己(おれ)は誰だっただろう?
何のために闘っているのだろう?
黒峰潤也はそんなことすら、もう、思いだせない状態にあった。
過去から現在まで、この地にあったありとあらゆる数え切れぬほどの死。
それを実際に痛みと恐怖を感じながら受ける中で潤也は自己というものを喪失した。
そこには、ただ憎悪がある。
その憎悪は様々な形を持って、潤也の中に残る。
そしてその憎悪を振りまわすように潤也は今、行動していた。
しかし、潤也は自分が何に対して憎悪していたのかをもはや覚えていない。
一個の意識が他の意識と混線し、より強い憎悪を抱いたが、その反対で何に対して憎悪していたのか?という起因を喪失してしまっている。
だから、何に対して憎悪しているのか?というのが問題点となる。
怨念の憎悪は千差万別だ、殺害者への憎悪もあれば、現象に殺され運命を呪う憎悪、病魔への憎悪、自分への憎悪等、生きるもの全てへの憎悪。
共通点をあげれば、それらにはそれぞれの起因があるという事だ。
憎悪というのは何か発端がなければ、憎悪にはならないのである。発端を思い出し、なんども頭の中で反芻し、憎悪する。
それが無い憎悪など力になるものではなく、指一つすら動かす力に成り得ない。
ならば、潤也が憎悪しているそれは何なのか?
その問いを説く為には怨念に関して少し深く語らなければならない。
怨念。
死してなお、その無念故にこの地に残り続けた、残留思念。
それらは様々な死因を持ってそこに存在している。
それぞれがまったく別の人生を歩み、まったく別の結末に辿り着いている。
つまりは怨念とは強い意思の力であるが、その一つ、一つがまったく違うモノなのである。
しかし、共通しているものもある、それは誰もが死を恐れていたという事だ。
死ぬ事は終わりだった。死ぬ事は恐怖だった。死ぬ事は絶望だった。
だから、誰もが死にたくなど無かったのだ。
つまり怨念とは生への羨望であり、生への願いだったと言えるのかもしれない。
だから黒峰潤也はそれを受けて死の体験の中で、既に自分が死んでいるのか?生きているのか?その判断をするにも曖昧な状態にありながら、もし自分が生きているのならば、生きていたいと願ったのだ。
死にたくない、生きていたい。
そこで潤也に宿る憎悪の起因が定まる。
己の命を奪おうとする者への憎悪。
よって自らに攻撃を加える敵を心底憎悪し、自らが生き残れる確率が最も高い手段を機械的に検索し実行する。
人が怨念に支配されるというのは、こういう事だった。
そして、生き残る為に潤也は周囲への無差別攻撃―呪装解放(ソウルバースト)―を選択する。
「でも、それはぼく達が望んではいない結末なんだよなー。」
潤也の、いや、かつて黒峰潤也という名前だった生物がよく知る声を聞いた。
誰だ?と問おうとしたが既に言語を失っている為、問う事も出来ない。
声は少しおかしそうに笑って、
「ぼくはね、君だ。君という存在が――――した残像だ。君にぼくは見えないだろう。だって君は君である事を既に喪失している。今の目的を忘れた生存本能の塊だ。まあ、その目的なんてものも大層なものじゃなかったね。君は君の中で懐疑的に思っている。だってぼくらは知らないものね、ぼくらの家族が殺された瞬間を・・・たまにこう考えてるだよね、もしかしたら自分が気を失っていてその家族が死んだ時の記憶がないのは自分が殺したからかもしれないって・・・この漆黒の機体でさ・・・そんな事をふと考える事だってあるだろう?」
声が何を言っているのか理解出来なかった。
ただ、それを聞くのが急に怖くなった。それを聞いていると自分という世界が終ってしまいそうで、怖くて怖くてたまらなかった。
それは思考してはいけない事なのだから…。
だから、耳を閉じて声を聞かずにおこうとするが、声は頭の中に響いて来る。
「ぼくは探して来たよ。君が見るべき思念、本当、これは弱い思念でね、漏れ出すらしなかったんだけれど、君には大事なものだ。さあ、一緒に見ようか…。」
視界がブラックアウトする。いつも通り怨念の再生が始まる時の予兆だ、刹那にて終わる思念、しかしそれはその刹那は気が遠くなるようなほど長大な時間に感じられる程長い。
そのまま少しづつ風景が色付けされていき、それはこんな思念から始まった。
何のために闘っているのだろう?
黒峰潤也はそんなことすら、もう、思いだせない状態にあった。
過去から現在まで、この地にあったありとあらゆる数え切れぬほどの死。
それを実際に痛みと恐怖を感じながら受ける中で潤也は自己というものを喪失した。
そこには、ただ憎悪がある。
その憎悪は様々な形を持って、潤也の中に残る。
そしてその憎悪を振りまわすように潤也は今、行動していた。
しかし、潤也は自分が何に対して憎悪していたのかをもはや覚えていない。
一個の意識が他の意識と混線し、より強い憎悪を抱いたが、その反対で何に対して憎悪していたのか?という起因を喪失してしまっている。
だから、何に対して憎悪しているのか?というのが問題点となる。
怨念の憎悪は千差万別だ、殺害者への憎悪もあれば、現象に殺され運命を呪う憎悪、病魔への憎悪、自分への憎悪等、生きるもの全てへの憎悪。
共通点をあげれば、それらにはそれぞれの起因があるという事だ。
憎悪というのは何か発端がなければ、憎悪にはならないのである。発端を思い出し、なんども頭の中で反芻し、憎悪する。
それが無い憎悪など力になるものではなく、指一つすら動かす力に成り得ない。
ならば、潤也が憎悪しているそれは何なのか?
