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Girls Walk

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ssmrowa

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長い道を真逆から、二人の少女が歩んでいた。




一人の少女は光の当たる世界にいた。
その手は、弦を弾くために使われていた。



一人の少女は闇に隠れた世界にいた。
その手は、銃を撃つために使われていた。




――だから、その二つの手は、決して交わらぬものだった。












◆ ◆ ◆










――その黒き瞳の中には、平穏が湛えられている。






こつ、こつ、こつ、と。

古錆びた木の床を鳴らすそれは少女の音だ。
弱く、軽く、儚く、一定のリズムで刻まれる靴の響き。
少女にのみ、奏でることの許された音だ。


ゆら、ゆら、ゆら、と。

宙に揺れる左右二房の黒線は少女の髪だ。
長く、柔く、靡く、自由に流される二本の尾。
少女にのみ、振るうことの許された黒色の髪だ。


しゃ、しゃ、しゃ、と。

規則正しく交差する残像は少女の袖だ。
厚く、重く、硬く、上下とも深い黒で揃えられた着衣の色。
少女にのみ、袖を通すことの許された制服だった。



ぴたり、と。
長い廊下の中間にて、歩みを止める。
それは、少女だった。

すぅ、と。
前方に在る闇を見つめ、細められる目はどこか猫の仕草を思わせる。
背中のギターを担ぎ直しながら考え込んで、頬をかく。
うーんと唸って、目を閉じて、深く息を吸って、ようやっと意を決する。
そうして、言葉にするために、胸の内に宿るものを吐き出す、少女の名を。




「――やってやるです!」




その少女の名を、中野梓といった。






◆ ◇ ◆






その少女の名を、トリエラといった。



「――じゃあそれで、何をするつもり?」



じとり、と。
前方に在る光を見据え、細められた目はサファイアのように蒼かった。
背中のショットガンを担ぎ直しつつ思索して、肩をすくめ。
はぁーと脱力し、目を閉じて、深く息を吐き出して、現状に呆れる。
そうして、言葉にして、帰ってきた反応にまた呆れていた、少女の名だ。

やれやれ、と。
長い廊下の中間で、柱の影から姿を現す。
それは、少女だった。



ばさ、ばさ、ばさ、と。

廊下の窓から吹き込む風に浮き上がるそれは少女の裾だ。
厚く、硬く、黒く、かっちりとした分厚いコート。
少女にこそ与えられた、纏うことの許された立派な布地だ。



ゆら、ゆら、ゆら、と。

宙に揺れる左右二房の光沢は少女の髪だ。
長く、柔く、尊く、気高く結ばれた二本の軌跡。
少女にこそ与えられた、伸ばすことの許された金色の髪だ。



きり、きり、きり、と。

磨かれた鉄を鳴らすそれは少女の音だ。
強く、重く、暗く、一定のリズムで鳴る銃の響き。
少女にこそ与えられた、奏でることの許された音だった。






――その蒼き瞳の中には、苛烈が溶け込んでいた。






◇ ◇ ◇






それは決して、交わらぬ筈の道だった。


長い廊下の中央で、向かい合った少女はふたり。
どちらもよく似た輪郭を空間に縁取っていた。
そう変わらぬ背丈、変わらぬ性、変わらぬ幼さ、変わらぬその髪型までも。

けれど同時に、まったく違った色彩で身を染めていた。
かたや黒の、かたや金の髪の色。
かたや薄い、かたや深い肌の色。
かたや淡い、かたや鋭い瞳の色。
そして異なる、内面の色相。

彼女らはとてもよく似通っていて、同時に酷く正反対でもあった。
二人の少女はただ少女であるという点のみにおいて共通し、それ以外の一切を共有していなかった。

それぞれが抱える大きな荷物、一人はギター、一人はショットガン。
互いに横たわる空間は三歩ほどの、すぐにでも詰められる僅かな距離。


「なにを、やるつもり?」

漂う沈黙を破ったのは金髪の少女の言葉だった。
先程の一言を繰り返したような、問いの追撃に、黒髪の少女は口を閉じたまま動けない。
突然現れた目前の彼女に、そして彼女が握る黒くて大きなの銃を凝視して、固まっている。

「殺し合い?」

だがその問いに対しては、過剰な程に反応した。

「し、ない、しないから! そんなこと!」

どもりながら、両手をばたつかせて声をあげる。
視線は銃器にむけたままだ。
その明らかに一般人然とした、良く言えば無害、悪く言えば無防備な姿に、金髪の少女は軽く息を吐いていた。

