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Alisa in TOKYO

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匿名ユーザー

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ROST GORL×カインドオブマシーン




甘さの中にしっかりとした苦い旨みを秘めたキャラメル味の珈琲。その表面上に、器用に描かれたイラスト。
俗に言う、マキアートと呼ばれる物だ。そのマキアートの模様はにっこりとした笑顔で、男に向かって微笑んでいる。
だが、男はそんな笑顔に目を向ける事も、鑑賞する事も無く口元に運ぶと無造作に啜った。マキアートの笑顔が一瞬、泣いた様に見えるが男に気付く節は無い。

男は注文したキャラメルマキアートをそのまま一気に飲み干すと、軽く一息吐いた。これで三杯目になるが、まだまだ飲む事になりそうで困る。
男の容姿は、日本人である事を象徴する黒髪の人々の中では些か浮いていた。否、異様という程浮いていると言える。
その容姿で最も目立つのは、地毛であるナチュラルで鮮明な赤色の髪の毛。それにとても彫りが深く彫刻の様な目鼻立ちも、男の異様さに拍車を掛けている。

仕事の合間の休憩か、男の近くに座るOL達がヒソヒソと話している。
内容は無論男の事で、何処かの俳優さんなのかな? カッコいいなぁ、とかあーいう外人さんと付き合いたいよね、とか実に生々しい。
ヒソヒソ話なので幸か不幸か男には聞かれていない。男自身もOL達に何ら関心は無い。

キャラメルマキアートを嗜む右手の反対側の左手で、男――――――――ヘンヨ・シュレ―はこの国の新聞紙の記事を、軽く目で追っている。
しかし有益な情報を得られそうな記事は無い。まるで無い。進展の無い正に茶番な政治経済、だからどうした? な芸能ニュース、下世話な風俗関係のコーナー。
まぁ、所詮駅のスタンドで売っている様な新聞はこの程度のクオリティなのかもしれない。と、ヘンヨはぼんやり考える。

とはいえ、こんなあらゆる意味でぺラッぺラな物を読んだ所で対して時間も潰せやしない。
これならあいつが持っていたガイドブックでも読んでいた方がずっとマシだと、ヘンヨは思う。それにしても珈琲は美味い。何杯飲んでも飽きがこない。
とはいえ、ヘンヨはもう正直、キャラメルマキアートを飲む気にはならない。しかし何か飲んで暇を潰してでもないと気持ちが落ち着かないのだ。
元は言えばあいつが……と、ヘンヨは思考を一巡させる。よくよく考えてみれば、この状況自体がおかしい。

何でわざわざ日本に旅行してきて、俺はこうしてあいつが帰ってくるのを待ちながら珈琲を飲んでぼんやりとしているのか……。
ヘンヨは自分が自分で不思議になる。取りあえず、四杯目のキャラメルマキアートを頼む事にする。



ヘンヨがこうして、日本の真ん中東京にて、カフェで珈琲を飲む事になった全ての発端は数日前、突然事務所に掛かって来た電話だった。

                             
                               ○―――――――――――○
   

ヘンヨに電話を掛けてきた声の主は、女性であった。否、女性というより少女と言った方が合っている。
少女とヘンヨはとある出来事がきっかけで、互いに名前を呼び合う程度には、近しい関係である。とはいえ、多忙を極めているヘンヨはかなりの間、その少女とは疎遠になっていた。
故にヘンヨと少女は互いに久々だという挨拶を交わした。ここまではまだ良い。本題はここからである。

その少女は挨拶もそこそこに、ヘンヨにある依頼を持ちかけてきたのだ。

『ねぇ、ヘンヨ。わたしもうすぐ日本に行くんだけど、ボディーガードしてくれない?』

最初、少女の言っている意味が分からず、思わずヘンヨは間が抜けた声で聞き返した。

「……は?」

この時の呆気に取られたヘンヨの表情は愉快であった。鏡を見せたらヘンヨ自身笑ってしまうほどに間抜け面だった。
数秒間の沈黙ののち、ヘンヨは少女にその言葉の真意を訪ねる。

「今なんて言ったんだ? 上手く聞こえなかったんだから」
『だーかーらーもう一回言うよ? 私のボディーガードをしてほしいの。一人だと何かと不安でさ』

ヘンヨが明らかに戸惑い、もとい訳が分からないという態度を前面に出しているにも関わらず、少女はマイペースに会話を続ける。
まるでヘンヨがこういう反応を見せてくるのを図った上でからかっているのか、少女の話す音色はとても軽やかだ。
『女の子の一人旅って何かと危険が付きまとうって言うじゃない。だから色んな意味で強いヘンヨがいてくれたら安心だなーって』
「何で俺に頼む。友達なりと行ってくればいいだろ。俺もそう暇じゃないんだ」

ヘンヨの至極冷静な反論に、少女は少しムッとした様子で言い返してくる。

『行けたら行ってるっての。けど皆それなりに忙しいんだよ』
「……俺も忙しいんだが」
『え、暇じゃないの? だから電話したんだけど』

ヘンヨはそれ以上は時間と電話代の無駄だと踏み、強制的に電話を打ち切る為に受話器を置こうとする。
直感で電話が打ち切られると思ったのか、少女がさっきまでの軽い口調と音色から一転。
真剣な口調と割かし真面目な声でヘンヨに頼み込んできた。

『切らないで、ヘンヨ。冗談じゃなくて真面目に頼みたいの……』

やれやれ……相変わらず世話が掛かる……。無意識か、ヘンヨは大きめな溜息を吐きつつ、下ろしかけた受話器を上げる。
受話器越しにヘンヨが電話を切らずにホッとしているのか、少女が一息吐いているのが小さく聞こえた。
色々と釈然としないが、依頼を受けるかはまず話を聞いてからにするか。そう考えて、ヘンヨは一つ、少女に質問する。

「にしても偉く急な話だな。何で日本に行くんだ? アリサ」

ヘンヨの質問に、受話器越しの少女にして、ヘンヨにとって忘れたくても忘れる事が出来ない、寧ろ忘れる筈が無い少女――――――――アリサ。
アリサ・グレンパークは幾分落としたトーンからガラリと、陽気な声と楽しそうな口振りでその理由を話し出す。
ヘンヨに話したくて話したくて仕方が無い、そんな感じに声が踊っている。

『あのね……驚かないでね? 何と懸賞に当たったんだよ! 日本への旅行に!』
「ふーん、で?」

受話器越しにアリサのズッコケた音が鈍く聞こえてくる。期待していた反応と全く違っていた為だろう。
大分ガッカリした様子で、アリサはヘンヨに聞く。

『驚か……ないの……? 当たったんだよ、日本旅行に』
「俺自身が当たるならともかく他人が当たってもな。それで、話は終わりか?」

アリサはかなり調子を外されたものの、次の言葉で起死回生を狙う。次こそ、ヘンヨは驚く筈だと。

『その旅行、何とペアチケットなんだよ。凄くない? しかもしかも三泊四日だよ!』
「それで? つうか案外短けえな」
『しかも東京だよ東京。あの東京に行けるんだよ、ヘンヨ! どう?』
「いや、別に」

一貫して反応が薄いヘンヨに、キャッキャッとはしゃいでいたアリサの声がそこで途切れる。
ヘンヨは敢えて黙したまま、アリサの次の言葉を待つが、アリサは何も言わない。代わりに、はぁ……と小さな溜息がちょくちょく聞こえてくる。
一体どうした事か、ヘンヨにはアリサが不機嫌そうな訳が思いつかない。大げさにでも旅行に当たった事に驚いてやればよかったのか。

何とも言えぬ沈黙が流れだして数秒、いや、数十秒後位か。ようやく、アリサの声が聞こえてきた。
だがその声は些か沈んでおり、というかあからさまにトーンもテンションも駄々下がりしている。
何だか面倒臭い事になってきた気がするので、ヘンヨは電話を切ってもいいかと思うが、切ると更に面倒臭い事になりそうだ。

『あのさ、ヘンヨ。……私、最初なんて言ったか覚えてる?』
「ボディーガードをしてくれ、だろ? で、それが何だ? わるいがお前の旅行に自費では付き会えんぞ」
『そうじゃなくて……ペアチケットって私言ったのね。この意味、分かる?』
ヘンヨはアリサが言葉に何かを含ましている事に朧げではあるが気づく。が、あくまで朧げだ。
実際にアリサが何を伝えたいのかは分からない。分からないので、ヘンヨはハッキリと伝える。

「悪いが俺はエスパーでも超能力者でもない。言いたい事はハッキリ言ってくれ、アリサ」
『どうして気付かないのよ、鈍いんだから……』
「ん? 今何か言ったか?」
ヘンヨはそう聞き返すが、アリサ自身は別にヘンヨに聞かせる為に言った訳ではなく、ただボソッと呟いただけな様だ。
何故だかやけに慌てた様子で、アリサはヘンヨの言葉を否定した。

『な、何でもない! 何でもないから!』
「そうか。じゃあ切るぞ」
『だから待ってってば! その……ペアチケットの片方あげるから付いてきてよ。真面目に』

アリサが発したその言葉に、ヘンヨのセンサーがピクリと動く。
さっきまではアリサが日本へと旅行する事にまるで関心が無かったのだが、チケットが貰えると言うのならば話は別だ。
もしも自費で付いてきてほしいと言うなら意地でも断る所だが、旅行代が掛からないのであれば、話は別だ。別物だ。

「それ、旅費は全てその懸賞の会社が担ってるのか? それなら行ってもいいぞ。ボディーガード」
『そうだよあっち持ちだよ。だから、その……ボディガードとか別にしなくてもいいから付いてきてよ、ヘンヨ。
 私一人だと心細いと言うか……何と言うか……駄目?』

