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「Seirenes」 第1話

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ParaBellum

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第1話 

世界を巻き込む三度目の、そして最後となった大きな戦争が始まったのは俺が生まれて間もない頃だ。
当初、だれもが大量破壊兵器の撃ち合いによる共倒れを懸念したそうだが、生憎そうはならなかった。
従来の熱核兵器に代わる、新たな、放射線を残さない新型の生物兵器が使用され、「ちょっと威力の高い爆弾」と
通常戦力を用いた戦争は、大国の一方的な勝利によって早期に決着が付くと予想された。
が、誰もが忘れていた。 熱核兵器も、登場した当初は「ちょっと威力の高い爆弾」としか思われてなかった事を。

案の定、というべきか。 熱核兵器のときもそうだった様に、人類はその過ちを踏襲した。
使う前から判っていたのにさほど重大視されてなかった新型兵器の副次作用は地球の環境に大きな破滅的な影響を与え、
5大大陸の広大な森林部は兵器使用によって膨大な量の二酸化炭素となって文字通り消滅。
急速な温暖化によって、極地の氷は解け、それによって陸地の沿岸部は言わずもがな、多くの土地が水没した。
当然、沿岸部に大都市や国家中枢部や産業中枢を置いていた殆どの国が壊滅。
急激な気候変動によって内陸部は農業が壊滅。 工業も情報インフラも連鎖崩壊して消滅した。

それで戦争は終わるかに見えたが、実は終わっていなかった。
今度は、海面上昇をなんとか生き残った国同士が、急激な温暖化と環境激変によって物凄く減少してしまった
「人類の住める」土地と、資源を巡って戦争をするようになってしまったのだ。
そして同時に、海面下に沈んだ人類の旧領土からも、さまざまな資源をサルベージする作業が進められた。
なにしろ、その時既に人類は、ちょっとやそっとの壊滅的災害でも、絶滅を免れるくらいには技術が進んでしまっていたのだ。
それはむしろ余計に不幸な結果を生んだ。 災害を生き延びた人間が、予想以上に多かった。
しかし、住める土地は無い。 分け合う資源も無い。
そりゃ当然、奪い合いになるし、戦争にもなる。
そもそも戦争の始まった原因は何も解決して無いし、国家間の対立図もそのままだった。

そういうわけで、人類は数億の死者を出して幾つ物国家が滅んだ壊滅的打撃の後も、生き残った陣営だけで第三次世界大戦を継続するハメになってしまったのだ。

俺がその当時の「成人」と見なされる年齢に到達して、生まれた時に自分が所属していた国家の残照である優秀な軍事組織、
「海上自衛隊」に入隊したのは16歳の秋。
動機には自分と同じ、戦争時代がそのまま少年時代だったガキが沢山いた。
俺が配属先を希望したのは、水中潜航攻撃艇のパイロットだった。
子供の頃は戦闘機が好きで、空を飛ぶ航空パイロットに憧れていたのだが、俺が成人になる頃には
戦闘機なんて、生きててまともに飛ばせるような機体は殆ど無い、と言うほど少なくなっていた。
それでも飛べる現物を海上自衛隊は、旧アメリカ海軍から譲り受けて幾つか持っていたのだが、パイロットになるには
ライバルが多すぎて選ばれる可能性はほんの僅かでしかなかった。
その代わり、軍隊の花形となっていたのが水中潜航攻撃艇。
亡命してきたイタリアのメーカーが製作したそいつは”ガンベレット”って呼ばれていた。