その問いを説く為には怨念に関して少し深く語らなければならない。
怨念。
死してなお、その無念故にこの地に残り続けた、残留思念。
それらは様々な死因を持ってそこに存在している。
それぞれがまったく別の人生を歩み、まったく別の結末に辿り着いている。
つまりは怨念とは強い意思の力であるが、その一つ、一つがまったく違うモノなのである。
しかし、共通しているものもある、それは誰もが死を恐れていたという事だ。
死ぬ事は終わりだった。死ぬ事は恐怖だった。死ぬ事は絶望だった。
だから、誰もが死にたくなど無かったのだ。
つまり怨念とは生への羨望であり、生への願いだったと言えるのかもしれない。
だから黒峰潤也はそれを受けて死の体験の中で、既に自分が死んでいるのか?生きているのか?その判断をするにも曖昧な状態にありながら、もし自分が生きているのならば、生きていたいと願ったのだ。
死にたくない、生きていたい。
そこで潤也に宿る憎悪の起因が定まる。
己の命を奪おうとする者への憎悪。
よって自らに攻撃を加える敵を心底憎悪し、自らが生き残れる確率が最も高い手段を機械的に検索し実行する。
人が怨念に支配されるというのは、こういう事だった。
そして、生き残る為に潤也は周囲への無差別攻撃―呪装解放(ソウルバースト)―を選択する。
「でも、それはぼく達が望んではいない結末なんだよなー。」
潤也の、いや、かつて黒峰潤也という名前だった生物がよく知る声を聞いた。
誰だ?と問おうとしたが既に言語を失っている為、問う事も出来ない。
声は少しおかしそうに笑って、
「ぼくはね、君だ。君という存在が――――した残像だ。君にぼくは見えないだろう。だって君は君である事を既に喪失している。今の目的を忘れた生存本能の塊だ。まあ、その目的なんてものも大層なものじゃなかったね。君は君の中で懐疑的に思っている。だってぼくらは知らないものね、ぼくらの家族が殺された瞬間を・・・たまにこう考えてるだよね、もしかしたら自分が気を失っていてその家族が死んだ時の記憶がないのは自分が殺したからかもしれないって・・・この漆黒の機体でさ・・・そんな事をふと考える事だってあるだろう?」
声が何を言っているのか理解出来なかった。
ただ、それを聞くのが急に怖くなった。それを聞いていると自分という世界が終ってしまいそうで、怖くて怖くてたまらなかった。
それは思考してはいけない事なのだから…。
だから、耳を閉じて声を聞かずにおこうとするが、声は頭の中に響いて来る。
「ぼくは探して来たよ。君が見るべき思念、本当、これは弱い思念でね、漏れ出すらしなかったんだけれど、君には大事なものだ。さあ、一緒に見ようか…。」
視界がブラックアウトする。いつも通り怨念の再生が始まる時の予兆だ、刹那にて終わる思念、しかしそれはその刹那は気が遠くなるようなほど長大な時間に感じられる程長い。
そのまま少しづつ風景が色付けされていき、それはこんな思念から始まった。
――――――始めから、全部、知っていた。
お母さんが出張に出かけていた場所が跡形も無く破壊されたというニュースを偶然目にしてから、お母さんにもしもの事があったのではないかと2日間眠れない日々を過ごしていた。
周りからは娘を残して一人で遠出の仕事をする自分勝手な母親だと酷い事を言われる事もあったけれど、お母さんはいつもそれを申し訳なく思っていて、一緒にいる時は己(わたし)のしたい事をなんでもしてくれた。
嬉しかった。それだけで母は自分をこれ以上無く愛してくれているのだと感じとれた。
そして、己(わたし)もお母さんの事が大好きだった。
自信を持って言える。
己(わたし)はお母さんの事がこの世界で一番大好きだった。
そんなお母さんが死んだかもしれない。
それだけで己(わたし)の心は黒い色に染まった。
でも、もしかしたら…というのもある。
だから、己(わたし)はそれに希望を持つ事にした。
お母さんが生きていると信じようとした。
そして、その決意をした直後に、知らない人が己の家に訪ねてきた。
優しそうな顔をしたお姉さんと、髭の生えたお爺さん。
お姉さんは己(わたし)の手をとって、「お母さんはちょっと遠くに行ってしまって、帰ってこれないんだって、帰ってくるまでお姉さん達と一緒に来ない?」といった。
それは心からの善意で言われているのが己(わたし)にはわかった。でも、その後ろにある意味まで、己(わたし)はわかってしまった。
周りからは娘を残して一人で遠出の仕事をする自分勝手な母親だと酷い事を言われる事もあったけれど、お母さんはいつもそれを申し訳なく思っていて、一緒にいる時は己(わたし)のしたい事をなんでもしてくれた。
嬉しかった。それだけで母は自分をこれ以上無く愛してくれているのだと感じとれた。
そして、己(わたし)もお母さんの事が大好きだった。
自信を持って言える。
己(わたし)はお母さんの事がこの世界で一番大好きだった。
そんなお母さんが死んだかもしれない。
それだけで己(わたし)の心は黒い色に染まった。
でも、もしかしたら…というのもある。
だから、己(わたし)はそれに希望を持つ事にした。
お母さんが生きていると信じようとした。
そして、その決意をした直後に、知らない人が己の家に訪ねてきた。
優しそうな顔をしたお姉さんと、髭の生えたお爺さん。
お姉さんは己(わたし)の手をとって、「お母さんはちょっと遠くに行ってしまって、帰ってこれないんだって、帰ってくるまでお姉さん達と一緒に来ない?」といった。
それは心からの善意で言われているのが己(わたし)にはわかった。でも、その後ろにある意味まで、己(わたし)はわかってしまった。
―――――お母さんは、やっぱりあそこで死んだんだ。
それで怖くなってお姉さんの手を払って、己(わたし)は逃げた。
お母さんの死を理解した自分の頭にそれは間違いだ、間違いだ、間違いだ!と怒鳴りつけるようにして逃げた。
逃げた、怖かった、知りたくなんてなかった。
ずっと知らないままでいたかった。
己(わたし)は知らない、何も知らない、知ってなんていない。
もう気づいてしまっているのに嘘を吐く、いつか嘘が本当になるんじゃないかと思って何度も何度も自分に嘘を吐いた。
気付いたら、知らない公園の前にいた。
おそらくは街からは出てないのだと思うのだけれど、無我夢中で走っていたせいか、知らない所に出てきてしまったみたいだ。
そしてその先で、一人の男の人と出会った。
最初は後ろから見ていただけだったのだけれど、透き通るような白い髪が凄く綺麗で、己(わたし)の目はそれに少しの間、奪われた。
昔、絵本であんな綺麗な髪の王子様が両親を悪党に殺されて囚われたお姫様を助けにくるというお話を読んだ事がある。
己(わたし)はその姿を見てつい、その男の人をそんな王子様と重ね合わせてしまった。
そして、王子様なら、己(わたし)を助けてくれるんじゃないかという幻想を抱いた。
一体どんな顔をしている人なのだろう?