ヘンヨはしばし考えてみる。タダで旅行出来る。これに乗っからない手は無いと、もう一人の自分がサムズアップする。
旅行費が全てあっち持ち、まぁ買い物だとか細かい諸々は流石にこっち持ちだろうが、飛行機代含めてタダで旅行出来ると言うのは非常に魅力的だ。
アリサの付き添いという、結構なおまけと言うか重りが付くのがネックだが……それでもタダで旅行出来るチャンスは中々無い。

だが……ヘンヨはふと、デスクへと目を向ける。そこには山の様に積み重なっている、数多のこなさなければならない依頼、もとい仕事の書類。
あの事件以降、事務所維持の為に片っ端から依頼を受け続けてきたが、ペットから人探し、浮気調査と一つ一つは大した事が無くてもあまりにも量が多すぎる。
ここらで一発、スムーズにこの山を切り崩していく為に、息抜きするのもいいかもしれない。一応どれも早めに解決せねばならないものの。全く余裕が無い程急を要する依頼も無い。
あまりに仕事仕事仕事じゃ生きている意味が希薄になる。人間、大きな息抜きが肝心だ。これは現実逃避ではない。現実逃避では無いとヘンヨは強く思いこむ。
考えが定まった所で、ヘンヨはアリサに日本旅行へと付き添うと伝える。

「分かった。だが、あまり世話を掛けるなよ。それなりに付き添ってやるが、俺は俺で羽を伸ばしたいからな」

ヘンヨがそう答えた瞬間、アリサの声が明るく弾けた。嬉しさを抑えきれないのか、物凄く弾んでいる。

「ホントに!? ホントに来てくれるんだね! やったー!」

こうやって無邪気に喜ぶだけ、まだまだガキンチョだなとヘンヨはニヒルに苦笑する。
頭の片隅でこんなオッサンと旅行して楽しいのかと、冷静に思いながらも喜んでいるアリサに、まぁ……良いかと思う。
アリサは間髪入れず、ヘンヨに感謝すると共にいつ出発するかを伝えてきた。

『色々と無茶言ってごめんね、ヘンヨ。でも一緒に来てくれて、本当に嬉しいよ、私』
「別に謝る事でもないだろ。で、いつ出発するんだ。日本に」
『明日! 今日の深夜に準備して、明日の朝六時に○○空港に来てね! じゃ、待ってるから!』
「ちょ、おま」

アリサはヘンヨが突っ込みを入れる間もなく電話を打ち切ってしまった。受話器が虚しく電話が切れた事を示す音を鳴らしている。

ヘンヨはしばし、受話器を持ったまま固まっていたが、どうにか動きだす。もう一度電話を掛けた方がいいとは思うが、あのアリサのテンションを考えるとまともに話せる気がしない。
しょうがねえな……と、一人呟きながら、ヘンヨは明日からの三泊四日に備えて身支度をしようと思う。と言っても、せいぜい衣服諸々位でそれほど時間は掛からないのだが。

それにしてもヘンヨ自身、自らの心境の変化に若干驚きを感じている。
昔の尖っていた頃の自分であれば、馬鹿馬鹿しいとアリサを一蹴していたかもしれない。下らん、と。
だが、アリサと関わる事になったあの事件以降、ヘンヨの中で妙な変化が生じている。何と言えば良いのか、物腰が昔に比べて柔らかくなった気がする。
あんな態度を取っておいてなんだが、アリサとの会話に興じている自分がいる。楽しいと言うと違う気がするが、こう……。

……止めた。何だか妙な事を考えそうになったので、ヘンヨはその思考を打ち切り意識を明日の旅行へとシフトさせる。
羽を伸ばすとは言ったが、アリサが日本で何か騒動を起こさないとおう保証は無い。寧ろ凄く起こしそうな気がして堪らない。
そんな予感を感じながら、ヘンヨは自虐的に呟いた。

「ボディーガードじゃなくてお守になりそうだな……」

      
                               ○―――――――――――○

翌日。アリサが指定してきた空港に、ヘンヨは到着していた。

三泊四日分の着替えと、旅に使えそうな小物等々を愛用のトランクケースに詰め込んだヘンヨは一人、アリサが来るのを待っている。
まだ朝方六時だというのに、フロアは人、人、人で激しくごった返していた。旅行に行く家族連れ、ビジネスであろうサラリーマン、ヒッピーの様なバックパッカー等など様々な人種が入り乱れる。
このどこを見ても人だらけな光景に、ヘンヨは少しばかり酔いそうになる。空港どころか、人が多い場所に来る事自体も久々だった為か。じきに慣れるとは思うが。
それにしてもこれだけ込んでいたら、アリサがどこに居るか分からなくなる……と思った矢先、ヘンヨは見つける。

視界に映る、一人の少女の姿。ヘンヨに向かって大きく手を振りながらこっちに歩いてくる。
ヘンヨは歩き出して、少女の元へと急ぐ。自然に早足になる。ヘンヨに合わせる様に、少女は急いでキャリーケースを転がしながらヘンヨの元へと駆けだしてくる。
ヘンヨが立ち止まると、少女も足を止める。互いに、久々の再会を確かめ合う様に見つめ合う、ヘンヨと少女。

特徴的な茶色く跳ねた髪の毛に、子犬を思わせるくりっとした、髪の毛と同じく茶色い目、低くも凛とした鼻立ち。
生意気そうに見えるが、本当は乙女らしい繊細さと可憐さに満ちた内面を持つ少女―――――――アリサ・グレンパークが、ヘンヨの前に立つ。
ヘンヨとは大分身長さがあるものの、それを気にせず嬉しそうに笑みを浮かべて見上げているアリサに、ヘンヨは言った。

「大きくなったな」

ヘンヨの言葉に、アリサは照れ臭いのか顔を少し背けつつ、答える。

「あれからかなり時間が経ったしね。私もそれなりに成長したんだよ」
「そうだな。まぁ……成長してない部分もそれなりだが」

見下ろしながらそう言うヘンヨに、アリサは何故だか胸元を隠す様に両腕を組む。
組んでじっと、何か言いたそうな目をしながら警戒する様にボソッと呟いた。

「どこ見て言ってるのよ……馬鹿」
「身長の事を言ったんだが何と勘違いしてんだ……おっと」

ヘンヨは腕時計に目を向ける。もうそろそろ出発の時間になりそうだ。
前を歩かせるのは何となく不安なので。ヘンヨは先に歩いて、アリサを連れていこうと考える。

「俺が先に行くぞ」
「あ、待ってよ」

ヘンヨが歩きだそうとしたその時、アリサが急に引き留めてきた。
何事かとヘンヨが振り向くと、アリサはヘンヨに向かって左手を差し出してきた。右手はキャリーケースを持っている為だ。
手を差し伸ばしているにも拘らず、アリサは顔を大きく右方に背けており、ワザと視線をヘンヨから外している様だ。
アリサの行動に、ヘンヨは首を傾げる。全く持って、アリサが何をしたいのかコレガワカラナイ。

「……何してんだ?」

ヘンヨはまんま感じた印象を声に出してみる。いやはや、全く持って意味が分からない。
手を差し出しているにも関わらず顔を背けて、しかも淡く頬を染めているなんてヘンヨはアリサが何をしたいのか見当もつかない。
行動の真意が読み取れず、時間も無いのでヘンヨが首を傾げたまま前を向こうとすると、痺れを切らしたようにアリサがつかつかと歩いてきた。
そして妙に恥ずかしそうな様子でかつ、早口でヘンヨに言ってきた。

「早く手を繋いでよ。早く繋いでってば。どうして私がこんな事してるのか分からないの?」

そんなアリサに、ヘンヨは馬鹿正直に言い返す。

「何で繋ぐ必要があるんだ。時間も無いしさっさと行くぞ」

そっけないヘンヨに、アリサの頬がさっきに増してますます赤くなる。何で頬を紅くしているのか、ますます、ヘンヨは何が何だか分からない。全く持って分からない。

「だ、だから……ボ、ボディーガードでしょ! ほら、早くしてよ! 私だって恥ずかしいんだから!」

……本当に面倒臭い奴だなと内心、呆れながらもこのままだともっと面倒臭い事になりそうなので、ヘンヨは言われた通りにアリサの左手を無遠慮に握って歩き出す。
握ったアリサの手は熱でもあるんじゃないかと思える位熱く、もしや本当に熱があるんじゃないだろうな? とヘンヨは振り返る。
しかしアリサの身体に特に変な所は見当たらない。いや……アリサはさっきにも増して顔を背けており、顔を見せようともしない。頬がこれ以上無いほど真っ赤になっている。

自分から繋ごうと誘っておいて何やってるんだろう、コイツは……。
これから先、こんなペースで付き合わされると思うとヘンヨは気が重くなる。これじゃあ本当にお守をする事になりそうだ。
パスポートとチケット諸々を通して、ヘンヨは付き添い、もといボディーガードという依頼の元、ヘンヨと共に日本へと出発した。

ちなみに、仕事仲間であるスレッジとKKには旅行に行くとは一言も伝えていない。
伝えたら伝えたで大量のお土産を要求される気がするので。いや、絶対にされる。神に誓ってもされる。
                
                               ○―――――――――――○

所変わり、話の視点は日本に移る。ここは、とある都内にそびえるとあるアパートのとある一室。

まだ夢の中にいる夫を起こさない様に、彼女は抜き足差し足忍び足で台所へと向かう。
包丁やまな板といった料理道具を用意して、静かに素早く、それでいて正確に、朝食の用意を行う。愛すべき夫の為に美味しい朝食を作る。それが常に変わる事の無い、彼女の日課だ。

