呼吸する。
口から空気を吐き出す音が漏れる。
その音を極力小さくするようにしてわたしは再び呼吸する。
丁寧に周りを探査し、障害の有無を確認。
障害はビルの正面入り口に2人。
腰部に拳銃を装備しているのが見える。
出来るならば後ろ寄り忍び寄り武装解除をしたい所だが、それは叶わぬ願いである。
彼らの体調になんらかの異変があった場合、彼らの体内にあるナノマシンがその異常を本部の警備部に知らせる。
つまりは敵を一人無力化しただけで、その異変をすぐさま嗅ぎつけ彼らは敵の侵入を察知できるというわけだ。
まさに万全の警備体制と言ってもいいだろう。
つまりはここがボーダーライン。
ここから一歩先に進もうとするならば、今からこのビルにいる人間全てを自分は敵に回さなければならない。
戦う為に必要な道具は全てある。
あと必要なのは自分の覚悟と決意だけだ。
深呼吸。
心を落ちつける。
問われているのは覚悟と決意だ。
怖いのならば逃げればいい。今からわたしが行おうとしている行為は誰にも利を成さない行為だ。
助け出そうとしている人間すらも望んでいないだろう自己満足。
だから逃げた所でだれもわたしを責めはしないだろう。
もしかすると今のこの現状は彼にとっては救いなのかもしれない。
何もかも直視する事無く、ただ、全てから目をそらし、虚空を見上げる。
きっとそれは彼に許された唯一の休息なのだ。
今、自分はそれを潰そうとしている。
それを彼は望んだわけではない。
それはわたし自身がどうしても、また彼と会いたいと願っているという、どうしようも無い願いから生まれている。
覚悟はあるか?わたしは自分の中で自問する。
自答。
ある。どんな時でもわたしはあの人の傍にいる。それがわたしの覚悟。
決意はあるのか?わたしは自分の中で自問する。
自答。
ある。わたしはまたあの人に会いに行く。あの人の為に私は存在し、あの人の為だけに私の命を使う決意がわたしにはある。
全ての問への回答。
わたしはあの人にまた会いたい。だから行く、この思いだけがわたしがわたしであるという証明なのだから…。
わたしは立ち上がり、歩を進める。
イーグル本部の正面入り口にいる警備員がわたしに気づき、わたしの肩に手を当てた。
わたしはそれを体の柔らを使いいなし、首筋に手刀を当てる。
警備員は意識は遮断され、その体を地に付けた。
すぐさま、それに気付いたもう一人の警備員はわたしに腰にあった銃を向けた。
わたしは銃を構えた警備員に向けてゆっくりと歩を進める。
「止まれ、止まらないと撃つ。」そう言って、警備員は私に銃口を合わせる。
引き金を引くことへの一瞬の躊躇い、その一瞬の隙を見逃さず、わたしはすぐさまその警備員の眼前まで走り抜け、脇腹に右拳を叩きこみ、左手で首をつかんでグローブに内蔵されているスタンガンを起動させた。
電流が警備員の体を走り、意識を奪う。
警備員の体の異常を感知し警報が鳴る。
侵入者がやってきた事を、本部内にいる全てに知らせる警報だ。
わたしはグレネードを投げ、ビルの入り口の自動ドアを破壊した。
それは宣戦布告を示す爆発だ。
もう戻れない。
戻る気もない、この道で良い、元よりこの道だけがわたしの道だ。
ただ、一つ決意と誓いの元にこの道を進む。
「潤也、今、行くよ。」
そう思いを自分の心に刻みつけるように呟く
そんな自分をふと俯瞰して思った。
きっと、わたしは黒峰潤也にとっての悪夢だ。
口から空気を吐き出す音が漏れる。
その音を極力小さくするようにしてわたしは再び呼吸する。
丁寧に周りを探査し、障害の有無を確認。
障害はビルの正面入り口に2人。
腰部に拳銃を装備しているのが見える。
出来るならば後ろ寄り忍び寄り武装解除をしたい所だが、それは叶わぬ願いである。
彼らの体調になんらかの異変があった場合、彼らの体内にあるナノマシンがその異常を本部の警備部に知らせる。
つまりは敵を一人無力化しただけで、その異変をすぐさま嗅ぎつけ彼らは敵の侵入を察知できるというわけだ。
まさに万全の警備体制と言ってもいいだろう。
つまりはここがボーダーライン。
ここから一歩先に進もうとするならば、今からこのビルにいる人間全てを自分は敵に回さなければならない。
戦う為に必要な道具は全てある。
あと必要なのは自分の覚悟と決意だけだ。
深呼吸。
心を落ちつける。
問われているのは覚悟と決意だ。
怖いのならば逃げればいい。今からわたしが行おうとしている行為は誰にも利を成さない行為だ。
助け出そうとしている人間すらも望んでいないだろう自己満足。
だから逃げた所でだれもわたしを責めはしないだろう。
もしかすると今のこの現状は彼にとっては救いなのかもしれない。
何もかも直視する事無く、ただ、全てから目をそらし、虚空を見上げる。
きっとそれは彼に許された唯一の休息なのだ。
今、自分はそれを潰そうとしている。
それを彼は望んだわけではない。
それはわたし自身がどうしても、また彼と会いたいと願っているという、どうしようも無い願いから生まれている。
覚悟はあるか?わたしは自分の中で自問する。
自答。
ある。どんな時でもわたしはあの人の傍にいる。それがわたしの覚悟。
決意はあるのか?わたしは自分の中で自問する。
自答。
ある。わたしはまたあの人に会いに行く。あの人の為に私は存在し、あの人の為だけに私の命を使う決意がわたしにはある。
全ての問への回答。
わたしはあの人にまた会いたい。だから行く、この思いだけがわたしがわたしであるという証明なのだから…。
わたしは立ち上がり、歩を進める。
イーグル本部の正面入り口にいる警備員がわたしに気づき、わたしの肩に手を当てた。
わたしはそれを体の柔らを使いいなし、首筋に手刀を当てる。
警備員は意識は遮断され、その体を地に付けた。
すぐさま、それに気付いたもう一人の警備員はわたしに腰にあった銃を向けた。
わたしは銃を構えた警備員に向けてゆっくりと歩を進める。
「止まれ、止まらないと撃つ。」そう言って、警備員は私に銃口を合わせる。
引き金を引くことへの一瞬の躊躇い、その一瞬の隙を見逃さず、わたしはすぐさまその警備員の眼前まで走り抜け、脇腹に右拳を叩きこみ、左手で首をつかんでグローブに内蔵されているスタンガンを起動させた。
電流が警備員の体を走り、意識を奪う。
警備員の体の異常を感知し警報が鳴る。
侵入者がやってきた事を、本部内にいる全てに知らせる警報だ。
わたしはグレネードを投げ、ビルの入り口の自動ドアを破壊した。
それは宣戦布告を示す爆発だ。
もう戻れない。
戻る気もない、この道で良い、元よりこの道だけがわたしの道だ。
ただ、一つ決意と誓いの元にこの道を進む。
「潤也、今、行くよ。」
そう思いを自分の心に刻みつけるように呟く
そんな自分をふと俯瞰して思った。
きっと、わたしは黒峰潤也にとっての悪夢だ。
CR ―code revegion― 第二章 「悪夢」SIDE B 黒衣の来訪者
イーグル本部地下五階の一室。
そこにはブラックファントムの操縦者である黒峰潤也がいる。
だが、彼の心は今、この世界にを見ていない。
ただ、無感動に天井を見つめ続けているだけである。
黒峰潤也が寝ているベッドの横で一人の男が白衣を着た優男が持参した機器を設置する傍らで講釈をする。
「事前に説明したとおりですが、”彼”の意識は、確かに今ここにあるのだと考えられています。ですが、その意識が我々を捕える事はありません。
ただ、そこから動かずじっと、辺りの景色を眺めているだけなのです。
何人かの医師に見せた所、身体的外傷は見受けられませんでした。医師達は、二つの仮説をたてました。
精神的な何かが彼を襲い、それによって彼の精神が壊れてしまったか、もしくはそれから自身の心を守るため自閉する事によって、自身の精神を守っているかの二つです。
なにぶん心の問題故に、我々が処置出来る事も無く、ただ、時間によって彼が心がこちらの世界に戻ってくるのを待つ事がだけが我々にできる事でした。」
そう説明するイーグル総司令、秋常貞夫の言葉を聞いて、機器を設置している白衣の優男、レイン・フォード博士は疑問を貞夫に投げかけた。
「ブラックファントム本体の方の研究は進んでいるのですか?」
貞夫は頭をかいて
「恥ずかしながらこれもさっぱりと言った所です、ベースがS-16シュバルツだという事だけはわかっているのですが、あまりにもブラックボックスが多すぎて、まともに触れないというのが現状です。
ただ、一つわかったのはあの機体は一人乗りの機体では無いという事でした。」
「というと?」
「三日前にコックピット部分とは別に背部に小さな搭乗口が発見されたんです、人が一人なんとか入れそうなぐらいの大きさのものが…。」
「へぇーではあの機体は二人乗りの機体だと言う事ですか?」
フォード博士は素直に驚く、専門では無いにしろ、鋼獣を調べるにおいて鋼機のノウハウの基本程度は熟知している。
今の鋼機に二人乗りにする意味合いはほぼ無いと言えた、かつてS-10以前のOSが不全であったころならば補佐で二人乗りの必要であったかもしれないがS-11以降の鋼機に二人乗りである利点は少ないように見えた。
それでも、そうしたという事はそれに大きな意味があるのだろうか?
「ただ、おかしいんですよね、その背部の搭乗口には人が確かに入る場所があったのですが、そこに入った所で何か出来るのか?
