荒々しい靴音で目が覚めた。
椅子の背もたれに上体を預け、食後の昼寝と洒落こんでいた天農は、顔に被せていた少女漫画をずらして扉の
方を見やった。まるでアイマスクを着けたように、鼻から上半分を翳は隠れている。
そこは狭い部屋だった。
年季の入った事務机には、だいぶん旧型のパーソナルコンピュータ。無造作に載せられた青いミニカーが木目
に映える。
壁一面を覆う本棚には、まるで統一性のないジャンルの書籍が、滅茶苦茶に突きこまれていた。
対魔族兵器の開発に関する研究所、客員である天農にあてがわれた一室。
魔界に通じる門、エーテルポイントが地上に現れるようになって数年――。
そこを征途に地上侵略に乗り出す魔界の住人“魔族”は、災厄や疫病にも近しい、人類史上最悪の敵のひとつ
となった。
魔族との戦い方を模索する研究施設は、今や世界中に点在し、複雑なネットワークを構築している。熾烈な派
閥争いも見られるにせよ、人類は概ね一丸となって、異世界からの侵略者に立ち向かっているといえた。
ノック音が立て続けに鳴らされる。手加減なしの乱暴さに天農は嘆息を漏らした。
「天農さん! いらっしゃるんでしょう?」
金切り声は、ドア越しにも響くほど大きい。声の主の女が激昂していることは明らかだった。
「失礼しますからッ!」
返事を待たずに重たい扉が開け放たれる。そのまま壁に叩きつけんばかりの勢いに、天農は破損を心配した。
リノリウムの床を打ち抜く硬質な靴裏の響きが再開し、すぐに止んだ。
地味な色のスーツを着た女研究員が、天農の傍に仁王立ちしていた。
藤本久仁枝(ふじもと くにえ)という名前を、天農はどうにか思い出した。
平時から癇の強さの表れた顔立ちだったが、今は般若の相になっている。彼女の表情に鬼女の能面のイメージ
を重ねてしまって、天農は危うく吹き出しそうになった。
「天農さん! 毎日毎日、HWS-03に何を教えているんですか!」
「拳法」
刺々しい糾弾の響きにも、天農は平然としたものだった。このところの自らの行動を顧み、彼女の怒りの原因
を悟りながら、悪びれもせずに答える。
ここではHWS-03という型式番号で呼ばれる、無人の人型兵器。
天農は訳あってその機械仕掛けに心を宿らせようと試み、“超級人工知能”を用いてそれに成功していた。
問題は通常の電子頭脳に比べてよりデータの入力に慎重を期す必要があることで、HWS-03は現在も様々
な学習の課程にある。そのプロセスは、産まれたばかりの赤ん坊を育て上げていくのにも似ていた。
「けんぽう……?」
藤本は露骨に眉根を寄せた。ロボットについての彼女の常識にそのような概念はない。
椅子の背もたれに上体を預け、食後の昼寝と洒落こんでいた天農は、顔に被せていた少女漫画をずらして扉の
方を見やった。まるでアイマスクを着けたように、鼻から上半分を翳は隠れている。
そこは狭い部屋だった。
年季の入った事務机には、だいぶん旧型のパーソナルコンピュータ。無造作に載せられた青いミニカーが木目
に映える。
壁一面を覆う本棚には、まるで統一性のないジャンルの書籍が、滅茶苦茶に突きこまれていた。
対魔族兵器の開発に関する研究所、客員である天農にあてがわれた一室。
魔界に通じる門、エーテルポイントが地上に現れるようになって数年――。
そこを征途に地上侵略に乗り出す魔界の住人“魔族”は、災厄や疫病にも近しい、人類史上最悪の敵のひとつ
となった。
魔族との戦い方を模索する研究施設は、今や世界中に点在し、複雑なネットワークを構築している。熾烈な派
閥争いも見られるにせよ、人類は概ね一丸となって、異世界からの侵略者に立ち向かっているといえた。
ノック音が立て続けに鳴らされる。手加減なしの乱暴さに天農は嘆息を漏らした。
「天農さん! いらっしゃるんでしょう?」
金切り声は、ドア越しにも響くほど大きい。声の主の女が激昂していることは明らかだった。
「失礼しますからッ!」
