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GEARS外伝 Berserker第七章 後

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ParaBellum

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≪パチパチパチ……英雄キリサカの戦闘能力は英雄の中でも随一って話だったけど流石だね。未覚醒状態で私らを倒せる英雄が現れたのは200年ぶりくらいかねぇ?≫

「お前たちの言っている事は何一つ意味が分からん」

≪これから死ぬ人間が知る必要は無いね! 霊薬使わずに戦い通しで魔力も消耗してるんだろ? 少なくとも、ヘブンランサーが撃てない程度にはね! そしてぇ!!≫

ワイバーンの咆哮と共にミノタウロスの残骸から四つの閃光が放たれ、ワイバーンの胴を穿った。

≪クッ……ァァァァアア!! きたきたきたァァァァ!!≫

ワイバーンは嬌声とも悲鳴とも付かない高い声で叫びながら、全身を痙攣させ、膨大な魔力を放出し、その骨格を肥大化させ、黒い鮮血と共に皮膚を突き破った。
肥大化した骨格に絡みつくように、筋肉が急激に膨張し、表皮が風船の様に弾け飛ぶ。鮮血にまみれた中身が晒されるが、それも一瞬。
何処からとも無く、触手が生え、互いに結び付き、真新しい皮膚となって固着し、全長100m程の巨大な飛龍が大きく翼を広げ、ミノタウロスとは比べ物にもならない程の魔力を放出した。

「この魔力……貴様、何体取り込んだ!?」

≪下級ばかりとは言え、流石に八体も取り込むと結構、キッツいねぇ……ってなわけで、手早く片付けさせてもらうよ!≫

ワイバーンの巨体が蜃気楼の様に霞み、次の瞬間、ワイバーンの尻尾が鞭の様にうねりを上げ、シルヴァールの頭部を叩き潰し、巨大化した両腕がシルヴァールの肩を握り潰し、強引に翼ごと腕を引き抜いた。

≪これで魔術兵装は使えないだろ!? アンタの力もミノタウロスと同じように取り込んでやるよ!!≫

四肢と翼をもがれ、胴だけになったシルヴァールがワイバーンの口の中に投げ込まれる。
奴が攻撃を開始してから俺が追い込まれるまで一瞬。元々、機動力の高い魔獣だったが、八体の刻印装甲を取り込んだだけの事はある。
恐らくはシルヴァールの最高速にも匹敵する程の機動力。今の俺が奴の動きを追うのは不可能と言っても良い。

――だからこそ、今の状況は好都合とも言える。

朽ちかけた古木から、小枝の様な槍を引き抜く己の姿を頭の中に思い描く。
槍の柄は古木と同様、薄汚れ、握り締めようものなら容易く砕け散りそうな程脆く、先端についた穂先は切っ先が砕け、錆付き、刃こぼれしており力は一滴も残っていない。
引き抜いた槍を己の心臓に突き立て、古枝に魔力を注ぎ、白銀の長い柄に加工し、錆付いた刀身には血を与え、錆を落とし、欠けた刃を研ぎ直し、太陽の光よりも遥かに輝く刀身を蘇らせ、顕界にその姿を具現化する。

「不完全な具現化とは言え、体内からの一撃には耐えられまいッ!」

再構築した右腕でヘブンランサーを掴み、ワイバーンの内壁に突き刺し、光の粒子を辺り一面に解き放つ。
光の届かぬ暗闇に包まれたワイバーンの体内を閃光で蹂躙し、焼き爛れた内壁から溢れる漆黒の鮮血すらも白に塗り潰し、蒸発させる。

≪ガァァァァァアアアアアッ!?!?!?≫

内壁を水平に焼切ると切断面から眩い日光の輝きがワイバーンの内壁を明るく照らし出す。
無造作に暴れる閃光を紡ぎ上げ、天に目掛けて巨大な柱状の閃光を昇天し、ワイバーンの上半身を消滅させる。
しかし、流石は異常個体というだけの事はある。鳩尾から真上に心臓、脳と貫かれているにも関わらず、焼き切られた背断面が真っ黒な泡を吹きながら、欠損部分を再生させていく。

