灯っている。
「さあ、ね、こちらの言い分はすべて彼に聞かせたし、後は彼が決断するだけかな。でも、アレは来ると思うよ。」
セレーネはその影と目も合わせず背中越しに語る。
「へぇー、それは、どうしてまた?」
「正義感が異常に強い人間なんだろうなと最初は思ってたんだけれど、彼はどうも違うみたいだ。あれはむしろ正義感という病気を抱えた人間だというべきなのかもしれないね。
くす、私たちにとってはそれはこれ以上ない逸材だけれど、もしかしたら私たちの首を絞める可能性もあるかもしれない、凄く可愛いよ、それにそう考えるとあなた好みの人間かも知れないかもね。」
「いや、顔が嫌いなタイプの時点で受け付けない、しかし、君にしてはえらく高評価だね、それを『見』たのか?」
そうして問う影の声を聞いて、セレーネは心底可笑しそうに腹を抱えて笑った。
「い、いや、あんたが『見』た先を聞くなんて珍しくて、つい、ごめんね。」
「これはこれでオツなものさ、先を知っていてその予想を裏切られる。これもまた人生の数少ない楽しみだよ。」
セレーネは笑い続け、息切れして辛そうに息を上げる。
「そ、れ、は、一体、何万分の一の確率だよ、この私が言ってるんだよ?君はアレなのかな、分の悪い賭けは嫌いじゃないとかそういう奴なのかなー?」
影は笑いを含む。
「まさか、僕は知らないことを知ることを楽しみたいだけだよ。ただ、予想していた答えと違うものを得られたら、それはより甘く感じられるだろう?」
「そういうのを悪待ち好きとか、言うの!!しかし、君も難儀な性格してるよね…。」
「性格というよりかは病気かな、この体質故の病気だね。でもお前のその酷く破綻し性格よりはマシだと思うよ…ああ、そうだフォード達も帰ってきたみたいだよ。そろそろ、その病気を始めようかな。」
「あんたの趣味にどうこう言うつもりは無いけれどね、私に迷惑をかけないでね、お願いだから…。」
セレーネは呆れたように告げる。
「君の趣味も結構ひどいと思うが、あんな男の何処がいいんだか…まあ、『鉄の処女』、僕はヘマはしないさ。それよりも今回の祭りは凄く楽しくなると思うから客席から存分に楽しんでくれ。」
「期待しないで見てるわ。」
そういって背後に手を振って、去っていくセレーネを見送った後、影は250m程下にいる愛しいモノを思う。
アレは影にとってこれ以上ない玩具だ。
存在自体がイレギュラーであり、不確定要素の集まりでしかない。
知らない事を知る事より素晴らしい愉悦は無い。故にこの愉悦を楽しむためだけに己は行動する。
これは影の行動理念であり、全てであった。
だから、その不確定要素だらけの未知なイレギュラーに興味をそそられ、もはや愛に等しい感情を抱いてすらいる。
「ああ、しかし、兄弟、君はいつまでそこでふてくされているのかなぁ…楽しみはこれからだよ。全てはまだ始まったばかりさ、さあ、二人でもっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっとこの物語を盛り上げていこうじゃないか…くふふ、ハハハ、ハーハッハッハ!!!」
そうして笑い声をあげたあと影もそこから消えた。
イーグル本部、地下2階にある特別治療室から用事を済ませ出てきた第六機関代表セレーネ・リア・ファルシルに対して語りかける影があった。
辺りには人気は無く、閉鎖された空間に、清潔な電灯の光が灯っている。
「さあ、ね、こちらの言い分はすべて彼に聞かせたし、後は彼が決断するだけかな。でも、アレは来ると思うよ。」
セレーネはその影と目も合わせず背中越しに語る。
「へぇー、それは、どうしてまた?」
「正義感が異常に強い人間なんだろうなと最初は思ってたんだけれど、彼はどうも違うみたいだ。あれはむしろ正義感という病気を抱えた人間だというべきなのかもしれないね。