返事を待たずに重たい扉が開け放たれる。そのまま壁に叩きつけんばかりの勢いに、天農は破損を心配した。
リノリウムの床を打ち抜く硬質な靴裏の響きが再開し、すぐに止んだ。
地味な色のスーツを着た女研究員が、天農の傍に仁王立ちしていた。
藤本久仁枝(ふじもと くにえ)という名前を、天農はどうにか思い出した。
平時から癇の強さの表れた顔立ちだったが、今は般若の相になっている。彼女の表情に鬼女の能面のイメージ
を重ねてしまって、天農は危うく吹き出しそうになった。
「天農さん! 毎日毎日、HWS-03に何を教えているんですか!」
「拳法」
刺々しい糾弾の響きにも、天農は平然としたものだった。このところの自らの行動を顧み、彼女の怒りの原因
を悟りながら、悪びれもせずに答える。
ここではHWS-03という型式番号で呼ばれる、無人の人型兵器。
天農は訳あってその機械仕掛けに心を宿らせようと試み、“超級人工知能”を用いてそれに成功していた。
問題は通常の電子頭脳に比べてよりデータの入力に慎重を期す必要があることで、HWS-03は現在も様々
な学習の課程にある。そのプロセスは、産まれたばかりの赤ん坊を育て上げていくのにも似ていた。
「けんぽう……?」
藤本は露骨に眉根を寄せた。ロボットについての彼女の常識にそのような概念はない。
「俺の流派だ」
そう告げる男は、どこか誇らしげだった。
白衣の裾から突き出た手はごつごつと骨張っており、何度も皮を破いた痕が窺える。
“延加拳”の、天農。
彼はロボット工学の専門家でありながら武術を嗜み、我流の拳法の開祖となった変わり種だった。学者離れし
た剽悍な物腰から、人類未到のはずの魔界から生還したなどとまことしやかに囁かれている。
個人的な趣味から、魔族出現以前より研究されていた人型兵器(HW)を模倣し、規格外の性能を誇るロボッ
トを独創してみせたという、冗談のような実績の持ち主でもある。情勢の悪化に危機感を覚えた政府によってそ
の機体“HWS-03”が接収された時から、客員として研究所の一席に収まっていたが、性格と素行の悪さか
ら同僚達の顰蹙を買っていた。
藤本としては決してぞんざいには扱えない人物だったが、HWS-03を未だに私物化しているような彼の言
動にはよほど腹に据え兼ねるものがあるらしい。
「HWSシリーズの挙動については、既にカリキュラムが組まれているでしょうに。あなたが自修時間に邪魔す
るせいで、スケジュールに遅れが生じているんですよッ!」
「分かった、分かったから。そうキンキン声で怒鳴らんでくれ」
まるで子どもを遊びに連れ出してばかりの父親と、教育熱心な母親の態だった。
「だいたいですね」
当事者でありながらどこ吹く風と受け流す天農の神経に呆れ果てながら、藤本はこの機会に日頃の鬱憤を晴ら
してやるとばかりに矢継ぎ早に非難を浴びせる。
烈火のごとき怒りは、いつしか燻ぶるようなものに変わっていた。
「あのファンタジックな呼び名は、あなたが付けた愛称なのですか? HWS-03は、まるで自分本来の名前
であるかのように話していましたよ」
それを聞いた途端に、天農の口許に喜色が浮いた。
「“SPRING‐GIGANT”、撥条仕掛けの巨人さ」
「邪悪な妖精の一種でしょう? 綴りは“SPRIGGAN”ですが」
「俺流の洒落だ。ちと強引なのは認めるがね」
とぼけたことを言って、天農はもう話すことはないとばかりに漫画本の位置を戻した。赤色の目立つ表紙では、
主人公らしき少女が憂いを帯びた表情を浮かべている。円らな瞳の中にいくつの星が瞬いているのか何となく数
えようとして、藤本は自制した。眩暈を覚える。
「まだ話は終わっていません! そもそも殴る蹴るだなんてあんまり原始的です!」
「ゴキブリを殺すとき」
静かだが有無を言わせぬ調子で、天農が藤本の声を遮った。
「君ならどうするね?」