窓を開けると、朝の爽やかな風がふわりと入ってきて心地が良い。
眩く光る朝の太陽が、彼女の金髪をキラキラと淡く輝かせる。流行っている流行歌を鼻歌で楽しそうに歌いながら、彼女は出来あがった料理をお盆にのせて、リビングに運ぶ。
普段であれば朝食が出来たらすぐに夫を仕事の為に起こしに行くのだが、今日は休みな為、それにある目的の為にもそのまま寝かせておく。

彼女――――――――こと、ティマは今日、夫であるマキには秘密で、ある場所に出かけようと考えている。
一応出かける事自体は昨日話したのだが、ではどこに出かけるかといえば、それは秘密にしてある。どうしても知りたがって駄々をこねていたマキが可愛く、ティマは思い出してはくすっと笑う。
マキとは夫婦間で隠し事はしないようにしよう、と決めたが、ティマはどうしても秘密にしたかった。秘密にして、驚かしたいと思っている。

明日、家にマキが注文した、ティマの新しい身体が届く。
その身体は、ティマが前から強く願ってきた――――――――わるい事が出来る身体である。具体的には表現できない事を了承してほしい。
それに合わせて、ティマは身体が新しくなったからこそ、やってみたい事があった。どうしてもやってみたい事が。

リビングに着いたティマは、テーブルの上に朝食をそっと置いた。そしてマキが眠る寝室へと、ゆっくりと音を立てずに入る。
ベッドの上ではティマが居る事にも気付かず、マキがすやすやと眠っており、心地良さそうに寝息を立てている。
マキの元へと寄り添い、ティマは目を瞑って、頬に軽くキスをする。

「じゃ、行ってくるね」

そう言い残し、ティマは寝室を後にする。

ティマがどこに出かけるのかは、それはティマのみぞ知る。

                               ○―――――――――――○


「見て見てヘンヨ! 東京タワーだよ! ホントに真っ赤っかなんだね!」

天高くそびえる、真っ赤な外見が特徴である東京の象徴を指差して、アリサが興奮を隠せないといった口振りでヘンヨに話しかける。
にしても実際に東京タワーに昇ったら興奮しすぎて死ぬんじゃないかと、ヘンヨは馬鹿馬鹿しい心配をしてみたりする。

「ねぇヘンヨ、昇ってみようよ! どんな景色か見てみたいの!」
「まぁそう逸るな。後で連れてってやるから」
「絶対だよ!」

満面の笑顔でそう言うアリサに、ヘンヨは苦笑する。アリサは日本に、東京に来れて本当に嬉しいようだ。

感動しっぱなしなアリサに対して、ヘンヨは冷めている。アリサの興を削いでしまうので敢えて話していないが……。
仕事柄、他国に出張する事が多いヘンヨは日本に何度も来ている。それでいて偶然にも、仕事の現場が大体東京な為、東京タワーなどヘンヨには珍しくもなんともない。

それ以前に東京という町自体に、ヘンヨは無関心といっても良かった。どんな時期に来ても代わり映えの無い、無機質な灰色の密林と、密林の下で慌ただしく動いている蟻の様な人々。
右を見ても左を見ても同じ様な建物が並び同じ様な人々が動いている退屈極まりない街。それが、ヘンヨから見た東京の印象だった。
まだ、貧民層と富裕層が混沌と混ざり合っている自国のスラム街の方が面白い。非常に殺伐としているが、退屈よりかはずっとマシだ。

こんな事を思っていると、東京を一方的に扱き下ろしている様だが、ヘンヨは何も東京の全てを全否定している訳でもない。

様々な国を巡ってきたが。利便性と安全性を凄まじく追及した末のこの町は、どの国よりも過ごしやすく快適だ。
よほどの事が無い限り、というか普通に暮らしている上で斬った張ったの危うい目にはまず遭わないし、何より生活に不便を感じる事が無い。
少しでも探せば清潔とまでは言わないが普通に機能しているトイレに在り付けるし、飽和するほどには食に溢れている。
何より、懐に拳銃を忍ばして常に周囲を警戒する必要すらない。……いや、これは別に日本に限った話じゃないか。

お世辞でも何でも無く、ヘンヨは東京が素晴らしい街だとは思う。ここまで人間らしい生活が出来る町もそう無いだろう。
だが、それだけだ。それ以上に惹き付ける物が、無い。ヘンヨにとっては治安的にも、衛生的にもグッとグレードが落ちるスラム街の方がどこか、愛着が持てる。
どうして自分はここまで東京がいけ好かないのか、ヘンヨは考えてみる。が、考えた所で対して、答えは出ないだろうし出す必要も無い為、頭の片隅にでも丸めて捨てておく。

「でもさ、ヘンヨ」

ふと、アリサが呼びかけてきた。いつの間にか、アリサは大分落ち着いており、ヘンヨの横に立ち止まって、東京タワーを見つめている。

「あんな大きな物、一体どうやって作ったんだろうね」

やけに漠然な疑問を持つなと思いつつ、ヘンヨは淡々と答えてみせる。

「そりゃあ多くの人間が手間暇掛けて作ったんだろう。長期間で」
「そうじゃなくてさ」

至極一般的な事を言ったヘンヨに対して、アリサは上目で覗きこむように見上げながらやんわりと否定する。
無意識に上目遣いをしてくるアリサに、ヘンヨは妙に艶を感じてしまう。が、落ち着け、コレはあのアリサだ。あのアリサだと思う事で冷静に戻る。
視線をヘンヨから東京タワーに戻して、アリサは語る。その声も口調も、真面目でありそれでいて、真剣だった。

「あんなに大きな物を作る為には、きっと長く受け継がれてきた凄い技術だとか、沢山の人達のアイディアとかが必要だったんだろうなって。
 それでいてそれらを纏めて一つの形にするって、生半可な事じゃないんだよね。色んな人達が、自分達に出来る精一杯の事をしてきたんだろうなって……」
「……それ、さっき俺が言った事とそんなに変わらないよな?」
「あのね、ヘンヨ」

ヘンヨの軽い突っ込みをするっとスル―して、アリサは語る。本気で、自分の言葉で、語る。

「あの事件から……私も色々、勉強したんだよ。アンドロイドの事とか、ロボットの事とか……私に関連性がありそうな事も、出来る限り。
 それで学んだんだ。例え……例えそれらが悪い事に使われたであろうと、そういうのに関わった科学者とか、技術者の努力から生み出された技術や発見は、否定されるものじゃないって」

ヘンヨは口を挟む事無く、アリサの語りを聞き続ける。ここは、茶化す場面じゃない。
アリサはアリサなりに、あの忌むべき事件から大事な事や大切な事を吸収したのだと、ヘンヨは思う。それでいて、自分が何をすべきかを考えようとしている。
青臭いと言えば青臭いし、まだ認識が甘い部分もある。だが、いまはそれで良い。今、アリサに必要なのは学ぶ事だ。
何が良くて、何が悪いかなんてのは、一通り学んでからで構わない。とも、ヘンヨは思う。何保護者気取ってんだと気味悪がるもう一人の自分がいるが、黙らせておく。

「ヘンヨ」

顔だけでなく、身体をヘンヨに向けて、アリサは言葉を紡ぐ。正面から、ヘンヨを見据える。

「……何だ」

ヘンヨはアリサを見据え返す。アリサの両目に映るヘンヨは、どんな風に見えているのだろうか。
ヘンヨもアリサを両目に映す。アリサはヘンヨを見据えたまま、しっかりと芯の通る声で、言った。

「私、いつかそういうのに携わってみたいんだ。えっと……一応言っておくけど悪い事がしたいとか、そういう変な意味じゃないよ。
 あの東京タワーみたいにさ、沢山の人達を喜ばしたり感動させる事に関わってみたいなって。今はまだ、何をするべきかとかは分からないけど……。
 けどいつか、いつかそういうのに関われるような、そんな人になりたい。それが私の……夢、っていうのかな。良く分かんないや」

そこまで言い切り、アリサは笑う。言いたい事が多すぎて、逆にどういえば良いかが分からず笑ってしまったようだ。

その笑顔に、かつて巨大な陰謀に成す術もなく巻き込まれて、ヘンヨ達に守られていた、か弱き少女の面影は無かった。
今のアリサは、自分で自分の人生をしっかりと三つ目、誰に左右される訳でもなく、自分自身の足で大きな一歩を踏み出そうとしている。
そんな強く、気高き少女の笑顔が、ヘンヨの両目に映る。

自然に、ヘンヨの口から笑みが零れる。今は皮肉も、小難しい屁理屈もいらない。今、ヘンヨが純粋に思う事は一つだけ。

アリサと再会出来て良かったと、ヘンヨは心から思う。これだけ成長できたアリサと会えて、良かったと。

ヘンヨは一寸、目を瞑って、開く。そして、掌を優しくアリサの頭に置く。
頭に掌に乗せたまま、淡々とした口調でヘンヨはアリサに一言。淡々と、というより照れ隠しの為かワザと平坦な声で言う。