くす、私たちにとってはそれはこれ以上ない逸材だけれど、もしかしたら私たちの首を絞める可能性もあるかもしれない、凄く可愛いよ、それにそう考えるとあなた好みの人間かも知れないかもね。」
「いや、顔が嫌いなタイプの時点で受け付けない、しかし、君にしてはえらく高評価だね、それを『見』たのか?」
そうして問う影の声を聞いて、セレーネは心底可笑しそうに腹を抱えて笑った。
「い、いや、あんたが『見』た先を聞くなんて珍しくて、つい、ごめんね。」
「これはこれでオツなものさ、先を知っていてその予想を裏切られる。これもまた人生の数少ない楽しみだよ。」
セレーネは笑い続け、息切れして辛そうに息を上げる。
「そ、れ、は、一体、何万分の一の確率だよ、この私が言ってるんだよ?君はアレなのかな、分の悪い賭けは嫌いじゃないとかそういう奴なのかなー?」
影は笑いを含む。
「まさか、僕は知らないことを知ることを楽しみたいだけだよ。ただ、予想していた答えと違うものを得られたら、それはより甘く感じられるだろう?」
「そういうのを悪待ち好きとか、言うの!!しかし、君も難儀な性格してるよね…。」
「性格というよりかは病気かな、この体質故の病気だね。でもお前のその酷く破綻し性格よりはマシだと思うよ…ああ、そうだフォード達も帰ってきたみたいだよ。そろそろ、その病気を始めようかな。」
「あんたの趣味にどうこう言うつもりは無いけれどね、私に迷惑をかけないでね、お願いだから…。」
セレーネは呆れたように告げる。
「君の趣味も結構ひどいと思うが、あんな男の何処がいいんだか…まあ、『鉄の処女』、僕はヘマはしないさ。それよりも今回の祭りは凄く楽しくなると思うから客席から存分に楽しんでくれ。」
「期待しないで見てるわ。」
そういって背後に手を振って、去っていくセレーネを見送った後、影は250m程下にいる愛しいモノを思う。
アレは影にとってこれ以上ない玩具だ。
存在自体がイレギュラーであり、不確定要素の集まりでしかない。
知らない事を知る事より素晴らしい愉悦は無い。故にこの愉悦を楽しむためだけに己は行動する。
これは影の行動理念であり、全てであった。
だから、その不確定要素だらけの未知なイレギュラーに興味をそそられ、もはや愛に等しい感情を抱いてすらいる。
「ああ、しかし、兄弟、君はいつまでそこでふてくされているのかなぁ…楽しみはこれからだよ。全てはまだ始まったばかりさ、さあ、二人でもっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっとこの物語を盛り上げていこうじゃないか…くふふ、ハハハ、ハーハッハッハ!!!」
そうして笑い声をあげたあと影もそこから消えた。
静寂な空間に電子音が響く。
その音は、言いようのない虚しさを感じさせる音だった。
そして、それは第七機関所属組織イーグル本部、そのビルの地下五階に直通エレベーターの到着を示す音だ。
エレベーターの扉は開かれ、地下五階の薄暗い廊下にエレベーター内の光が漏れて照らされる。
それに反応するように、廊下内の電灯がほのかな光を発し辺りを照らした。
「ここなわけですか、まるで無菌室を思わせる場所ですね。」
エレベーターから廊下に踏み出し、レイン・フォード博士は興味深そうに辺りを見渡した。
「イーグル本部が持っているある種の監獄ですからね。まあ、監獄と言っても今、ここの住人は一人だけですが…。」
追随するようにエレベーターから出てきた秋常貞夫はそう説明し、廊下の先にある扉に向かって歩く。
「しかし、光栄だと思うべきなのでしょうか、ここまで他機関のものが立ち入った事は無いことでしょうし…。」
貞夫はそれに不気味な笑みを含んで答える。