そう気になってその人の正面に立ってその人の顔を見て驚いた。
顔立ちはドラマに出てくるようなとても格好良い男の人みたいな感じではなかった。といっても別に変な顔というわけでも無い。
今にも泣きそうになっているのをやせ我慢して、無理矢理笑おうとしている…そんな表情。
こんな顔をする人を己(わたし)は一人しか知らない。
お母さんの死を理解した自分の頭にそれは間違いだ、間違いだ、間違いだ!と怒鳴りつけるようにして逃げた。
逃げた、怖かった、知りたくなんてなかった。
ずっと知らないままでいたかった。
己(わたし)は知らない、何も知らない、知ってなんていない。
もう気づいてしまっているのに嘘を吐く、いつか嘘が本当になるんじゃないかと思って何度も何度も自分に嘘を吐いた。
気付いたら、知らない公園の前にいた。
おそらくは街からは出てないのだと思うのだけれど、無我夢中で走っていたせいか、知らない所に出てきてしまったみたいだ。
そしてその先で、一人の男の人と出会った。
最初は後ろから見ていただけだったのだけれど、透き通るような白い髪が凄く綺麗で、己(わたし)の目はそれに少しの間、奪われた。
昔、絵本であんな綺麗な髪の王子様が両親を悪党に殺されて囚われたお姫様を助けにくるというお話を読んだ事がある。
己(わたし)はその姿を見てつい、その男の人をそんな王子様と重ね合わせてしまった。
そして、王子様なら、己(わたし)を助けてくれるんじゃないかという幻想を抱いた。
一体どんな顔をしている人なのだろう?
そう気になってその人の正面に立ってその人の顔を見て驚いた。
顔立ちはドラマに出てくるようなとても格好良い男の人みたいな感じではなかった。といっても別に変な顔というわけでも無い。
今にも泣きそうになっているのをやせ我慢して、無理矢理笑おうとしている…そんな表情。
こんな顔をする人を己(わたし)は一人しか知らない。
―――――お母さん。
いつだって一番、辛いのはお母さんだった。
でも仕事帰りにとても疲れた表情で、今すぐにでも倒れてしまいそうな顔色をしながら、己(わたし)が視界に入ると無理に笑顔を作って、自分に話かけてくるのだ。
嘘付きの顔、何度何度も見る内にお母さんが凄く無理しているのが己にもわかるようになった。
そんなお母さんと同じ顔をする男の人。
「お兄ちゃん、大丈夫?どこか痛いの?凄く辛そうな顔をしてるよ。」
だからなのかもしれない、つい言葉をかけてしまったのは…。
こんな顔をする人を見て見ぬふりをする事が出来なかった。
つい声をかけずにはいられなかった。
己(わたし)に何か出来るのならば、助けてあげたかった。
でも仕事帰りにとても疲れた表情で、今すぐにでも倒れてしまいそうな顔色をしながら、己(わたし)が視界に入ると無理に笑顔を作って、自分に話かけてくるのだ。
嘘付きの顔、何度何度も見る内にお母さんが凄く無理しているのが己にもわかるようになった。
そんなお母さんと同じ顔をする男の人。
「お兄ちゃん、大丈夫?どこか痛いの?凄く辛そうな顔をしてるよ。」
だからなのかもしれない、つい言葉をかけてしまったのは…。
こんな顔をする人を見て見ぬふりをする事が出来なかった。
つい声をかけずにはいられなかった。
己(わたし)に何か出来るのならば、助けてあげたかった。
「あ、あ…あ、あぁ。」
思念が自身の中で再生される途中、己(おれ)の意識の中に亀裂が入る。
己(わたし)が白髪の誰かと出会った事が己(おれ)に大きな揺さぶりを与えている。
亀裂から深淵のそこに沈んだ筈の何かがぼんやりと浮かび上がり始めている。
だが、それが何なのかがわからない。
とても大事なものだった気がする。でも、もう必要でないもの気がする。
だから、それを求めるべきか迷った。求めない方が楽な気もした。
しかし、そんな己(おれ)を無視し――――思念は続く。
思念が自身の中で再生される途中、己(おれ)の意識の中に亀裂が入る。
己(わたし)が白髪の誰かと出会った事が己(おれ)に大きな揺さぶりを与えている。
亀裂から深淵のそこに沈んだ筈の何かがぼんやりと浮かび上がり始めている。
だが、それが何なのかがわからない。
とても大事なものだった気がする。でも、もう必要でないもの気がする。
だから、それを求めるべきか迷った。求めない方が楽な気もした。
しかし、そんな己(おれ)を無視し――――思念は続く。
それから、白髪のお兄ちゃんと己(わたし)は色んな話をした。
お兄ちゃんは見た目通り優しそうな人で、己(わたし)はそれだけでここ数日間、部屋で陰々としていたのが嘘みたいな楽しさがあった。
お兄ちゃんの誘いがあってお兄ちゃんの止まっている所に止めてもらえば、今思えば、あまりに無防備すぎたかもしれないとは思う。
普通に考えたら『知らない人の所に泊まるなんて何を考えているんだ。』とか言われそうな事、実際、己(わたし)でもバカだと思う。
だから、本当、なんでついていったんだろう…って思う。
お兄ちゃんにお母さんと似ている所があったから?