「頑張れよ」

そう言って、ヘンヨは東京タワーへと歩きだす。物凄い照れ隠しが発動したせいか、早口でかつボソボソとした声だった為、アリサはヘンヨが何と言ったか聞き取れなかった。

「ヘンヨ……? 今なんて言ったの? 待ってよ、ヘンヨ!」

置いていかれない様に、アリサは先を行くヘンヨの背中を追い掛ける。


早足でアリサから遠ざかりながら、ヘンヨはポツリと、一人ごとを呟いた。


「何やってんだ、俺……」

      
                               ○―――――――――――○

東京タワーを巡る諸々の後、ヘンヨはアリサの東京観光に渋々ながらもボディーガードという依頼の元、同伴する。
どんな建物もオブジェも、アリサにとっては非常に新鮮であり、一々何かある度に東京タワーの時の様に大きな声を上げてヘンヨを呼ぶ為、ヘンヨは一々小恥ずかしい気分にさせられる。
とはいえ、何にでも感動して目を輝かせるアリサの姿に、ヘンヨは不思議と微笑ましい気分になる。まるで孫を見る祖父母の様な……。
って、何ジジィみたいな事思っているんだ俺は、とヘンヨは自制する。しかし実質、コレはボディーガードではなく子守ではないかと冷静に気付く。

それにしても、アリサの体力は若いだけあり底が見えない。かなりの距離を移動している筈なのに、全く疲れを見せる様子が無い。
様々な交通機関と両足を駆使して、ヘンヨはアリサに上は東京タワーから下はデパートの地下まで付き合わされている。
もうヘンヨの足腰はガタガタになっていて、体力も底を尽きかけている。例え普段鍛えていても、根本の若さによる疲れ知らずには勝てない。

そろそろ休みたいと弱音が出始めた時、アリサがどこかで休憩しない? と提案してきた。本当にありがたい。

アリサの好奇心の元、色んな所を駆けずり回っている為、どこら辺まで歩いたのか、割かし土地勘には自信のあるヘンヨでさえ曖昧になっている。
確か新宿かどこかだとは思うが……地面から雨後のタケノコの如く大量に生えている高層ビルを見ていると、改めて東京という町の発展ぶりに目を見張る。
人間の進歩というか進化は恐ろしいと言うか。しかしこれだけビルを生やして将来どうなるのか。……どうでもいいか。

「ねぇねぇ、ヘンヨ。あそこのカフェとかどう?」

ふっと、意識をアリサに戻す。アリサはそんな高層ビル群の一角に構えているカフェを指差して、ヘンヨを誘った。
前面ガラス張りであるそのカフェは、ガラスの窓に青くセンスの良い文字で、divers´cafeと描かれている。恐らくというかそれがカフェの名前だろう。
何となく雰囲気が良さそうだと思い、ヘンヨは良いんじゃないか? と頷いて見せる。
ヘンヨの頷きに、アリサは待ってましたとばかりにヘンヨの腕を強引に引っ張って連れていく。こうしているとヘンヨとアリサは親子か何かの様だ。

「いらっしゃいませー」

店内に入ると、若々しい女性の声が二人を出迎える。肩まで伸びた髪を三つ編みに結いだ、クールな目付きの女性店員が二人をテーブル席まで誘導してくれる。
涼しげな蒼色を基調としたインテリアで統一されており、淡い青色の壁には様々な魚が影絵の様に描かれている。まるで海の中に居る様な雰囲気に、ヘンヨは店名がdivers´cafeである理由を何となく悟る。
まだ昼飯時前と言うより、中は中々に繁盛しており周囲のテーブルにはスーツを着たサラリーマンやら、雑談に華を咲かすOLやらで賑わっている。

カウンター内に目を向けると、髪を束ねた腕が丸太の様に太いマッシヴな男が、黙々と珈琲を淹れている。
容姿に反して何となく仕事ぶりは細やかで丁寧な様に感じる。眠そうな顔つきをしているが、二人を誘導した女性手院は非常に素早い動作で各テーブルへと料理と珈琲を運んでいく
店内観察もそこそこに、ヘンヨは何か注文しようとメニューを取ろうとした、その時。

にゃあ、とテーブルの下から黒い猫が茶目っ気たっぷりに顔を出してきた。

「こら、クロ。お店がやってる時は遊んじゃ駄目」

クロというその黒猫に、女性店員が駆け寄ってきてそう言うと、クロはそそくさと何処かへと去っていった。
猫が店内に居るとか衛生法は大丈夫なのか? と、ヘンヨは余計な心配をしつつ、疲れた時に糖分が向いていると言う事で、キャラメルマキアートを頼む。
ふと、ヘンヨは女性店員の胸に付けた名札を見る。クー、変わった名だなとぼんやり思う。

「私はじゃあ……クリームソーダで」
「キャラメルマキアートにクリームソーダですね。少々お待ち下さいませ」

女性店員がテーブルを離れると、ヘンヨは今まで抑えていた意地の悪い皮肉をアリサに出してみる。

「舌の方も成長したらどうだ? 珈琲くらい飲めない事無いだろう」
「生憎そこまで大人になる気は無いので」

しれっと涼しい顔でそう返すアリサ。

「……やっぱり可愛くないな、お前」
「おじさんも少しは愛橋付けたら? そんな無愛想じゃ女の子にモテないよ、ずっと」

この小娘、一体どこでこんな言葉を学んだのやら。ヘンヨはピクピクと顔を引き攣らせる。笑うに笑えない、色んな意味で。
ヘンヨの反応に、アリサはニヤニヤと意地悪そうに口元をニヤけている。
ヘンヨが大人として調子に乗っている小娘にキツい一言をお見舞いしてやろうと思った矢先。

「お待たせいたしました」

女性店員がタイミング良く、二人が頼んだ飲み物を持って来てくれた。

とことん、アリサにしてやられているヘンヨには、カップの上に器用に描かれている、笑顔のマキアートが自分を笑っている様に思えた。
アリサはと言えば、頼んだクリームソーダのアイスを嬉しそうにパクつき、ストローでソーダをがぶがぶと飲んでいる。
まるで子供、というか普通に子供っぽいその様に、微笑ましく思える。……俺は本当に保護者のつもりか。ヘンヨは自分で自分を引っぱたきたい気分だ。

「あ、そうだ。あのさ、ヘンヨ」
「ん?」
「私これ飲んだら、ちょっと一人で出歩いてみたいんだけど良い?」

アリサの言葉に、ヘンヨはキャラメルマキアートを一口飲み、答える。


「迷子にならないか? 別に構わんが……」
「大丈夫大丈夫! こう見えても割と土地勘ある方だもん、私」

そう言うが早く、アリサは勢い良く席を立った。

「じゃ、三十分後位に戻ってくるから!」
「迷うんじゃねーぞ」

ヘンヨの忠告も振り切り、アリサはdivers´cafeを脱兎の如く飛び出してしまった。
こうなった以上、疲れからヘンヨは追い付けない。まぁ……年が年だし、迷子になる事は無いだろうと、ヘンヨは思う。
ようやくアリサから解放され、一人になれたヘンヨは軽く溜息を付いてポツリ、呟く。


「つうか……本当に何やってんだろうな、俺」



                             
                               ○―――――――――――○


そして時間軸は現在に戻る。

ヘンヨが珈琲を飲みながらアリサを待ち続けて、かれこれ一時間半は経っている。完全に三十分以上経っている。
小難しい事を考えなくても、アリサに何が起きたかは分かる。紛れもなく、迷子になった。迷子になりやがったと、ヘンヨは頭を抱える。
只でさえ、慣れてない人間なら地図でもないと訳が分からなくなる街なのに、東京どころか日本にさえ初めて来たアリサがまともに把握できる訳が無い。
あの時無理矢理にでもついていってよかった、とヘンヨはパチパチと痛む目元を指で解しながら思う。どうして一人で行かせてしまったのか。

アリサは自信満々に言った。土地勘があると。その言葉をヘンヨは信じた。
土地勘があると豪語した以上、アリサはよほど距離が離れた場所にまで遊びに行ったに違いない。若者らしい好奇心が確実に裏目に出た。
多分、今のアリサは自分でも把握できない場所にでも迷い込んでしまったのだろうと、ヘンヨは思う。

探そうにもヘンヨには、アリサが行きそうな場所が見当つかない。あれだけ好奇心に溢れているなら、どんな場所にでも行ってしまいそうだからだ。
どんな建物も、アリサにとっては新鮮だろうし、しらみつぶしに探していけば日が暮れるってレベルじゃない。
どうにかアリサと電話でも……連絡が取れる手段があれば……あ。

あ、そうだ。ヘンヨはふと、忘れていた事を思い出す。いや、一番思い出すべき事を思い出す。

日本に到着したその日、ヘンヨはアリサと携帯の電話番号を交換し合ったのだ。
互いに別行動を取る時に、何かあるといけないと言う事で。これはアリサではなく、ヘンヨからの提案だった。
別にアリサの事が心配だとかではなく、アリサが厄介事を起こしたそうにすぐさま収集を付ける為だ。もう一度言うが心配だからではない。
思いだしたが即。ヘンヨはポケットから携帯を取りだした。

取り出して、アリサの携帯の電話番号へと至急掛けてみる。
これで掛かればそれで構わない。アリサを冷静に諭して、どこにいるかを聞き出せば、もうそれで済む。
掛かったら少しばかり怒ってやろうと、ヘンヨは思う。若さに任せてハメを外されると、本当に困る。
良し……良し、掛かれ……早く、掛かれ……。

が、しかし。



次にヘンヨの耳に飛び込んできたのは、電源が切られているか、電波が届かない事を知らせる英語音声。
アリサは切っている。携帯を、切っているか……それか電池が切れているかのどっちか。

こうなってはほぼお手上げだ。頼みの綱である携帯も、何らかの事情で掛かる事が無い。
それでいて、アリサがどこに行ったかも検討が付かない。東京という密林は、少女を飲みこんでいる。