水没した旧陸地の都市部や、工業地帯、軍事施設等から様々なものをサルベージするのは、どこの国も必死になって行った。
なにしろ、人類はこれから生き延びるため、生活を継続するために必要なインフラを殆ど海の底に置いてきてしまったのだ。
生活必需品、電化製品、電子部品、燃料…戦争をするための兵器の部品や、弾薬、ミサイル。
水没しなかった土地にはこれらを生産する設備は整ってなかったから、海中から引き揚げるしか手に入れる方法は無い。
また、技術知識や情報もサルベージしなければならなかった。
でないと、人類が再興してまた発展するのに、石器時代からの積み重ねをまたやらなきゃならなくなる。
パソコンの作り方、OSのプログラムの仕方なんて、専門技術者じゃなきゃわからない。
戦争と災害を生き延びた技術者は確かに多かったが、彼らだってソースコードも無しに一から全部コンピュータを作れるわけじゃあない。
色んなものを俺たちは、海の底から引き揚げなければならなかった。
そして当然、奪い合いになった。 海の上でも、下でも。
敵国のサルベージ作業を妨害するなんてのは当たり前にやった。 でないと、彼らが手に入れたお宝は確実に彼らの力を強くする。
前述したように、生き延びた人間全員で分けられる土地も資源も無い。
椅子取りゲームの席は限られている以上、誰もが椅子を手に入れるのに必死になった。
だから、水中を軽快に動き回り、敵の護衛艦艇やサルベージ船を撃沈し、同時に敵側の水中艇とも戦うガンベレットは、海戦の主役となっていた。

しかし、俺は運が無かった。
その日、乗っていた水中艇母艦の艦体にドーン!という大きな衝撃が伝わり、俺がパイロット待機室の仮眠寝台から
跳ね起きると同時に緊急を知らせるアラームが艦内に響き渡った。 攻撃を受けたのだ。
おそらく敵の水中艇によるものだったのだろうが、ソナー手や護衛哨戒に出ていたはずのガンベレットは何をしていたのか、という思いが頭をよぎった。
あと2時間で俺も護衛哨戒のシフト交代で、相棒と共にガンベレットで出る予定になっていた。
ヘマをしたそのソナー手と、パイロットの同僚に悪態を付きながら俺はダイブジャケットを羽織り、自分のガンベレットを緊急発進させるために格納庫に急いだ。
ガンベレットは戦闘機ほどでは無いが、貴重なのだ。 母艦が攻撃を受けた場合、艦と一緒に沈めるわけには行かない。
相棒の姿は待機室には無かったので、艦内食堂か娯楽室に居たのかも知れない。
あるいは、偶然格納庫に近い所に居て、先に発進準備を済ませて俺を待っていてくれる事を祈った。
でないと、最悪相棒は見捨ててガンベレットを発進する事を優先しなければならない。
別に、自分が取り残される事は最悪じゃあない。 そんなの、出撃するたびの確認事項だったからだ。
パイロットなんか、いくらでも養成出来る。 が、機体はおいそれと作れない。
ガンベレット一隻作るのに、どれだけの資源が必要なのかを考えれば当然の話だ。 俺たちの命より重い。
だが、個人的感情としては、「俺とガンベレットだけ」脱出に成功して、相棒は沈没する艦に置き去りにするなんてのは、耐えられなかった。
ガンベレットのパイロットは、二名。 片方は操縦でもう片方はナビだ。
二人のパイロットはお互いに命を預け、信頼しあう一蓮托生だ。 海の中ではお互いの存在だけが頼りとなる。
パイロットとして配属されてから、俺と相棒とは何度も死線を潜り、勝利を味わい、苦い敗北も噛み締め、常に生死を共にしてきたのだ。
だから、俺は相棒が焦った顔をしながらガンベレットの操縦席で「遅いぞ!」と引きつった顔ながらも安堵の表情で叫んでくれる事を切に祈った。
相棒も、俺を見捨てて先に脱出するなんて事は、舌を噛んで死ぬほうがマシだったろうから。

だが、その祈りは届かなかった。
もう一度、艦体にドン!という大きな衝撃が伝わり、艦が大きく傾いて転んだ俺は、床の傾斜がもはや先に進めない急角度に
なっているのに気付いて、沈没の時が来たのを悟った。
俺が唯一幸運だった、あるいは物凄く不幸だったと思えるのは、俺が転んだ先にあったのが緊急用の避難ポッドだった事だ。
そうして俺は、味方、あるいは敵の、沈没した艦から部品や水中艇をサルベージするついでの生存者救助が来るのを
暗く静かな海底で長い長い時間、待つ事になる。
やがて、避難ポッドは生命維持電力や酸素節約と俺の生存期間を延長するため、俺に人工冬眠モードに入らせる処置をした。
こいつは沈没した艦船の中に取り残された生存者の救出確率を上げるための便利な機能だが、同時に最悪の可能性を生存者に与えるものでもあった。