思えば、お兄ちゃんは自分の事を気づかい、優しくしてくれている、その優しさにお母さんの面影を見たんだと思う。
だから、このお兄ちゃんともっと一緒にいたいと思った。
それだけの話。
お兄ちゃんは己(わたし)をホテルの凄い部屋へと連れて行ってくれた。
正直、びっくりした。ドラマとかでしか見た事が無い凄い部屋。
最初、後ろ姿を見た時は絵本の王子様と思ったけれど本当にお兄ちゃんはどこかの王子様なんじゃないかと思った。
そう言うとバツが悪そうにお兄ちゃんは頭を掻いて苦笑していた。
そうしてベットに寝転がる。
ベットはふかふかで柔らかくて、そこに寝転がっているだけで幸せな気分になるぐらいのものだった。
走り付かれていたのか、意識が少し朦朧として眠りそうになる。
その時、いつものようにゴンザを抱きかかえようとしたらそれが無いのに己(わたし)は気付いた。
ゴンザレスはお母さんが仕事で忙しい中、休暇をとって連れて行ってくれた時に勝った土産の熊のぬいぐるみだ。
当たり前の事だけれどゴンザレスってのは変な名前だって
決して安いモノでは無い、よくはわからないけれどブランドメーカーという所が出しているぬいぐるみで、おもちゃ屋で売ってるようなものとは値段が一桁違った。
己(わたし)がショーケースに入ってるのを見た後、欲しいと思いつつも値段を見て黙って見ているだけで済ませようとしたら、お母さんがにこって笑って買ってきてくれた。
嬉しかった。
一生の宝物だと思った。
ずっと大切にするねと言う己に頭を撫でてくれたお母さんの掌の温もりは今でも忘れない。
それから己(わたし)はいつもゴンザ抱えて寝るのが癖になっていた。
だから、寝ようとした時、ゴンザが無い事に気付いた。
あの家から逃げるように出た時、自分の部屋にゴンザを置き去りにしてきたんだとすぐ私は気付く。
それまで考えないでいられた、お母さんの死が思考を巡る。
もうお母さんはいない。
違う!
もうお母さんは死んだ。
違う!!
もうお母さんは死んだんだ。
ちが、う…ちがうよぉ…ちがうんだよぉ…。
何度否定しても離れない思考。
ゴンザが欲しい、そんな思いがより強くなる。
せめて、あれが己の腕の中にあれば、こんな哀しい気持ちにならなくて済むのに…そう思った。
あれは己とお母さんの一番の思い出であり、繋がりだ。
だから、一人で取りに行こうとした。
幸いここは中央駅の近くだ。
先ほどとは違い知らない場所などではないし、中央駅からならば自分一人でも帰る事が出来る。
だから、お兄ちゃんにそう言伝をして、行こうとした。
そうしたら、お兄ちゃんは一人だと危険だから、ついてきてくれるという。
嬉しかった。
味気ない電子音が聞こえた。
電話だろうか?
お兄ちゃんはちょっと慌てたようにして待っててくれと言って部屋に行ってしまった。
ふと気になって、扉の少しだけあけて耳をたてる。
そしてお兄ちゃんは電話の向こうの人と口論していた。
お兄ちゃんの電話は難しい言葉ばかりで何を言っているかわからなかったけれど、一つだけ己(わたし)にもわかる言葉があった。
「はっ、どうだか、それはようは前に闘った紫猿とかいう奴がやったようにこの街が瓦礫の山になるぐらいまで破壊されるって事だろ?」
お兄ちゃんは見た目通り優しそうな人で、己(わたし)はそれだけでここ数日間、部屋で陰々としていたのが嘘みたいな楽しさがあった。
お兄ちゃんの誘いがあってお兄ちゃんの止まっている所に止めてもらえば、今思えば、あまりに無防備すぎたかもしれないとは思う。
普通に考えたら『知らない人の所に泊まるなんて何を考えているんだ。』とか言われそうな事、実際、己(わたし)でもバカだと思う。
だから、本当、なんでついていったんだろう…って思う。
お兄ちゃんにお母さんと似ている所があったから?
思えば、お兄ちゃんは自分の事を気づかい、優しくしてくれている、その優しさにお母さんの面影を見たんだと思う。
だから、このお兄ちゃんともっと一緒にいたいと思った。
それだけの話。
お兄ちゃんは己(わたし)をホテルの凄い部屋へと連れて行ってくれた。
正直、びっくりした。ドラマとかでしか見た事が無い凄い部屋。
最初、後ろ姿を見た時は絵本の王子様と思ったけれど本当にお兄ちゃんはどこかの王子様なんじゃないかと思った。
そう言うとバツが悪そうにお兄ちゃんは頭を掻いて苦笑していた。
そうしてベットに寝転がる。
ベットはふかふかで柔らかくて、そこに寝転がっているだけで幸せな気分になるぐらいのものだった。
走り付かれていたのか、意識が少し朦朧として眠りそうになる。
その時、いつものようにゴンザを抱きかかえようとしたらそれが無いのに己(わたし)は気付いた。
ゴンザレスはお母さんが仕事で忙しい中、休暇をとって連れて行ってくれた時に勝った土産の熊のぬいぐるみだ。
当たり前の事だけれどゴンザレスってのは変な名前だって
決して安いモノでは無い、よくはわからないけれどブランドメーカーという所が出しているぬいぐるみで、おもちゃ屋で売ってるようなものとは値段が一桁違った。
己(わたし)がショーケースに入ってるのを見た後、欲しいと思いつつも値段を見て黙って見ているだけで済ませようとしたら、お母さんがにこって笑って買ってきてくれた。
嬉しかった。
一生の宝物だと思った。
ずっと大切にするねと言う己に頭を撫でてくれたお母さんの掌の温もりは今でも忘れない。
それから己(わたし)はいつもゴンザ抱えて寝るのが癖になっていた。
だから、寝ようとした時、ゴンザが無い事に気付いた。
あの家から逃げるように出た時、自分の部屋にゴンザを置き去りにしてきたんだとすぐ私は気付く。
それまで考えないでいられた、お母さんの死が思考を巡る。
もうお母さんはいない。
違う!
もうお母さんは死んだ。
違う!!