「たくっ……」

ヘンヨとしては、アリサがどうにか道を思い出してここに帰ってくる事を願うしかない。

願う、しかない。




後編に続く


後編



ヘンヨが行方が知れなくなったアリサについて、頭を抱えだす一時間前に時間を戻そう。

ヘンヨに土地勘があると高らかに言い放ち、自信満々にdivers´cafeを元気良く跳び出したアリサは町を走り出す。
アリサにとって東京の町は目に映るモノ全てが新鮮で、それでいて煌めいて見えている。今のアリサにとって、東京は大きなおもちゃ箱の様だ。
澄んだ青空を大きく反射させている高層ビルの窓ガラスも、小綺麗に飾られたショーウインドウの中のマネキンも、慌ただしく点滅する信号機も、その全てが煌めく。
ただ、異国の大通りを走っているだけでアリサの心は躍る。愉快に躍る。これほどまでに沢山の巨大なビルが立ち並び、人が行き交う街、アリサには初めてだった。

ふと、アリサは冷静に我に返る。目的地を特に決めず走っているだけで凄く楽しいのだが、それだけじゃいけない。
もしも道に迷ったら一大事だ。その為、アリサは敢えてdivers´cafeから来た道を戻って、迷わない様に策を立てる。
目印になりそうな建物を逐一携帯を使って写真を撮り、どういう道を辿ったかを記録しておこうと思う。早速とアリサは立ち止まって、懐から携帯を取りだした。

携帯を開き、アリサはあれ? と、首を傾げた。
本来は直ぐにアプリだとかが立ち上がるのだが、何十秒経っても画面が真っ暗なままなのだ。
おかしい……とアリサは思い始めるが、そうだった……と思い出す。確か昨日の夜……。

確か昨日の夜、携帯を開けたら充電率を示す電池のアイコンが赤かった事を。一応ヘンヨと電話番号を交換し合った時はまだ緑色だった。
だが暇を見つけてはしょっちゅう携帯を開いてインターネットをしたり友人と電話したりする度に消費していき、気付けば真っ赤になっていたのだ。
一応充電器は持ってきてた物の、ヘンヨとの観光で携帯を開く場面もそう無いだろうと思い放置していた。その結果が、今の電池切れである。

まぁ……いっか! とアリサは真っ暗な画面を見せる携帯を懐に仕舞い、明るく考えなおす。
何となくdiver´cafeへの帰り道はぼんやりと……いや、確か……多分……覚えている筈……覚えている筈だから大丈夫! という根拠の無い自信を持つ。
だからヘンヨと連絡が取れなくても問題無い。アリサは自分を鼓舞する意味でもそう考え直す事にした。

こうでも考えないと、何だか足元が覚束なくなって不安に押し潰されそうになる。
ぶっちゃけて言えば、アリサはdiver´cafeへの帰り道を覚えていない。ひたすら街を疾走したせいで、帰り道の事など微塵も考えて無かった。

えっと……よし、逆に考えよう。敢えて帰り道を忘れる事で、この初めての場所東京を楽しまなきゃ。
多分グルグル回ってるうちに偶然帰り道を見つけられる。きっとそう。そう、考えなきゃ……。
背筋を力一杯に伸ばして、アリサは深く深呼吸する。まずは……良し。

やっぱりヘンヨに案内して貰おう。

アリサは踵を返して、とりあえず来た道を全力で戻ってみる事にする。

                               ○―――――――――――○

タイトルは忘れたが、何となく気にいっている数年前の流行歌を鼻歌で歌いながら、ティマは大通りをウキウキとした気分で歩いている。
その足取りはとても軽く、今にもスキップを踏みそうになるが堪えている。それほどまでに、ティマの気分は高揚している。
今日、ティマがマキに秘密でわざわざ長時間掛けて東京まで出かけてきた理由。その理由は、マキが買ってくれた新しいボディに合わせて水着等の衣服を買いに来ていた為だ。

新しい身体は高性能な防水機能が搭載されている為、昔の(というか今の)身体ではまず出来なかった水泳等が出来るようになる。
故にティマはこうして東京に足を運び、有名店などに出向き様々な水着やついでに新しい服などを特に制限を設けずに買いまくっている。
割かし懐に余裕……という訳でもないが、色々なタイプの服装を試着しては試着し、気にいった物は迷わず買う事にした。
カジュアルで動きやすいビキニから大人っぽいパレオまで、ボーイッシュなショートパンツから妖艶なネグリジェ(何となくノリで買ってしまった)まで、ティマは童心に帰って買い物を楽しんだ。

その結果、今のティマの両手には、大きな紙袋が二つ、ぶら下がっている。袋の中には殆どパンパン状態で水着からなにまで入っている。
早く家に帰ってもう一度試着してみようと、ティマは思う。それで晴れて新しい身体になったら、マキをプールに誘う事にしよう。
買ってきた水着をマキに見せるのは正直恥ずかしいけど、でもやはりマキに見てほしい。新しくなった私を。

それで……それで……。


                               ○―――――――――――○

おかしい。走っても走っても、全くdiver´cafeに着く気配が無い。息を荒げながら、アリサは軽くパニック状態に陥っている。

冷静に考えてみたら、アリサは東京という町について全く知らないのであった。建物の種類はおろか、通りの名前でさえ。

一応行きの飛行機の中でガイドブックを読む事で、各名所については学んでいた。が、あくまで名所についてだけの情報しか学んで無かった。
そこに行くまでの道のりだとかはほぼ全て、ヘンヨに任せっぱなしだった。バスから電車まで全てアリサはヘンヨに連れて行って貰っていただけだ。

ヘンヨはまるで元から東京に住んでいたかの様に、電車もバスの乗り方も完璧に把握していた。ぶっちゃけ気味が悪い位に。
だが、そんな失礼な事を思いながらも、アリサは安心してヘンヨと東京を巡れたのだった。ヘンヨについていけば安心できる、と。
が、今のアリサはどうだ。ヘンヨがい東京タワーに興奮して立って、何にもなりゃしない。一歩も動けない。
初めて日本に来たのだから、土地に不慣れなのは当たり前のことと言えば当たり前のことであるが……にしてもあまりにも不勉強すぎた。

アリサは今更反省、否、猛省する。浮かれていた。凄く浮かれていた。
ヘンヨと日本に行けると考え、尚且つ色んな名所を巡る事で頭が一杯だったせいで、日本語も日本の地理の事もちゃんと勉強していなかった。
今頃反省した所で何にもなりはしないが、とにかくアリサは自分を戒めたい気分で満ちている。

するとどうだろう、さっきまで煌びやかで楽しく見えた周囲の光景が、一転して不穏で不気味な景色に変わっていく。

アリサの視界に入る光景は、どれも同じ物に見える。同じ様なビル、同じ様な顔の人達、無機質な雰囲気。
……落ち着け。パニクっちゃいけない。アリサは心を落ち着かせつつ、ゆっくりと歩き出す。
落ち着いて来た道を……来た道を帰ってみようと、アリサは自分が辿って来たと思う道を帰る。自然に足が早足に変わっていく。

ここは右……いや、左だったかな? 次は左、次は……あれ? えっと、右だった気がする。
あれ、あれぇ? 同じ場所に帰ってきている。じゃあこっちの道を……。違う、こっちはさっき曲がった。
駄目だ。やはり同じ所に戻ってきてしまう。これじゃあ、同じ場所をグルグルと回っているだけ。まるで掴まる筈が無いのにしっぽを追いかけてる犬みたいだ。

どうしよう。本当にどうしよう。これは、参った。
アリサの足は立ち止まり、頭を抱えたくなる。迷子だ。完全に、迷子になってしまった。

道を聞こうにも、日本語はまるで分からないし話せない。周囲を早足で行き交っている日本人が、アリサには限りなく近く、途方もなく遠く感じる。
まるでエイリアンにでもなった気分だ。全く違う惑星に一人残された、仲間も誰もいない孤独なエイリアンに。
泣きたくなりそうな心と両目をどうにか堪えながら、アリサはdiver´cafeへと戻る方法を考える。

しかし携帯が使えないから、ヘンヨとの連絡はまず取れない。日本語も出来ないから、誰かに道を聞く事も出来ない。
そして何より、今自分がどこに居るのかすら、アリサには分からない。正に八方塞り。泣きっ面に蜂。異国の地で迷子。

ふと、もしこのまま一生divers´cafeに帰れなかったらどうしようと、アリサは思う。思ってしまう。絶対に思ってはいけない事なのに。

悪態を吐いたりや辛辣な皮肉を吐いてみても、アリサの中でヘンヨの存在は大きかった。意識していなかったが、相当に大きかった。

あの事件以来、ヘンヨに対して上手く言えないが、アリサは妙に気に掛かる部分があった。自分自身、どうして気に掛かるのかは説明できないが……。
だからこそ今回、こうして日本旅行に誘ったのだ。ヘンヨと旅をしてみたいという正直な気持ちがあった。
無論、ヘンヨに直接言える訳が無いので、ボディーガードを依頼するなんて馬鹿な事を吹っかけたのだが。
それで……それでヘンヨに色々と腹を割って聞いてほしい事、話したい事もあったし、本心から頼りにしたい事もあった。実際、ヘンヨは凄く頼りになった。

