「いったいどないなってんねん……私らこれからどうなんるんや……」
朝日が木漏れ日となって温かに森を照らす。
そんな穏やかな景色に似つかわしくない暗い表情の少女が肩を落として歩いていた。
そんな穏やかな景色に似つかわしくない暗い表情の少女が肩を落として歩いていた。
彼女の名は末原恭子。全国屈指の麻雀強豪校、姫松高校麻雀部の大将を務めている。
その打ち筋は『堅実』。常に格下に負ける可能性を意識し、対戦相手の打ち筋の分析と対策を徹底する。
華やかな麻雀ができない『凡人』であるからこそ、常に勝利への情報収集を怠らない。それが彼女の麻雀における信念である。
その打ち筋は『堅実』。常に格下に負ける可能性を意識し、対戦相手の打ち筋の分析と対策を徹底する。
華やかな麻雀ができない『凡人』であるからこそ、常に勝利への情報収集を怠らない。それが彼女の麻雀における信念である。
その努力の甲斐あって、大会では部員からの全幅の信頼を寄せられる参謀役として活躍してきた。
その信頼は下級生だけでなく、同じ三年生の麻雀部主将にして絶対的エースたる愛宕洋榎も彼女の分析力に信頼を置いていた。
その信頼は下級生だけでなく、同じ三年生の麻雀部主将にして絶対的エースたる愛宕洋榎も彼女の分析力に信頼を置いていた。
恭子は忘れない。あの屈辱的な二回戦の勝利。
完膚無きまで叩き伏せられた挙げ句、麻雀において常識外れの点数調整をされて姫松高校は二位で準決勝に勝ち進んだ。
全てはあの宮永咲の手のひらで踊らされ得た勝利。
準決勝で再戦する清澄高校。そして辛酸を舐めさせられた宮永咲の打倒を目指して特訓に励んでいたのだが――
完膚無きまで叩き伏せられた挙げ句、麻雀において常識外れの点数調整をされて姫松高校は二位で準決勝に勝ち進んだ。
全てはあの宮永咲の手のひらで踊らされ得た勝利。
準決勝で再戦する清澄高校。そして辛酸を舐めさせられた宮永咲の打倒を目指して特訓に励んでいたのだが――
「なんやねん……あの三メートルの宇宙人みたいな元総理は……」
ハトヤマユキヲと名乗る、元総理大臣による友愛ゲーム(殺し合い)
ただの麻雀が少し強いだけの女子高生にはあまりにも過酷なサバイバルゲームであった。
ただの麻雀が少し強いだけの女子高生にはあまりにも過酷なサバイバルゲームであった。
「何が友愛やねん……友愛は人を殺すことちゃうやろ……あんなんが元総理大臣とか……座るのは首相官邸の椅子やなく鉄格子の付いた病室のベッドやん……」
至極もっともな言葉であるが、完全に自分ひとりの世界に旅立って演説をする元総理にその言葉の意味を正しく理解しろというのも無茶なものである。
あの場にいた誰もがあの男を狂人だと思っていただろう。
普通の女子高生である恭子ですらもあれを『触れてはいけないもの』と感じていた。
あの場にいた誰もがあの男を狂人だと思っていただろう。
普通の女子高生である恭子ですらもあれを『触れてはいけないもの』と感じていた。
「メゲるわ……」
どうすればいい?
あの男の言いなりになって最後のひとりとなるべく殺し合いに参加する?
そんなことできるわけがない。
もし、この会場に洋榎が、絹恵が、大切な仲間たちが呼び寄せられていたらどうする?
彼女たちをその手にかけて生き残ることなんて考えたくもない。
あの男の言いなりになって最後のひとりとなるべく殺し合いに参加する?
そんなことできるわけがない。
もし、この会場に洋榎が、絹恵が、大切な仲間たちが呼び寄せられていたらどうする?