≪ハイソニックインパクト!≫

真下に叩き込んだ打撃の反動を利用してワイバーンの外へと脱出する。奴の養分になるのはご免だ。
それに魔力の自然回復を待つなり、霊薬を使うなりするにしても、魔獣の体内では落ち着けたものではない。

≪やらせるかぁァァッ!!≫

ワイバーンの切断面から無数の触手が伸び、シルヴァールに巻き付く。生憎だが、そんな性癖は持ち合わせていない。

≪もう撃てないと思っていたけど認識が甘かったようだね。ぐっちゃぐちゃに磨り潰してから、取り込んでやらぁ!!≫

「分不相応な力は慢心を呼び、慢心は予期せぬ事態を呼ぶ。その結果は死の一点……八体もの刻印装甲を取り込んだ所で、ただ魔力が高くなっただけだったな」

≪辞世の句は詠い終わったかい!? だったら、アンタの取るに足らない生涯も終わりだァッ!!≫

「身の程を弁えない力は、身を滅ぼす。貴様に比べたら、ミノタウロスの方が手強い」

≪シ――ネ!≫

「貴様一人でな!」

拳を握り締め、ワイバーンの体内に残してきたヘブンランサーを起爆させる。
天を引き裂き、焼き尽くして尚、有り余る程の閃光。粒子がうねりを上げワイバーンの体内を駆け巡る。
引き裂かれた肉片、吹き上げられる鮮血、砕かれた骨片、分断された魔力が飛沫となって天へと昇り、その巨躯をゆっくりと消滅させていく。

≪クソ……成り損ないでも此処までの力を持つってのかい!≫

「死ぬ前に答えろ。貴様たちは何者だ? 何が目的だ?」

≪精々、足掻く事だねぇ! この瞬間! アンタの取るに足らない平坦な人生は終わったのさ! 精々、戦いに戦い抜いて、血反吐を吐いてくたばるんだねぇ! 地球に戻れば終わり!? 断じて、否! そこからが英雄キリサカの始まりなのさァ!≫

そして、ワイバーンは八体の刻印装甲を残し完全に消滅する。多くの謎を残すどころか増えてしまったが……

≪此方、シルヴァール。刻印装甲を八体を奪還したが、魔力を失い過ぎた。これより中央の結界塔に一時帰還する≫

≪今、回収に向かっている。シルヴァール、高度を落とせ≫

アディンから念話が届き、知覚しなれた二つの魔力の接近を感じた。
高度を落とすも何も、先ほどの戦闘で翼は失われ、再構築するだけの魔力も残っていない。大絶賛、落下中だ。……まあ、死にはすまい。

地面に向かって逆さまに急降下。霞がかった地面が眼前に迫る。視界の中央に小さく映っていた物が視界の端に追いやられ、更に小さなものが視界の中央に陣取る。
普段の飛行速度と比べたら、この程度の落下速度など歩いているのと何も変わらないのだが……遅すぎて、逆に恐怖感が湧き立つ。本当に死なないだろうな? 結末まで目前、此処で落下死などご免だ。
辺り一面に群生する木々の一本一本が分かる所まで落下したところで落下速度が落ち、地面まで目と鼻の先というところで完全に落下が停止する。