そんなヘンヨが、いない。どこにも、いない。

それだけでどうしてこんなにも心細く、寂しくなるのか……アリサは自分で自分が不思議であった。あまりにも、ヘンヨに依存し過ぎていた自分に驚く。
実際ヘンヨがいないからどうしようもなく不安なのだが。自画自賛する訳ではないが、アリサは別に方向音痴ではない。それに土地勘も悪くはない。
しかし初めて来た日本という異国の地、それに、そんな日本の言語である日本語が全く喋れないと言う二点はこの上なくアリサにとって不安を抱かさせるに十分な材料だ。
本来、アリサは道に迷う子では無い。しかし、それら二つの外的要因は、アリサの心をこの上なく弱体化させていた。

気付けばアリサの足は立ち止まる。その場から一歩も動けなくなっていた。

どこに目を向けてビル、人、ビル。歩けど歩けどビル人ビル人ビル人ビルビルビルビルビルビルビルビルビルビルビル。
頭がおかしくなりそうだ。いや、実際おかしくなっている気がする。
帰れない、歩けない。どこにも、行けない。もう、戻れない。

……助けて、ヘンヨ。

私の手を引っ張って、私をここから連れ出して。


                               ○―――――――――――○


駄目……変な事考えちゃ、駄目。これじゃあ私……。
ティマは頭を激しく横に振って、不埒な考えを振り払う。
早く家に帰って夕食の準備をしなきゃ。自宅へと向かう為、ティマは足を速めた。
とにかく帰る事に頭を切り替えて、それ以外の事を考えない様にする。そうした、矢先。

目の前に意識が向かず、気付いた頃にティマは誰かと正面からぶつかっていた。


「きゃっ!」


                               ○―――――――――――○


思考が完全に閉じかけて、アリサは全てを諦めようとした、その時。

誰かが正面からアリサにぶつかってきた。それも肩が軽くではなく、本当に身体ごとドカッ、と鈍い音を立てて。

「うわっ!」
「きゃっ!」

驚いて声が出てしまったものの、ただ驚いただけで転ぶでもこけるでもなく、アリサはその場に立っている。
逆に、アリサにぶつかったその人物は後方へと盛大に転んだ。
尻餅を付いて、両手に持っている袋をこれまた盛大に地面に落としてしまった。


                               ○―――――――――――○

「きゃっ!」
「うわっ!」

瞬間、ティマは素っ頓狂な声を出して後方へとすっ転んだ。
大きくバランスを崩して、両手の紙袋を手放しながら尻餅を付いてしまった。
両手に持っていた紙袋が離れて、中の衣服が地に零れる。が、ティマは服など構わず、前方不注意でぶつかってしまった当人へと駆け寄った。

「ごめんなさい! お怪我はありませんか!?」

そう言いながら、ティマは不注意でぶつかったその人物へと、顔を向ける。


                               ○―――――――――――○



その人物……否、女性は、自分が持っていた袋の中身が滅茶苦茶になったにも関わらずに急いで立ち上がると、アリサに詰め寄ってきて凄く心配そうな顔で何か聞いてくる。
しかし日本語が分からないアリサはリアクションを取る事が出来ず、取りあえずボーっとしている訳にもいかないので散らばっている衣服を拾い始める。
女性はアリサの行動にポカンとしていたが、やがてハッとすると、自分も拾い始める。その反応の遅さにアリサは一寸笑いそうになるが堪える。

服を全て拾い終わり、再び紙袋に入れ直すと、女性はアリサに感謝して、頭を下げてきた。
いや、こっちもボーっとしてたのが悪いんだし気にしないでほしい、と片手を振りながら首を振るジェスチャーで答えてみる、アリサ。
ふっと、アリサは女性の外見を観察してみる。さっきから妙に気になっていたのだが……。

肩まで伸びており、サラサラとした綺麗な金髪に、蒼く吸い込まれそうな瞳。高い鼻筋に薄い唇。まるで、人形かと思える位、整った容姿に、アリサは軽く息を飲む。
メイクはしていないだろうに、その人の容姿は一言、美人だとアリサは思う。というかこの顔立ち……。こういう事を思うのは失礼だと思うが……。
アリサは思う。アンドロイドみたいだと。何といえば良いのか、KKみたいな雰囲気をアリサは女性から感じている。どこをどう見ても人間なのだが……多分、気のせいだろう。
いや、ちょっと待って。この人の顔立ち……もしかしたら、もしかするかもしれない。アリサはゴクリと息を飲む。

やってみる価値はありそうだ。むしろ、どんな可能性でも賭けてみないといけない。今は、そんな局面だ。

アリサは覚悟を決めると、母国語である英語で女性へと、話しかけた。

「その……いきなりこんな事を聞いてごめんなさい。……英語で喋れますか?」

                               ○―――――――――――○


ティマにとってその人物、否、その少女は、初めて会うタイプの人種だった。
まず、淡く茶色い髪の毛がまず目を引く。それに、髪の色と同じ、茶色い目。コケティッシュな可愛らしさの中に、しっかりとした意思の強さを感じる両目。
一目見て、可愛い女の子だとティマは思った。活発で利発そうに見えるがその実、まだ幼さが抜けきってない年相応の少女らしさもある。

だがティマがその少女を見て一番印象的だったのは、少女を取り巻いている雰囲気だった。
ティマは上手く言えないが、一目で少女が自分とはまるで違う生き方をしてきた事を悟る。
私の知らない場所で、私の経験しえない人生を送ってきたのだろうな、と。初対面どころか出会って五秒も経っていないのにこういうのも変な話だが。

ティマが怪我が無いかと聞くと、女の子は片手と首を振る。どうやら大丈夫そうでホッとする。
と、少女は素早く、ティマが紙袋から零れている衣服を素早い動作で拾い出す。ぶつかったのはこっちなのに、服を拾ってくれるなんて……。
ティマはハッとして立ち上がると、心から少女に謝りたい気分に駆られながら自ら衣服を拾って紙袋に入れていく。

一分と数秒後、全ての衣服を拾い終えて紙袋に入れ直すと、ティマは少女に深く頭を下げて、感謝と共に謝罪する。

「服を拾ってくれて、本当に有難うございます。その……私の不注意でぶつかってしまって、ごめんなさい」

ティマの行動に、少女は反応を示さずじっと見つめてくる。もしかしたらこう見えてかなり怒っているのかもしれない……。
もしもこの子が迷惑じゃ無ければお茶でも御馳走したいとティマは思う。もしそれが駄目なら駄目で良い。
とにかく少女が何か要求してきたら、その要求を受け入れよう。ティマはそう思いつつ、とりあえずお茶に誘ってみようと思った、その時。

少女が今まで閉じていた口を開いた。
その言葉は日本語では無く、英語、だった。紛れもなく、英語であった。

「その……いきなりこんな事を聞いてごめんなさい。……英語で喋れますか?」


「……え?」




                               ○―――――――――――○


目を丸くしているティマに、アリサはしまった、やっぱり駄目だったと思う。
賭けには負けてしまったのかもしれない。考えてみれば、いくら顔付きが外国人の様に見えても英語が喋れるとは限らないのだ。
そう思うと、アリサにはティマがフランス人にもイタリア人にも見えてきた。ただ単に顔が外国人っぽいから英語が喋れると思った自分が軽率だった。

何にせよ、こう驚かれているのを見るとこの場には居づらくなるし自分が情けなくて仕方が無くなる。
アリサは英語とはいえ謝って、その場を後にしようとする。他の方法を考える他ない。

「変な事を聞いてごめんなさい。失礼しました」

背を向け、歩き出そうとするアリサ。そんなアリサを、ティマは呼び止めた。

「ちょっと待って!」

日本語はさっぱりではあるものの、ティマの声の張りに何かを感じたアリサは、歩き出した足を止めて振り向いた。

「英語は一応喋れるから……」

ティマはそう言いながら右手に持った紙袋を地面に置くと、そのまま右手で首筋を触った。
ティマが今触った首筋には、ティマの指先に反応して他国の言語に適応する為の機能が使える、非常に薄いタッチパネルが仕込まれている。
この機能はティマ自身が学んだと言うより、ティマの様なタイプのアンドロイドにデフォルトで付けられている機能と言っていい。
しかしこれを使うには、一々首筋のタッチパネルに触れねばならないのが面倒だ。今度のはこの言語が使いたいと思っただけで適応できるらしい。そこら辺のバージョンアップも楽しみだ。

≪言語を日本語から英語に適応。訛り設定、標準≫

設定が済んだ事を知らせるナビゲーションがティマの頭の中だけで聞こえてくる。
一応日本語と同じ感覚で話せる……筈。しかしこの機能を使うのは、マキと各国を回っていた頃以来だ。果たして上手く出来るかどうか。
呼び止められるも、何故か首筋を触って動かないティマにアリサは何をしてるんだろう? と首を傾げる。
と、ティマは右手に紙袋を持ち直すと、アリサに歩みかけながら、話しかけた。

「さっきはぶつかってごめんなさい。怪我とかしてませんか?」

ティマが英語で返してくれた事に、アリサは心の中でガッツポーズを決めた。やっぱり賭けには勝っていた。
この、会話が通じるという出来事があまりに嬉しくてアリサはついに興奮しそうになるが、まだ心配事が無くなった訳じゃない。寧ろ、次が本題だ。
この人はdivers´cafeを知っているのだろうか。もしも知らなかったら例え英語で会話出来ても……。

ちなみに文章上では日本語で会話しているが、実際ティマとアリサは英語で喋っている事を読者の皆様には考慮して頂きたい。

「一応……大丈夫です。貴方は大丈夫ですか?」
「私はこの通り、全然大丈夫ですよ」

英語というか、母国語で会話できる事にこれほど安堵した事があるだろうか。そんな事を思いながら、アリサはもう少しティマと会話してみる。

「でもさっき派手に尻餅付いてたし……お尻とかヒリヒリしてないかと」
「あぁ、それなら大丈夫だから気にしないで下さい。ぶつかったのは私のミスですし……」

そう言って、俯くティマに、アリサはどことなく興味をそそられる。
こんな綺麗な人なのに、それを鼻に掛けない所か……って、今はそんな事は二の次三の次だ。今、一番知りたい事は只一つ。
この人がdivers´cafeの居場所を知っているかどうか。アリサは聞くのが怖い、というか結果を知るのが凄く怖い。