彼女たちをその手にかけて生き残ることなんて考えたくもない。
「こんな時、主将は――洋榎やったらどうするんですか……って聞くまでもないなあ」
恭子ははぁ、とため息をついて近場の朽ち木に腰をかける。
穏やかな風。風に揺れてざわめく緑。温かな木漏れ日。
森林浴にはもってこいの環境なのに恭子の気は暗い。
穏やかな風。風に揺れてざわめく緑。温かな木漏れ日。
森林浴にはもってこいの環境なのに恭子の気は暗い。
殺したくない。
でも殺されたくない。
でも殺されたくない。
フラッシュバックするプロレスラーめいた男の首なし死体。
リング上に広がる赤がいまだ恭子の脳裏にこびりついている。
何もしなければ次は恭子自身がああなる番。
リング上に広がる赤がいまだ恭子の脳裏にこびりついている。
何もしなければ次は恭子自身がああなる番。
ならば――殺されないために殺される前に殺せ。
そんな内なる声が聞こえたような気がして恭子ははっと顔を上げた。
そんな内なる声が聞こえたような気がして恭子ははっと顔を上げた。
「ッ――! あかん、やっぱ私にはでけへんよ……でも……」
自分にその気がなくても相手がその気だったらどうすればいい?
せめて何か最低限自衛の手段があれば――
せめて何か最低限自衛の手段があれば――
(でもそれがあの男の狙いなんやろなあ……)
例え殺し合いに乗るつもりがなくても、襲われてしまったときは応戦せざるをえない。
生き残りたいと願うのは生きている者として当然の願望。もし無抵抗で命を差し出す者がいればそれはそれで異常者と同じである。
全員が殺し合いに乗らず協力して知恵を出し合えば何かしら現状を打開できるかもしれない。
ハトヤマはそうせないために参加者に殺し合いに役に立つアイテム――武器を配っている。
生き残りたいと願うのは生きている者として当然の願望。もし無抵抗で命を差し出す者がいればそれはそれで異常者と同じである。
全員が殺し合いに乗らず協力して知恵を出し合えば何かしら現状を打開できるかもしれない。
ハトヤマはそうせないために参加者に殺し合いに役に立つアイテム――武器を配っている。
たとえ自分に殺す気がなくても正当防衛で殺めてしまえばハトヤマにとってそれは殺し合いに参加しているのと同義。
武器を持ったまま最後までそれを使わないことなんてありえないだろう。
人間が生き残りたいと思う願望を持っているかぎり、武器を持ちつつ一致団結は不可能である。
必ず、自らの利益と保身で団結に綻びが生じてくる。
武器を持ったまま最後までそれを使わないことなんてありえないだろう。
人間が生き残りたいと思う願望を持っているかぎり、武器を持ちつつ一致団結は不可能である。
必ず、自らの利益と保身で団結に綻びが生じてくる。
(まるで、囚人のジレンマ……それ以上やな。ほんまよーできとるシステムやわ)
恭子も殺し合いに参加するつもりはなくても自衛の手段は欲しい。
それがハトヤマの目論み通りなのは理解しつつも、死にたくない、生き残ってインターハイを優勝したいという自らの願望のためにデイバッグの中に手を伸ばした。
そして――
それがハトヤマの目論み通りなのは理解しつつも、死にたくない、生き残ってインターハイを優勝したいという自らの願望のためにデイバッグの中に手を伸ばした。
そして――
「なんや……これ、ただの雑誌……? 『Vやねん!タイガース』ってアホかっ!」
出てきたのはなんの役にも立たない野球雑誌。
それもとある球団のファンにとっては『何がVやねん!』と苦々しい思い出の象徴でもあった。
それもとある球団のファンにとっては『何がVやねん!』と苦々しい思い出の象徴でもあった。
「中身はしょーもない雑誌だけ……アホらし……なんか気ぃぬけたわ」
残りは地図やコンパスなどの戦闘には役に立ちそうにないものばかり。
それでもどこかほっとする恭子だった。
これで自分が誰かを殺すことはなくなった。
もう殺人者になることはない――
それでもどこかほっとする恭子だった。
これで自分が誰かを殺すことはなくなった。
もう殺人者になることはない――
ぞくり。
「ひっ……」
突然。恭子の背筋に悪寒が走る。
この感覚――まるで麻雀で誰かの待ち――それも役満クラスに振り込む直前に感じるモノを何十倍に濃縮したような感覚。
喉元に鋭い刃を突き付けられたようなそれはまさしく殺気。
この感覚――まるで麻雀で誰かの待ち――それも役満クラスに振り込む直前に感じるモノを何十倍に濃縮したような感覚。
喉元に鋭い刃を突き付けられたようなそれはまさしく殺気。
(あかん、うち……ここで死んでしまうん――……?)