早い話が、救助が何時までも来ない場合は浦島太郎って事だ。

「深度30……40……50……60……70……100まで行ったらトリム水平。 そのままホールド。
包囲015で出力3分の1、直進」

「了解……深度90……100、トリム戻せ。 包囲015」

海底近くを、相当に年季の入った水中攻撃艇で私たちは進んでいた。
年季の入ったというか、もう相当に古い。 表面の装甲は赤錆だらけで、フジツボが付いている。
基本、同型の共食い整備だから、部品の使い古しをさらい延命処置して騙し騙し使い続けている。
そりゃあ、私たち自身が生まれる前から、母さんと「父さんたち」が使い続けてきたものだから、当たり前で、
「父さんたち」はさらにその前のご先祖さま、お祖父さんたちが使っていたものや、サルベージしてきた物を、今の私たちが
受け継いで使っているわけだから、この水中攻撃艇も相当にボロボロのお爺さんというわけだ。
それでも超伝導推進ハイドロジェットなんとかいうエンジンは、割と静かでスピードも出るから、「敵」のグランキョを
振り切るくらいの速度は出るし、何十年もこうして使われ続けるくらいだから故障も少ない。
この遺産が無かったら、私たちは姉妹揃って四方を広大な海で囲まれたあの基地で、干上がってるだろう。

深度100ともなると海底は暗く、有視界では殆ど何も見えない。
前席の正面下方に付いているディスプレイには3Dホログラフマップで海底地形が表示されているので、それを頼りに進む事になる。
基地の周辺、半径800海里四方の海底地形はご先祖様の代から何十年もかけて測量調査を行っており、どこに海中山や谷、
または沈没艦船や沈没都市があるのか把握済みだ。
だから、迷子になる事も無いし、操縦をミスらない限りは海底地形にごっつんこする事も無い。
私たちはこの遺産をありがたく使わせてもらっている。

「なあヴィーペラ、そういえば今日って”お祖父さんが思い出の場所に挨拶に行く日”じゃなかったっか?」

後ろ席に背中合わせに座っている、私より一つ下のルチェルトラ、皆からルチェと呼ばれてる妹が言う。
そう言えば、そんな日だったかも。 母さんが生きていた頃に、「父さんたち」の一人から聞かされていたお話だそうだ。
毎年、決まった日になると親父は決まってあの場所に行く。 大したものは沈んでないが、思い出がそこに今も眠っているんだとか。
「……どうしようか。 大昔の習慣には、オボンマイリってのがあったみたいだけど」」

私は首を後ろに回してルチェに訊いて見る。 その場所に、行くのかどうか、を。
姉妹たちが生まれる前に死んでしまって、母さんも会った事は無いというお祖父さんだけど、遺伝子上は私たちの誰かと
血の繋がりのあるご先祖様だ。
普段、水中攻撃艇とか、基地とか、海底地図とか、いろんな遺産にお世話になってるのに
故人の思い入れを「関係無い」とか切り捨ててしまうには、私たちは薄情な人間になるように育てられて無い。

「どうせ、サルベージしつくしてるんだろうけど……母さんも、時々行ってたよな。
今日の仕事はサルベージじゃなくてコンキーリャの設置と保守確認だし、帰りがてら寄って見るのもいいんじゃないか?」

ルチェも振り返って私と顔を見合わせて、そう答える。 決定した。
今日は自動警戒機雷……コンキーリャ、と呼ぶと私たちは母さんに習った、を海底に置いて来るだけの仕事だから
帰りに寄り道しても、そんなに遅くなると言う事は無いし、その場所の位置もさほど遠くは無い。
たまに、年に一回ぐらいはご先祖様に感謝する日があっても良いだろう。
そう思った私たちは、ご先祖様が大切にしていたというその場所を訪れる事を決定した。