というと特別な機器の類も無いですし、本当にそこに人が入れるだけなわけです。こちらとしてもこの機構が何のためにあるのか理解しかねる所がありまして…。」
「それはまた異な話ですね。それでいて興味深い話でもあります。」
興味深そうに頷きながらフォード博士は機器の取り付けを終え、ベッドの上にいる黒峰潤也の着衣にいくつかクリップ型の検出器を取り付けた。
貞夫はその様子を眺め、
「終わりましたか?」
と尋ねた。
今、黒峰潤也は物言わぬ眠り人である。
彼の口からいくらか情報を得られる事を期待していた為、彼がこのような状態になっていたのは非常に手痛いアクシデントであった。
ブラックファントム本体の解析も思うように進まない今、イーグルの中には焦りがある。
それ故に燕の涙ほどでも情報を得られる可能性があるのでは?という考えからイーグルは第六機関に調査を依頼し、ナノマシンの権威であるレイン・フォード博士を招く事になった。
いまや物言わぬ状態であるといえども、その体から調べられる事もある。その一つがナノマシンだ。
ナノマシンはその発展とともに急速に拡大、普及し、今やほとんどの人間が体内にナノマシンを取り入れている事になった。
物言わぬこの青年の人物特定が早期に出来たのも、彼のナノマシンにある、IDを読みこんだ故の話だ。
だが、そのIDの読み込みを行った際、従来のナノマシンに加え、また別の正体不明のナノマシンが彼の体に注入されている事が判明した。
何度かその摘出を心見ようとしたのだが、どのような手段を用いてもそのナノマシンは摘出する事が出来ず、何せ彼の体にはナノマシンを摘出しようにも注射針一つ刺さらないのである。
それからいくつかの方法を試みたがわかったのは刃物が彼の体に刺さらないと言う事だ。第六機関にデータを回して調査を依頼したというわけだ。
そして、今、フォード博士が体内のナノマシンの一部を検出し、摘出する作業を始めている。
「今、ナノマシンが体のどの部分に広がっているかを確認しています、体のどの部位に一番ナノマシンが集まっているかを判別して、そこから摘出を行うというわけで…あ、あれ…。」
フォード博士は計器に映されたデータを見て、素っ頓狂な声を上げた。
そう驚いた顔を見せるフォード博士に貞夫は首を傾げながら、
「どうされました?」
と尋ねた。
「い、いえ、いくらなんでもこれは意外というかおかしいというか…。」
「というと?」
「ええ、普通ならばナノマシンというのは体の各部に分散しているのが普通なわけです。
一部どこかに集まっていても、基本的には散らばっていて、体の各部に存在している筈なのですが、なんというか、これは…とりあえず口で言うより見てもらった方が早いかもしれませんね。」
そういってフォード博士は計器の情報が映し出されたディスプレイを貞夫に見えるように掲げる。
ナノマシンの事など一般常識程度しか知らぬ自分が見た所で何がわかるのだろうか?という思いを感じつつも貞夫はそのディスプレイを見つめた。
その瞬間、貞夫の顔は驚愕の相貌に変化する。
ディスプレイの中には人体図に体のどこにナノマシンがあるのか光点で示すようになっている。
フォード博士曰く、一部集まる個所はあったとしても基本的には分散しているのだそうだ。
それもそうだろう、ナノマシンは体の中を駆け巡るように動いているものであり、何処かに一部に留まると言う事は無い筈なのだ。
あったとしてもそれはナノマシン自体がなんらかの機能をしているという事に他ならない。
ではこの、目の前に映っているものは何だと言うのだろうかと貞夫は驚愕する。
かつて、彼の体を探っていた時もこのような事は起こる事は無かった。
これは貞夫からしても初めてみる現象である。
「こんな事がありえたとして、一体それは何を意味しているのですか!?」
貞夫は純粋な疑問を問う。
「さあ、わかりません、ただ、彼の体内にあるナノマシンが何かに反応しているのは確かだと思います。まるで何かを検出しそれを求めている…そんな風に感じますね。」
携帯ディスプレイには黒峰潤也の右腕に全てのナノマシンが集まっているという異な光景が繰り広げられていた。
「しかし、これで採取は簡単にはなりました、作業を始めましょう。聞いた所、彼の体には注射器の針が刺さらないそうですね?」
「ええ、確かにそうです。といよりは刺さるのですが、折られてしまうというか、外気に汚染された雫程度の血液ではサンプルとしてもあまり使えたものではありませんし…。」
「となると、自己増殖型のナノマシンだと思います、秋常司令はご存知無いかと思いますが、違法とされ、作られなくなったナノマシンに自己増殖型というものがありまして、
これは外傷などを受けた場合、血中の成分から自己を増殖する事で高速でその補修に向かうという能力があります。
ただ自己増殖型のナノマシンはリスクも多くて、世界政府から研究を禁じられていたものでした。だから、第七機関ではわからなかったのでしょう。
ちなみに、あの鋼獣のナノマシン装甲にも同じような技術が使われていると我々は考えています。もしかすると彼は我々側というよりは、あちら側の人間なのかもしれませんね。」
「ふむ、しかし、これほど傷の補修が早いとなると、摘出も難しいのでは無いですか?」
「いえ、そうでもありません、ナノマシンといえども機械です、つまるところ―――」
フォード博士はバッグの中から棒のようなものを取り出した。
それから出ているケーブルを部屋の隅にあったコンセントにプラグに差し込み、棒の尾にある取っ手をぐるりと回す。
そうすると棒の先に一瞬、光が走った。
「電流を流すという事ですか?」
「ええ、そうです。軽い火傷ぐらいはするかもしれませんが、人体にはそれ以上の被害が無い程度の電圧で流すだけですので彼の体がどうこうなる事は心配しないでください。ナノマシンの機能を一時的に麻痺させて採取できるようにするだけです。」
ふむ、と貞夫は頷く。
「それならばよろしくお願いします。」
「了解しました。」
フォード博士は潤也の右腕に棒を当てる。
そうして電流を流そうとしたその時――――部屋に警報が鳴り響いた。
「えっ。」
フォード博士は警報に驚いて、棒を落とす。
落とした棒はカランカランと音を立て転がりベットの足にぶつかって止まった。
「第一級警報(コードレッド)?」
時峰九条がやってきたのだろうか?否、それならばこのような第一級警報が発令される事は無い。
彼女は人間台風である事は確かだが、彼女の起こす災害は想定された災害だ。
つまりはこの警報は本当に何か一大事が起こった事を意味している。
貞夫は直ちに部屋から出てすぐさま外にある緊急回線から、司令部に連絡を取る。
携帯端末から連絡を取っても良かったのだが、こちらから本部に連絡を取る際には、手続きを経なければならない為、内部回線であるこちらの方が手が早いと貞夫は踏んだのだ。
数秒の待ち時間の後、イーグル本部、15階にある司令本部と地下5階の回線がつながった。
「こ、こちら、司令本部、秋常司令ですか?」
回線越しに言葉をかけて来たのはオペレーターの柳瀬恵だった。
「何事だ、柳瀬くん。」
「そ、それが、現在、イーグル本部が正体不明の何かから襲撃を受けています。そんな、警備隊が全滅だなんて、一体、あ、あれは何なの!!!」
柳瀬の声は焦りの色が露わになっていた
「柳瀬くん、落ちつきたまえ、敵はいったいどれぐらいの規模でここを襲っているのかね!!」
「き、規模ですが、それが一人です、少なくともこの司令部にいる人間の目がこの世界じゃないモノを見ているのじゃなければ一人です!!」
嘘のような話だったが、柳瀬の声はそれが嘘ではないそう思わせるだけの緊迫感を感じさせている。
馬鹿なと貞夫は毒づく、そんな事が出来る人間がこの世に時峰九条以外にいてたまるものかと…。
「それは時峰副司令じゃないのかね。」
それはあの婆ならやりそうな事だった。
この本部を単独で制圧して、あー最近の若いもんはなっちゃいないねぇーこんな老婆一人に占拠されてるようじゃ、あたしゃあんたたちの今後が心配であと50年は死ねないよとのたまうのだ。
それは非現実的な話であったが時峰九条という人間を知る貞夫の中では非常に現実味のある話であった。
だがその思考は即座に一蹴される。
「い、いえ、それはありえません、副司令は中央支部からこちらに1時間前に輸送機で発ったばかりです、こちらに到着するにもどんなに早くともあと15分はかかると思われます。
それにすぐさま、私たちは確認と取りました。時峰副司令はまだ輸送機の中にいます。」
貞夫は考える。となると今、このイーグル本部は時峰九条クラスの人間に襲撃を受けているという事になのだろうか…?
あのような人間があの婆のほかにいるなど考えたくも無かったが、少なくともそれを連想させるほどの敵の襲撃を受けているという事実は認めなくてはならない。
ならば、この地下5階で自分が取れる行動とは何であるか?