もうお母さんは死んだんだ。
ちが、う…ちがうよぉ…ちがうんだよぉ…。
何度否定しても離れない思考。
ゴンザが欲しい、そんな思いがより強くなる。
せめて、あれが己の腕の中にあれば、こんな哀しい気持ちにならなくて済むのに…そう思った。
あれは己とお母さんの一番の思い出であり、繋がりだ。
だから、一人で取りに行こうとした。
幸いここは中央駅の近くだ。
先ほどとは違い知らない場所などではないし、中央駅からならば自分一人でも帰る事が出来る。
だから、お兄ちゃんにそう言伝をして、行こうとした。
そうしたら、お兄ちゃんは一人だと危険だから、ついてきてくれるという。
嬉しかった。
味気ない電子音が聞こえた。
電話だろうか?
お兄ちゃんはちょっと慌てたようにして待っててくれと言って部屋に行ってしまった。
ふと気になって、扉の少しだけあけて耳をたてる。
そしてお兄ちゃんは電話の向こうの人と口論していた。
お兄ちゃんの電話は難しい言葉ばかりで何を言っているかわからなかったけれど、一つだけ己(わたし)にもわかる言葉があった。
「はっ、どうだか、それはようは前に闘った紫猿とかいう奴がやったようにこの街が瓦礫の山になるぐらいまで破壊されるって事だろ?」
―――この街が破壊される…!
なんでそんな話をしているのかわからない。
ただ、お兄ちゃんは真剣な表情で電話の先の人間と話している。
たぶん……本当の事だ。
長い間一人で、暮らしてきていたお陰か、人が嘘を言っているのか?本当の事を言っているのか見抜く事には自信があった。
だから、驚いたし・・・怖くなった。
住み慣れたこの街が破壊される。
するとどうなるのだろう?
学校の友達とはもう会えないかもしれない、家にもう帰れないかもしれない、家も壊されて…そこにあるゴンザも…。
ダメだ、それだけはダメだ。
己は思う、ゴンザはお母さんが買ってくれた己の一番の宝物だ。
いてもたってもいられなくなる。
もしかしたらが起こった後じゃいけない、今すぐに取りに行かないと…。
けれど、お兄ちゃんは電話で真剣な顔で口論していた。
それまで見たこと無いような怖い顔をしていた。
とても、話にいけそうじゃなかった。
だから、近くにあった紙とペンで書き置きをお兄ちゃんに残して、ホテルを出た。
中央駅はホテルの正面だった、そこから住宅街に出て、電車に乗る。
母から渡されていたカードパスがあるのでそれをかざせば、自分の家のある区域へといける筈だったのだけれど、何故か電車は止まっていた。
何か問題があったらしく、電車は今日一日運航停止だそうなのだ。
己は仕方ないと思い電車で行くのを諦めた。
しかし、家には行きたい、こんな時になって己(わたし)は家を飛び出した事を後悔した。
この辺りの地理はあまり詳しく無いけれど線路にそっていけば駅までいけるんじゃないだろうか?と己(わたし)は思いつく。
電車に乗っても5分ぐらいで着く距離だったというのは覚えているので足でいってもそれほど時間はかからないと思った。
線路にそって道なりに進むと、進んでいる方向から人が己(わたし)の方に向かって走ってくるのが見えた。
その奥で煙が上がっている。
火事というにはその煙の数は余りにも多かった。
己(わたし)はたぶん、お兄ちゃんが言っていた破壊が始まってるんだと思う。
少し怖かった。
向こうからこっちに来る人の顔は見た事も無いようなぐらい必死で、この先に何があるのかというのが己(わたし)にもよく理解できた。
だから、己(わたし)はそのたくさんの人の流れに逆らうようにして走った。
人とぶつかって、倒れる。
膝小僧を擦り剥いて、血がにじみ出ている。
痛かった。
すぐに手を地面に付けて己(わたし)は立ち上がる。
痛かった、その場で泣きだしてしまいたいぐらい痛かった。
けれど、そんな時間すら惜しい。
早くいかないとゴンザが一緒に燃えてしまう。
一歩踏み出す事に擦り剥いた膝が熱をもって痛みを増す。
けれど、それは一歩先へと進めているという事だと己(わたし)は思う事にした。
痛いのは確実に目的地である己(わたし)の家に近づいている証拠。
そう思う事にした。
住宅区の駅に着いた。
辺りを見渡す、そこには見た事のない虎の形をした機械がいた。
たまにニュースで見た事がある人が中に入って操る機械の人形。
それと似ているのが暴れていた。
そこで己は今日、初めて怖いと思った。
街が破壊されるという話はお兄ちゃんの話から聞いていた。
でもそれがこんな化け物が暴れているからだなんて、予想だにしていなかった。
見ただけでわかる、あれは人間を殺すモノだ。
あれの近くに行けば、もしかすると己は死んでしまうのかもしれない。
足がすくんで、涙がこぼれてくる。
逃げ出したくなる衝動、なんで、自分とすれ違う人々があんなに必死な顔になっていたのかがわかった。
あれは終わりだ。
ありとあらゆる全ての始まりを結末となる終わりだ。
あそこにいけば、死ぬかもしれない。
そんな事を考えた。
己(わたし)が初めて死というモノに関して考えたのは5歳の時だ。
己(わたし)は死という事が怖かった。
ただ、漠然と怖かった。
だって、死というのは意味がわからないものだからだ。
なんで人は死ぬんだろう?死んだらどうなるのだろう?
心臓が止まる、人と話す事が出来なくなる、モノを見る事が出来なくなる、音を聞く事が出来なくなる、食べる事が出来なくなる、臭いを嗅ぐ事が出来なくなる、触れる事が出来なくなる。
そんな事は学校の授業は本やテレビを見ていればわかった。
けれど、実際、死ぬとどうなるのか?