「そうでもないですよ、ここに入った方はいます。といっても博士のように訪問者では無く、虜囚としてですが…。」
フォード博士は背筋が凍るような寒気を感じ、貞夫から一歩、離れた。
今でこそ友好関係を築いているが、かつて第七機関と第六機関は険悪であった。
「ははは、冗談です、まあ、博士は気にしなくてもいいですよ、それに、今我々が会おうとしている虜囚に関してもここに置いているのは彼を捕えておくためというよりは彼の身の安全を守る為という方が正しいのですから。
地下300mにあるここに自由に立ち入ることが出来るのは私と先ほどまで、一緒にいた琴峰くん、それとあと一人だけですのでね。ある意味、警備の厳重さという意味では第七機関でここ以上の場所は無いでしょう。」
「そういえば、琴峰女史も一緒に来る筈だと聞いていたのですが、彼女はどこにいかれたのですか?」
そう貞夫を聞かれ恥ずかしそうに頭を掻く。
「いや、ちょっと困った連絡が入りましてね、問題児、いや、この場合は問題婆というべきなのか、そんな人間が急遽返ってくる事に成りまして…まあ、それへの対応に相応の人材が必要という事で向かわせたのです。
情けない話ですが、その問題婆は我が組織のトラブルもといトラウマメーカーでして…来る前にそれなりに気構えと対策をしておかないと、組織がまともに運用できなくなってしまうんですよ。」
「ああ、それはもしかして例の…。」
フォード博士も思い至ったように頷いた。
それはまあ、第七機関にこの人ありとでも言うべき有名人である。
実際、能力は年に見合わない程、突出しているのだが、味方殺しの異名を持つグレイヴ・スクワーマーとはまた別の意味で、奇人変人なのが玉に傷だった。
そして、彼女はこのイーグルの副司令でもある。
「噂はかねがね聞いています、第七機関の『鬼婆』、なんでもテスト中の鋼機を生身で相手してぶっ壊したとか、いやー流石に噂に尾ヒレが付けすぎだとウチの機関でもよく笑い話にはされてましたよ。」
フォード博士は快活に笑った。
「それが噂ですんだら、どれだけ良かったか…。」
貞夫はフォード博士に聞こえないようにため息混じりで小声で呟く。
「え、今、何か仰られました?」
「なんでもありませんよ、まあ、そんなわけで、琴峰くんにはそちらの対応に向かってもらいました。えーと、やはり先ほどあんな醜態を見せた私だけではやはり不安は隠せませんかね?」
貞夫は自嘲気味に笑う。
「いえいえ、総司令自ら案内をしてもらっている建前でそんな不安は抱きすらしませんよ。それに僕も暇があれば葉に火を付けて吸っている愛煙家ですので、あのような思考に捕らわれてしまうのも理解できます。」
そう胸を張って言うフォード博士に、貞夫は人は見かけによらないものだと内心で思う。
無垢さを思わせる童顔で煙草とはいかにも無縁そうな彼が、そんな趣味を持っているとはいささか意外だったのだ。
「いや、そう言って貰えるとありがたい話ではあります。」
そのような会話をしながら、二人は廊下にの先にある扉の前に辿り着いた。
貞夫はカードキーを取り出し扉の前にあるカードリーダーの読み込ませた後、目を扉の近くにあるレンズの前に当て網膜スキャンを行う。
その後タッチパネルでパスコードを入力した後、その後、扉の周囲に設置されたリーダーが貞夫の体内のナノマシンから送られる身体情報を読み取る。
「ここまで複雑にする必要あるんですかね?」
珍しいモノを見る目つきでフォード博士は聞いた。
「恥ずかしい話なのですが、当時セキュリティーに使えるものは全部突っ込んでおけみたいな事を面白半分で言う変人がいましてねぇ、挙句の果てその変人に誰も頭が上がらくて、それを強引に通してしまいました。
お陰でセキュリティー的にはこれ以上無いものになりましたが、お陰で面倒くさい事この上ないです。このめんどくささがセキュリティーの高さの証明ともいえるんですけれどね。」