諦めが恭子を支配する。ここでもう終わりなのか。
そんな彼女に耳に『動くと、当たっちゃいますよ』と声が響いた。
そんな彼女に耳に『動くと、当たっちゃいますよ』と声が響いた。
髪を掠める風と同時に背後にあった木にぶら下がる実が破裂する。
ほんのワンテンポ遅れて銃声が森に響いた。
ほんのワンテンポ遅れて銃声が森に響いた。
「え、あ……? 何が起こって……」
何が起こったのか恭子自身もわからず混乱する。
ややあって森の茂みから黒い人影が姿を見せる。
長い銃身を持つ狙撃銃を持った人間、だがその姿は恭子にとってあまりにも珍妙な外見をしている。
ややあって森の茂みから黒い人影が姿を見せる。
長い銃身を持つ狙撃銃を持った人間、だがその姿は恭子にとってあまりにも珍妙な外見をしている。
白い和風の装束に身を包んだ怪人物。それはまるで歴史物語から抜け出してきた侍か忍者か。
恭子が見ても息を飲むほど綺麗な黒髪を結わえたその人物は端正な顔立ちで、一見すると男か女かもわからないほどの美貌を誇っている。
そしてその人物は美しい和装にあまりにも不釣り合いな無骨な狙撃銃を携えていた。
恭子が見ても息を飲むほど綺麗な黒髪を結わえたその人物は端正な顔立ちで、一見すると男か女かもわからないほどの美貌を誇っている。
そしてその人物は美しい和装にあまりにも不釣り合いな無骨な狙撃銃を携えていた。
「信長殿の火縄銃とはかなり形は違いますが、火薬を用いて弾を飛ばす構造は一緒のようですね。ばてれんの技術は大したものです」
声から察するに男のようで。男は興味深そうに狙撃銃をしげしげと眺めている。
そして恐れおののく恭子を察してかにこりと微笑んで言った。
そして恐れおののく恭子を察してかにこりと微笑んで言った。
「申し訳ございませぬ。少しばかりこれの試し撃ちをしとうございまして。例えいくさ場とはいえさすがに私も無抵抗のおなごを好きこのんで殺める物狂いにございませぬゆえに」
見た目通り少し時代がかった言葉遣いの青年は妖艶な笑みを浮かべて恭子に詫びた。
「しかし……殺気を殺して撃ったつもりだったのですが先に感づかれるとは私の鍛錬も足りませぬなぁ」
「あ、あの……あなたは一体……」
「――申し遅れました。私は与一、那須資隆与一で御座います」
「あ、あの……あなたは一体……」
「――申し遅れました。私は与一、那須資隆与一で御座います」
青年は飄々とした口調のままにこやかな笑みを浮かべ名を名乗った。
「は……? 那須与一ってあの?」
「はぁ、私以外に那須与一を名乗る者がいればお目にかかりとうありますが……」
「だって……那須与一って源平の――」
「ああ――あなたも信長殿や豊久殿と同じでございますか。は、ははっ数百年たっても名が残るとはもののふの誉れでございましょう」
「はぁ、私以外に那須与一を名乗る者がいればお目にかかりとうありますが……」
「だって……那須与一って源平の――」
「ああ――あなたも信長殿や豊久殿と同じでございますか。は、ははっ数百年たっても名が残るとはもののふの誉れでございましょう」
不敵に笑う青年は恭子にとって信じられない名を口にする。
那須与一。800年以上前の人間が生きて目の前に立っているのだから。
那須与一。800年以上前の人間が生きて目の前に立っているのだから。
◆
「まさか信長殿や豊久殿よりもさらに後の世の方とは……くっくくく……げに浮世は面白きことで」
「……ほんまにあなたは那須与一なんですか。私には信じられない話ばっかりなんですけど」
「……ほんまにあなたは那須与一なんですか。私には信じられない話ばっかりなんですけど」
彼の言葉は恭子にはあまりに信じられないものであった。
なにせ数百年前の人間であるばかりではなく、ここに来る前まであの織田信長や島津豊久と言った戦国時代の武将と行動にしていたというのだから。
おまけに耳の長いエルフが住まう世界というまるでゲームか漫画のような話でにわかには信じられなかった。
なにせ数百年前の人間であるばかりではなく、ここに来る前まであの織田信長や島津豊久と言った戦国時代の武将と行動にしていたというのだから。
おまけに耳の長いエルフが住まう世界というまるでゲームか漫画のような話でにわかには信じられなかった。