貞夫の後ろでフォード博士が不安そうな顔を覗かせる。
貞夫はそれに笑って大丈夫ですよと笑って答えた。
「柳瀬君、その襲撃者の様相や目的はわかるかね?あと、私の携帯端末の方に襲撃者の映像を回せるか?」
「え、あ、はい、映像の送信は今すぐ行います。」
貞夫の持つ端末のディスプレイに、映像が映し出される。
そこには黒いフードに身を包んだ仮面の人間が映し出されている。
若干カメラの位置が遠いのと素顔が仮面で隠されていて見えない事、黒衣に体型が隠されている事から女性か男性かまで特定する事は出来なかった。
これでは実際に襲撃者を捕まえなければ単なるテロ目的か、それとも何処からかの差し金による襲撃か掴む事も難しい。
「襲撃者は今、地下2階を走行中です。あのマントの下にいくつか武器を隠しているようですが今の所、火器の類は使われた形跡がありません。ただ、琴峰さんが、え、はい、変わります。」
きゃっと柳瀬は慌てたような声を出した後、スピーカー越しに別の人間の声が聞こえて来た。
「司令、琴峰です。どうも襲撃者はバンデッドスーツを着用している模様です。」
「バンデッドスーツというとあれかね、確か、兵器開発局で考案されていた工作員用の多機能マッスルスーツ。」
「奴にやられた警備のものからもマントの下にゴム状のスーツを着込んでいるとの事でもしかしたらと照会した所、類似点が多く、まずそう見て間違いないと思われます。マントの方も防弾繊維のものかと…。」
「ん、全滅と柳瀬くんから聞いていたが、生存者はいるのかね?」
「ええ、正確には警備隊の隊員全てが、無力化されたというのが正しいです。武器を解体されスタンガンのようなもので意識を奪われていました。今、意識を取り戻した隊員から情報を集めている所でもあります。」
「ふむ、敵にどういう意図があるかわからんが、それは不幸中の幸いだな。しかし、それならばさらに謎だ、所詮はマッスルスーツで人体機能がどれほど強化出来た所で1.5倍程度の筈だ、それだけで本部の警備隊を全て無力化できるとはとても思えん。
彼らは仮にも我がイーグルの人間だぞ、機関軍あがりの人間もいる、それが全てたかだか一人の襲撃者にやられる等という事はありえるのかね?」
貞夫は純粋な疑問を問うた。
「司令の疑問は当然だと思います、九条さんでもこうも正面から私たちの警備を抜ける事はおそらくは無理でしょう、ですが、敵はそれが出来る人間だという事です。
我々はまずその認識を持たねばなりません。あんな事は可能なのかどうなのか?という疑問は今、持つべき思案では無いでしょう。」
雫の正論に、貞夫は頷く。
年をとるとどうも考えが固定観念に囚われ安くなっていかんと貞夫をは思った。
「ちなみに司令が今何を考えているかわかりますが、私も42ですよ、一般的に言うならば、頭が固くなると言われている年頃です。
そんな私でもこれぐらいの応対が出来るのですから、往年のベテランがこのぐらいの認識が出来ないでどうするんですか?年のせいにしないでください。」
釘を刺すように雫は言うのに対し、貞夫は心の中でお前はエスパーか!!と吠えた。
「しかし、琴峰くん、襲撃者が今、地下二階にいるというのは本当かね?」
「確かめるまでもなくディスプレイ見ればわかると思うのですが…。」
呆れたように雫は言う。
ディスプレイの中で閉じられた防火壁に道を防がれた黒衣の襲撃者がいる。
襲撃者は防火壁横にある端末に手を当ていた。
「奴は何をしているのかね?」
「ええ、先ほどから毎回これのくり返しですよ。」
心底、嫌そうに雫は言った。
「こちら側で隔壁を落として奴の進行を止めようとしているのですが――――」
ディスプレイの中の襲撃者は少しの間、端末に手を当てた後、そこから手を離すと、防火壁が開いていく。
つまるところ、端末からイーグル本部のセキュリティシステムにハッキングをかけ、強制的に扉を開放しているのだ。
イーグルのセキュリティシステムは世界的な幅で見ても最上位に位置する程高度なものであり、それをハッキングするというのはとても容易いものではないし、例え出来たとしてもこの短時間で出来るようなものでは無い筈だ。
しかも黒衣の襲撃者はそれを携帯端末も使わず手で触れただけやってのけた。
これではまるで――そう言いかけた貞夫の口より先に雫は告げる。
「これではまるで私の力と同じですよ、本当に困った事に…。」
ふむ、と頷き貞夫は思考する。琴峰雫と同じく生体ハッキングの能力を持つ人間という事になる。
人間は体内で発電している。それは外部に発せられる程のものではないが、薬物を摂取し体質を変えていく事で、その人間は体内から体外に電気を放出する事が可能になる。
この能力を応用し、訓練して行く事によって、人は自身の脳と電子ネットワークが繋がる事が可能になるのである。
そこから自身の脳で作り上げたプログラムを用いて、人とコンピューターは別次元のものでありながら一体となる事が出来るという理論がある。
この理論を利用したハッキング技術が生体ハッキングという。
だが、まずこの能力の会得に必要とされる薬物が副作用が酷く、最悪は死者まで出したとされている。
その為、その薬物は政府から直に使用を禁止されている代物であった。そんなものを扱っている場所など世界で探してもたった1つしか無い。
いや、1つしか無かったというべきだろうか…。
「という事は、この襲撃者も琴峰研究所の研究の被験者という事かね?」
「他の機関があんな研究をしているのでなければ、おそらくは…。」
「だが、琴峰研究所における研究は1人につき1つの分野のみの特化では無かったのか?奴はそれでは説明が付かないように思えるが…。」
琴峰雫も今、黒衣の襲撃者がやったのと同じような事が出来る。だが、彼女はそれ以外の事に関しては普通の人間と変わらないのである。
むしろ、薬の副作用によって左目の視力を失っているという意味では普通の人間より劣っているといえるのかもしれない。
「いえ、1つだけ可能性があるんです、私たちの妹に1人だけそんな事が出来るような被験者が…。」
雫の声に少しだけ感傷が籠っているのを貞夫は感じる。
「それは…?」
「司令は解体された琴峰研究所の最終目的を覚えておられますか?」
「超人の作成。ありとあらゆる能力を逸脱した人間を超えた人間、その完成を目指すだったな。」
「そうです、そしてあの研究所の研究者たちは、解体される前、丁度今から半年前ぐらいだったと思いますが、ついに今までの研究を1つの形にすると称して、通称:ラストナンバー、№Iの製造に入ったそうです。」
「№I?」
「ええ、№Iが私たち被験者と違う所は№Iは私たちのような元々は普通の人間を使うのではなく、彼らがこれまでの研究成果から最も適したスペックを持つ人間を0から作る事でした。」
「クローンか、禁忌の領域にさらに踏み込むとは、やはり狂人だな彼らは…。」
貞夫が訝しげに感想を漏らす。
「事実そうであるとは思いますが、そう言われると少し心痛いものはあります、私たち『琴峰』は彼らに感謝もしているのですから…。」
「すまない、君たちは彼らに感謝の意味を込めて『琴峰』を名乗っているのを忘れていたよ。」
というのも、琴峰研究所という場所は技術として非道を用いてはいたが、完全な非道というわけでも無かったというのが一つある。
琴峰研究所の被験者は一般人より募集したものではない、成功すれば人間を逸した能力が得られるという文句があったが、当然ながらそんなリスクを冒す人間はいなかったし、彼らも普通の人間を被験体に使用しようとは考えてもいなかった。
彼らの被験者に選ばれるのは基本的にもはや命が付き果てようとしている人間だ。
彼らの用いる試薬は劇薬であるが、その反面、その人間の体を変化させ、常人では得られないような治癒力を得られる事が多い。
助かり用の無い病魔に体を蝕まれた者、紛争で瀕死の重傷を負った者に被験者として研究に協力しないかと…。
もしかしたらここで終わる命がもっと長く続くように出来るかもしれないと琴峰研究所は呼びかけ、何を行うか、カリキュラムを全て掲示し、同意を得られた場合のみ彼らはそれを被験者として扱い投薬を行うのである。
被験者側からすれば終わる事を確定づけられた命に再び火を灯すチャンスであり、幾人もの人間は自ら望んでその被験体として自らの体を差し出した。
どうせ死んでも元より終わる定めにあった命である、生き残れれば儲けものだと多くの人間は考えたのだ。
彼らの被験者になるという事は生半可なことでは無かったが、投薬によって九死に一生どころか、何をしても十死だった身に一生が宿らせる事が出来たという意味で、琴峰研究所の出身者は研究所の人間たちを恨んだりする事は無かった。
むしろ感謝の意を持っているものすらいるのが現状である。