≪……再構築すら出来ないような状況に陥っているのなら、最初から言え≫

「貴様なら言わずとも間に合わせる。そう思ったのでな」

≪間に合いそうに無かったので、ゲルヴィナードの魔術兵装を推進力にして無理矢理、飛ばしたのですが……≫

声のする方に視線を向けるとゲルヴィナードが黒煙を燻らせながら、右腕を突き出し、視線を戻すとシェイサイドの下半身が焼け爛れていた。

≪結構、いっぱいいっぱいですね?≫

「そんな事よりも、お前たちに話がある。俺たち側の事で問題が起きた」

≪……続きは結界塔で聞かせてもらう。視覚化を中断し、こちらに乗り移れ。このタイミングで襲撃を受けては敵わん≫

≪そんな事を言うから新手の襲撃を受けるんだよ。……これ、君たちの言葉じゃフラグって言うんだっけ?≫

嘲笑混じりの若い男の声と地割れ。アディンは無理矢理、俺を玉座の中に押し込み、空渡りで姿を消し、敵の攻撃に備える。

≪空渡りって魔術干渉でしょ? なら、魔力を介さず自分自身の目で見て、直接攻撃を仕掛ければ良いって話だよね≫

地割れの中から無数の腕が這い出、シェイサイドに襲い掛かる。

≪宵闇の腐海に浮かびし混沌の使途、我は惨禍。災厄の鎖より逃れる術も無し――ファントムヴォルド!≫

アディンは冷やかな目で一瞥し、瞬時に構築した黒針で迫り来る無数の腕を貫き、四散させ、軽やかな足取りで腕の残骸を踏みつけ距離を離す。

「だとしたら何だ? 見当違いな発想で勝ち誇るな。阿呆が」

≪良いね。その見下した感じ。君ら三人の中じゃアディン・グロウズ。君が一番、気にいらないね≫

残骸となった無数の腕が持ち上げられ、地割れが更に広がり、巨大な全身がその姿を露にする。
巨大な右腕と、長細い無数の左腕。十字架の様に細い胴と足。女の顔に頭髪の様な蛇の群れが生えた上級の魔獣ゴーゴンが地割れから飛び出しシェイサイドに蛇の群れをけしかける。

「敵に好かれたいとも思わんがな」

アディンは侮蔑と共に言葉を吐き捨て、右腕の巨爪を開き腰を落として、ゴーゴンを迎え撃つ。

≪――ヴェノム≫

シェイサイドとゴーゴンの間で凄まじい威力の爆発が、圧倒的な熱量を持つ炎と共に衝撃となって広がり、甲冑を炙られたシェイサイドは弾かれた様に飛び退き、ゴーゴンはその鈍重さ故に炎の中に飲み込まれる。

≪今は涼夜さんの回復が優先ですよ。ここは私が引き受けます≫

嘉穂はシェイサイドを攻撃に巻き込んだ事に何の感慨も示さず、炎上するゴーゴンの前に立ち塞がった。

≪――訂正。やっぱり、君らは全員、気に入らないね≫

ゴーゴンの右手が翻り、魔力が放出され、奴の全身を苛む炎がかき消される。

「霧坂涼夜。此処は彼女に任せて撤退するぞ」

「……了解した。嘉穂、無理はするなよ」

≪ええ。すぐに火葬を済ませて、合流しますね≫

≪何勘違いしているか知らないけど可哀想だね? ただの上級刻印装甲と成り損ないですらない、ただの人間が僕を阻む? これは哀れを通り越して傑作だ! 君らで言うところの死亡フラグって奴だよねぇ!≫

≪――ゲヘナ≫

ゴーゴンが鈍重な身体を震わせ、ゲルヴィナードに肉迫。ゲルヴィナードはゴーゴンが作った地割れから、焼けた火の槍を撃ち出し、頭部、腹、胸、右肩、左腕、両脚と串刺しにしてゴーゴンを転倒させる。
全身を槍に突き破られ、大地に崩れ落ちるその様は地獄の針山に串刺しにされた罪人のようだった。

≪無駄に長い口上は死を招きますよ?≫

そう言って、嘉穂は指を鳴らし、ゴーゴンを貫いた槍を爆発させ、アディンはその爆発に乗じ、ゴーゴンの咆哮と断続的に鳴り響く爆音を背に中央の結界塔へと後退を開始した。

「撤退後、すぐに嘉穂の救援に向かってくれ。奴らは複数の刻印装甲を取り込んでいる」

「承知……と言いたいところだが上を見ろ」

瘴気に混ざって、金色に輝く怪鳥の群れを引き連れ大空を翔る三羽の巨大怪鳥。ガルーダの姿が現れた。
三羽の巨大怪鳥と、その群れは其々に中央、東端、西端の結界塔を目指している。