「みたいね」

苦笑、と呼ばれるそれは誰に、あるいは何にむかって向けられたものか。

「そんな気概、感じない」

状況をしかし、皮肉るような口調で、彼女は銃を下ろした。
小さく鳴ったのは安全装置の掛かる音。
トリエラと銃器、どちらの動きによってかは不明だが、ようやく零れた安堵の息は、中野梓のはりつめた緊張が緩和された事を意味する。
黒髪の少女は胸の上に手をおき、ゆっくりと深呼吸したあとで、少しばかり恥ずかしそうに告げた。

「聞いてる人がいるなんて思わなかったから、ビックリした……」
「私も、いきなり妙な独り言をいう人に遭遇して、驚いたから。おあいこね」
「うぅ……」

先程の言動を人に聞かれていたことを実感したのか、また恥ずかしそうに梓が呻く。

「あれはその、自分に気合いを入れるために……ていうか、実際なにをするのかとかは、あんまり考えてないんだけど……」

目を伏せ、銃から視線を逸らし、俯きながらいいわけじみた言葉を探る。
行われた動作は全て、ありふれた日常に存在する物だ。
何ら特別でない普通の仕草。
それが今この場所では、どれだけ無防備で危険なものなのか、梓は知らず。
知らぬということにこそ、おそらくトリエラは嘆息する。

「そう」

つまり危機感が足りないのかと、感想のついでのように、長い銃器の何処かをかちりと鳴らした。
何気なく行われた動作。
それは目前の梓にとって、どれだけ異様な行いに見えたのか、トリエラは十分に自覚しておらず。
実感の無き故、足りぬ配慮に、中野梓は恐怖する。


「……っぅ……」


しかし、言葉は、それで尽きなかった。

「……だ、だけどっ!」


それでも、と。
梓は声をあげた。
大きな声だった。少なくとも、トリエラが僅かに眉をひそめる程に。
安寧の中にあった少女の声には、意志が篭っていた。

「私はなにか、やりたい」

たとえ、力がなくても。
怖くて、足が震えても。
なにも、思い浮かばなくても。
なにか、やりたいのだと。

「だって、心配だから。ここに、ほっとけない人がいるから」

混乱の極地で。
トリエラに告げるというよりも、一人では動けなくなりそうな自分自身に、言い聞かせるように。
中野梓は、光の当たる世界を生きてきた少女は、何かを「やってやる」と、自分にそう言っていた。

「そっか」

対して、トリエラはなにも返すことなく、受け流すように肩をすくめ。
銃を振り上げ、一歩、踏み込んだ。

「――!?」

唐突な動きにビクリと硬直した梓は、それ以上なにも続ける事ができなかった。
両手両足の先端を丸めて固め、きつく目を閉じ肩を震わせながら、襲い来るものをやり過ごせますようにと、願う。
そんな、紛れもない弱さに、トリエラはやはり苦く笑って。
二歩目を踏み出す。


「本当に、どこまでも違ってる」


恐る恐る目を開けた梓の前に、トリエラはもういない。
咄嗟に振りむけば、すぐ後ろにまだ、背中はあった。
後頭部からうなじ辺りに視線を向けようとすれば、振り向いていたトリエラと目があう。

「あと一つだけ、質問があるんだけど」

今度は自分からと言うように、立ち位置を反転させ、質問が返される。
小さく頷いた黒髪の少女に、トリエラは一瞬だけ柔らかな表情を浮かべた。

「男の人を、見なかった?」

言葉よりも雄弁に、初めて見せるその表情こそが、金髪の少女が何を探しているのかを語っていた。

「ごめん、私はまだ、あなたにしか会ってない」

だからこそ、梓は詫びたのかもしれなかった。
梓とまるで違うこの少女は今、同じものを探しているのかもしれないと、考えたのか。
いずれにせよそれで、邂逅は終りだった。

「そっか、ありがと」

すれ違い離れていくトリエラの背中が、もう何も話すことはないと告げていた。
そして梓は、留まっている。
先ほどまで自分自身が歩いてきた道を進む、少女の背を見送るように。
何も言えず、何も出来ず、ただ、自分の矮小さを噛み締めて。


「…………」


それは決して、交わる筈のない道だった。
二人の少女。ただ少女であるという他に、何ひとつ共有しない彼女たち。
輪郭だけが、少し、似ていて。
けれど色は違う、声は違う、本来は言葉すら違って。
何よりも彼女らの人生、生きてきた世界そのものが何処までも乖離していた二人の少女。
決して交わらぬ筈の道がここに、あり得ざる天変を経て、暫し交差する。
それはそれだけの、ことだった。



