空気の澄んだ夜だった。
元より多数の人が家で過ごす夜は夜気が澄んでいるが、今日はいつもより静謐で、塵芥も少なかった。
最近多発している連続殺人事件に加え、わくわくざぶーんの崩壊が止めとなって、多くの人間が夜間の外出を控えているのだろう。
「はぁ…良い夜だ」
金髪の修道女。その名は在れども実体は存在しない英霊、
ジャック・ザ・リッパーは鼻を鳴らし、愉快気に周囲を見回す。
夜気に乗って漂う花の香りが心地良い。
彼女の生前の記憶にある十九世紀倫敦は “霧の都”などと呼ばれていたが、実態はそんなロマンチックなものでは無い。
工場から出る塵芥が空気中の水蒸気の核となる事によりできた代物でしか無かった。吸い込んだら肺の中まで黒く染まりそうな大気だった。
何しろ燃料といえば石炭の時代である。半端無い大気汚染が濃霧という形で常に空を覆い、死者を量産していた時代だ。
そんな倫敦の大気しか知らぬジャックにとっては、汚染されていないとは到底言えない冬木の大気も充分に澄んだものであるし、星が煌めく夜空も新鮮だった。
「こんな良い夜なのに、誰も出歩かないなんて勿体無い」
心からそう思う。こんなに良い夜なんだから、浮かれた人間の1人や2人いたって良い。
それが女性─────それも好みの女ならば理想的だ。
大気を構成する原子の一つ一つにまで血臭が染み込む程に、汚(バラ)し、穢(バラ)し、陵辱(バラ)し─────。
昼間に見た幻想種(ヤマトナデシコ)を解体し尽くす様を思い描いてジャックは鮫歯を剥き出して嗤った。
美人、と称しても良い顔が凶悪無惨な殺人鬼のそれに変わる。
それにしても─────とジャックは思う。
人を捜して殺すというのがこんなにもかったるいとは思わなかった。
基本的にジャックの殺しは行きずりのものだ。
女が一人で居るところを襲って解体(バラ)す。
理想は昼に見た幻想種(ヤマトナデシコ)の様な女だが、19世紀倫敦の下町で、夜間に外にいる女なんて場末の娼婦しか居やしない。
仕方ないから適当に解体していたが、誰も彼もこの時代で解体した女とは比べようが無い。
「やっぱ良いもん喰って、良い水飲んで、良い空気吸ってると違うワ」
シミジミと呟く。こんな事なら手当たり次第殺(バラ)さずに、もう少し吟味しても良かった。
即座に解体(バラ)さずに、もう少し愉しんでも良かった。
何しろ何奴も此奴も無防備に出歩いていたのが、ここ数日は警戒心も露わになり、今日に至っては一人もお目に掛かれない。
意中の相手との逢瀬が叶わぬ場合、適当な相手を見繕う事も出来そうに無かった。
かったりぃなあ。そう思いながらジャックは堤防の上を走る道へと出ようとして─────。
そして二人は邂逅した。
ジャック・ザ・リッパーは狂喜した。昼間見た幻想種(ヤマトナデシコ)にいきなり遭遇するという幸運に。
鮫の様な葉を剥き出し、歓喜に打ち震えながら言葉に向かって早足で歩み寄る。
早く解体(バラ)したい。早く陵辱(バラ)したい。
しかしこの逢瀬を僅かでも長く楽しみたいという思いがが、通常の速度で歩む事を許さず。駆ける事も許さなかった。
ジャックは緩やかに、確実に、幻想種(ヤマトナデシコ)との距離を詰めていく。
いきなり方向転換し、駆け足で河川敷に降りた時には、気付かれたかと思ったが、堤防の上から伺えば、目当ての幻想種(ヤマトナデシコ)は、川縁に立って闇色の川面をじっと見つめていた。
ジャックは口を嗤いの形に歪めて河川敷へと歩き出す。人気の無い処へ自ら足を運ぶとは好都合。
残り五歩、標的は動かない。
残り三歩、近づいて仔細に見れば、正しくジャックが生前に─────死んだ後も巡り逢う事が叶わなかった理想の乙女。
残り二歩、後ろに向き直った標的が、ジャックを見て瞳を見開く。