「別方向の同時襲撃か……イリア、ラウバルト。其方にガルーダの異常固体と、その群れが向かっている。対応を任せる」

≪飛行型の異常固体とは敵も嫌なところを突いてくるね≫

≪なんとか凌いで見せますわ!≫

「状況は不利。されど、意気軒昂……」

≪ならば、その意思を圧し折るまでだ!≫

突如として迫り来る横撃にシェイサイドの脚部が切り裂かれ、大地へと転倒する。
転倒時、視界の隅で新たな異常固体の姿が眼に映った。シェイサイドの空渡り同様、魔術干渉能力による透明化能力を持つ下級の魔獣ウェルスだ。
本来ならば力も魔力も低く、焔砲の様な魔術兵装があれば生身の人間でも互角以上に戦う事が出来るが、奴の透明化能力は人間の五感にまで及び、魔力の低い人間にとっては十分な脅威になり得る。

「ウェルス如きがシェイサイドに干渉するか……!」

「奴らは複数の刻印装甲を取り込んでいる。最早、元となった魔獣の等級など関係ない!」

九つの刻印装甲を取り込んだハイドラですら、シェイサイドの魔術干渉能力には抗えず、物理的な手段でなければ攻撃する事が出来なかっただけにアディンは苛立ちを隠せない様子で呻いた。

≪精属性の刻印装甲全てを取り込み、シェイサイドに匹敵する干渉能力を持たせたウェルスの力を思い知ったか!≫

「魔獣と刻印装甲の属性を合わせ、能力を強化したというわけか……成る程、これは強敵だ」

「余裕ぶっている場合か? 戦力の温存は此処までだ。霊薬を使って、空の脅威を排除する!」

≪面白い事は教えてやろう。貴様たちが保有していない刻印装甲は全て、“我々”と魔族の手元にある。貴様らが捜し求めている光のオルベリオンは残った上級刻印装甲と共に最強の魔獣ナグルファルに取り込まれている≫

「ナグルファル……一種族一体しか存在しないと言われている最強の魔獣か……」

≪魔族の知能など我々や、貴様ら人間に比べたら遥かに劣るが……無能を覆す程の力を持っている。それでも、戦力を温存せずに霊薬を使うか?≫

「霧坂涼夜、貴様が我々の柱だ。貴様の判断に従おう」

「……魔力が二割に回復するまで休ませてもらう。それまでにウェルスを片付けろ」

「最初から、そうやって堂々と構えておけば良いのだ、阿呆が……」

≪大きく出るのは結構だが……私を討たねば、中央の結界塔にガルーダの群れが襲い掛かるぞ?≫

「言われるまでもない……シェイサイド、失われた部位を再構築し、メギドクレイモアを顕現せよ」

シェイサイドは左腕で地を突き、宙を舞い切り落とされた両足を再構築し、力強く着地する。
その右腕には巨大な大爪で扱うに相応しい巨大な黒剣が握り締められている。ここ半年程、共闘する機会が無かったが、この男はこの男で魔力が強化されている事が見て取れる事に安堵すると同時に、俺がヘブンランサーを構築する速度を上回っている事が、僅かながら癪に触った。

≪パワーアップしたメギドクレイモアか! 面白い……このウェルスの干渉能力で打ち消してくれるわ!≫

「御託は良い……一撃で切り伏せ、貴様の刻印装甲も我等の軍勢に加えるまでだ」

シェイサイドは深く腰を落とすと、ウェルスは自らの虚像でシェイサイドを包囲し、一斉に飛び掛り、鋭い爪で全身を切り裂き、細切れに分断する。

≪どうした、シェイサイド。大口の割に随分と呆気ない幕切れ……≫

無数の虚像となったウェルスの群れからエコーとなって響かせていた男の声が突如として止まる。
群れの中にいるウェルスの内、一体が背中からシェイサイドの黒剣に貫かれ、胸から巨大な切っ先を生やし、黒い鮮血を垂れ流している。


≪き、貴様は……完全に解体した筈だぞ……≫

「構築した虚像に魔力を流し込み、攻撃能力を持たせたところで本体から無限に溢れ出る魔力による攻撃まで誤魔化す事は出来ん」

≪まさか……わざと攻撃を受けたというのか!?≫

「一々、実像を見極めている暇など無い。敢えて、この身を攻撃に晒し、虚像実像の全てに毒を流し、幻惑を持つ大地を構築。シェイサイドを解体したという幻惑を見ている隙に実像を貫いた……ただ、それだけの事だ」