しかし、ボヤボヤ考えていた所で何も変わらない。アリサは意を決して、ティマに訪ねた。。

「その……ちょっと聞きたい事があるんだけど。良いですかね? ……divers´cafeって所、知ってます?」
「あの……それでもし良かったら、色々とお詫びの印にお茶に誘いたいんですけど……。divers´cafeって所なんだけど、どうですかね?」

アリサも、ティマも、思わず相手の発した言葉に耳を疑う。お互いにポカンと、呆然とした表情を浮かべている。

ティマはまさかアリサが、自分が誘いたいカフェの名前を言ってくるとは思いもしなかった。
アリサはこちらが聞こうとしているカフェの名前を言ってくるとは夢にも思わなかった。本当に思わなかった。
何にせよ、ティマはアリサをお茶に誘いたい。アリサはdivers´cafeに戻りたい。これ以上無い程、divers´cafeに行く理由が互いに見つかっていた。

「勿論知ってますよ。ここらじゃ有名な所だし。なんなら案内しますけど……」
「本当……ですか……? 知ってるん……ですよね?」

ティマの言葉を聞いて、アリサは無性に神様に感謝したい気分になる。普段は神様の存在などはなから信じていないが、今回限りは最大限感謝したい気分だ。

「良かった……」

頬を冷たい感触が走る。何だろう、この冷たい水みたいなの……と、アリサは不思議に思う。
その冷たい水の様な何かは止まる事無く、アリサの頬を濡らす。それが涙だとアリサ自身、気付くのに数十秒時間が掛かった。

「ど、どうしました? 私、何か変な事言いました?」

無意識にポロポロと涙を流しているアリサに、ティマはオロオロする。
やっぱりぶつかった時に何処か怪我したのかもしれない。お茶じゃなくて病院に連れてった方がいいかもしれない……。あぁ、私はなんて事を……。
一人、アリサと入れ替わる様にパニくるティマに、アリサは涙を指で拭いながら、安心感から自然な笑みを見せつつ、ティマに聞いた。

「ごめんなさい……色々、嬉しくて……あの、良かったらで良いんですけど」
「な、何? もしかして……やっぱり怪我……してました?」
「あ、怪我は大丈夫です、すみません。その……携帯電話、貸して貰えますか?」


                               ○―――――――――――○

一時間とおおよそ十分経過。

五杯目のキャラメルマキアートが空になる。ヘンヨは何も考える気が起きず、ただ空になっているキャラメルマキアートの底を見つめている。
流石にもうそろそろ、ヘンヨはアリサを探しに行こうかと考えている。だが、この人で溢れた町でアリサを探すのは並大抵の労力じゃない。
しかし依頼を受けた手前、そして探偵としてのプライドがアリサをこのままにしておく事を許さない。寧ろ、何故今まで行動を起こさなかったのか。
今まで培ってきた技術を全て駆使して、ヘンヨは久々に本気を出してアリサ捜索を行おうとした、その時。

今まで沈黙を守っていた携帯電話の着信音が、鳴った。

勢い良く立ち上がろうとしたヘンヨは直ぐに椅子に座り直す。座り直して、テーブルの上の携帯電話を取り上げて、画面を開けてみる。
……見た事の無い、電話番号。ヘンヨの電話帳の中にも、記憶の中にもその電話番号は記録にも記憶にもない。一体、どこの誰がヘンヨに掛けてきているのか。
普段ならば、こういう時にヘンヨはまず電話には出ない。一度打ち切り、何度も掛けてくるように敢えて仕掛けてみる。
それで電話を取って見て、何らかの圧力を掛けてくる様な相手ならばそれ相応の対処をすれば良いが……今は状況が違う。

ヘンヨは俺らしくないと思いつつも、その電話に出る事にする。
もしかしたら、という淡い期待が胸を打っている。一体何が起きているかは分からないが―――――――もしかしたら、アリサかもしれないと言う。
若干、震える手を抑えつつ、ヘンヨは通話ボタンを押して、どこの誰かは分からない相手との電話に、応じる。

「もしもし?」

次にヘンヨの耳に飛び込んできたのは、ある種最も会いたかった少女の声だった。

『ヘンヨ? 私』

「アリサ……お前!」

思わずヘンヨは勢い良く立ち上がって声を上げてしまった。そんなヘンヨに周囲が驚いて、怪訝な視線を向けてくる。
急に恥ずかしい気分になり、ヘンヨは静かに身を隠す様に座り直すと、アリサとの電話を続ける。

「お前、今どこに居るんだ。今すぐ迎えに行くぞ」
『心配させてごめんなさい。えっとね……親切な人がdivers´cafeまで案内してくれるから、その人と一緒に帰るよ』

親切な人……? ヘンヨはその言葉がどうも信用ならないが、四の五の言っている場合でも無い。
ここはアリサの事を信用して、その親切な人に頼ってみる。ただし一応、釘は刺しておく。
それにしても、よく道案内してくれる人間と遭遇出来たなと、ヘンヨは思う。只でさえ英語で会話できる人間と会うのに苦労するだろうに。

「その人間は百%信用出来るんだな?」
『出来るよ。女の人なんだけどね、凄く親切な人だから。私が保証するよ』

お前が保証してどうする、と突っ込みたくなる心を抑えつつ、ヘンヨは幾分優しい声でアリサに返す。

「まぁ良い……何でもいいからそいつと一緒に早く帰って来い。絶対寄り道とかするなよ」
『うん。……あのさ、ヘンヨ』

アリサが電話越しに、ヘンヨに謝る。その声には邪な物は一切無い。本心から、ヘンヨを心配させた事を詫びている様だ。

『心配させて本当に……ごめんなさい。すぐに帰るから』
「おう、待ってるぞ」
『じゃ、切るね』

電話が切れる。
ヘンヨはふぅ……と一息吐いて、携帯をテーブルの上に置き、両手を組んで深く俯いた。

ヘンヨは心から安心している。ここ最近で、一番ホッとしているかもしれない。アリサが無事だった。只、その事実だけで良い。
しかし冷静に省みると、子供一人の安否が本気で心配になっていて、尚且つホッとしている自分が情けなくも、思う。年を取ったな、とも思う。
店員が持ってきた六杯目のキャラメルマキアートから漂う湯気を眺めながら、ヘンヨはポツリと呟いた。

「……何やってんだろうな、俺」


                               ○―――――――――――○

「つまりハッキリ言えば、道に迷ったんですね」
「いえ、その……はい。紛れもなく、道に迷いました」

ティマの言葉に、アリサは恥ずかしそうに頬を染めて俯くしかない。自身が言う通り、紛れもない事実だからだ。

アリサから事情を聞いたティマは今、divers´cafeへとアリサを案内している。道筋自体はたまにニ、三度右に曲がるだけで、至極単純であった。
divers´cafeに帰る合間に、二人はたがいに軽く自己紹介する。各々の名前を教え合い、ティマは東京に買い物に来ていた事を話した。
一方、アリサは初めて日本、もとい東京に来て一人で歩いてたら道に迷った事を話した。恥ずかしいが、不思議にティマが相手だと素直に話す気になる。
迷子になった事をやけに臨場感たっぷりに話すアリサに相槌を打ちながら、よくこんな町を一人で歩こうと考えたなと、

地図でも無ければ慣れていない人だと普通に迷うかもしれない位、規模が大きな街だというのに。それをアリサは一人で歩こうと考えたのだ。
勇気というか無謀というかなんというか……。何にせよ、自分がもしアリサの立場だったらと思うと、ティマは物凄く不安な気分になる。

「でも迷っても仕方ないですよ。私でもたまに迷いそうになりますし」
「けれど日本語もまともに勉強してない上に、地図も持たずに歩きまわるのは軽率すぎました……」

そう自省して、しゅんとするアリサ。……確かに軽率と言えば軽率だと、ティマは思う。
まだしっかりと東京について把握できてない状態で出掛けるのは結構危ない。まだ昼間だから良いものの、夜だと何があるか分からない。
それに良い人が沢山いる分、悪い人の割合がグッと多いのもこの街の嫌な特徴でもある。もし、アリサが声を掛ける人を間違えたら……と、ティマは嫌な事を考えてしまう。

……アリサさんを見つけたのがマキだったら、アリサさんを怒っていたのかなと、ティマはふと思う。多分、怒るまではいかなくても忠告くらいはしてそうだ。
マキと違い、ティマはアリサを怒れないし、それに怒る気にもない。
恐らく自分もアリサの立場なら、ただ日本に来れただけで舞い上がるあまりに、同じ行動を取る気がするから。

「そう落ち込まないで下さい、アリサさん。だけど、カフェで待ってるヘンヨさんにはちゃんと言う事言わないと駄目ですよ」
「はい……会ってちゃんと、謝りたいと思います」

ティマはアリサからdivers´cafeで(アリサは一緒に旅行している叔父として説明した)ヘンヨの事を聞いている。
何となくだが、ティマはヘンヨが苦労しているんじゃないかとイメージする。アリサとは数十分程度の付き合いだが、ヘンヨが手を焼く様子が何故だか浮かんでくる。
これだけ若いと好奇心旺盛で何事にも興味深々だろうし……ふと、ティマはアリサを見ていて、思う。