研究所の出身者は琴峰という性を授けられる。琴峰研究所からの出身者といのは程度の差はあれど、人の域を超えた、超人の域に収まる能力を持っている。
それを示すためのある種のコードだ。
今、第七機関には数十名の琴峰が存在しているが、それらは全て、この研究所の出身者である。
「話を続けます。№Iは二か月前に会った原因不明の爆発事故で研究所が無くなった際に、一緒に№I自体も死んだとされていました。
その理由は彼女を培養していたという大型試験管も一緒に破砕しており、中のモノも無くなっていたからです。我々はそこから№I自身もその事故で焼失してしまったのだと結論づけました。」
「だが、その№Iが生きているという可能性も皆無では無いという事か…。」
貞夫は頷くように考えた。
「そうです、彼女が用いた生体ハッキングの技術は琴峰研究所で研究されていた方法に限りなく近い事からも他機関やその如そこらのテロリストとも考えられません、十中八九ほどの可能性で№Iとみて間違いないかと思います。」
「それで、また、なんでその№Iが我々を襲っていると思う?」
「ええ、それに関しては当てずっぽうではありますが、大体予想が付いています。
№Iは今、地下3階を走行して下層へと向かおうとしていますが、上層にあるこの司令部や、地下3階の資料管理庫などに目をくれずにただひたすら下の階へと向かっています。
そこより地下にあるもので特別奪うに値するものはこの本部には無いでしょう、ただ、一つの例外を除いては…つまりその例外、№Iの目的は――」
貞夫は背後の扉を見て、ため息をついた。
「地下五階、黒峰潤也か…。」
「ええ、そう考えるのが妥当です。どのような理由で黒峰潤也の元に行こうとしているのかまではわかりませんが、№Iもおそらくはブラックファントムの関係者もしくは誰かの指示を受けて奪いに来たとみるのが妥当といったところではないでしょうか?」
「琴峰研究所での製造がどれほど進んでいるとかはわからないが、№Iが自我をこの襲撃を持ってやってるのならば、どうしても彼女を生け捕りにしたいところだなぁー。
もし何かに操られているのだとしたら、それはそれでそこから黒幕を暴きだせるので、やはり捕縛しておきたいね。それにこれは琴峰研究所が無くなったあの事件の重要な参考人でもある。」
だが、それは難しいだろうなと貞夫は考える。
敵はものの数分で20名の警備員を一蹴してしまった程の能力の持ち主だ。
時峰九条クラスの脅威と考えるのだが妥当だろう。となると襲撃者がここまで来るのも時間の問題と考えられる。
この万全のセキュリティーも彼女の能力の前にはどこまで信用できるかわからない。
つまり打つ手は一つだけというわけだ。
「今、我々も彼女のハッキングに対し我々もプロテクトを作り直す事で時間稼ぎをしている状態ですが、その内破られてしまうでしょう、性能に関しては私の5倍ほどの能力があると思われます。」
「そこまでかね。」
貞夫は呆れたといわんばかりの相槌を打つ。
「ただの人間と、最初からそれように作られた超人ではそもそものモノが違うのでしょうね。私も今からバックアップに回ります。」
「私はあまり君に力を使って欲しくは無かったのだけれどね。」
くすりと雫は笑う。
「まあ、仕方ありませんよ、このような状況ですし、あと12分守り切ればどうであれ我々の勝ちです。では、そろそろ切ります、何か連絡があれば柳瀬に…。」
「ああ、ちょっと待ってくれ。」
貞夫は何かを思いついたように顎に手を当てて、雫を呼びとめる。
「確か、第三機関の紛争に介入した際に、テロリストから戦闘型の自動人形を10機程、鹵獲したよな、資料としてこっちで補完している奴。」
「えっと、確かあったと思います。」
「それ、ターゲットをその侵入者にして地下に送りこめ。」
「え、と、それは政府法に違反しているような…。」
「構わんよ、イレギュラー相手だ、それに我々が過大評価してなければ、時間稼ぎにしかならん、政府が禁じているのは自動人形を殺戮行為に使う事だ。
どうせ殺せんのだから、問題無い。責任は私が持つ。まあ、言い訳ぐらいは一緒に考えて欲しいが…。」
しかし、やはり過大評価かなと貞夫は内心思った。今、自分が考えているのは全てが時峰九条が相手だったらという話だ。
あれは人間の域の外にいる人間だ。だからこそ、そのようなありえない考えによる策を考える事になる。
いくら相手が、時峰九条の再現を目的とした超人を想定して作られた存在だったとしても、あの域に達しているかどうかはわからない、もしかすると殺してしまうかもしれない。
そうなれば、また別の所で大きな問題として発展してしまう。
だが、それ以外、今時間を稼ぐ手が無いように貞夫は考えた。
もし、黒峰潤也が謎の襲撃者に奪われたとなってはイーグルどころか、第七機関全体の沽券に関わる程の失態だ。
あれだけの犠牲を払って手に入れた微かな手掛かりをこんな馬鹿げた事で失うわけにはいかない。
最悪の場合は自分が全ての責任を背負う覚悟を貞夫はその時、決めた。
「わかりました。あと12分それだけの時間、守り切る事が出来れば、あとは我々の勝ちです。」
貞夫はため息をつく、本当に最悪だと思っていた事が自分たちの今自分たちの望みになっているというのはなんとも滑稽な話だ。
「まったく、災い転じて福となるとはこの事を言うのだろうな。」
「司令からしてみれば、災いがさらなる災いを連れて来たという方が正しいのかもしれませんね。」
貞夫は思わず笑ってしまった。雫の発言が非常に的を得てるように思えたからだ。
その笑いに対して雫は機械的に言った。
「今、笑った事も後ほどしっかり九条さんに報告させてもらいます。」
「この、外道!!鬼畜!!!」
「何も聞こえません。」
「ぐす、酷いなぁもう、どうしてこう、私は部下に恵まれないのか…。」
「人徳だと思ってください。」
「思えるか!!!!」
貞夫は雫の温もりの無い発言に頭を抱えた後、少し安心したように息を吐く。このような状況でも軽口を叩ける彼らなら、自分が司令部で直接指示を出さなくても大丈夫だろう。
「まあ、戯れもこの程度にして、あのどうしようもない奇天烈ババアが帰ってくるまでか弱き我々で一頑張りと行こうじゃないか…。」
そう軽口を叩く、貞夫に対して、誓いをするように雫は応えた。
「―――了解。」
そこにはブラックファントムの操縦者である黒峰潤也がいる。
だが、彼の心は今、この世界にを見ていない。
ただ、無感動に天井を見つめ続けているだけである。
黒峰潤也が寝ているベッドの横で一人の男が白衣を着た優男が持参した機器を設置する傍らで講釈をする。
「事前に説明したとおりですが、”彼”の意識は、確かに今ここにあるのだと考えられています。ですが、その意識が我々を捕える事はありません。
ただ、そこから動かずじっと、辺りの景色を眺めているだけなのです。
何人かの医師に見せた所、身体的外傷は見受けられませんでした。医師達は、二つの仮説をたてました。
精神的な何かが彼を襲い、それによって彼の精神が壊れてしまったか、もしくはそれから自身の心を守るため自閉する事によって、自身の精神を守っているかの二つです。
なにぶん心の問題故に、我々が処置出来る事も無く、ただ、時間によって彼が心がこちらの世界に戻ってくるのを待つ事がだけが我々にできる事でした。」
そう説明するイーグル総司令、秋常貞夫の言葉を聞いて、機器を設置している白衣の優男、レイン・フォード博士は疑問を貞夫に投げかけた。
「ブラックファントム本体の方の研究は進んでいるのですか?」
貞夫は頭をかいて
「恥ずかしながらこれもさっぱりと言った所です、ベースがS-16シュバルツだという事だけはわかっているのですが、あまりにもブラックボックスが多すぎて、まともに触れないというのが現状です。
ただ、一つわかったのはあの機体は一人乗りの機体では無いという事でした。」
「というと?」
「三日前にコックピット部分とは別に背部に小さな搭乗口が発見されたんです、人が一人なんとか入れそうなぐらいの大きさのものが…。」
「へぇーではあの機体は二人乗りの機体だと言う事ですか?」
フォード博士は素直に驚く、専門では無いにしろ、鋼獣を調べるにおいて鋼機のノウハウの基本程度は熟知している。
今の鋼機に二人乗りにする意味合いはほぼ無いと言えた、かつてS-10以前のOSが不全であったころならば補佐で二人乗りの必要であったかもしれないがS-11以降の鋼機に二人乗りである利点は少ないように見えた。
それでも、そうしたという事はそれに大きな意味があるのだろうか?
「ただ、おかしいんですよね、その背部の搭乗口には人が確かに入る場所があったのですが、そこに入った所で何か出来るのか?