≪か……完全にしてやられたというわけか……だが、甘いな。シェイサイド……貴様の負けだ!≫

「何……?」

≪貴様に手傷すら負わせる事が出来なかったのは些か、想定外だったが、本来の役割は果たした……あれを見ろ!≫

ウェルスが示した物。それは中央の結界塔。そして、ガルーダの群れに蹂躙され力尽きた戦士たちと、二体の刻印装甲。
ガルーダはまだ遥か遠方を移動していた……そして、ウェルスの妨害があったとしても十分に間に合う距離だった筈……

「視覚をやられていたか……」

≪幻惑の使い手は貴様だけでは無いという事だ……此処からでは貴様らが到着するよりも、ガルーダが結界塔を破壊する方が早いわ!≫

「まだだ……アディン、二割だ。出るぞ!」

アディンに魔力の回復を告げると、奴は無言で頷きシェイサイドの玉座を開け放った。

≪シルヴァール装甲展開……ファントムムーブッ!!≫

外へ飛び出し、シルヴァールを視覚化し結界塔へと飛翔させる。

≪無駄な足掻きをッ!!≫

≪貴様は十分に我々を梃子摺らせた……もう満足だろう? 死に果てろ≫

剣状の閃光がウェルスを貫き、ガルーダの群れの半数程を焼き払うが、結界塔は完全な無防備を晒しており、異常固体の脅威がある以上、その効力は無いに等しい。
結界を破る事の出来ない通常固体が反転し、異常固体を残して、シルヴァールへと肉迫する。異常固体の元に辿り着くまで後三秒。ガルーダにその進路を阻まれるが無理矢理、正面から突破する。
残り二秒、後方に残したガルーダの群れが一斉に熱線を吐き、シルヴァールを焼き切ろうと躍起になるが、損傷を無視して異常固体の元へ急ぐ。最悪の場合、右腕一本残れば良いと考えた、その瞬間――異常固体が此方を振り向き、眼の端を吊り上げ嘴を開いた。
残り一秒、異常固体の嘴が炎を収束し、周囲の景色が陽炎となって揺らめいている。

間に合うか――!? これ以上、速度を上げては奴を撃破するための魔力が無くなる……迷ってもいられんか!
シルヴァールの翼に魔力を込め、瞬時にガルーダの頭上を捉える。まずはその熱線を封ぐ。倒せずとも時間を稼ぎ、仲間の到着を待てば良い。
右腕に魔力を込め、ガルーダの頭部に狙いをすまし、後先を考えずに全身全霊で以って拳を振り落とす!

≪ハイソニックインパクト!≫

打撃の衝撃が右腕から全身に逆流し、魔力が消失した衝撃と合わせて視界が白みがかり明滅するが、手応えはあった……!

≪流石……と言いたい所だが、魔力不足に抗う事は出来なかったようだな。霧坂涼夜≫

「な……に……!?」

奴の頭部に振り落とした一撃は熱線の軌道を逸らし、結界塔への攻撃を防いでいた筈だったが……

≪お前に残された僅かな魔力で放たれたソニックインパクトでは、このガルーダに何の影響も及ぼさんわ≫

ガルーダに振り落とした拳は奴の頭部を微動だにさせず、悠々と魔力収束を続けていた。

≪最早、手詰まりだ……最後の希望が打ち砕かれる様を其処で見ているが良い≫

ガルーダの口から放たれる熱線が結界塔へと突き進む。倒れ伏した二体の刻印装甲が立ち上がり、その身を挺して受け止めるが、それも一瞬。熱線の中に飲み込まれ、跡形も無く消え去り、指輪だけになって地へ転がり落ちる。
瀕死状態の刻印装甲に阻まれた程度では、熱線の勢いが衰えるはずも無く、結界塔へと差し迫る……此処で終わりだというのか? 何もかも見捨てて、最初から最南端だけを目指すべきだったというのか? 今更、この世界を見捨てろと?