「サヨウナラ。お嬢さん」
残り一歩、両手に握るは二振りの巨大な鉈。突如として虚空に出現した鋸、手斧、メス、サーベル、肉切り包丁、ボウイナイフ、日本刀。
今回は愉しもう。直ぐには終わら(バラ)さない。
まず喉を潰し、腹を殴って、声を封じてからゆっくりと切り刻む。
悲鳴を聞けないが、苦痛に乱れ、恐怖に震える息遣いが、雄弁に獲物の心と身体の状態を告げる事だろう。
無数の刃を従えたジャックの全身が、芒と立ち尽くす幻想種(ヤマトナデシコ)を汚(バラ)し、穢(バラ)し、陵辱(バラ)し、解体(バラ)し尽くすべく動き出そうとしたその時。
獲物が、ジャックを見据えて微笑んだ。
驚愕に固まったジャックの身体が、緩やかに旋回しながら宙へと浮いた。
柳生宗矩が主君徳川家光に、能見物の際に、こう言われた事があるそうな。
「観世太夫の所作を見て、斬れると思ったなら申せ」
宗矩あ太夫の動きを仔細に観察し、太夫が隅を取ったときに笑みを浮かべた。
のちに家光に下問された時。
「流石に名人、隙が全くありませんでしたが、隅を取った時、心が緩んで隙が生じました。あの時ならば斬れるでしょう」
と、答えたという。
桂言葉はこの逸話を知らなかったが、武や闘争に纏わる逸話を全く持たぬ
サロメが、少なくとも言葉の眼には隙を捉えられない動きの主だと把握していた。
流石に行住座臥の全てに於いてとはいかないが、舞う
サロメの動きに隙を見出す事は言葉には出来なかった。
だが、まあ、それでも
サロメに正面戦闘をさせるのは、今のままでは無理だろう。
確かに
サロメの舞う姿に隙は無い、そしてその舞技は、世の常の武技と異なる動きであり、初見で見切ることは難しい。
更には熟達した舞い手である
サロメの攻撃は、緩急を自在に変えながら途切れることなく連綿と続く。一度
サロメに主導権を握られれば、取り返すのは難しいだろう。
だが、それだけだ。
そもそも
サロメは独り(ソロ)の舞い手。それ故に守勢に脆い。
一人でも磨ける攻撃の技術と異なり、元来防御の技術とは、攻撃を繰り出す相手が居て初めて習得が可能となるもの。
一人で舞い続けた
サロメは当然の様に防御に応用出来る技術を持ち合わせていない。
間合いを計る、機を掴む、動きを読む、相手を自分の思惑に沿って動かす。
これらの技術もまた、
サロメは有していない。
攻めに回れば強いが、一旦主導権を渡して仕まえばどうにもならない。しかも攻撃力が低い。
一応、言葉が居合を学んで知り得た戦いの機微について教えたが、やはり心許ない。
練習する余裕などロクに無く、練習相手も居ないのだから、実戦で習得するより他にない。
だが、そんな手頃な相手は居ない─────とは思わないが、遭遇できるかはまた別だ。
深夜の街を徘徊して居た影と一度戦ってはいるが、やはり経験は不足している。
聖杯への道程は長く、そして困難に満ちていた。
だが─────それがどうした?胸に抱いた想いの前では、困難など何の意味を為さない。
二度と無いと思っていた誠との語らい、生きた誠と過ごす日々がそこにあるのだ。
存在すらしなかった理想郷への道が、突如目の前に現れたのだ。高々道程が険しいぐらいでは、足を止める理由にはならない。
聖杯への道が如何に嶮しかろうとも歩み切る。道が閉ざされれば切り開くだけの事。
【マスター……まだ……気配は掴めません………】
【そうですか】
サーヴァントの念話に、簡潔に答える言葉。
実際今やっている事は人捜しである。その目的は、至極簡単もので、言って仕舞えば経験値稼ぎだった。
あの謎の影か、若しくは言葉がこの地に居るだろうと推測している、”ある“サーヴァントを二人は捜しているのだった。