「ああ、それも…。」
「ええ、それも彼女です、この組織の実質的な統率者は私というよりは彼女だと言ってもいいのかもしれませんね。ただ、そう考えると彼女は仕事をしてなさすぎるんですが…。」
「いや、心労が多そうですねぇ。」
「『いえ、そんな事は無いですよ』と言えない辺りが辛い所です。」
そうして、貞夫が苦笑いした時、認証を終わり扉が開いた。
「それじゃあ、博士、行きましょうか…この先に”彼”がいます。」
そうして貞夫が先行して歩を進める、
フォード博士はごくりと息を飲んだ。
この先に、いるのだ。ブラックファントムと呼称された正体不明に漆黒の鋼機に乗り、あの鋼獣を一方的に倒した男が…。
フォード博士は第七機関の人間ではないが、何度か、鋼獣を単機で圧倒する鋼機の記録映像を見た事はある。
そのどれもが奇々怪々としたもので、特に、あの漆黒の鋼機から発せられ、鋼獣を襲う紅い光は博士の理解の領域を遥かに超えたものだった。
そのような、機体を調査してみたいと思うのと同時に、一体どのような人物があの機体を動かしていたのか非常に興味があったのだ。
「先に、説明したとおりですが、彼とコミ二ケーションは取る事は出来ません、これに関してはご了承ください。」
“彼”がいる部屋の前に辿り着いた際に、扉のロックを外す手続きを行いながら貞夫はフォード博士にそう言う。
「ええ、了解しています。」
そう、了解の意を貞夫に返した。
これは別に”彼”とのコミュニケーションを取らせないという意味では無い事をフォード博士は先に受けた説明により承知している。
取らせないのではなく、取る事が出来ないのだ。
それが今、かのブラックファントムと呼ばれた機体を操ったと思われる”彼”が置かれている状況だ。
状況というよりは状態と例える方が正しいのかもしれない。
イーグルや第七機関が”彼”に何かしたわけではない。
正確にはしたのかもしれないが、それが意味を成さなかった故にフォード博士はここに呼ばれている。
つまりは、”彼”はイーグルに捕獲された、その日、その時から既にそのような状態であったという事だ。
あの狗のような鋼獣を殲滅した後、異形と化したブラックファントムのその凶刃をイーグルの鋼機部隊の隊長機に向けた所で停止した。
うんとも、すんとも言わなくなったその漆黒の機体を後続で駆け付けたイーグルの救援隊は捕獲し、連れ帰る事に成功する。
その後、彼らはコックピット強引にこじ開けた中から現れたのが”彼”であったという。
貞夫は扉を開く、辺り一面を白く塗られた壁と天井が目の前に広がる。
そこは10畳ほどの部屋で、様々な機器とともに一つの寝台があった。
そこに一人の白髪の青年が寝ている。
青年は寝ているが眠ってはいない。その眼は天井を力なく見つめていたのが印象的ではあったが、その瞳は何処か虚ろで、ただ、外界を気にせず天井ばかりを見ている青年はまるで魂が抜け出てしまった人形のように見えた。
ごくり、とフォード博士は息を飲む。
「彼が…。」
貞夫が頷き、それに答えた。
「ええ、彼が、あの謎の漆黒の鋼機、我々がブラックファントムと呼んでいた機体の操縦者、黒峰潤也です。」
その音は、言いようのない虚しさを感じさせる音だった。
そして、それは第七機関所属組織イーグル本部、そのビルの地下五階に直通エレベーターの到着を示す音だ。
エレベーターの扉は開かれ、地下五階の薄暗い廊下にエレベーター内の光が漏れて照らされる。
それに反応するように、廊下内の電灯がほのかな光を発し辺りを照らした。
「ここなわけですか、まるで無菌室を思わせる場所ですね。」
エレベーターから廊下に踏み出し、レイン・フォード博士は興味深そうに辺りを見渡した。