「糞ッ……」

熱線が結界塔を真正面から射抜き、中の魔術師ごと蒸発――いや、ガルーダの放った熱線が結界よりも更に手前で食い止められている。

≪な、何者だ……!? 魔力が……吸い取られる!?≫

ガルーダから驚き戸惑う声が漏れる。此処には俺とガルーダの魔力しか無い。だが、結界と熱線の間に間違いなく、何者かが立ち、結界塔を守っている。
その何者かは熱線を消滅させ、姿を出現させる。黒みがかった紫の流線型装甲に全身に黄色の模様が刻まれている。現れ方や、出で立ちと言い、まるでハーフサイズにしたシェイサイドの様だったが、その姿を完全に現しても、一欠けらも魔力を感じる事は出来ない。

『霧坂涼夜さんですね? この場は俺が引き受けます。結界塔の中で回復を』

若干の幼さを含んだ少年の声がシルヴァールの玉座の中に響いた。声の発信源は俺の腰……今まで、その役目を果たせないでいたモバイルシステムからだった。

「君は……?」

『話は落ち着いてから……今は魔力の回復を』

「分かった……恩に着る」

『いえ……俺も十分に助けられましたから……ですが、可能な限り、早く戻って頂けると助かります。俺一人じゃ倒せる異常固体は精々、一体か二体が関の山ですから』

幾多もの修羅場を潜り抜けてきた熟練の猛者の様な雰囲気から一変して、年相応のあどけない雰囲気に変わり、少年はおどけた調子で左腕に抱えた巨大な板切れの様な物を両腕で構えた。
板切れの先端に太陽の様に眩く輝く光が、放射線状に収束されていく。だというのにも関わらず、未だに魔力の高まりを感じる事が出来ない。

≪まさか……その粒子は……!?≫

ガルーダが驚き戸惑っているのを気にした風でも無く、少年が駆る紫の刻印装甲が力強い足取りで一歩踏み込むと、両腕で水平に構えた円筒の先端に眩く輝く光が放射線状に収束されていく。
そして、大気を揺らめかせながら、更に一歩踏み込み巨大な板切れを振り抜くと、周囲にプラズマを放ちながら先端部分から漆黒の刃が天を貫き、空を薙いで、ガルーダの体液を沸騰させ空中で爆散していく。

≪矢張り……これは草薙!! 英雄は並び立てないのが制約の筈……まさか、覚醒済みだとでも言うのか!?≫

少年の正体を知っているのか、ガルーダは態度を一変させ激しく狼狽する。少年は真紅の残光を描き、ガルーダへと肉迫し、その眼前で動きを止めた。

『お前達の事を面倒に思っているのは人間だけじゃないって事さ……あんまり、俺を振り回してくれるなよ』

≪君嶋悠……そして、奴の介入か!? あの裏切り者共め……!≫

『心当たりがあるなら結構。何でも良いが、目の前の脅威から逃れる事を考えるべきだな』

そして、少年の機体の肩に背負われた直方体から無数の閃光が放たれ、ガルーダの巨体を削り取っていく。

≪貴様ごときが脅威だと!? 舐めるなよ! 出来損ないの英雄が!≫

ガルーダが焼け爛れた全身を再構築させながら、口から熱線を吐き出す。少年は閃光を放つ武器を背部に戻し、左腕を突き出し、結界塔を守った時と同様に熱線を阻み、右腕で弾き返す。

『安綱ッ! 格闘戦モードに移行! 仁王の剛拳を使う!』

≪了解――モーションリンク起動シンクロ開始≫

安綱――それがあの小さな刻印装甲の名前だろうか? もう一人、適合者がいるのだろうか何と無く、懐かしい電子音の様な声が聞こえた。
そして、安綱の両腕が光を纏い、次から次に放たれる羽の飛刃と熱線の全てを拳で弾き返し、再生の完了していない焼け爛れた皮膚に拳を埋没させ、上下に引き裂き、その中に長細い砲身を突き入れる。

『今まで戦った中じゃ下から数えた方が早いな』

少年の嘲りと共に、ガルーダが背中から光芒を吐き出し、その巨体を震わせ、力なく大地へと落下した。
安綱は大地へ降り立ち、俺がいる結界塔を背にして遥か遠くの南方を見定めている。

『涼夜さんの回復と、部隊の再編が完了するまで、俺がここを守ります。なので、魔力の無いチビスケは味方だと伝えておいてもらって良いですか?』

「了解した……確かに伝えておこう。それで君は……?」

『申し遅れました。地球統合軍所属、守屋一刀です』


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