陽の光が届かぬ地の淵を、その掌に銀の竜を捉えた黒い拳は粛々と沈降を続けていた。
眼前の岩盤を難なく磨り潰し、塵にしつつ地の底へと一心不乱に進む。
本当に生き物であるのかも定かでは無い、大量の虫の様な物で象られた拳は一定の姿を保つ事無く、時折気味悪くうねった。
暗闇で何も見えなくとも、虫の甲殻同士がカチカチとぶつかり合う音が妙に生々しく感じ、雪兎は思わず顔を顰める。
眼前の岩盤を難なく磨り潰し、塵にしつつ地の底へと一心不乱に進む。
本当に生き物であるのかも定かでは無い、大量の虫の様な物で象られた拳は一定の姿を保つ事無く、時折気味悪くうねった。
暗闇で何も見えなくとも、虫の甲殻同士がカチカチとぶつかり合う音が妙に生々しく感じ、雪兎は思わず顔を顰める。
{此奴等…巣まで連れ帰って僕たちを喰うつもりか…?」
その呪縛から逃れようと幾度となく爪を振るったが、的が余りに小さすぎて当たらず、空しく虚空を切っただけだった。
爪が振るわれる度に腕付近を飛び回っていた虫達が、その風圧に吹き飛ばされ、巻き込まれ、ちりぢりとなる。
その呪縛から逃れようと幾度となく爪を振るったが、的が余りに小さすぎて当たらず、空しく虚空を切っただけだった。
爪が振るわれる度に腕付近を飛び回っていた虫達が、その風圧に吹き飛ばされ、巻き込まれ、ちりぢりとなる。
{…焦っても仕方ないか………。カルマ、もう一度〝核熱〟…いけるか?」
蛾やら蝶やらよく分からない虫が爪先で戯れている様子を忌々しく眺めながら、
雪兎は丹田に込めていた力を抜き、目を瞑る。そして背もたれに寄りかかりながら駄目元で問いかけた。
それに伴い、ドラグリヲの装甲に浮かび上がっていた紅い紋様が消え、身体に掛かっていた重圧が一気に抜ける。
蛾やら蝶やらよく分からない虫が爪先で戯れている様子を忌々しく眺めながら、
雪兎は丹田に込めていた力を抜き、目を瞑る。そして背もたれに寄りかかりながら駄目元で問いかけた。
それに伴い、ドラグリヲの装甲に浮かび上がっていた紅い紋様が消え、身体に掛かっていた重圧が一気に抜ける。
全身に突き刺さっているコードから送られてくる微痛が薄れる事は無かったが、神経自体に多大な負担を強いられる雪兎にとって
少しでも力を抜く事が出来るという事自体、とても有り難いことだった。
〝憤怒〟の力によって底上げされた回復力とナノマシンの作用によって、身体中の乳酸が分解され消滅する。
それにともない雪兎の身体の表面の紋様が作業の進行に合わせてゆっくりと点滅を繰り返し、やがて消えた。
少しでも力を抜く事が出来るという事自体、とても有り難いことだった。
〝憤怒〟の力によって底上げされた回復力とナノマシンの作用によって、身体中の乳酸が分解され消滅する。
それにともない雪兎の身体の表面の紋様が作業の進行に合わせてゆっくりと点滅を繰り返し、やがて消えた。
『今すぐは無理です、余剰熱を放出し尽くすまで後少しの間お待ち下さい。無理してスクラップになるのは避けたいですし……
ユーザーだって、弾け飛んだり焼き肉になったりするのは嫌でしょう?』
案の定の答えが返ってくる。過度の期待はしていなかったのでそれ程落胆する事は無かった。
さればどうしようかと思案に暮れようとした矢先、再びカルマが声を掛けてくる。
ユーザーだって、弾け飛んだり焼き肉になったりするのは嫌でしょう?』
案の定の答えが返ってくる。過度の期待はしていなかったのでそれ程落胆する事は無かった。
さればどうしようかと思案に暮れようとした矢先、再びカルマが声を掛けてくる。
『ご安心下さい、〝熱膜〟をいつでも発動出来る様、準備はしてあります。ユーザーがお望みならば何時でも脱出可能です。
しかしそれよりも、このまま彼等に連れて行って貰ったら如何でしょう?