というと特別な機器の類も無いですし、本当にそこに人が入れるだけなわけです。こちらとしてもこの機構が何のためにあるのか理解しかねる所がありまして…。」
「それはまた異な話ですね。それでいて興味深い話でもあります。」
興味深そうに頷きながらフォード博士は機器の取り付けを終え、ベッドの上にいる黒峰潤也の着衣にいくつかクリップ型の検出器を取り付けた。
貞夫はその様子を眺め、
「終わりましたか?」
と尋ねた。
今、黒峰潤也は物言わぬ眠り人である。
彼の口からいくらか情報を得られる事を期待していた為、彼がこのような状態になっていたのは非常に手痛いアクシデントであった。
ブラックファントム本体の解析も思うように進まない今、イーグルの中には焦りがある。
それ故に燕の涙ほどでも情報を得られる可能性があるのでは?という考えからイーグルは第六機関に調査を依頼し、ナノマシンの権威であるレイン・フォード博士を招く事になった。
いまや物言わぬ状態であるといえども、その体から調べられる事もある。その一つがナノマシンだ。
ナノマシンはその発展とともに急速に拡大、普及し、今やほとんどの人間が体内にナノマシンを取り入れている事になった。
物言わぬこの青年の人物特定が早期に出来たのも、彼のナノマシンにある、IDを読みこんだ故の話だ。
だが、そのIDの読み込みを行った際、従来のナノマシンに加え、また別の正体不明のナノマシンが彼の体に注入されている事が判明した。
何度かその摘出を心見ようとしたのだが、どのような手段を用いてもそのナノマシンは摘出する事が出来ず、何せ彼の体にはナノマシンを摘出しようにも注射針一つ刺さらないのである。
それからいくつかの方法を試みたがわかったのは刃物が彼の体に刺さらないと言う事だ。第六機関にデータを回して調査を依頼したというわけだ。
そして、今、フォード博士が体内のナノマシンの一部を検出し、摘出する作業を始めている。
「今、ナノマシンが体のどの部分に広がっているかを確認しています、体のどの部位に一番ナノマシンが集まっているかを判別して、そこから摘出を行うというわけで…あ、あれ…。」
フォード博士は計器に映されたデータを見て、素っ頓狂な声を上げた。
そう驚いた顔を見せるフォード博士に貞夫は首を傾げながら、
「どうされました?」
と尋ねた。
「い、いえ、いくらなんでもこれは意外というかおかしいというか…。」
「というと?」
「ええ、普通ならばナノマシンというのは体の各部に分散しているのが普通なわけです。
一部どこかに集まっていても、基本的には散らばっていて、体の各部に存在している筈なのですが、なんというか、これは…とりあえず口で言うより見てもらった方が早いかもしれませんね。」
そういってフォード博士は計器の情報が映し出されたディスプレイを貞夫に見えるように掲げる。
ナノマシンの事など一般常識程度しか知らぬ自分が見た所で何がわかるのだろうか?という思いを感じつつも貞夫はそのディスプレイを見つめた。
その瞬間、貞夫の顔は驚愕の相貌に変化する。
ディスプレイの中には人体図に体のどこにナノマシンがあるのか光点で示すようになっている。
フォード博士曰く、一部集まる個所はあったとしても基本的には分散しているのだそうだ。
それもそうだろう、ナノマシンは体の中を駆け巡るように動いているものであり、何処かに一部に留まると言う事は無い筈なのだ。
あったとしてもそれはナノマシン自体がなんらかの機能をしているという事に他ならない。
ではこの、目の前に映っているものは何だと言うのだろうかと貞夫は驚愕する。
かつて、彼の体を探っていた時もこのような事は起こる事は無かった。
これは貞夫からしても初めてみる現象である。
「こんな事がありえたとして、一体それは何を意味しているのですか!?」
貞夫は純粋な疑問を問う。
「さあ、わかりません、ただ、彼の体内にあるナノマシンが何かに反応しているのは確かだと思います。まるで何かを検出しそれを求めている…そんな風に感じますね。」
携帯ディスプレイには黒峰潤也の右腕に全てのナノマシンが集まっているという異な光景が繰り広げられていた。
「しかし、これで採取は簡単にはなりました、作業を始めましょう。聞いた所、彼の体には注射器の針が刺さらないそうですね?」
「ええ、確かにそうです。といよりは刺さるのですが、折られてしまうというか、外気に汚染された雫程度の血液ではサンプルとしてもあまり使えたものではありませんし…。」
「となると、自己増殖型のナノマシンだと思います、秋常司令はご存知無いかと思いますが、違法とされ、作られなくなったナノマシンに自己増殖型というものがありまして、
これは外傷などを受けた場合、血中の成分から自己を増殖する事で高速でその補修に向かうという能力があります。
ただ自己増殖型のナノマシンはリスクも多くて、世界政府から研究を禁じられていたものでした。だから、第七機関ではわからなかったのでしょう。
ちなみに、あの鋼獣のナノマシン装甲にも同じような技術が使われていると我々は考えています。もしかすると彼は我々側というよりは、あちら側の人間なのかもしれませんね。」
「ふむ、しかし、これほど傷の補修が早いとなると、摘出も難しいのでは無いですか?」
「いえ、そうでもありません、ナノマシンといえども機械です、つまるところ―――」
フォード博士はバッグの中から棒のようなものを取り出した。
それから出ているケーブルを部屋の隅にあったコンセントにプラグに差し込み、棒の尾にある取っ手をぐるりと回す。
そうすると棒の先に一瞬、光が走った。
「電流を流すという事ですか?」
「ええ、そうです。軽い火傷ぐらいはするかもしれませんが、人体にはそれ以上の被害が無い程度の電圧で流すだけですので彼の体がどうこうなる事は心配しないでください。ナノマシンの機能を一時的に麻痺させて採取できるようにするだけです。」
ふむ、と貞夫は頷く。
「それならばよろしくお願いします。」
「了解しました。」
フォード博士は潤也の右腕に棒を当てる。
そうして電流を流そうとしたその時――――部屋に警報が鳴り響いた。
「えっ。」
フォード博士は警報に驚いて、棒を落とす。
落とした棒はカランカランと音を立て転がりベットの足にぶつかって止まった。
「第一級警報(コードレッド)?」
時峰九条がやってきたのだろうか?否、それならばこのような第一級警報が発令される事は無い。
彼女は人間台風である事は確かだが、彼女の起こす災害は想定された災害だ。
つまりはこの警報は本当に何か一大事が起こった事を意味している。
貞夫は直ちに部屋から出てすぐさま外にある緊急回線から、司令部に連絡を取る。
携帯端末から連絡を取っても良かったのだが、こちらから本部に連絡を取る際には、手続きを経なければならない為、内部回線であるこちらの方が手が早いと貞夫は踏んだのだ。
数秒の待ち時間の後、イーグル本部、15階にある司令本部と地下5階の回線がつながった。
「こ、こちら、司令本部、秋常司令ですか?」
回線越しに言葉をかけて来たのはオペレーターの柳瀬恵だった。
「何事だ、柳瀬くん。」
「そ、それが、現在、イーグル本部が正体不明の何かから襲撃を受けています。そんな、警備隊が全滅だなんて、一体、あ、あれは何なの!!!」
柳瀬の声は焦りの色が露わになっていた
「柳瀬くん、落ちつきたまえ、敵はいったいどれぐらいの規模でここを襲っているのかね!!」
「き、規模ですが、それが一人です、少なくともこの司令部にいる人間の目がこの世界じゃないモノを見ているのじゃなければ一人です!!」
嘘のような話だったが、柳瀬の声はそれが嘘ではないそう思わせるだけの緊迫感を感じさせている。
馬鹿なと貞夫は毒づく、そんな事が出来る人間がこの世に時峰九条以外にいてたまるものかと…。
「それは時峰副司令じゃないのかね。」
それはあの婆ならやりそうな事だった。
この本部を単独で制圧して、あー最近の若いもんはなっちゃいないねぇーこんな老婆一人に占拠されてるようじゃ、あたしゃあんたたちの今後が心配であと50年は死ねないよとのたまうのだ。
それは非現実的な話であったが時峰九条という人間を知る貞夫の中では非常に現実味のある話であった。
だがその思考は即座に一蹴される。
「い、いえ、それはありえません、副司令は中央支部からこちらに1時間前に輸送機で発ったばかりです、こちらに到着するにもどんなに早くともあと15分はかかると思われます。
それにすぐさま、私たちは確認と取りました。時峰副司令はまだ輸送機の中にいます。」
貞夫は考える。となると今、このイーグル本部は時峰九条クラスの人間に襲撃を受けているという事になのだろうか…?
あのような人間があの婆のほかにいるなど考えたくも無かったが、少なくともそれを連想させるほどの敵の襲撃を受けているという事実は認めなくてはならない。
ならば、この地下5階で自分が取れる行動とは何であるか?
貞夫の後ろでフォード博士が不安そうな顔を覗かせる。
貞夫はそれに笑って大丈夫ですよと笑って答えた。
「柳瀬君、その襲撃者の様相や目的はわかるかね?あと、私の携帯端末の方に襲撃者の映像を回せるか?」
「え、あ、はい、映像の送信は今すぐ行います。」
貞夫の持つ端末のディスプレイに、映像が映し出される。
そこには黒いフードに身を包んだ仮面の人間が映し出されている。
若干カメラの位置が遠いのと素顔が仮面で隠されていて見えない事、黒衣に体型が隠されている事から女性か男性かまで特定する事は出来なかった。
これでは実際に襲撃者を捕まえなければ単なるテロ目的か、それとも何処からかの差し金による襲撃か掴む事も難しい。
「襲撃者は今、地下2階を走行中です。あのマントの下にいくつか武器を隠しているようですが今の所、火器の類は使われた形跡がありません。ただ、琴峰さんが、え、はい、変わります。」
きゃっと柳瀬は慌てたような声を出した後、スピーカー越しに別の人間の声が聞こえて来た。
「司令、琴峰です。どうも襲撃者はバンデッドスーツを着用している模様です。」
「バンデッドスーツというとあれかね、確か、兵器開発局で考案されていた工作員用の多機能マッスルスーツ。」