藤本が何か言いたげに口をぱくぱくとさせるが、構わず天農は言葉を紡いでいく。出鼻を挫いたかたちだ。
「ひとつ、足音を忍ばせて距離を詰める。武器は丸めた新聞紙か、殺虫剤のスプレーか。ふたつ、匂いで誘き寄
せ、罠に嵌める。粘着シートや毒餌だな。みっつ、部屋に有害物質を充満させ、一網打尽にする。そういう噴霧
器が最近の流行りらしい」
列挙される屋内害虫の駆除方法。対魔族戦術になぞらえていることは、藤本にも容易に察しがついた。
「君のお好みは、確か殺虫剤のスプレーだったな。魔族にも効きそうな重火器を、いかに高い適応性を持って取
り回すか」
「ええ。少なくとも、新聞よりはましでしょう」
「だが、いくら殺虫剤が進化を遂げようとも、丸めた新聞紙を手に取る者が消えることはないのだよ」
「……ちょっと考えてみれば、ナンセンスな比喩です。状況がほとんど噛み合っていません」
天農は「違いない」とあっさりと自論を放棄し、くつくつと可笑しそうに肩を揺すった。言い負かされた格好
だが、彼は頓着しない。屁理屈をこねて強弁はしても、議論をする気などさらさらないのだ。半分は気になる女
の子に嫌がらせをする心理にも近い。
「別に私も、殴る蹴るが悪いといっているわけではないのです。実際にHWS-03には魔族との格闘戦を遂行
するだけの力があるのですし。ただ……」
議論を制したことで多少は溜飲を下げたのか、藤本も落ち着きを取り戻していた。客員の顔を立てておこうと
する余裕まである。
そう告げる男は、どこか誇らしげだった。
白衣の裾から突き出た手はごつごつと骨張っており、何度も皮を破いた痕が窺える。
“延加拳”の、天農。
彼はロボット工学の専門家でありながら武術を嗜み、我流の拳法の開祖となった変わり種だった。学者離れし
た剽悍な物腰から、人類未到のはずの魔界から生還したなどとまことしやかに囁かれている。
個人的な趣味から、魔族出現以前より研究されていた人型兵器(HW)を模倣し、規格外の性能を誇るロボッ
トを独創してみせたという、冗談のような実績の持ち主でもある。情勢の悪化に危機感を覚えた政府によってそ
の機体“HWS-03”が接収された時から、客員として研究所の一席に収まっていたが、性格と素行の悪さか
ら同僚達の顰蹙を買っていた。
藤本としては決してぞんざいには扱えない人物だったが、HWS-03を未だに私物化しているような彼の言
動にはよほど腹に据え兼ねるものがあるらしい。
「HWSシリーズの挙動については、既にカリキュラムが組まれているでしょうに。あなたが自修時間に邪魔す
るせいで、スケジュールに遅れが生じているんですよッ!」
「分かった、分かったから。そうキンキン声で怒鳴らんでくれ」
まるで子どもを遊びに連れ出してばかりの父親と、教育熱心な母親の態だった。
「だいたいですね」
当事者でありながらどこ吹く風と受け流す天農の神経に呆れ果てながら、藤本はこの機会に日頃の鬱憤を晴ら
してやるとばかりに矢継ぎ早に非難を浴びせる。
烈火のごとき怒りは、いつしか燻ぶるようなものに変わっていた。
「あのファンタジックな呼び名は、あなたが付けた愛称なのですか? HWS-03は、まるで自分本来の名前
であるかのように話していましたよ」
それを聞いた途端に、天農の口許に喜色が浮いた。
「“SPRING‐GIGANT”、撥条仕掛けの巨人さ」
「邪悪な妖精の一種でしょう? 綴りは“SPRIGGAN”ですが」
「俺流の洒落だ。ちと強引なのは認めるがね」
とぼけたことを言って、天農はもう話すことはないとばかりに漫画本の位置を戻した。赤色の目立つ表紙では、
主人公らしき少女が憂いを帯びた表情を浮かべている。円らな瞳の中にいくつの星が瞬いているのか何となく数
えようとして、藤本は自制した。眩暈を覚える。
「まだ話は終わっていません! そもそも殴る蹴るだなんてあんまり原始的です!」
「ゴキブリを殺すとき」
静かだが有無を言わせぬ調子で、天農が藤本の声を遮った。