既に進行方向彼方に大多数の熱源が存在している事を確認済みです。
計算の結果、そこまで到達するまでに冷却も無事完了する事も分かりました。
もしもこれが彼等の巣であれば、到着次第〝核熱〟で吹き飛ばしてしまえば万事解決と思われますが…。』
しかしそれよりも、このまま彼等に連れて行って貰ったら如何でしょう?
既に進行方向彼方に大多数の熱源が存在している事を確認済みです。
計算の結果、そこまで到達するまでに冷却も無事完了する事も分かりました。
もしもこれが彼等の巣であれば、到着次第〝核熱〟で吹き飛ばしてしまえば万事解決と思われますが…。』
そう言うとカルマはサブモニターの隅っこからチラリと顔を出し、雪兎の顔色を伺いつつ返事を待った。
しばしの思案の後、雪兎はニヤリと口端を吊り上げながら返答する。
{お前も考える様になったじゃないか……、それでいこう。」
そして再びメインモニターに視点を戻す雪兎、だがその時彼を悲劇が襲った。
しばしの思案の後、雪兎はニヤリと口端を吊り上げながら返答する。
{お前も考える様になったじゃないか……、それでいこう。」
そして再びメインモニターに視点を戻す雪兎、だがその時彼を悲劇が襲った。
モニターに何かがへばり付いている、何か何処かで見たような忌々しいシルエットの何かが。
二秒程の間を置き、それが何なのか理解した瞬間、雪兎はこの世の物とは思えない絶叫を上げた。
二秒程の間を置き、それが何なのか理解した瞬間、雪兎はこの世の物とは思えない絶叫を上げた。
{ぐおぉおおおああああああああああああ!!!あがああああああああああああ!あばばばばばばばばばばばばばb!!!!!!」
カメラにアップで映し出される〝何か〟の裏側を強制的に鑑賞させられ、目を潰されたかの如くパニックに陥った雪兎は
それを振り払おうと爪でアイカメラを拭う序でに、勢い余ってカメラレンズ表面を傷つけてしまった。
だが雪兎はその時大事な事を忘れていた、ドラグリヲのあらゆる器官がカルマの痛覚と連動していた事に。
カメラにアップで映し出される〝何か〟の裏側を強制的に鑑賞させられ、目を潰されたかの如くパニックに陥った雪兎は
それを振り払おうと爪でアイカメラを拭う序でに、勢い余ってカメラレンズ表面を傷つけてしまった。
だが雪兎はその時大事な事を忘れていた、ドラグリヲのあらゆる器官がカルマの痛覚と連動していた事に。
『イヤァアアアア!!!』
突然の激痛にカルマは悲鳴を上げた、自分の眼が刃物で不意に引っ掻かれたと考えれば誰であれそうするであろう。
すぐさま怒りを露わにし、雪兎の耳元に配置されたスピーカーの音量を全開にして怒鳴つけた。
『何してるんですユーザー!乙女の瞳を斬り付けるなんて!信じらんない!サイテーです!!!』
突然の激痛にカルマは悲鳴を上げた、自分の眼が刃物で不意に引っ掻かれたと考えれば誰であれそうするであろう。
すぐさま怒りを露わにし、雪兎の耳元に配置されたスピーカーの音量を全開にして怒鳴つけた。
『何してるんですユーザー!乙女の瞳を斬り付けるなんて!信じらんない!サイテーです!!!』
カルマの怒りと呼応し、コックピット内に生成された巨大な棍棒(金属製)が唸りを上げて雪兎の頭と顔面をボッコボコに乱打した。
何十、何百にも渡る暴行の後、フィニッシュにアッパーというとても素敵なオマケ付きである。
何十、何百にも渡る暴行の後、フィニッシュにアッパーというとても素敵なオマケ付きである。
{テッボアアアアアアア!??」
顎を強く打ち上げられた雪兎は、旧世紀のグロ漫画のヤラレ役のような奇怪な悲鳴を上げて、背もたれ深く沈み込んだ。