が、数十分後、私たちはその決定を少々後悔する事になってしまった。
……敵と遭遇したのだ。




「出力最大! 方位095で思いっきり回避! 90度ターンでドリフト見せてやるわ!!」

「水中でドリフトってなんだよそれ!? あっくそっ! また増えた、グランキョは4!!
こっちの魚雷は5だ、1発以上仕留め損なうと後が無い!!」

思い出の場所って言うのは、大昔に沈んだ軍艦で、さほど大きくは無い。
取れるものは大体取り尽して、あとは朽ち果てて魚たちの住処になっているだけのその場所は私たちも敵も普段、近寄る事は無い。
何の用も無いからだ。 だから、私たちは割りと無警戒でその場所に向かっていたのだが、それがいけなかった。
いつもなら魚以外何もいないはずのその場所で、敵の水中攻撃艇が数席、沈没艦に取り付いて何かの作業をしていたのだ。
当然、そうとも知らず油断していた私たちはあっさりと敵に見つかる。

敵の水中攻撃艇”グランキョ”は大体こっちの水中攻撃艇と同じような機能、同じような性質を持った潜航艇だけど、大きく違う所が一つある。
こっちは私たちが乗って操縦する「有人型」だけど、グランキョは無人で制御される、自動ロボットなのだ。
大昔、まだこの世界に多くの人間がいて、自分たちの住んでいた陸地を海の底に沈めてしまった後も続けられていた戦争中にグランキョは作られたと言われている。
当時の水中潜航艇のポピュラーな推進装置であった超伝導推進ハイドロジェットを標準で備え、常温核融合エンジンを搭載して
電力で稼動するそれは、バッテリー式の他の潜航艇よりもはるかに長大な航続距離と稼働時間を持ち、発達したAIは人間と違って
疲れ知らずなため常時水中で作戦行動が可能。
魚雷やロケットで武装し高速で水中を動き回るグランキョは一時期圧倒的な制海能力を誇ったと言う。
残念ながら、グランキョを作った国は敗れ去り、消滅してしまったが、グランキョとその母艦群は残った。
今はグランキョは完全に人間の制御を離れ、自立行動にて戦争中の命令を、敵を探して海をさ迷っている。
ご先祖様たちが残した遺産の中でも、これは全く受け取りたくない部類のものだ。

そして……グランキョは、母さんの仇でもある。

「追って来る……! 不味いっ!! 探振感知!! 魚雷を撃ってくるよ!?」

「任せなさい……母さん仕込みの水中戦闘テクで、返り討ちにしてあげるっ!!
お前たちまとめて蒸し蟹だわっ!! ルチェ、デコイ発射、ダウントリム40で海底に突っ込むよ!!」

グランキョたちが魚雷を発射すると同時に後席のルチェがデコイを発射する。
デコイは私たちの乗ってる水中攻撃艇の駆動音とよく似た音を発振し、敵の魚雷を撹乱する囮装置だ。
そして魚雷がそれに引っかかっている間に、私たちは海底に堆積した泥に突っ込んで、機関停止。
案の定、間抜けな魚雷はデコイを負って私たちの頭上を通り過ぎた。
音を発さなければ、パッシヴソナーは水中にある物体を捕捉することは出来ない。
アクティブソナーで自分からピン発振して、返って来る音から潜伏位置を捕捉される事はあるが、それはソナー発振をする方も
自分の正確な位置を私たちに晒す事になる。
相手の発する、機関駆動音やモーター音を聞いて探知するパッシヴソナーは相手との距離は測れても、方向までは正確にはわからないのだ。
いや、複数の授波器が個々に測定する感度差や時間差から計算する三次元測定法を使う事でわかるにはわかる。
が、製造されて稼動し続ける事数十年、純正部品も作る設備を失い、グランキョも人間の潜航艇もソナーを始めとして
各種の部品はちゃんと機能を発揮するものが少なくなり、交換部品も足りないため性能はかなり落ちていた。

そんな、感度の落ちたパッシヴソナーで私たちを探すグランキョたちは、泥の中で蹲って隠れているのには気付けない。
こいつらが私たちを見失ったまま、どこかに行ってくれるのを待つのも良いけれど、癪だ。
この忌々しい鋼鉄の蟹どもは、たった4ヶ月前に母さんを、殺したのだ。 私の目の前で。