「奴にやられた警備のものからもマントの下にゴム状のスーツを着込んでいるとの事でもしかしたらと照会した所、類似点が多く、まずそう見て間違いないと思われます。マントの方も防弾繊維のものかと…。」
「ん、全滅と柳瀬くんから聞いていたが、生存者はいるのかね?」
「ええ、正確には警備隊の隊員全てが、無力化されたというのが正しいです。武器を解体されスタンガンのようなもので意識を奪われていました。今、意識を取り戻した隊員から情報を集めている所でもあります。」
「ふむ、敵にどういう意図があるかわからんが、それは不幸中の幸いだな。しかし、それならばさらに謎だ、所詮はマッスルスーツで人体機能がどれほど強化出来た所で1.5倍程度の筈だ、それだけで本部の警備隊を全て無力化できるとはとても思えん。
彼らは仮にも我がイーグルの人間だぞ、機関軍あがりの人間もいる、それが全てたかだか一人の襲撃者にやられる等という事はありえるのかね?」
貞夫は純粋な疑問を問うた。
「司令の疑問は当然だと思います、九条さんでもこうも正面から私たちの警備を抜ける事はおそらくは無理でしょう、ですが、敵はそれが出来る人間だという事です。
我々はまずその認識を持たねばなりません。あんな事は可能なのかどうなのか?という疑問は今、持つべき思案では無いでしょう。」
雫の正論に、貞夫は頷く。
年をとるとどうも考えが固定観念に囚われ安くなっていかんと貞夫をは思った。
「ちなみに司令が今何を考えているかわかりますが、私も42ですよ、一般的に言うならば、頭が固くなると言われている年頃です。
そんな私でもこれぐらいの応対が出来るのですから、往年のベテランがこのぐらいの認識が出来ないでどうするんですか?年のせいにしないでください。」
釘を刺すように雫は言うのに対し、貞夫は心の中でお前はエスパーか!!と吠えた。
「しかし、琴峰くん、襲撃者が今、地下二階にいるというのは本当かね?」
「確かめるまでもなくディスプレイ見ればわかると思うのですが…。」
呆れたように雫は言う。
ディスプレイの中で閉じられた防火壁に道を防がれた黒衣の襲撃者がいる。
襲撃者は防火壁横にある端末に手を当ていた。
「奴は何をしているのかね?」
「ええ、先ほどから毎回これのくり返しですよ。」
心底、嫌そうに雫は言った。
「こちら側で隔壁を落として奴の進行を止めようとしているのですが――――」
ディスプレイの中の襲撃者は少しの間、端末に手を当てた後、そこから手を離すと、防火壁が開いていく。
つまるところ、端末からイーグル本部のセキュリティシステムにハッキングをかけ、強制的に扉を開放しているのだ。
イーグルのセキュリティシステムは世界的な幅で見ても最上位に位置する程高度なものであり、それをハッキングするというのはとても容易いものではないし、例え出来たとしてもこの短時間で出来るようなものでは無い筈だ。
しかも黒衣の襲撃者はそれを携帯端末も使わず手で触れただけやってのけた。
これではまるで――そう言いかけた貞夫の口より先に雫は告げる。
「これではまるで私の力と同じですよ、本当に困った事に…。」
ふむ、と頷き貞夫は思考する。琴峰雫と同じく生体ハッキングの能力を持つ人間という事になる。
人間は体内で発電している。それは外部に発せられる程のものではないが、薬物を摂取し体質を変えていく事で、その人間は体内から体外に電気を放出する事が可能になる。
この能力を応用し、訓練して行く事によって、人は自身の脳と電子ネットワークが繋がる事が可能になるのである。
そこから自身の脳で作り上げたプログラムを用いて、人とコンピューターは別次元のものでありながら一体となる事が出来るという理論がある。
この理論を利用したハッキング技術が生体ハッキングという。
だが、まずこの能力の会得に必要とされる薬物が副作用が酷く、最悪は死者まで出したとされている。
その為、その薬物は政府から直に使用を禁止されている代物であった。そんなものを扱っている場所など世界で探してもたった1つしか無い。
いや、1つしか無かったというべきだろうか…。
「という事は、この襲撃者も琴峰研究所の研究の被験者という事かね?」
「他の機関があんな研究をしているのでなければ、おそらくは…。」
「だが、琴峰研究所における研究は1人につき1つの分野のみの特化では無かったのか?奴はそれでは説明が付かないように思えるが…。」
琴峰雫も今、黒衣の襲撃者がやったのと同じような事が出来る。だが、彼女はそれ以外の事に関しては普通の人間と変わらないのである。
むしろ、薬の副作用によって左目の視力を失っているという意味では普通の人間より劣っているといえるのかもしれない。
「いえ、1つだけ可能性があるんです、私たちの妹に1人だけそんな事が出来るような被験者が…。」
雫の声に少しだけ感傷が籠っているのを貞夫は感じる。
「それは…?」
「司令は解体された琴峰研究所の最終目的を覚えておられますか?」
「超人の作成。ありとあらゆる能力を逸脱した人間を超えた人間、その完成を目指すだったな。」
「そうです、そしてあの研究所の研究者たちは、解体される前、丁度今から半年前ぐらいだったと思いますが、ついに今までの研究を1つの形にすると称して、通称:ラストナンバー、№Iの製造に入ったそうです。」
「№I?」
「ええ、№Iが私たち被験者と違う所は№Iは私たちのような元々は普通の人間を使うのではなく、彼らがこれまでの研究成果から最も適したスペックを持つ人間を0から作る事でした。」
「クローンか、禁忌の領域にさらに踏み込むとは、やはり狂人だな彼らは…。」
貞夫が訝しげに感想を漏らす。
「事実そうであるとは思いますが、そう言われると少し心痛いものはあります、私たち『琴峰』は彼らに感謝もしているのですから…。」
「すまない、君たちは彼らに感謝の意味を込めて『琴峰』を名乗っているのを忘れていたよ。」
というのも、琴峰研究所という場所は技術として非道を用いてはいたが、完全な非道というわけでも無かったというのが一つある。
琴峰研究所の被験者は一般人より募集したものではない、成功すれば人間を逸した能力が得られるという文句があったが、当然ながらそんなリスクを冒す人間はいなかったし、彼らも普通の人間を被験体に使用しようとは考えてもいなかった。
彼らの被験者に選ばれるのは基本的にもはや命が付き果てようとしている人間だ。
彼らの用いる試薬は劇薬であるが、その反面、その人間の体を変化させ、常人では得られないような治癒力を得られる事が多い。
助かり用の無い病魔に体を蝕まれた者、紛争で瀕死の重傷を負った者に被験者として研究に協力しないかと…。
もしかしたらここで終わる命がもっと長く続くように出来るかもしれないと琴峰研究所は呼びかけ、何を行うか、カリキュラムを全て掲示し、同意を得られた場合のみ彼らはそれを被験者として扱い投薬を行うのである。
被験者側からすれば終わる事を確定づけられた命に再び火を灯すチャンスであり、幾人もの人間は自ら望んでその被験体として自らの体を差し出した。
どうせ死んでも元より終わる定めにあった命である、生き残れれば儲けものだと多くの人間は考えたのだ。
彼らの被験者になるという事は生半可なことでは無かったが、投薬によって九死に一生どころか、何をしても十死だった身に一生が宿らせる事が出来たという意味で、琴峰研究所の出身者は研究所の人間たちを恨んだりする事は無かった。
むしろ感謝の意を持っているものすらいるのが現状である。
研究所の出身者は琴峰という性を授けられる。琴峰研究所からの出身者といのは程度の差はあれど、人の域を超えた、超人の域に収まる能力を持っている。
それを示すためのある種のコードだ。
今、第七機関には数十名の琴峰が存在しているが、それらは全て、この研究所の出身者である。
「話を続けます。№Iは二か月前に会った原因不明の爆発事故で研究所が無くなった際に、一緒に№I自体も死んだとされていました。
その理由は彼女を培養していたという大型試験管も一緒に破砕しており、中のモノも無くなっていたからです。我々はそこから№I自身もその事故で焼失してしまったのだと結論づけました。」
「だが、その№Iが生きているという可能性も皆無では無いという事か…。」
貞夫は頷くように考えた。
「そうです、彼女が用いた生体ハッキングの技術は琴峰研究所で研究されていた方法に限りなく近い事からも他機関やその如そこらのテロリストとも考えられません、十中八九ほどの可能性で№Iとみて間違いないかと思います。」
「それで、また、なんでその№Iが我々を襲っていると思う?」
「ええ、それに関しては当てずっぽうではありますが、大体予想が付いています。
№Iは今、地下3階を走行して下層へと向かおうとしていますが、上層にあるこの司令部や、地下3階の資料管理庫などに目をくれずにただひたすら下の階へと向かっています。
そこより地下にあるもので特別奪うに値するものはこの本部には無いでしょう、ただ、一つの例外を除いては…つまりその例外、№Iの目的は――」
貞夫は背後の扉を見て、ため息をついた。
「地下五階、黒峰潤也か…。」
「ええ、そう考えるのが妥当です。どのような理由で黒峰潤也の元に行こうとしているのかまではわかりませんが、№Iもおそらくはブラックファントムの関係者もしくは誰かの指示を受けて奪いに来たとみるのが妥当といったところではないでしょうか?」
「琴峰研究所での製造がどれほど進んでいるとかはわからないが、№Iが自我をこの襲撃を持ってやってるのならば、どうしても彼女を生け捕りにしたいところだなぁー。
もし何かに操られているのだとしたら、それはそれでそこから黒幕を暴きだせるので、やはり捕縛しておきたいね。それにこれは琴峰研究所が無くなったあの事件の重要な参考人でもある。」
だが、それは難しいだろうなと貞夫は考える。
敵はものの数分で20名の警備員を一蹴してしまった程の能力の持ち主だ。
時峰九条クラスの脅威と考えるのだが妥当だろう。となると襲撃者がここまで来るのも時間の問題と考えられる。
この万全のセキュリティーも彼女の能力の前にはどこまで信用できるかわからない。
つまり打つ手は一つだけというわけだ。
「今、我々も彼女のハッキングに対し我々もプロテクトを作り直す事で時間稼ぎをしている状態ですが、その内破られてしまうでしょう、性能に関しては私の5倍ほどの能力があると思われます。」