勢い良く倒れたせいで、頑丈な筈の椅子がギシギシととても嫌な音を立て撓る。
顎を強く打ち上げられた雪兎は、旧世紀のグロ漫画のヤラレ役のような奇怪な悲鳴を上げて、背もたれ深く沈み込んだ。
勢い良く倒れたせいで、頑丈な筈の椅子がギシギシととても嫌な音を立て撓る。
だが雪兎がその程度で完全にノックアウトされる筈が無かった。
すぐさまビデオの逆再生宜しく起き直り、モニター内にて膨れっ面で立っているカルマに食って掛かる。
{五月蠅い!なんでこんなグロ画像見せられなきゃいけないんだよ!シャッターくらい閉じといてくれたっていいじゃないか!!!」
『普段からもっとグロい物見てるから平気でしょ!!』
{男の子はデリケートなんだよ!繊細なんだよ!!」
すぐさまビデオの逆再生宜しく起き直り、モニター内にて膨れっ面で立っているカルマに食って掛かる。
{五月蠅い!なんでこんなグロ画像見せられなきゃいけないんだよ!シャッターくらい閉じといてくれたっていいじゃないか!!!」
『普段からもっとグロい物見てるから平気でしょ!!』
{男の子はデリケートなんだよ!繊細なんだよ!!」
そしてカルマも負けじと言い返し、再び棍棒を振り下ろした。風を切って躊躇い一つ無く、頭頂部へと迫る。
しかし今度ばかりは喰らわんとばかりに、雪兎はそれを片手で受け止め握り潰し、細切れに切断した。
モニター越しにキッと睨み合う二人。
今にも泥沼の痴話喧嘩が始まろうとしていたその時だった。
しかし今度ばかりは喰らわんとばかりに、雪兎はそれを片手で受け止め握り潰し、細切れに切断した。
モニター越しにキッと睨み合う二人。
今にも泥沼の痴話喧嘩が始まろうとしていたその時だった。
モニターの中で頬を膨らませていたカルマが、急にチラッと横を向いたかと思うと姿を消した。
それに伴い、再びコックピット内にアナウンスが流れる。
『遊んでいる余裕は無くなった様です…戦闘準備を…ユーザー。』
それに伴い、再びコックピット内にアナウンスが流れる。
『遊んでいる余裕は無くなった様です…戦闘準備を…ユーザー。』
突如、狭苦しい空間を写し出していたカメラの視界が開け、広い空間が写し出された。
カメラが環境の変化に適応出来ず、しばらくの間映像がぼやけるが、程なくクリアな視界が戻ってくる。
そこは巨大な空洞だった。
カメラが環境の変化に適応出来ず、しばらくの間映像がぼやけるが、程なくクリアな視界が戻ってくる。
そこは巨大な空洞だった。
鋼殻牙龍ドラグリヲ 第十六話 蟲の皇
天井へ大量にしがみついた〝蛍〟の放つ仄かな明かりが、常闇の世界をぼんやりと照らす。
眼下には巨大な密林の様に為体の知れない木々が、その光さえ届かぬ深淵の至る所に生えている。
その森の中を蠢く大量の昆虫型害獣達の姿が、〝蛍〟の放つ光によって浮かび上がった。
眼下には巨大な密林の様に為体の知れない木々が、その光さえ届かぬ深淵の至る所に生えている。
その森の中を蠢く大量の昆虫型害獣達の姿が、〝蛍〟の放つ光によって浮かび上がった。
『データ照会…〝菌糸〟と判明、速急な消毒が必要と思われます。』
{〝菌糸〟だって!?という事はやっぱり………。」
最悪のイメージが雪兎の脳内を過ぎる。
〝世界樹〟が発生した時代に産まれていないので詳しくは知らないのだが、研修中に害獣発生の歴史や種類別に大まかな性質を習った際
それはもう恐ろしい化け物だったと、当時の教官に耳にタコが出来る程に聞かされたのでよく覚えていた。
とはいえ、その教官さえも〝世界樹〟との全面戦争の際に産まれてさえいなかったので半信半疑だったのだが。
{〝菌糸〟だって!?という事はやっぱり………。」