「機関始動!! 出力最大で泥の中から浮上、即座に魚雷をあいつらのケツにぶちこむよ!!」

「了解っ!! 母さんの敵討ちだ、思い知れ!!」

突然後方に反応が現われたであろう私たちに驚いたグランキョたちのAIが動揺する様は、ソナーに表示される奴らの航跡の右往左往する様で見て取れた。
回避運動に入る暇なんか与えない。 私は1番から4番までの魚雷を4隻のグランキョそれぞれの音紋にロックさせると、発射した。
1秒、2秒、3秒、4秒……5秒後に、はるか前方で3つの爆発が水中衝撃波となって私たちのところまで到達、水中攻撃艇の装甲表面を振動させる。
そして僅かの間、水中に広がった轟音でソナーが死ぬ。
でも私とルチェは、その水中衝撃波は確かに3つだった事をしっかり聞き取っていた。

「格闘モードに変形! 水中接近戦だよ!! 仕留め損ねた蟹を切り身にしてやる!!」

「各部異常なし、変形開始! 左腕、モーター駆動、右腕、モーター駆動、両腕部水中ロケット砲座、動作異常なし!
陸戦用脚部はそのまま、水中抵抗が増すだけだから変形なし! 変形完了!!」

水中攻撃艇の後背部が二つに割れて、各部関節を展開し180度旋回して前方に向く。
同時に船首部が折りたたまれてコクピット部が上に持ち上がる。
そうして上半身と両腕が形成されると、本来二つの脚を形成すべき腹部推進装置は関節を折りたたんだまま、尻尾に見立てられる形状を維持する。
変形を完了した水中攻撃艇は、ある種の水棲節足動物を連想させる形状をしていた。
そう……エビだ。 イタリア語でガンベレット。
高速で水中を突き進む水中攻撃艇モードと、マニュピレーターや歩行脚を持つ格闘モードへの変形機能を有し、
それぞれの中間形態を含めれば3+1の多彩な形態を状況に応じて使い分ける事のできる海戦用機動兵器、それが私たちの乗るガンベレットだ。

ガンベレットが変形を完了する間に、魚雷で撃沈し損ねた残り1隻のグランキョが反転して戻ってくる。
既にソナーは回復していたけど、同時にお互いの距離が近すぎるため魚雷を使えば水中衝撃波で双方が被害を受ける。
かと言って、距離をとって魚雷戦をしたくてもこちらは魚雷が残り1発しか残ってない。
外せば後が無いし、この戦闘の後も敵に遭遇した時の保険のために、これは使う事が出来ない。
そのため、必然的にというか強引に至近距離での格闘戦に持ち込むのだ。

右腕部に設置された水中ロケットの回転砲座が駆動し、16発のロケットが連続発射される。
ロケットの弾頭は数千度の熱を発するテルミットで、近距離でこれを食らえば装甲は溶けて穴が開き、耐圧殻にまで
到達したテルミットは容赦なくグランキョの内部を灼く。
そして後は、損壊部にかかる猛烈な水圧が止めを刺してくれる。
それを、グランキョはこちらと同様の格闘戦モードに変形し、それによる急制動をかけて避ける。
グランキョの格闘モードは、ガンベレットと同様に名が体を現している。 カニだ。
そして果たせるかな、グランキョは致命傷を与える水中ロケットを見事にかわし、逆に私たちに腕部を向けて水中ロケットを発射しようとする。
でもそれは、私たちの読みどおりだった。
クロスカウンターを入れるが如く、ガンベレットの左腕部先端に装備された水中溶断作業用のプラズマジェットカッターが
ガンベレットの胴体に突き刺さり、その装甲を切り裂いた。
水中には大量の、プラズマジェットカッターによって発生した気泡で視界を埋め尽くされる。
間髪いれず、私はガンベレットの右腕を振るい、同じく先端に装備されたプラズマジェットカッターで反撃をしようとする
グランキョの左腕部を切り落とし、さらに胴体部を切り刻んだ。
5秒と経たず、哀れなグランキョはぶつ切りにされてバラバラの断片となり、海底に沈んで行った。