「そこまでかね。」
貞夫は呆れたといわんばかりの相槌を打つ。
「ただの人間と、最初からそれように作られた超人ではそもそものモノが違うのでしょうね。私も今からバックアップに回ります。」
「私はあまり君に力を使って欲しくは無かったのだけれどね。」
くすりと雫は笑う。
「まあ、仕方ありませんよ、このような状況ですし、あと12分守り切ればどうであれ我々の勝ちです。では、そろそろ切ります、何か連絡があれば柳瀬に…。」
「ああ、ちょっと待ってくれ。」
貞夫は何かを思いついたように顎に手を当てて、雫を呼びとめる。
「確か、第三機関の紛争に介入した際に、テロリストから戦闘型の自動人形を10機程、鹵獲したよな、資料としてこっちで補完している奴。」
「えっと、確かあったと思います。」
「それ、ターゲットをその侵入者にして地下に送りこめ。」
「え、と、それは政府法に違反しているような…。」
「構わんよ、イレギュラー相手だ、それに我々が過大評価してなければ、時間稼ぎにしかならん、政府が禁じているのは自動人形を殺戮行為に使う事だ。
どうせ殺せんのだから、問題無い。責任は私が持つ。まあ、言い訳ぐらいは一緒に考えて欲しいが…。」
しかし、やはり過大評価かなと貞夫は内心思った。今、自分が考えているのは全てが時峰九条が相手だったらという話だ。
あれは人間の域の外にいる人間だ。だからこそ、そのようなありえない考えによる策を考える事になる。
いくら相手が、時峰九条の再現を目的とした超人を想定して作られた存在だったとしても、あの域に達しているかどうかはわからない、もしかすると殺してしまうかもしれない。
そうなれば、また別の所で大きな問題として発展してしまう。
だが、それ以外、今時間を稼ぐ手が無いように貞夫は考えた。
もし、黒峰潤也が謎の襲撃者に奪われたとなってはイーグルどころか、第七機関全体の沽券に関わる程の失態だ。
あれだけの犠牲を払って手に入れた微かな手掛かりをこんな馬鹿げた事で失うわけにはいかない。
最悪の場合は自分が全ての責任を背負う覚悟を貞夫はその時、決めた。
「わかりました。あと12分それだけの時間、守り切る事が出来れば、あとは我々の勝ちです。」
貞夫はため息をつく、本当に最悪だと思っていた事が自分たちの今自分たちの望みになっているというのはなんとも滑稽な話だ。
「まったく、災い転じて福となるとはこの事を言うのだろうな。」
「司令からしてみれば、災いがさらなる災いを連れて来たという方が正しいのかもしれませんね。」
貞夫は思わず笑ってしまった。雫の発言が非常に的を得てるように思えたからだ。
その笑いに対して雫は機械的に言った。
「今、笑った事も後ほどしっかり九条さんに報告させてもらいます。」
「この、外道!!鬼畜!!!」
「何も聞こえません。」
「ぐす、酷いなぁもう、どうしてこう、私は部下に恵まれないのか…。」
「人徳だと思ってください。」
「思えるか!!!!」
貞夫は雫の温もりの無い発言に頭を抱えた後、少し安心したように息を吐く。このような状況でも軽口を叩ける彼らなら、自分が司令部で直接指示を出さなくても大丈夫だろう。
「まあ、戯れもこの程度にして、あのどうしようもない奇天烈ババアが帰ってくるまでか弱き我々で一頑張りと行こうじゃないか…。」
そう軽口を叩く、貞夫に対して、誓いをするように雫は応えた。
「―――了解。」
イーグル本部地下三階。
わたし以外誰もいない廊下。
人による音の立たないそこは言いようのない清潔感を感じさせ、それと同時に言いようのない孤独さを感じさせる。
そのような中にいるせいか普段、耳を傾けない天井にある換気扇のカランカランという音が非常に大きく聞こえ、それがわたしの心を苛立たせた。
深呼吸をし、落ち着けと心の中でわたしはわたしに声をかける。
ここまでは非常に順調に進んでいる。
今は地下三階だが、当初手に入れておいたマップ通りならば、今、目の前にあるこれを処理すれば地下四階に繋がる非常階段に辿りつく筈だ。
幸運な事に、最初に倒した十数名の警備員と、数名の追手を撃退して以降、自分を追ってくる敵はいない。
『あの男』からもたらされた情報通り、戦力になる人間は出払っており、警備員ぐらいしか今この本部にはいないという事なのだろう。
あと片づけなければならないのは目の前にあるこの隔壁だ。
廊下の先をカメラのシャッターの蓋のような形状の扉で固く閉じ、わたしの進む道を塞いでいる。
もうこれで8つ目の処理になる。
あまり無駄な時間を過ごしたくないわたしとしては、どうせならば本部をハッキングして、制御を全部奪ってしまいたいのだが、ハッキング中はそちらに神経を回すため、無防備になる。
流石にこれだけの規模の組織の本部をハッキングするとなると時間がかかり、それは追手からもしもの追撃があった場合に対応が取れないという事を意味する。
今のわたしは侵入者であり、敵はわたしを排除の対象として襲ってくるだろう。
それを考慮するとちまちまとした作業ではあるが、短時間の意識集中で済むため比較的周りにも気を配れるこれが上策だと結論付けるに至ったというわけである。
だが、本当ならばすぐさま黒峰潤也の元に駆けつけたい気持ちがわたしの中にはある。
今すぐ逢いたい、ずっと我慢してきた、今日まで、ずっと…機会が来るまでずっと…。
それはわたしにとってみれば地獄だった。この上ない、生き地獄だった。
だからこそ、やっと到来したこの機会に危険などかなぐり捨ててわたしは最短の道を取りたいという強い気持ちがある。
だが、そう考えるたびにかつて戦いの中で潤也がわたしに言った言葉を思い出す。
それは確か、敵との出会いがしらに『因果終焉』による敵の排除をわたしが提案した時のことだったと思う。
鋼獣、鬼亀(きき)との戦闘時だ。鬼亀は呼称だけは判明している鋼獣であったが、見るからに鈍重で巨体であった為に、わたしは即座にブリューナクでの『因果終焉』で片づける事を提案したのだ。
あれ程、鈍重に見える相手ならば、手の内を見せる前に倒してしまうのが最も上策だと…。
だが、そう判断したわたしの考えに潤也は呆れたような声で言った。
「お前は今、あの亀の能力を外見から判断してその考えを言ったんだろうが、結局、奴の特性はわからないままだ。
ブリューナクの『因果終焉』は確かに最強の一撃だがそれだけにリスクが高い、もし奴の特性が俺たちの予想を大きく上回るものであったとするならば、全てが台無しになる事もある。
いいか、藍、俺たちは負けられない勝負をしている、捨てて良い命ならばそんな事を気にしなくていいが、俺たちに必要なのは生きて勝つ事だ。だから、例えそれが石橋を叩いて渡るような戦い方でも確実に一歩を踏み進める戦い方をしなければならない。
俺たちに必要なのは必勝の戦い方だ。俺とともに戦うのならば、それを心の奥にまで刻んで戦え。」
そういって、潤也とわたしは戦いに臨んだ。実際、潤也の判断は正しかった。
鬼亀の特性、それは背中から足元まで覆う甲羅は本当は巨大な電磁発生器であり、それにより磁力の反発を利用した超加速というその巨体に見合わぬ程の高速移動の能力を持っていたのだ。
もし外見から判断して『因果終焉』を執行していたら、その外見に見合わぬ速さで回避され、リベジオンは窮地に陥っていただろう。
それは非常に苦戦を強いられた戦いであったが、潤也が相手の能力から講じた奇策が功を成して、その戦闘に勝利をする事に成功した。
そこでわたしは学び、その思考を自己の中に浸透させる事になった。
そうして今、私はその教えを学び、最速とは言えないが着実な一歩を踏み、前に進んでいる。
わたしは閉じている防火壁の横にある操作パネルに手を触れた。
その操作パネルは、この施設の司令部からセキュリティロックされており、ここからは端末を操作する事が出来ないようになっている。
しかし、わたしにはそんな事は大した問題にはならない。
少し呼吸をし、精神を統一。
今、わたしが行おうとしているのは仮想世界に自身の精神を投影する作業である。
それは荒波の中に裸の自分を投げ出すような行為であり、些細な出来事が自分の心に大きなダメージを与える事がある。
だから、そういったその中であらゆる出来事を想定して耐える事が出来るようにわたしは精神集中し、意識を尖らせていく。
アクセス。
手のひらから発せられた電流を介してわたしと操作パネルの制御システムと世界を共有する。
仮想世界のわたしの目の前に様々な世界が流れる。
流石に仮想世界の中までは仮面とフードを持ってこれず、わたしは素顔を世界に晒す。だからといってどうというものでもないのだが、出来ればこの顔を仮想世界とはいえ、外気に晒したくないので少しだけ重い気持ちになる。
わたしは回路を辿り、目的の場所まで仮想世界を泳ぐ。
既に今日、8度目のアクセスだ。システムの構造も把握したし、セキュリティに用いられている暗号の法則性も理解している。
その成果もあってか、ものの10秒で私は目的地に到着する事に成功した。
目の前に第八隔壁セキュリティシステムと書かれている大きな扉がある。
これは本当にそこに本当にあるのではなく、この回路に存在している様々なプログラムをわたしが視認し脳内でそう映像化しているというものだ。
ソフトを用いて視覚化し、英数字の羅列であるプログラムを英数字を打つのではなく、触る事で操作できるようにしたというべきかもしれない。
つまりはこの目の前にある扉こそが、現実世界でわたしがあけようとしている扉のセキュリティ。
わたしはこの扉を開く事によって、あの操作パネルで隔壁を開けられるようにする為、扉に手を触れ、セキュリティ解除に必要な暗号キーの検索を行う。
暗号といっても法則性はあるもので、それを読み取る事が出来るのならば、64桁の暗号など容易く手に入れる事が出来る。
問題はここのセキュリティは2分ごとに更新され、その際に暗号も変わっているという事だ。
時間との勝負である。
とはいえ、既に手慣れたものであったし、わたしの中にダウンロードされた『成果』は容易くそのセキュリティを突破する。
第八隔壁セキュリティシステムと名前のついた扉が開く、あとはこの先にある制御装置から操作パネルと隔壁の接続を再びつなげるように操作すれば良い。