最悪のイメージが雪兎の脳内を過ぎる。
〝世界樹〟が発生した時代に産まれていないので詳しくは知らないのだが、研修中に害獣発生の歴史や種類別に大まかな性質を習った際
それはもう恐ろしい化け物だったと、当時の教官に耳にタコが出来る程に聞かされたのでよく覚えていた。
とはいえ、その教官さえも〝世界樹〟との全面戦争の際に産まれてさえいなかったので半信半疑だったのだが。
曰く、放たれる〝胞子〟は吸い込んだ生き物の臓器を須く破壊し
大気圏を離脱するほどに伸びた無数の〝蔦〟は人類が作り出したあらゆる合金よりも硬くしなやかで、あらゆる兵器を打ち壊し
絶え間なく吐き出される〝果実〟からは数え切れない程の害獣が生まれ、あらゆる物を蹂躙したと。
『ユーザー、やはり今すぐにでも〝核熱〟を…………。』
カルマが画面の中で急かす。必死になっている顔付きがちょっと可愛く思えた。
{あぁ、分かってる…………ん?ちょっと待て、ありゃ何だ…?」
それに促されトリガーを引こうとした瞬間、モニターに何か異質な物が写し出され、それを見た雪兎は思わずトリガーに掛けた指を引っ込めた。
徐にカメラをそこに向かってズームさせると、程なくその全貌が明らかとなる。
カルマが画面の中で急かす。必死になっている顔付きがちょっと可愛く思えた。
{あぁ、分かってる…………ん?ちょっと待て、ありゃ何だ…?」
それに促されトリガーを引こうとした瞬間、モニターに何か異質な物が写し出され、それを見た雪兎は思わずトリガーに掛けた指を引っ込めた。
徐にカメラをそこに向かってズームさせると、程なくその全貌が明らかとなる。
{……城?」
其処には童話で著されるように広大な城塞が建造されていた。
その見事に整った姿形は害獣が造り上げた物とはとても思えない程、素晴らしく美しい物だった。
〝蛍〟の放つ光を一身に受け美麗に輝くその城の姿を見て、一瞬雪兎はその美しさに息を飲んだ。
其処には童話で著されるように広大な城塞が建造されていた。
その見事に整った姿形は害獣が造り上げた物とはとても思えない程、素晴らしく美しい物だった。
〝蛍〟の放つ光を一身に受け美麗に輝くその城の姿を見て、一瞬雪兎はその美しさに息を飲んだ。
だが、カルマはそれと全く違う反応を示していた。
突然メインモニターの表示が消え、画面一杯にカルマの顔が表示される。
しかしその顔はいつもの様に勝ち気な物でも、仏頂面でもなく、顔面蒼白で恐怖に充ち満ちた物だった。
そう、まるで『紅』と対峙した時と同じように…。
『ダメ…ユーザー…駄目…!アレに近づいては駄目…!!!』
そして突然の警告。
突然メインモニターの表示が消え、画面一杯にカルマの顔が表示される。
しかしその顔はいつもの様に勝ち気な物でも、仏頂面でもなく、顔面蒼白で恐怖に充ち満ちた物だった。
そう、まるで『紅』と対峙した時と同じように…。
『ダメ…ユーザー…駄目…!アレに近づいては駄目…!!!』
そして突然の警告。
彼女がここまで怯えるのを見るのは、『紅』と殺りあった時だけだった為
慌てて雪兎は彼女を問い糾した。
{落ち着けって!彼処に何があるってんだよ!?まさか…中に〝ツガイ〟並みにヤバい奴がいるとでも言うのか!??」
慌てて雪兎は彼女を問い糾した。
{落ち着けって!彼処に何があるってんだよ!?まさか…中に〝ツガイ〟並みにヤバい奴がいるとでも言うのか!??」
その問いに、カルマは支離滅裂になりながら、モニターの中で蹲りつつ応えた。
『分からない!分からないんです!でも…でも……います…必ず……何か……恐ろしい…………………………。』