「それで……なにをあいつら、サルベージしていたのかな?」

「さあ……でもあいつらは機械だし、無意味なサルベージはしないと思う。 確認してみよう」

グランキョも、サルベージを行う。 あいつら自身もいくら無人機とは言っても、補給や整備は必要だ。
それに必要な部品や燃料、武装などは私たち同様サルベージして手に入れているのだ。
何はともあれ、気になった私たちはグランキョたちが作業を行っていた件の沈没艦を調査してみる事にした。
沈没艦は船体の一部が作業用レーザーで切り取られており、船内区画の幾つかが剥き出しになっていた。

その中に私たちは、とても珍しいものを発見した。
何の装置なのかわからないが、大きな円筒形をしたその機械は明らかに生きており、電力がまだ残っているという表示が暗い海中でもしっかりと光を放っていたのだ。
私たちはその装置をガンベレットの両腕に抱えさせ、格闘モードのまま「基地」へと帰還する事にした。
大収穫だ、とその時は思っていた。 動力が生きてて機能している機械なんて、今では滅多にサルベージできないものだからだ。

ただし、それを後になって少々後悔することになる。 その日はそれが二度目だったけど。

「……それで、これは何の機械なの?」

「うーん……とりあえず、分解すれば部品が何かの役に立つ事は確実なんだけど」

「数十年も持つ電池を備えている事は確かだよね?」

「問題は、何のための装置で、何のために数十年も中身を保存しているか、どうかということ」

「……食べ物とか?」

「食べ物なの? じゃあチコはポークチョップスがいい!」

「わたしは、コンデンスミルクがいい!」

「えっとね、あたしは、チョコレートマフィンが……」

「こら、まだ食べ物と決まったわけじゃないでしょ。 それに、冷蔵庫にしちゃ形が変だし……」

「何にせよ、開けてみないと判らないと思う。 コッコ、強引に開けちゃいな」

「待ってよ! コッコに開けさせたら中身も壊れちゃうじゃない! 貴重な電子部品とか、危ない燃料とかだったらどうすんのよ!
タルタが今、電子制御装置を分解してちゃんと開けるから! 皆は触らないで!」

……喧しい。 隔壁の外から複数の声がする。 女の声なような気もするけど、随分と幼い声が混じっている。
徐々に意識を覚醒しはじめた俺は、外から聞こえてくるその声によって自分がいるのが避難ポッドの中でいる事を思い出し、
そして外が海の底の沈没した母艦ではない事を知った。

「ねえ……タルタルーガ?」

「なによ? いまタルタが頑張って開けようとしてるんだから……このパッキンが……」

「この、『自動蘇生完了、生体に異常なし、開放』って表示、何?」

「えっ!?」

プシュウ、という空気の漏れる音がして、避難ポッドの隔壁が開いた。
まだ意識が朦朧とする。 外の眩しさを感じて、ああ、俺はサルベージされたんだな、とぼんやりと考えた。
長い人工冬眠の影響で頭痛のする頭を押さえながら上半身を起こすと、自分を取り囲んで視線を注いでいる複数の目に気がつく。
薄目状態からゆっくりと目を開くと、横倒しにされた避難ポッドの周りには10代~1ケタと思われる、背丈も髪の色も肌の色も
それぞれな、10人ちょっとくらいの多彩な少女たちが立ったりしゃがんだりして、俺に驚いたような顔をしながら注目していた。

そのうちの、オレンジ色の短い髪をして、おそらく最年長くらいと思われる少女と目が合う。
数秒間、俺と彼女は見詰め合った後、その少女…右のわき腹に蛇の刺青を入れている子が、引きつった顔で呟いた。

「……人間、お、男の人だ」

その隣しゃがんでいる、金色の髪をして褐色の肌に、先の少女とほぼ同じ左わき腹にトカゲの刺青をした女の子が呟く。

「……最悪」

何がなんだかわからないが、俺は……安曇大輔、海上自衛隊2等海尉は、海の底から引き揚げられ、
そしてこの直後に自分が沈んでから数十年の歳月が経っている事実に直面する事になるのだった。

(続く)


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