尤も、出会う可能性は低いだろうが、恐らく探す相手のクラスはアサシン。気配を断つことに長けたサーヴァントを探す技能は、
サロメには備わっていない。
それでも言葉に諦めはない。
─────出逢えれば良いけど。
そう思いながら堤防の上の道を言葉は歩いていく。
言葉が通り過ぎた後、言葉が歩いている堤防上の道に合流している路地から出て来た修道服の女は、真っ直ぐに言葉目掛けて歩き出してきた。
【サーヴァントでしょうか……?魔力を全く感じませんが………】
【河川敷に降りましょう】
この時間帯、新聞配達もジョギングに励む者も、活動し出すのはまだもう少し先になる。
それでも車が時折走る。人目につかない様にする為には河川敷に降りた方が都合が良かった。
【降りてきましたね………マスター】
川面を見つめて─────修道服の女に背を向けて立つ言葉に変わって、女を監視していた
サロメが告げる。
いつもの陰鬱な口調ではあるが、その声にははっきりと嫌悪感が感じられた。
二人の間の距離は、歩数にして五
言葉は闇を湛えた川面を見つめている。
二人の間の距離は、歩数にして三歩。
美女と呼んで良い顔立ちの女は、醜悪な笑みを浮かべて緩慢な動きで近づいて来る。
二人の間は、距離にして二歩。
振り向いた言葉は女の顔をマジマジと観察した。広がった鼻の穴、荒い息、開いた瞳孔、唇の端から僅かに溢れた涎。
サロメが嫌悪感を表すのも無理はない。
端整だった顔立ちの面影など、微塵も感じさせない醜悪な顔。肉欲に狂った野獣の顔だった。
その顔は言葉に否応無く文化祭の日を─────言葉の意思も想いも無視して力尽くで事に及んで、恋人同士などと言い放った男を思い出させた。
「サヨウナラ。お嬢さん」
獰悪な笑みを浮かべて女が告げる。大勢の人間が海水浴を楽しむ海水浴場に発見した人喰い鮫が、笑みを浮かべるとすればこんな顔になるだろう。
その周囲に出現する無数の物体。鋭利な切っ先を言葉に向けた刃の群れ。両手には女の細腕には到底持てぬ巨大な鉈。
【サーヴァント………ああ…やはり……あの御方が…導いて下さいました】
脳裏に響く
サロメの声。その声は歓喜に満ちて─────。
修道服の女の欲情に粘ついた声に、限り無い嫌悪を抱きながら言葉は返す。
無力な獲物に真名を言い当てられ、驚愕に固まったジャックを、実体化した
サロメが両腕のベールを巻きつけ、宙へと放り投げた。
「ぬあああああああ!!!」
緩やかに右方向に旋回しながら堤防の方向へとジャックの身体は飛翔し、後方宙返りをした、受身を取ろうとするまでもなく、ジャックの体勢は整い、
幻想種(ヤマトナデシコ)及びその側に立つ七つの薄いヴェールで体を覆っただけの少女と向かい合う形で足から着地した。
─────サーヴァント⁉マスターかよこの女!!!
無力な獲物が自身を殺し得る牙を隠し持っていた事を知り、ジャックは即座に逃走を決断する。
サーヴァントとしては有り得ない選択だが、元よりジャックは只々好みの女性を汚(バラ)し、穢(バラ)し、陵辱(バラ)したいだけの殺人鬼。
闘って覇を競う等という精神など微塵も持ち合わせておらず、会敵して一合も交えず即座に逃げる事を恥とする様な価値観もまた持ち合わせていない。
「〰〰〰〰〰〰〰⁉」
駆け出そうとしたジャック驚いた。脚に生じた異常、膝から下が異様に重く痺れている。その癖痛みは全く無い。
あの緩やかで苛烈さも激しさもない投げの成果か。あまりにも奇怪な攻撃を使う少女だった。
少女の右脚が弧を描き、ジャックの頸部目掛けて脚を覆うヴェールを振るう。これをジャックは地に膝を着く事で回避。
そこへ最初から放たれていたかのように、左脚のヴェールが伸び、ジャックに顔面を強かに打ち、状態を仰け反らせた。