.......ガ..........ガ.....ガ......ガ....ガガガガガガガガガガガガgggggggggggggggggggggggggggg』
やがて、その姿と声さえも突如発生したノイズに巻き込まれ、消える。
『分からない!分からないんです!でも…でも……います…必ず……何か……恐ろしい…………………………。』
.......ガ..........ガ.....ガ......ガ....ガガガガガガガガガガガガgggggggggggggggggggggggggggg』
やがて、その姿と声さえも突如発生したノイズに巻き込まれ、消える。
{…!?おい…カルマ…おい!!返事をしろ!!」
画面から消えたカルマに向かって、必死に呼びかける雪兎。
だがその声も、突然の轟音にかき消され、消えた。
画面から消えたカルマに向かって、必死に呼びかける雪兎。
だがその声も、突然の轟音にかき消され、消えた。
それは警報だった。
最高LVに設定されたアラームが鳴り響き、全てのライトが真っ赤に点灯したかと思うと、全てのモニターの表示が切り替わった。
メインモニターに警告という分かりやすい巨大な文字が現れ、サブモニターを凄まじい勢いで文字が流れ始める。
最高LVに設定されたアラームが鳴り響き、全てのライトが真っ赤に点灯したかと思うと、全てのモニターの表示が切り替わった。
メインモニターに警告という分かりやすい巨大な文字が現れ、サブモニターを凄まじい勢いで文字が流れ始める。
それも起動時の緑色の文字とは違い、血で書かれたように真っ赤な文字が画面内を目まぐるしく駆けてゆく。
warning、Warnung、Avviso、Avertissement、Предупреждениеと
全世界の言語で警告を表すと思われる文字達が現れては消えるを繰り返す。
warning、Warnung、Avviso、Avertissement、Предупреждениеと
全世界の言語で警告を表すと思われる文字達が現れては消えるを繰り返す。
そしてコックピット内に響くようにカルマの声がスピーカーから吐き出される。
しかしその声は先ほどまでの感情が籠もったそれとは違い、非常に冷たく生気を全く感じさせない物だった。
しかしその声は先ほどまでの感情が籠もったそれとは違い、非常に冷たく生気を全く感じさせない物だった。
『警告…警告………最重要殺害目標の反応あり……。
ブラックリスト照会……………該当件数一件在リ…
開発コード〝傲慢〟……超々大規模遠隔使役兵器搭載個体〝琥珀〟と確認…。
リミット解除…殺戮モードに強制移行します。』
ブラックリスト照会……………該当件数一件在リ…
開発コード〝傲慢〟……超々大規模遠隔使役兵器搭載個体〝琥珀〟と確認…。
リミット解除…殺戮モードに強制移行します。』
{お…おい!何を勝手に……。」
強制的に感覚を肩代わりされ、全身を虫達が這い寄る気色の悪い感触を味わされた為、雪兎の全身に鳥肌がたった。
指を、眉間を、背中を、あらゆる処を虫達は遠慮無く這い回る。
強制的に感覚を肩代わりされ、全身を虫達が這い寄る気色の悪い感触を味わされた為、雪兎の全身に鳥肌がたった。
指を、眉間を、背中を、あらゆる処を虫達は遠慮無く這い回る。
{ちぃ…男の肌に無闇にへばり付きやがって……!気色悪いんだよ!失せろォォ!!!!」
その余りの気味の悪さに激昂し、雪兎は大型武装発動承認トリガーを迷い無く引き絞った。
その余りの気味の悪さに激昂し、雪兎は大型武装発動承認トリガーを迷い無く引き絞った。
『承認確認........〝核熱〟発動します。』
〝鉄屑〟が真っ赤に滾り、ドラグリヲの躯を再び烈火が包み始める。