――――――――私も昔は、こんな風にマキを困らしてたのかな、と。まだ体も、心も、幼かった頃に。

ヘンヨにマキのイメージを重ねるのは失礼だとは思いつつ、ティマには何故だか、ヘンヨとアリサの二人が、マキと幼かった頃の自分の姿に重なって見える。

あの頃、私はどれほどマキを困らしてきたんだろう。それに……世話を掛けたんだろう。帰ったら聞いてみよう。

「あの……」

そんな事を思っていると、アリサがティマに話しかけてきた。無垢な二つの目が、ティマを興味深々と言った様子で映す。

「私、さっきから気になってる事があって……質問しても良いですか?」

アリサの申し出に、ティマは勿論快く引き受ける。こくんと頷いて、答える。

「良いですよ」

ティマがそう答えると、アリサはティマの両手でぶら下がっている紙袋に視線を移すと、ティマに戻して、質問する。

「……ティマさんってどういう理由で買い物に来たんですか? その……二つも大きな紙袋持ってるから、凄く気になっちゃって」
「あぁ、これですか?」

そう言って、ティマは両手で持っている紙袋を軽く掲げてみせる。そしてニコニコと嬉しそうに笑いながら、その理由を話し始める。

「今度、私の大好きな人と海とかプールに行こうと思いまして。それでその時に着ていく水着とか、お出かけ用の新しい洋服とか夢中になって買ってて……。
 気付いたらこんな風になっちゃいました。我ながら買い過ぎだと思います」
「はぁ……そういう理由があったんですか。まぁ……良いんじゃないすか」

確かに買い過ぎだとアリサは思う。本当に紙袋一杯、パンパンになるほど入っている為、どれだけお金を使ったんだろう……とつい下世話な事も考えてしまう。
とはいえ、ここまで服や水着を買うという事は、ティマさんはよっぽど、その好きな人と出かけたいんだろうなとも、アリサは思う。
こんな風にまで思える人ってどんな人なんだろう……アリサはどうしても気になる。聞いて良いかな……よし、聞いちゃおう。

「ティマさん、その……良かったら詳しく教えてほしいんですけど」
「何でも答えますよ。答えられる範囲であれば」
「それじゃあ聞きたいんですけど……ティマさんにとってその好きな人ってどんな人なんですか?」

「変な人です。すっごく、変な人」
「へ?」

ティマの即答に、アリサは思わず気の抜けた声を出す。あまりにも直球に直球というか……。
しかし逆に興味が沸いたというか、一体どこがどう変なのだろうと思っていると、ティマがその人の変な部分を詳しく語りだす。

「好きな事に一生懸命すぎてすぐに周りが見えなくなるし、私がいくら言っても脱いだ物を脱ぎっぱなしにするし、私が起こさないといつも仕事に遅刻寸前だし。
 もうすぐ良い年なのに未だに好き嫌いが多いし、私が疲れてる時に限って融通が利かないしホントに変な人ですよ」

何でそんな人と付き合ってるんだろう……? と、疑問に思いながらも、ティマがそう語る声が優しい事に、アリサは気付く。
まだまだ子供である自分にはよく分からないが……多分、ティマさんは好きだからこそ変な人、とその人の事を評しているのかもしれない、とぼんやり思ってみたりする。
そこまでティマは言い切ると、蒼い空を見上げた。見上げて、だけど、と言って。

「だけど、そういう部分も含めて素敵な人です。私の事を、世界で一番見てくれて、世界で一番愛してくれる人」

ティマは空からアリサへと、視線を移す。その時のティマの表情に、アリサはドキッと、する。

屈託の無い、心からの眩い笑顔だった。そんな笑顔を浮かべながら、ティマは言った。

「だから私もその分、彼を愛してあげるんです。ずっとずっと、彼が私を求め続ける限り、私も彼を愛す。
 それが私の生きる意味。それでいて、私の存在理由だから」

「……素敵です」

胸の奥が熱くなる。アリサは上手く表現できない、しかし芯からポカポカと暖かくなる、そんな胸の温かさを感じつつ、目を輝かしてそう言った。

「何と言うか……ティマさんとその人の関係って凄く素敵だと思います」
「そうですかね……けど、夫婦だからこれ位普通かなと思ってました」

アリサは何となく納得する。とはいえ、ここまで互いを思っている夫婦はあんまり見た事が無い。

「あ、旦那さんだったんですか。道理で……」
「まだちゃんとした夫婦にはなってないけどね。でもいつか」

ティマはそこで言葉を一旦区切る。区切って、裏表の無い言葉をアリサに明かす。

「いつか、ちゃんと結婚式を挙げて、ちゃんとした夫婦になりたいなって思います。いつか、必ず」
「その時には」

アリサはほっこりとした笑顔で、ティマに言う。他人事ではあるが、何故だかアリサは温かく、それでいて嬉しい気分になっていた。

「その時には私も式に呼んで下さいね。花嫁姿のティマさん、見てみたいですから。私」

ティマは微笑んだ。微笑んで、答える。

「約束します。あ、じゃあ」

そう言ってティマは立ち止まると、右手の紙袋を地面に置いて、アリサに右手を差し伸ばした。
何のサインだろうと、アリサは頭を傾げていると、ティマは右手の小指だけをアリサに見せながら、言う。

「日本だけで知られてる……かは分かんないけど、約束を交わす時にこういう誓いを交わすと、彼から教わりました。小指を絡ませて下さい」

ティマに言われると、アリサは良く分からないが自分の小指を絡ませてみる。
ティマは頷くと、その約束の言葉を、アリサに教える。

「私が針千本飲ますといったら、私と同時に指切ったと言って下さい」
「指切ったですね、分かりました」

アリサは妙に照れ臭い気分になる。照れ臭いながらも、どこか懐かしい気分になる。

「それじゃあ、行きますよ。針千本のーます」

ティマがそう言うと、アリサは小さく頷いた。ティマも頷き返して、指を切ると共に同時に、誓った。

「指切った」

二人の声が綺麗に重なった。アリサは初めて聞く言葉な筈だが、不思議にティマとピッタリ息が合っていた。

「……っと、ちょっと時間取り過ぎたね。急いで戻らないとね」
「いえ……急ぐ理由、無くなりました」

ティマがそう言うと、アリサは何故か前を向いていた。
そんなアリサの行動にティマは疑問符を浮かべつつ、アリサと同じく前を向いた。

そこには、誰かが立っていた。急いで走ってきたのか、肩を軽く上下させて息を荒げている。
気付けばdivers´cafeはすぐそこまで来ていた。その誰かがティマとアリサの指切りを見たかは、分からない。
アリサの反応に、ティマは目の前の赤毛の髪の毛の男を見、聞いた。

「……もしかして」

ティマがそう聞くと、アリサは頷いて、答えた。

「はい。……この人がヘンヨ叔父さんです」



                               ○―――――――――――○

「アリサがとんだ迷惑を掛けた。本当にすまない」

立ったまま、ヘンヨがティマに軽く頭を下げて詫びてきた、アリサは自身が原因と分かってる為か、ティマに深く頭に下げる。
そんな二人にティマは少し戸惑い気味に返す。別にアリサに迷惑を掛けられた訳じゃない。
寧ろ、ここまでアリサと僅かでも身の上話が出来て良かったと思う。

「いえいえ、そんな謝られる事……」
「俺が目を離さなきゃこんな事にはならなかった。アンタの有益な時間を無駄に使わせちまった。
 良かったら珈琲一杯くらいでも礼がしたいんだが……」
「ヘンヨ……それってナンパ」

ヘンヨは茶化してくるアリサに鋭い視線を向ける。元はと言えば元はと言えばなので、アリサは黙るしかない。
詫びとして茶を誘うヘンヨに、ティマは苦笑しつつ、言葉を返す。

「誘って頂ける気持ちはとても嬉しいんですが……ごめんなさい。お気持ちだけ受け取っておきます。私も用事がありますので」
「そうか……それは残念だな。ともかく、アリサを連れてきてくれてありがとう。感謝するよ」
「いえいえ。じゃあ私はこれで……あっ」

立ち去ろうとした手前、ティマはヘンヨの後ろに隠れているアリサの元へとつかつかと歩み寄る。
そして伝える。

「東京観光、しっかり楽しんで下さい。ただ、今度はヘンヨさんと必ず一緒に」
「はい。もうあんな目は懲り懲りですし……。ティマさんも帰りに気を付けて」
「はい。それじゃあ」

二人に会釈して、ティマは背を向けるとマキが待っている自宅への家路を歩き出す。
その背中を見送る、ヘンヨとアリサ。と、ヘンヨは何故だか妙なデジャブを感じる。
人混みの中で遠くなっていく背中を見ていると何処かで―――――――会った気がする。だが、それが何時だったかは、思い出せない。

「あっ」

アリサはふと声が出る。折角結婚式に誘ってくれたのに、ティマの連絡先を聞き忘れてしまった。
しかし気付いても、既にティマの姿は見えなくなっていた。もう、探しに行っても易々と見つける事は出来ない。

「どうした?」

ヘンヨが声を掛けてきたが、アリサは首を振る。
振って、明るい笑顔で、答える。


――――――――ティマさんには、またどこかで会える気がする。多分、きっと。




                                Alisa in TOKYO




「何でもない」


「そういやお前、何かさっき妙な事してなかったか? おまじないみたいな。アレって何してたんだ?」



「あれ? あれはね……」











「ティマさんとの秘密」




「……あー、本当に可愛くねえ」

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