サロメの艶舞は止まらない。左の後ろ回し蹴りを放った勢いを殺さず、右腕のヴェールを上段から振り下ろす。
断頭の刃の如く落下する薄布を切断せんと、ジャックの両腕が茫と霞む。それと同時に
サロメの右足のヴェールがジャックの下方から伸び上がり、後頭部に直撃。
後頭部を打って短く息を吐いたジャックだが、右に転がる事で顔を狙ったヴェールを回避。更に大きく後ろに後方宙返りして間合いを取る。
が、ジャックの動きを見透かしていたかの様に、
サロメがジャックの後ろに跳んだ距離だけ前に出ていた為には間合いは変わらず、
着地に入ったジャックの足めがけて、
サロメが左腕のヴェールを薙ぎつけてきた。
「チィィッ!」
咄嗟に宝具『真紅より来る遍く刃』を発動。日本刀を出現させて握り、薄布を切断しようとするも、振るった刃に薄布が巻きつきジャックの身体を引っ張った。
まるで熟練の舞手二人が舞っているかの様な動きだった。
「うおおおおおおお!?」
緩やかな曲線を描いてジャックは地へと叩きつけられる─────直前に刀から手を離し、激突させられる事を回避。
なんとか着地を決めると、出現させた複数のメスを投げつけながら後退する。
当たった気配が全く無いがどうでも良い。追撃を妨げられればそれで良い。
10mも間合いを離して、改めて相手の方を見る。“狩りに出たつもりが狩られる側だった”なんてシャレにもならない。
ここは逃げの一手。あの幻想種(ヤマトナデシコ)は大いに惜しいが、仕切り直してまた機会を伺おう。
ジャックはクラスこそセイバーだが、そのスキルも宝具も思考も在り方もアサシンのそれ。『正々堂々たる一騎打ち』などと聞けば、鼻で笑うのがこの女の性分だ。
逃げる隙を伺う為に、敵手の方を見たジャックは、そのままの形で硬直した。
「は─────。」
惚けた声。現にジャックは惚けていた。只人でしかない言葉でも、今のジャックに一撃を見舞う事は容易くできるだろう。
「は─────は、はは、ハハハハ、あははははははハハハハハはハハハハハ!!!!」
狂笑。心底よりの歓喜と欲情が篭った笑声。あまりにも悍ましい笑い声。
ジャックは狂喜していた。ジャックは驚喜していた。ジャックは狂気の只中にあった。
ジャックの投げたナイフ悉くを見に纏ったヴェールで撃ち落とし、ジャックと対峙するサーヴァントのその顔その身体。
僅かに吹く風に靡く、最上級の黒絹を織り合わせても猶及ばぬ艶やかな黒髪。夜の闇を溶かし込んだかの様な憂いを帯びた黒瞳。
流麗という言葉すら霞む美しい線を描く鼻梁、口づけをすればそれだけで天にも昇ると思える蠱惑に満ちた朱唇。
指で僅かに触れただけでも吸い付いて離れぬだろう柔らかな肌は“処女雪が黒ずんで見えるほどに白く”。
触れれば折れそうな程繊細で儚げな線(ライン)の身体にも関わらず、女性である事を強調してやまない胸の盛り上がりは、煩悩を捨て去った聖人ですらもが、我を忘れて揉みしだこうとするのでは無いだろうか。
一目で貴人と判る気品と、万人の脳髄を蕩けさせる淫靡さとを併せ持つ、清楚可憐な妖娼。
─────嗚呼!殺したい!!
脳が欲情で煮え滾る。
─────裂いて!刻んで!突いて!斬って!抉って!断って!穿って!
─────惨く、酷く、悍しく、苛んで!辱めて!殺したい!
もしもジャックが男だったなら、限界以上にいきり勃たせた股間から、派手に射精していた事だろう。
それ程の情欲。それ程の歓喜。このサーヴァントを解体(バラ)せば、きっと感じたことのない絶頂が味わえる!!
何しろ此方に向けている視線を感じるだけ絶頂(イキ)そうなのだ。触れ(斬っ)て、挿れ(刺し)て、抉り廻して、血と臓物をぶちまけた時の悦楽はどれだけのものか!!