わたしは扉の奥に進み、制御装置の前に立った。
制御装置はパーソナルコンピューターのような形をした端末としてわたしの目には映されている。
わたしはそれを手動で起動させた。
その時、
「ここまで早いとは…出来ればセキュリティのロックが外される前に到着したかったのですが、これが試作品と完成品の性能差という奴なのですね。少し、ショックです。」
後ろでそんな事を拗ねたように呟く声がした。
一瞬、わたしはそれが現実で起こった事なのかと誤解する。
だが、それは機械言語でわたしに向けて送られてきたものが自動的に声として変換されたものだ。
ならば、それは現実世界にいるわたしに向けてかけられた言葉では無い。
後ろに振り返る。そこにはスーツ姿の黒髪の女性が立っていた。
容姿から20代後半辺りを思わせる。
わたしには素直に驚きがあった。目の前にいる女性がこの仮想世界にいるその事が普通ならばありえない事だからだ。
わたしの目にはプログラムが視覚化され、なんらかの形状を取るように認識はされるものの、それは所詮、命の無い機械的なものでしかない、つまりは無機物として認識される筈なのだ。
だが、目の前にいる人型の有機物はそこにあるだけ所かわたしに己の意思を持って声をかけてきている。
これが意味する事は1つ、わたしと同じ手段で入ってきた人間であるという事を意味していた。
目の前の女性は驚きを隠せないわたしに向かってふっと笑って礼をした。
「初めまして、 №I、わたしは第七機関直属組織『イーグル』総司令秋常貞夫の副官を任されている琴峰雫です。大変申し訳ありませんが、2分ほどわたしに付き合ってもらいます。」
わたし以外誰もいない廊下。
人による音の立たないそこは言いようのない清潔感を感じさせ、それと同時に言いようのない孤独さを感じさせる。
そのような中にいるせいか普段、耳を傾けない天井にある換気扇のカランカランという音が非常に大きく聞こえ、それがわたしの心を苛立たせた。
深呼吸をし、落ち着けと心の中でわたしはわたしに声をかける。
ここまでは非常に順調に進んでいる。
今は地下三階だが、当初手に入れておいたマップ通りならば、今、目の前にあるこれを処理すれば地下四階に繋がる非常階段に辿りつく筈だ。
幸運な事に、最初に倒した十数名の警備員と、数名の追手を撃退して以降、自分を追ってくる敵はいない。
『あの男』からもたらされた情報通り、戦力になる人間は出払っており、警備員ぐらいしか今この本部にはいないという事なのだろう。
あと片づけなければならないのは目の前にあるこの隔壁だ。
廊下の先をカメラのシャッターの蓋のような形状の扉で固く閉じ、わたしの進む道を塞いでいる。
もうこれで8つ目の処理になる。
あまり無駄な時間を過ごしたくないわたしとしては、どうせならば本部をハッキングして、制御を全部奪ってしまいたいのだが、ハッキング中はそちらに神経を回すため、無防備になる。
流石にこれだけの規模の組織の本部をハッキングするとなると時間がかかり、それは追手からもしもの追撃があった場合に対応が取れないという事を意味する。
今のわたしは侵入者であり、敵はわたしを排除の対象として襲ってくるだろう。
それを考慮するとちまちまとした作業ではあるが、短時間の意識集中で済むため比較的周りにも気を配れるこれが上策だと結論付けるに至ったというわけである。
だが、本当ならばすぐさま黒峰潤也の元に駆けつけたい気持ちがわたしの中にはある。
今すぐ逢いたい、ずっと我慢してきた、今日まで、ずっと…機会が来るまでずっと…。
それはわたしにとってみれば地獄だった。この上ない、生き地獄だった。
だからこそ、やっと到来したこの機会に危険などかなぐり捨ててわたしは最短の道を取りたいという強い気持ちがある。
だが、そう考えるたびにかつて戦いの中で潤也がわたしに言った言葉を思い出す。
それは確か、敵との出会いがしらに『因果終焉』による敵の排除をわたしが提案した時のことだったと思う。
鋼獣、鬼亀(きき)との戦闘時だ。鬼亀は呼称だけは判明している鋼獣であったが、見るからに鈍重で巨体であった為に、わたしは即座にブリューナクでの『因果終焉』で片づける事を提案したのだ。
あれ程、鈍重に見える相手ならば、手の内を見せる前に倒してしまうのが最も上策だと…。
だが、そう判断したわたしの考えに潤也は呆れたような声で言った。
「お前は今、あの亀の能力を外見から判断してその考えを言ったんだろうが、結局、奴の特性はわからないままだ。
ブリューナクの『因果終焉』は確かに最強の一撃だがそれだけにリスクが高い、もし奴の特性が俺たちの予想を大きく上回るものであったとするならば、全てが台無しになる事もある。
いいか、藍、俺たちは負けられない勝負をしている、捨てて良い命ならばそんな事を気にしなくていいが、俺たちに必要なのは生きて勝つ事だ。だから、例えそれが石橋を叩いて渡るような戦い方でも確実に一歩を踏み進める戦い方をしなければならない。
俺たちに必要なのは必勝の戦い方だ。俺とともに戦うのならば、それを心の奥にまで刻んで戦え。」
そういって、潤也とわたしは戦いに臨んだ。実際、潤也の判断は正しかった。
鬼亀の特性、それは背中から足元まで覆う甲羅は本当は巨大な電磁発生器であり、それにより磁力の反発を利用した超加速というその巨体に見合わぬ程の高速移動の能力を持っていたのだ。
もし外見から判断して『因果終焉』を執行していたら、その外見に見合わぬ速さで回避され、リベジオンは窮地に陥っていただろう。
それは非常に苦戦を強いられた戦いであったが、潤也が相手の能力から講じた奇策が功を成して、その戦闘に勝利をする事に成功した。
そこでわたしは学び、その思考を自己の中に浸透させる事になった。
そうして今、私はその教えを学び、最速とは言えないが着実な一歩を踏み、前に進んでいる。
わたしは閉じている防火壁の横にある操作パネルに手を触れた。
その操作パネルは、この施設の司令部からセキュリティロックされており、ここからは端末を操作する事が出来ないようになっている。
しかし、わたしにはそんな事は大した問題にはならない。
少し呼吸をし、精神を統一。
今、わたしが行おうとしているのは仮想世界に自身の精神を投影する作業である。
それは荒波の中に裸の自分を投げ出すような行為であり、些細な出来事が自分の心に大きなダメージを与える事がある。
だから、そういったその中であらゆる出来事を想定して耐える事が出来るようにわたしは精神集中し、意識を尖らせていく。
アクセス。
手のひらから発せられた電流を介してわたしと操作パネルの制御システムと世界を共有する。
仮想世界のわたしの目の前に様々な世界が流れる。
流石に仮想世界の中までは仮面とフードを持ってこれず、わたしは素顔を世界に晒す。だからといってどうというものでもないのだが、出来ればこの顔を仮想世界とはいえ、外気に晒したくないので少しだけ重い気持ちになる。
わたしは回路を辿り、目的の場所まで仮想世界を泳ぐ。
既に今日、8度目のアクセスだ。システムの構造も把握したし、セキュリティに用いられている暗号の法則性も理解している。
その成果もあってか、ものの10秒で私は目的地に到着する事に成功した。
目の前に第八隔壁セキュリティシステムと書かれている大きな扉がある。
これは本当にそこに本当にあるのではなく、この回路に存在している様々なプログラムをわたしが視認し脳内でそう映像化しているというものだ。
ソフトを用いて視覚化し、英数字の羅列であるプログラムを英数字を打つのではなく、触る事で操作できるようにしたというべきかもしれない。
つまりはこの目の前にある扉こそが、現実世界でわたしがあけようとしている扉のセキュリティ。
わたしはこの扉を開く事によって、あの操作パネルで隔壁を開けられるようにする為、扉に手を触れ、セキュリティ解除に必要な暗号キーの検索を行う。
暗号といっても法則性はあるもので、それを読み取る事が出来るのならば、64桁の暗号など容易く手に入れる事が出来る。
問題はここのセキュリティは2分ごとに更新され、その際に暗号も変わっているという事だ。
時間との勝負である。
とはいえ、既に手慣れたものであったし、わたしの中にダウンロードされた『成果』は容易くそのセキュリティを突破する。
第八隔壁セキュリティシステムと名前のついた扉が開く、あとはこの先にある制御装置から操作パネルと隔壁の接続を再びつなげるように操作すれば良い。
わたしは扉の奥に進み、制御装置の前に立った。
制御装置はパーソナルコンピューターのような形をした端末としてわたしの目には映されている。
わたしはそれを手動で起動させた。
その時、
「ここまで早いとは…出来ればセキュリティのロックが外される前に到着したかったのですが、これが試作品と完成品の性能差という奴なのですね。少し、ショックです。」
後ろでそんな事を拗ねたように呟く声がした。
一瞬、わたしはそれが現実で起こった事なのかと誤解する。
だが、それは機械言語でわたしに向けて送られてきたものが自動的に声として変換されたものだ。
ならば、それは現実世界にいるわたしに向けてかけられた言葉では無い。
後ろに振り返る。そこにはスーツ姿の黒髪の女性が立っていた。
容姿から20代後半辺りを思わせる。
わたしには素直に驚きがあった。目の前にいる女性がこの仮想世界にいるその事が普通ならばありえない事だからだ。
わたしの目にはプログラムが視覚化され、なんらかの形状を取るように認識はされるものの、それは所詮、命の無い機械的なものでしかない、つまりは無機物として認識される筈なのだ。
だが、目の前にいる人型の有機物はそこにあるだけ所かわたしに己の意思を持って声をかけてきている。
これが意味する事は1つ、わたしと同じ手段で入ってきた人間であるという事を意味していた。
目の前の女性は驚きを隠せないわたしに向かってふっと笑って礼をした。
「初めまして、 №I、わたしは第七機関直属組織『イーグル』総司令秋常貞夫の副官を任されている琴峰雫です。大変申し訳ありませんが、2分ほどわたしに付き合ってもらいます。」
To be continued
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