「イーグル本部が持っているある種の監獄ですからね。まあ、監獄と言っても今、ここの住人は一人だけですが…。」
追随するようにエレベーターから出てきた秋常貞夫はそう説明し、廊下の先にある扉に向かって歩く。
「しかし、光栄だと思うべきなのでしょうか、ここまで他機関のものが立ち入った事は無いことでしょうし…。」
貞夫はそれに不気味な笑みを含んで答える。
「そうでもないですよ、ここに入った方はいます。といっても博士のように訪問者では無く、虜囚としてですが…。」
フォード博士は背筋が凍るような寒気を感じ、貞夫から一歩、離れた。
今でこそ友好関係を築いているが、かつて第七機関と第六機関は険悪であった。
「ははは、冗談です、まあ、博士は気にしなくてもいいですよ、それに、今我々が会おうとしている虜囚に関してもここに置いているのは彼を捕えておくためというよりは彼の身の安全を守る為という方が正しいのですから。
地下300mにあるここに自由に立ち入ることが出来るのは私と先ほどまで、一緒にいた琴峰くん、それとあと一人だけですのでね。ある意味、警備の厳重さという意味では第七機関でここ以上の場所は無いでしょう。」
「そういえば、琴峰女史も一緒に来る筈だと聞いていたのですが、彼女はどこにいかれたのですか?」
そう貞夫を聞かれ恥ずかしそうに頭を掻く。
「いや、ちょっと困った連絡が入りましてね、問題児、いや、この場合は問題婆というべきなのか、そんな人間が急遽返ってくる事に成りまして…まあ、それへの対応に相応の人材が必要という事で向かわせたのです。
情けない話ですが、その問題婆は我が組織のトラブルもといトラウマメーカーでして…来る前にそれなりに気構えと対策をしておかないと、組織がまともに運用できなくなってしまうんですよ。」
「ああ、それはもしかして例の…。」
フォード博士も思い至ったように頷いた。
それはまあ、第七機関にこの人ありとでも言うべき有名人である。
実際、能力は年に見合わない程、突出しているのだが、味方殺しの異名を持つグレイヴ・スクワーマーとはまた別の意味で、奇人変人なのが玉に傷だった。
そして、彼女はこのイーグルの副司令でもある。
「噂はかねがね聞いています、第七機関の『鬼婆』、なんでもテスト中の鋼機を生身で相手してぶっ壊したとか、いやー流石に噂に尾ヒレが付けすぎだとウチの機関でもよく笑い話にはされてましたよ。」
フォード博士は快活に笑った。
「それが噂ですんだら、どれだけ良かったか…。」
貞夫はフォード博士に聞こえないようにため息混じりで小声で呟く。
「え、今、何か仰られました?」
「なんでもありませんよ、まあ、そんなわけで、琴峰くんにはそちらの対応に向かってもらいました。えーと、やはり先ほどあんな醜態を見せた私だけではやはり不安は隠せませんかね?」
貞夫は自嘲気味に笑う。
「いえいえ、総司令自ら案内をしてもらっている建前でそんな不安は抱きすらしませんよ。それに僕も暇があれば葉に火を付けて吸っている愛煙家ですので、あのような思考に捕らわれてしまうのも理解できます。」
そう胸を張って言うフォード博士に、貞夫は人は見かけによらないものだと内心で思う。
無垢さを思わせる童顔で煙草とはいかにも無縁そうな彼が、そんな趣味を持っているとはいささか意外だったのだ。
「いや、そう言って貰えるとありがたい話ではあります。」
そのような会話をしながら、二人は廊下にの先にある扉の前に辿り着いた。
貞夫はカードキーを取り出し扉の前にあるカードリーダーの読み込ませた後、目を扉の近くにあるレンズの前に当て網膜スキャンを行う。
その後タッチパネルでパスコードを入力した後、その後、扉の周囲に設置されたリーダーが貞夫の体内のナノマシンから送られる身体情報を読み取る。
「ここまで複雑にする必要あるんですかね?」