「ああ神様!!神様!!私は今!あんたの存在を信じることにしたよ!!!!」
歓喜極まるこの刹那。最早逃亡など思考のどこにも存在しない。
只々、眼前の至高の獲物を切り刻む。
見たものすべてが目を背ける凶相を浮かべて、ジャックは
サロメ目掛けて走り出した。
意味を為さぬ喚き声とともにジャックは無数の刃を繰り出す。
鋸で薙ぎ、肉切り包丁で斬り、メスで突き、手斧で打ち、ボウイナイフで穿ち、鉈で断ち割る。
眩惑も陽動も無い、只々真っ直ぐに突き進み真っ直ぐに刃を振るう。その様は正しく血に狂った獣。
聖杯戦争の華とも言うべき三騎士。その中でもセイバークラスで現界しようが、
ジャック・ザ・リッパーの本質は只の殺人鬼。
サロメの宝具”幻想恋愛組曲(ファンタズマゴリー・ロマンシア)“の効果を跳ね除けること も、宝具によりその効力を増した魅了と被虐体質のスキルの効果に抵抗する事も出来はしない。
殺人鬼の本質に基づいて、只ひたすらに凶刃を振るい、振るい、振るいまくる。
元来ジャックの持つ殺意の炎を、欲情が油の如くに、否、液体爆薬の如く燃え上がらせ、今のジャックの精神と理性はBランク相当の狂化スキルを発揮した状態に等しい。
只闇雲に突撃しては、
サロメの繰り出すヴェール打たれ、投げられ、締められ、極められ、飛ばされ、転がされ、引き摺られ、振り回される。
少し離れた場所で見守る言葉には、二人の動きは全く見えないが、もし見えれば熟練の闘牛士が、猛り狂った牛を翻弄している様にも見えただろう。
だが、言葉に両者の動きを見ることができたならば、奇妙なことに気づいて眉を顰めただろう。
“
ジャック・ザ・リッパーの動きが、明らかに速くなっている”のだった。
ジャックが狂化状態に有るのは思考と精神のみで、ステータスには何ら影響していないにも関わらず、ジャックの動きは最初よりも速い。
これは至極単純な訳で、向上したのはジャックの“身体能力”では無く“身体運用”。
要するに身体の使い方が加速度的に向上しているのだった。
サロメを切り刻みたい。際限無く増大する殺意はジャックの理性を消し飛ばしたが、元より殺人鬼という概念であると言っても良いのが
ジャック・ザ・リッパー。
殺意が高まれば高まる程に、その本質─────人を殺すだけのモノへと純化していく。
動きから複雑さが無くなり単純に。
描く奇跡は曲線を一切帯びず直線と化し。
結果、一合ごとにその動きが加速する。
今のジャックは、無駄というものを一切廃し“殺す”という目的のみに、身体と精神と思考とを動員する、戦闘者としての理想の境地に到達しつつあった。
ヴェールの下で
サロメは笑みを浮かべていた。
言葉の発案に端を発するこの遭遇戦。
サロメは最初から目当ての殺人鬼に遭遇することも、殺人鬼が逃げずに戦いになることも、己が経験を積めることも疑わなかった。
殺人鬼に遭遇しなければ、徒労に終わる行為だが、
サロメには必ず遭遇すると確信していた。
己と永劫共に在る愛おしい男の齎らす幸運が、言葉と己の求める結果へと必ず導くと
サロメは信仰して疑わず。そして信仰は現実に形となって報われた。
愛おしい愛おしいヨカナーンの加護か齎したこの結果。ならば己も全霊を以って応えるのみ。全てを捧げた男から格好の練習相手を用意して貰ったのだ。只実戦の経験を積みました。では意味がない。より高みをこの一戦で目指さなければならなかった。
─────あの御方が……私の舞に…更なる技巧と変化を求めている………。
そう思うだけで、心は昂り、思考は研ぎ澄まされ、四肢が限界を忘れて躍動し、新たな動き、新たな形を心と思考と身体が求めて動き出す。
弱年にして、
サロメを比類無き舞手とした、類い稀な舞手としての資質と、修練の成果を余さず貪り尽くした集中力が遺憾無く発揮される。
内腿を薙いでくる鋸にヴェールを巻きつけ、引っ張って狙いと態を狂わせ。
頚動脈を斬りつけてくる肉切り包丁に対し、一歩を踏み込んで躱し、手首を掴んでジャックの勢いを利用して投げ飛ばし。