サブモニターに表示された温度計の数値が凄まじい勢いで上昇し、たちまち計測不能と音を上げた。
{ォオオオオオオオ!!!}
ドラグリヲが咆哮を上げ、真紅に染まる。
その瞬間、閃光が迸り洞穴内のありとあらゆる物を焼き尽くした。
膨張する熱波が眼下に広がる森林や城塞を包み込み、程なく爆裂する。
凄まじい程の爆風が洞穴を削り、崩落させ、溶かす。
溶岩となった岩盤が天井から垂れ、瞬く間に窪みを満たし、運河の如く流れ始めた。
〝鉄屑〟が真っ赤に滾り、ドラグリヲの躯を再び烈火が包み始める。
サブモニターに表示された温度計の数値が凄まじい勢いで上昇し、たちまち計測不能と音を上げた。
{ォオオオオオオオ!!!}
ドラグリヲが咆哮を上げ、真紅に染まる。
その瞬間、閃光が迸り洞穴内のありとあらゆる物を焼き尽くした。
膨張する熱波が眼下に広がる森林や城塞を包み込み、程なく爆裂する。
凄まじい程の爆風が洞穴を削り、崩落させ、溶かす。
溶岩となった岩盤が天井から垂れ、瞬く間に窪みを満たし、運河の如く流れ始めた。
濛々と蒸気が立ち込める中、〝鉄屑〟を閉じ、ドラグリヲは勢い良く柔らかくなった岩盤の上に着地する。
着地の衝撃で溶けた岩盤が飛散し、スパイクの裏に降りかかり、水滴の如く流れ落ちた。
その蒸気を振り払うように、装甲の隙間から吹き出した緊急冷却ガスが足下の溶岩を瞬く間に冷やし、固める。
びっしりと辺りを埋め尽くしていた〝菌糸〟は跡形も無く全て消し飛び、虫達それと共に全て塵に還った。
着地の衝撃で溶けた岩盤が飛散し、スパイクの裏に降りかかり、水滴の如く流れ落ちた。
その蒸気を振り払うように、装甲の隙間から吹き出した緊急冷却ガスが足下の溶岩を瞬く間に冷やし、固める。
びっしりと辺りを埋め尽くしていた〝菌糸〟は跡形も無く全て消し飛び、虫達それと共に全て塵に還った。
今日の仕事は終わったと、雪兎は息を付き、背もたれにその身を預け、前を見る。
だが吹き出し続けていた冷却ガスが目の前の蒸気を振り払った時、雪兎は黙って再び身を起こした。
岩盤すらも焼き尽くす〝核熱〟を受けた筈の城塞が、無傷でその場に在り続けていたからである。
だが吹き出し続けていた冷却ガスが目の前の蒸気を振り払った時、雪兎は黙って再び身を起こした。
岩盤すらも焼き尽くす〝核熱〟を受けた筈の城塞が、無傷でその場に在り続けていたからである。
そしてその城に目を合わせた瞬間、背筋の凍る様な感覚を雪兎は覚えた。
そう、〝紅〟と対峙した、あの時と同じように。
カルマが言っていた事は強ち間違いでは無かったと、その時雪兎は思った。
そう、〝紅〟と対峙した、あの時と同じように。
カルマが言っていた事は強ち間違いでは無かったと、その時雪兎は思った。
徐に〝最も嫌な予感〟がする方向の城郭に狙いを定める。
『全武装認識再確認.....デバック完了..砲撃機構接続完了.....全砲門開放....爆裂貫徹弾装填.......』
両腕の中に眠っていた砲撃機構が蒸気を噴きつつ展開し、ポインターが黒く焦げた城郭へと突き刺さる。
『全武装認識再確認.....デバック完了..砲撃機構接続完了.....全砲門開放....爆裂貫徹弾装填.......』
両腕の中に眠っていた砲撃機構が蒸気を噴きつつ展開し、ポインターが黒く焦げた城郭へと突き刺さる。
口内の砲撃機構もそれに続き、空っぽだった弾倉に大量の弾丸が詰め込まれる。
砲撃の準備が完了すると、ドラグリヲは尻尾を高く上げ、腰を深く落とした。ミシミシと音を立てて固まったばかりの岩盤に亀裂が入る。
砲撃の準備が完了すると、ドラグリヲは尻尾を高く上げ、腰を深く落とした。ミシミシと音を立てて固まったばかりの岩盤に亀裂が入る。