道はまた逸れていく。
離れていく、本来の位置に修正される。
何もなかったように、交差が過ぎ。


「――ぁ」

過ぎる、刹那の間隙に。

「――ーあのっ!!」

割り込みをかけたのは黒髪の、少女だった。


「……まって!」


ピタリと、静止する足、留まる背。
今の中野梓にできる事は、呼び止める事しかなかった。
そして彼女の声は、金髪の少女の背を、止めた。
小さな変化であり確かな動き。成し遂げるために使われたものは勇気だ。
金髪の少女には取るに足りない程の分量で済む、だが梓にとっては極大の決心だ。

「心配な人が、いるの」
「それはさっきも聞いた」
「うん。いる。いるんだ。
 その人はちょっとぬけてて、ぼーっとしてて、いっつも変な絵とか書いたりして、
 部活行っても練習しないし、のんびりしてるし、きっちりしてないし、すぐ抱きついてくるし、ホントにダメで、でも」

何を告げるのか、何を告げるべきか、いったい自分は何を、伝えたいのか。

「でも、でもやる時はやる人だし、頑張ってるところを応援したくなるし、
 それに……あの人がいるとほっとするっていうか……あったかいっていうか、私は……とにかくっ!」

自分の思考に翻弄される少女はゆっくりと、もう一度だけ深呼吸をして。

「……あの人はたぶん、一人にしちゃいけないと思うから。だから」

そして――




「一緒に、探してほしい」




とても簡単で、単純な願いを、ようやく言った。

「私もあなたの探す人を、探すの、手伝うからっ!」

振り絞る勇気で、銃を持った少女に、伝えきった。


「どう……かな?」

しばし、応えないトリエラの背中。
値踏みはしない。
中野梓の存在の価値がどれほどの物か、トリエラには一目見て判断が付いたはずなのだから。
今更なにも、迷うことのないはずだ。


二人はどうしようもなく違っている。
二人の少女。ただ少女であるという他に、何ひとつ共有しない彼女たち。
輪郭だけが、少し、似ていて。
けれど色は違う、声は違う、本来は言葉すら違っていて。
何よりも彼女らの人生、生きてきた世界そのものが何処までも乖離していた二人。
決して交わらぬ筈の道がここに、あり得ざる天変を経て、暫し交差する。
それはそれだけの、ことだった、筈だ。



「――いいよ」


なのに、二度目に振り返るトリエラは、そう答えた。


「いい、の?」

答えはイエス。
聞いた本人すら驚く結果。
梓は目を白黒させながら、一歩の距離まで戻ってくるトリエラを見ていた。

「いいよ」

それはただの、気まぐれかもしれない。
あるいは彼女自身の探し人の事を思ったが故、だったのかもしれない。
ただ、共感するところなど何一つない少女に、共感する機能を持ちえるかも知れぬ少女が歩み寄った理由に。


「手伝ってくれるなら、ね」

ここにもう一つ、二つの輪郭以外に、もう一つ。
『探し人がいる』という、この場所でのみ存在する、
新たな共通点を見出したことは、果たして含まれているのだろうか。

「ホントに?」
「ホントだって」

しつこいな、と差し出される、手。
銃を握ることに慣れきった、作り物の手だ。
おずおずと、と伸ばし返される、手。
ギターより重いものなどロクに持ったこともない、華奢な手だ。


違いすぎる二つの手が、結ばれていく。


この先、どれほど続くかなど、誰にも分からない。
奇特な状況は偶然に過ぎない。
これまでのように、これからも同じように。
直ぐに別れる、一瞬だけの僅かな、儚い交わりかもしれない。
けれど今、確かに繋がっていた。


「私、中野梓」
「トリエラよ」


初めて名乗りあう二人。
それは決して、交わらぬ筈の道だった。
だがここに、交差し、そして重なっている。
決して交わらぬ筈の二つの道が、相いれぬ筈の道が重なって。



いまだけは、一つの道になっていた。











◇ ◆ ◇










長い道を同じ方向に、二人の少女が歩もうとしていた。




一人の少女は光の当たる世界にいた。
その手は、弦を弾くために使われていた。



一人の少女は闇に隠れた世界にいた。
その手は、銃を撃つために使われていた。




――けれど、その二つの手は今、互いの手を握るために、使われていた。












【F-6/学校の廊下/一日目-朝】



【中野梓@けいおん!】
[参戦時期]:不明
[状態]:健康
[装備]:Fender Japan Mustang 69 Red
[道具]:基本支給品*2、不明支給品(1~5)
[スタンス]:未定
[思考]
基本:唯先輩を探す。
1:トリエラと同行する。


【トリエラ@GUNSLINGER GIRL】
[参戦時期]:不明
[状態]:健康
[装備]:Winchester Model 1897(5/5)予備弾薬多数
[道具]:基本支給品*2、不明支給品(1~5)
[スタンス]:未定
[思考]
基本:担当官を探す。
1:中野梓と同行する。




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