それがわからなった。
それで図書室にいって調べた事がある。
天国と地獄があって、いいことをした人は天国で楽しい生活を、悪い事をした人は地獄でずっと苦しい思いをする。
無に還って何も残らないという考え、そして何か別の生物に生まれ変わる輪廻という考え。
死の先への空想はたくさんあった。
けれど、そのどれかが真実だというモノは何処にもいなかった。
そのどれもがらしい、そんな気がする、そうだったらいいなと思うようなものであったけれど、死の先の真実を書き記したものはそこには存在しない。
誰も死の先から帰ってきた人はいないんだ。
だって、死とはこの世界との別れである事だけは疑いようがなく、死が本当に終わりなのかどうかは誰も知る事が出来ない。
己(わたし)は死が怖くなった。
それから己(わたし)は死を考えるのを忘れるようにした気がする。
ずっと考えて、考えて、考えても死というものが何なのかわからず、怖くてたまらなくなって、そんな未知にその内、自分も出会うのだと思うと心の底から恐怖した。
まるで死は掴めない雲のような存在だった。
だから、己(わたし)は死を考えないように努めるようになった。
けれど、結局その努力はお母さんが死んだかもしれないという可能性によって霧散する。
この数日間、己(わたし)は否応にも死に関して考えないといけなくなった。
だから、死ぬ事が怖かった。
きっと今、ここから逃げても生きて帰れるかは難しいかもしれない。
あの化け物のいるところに歩を進める事はそれに近づく事を意味する、それは予感として感じられる。
でも、だからといって逃げる事は出来なかった。
あれはお母さんが己(わたし)に買ってくれたものなんだ。
思い出がたくさん詰まったぬいぐるみ、お母さんと己(わたし)が一緒にいたという絆、お母さんが己(わたし)を愛してくれていたという証拠。
それは己(わたし)にとって命より大切だった。
そして住宅街に入ろうと歩を進める。
己(わたし)の腕を掴む人がいた。
「何やってるんだ、バカ!早く逃げろ!!」
そういって己(わたし)の手を引っ張っていこうとする。
己(わたし)はその腕をふりほどいて、走った。
でも、行かないといけない。
行かないとお母さんと己(わたし)の絆が無くなってしまう。
だから、走った。
駅から家への道は己でも覚えていた。
家へと辿り着く。
自分を連れて行こうとしたあの二人はもうそこにはいない。
その代わりに目の前には虎の機械が跋扈している。
先ほどより大きくなるその機影から、それが近づいてきているのがわかる。
己(わたし)はバックから鍵を取り出して開けようと鍵穴に鍵を入れた。
その時、扉を開くのと同時に轟音が鳴り響いた、機械と機械がこすれる騒音。
ガラスをひっかくいた時に出る様な音を通常の数十倍のボリュームで鳴り響かせる。
そして己(わたし)の後ろから吹き荒れた風に己(わたし)は吹き飛ばされた。
それが、あの虎の機械が吠え、その際に発生した何かによって吹き飛ばされたのだと気付いたのは己(わたし)の体が宙に待っている時だった。
二階の窓に背中をぶつけ、そのまま屋根から転がり落ちた。
地面に落ちたことでのおおきな衝撃と同時に背中に何かが刺さるような鋭い痛みが走る。
何度も感じた事ある苦痛、己(おれ)はそれだけでそれが致命傷なのだと理解できた。
己(わたし)の視界が狭くなる。
見える風景が少しずつ端からゆっくりと黒に染まっていく。
暗闇の中、一つ何かが見えた気がした。
哀しそうな顔。
それを向けている人がいる。
暗くてよく見えない。
そして己(わたし)はその人に抱きしめられる。
最初はお母さんかと思った。
けれど、お母さんよりも強い力でその両腕は己(わたし)を抱きしめていた。
まるで知らない温もり、けれど優しさを感じさせる温もり。
誰なんだろう?と思う。
そんな事をしてくれるような人はもう己(わたし)の周りにはいなかった筈なのに…。
次第に薄くなっていく意識の中で暗闇の中で白い線が落ちる。
ただ、お兄ちゃんは真剣な表情で電話の先の人間と話している。
たぶん……本当の事だ。
長い間一人で、暮らしてきていたお陰か、人が嘘を言っているのか?本当の事を言っているのか見抜く事には自信があった。
だから、驚いたし・・・怖くなった。
住み慣れたこの街が破壊される。
するとどうなるのだろう?
学校の友達とはもう会えないかもしれない、家にもう帰れないかもしれない、家も壊されて…そこにあるゴンザも…。
ダメだ、それだけはダメだ。
己は思う、ゴンザはお母さんが買ってくれた己の一番の宝物だ。
いてもたってもいられなくなる。
もしかしたらが起こった後じゃいけない、今すぐに取りに行かないと…。
けれど、お兄ちゃんは電話で真剣な顔で口論していた。
それまで見たこと無いような怖い顔をしていた。
とても、話にいけそうじゃなかった。
だから、近くにあった紙とペンで書き置きをお兄ちゃんに残して、ホテルを出た。
中央駅はホテルの正面だった、そこから住宅街に出て、電車に乗る。
母から渡されていたカードパスがあるのでそれをかざせば、自分の家のある区域へといける筈だったのだけれど、何故か電車は止まっていた。
何か問題があったらしく、電車は今日一日運航停止だそうなのだ。
己は仕方ないと思い電車で行くのを諦めた。
しかし、家には行きたい、こんな時になって己(わたし)は家を飛び出した事を後悔した。
この辺りの地理はあまり詳しく無いけれど線路にそっていけば駅までいけるんじゃないだろうか?と己(わたし)は思いつく。
電車に乗っても5分ぐらいで着く距離だったというのは覚えているので足でいってもそれほど時間はかからないと思った。
線路にそって道なりに進むと、進んでいる方向から人が己(わたし)の方に向かって走ってくるのが見えた。
その奥で煙が上がっている。
火事というにはその煙の数は余りにも多かった。
己(わたし)はたぶん、お兄ちゃんが言っていた破壊が始まってるんだと思う。
少し怖かった。
向こうからこっちに来る人の顔は見た事も無いようなぐらい必死で、この先に何があるのかというのが己(わたし)にもよく理解できた。
だから、己(わたし)はそのたくさんの人の流れに逆らうようにして走った。
人とぶつかって、倒れる。
膝小僧を擦り剥いて、血がにじみ出ている。
痛かった。
すぐに手を地面に付けて己(わたし)は立ち上がる。
痛かった、その場で泣きだしてしまいたいぐらい痛かった。
けれど、そんな時間すら惜しい。
早くいかないとゴンザが一緒に燃えてしまう。
一歩踏み出す事に擦り剥いた膝が熱をもって痛みを増す。
けれど、それは一歩先へと進めているという事だと己(わたし)は思う事にした。
痛いのは確実に目的地である己(わたし)の家に近づいている証拠。
そう思う事にした。
住宅区の駅に着いた。
辺りを見渡す、そこには見た事のない虎の形をした機械がいた。
たまにニュースで見た事がある人が中に入って操る機械の人形。
それと似ているのが暴れていた。
そこで己は今日、初めて怖いと思った。
街が破壊されるという話はお兄ちゃんの話から聞いていた。
でもそれがこんな化け物が暴れているからだなんて、予想だにしていなかった。
見ただけでわかる、あれは人間を殺すモノだ。
あれの近くに行けば、もしかすると己は死んでしまうのかもしれない。
足がすくんで、涙がこぼれてくる。
逃げ出したくなる衝動、なんで、自分とすれ違う人々があんなに必死な顔になっていたのかがわかった。
あれは終わりだ。
ありとあらゆる全ての始まりを結末となる終わりだ。
あそこにいけば、死ぬかもしれない。
そんな事を考えた。
己(わたし)が初めて死というモノに関して考えたのは5歳の時だ。
己(わたし)は死という事が怖かった。
ただ、漠然と怖かった。
だって、死というのは意味がわからないものだからだ。
なんで人は死ぬんだろう?死んだらどうなるのだろう?