天井から滴り落ちた一滴の溶岩が鼻先に零れた瞬間、ドラグリヲは全ての砲門から弾丸を絶え間なく吐き出しつつ、跳躍した。
地面を尾で叩き、蹴り飛ばした衝撃で踏み締めていた岩盤が硝子の様に脆くも砕け散るが、それに気を回す余裕など今の雪兎には無かった。
地面を尾で叩き、蹴り飛ばした衝撃で踏み締めていた岩盤が硝子の様に脆くも砕け散るが、それに気を回す余裕など今の雪兎には無かった。
連続で打ち出される貫徹弾が城郭に次々と穴を開け、爆裂する。
高熱にも容易く耐えられた厚い壁も、内部から破壊されればどうしようもなく、脆くも崩落を始める。
高熱にも容易く耐えられた厚い壁も、内部から破壊されればどうしようもなく、脆くも崩落を始める。
その崩落しかけの城郭に蹴りを入れてトドメを刺し、その勢いをそのままに前進する。
そしてドラグリヲはその城郭が隠していた〝最も嫌な予感のする建造物〟へと鉄屑の出力を激突上等とばかりに引き上げ、駆けた。
やがて目と鼻の先まで近づいた宮殿の壁に向かい、その頑強な爪を全力で叩き付けた。
そしてドラグリヲはその城郭が隠していた〝最も嫌な予感のする建造物〟へと鉄屑の出力を激突上等とばかりに引き上げ、駆けた。
やがて目と鼻の先まで近づいた宮殿の壁に向かい、その頑強な爪を全力で叩き付けた。
城郭と違いヤワに作られていたそれは、豆腐に金槌を振り下ろすが如く呆気なく砕け、ドラグリヲを中へと導き入れた。
石造りの床に丁寧に敷かれたレッドカーペットが、ドラグリヲの堅牢な爪によって無残にも引き千切られる。
それに一切目を暮れず、雪兎は強烈に嫌な予感のする方へ目を向けた。
石造りの床に丁寧に敷かれたレッドカーペットが、ドラグリヲの堅牢な爪によって無残にも引き千切られる。
それに一切目を暮れず、雪兎は強烈に嫌な予感のする方へ目を向けた。
豪勢なステンドグラスを背後に玉座に悠々と腰を下ろしていたのは、あの巨大な雀蜂だった。
硝子製と思われる杯に並々と注がれた深紅の液体を、味わう様に舐めている。
硝子製と思われる杯に並々と注がれた深紅の液体を、味わう様に舐めている。
表の溶岩が発する灯りがステンドグラスを通して杯に注ぎ、真紅の光を床に落とす。
そしてドラグリヲを目にしたかと思うと、その杯を口元から離し、ゆっくりと〝口を開いた〟
{他者の領地を勝手に踏み荒らした挙げ句、狼藉とは…相変わらず粗暴だな………〝朧銀〟}
大事な配下や宮殿を破壊し尽くしたにもかかわらず紳士的な態度を見せる雀蜂。
そしてドラグリヲを目にしたかと思うと、その杯を口元から離し、ゆっくりと〝口を開いた〟
{他者の領地を勝手に踏み荒らした挙げ句、狼藉とは…相変わらず粗暴だな………〝朧銀〟}
大事な配下や宮殿を破壊し尽くしたにもかかわらず紳士的な態度を見せる雀蜂。
だがドラグリヲの装甲の表面を流れる紋様を見た瞬間、態度を一変させた。
{〝アンプリファイア〟だと……馬鹿な…あれらは全て〝我ら〟が取り込んだ筈………そうか……
あの女狐の差し金か……小賢しい……。}
言っている事の意味が全く分からないので、思わず雪兎は勝手にブツブツ呟いては勝手に機嫌を損ねている雀蜂に、そっと声を掛けた。
{あの…貴方は誰です?〝朧銀〟…て何ですか?」
{〝アンプリファイア〟だと……馬鹿な…あれらは全て〝我ら〟が取り込んだ筈………そうか……
あの女狐の差し金か……小賢しい……。}
言っている事の意味が全く分からないので、思わず雪兎は勝手にブツブツ呟いては勝手に機嫌を損ねている雀蜂に、そっと声を掛けた。
{あの…貴方は誰です?〝朧銀〟…て何ですか?」