珍しいモノを見る目つきでフォード博士は聞いた。
「恥ずかしい話なのですが、当時セキュリティーに使えるものは全部突っ込んでおけみたいな事を面白半分で言う変人がいましてねぇ、挙句の果てその変人に誰も頭が上がらくて、それを強引に通してしまいました。
お陰でセキュリティー的にはこれ以上無いものになりましたが、お陰で面倒くさい事この上ないです。このめんどくささがセキュリティーの高さの証明ともいえるんですけれどね。」
「ああ、それも…。」
「ええ、それも彼女です、この組織の実質的な統率者は私というよりは彼女だと言ってもいいのかもしれませんね。ただ、そう考えると彼女は仕事をしてなさすぎるんですが…。」
「いや、心労が多そうですねぇ。」
「『いえ、そんな事は無いですよ』と言えない辺りが辛い所です。」
そうして、貞夫が苦笑いした時、認証を終わり扉が開いた。
「それじゃあ、博士、行きましょうか…この先に”彼”がいます。」
そうして貞夫が先行して歩を進める、
フォード博士はごくりと息を飲んだ。
この先に、いるのだ。ブラックファントムと呼称された正体不明に漆黒の鋼機に乗り、あの鋼獣を一方的に倒した男が…。
フォード博士は第七機関の人間ではないが、何度か、鋼獣を単機で圧倒する鋼機の記録映像を見た事はある。
そのどれもが奇々怪々としたもので、特に、あの漆黒の鋼機から発せられ、鋼獣を襲う紅い光は博士の理解の領域を遥かに超えたものだった。
そのような、機体を調査してみたいと思うのと同時に、一体どのような人物があの機体を動かしていたのか非常に興味があったのだ。
「先に、説明したとおりですが、彼とコミ二ケーションは取る事は出来ません、これに関してはご了承ください。」
“彼”がいる部屋の前に辿り着いた際に、扉のロックを外す手続きを行いながら貞夫はフォード博士にそう言う。
「ええ、了解しています。」
そう、了解の意を貞夫に返した。
これは別に”彼”とのコミュニケーションを取らせないという意味では無い事をフォード博士は先に受けた説明により承知している。
取らせないのではなく、取る事が出来ないのだ。
それが今、かのブラックファントムと呼ばれた機体を操ったと思われる”彼”が置かれている状況だ。
状況というよりは状態と例える方が正しいのかもしれない。
イーグルや第七機関が”彼”に何かしたわけではない。
正確にはしたのかもしれないが、それが意味を成さなかった故にフォード博士はここに呼ばれている。
つまりは、”彼”はイーグルに捕獲された、その日、その時から既にそのような状態であったという事だ。
あの狗のような鋼獣を殲滅した後、異形と化したブラックファントムのその凶刃をイーグルの鋼機部隊の隊長機に向けた所で停止した。
うんとも、すんとも言わなくなったその漆黒の機体を後続で駆け付けたイーグルの救援隊は捕獲し、連れ帰る事に成功する。
その後、彼らはコックピット強引にこじ開けた中から現れたのが”彼”であったという。
貞夫は扉を開く、辺り一面を白く塗られた壁と天井が目の前に広がる。
そこは10畳ほどの部屋で、様々な機器とともに一つの寝台があった。
そこに一人の白髪の青年が寝ている。
青年は寝ているが眠ってはいない。その眼は天井を力なく見つめていたのが印象的ではあったが、その瞳は何処か虚ろで、ただ、外界を気にせず天井ばかりを見ている青年はまるで魂が抜け出てしまった人形のように見えた。
ごくり、とフォード博士は息を飲む。
「彼が…。」
貞夫が頷き、それに答えた。
「ええ、彼が、あの謎の漆黒の鋼機、我々がブラックファントムと呼んでいた機体の操縦者、黒峰潤也です。」
To be continued
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