「君ならどうするね?」
藤本が何か言いたげに口をぱくぱくとさせるが、構わず天農は言葉を紡いでいく。出鼻を挫いたかたちだ。
「ひとつ、足音を忍ばせて距離を詰める。武器は丸めた新聞紙か、殺虫剤のスプレーか。ふたつ、匂いで誘き寄
せ、罠に嵌める。粘着シートや毒餌だな。みっつ、部屋に有害物質を充満させ、一網打尽にする。そういう噴霧
器が最近の流行りらしい」
列挙される屋内害虫の駆除方法。対魔族戦術になぞらえていることは、藤本にも容易に察しがついた。
「君のお好みは、確か殺虫剤のスプレーだったな。魔族にも効きそうな重火器を、いかに高い適応性を持って取
り回すか」
「ええ。少なくとも、新聞よりはましでしょう」
「だが、いくら殺虫剤が進化を遂げようとも、丸めた新聞紙を手に取る者が消えることはないのだよ」
「……ちょっと考えてみれば、ナンセンスな比喩です。状況がほとんど噛み合っていません」
天農は「違いない」とあっさりと自論を放棄し、くつくつと可笑しそうに肩を揺すった。言い負かされた格好
だが、彼は頓着しない。屁理屈をこねて強弁はしても、議論をする気などさらさらないのだ。半分は気になる女
の子に嫌がらせをする心理にも近い。
「別に私も、殴る蹴るが悪いといっているわけではないのです。実際にHWS-03には魔族との格闘戦を遂行
するだけの力があるのですし。ただ……」
議論を制したことで多少は溜飲を下げたのか、藤本も落ち着きを取り戻していた。客員の顔を立てておこうと
する余裕まである。
「それがベストとはとても思えないのだろう? ……君の感覚は極めて正常だ。俺だって拳法があれば他に何も
いらないとまでは考えていない」
そもそも、一口に魔族と括っているが、その種類は多岐に渡っている。
猛獣スチラロボススに率いられる獣属。毛むくじゃらの魔族。
猛禽グーリーロックの翼下にある禽属。翼を携える魔族。
猛鱗テティスカンティルラを隠す鱗属。鱗に覆われた魔族。
猛甲ラピュラパズロイの仔である甲属。殻を纏った魔族。
そして、権能によって四大属を統べる“魔王”。
魔族とは、魔界に棲息する多種多様の高等生命体の総称なのだ。
必然的に、種の特徴に合わせて臨機応変に戦術を変える必要がある。もちろんHWS‐03一体きりであらゆ
る敵と戦わなくてはならない法はないが、資材が不足している時勢でもあった。人型だからというわけではない
が、ある程度の汎用性が期待されてはいる。
「まあ、HWS-03なら、いずれはほとんどの種類の魔族を徒手空拳で殺傷できるようになるだろうがね」
「エーテルドライブ、ですか」
「そうだ」
天農はにやりと笑った。
魔族との戦いにおいて効果が期待される、謎多きエーテルの力。
エーテルの制御には、これまで数多くの学者達が挑み、失敗してきた。その中には、極めて貴重な魔族の生体
組織を素材として用いた者さえ存在する。
閉塞した議論の中で、「エーテルは心を通わせた生き物に味方する」という仮説を発表したのは、大ヘルマヌ
スの尊称で呼ばれる老齢の博士だった。彼はエーテルを空想上の精霊に喩えて、物理法則ではなく、人間の意思
や感情といった精神の働きに強く影響されると唱えた。
当時の誰もが一笑に付したそのロマンチックな説は、やがて彼の弟子達の手で実証されることになる。
ただしそれは、エーテルの利用に大きな制約が付き纏うことを意味してもいた。
天農が、悪名高き欧州のヴォルゼウグ学派から第六世代型コンピュータを取り寄せてまで超級人工知能を完成
させたのも、それが理由である。
結果として、ロボットであるHWS-03は心を持つことに成功し、エーテルドライブという機関により超常
の力を我が物とした。
この件に関しては、対魔族兵器以外に利用されることを恐れた天農が、未だに厳格な秘密主義を貫いている。
最初に組み上げられてから三年。改良を重ねたHWS-03は、心を得て、エーテルを得て、今や既存の人型