それを聞き雀蜂はこちらを向くが、こちらが口を効いた事さえも気に入らないようだった。憎悪に満ちた暴言が雪兎の耳を劈く。
{畜生の分際で余に口を効くか!身の程を知れ痴れ者!!!!!}
その発言を契機に、城塞全体に異変が生じた。
〝核熱〟さえも容易に耐えきった筈の建造物が振動を始める。
最初はとても微細な揺れだったが、雀蜂の機嫌が悪くなるに従い、急速に揺れが強まってゆく。
{畜生の分際で余に口を効くか!身の程を知れ痴れ者!!!!!}
その発言を契機に、城塞全体に異変が生じた。
〝核熱〟さえも容易に耐えきった筈の建造物が振動を始める。
最初はとても微細な揺れだったが、雀蜂の機嫌が悪くなるに従い、急速に揺れが強まってゆく。
{あの馬鹿夫婦と〝紫苑〟と同類か……猿共に誑かせ寄ってからに!!。}
雀蜂の複眼が真っ赤に発光し、振動に耐えきれなかったステンドグラスが割れ、煌めきながら室内に降り注ぐ。
雀蜂の複眼が真っ赤に発光し、振動に耐えきれなかったステンドグラスが割れ、煌めきながら室内に降り注ぐ。
{ちょ…ちょっと待って!僕には貴方の言っている事がサッパリ……。」
急いで宥めようと、雪兎はそっと声を掛けるが其れが逆効果だった。
急いで宥めようと、雪兎はそっと声を掛けるが其れが逆効果だった。
{黙れ畜生!猿共の玩具に成り下がった貴様にもはや様など在りはせぬ!!}
さらに激昂した雀蜂…いや〝琥珀〟はその手に握っていた杯を、ドラグリヲの足下に投げつける。
石畳の床に叩き付けられ、易々と砕け散るグラス。
さらに激昂した雀蜂…いや〝琥珀〟はその手に握っていた杯を、ドラグリヲの足下に投げつける。
石畳の床に叩き付けられ、易々と砕け散るグラス。
玉座の両脇に突き刺さっていた二振りの鉤付きの剣を引き抜き、ドラグリヲに向かい突き付けた。
{その穢わらしい鱗を剥ぎ散らし、腑を引き裂き、骨を砕き、肉を千切り、脳髄を啜ってくれる!!}
{その穢わらしい鱗を剥ぎ散らし、腑を引き裂き、骨を砕き、肉を千切り、脳髄を啜ってくれる!!}
背の中に収納されていた六枚の翅を大きく威嚇するように羽ばたかせ、宙に浮いた〝琥珀〟は
その怨念に満ちた、咆吼を上げた。
その怨念に満ちた、咆吼を上げた。
{ こ こ で 死 ね 裏 切 り 者 ! ! !}
その言葉の瞬間、〝琥珀〟の背後にあった建築物全てが音も無く崩れたかと思うと、それは〝蛇〟に姿を変え一斉にドラグリヲへと襲いかかった。
{…!!!!」
咄嗟に飛び下がろうと地面を踏み締めようとしたが、雪兎は〝蹴った〟という手応え否、脚応えを感じる事が出来なかった。
徐に下に視線を向ける、そして戦慄した。
{…!!!!」
咄嗟に飛び下がろうと地面を踏み締めようとしたが、雪兎は〝蹴った〟という手応え否、脚応えを感じる事が出来なかった。
徐に下に視線を向ける、そして戦慄した。
踏み締めていた地面が飛散して消えたからだった……いや正しくは〝身を寄せ合い、城として、岩盤として体を成していた虫の群れが再び霧となり活動を再開した〟のだった。
身を支える物が全て無くなったドラグリヲは、何の抵抗も出来ず空しく深淵へと墜ちて行く。
身を支える物が全て無くなったドラグリヲは、何の抵抗も出来ず空しく深淵へと墜ちて行く。
急いで〝鉄屑〟を起動しようとカルマに怒鳴った雪兎が見た物は、虫で構成された巨大な〝蛇〟が、ドラグリヲを呑み込もうと堅牢な顎を開いたのと
墜ちゆく雪兎を尻目に、同じく虫で構成された巨大な竜巻を従えて地上へと向かう〝琥珀〟の姿だった。
墜ちゆく雪兎を尻目に、同じく虫で構成された巨大な竜巻を従えて地上へと向かう〝琥珀〟の姿だった。