心臓が止まる、人と話す事が出来なくなる、モノを見る事が出来なくなる、音を聞く事が出来なくなる、食べる事が出来なくなる、臭いを嗅ぐ事が出来なくなる、触れる事が出来なくなる。
そんな事は学校の授業は本やテレビを見ていればわかった。
けれど、実際、死ぬとどうなるのか?
それがわからなった。
それで図書室にいって調べた事がある。
天国と地獄があって、いいことをした人は天国で楽しい生活を、悪い事をした人は地獄でずっと苦しい思いをする。
無に還って何も残らないという考え、そして何か別の生物に生まれ変わる輪廻という考え。
死の先への空想はたくさんあった。
けれど、そのどれかが真実だというモノは何処にもいなかった。
そのどれもがらしい、そんな気がする、そうだったらいいなと思うようなものであったけれど、死の先の真実を書き記したものはそこには存在しない。
誰も死の先から帰ってきた人はいないんだ。
だって、死とはこの世界との別れである事だけは疑いようがなく、死が本当に終わりなのかどうかは誰も知る事が出来ない。
己(わたし)は死が怖くなった。
それから己(わたし)は死を考えるのを忘れるようにした気がする。
ずっと考えて、考えて、考えても死というものが何なのかわからず、怖くてたまらなくなって、そんな未知にその内、自分も出会うのだと思うと心の底から恐怖した。
まるで死は掴めない雲のような存在だった。
だから、己(わたし)は死を考えないように努めるようになった。
けれど、結局その努力はお母さんが死んだかもしれないという可能性によって霧散する。
この数日間、己(わたし)は否応にも死に関して考えないといけなくなった。
だから、死ぬ事が怖かった。
きっと今、ここから逃げても生きて帰れるかは難しいかもしれない。
あの化け物のいるところに歩を進める事はそれに近づく事を意味する、それは予感として感じられる。
でも、だからといって逃げる事は出来なかった。
あれはお母さんが己(わたし)に買ってくれたものなんだ。
思い出がたくさん詰まったぬいぐるみ、お母さんと己(わたし)が一緒にいたという絆、お母さんが己(わたし)を愛してくれていたという証拠。
それは己(わたし)にとって命より大切だった。
そして住宅街に入ろうと歩を進める。
己(わたし)の腕を掴む人がいた。
「何やってるんだ、バカ!早く逃げろ!!」
そういって己(わたし)の手を引っ張っていこうとする。
己(わたし)はその腕をふりほどいて、走った。
でも、行かないといけない。
行かないとお母さんと己(わたし)の絆が無くなってしまう。
だから、走った。
駅から家への道は己でも覚えていた。
家へと辿り着く。
自分を連れて行こうとしたあの二人はもうそこにはいない。
その代わりに目の前には虎の機械が跋扈している。
先ほどより大きくなるその機影から、それが近づいてきているのがわかる。
己(わたし)はバックから鍵を取り出して開けようと鍵穴に鍵を入れた。
その時、扉を開くのと同時に轟音が鳴り響いた、機械と機械がこすれる騒音。
ガラスをひっかくいた時に出る様な音を通常の数十倍のボリュームで鳴り響かせる。
そして己(わたし)の後ろから吹き荒れた風に己(わたし)は吹き飛ばされた。
それが、あの虎の機械が吠え、その際に発生した何かによって吹き飛ばされたのだと気付いたのは己(わたし)の体が宙に待っている時だった。
二階の窓に背中をぶつけ、そのまま屋根から転がり落ちた。
地面に落ちたことでのおおきな衝撃と同時に背中に何かが刺さるような鋭い痛みが走る。
何度も感じた事ある苦痛、己(おれ)はそれだけでそれが致命傷なのだと理解できた。
己(わたし)の視界が狭くなる。
見える風景が少しずつ端からゆっくりと黒に染まっていく。
暗闇の中、一つ何かが見えた気がした。
哀しそうな顔。
それを向けている人がいる。
暗くてよく見えない。
そして己(わたし)はその人に抱きしめられる。
最初はお母さんかと思った。
けれど、お母さんよりも強い力でその両腕は己(わたし)を抱きしめていた。
まるで知らない温もり、けれど優しさを感じさせる温もり。
誰なんだろう?と思う。
そんな事をしてくれるような人はもう己(わたし)の周りにはいなかった筈なのに…。
次第に薄くなっていく意識の中で暗闇の中で白い線が落ちる。
―――ああ、そうか…。
己(わたし)はそれだけで理解する。
一度だけその白を見た事がある。
綺麗な白髪を持った人。
ついさっきといっても良いぐらいの近くに出会った、お母さんと同じ優しいお兄ちゃん。
もう何も見えないけれど、お兄ちゃんが今、自分の所に来て抱きしめてくれているんだってわかった。
凄く嬉しかった。
感謝の言葉を言おうとしたけれど、そういえば己(わたし)はお兄ちゃんの名前を知らない。
名前を聞いて無かった事に今更気がつく。
知りたいなぁ、お兄ちゃんの名前。
だから、己(わたし)を抱きしめてくれているお兄ちゃんに声をかける。
一度だけその白を見た事がある。
綺麗な白髪を持った人。
ついさっきといっても良いぐらいの近くに出会った、お母さんと同じ優しいお兄ちゃん。
もう何も見えないけれど、お兄ちゃんが今、自分の所に来て抱きしめてくれているんだってわかった。
凄く嬉しかった。
感謝の言葉を言おうとしたけれど、そういえば己(わたし)はお兄ちゃんの名前を知らない。
名前を聞いて無かった事に今更気がつく。
知りたいなぁ、お兄ちゃんの名前。
だから、己(わたし)を抱きしめてくれているお兄ちゃんに声をかける。
―――己(わたし)の名前はね、倉島愛、お兄ちゃんの名前は?