兵器を闇に葬り去るほどの力を獲得していた。
天農は言う。
「あれはもはや、HWSシリーズがどうとかいう次元にない。言うなれば、金属の魔族だ」
それは、鋼の体と人の技を武器とする、有り得ざる魔族。
熱を帯びたその口振りは、四大属ではないという“魔王”を向こうに張るかのようだった。HWS-03のポ
テンシャルの一端を垣間見たことがあるだけに、藤本も不遜を糾せない。
「極超音速で陸海空を駆け、敵対者の全てを鋼の拳で打倒する、身長512cm/体重4075kgの鋼鉄の男。
HWS-03“スプリガン”こそ、次世代最強の対魔族兵器なのだ」
目のない男は豪語した。
廃墟と化した街角で幼いことねがスプリガンと出会う、数ヶ月前のことだった。
いらないとまでは考えていない」
そもそも、一口に魔族と括っているが、その種類は多岐に渡っている。
猛獣スチラロボススに率いられる獣属。毛むくじゃらの魔族。
猛禽グーリーロックの翼下にある禽属。翼を携える魔族。
猛鱗テティスカンティルラを隠す鱗属。鱗に覆われた魔族。
猛甲ラピュラパズロイの仔である甲属。殻を纏った魔族。
そして、権能によって四大属を統べる“魔王”。
魔族とは、魔界に棲息する多種多様の高等生命体の総称なのだ。
必然的に、種の特徴に合わせて臨機応変に戦術を変える必要がある。もちろんHWS‐03一体きりであらゆ
る敵と戦わなくてはならない法はないが、資材が不足している時勢でもあった。人型だからというわけではない
が、ある程度の汎用性が期待されてはいる。
「まあ、HWS-03なら、いずれはほとんどの種類の魔族を徒手空拳で殺傷できるようになるだろうがね」
「エーテルドライブ、ですか」
「そうだ」
天農はにやりと笑った。
魔族との戦いにおいて効果が期待される、謎多きエーテルの力。
エーテルの制御には、これまで数多くの学者達が挑み、失敗してきた。その中には、極めて貴重な魔族の生体
組織を素材として用いた者さえ存在する。
閉塞した議論の中で、「エーテルは心を通わせた生き物に味方する」という仮説を発表したのは、大ヘルマヌ
スの尊称で呼ばれる老齢の博士だった。彼はエーテルを空想上の精霊に喩えて、物理法則ではなく、人間の意思
や感情といった精神の働きに強く影響されると唱えた。
当時の誰もが一笑に付したそのロマンチックな説は、やがて彼の弟子達の手で実証されることになる。
ただしそれは、エーテルの利用に大きな制約が付き纏うことを意味してもいた。
天農が、悪名高き欧州のヴォルゼウグ学派から第六世代型コンピュータを取り寄せてまで超級人工知能を完成
させたのも、それが理由である。
結果として、ロボットであるHWS-03は心を持つことに成功し、エーテルドライブという機関により超常
の力を我が物とした。
この件に関しては、対魔族兵器以外に利用されることを恐れた天農が、未だに厳格な秘密主義を貫いている。
最初に組み上げられてから三年。改良を重ねたHWS-03は、心を得て、エーテルを得て、今や既存の人型
兵器を闇に葬り去るほどの力を獲得していた。
天農は言う。
「あれはもはや、HWSシリーズがどうとかいう次元にない。言うなれば、金属の魔族だ」
それは、鋼の体と人の技を武器とする、有り得ざる魔族。
熱を帯びたその口振りは、四大属ではないという“魔王”を向こうに張るかのようだった。HWS-03のポ
テンシャルの一端を垣間見たことがあるだけに、藤本も不遜を糾せない。
「極超音速で陸海空を駆け、敵対者の全てを鋼の拳で打倒する、身長512cm/体重4075kgの鋼鉄の男。
HWS-03“スプリガン”こそ、次世代最強の対魔族兵器なのだ」
目のない男は豪語した。
廃墟と化した街角で幼いことねがスプリガンと出会う、数ヶ月前のことだった。
↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
| + | ... |