「私もあなたの話を聞けば信じがたきことばかりですよ? まさか800年先の世は武士の世どころかただの民草が世を治めているなんて私たちの世からすれば想像もしないものですなあ」
「…………」
「しかし、800年の時が流れても世はいくさに満ちあふれている。世は移り変わっても人の本質は変わらぬものでございましょう」
「……どうして、わかるんですか」
「だってコレはあなたの時代の武器なのでしょう? 私の世よりも遥かに進んだ人を効率よく殺めるモノですよね?」
「…………」
「しかし、800年の時が流れても世はいくさに満ちあふれている。世は移り変わっても人の本質は変わらぬものでございましょう」
「……どうして、わかるんですか」
「だってコレはあなたの時代の武器なのでしょう? 私の世よりも遥かに進んだ人を効率よく殺めるモノですよね?」
与一の言葉は真理を突いていた。
恭子は平和な時代の日本に住んでいるものの、世界には紛争はいまだ続いている。
そしてこの場もいずれ人同士が殺し合う戦場になるのだから。
恭子は平和な時代の日本に住んでいるものの、世界には紛争はいまだ続いている。
そしてこの場もいずれ人同士が殺し合う戦場になるのだから。
「ひとつ、聞いてもええですか?」
「はいどうぞ」
「与一さんは……人を殺したことあるんですか?」
「くっくっく……は、ははは、何をあたりまえのことをおっしゃる。私はもののふですよ。たくさん、たくさん殺しました。そういう世なのだから当然でございましょう。不本意ながら根切りも……ね」
「ネ、キリ……?」
「一族郎党皆殺し、老若男女お構いなく殲滅ですよ」
「はいどうぞ」
「与一さんは……人を殺したことあるんですか?」
「くっくっく……は、ははは、何をあたりまえのことをおっしゃる。私はもののふですよ。たくさん、たくさん殺しました。そういう世なのだから当然でございましょう。不本意ながら根切りも……ね」
「ネ、キリ……?」
「一族郎党皆殺し、老若男女お構いなく殲滅ですよ」
皆殺し。与一の言葉が恭子重くのし掛かる。
同じ言葉が通じて、同じ日本人だというに与一がまったくの別世界の人間のよう。
800年という歳月はこうも人の意識を変えてしまうのかと思う恭子であった。
同じ言葉が通じて、同じ日本人だというに与一がまったくの別世界の人間のよう。
800年という歳月はこうも人の意識を変えてしまうのかと思う恭子であった。
【G-4/森/一日目-朝】
【末原恭子@咲-saki-】
[参戦時期]:全国大会二回戦終了後~準決勝開始前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品*1、Vやねん!タイガース 2008激闘セ・リーグ優勝目前号@現実
[スタンス]:対主催
[思考]
基本:死にたくない。でも殺し合いには乗りたくない
1:与一さんはどうするつもりなんやろか……
[参戦時期]:全国大会二回戦終了後~準決勝開始前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品*1、Vやねん!タイガース 2008激闘セ・リーグ優勝目前号@現実
[スタンス]:対主催
[思考]
基本:死にたくない。でも殺し合いには乗りたくない
1:与一さんはどうするつもりなんやろか……
【那須与一@ドリフターズ】
[参戦時期]:エルフ占領地解放後~黒王軍襲来前
[状態]:健康
[装備]:レミントンM700(5/6 予備弾50発)@現実
[道具]:基本支給品*1
[スタンス]:対主催?
[思考]
基本:???
1:未来の世の話をもっと聞きたい
[参戦時期]:エルフ占領地解放後~黒王軍襲来前
[状態]:健康
[装備]:レミントンM700(5/6 予備弾50発)@現実
[道具]:基本支給品*1
[スタンス]:対主催?
[思考]
基本:???
1:未来の世の話をもっと聞きたい
黒い白馬に跨った詐欺師が少女と共に前へ前へとバックした | 投下順 | Boy meets Devil |
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GAME START | 那須与一 |