けれど、口は動かなくて、音を発する事が出来なかった。
それを疑問に思いながら、意識は散って消えた。
それを疑問に思いながら、意識は散って消えた。
思念は終わる。
数千にも及ぶ怨念の中でもはやその死は有象無象になり果てて、けれどその有象無象な筈の言葉と彼女の最後は己(おれ)の心に棘のように突き刺さる。
もっと惨たらしい死を遂げた死者の怨念は他にいくらでもあった。
次の死から次の死へと流れる中で、何故死んだか等という理由は徐々に霧散していくようにし、その時に抱いた感情だけが己(おれ)の中に残っていた。
けれど、己(おれ)の心に何故かこの怨念は響く、他の怨念のように霧散せず、棘となって己(おれ)の心に残っている。
己(おれ)が関わった人間の怨念。
己(おれ)が登場する人間の怨念。
己(おれ)が死んでしまう要因を作ってしまった人間の怨念。
悪意があったわけでもない、そうしようと思ったわけでもない。
しかし、己(おれ)が迂闊にも話を聞かれたりしなければ…否、迂闊にも一緒に行こうなどと言わなければ、彼女は少なくとも自分から死地に赴いたりする事は無かった筈なのだ。
だから、この怨念の主は己(おれ)を怨んで当然なのだ。
今まで己(おれ)が復讐と称し断罪してきた者たちと同じように、己(おれ)を殺したいぐらい憎んでくれても良い筈なのだ。
原因は己(おれ)なのだから・・・。
けれど、この怨念は己(おれ)をまるで憎んでいなかった。
それどころか、己(おれ)に感謝していた、喜んでいた。
こんなのってあるか?
己(おれ)は感謝されるような人間じゃない。
直接的な殺害者じゃなくても殺す原因を作った人間は己(おれ)なのだ。
憎んでくれた方がずっと気が楽だった。
そんなのって無いよ…。
失って深淵に溶け込んでいた不純物が少しづつ浮き出てくる。
それは自我という概念。
己(おれ)が誰かという事が少しづつ浮き出てくる。
そして彼女の最後の思念が己(おれ)を襲う。
数千にも及ぶ怨念の中でもはやその死は有象無象になり果てて、けれどその有象無象な筈の言葉と彼女の最後は己(おれ)の心に棘のように突き刺さる。
もっと惨たらしい死を遂げた死者の怨念は他にいくらでもあった。
次の死から次の死へと流れる中で、何故死んだか等という理由は徐々に霧散していくようにし、その時に抱いた感情だけが己(おれ)の中に残っていた。
けれど、己(おれ)の心に何故かこの怨念は響く、他の怨念のように霧散せず、棘となって己(おれ)の心に残っている。
己(おれ)が関わった人間の怨念。
己(おれ)が登場する人間の怨念。
己(おれ)が死んでしまう要因を作ってしまった人間の怨念。
悪意があったわけでもない、そうしようと思ったわけでもない。
しかし、己(おれ)が迂闊にも話を聞かれたりしなければ…否、迂闊にも一緒に行こうなどと言わなければ、彼女は少なくとも自分から死地に赴いたりする事は無かった筈なのだ。
だから、この怨念の主は己(おれ)を怨んで当然なのだ。
今まで己(おれ)が復讐と称し断罪してきた者たちと同じように、己(おれ)を殺したいぐらい憎んでくれても良い筈なのだ。
原因は己(おれ)なのだから・・・。
けれど、この怨念は己(おれ)をまるで憎んでいなかった。
それどころか、己(おれ)に感謝していた、喜んでいた。
こんなのってあるか?
己(おれ)は感謝されるような人間じゃない。
直接的な殺害者じゃなくても殺す原因を作った人間は己(おれ)なのだ。
憎んでくれた方がずっと気が楽だった。
そんなのって無いよ…。
失って深淵に溶け込んでいた不純物が少しづつ浮き出てくる。
それは自我という概念。
己(おれ)が誰かという事が少しづつ浮き出てくる。
そして彼女の最後の思念が己(おれ)を襲う。
――――私は倉島愛、お兄ちゃんの名前は?
名前、己(おれ)の、名前、俺は、俺は――――――――
俺は首を振り、右手の甲に噛みついた。
それだけでもまだたりず頭を何度もコックピット内で壁にぶつける。
額から血がだらりと流れでるのを感じる。
その額から流れ落ちてきた血を舌ですくい取り、黒峰潤也は現実へと帰還した。
俺は首を振り、右手の甲に噛みついた。
それだけでもまだたりず頭を何度もコックピット内で壁にぶつける。
額から血がだらりと流れでるのを感じる。
その額から流れ落ちてきた血を舌ですくい取り、黒峰潤也は現実へと帰還した。
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