肝臓へのメスの突きに対し、身体を半身にして回避しながらカウンターの掌打を胸に撃ち込み。
脳天を打ってくる手斧を回転しながら後ろに下がって回避、回転の勢いを乗せたヴェールで横面を殴り飛ばし。
心臓を穿ちに来たボウイナイフを持った手に両腕のヴェールを巻きつけ、手首と肘の関節を極めて投げる。
頭蓋を断ち割る鉈の一撃を鉈を持った手首をサマーソルトキックで蹴り抜く。
一撃ごとに速さを鋭さを増し、狙いも精確になってくる
ジャック・ザ・リッパーの凶襲を躱し、捌き、凌ぎ、反撃する。
徐々に徐々に、加速していくジャックの動きに、
サロメの舞は一層冴え渡り、変幻の妙を深めて対抗する。
しかし、である。
サロメの舞は全て曲線からなるもの。その動きは武技としては変則的。言って仕舞えば無駄が多い。
二人のステータス上の敏捷は+分を別とすれば互角。にも関わらず無駄な動きをする
サロメが、死の最短直線を描き続けるジャックを翻弄できるのは何故なのか。
サロメはジャックを物理的な速度で上回っている訳では無い。
ジャックの目線。呼吸。踏み込み。腕を動かす角度と方向。これらを始めとする雑多な情報を読み取りジャックの動きを予測。
予測を元に、ジャックを上回るリーチの差を活かして迎撃若しくは逆撃を見舞う。
例えジャックの速度に及ばずとも、予め解っている動きに対して此方も動くのであれば少なくとも結果は五分。
狂乱の極みに在るジャックにはフェイントを用いるという思考は無く。一合ごとに
サロメがジャックとの距離を離している事にも気付けない。詰まりは‘’
サロメの様な戦闘の素人でも何とか手筋を読むことが出来る”のだ
動く方向自体を完全に
サロメに把握されているのでは、いかに身体運用の効率を向上させようとも、思考と時間に於いて常に
サロメが上回る以上、ジャックの刃は
サロメには届かない。
─────良かった。
言葉は安堵を覚える。二人の動きは全く見えないが、
サロメがジャックを圧倒している事は理解できる。
技量はそこそこ有るが、実戦の経験が皆無の
サロメに経験を積ませる為に、態々殺人鬼を探した甲斐があったというものだ。
そう─────“捜していた”。言葉はこの聖杯戦争に、
ジャック・ザ・リッパーが居ると確信して、夜の街を歩いていたのだった。
根拠は、己がサーヴァントの
サロメである。只々己が恋心に殉じただけの少々。一人で万軍を破った訳でもなければ、一国を容易く滅ぼす龍を屠った訳でもない。
その行為自体は有名でも、闘争とは全く無縁な少女。そんな少女が英霊として召喚されたのだ。
この事から言葉は、“高名でさえあれば、どんな人間でもサーヴァントとして呼ばれるのではないか”という推論を出し、
最近噂の殺人鬼の正体を、誰かが召喚した
ジャック・ザ・リッパーと推測。
釣り出すべく夜の街へと出たのだった。
只の殺人鬼であるならば、
サロメに実戦を経験させるのには丁度良い手合いだった。
只の殺人鬼ならば戦闘技術はおろか、殺しの際に狙いを隠す技巧も意図も無いだろうから。つまりは‘’意図を読み易い”
西園寺世界を殺した時がそうだった。ポケットの中に包丁を仕込んでいたが、あんな風に手を入れて確認していては、「何か仕込んでいる」と言っている様なもの。
包丁を取り出した右手を抑えられた時に驚いた表情を浮かべていたが、言葉からすれば当然の結果でしか無かった。
─────後はこのまま撃ち倒す。そして聖杯へと歩を進める。
ジャック・ザ・リッパーが修道女の格好をしている事から、教会にマスターが居るのでは?等と言葉が考えたその時─────。
ユダは夜の街を一人彷徨っていた。昨夜の一戦で、マスターであるカナエが悪魔(デーモン)に魅了された挙句、総身に刺青を施したサーヴァントに蹴り飛ばされて重傷を負った為である。
複数の臓器が潰れるという、人間ならば棺桶に入る事も覚悟しなければならない傷も、喰種であるカナエの能力からすれば、時間経過で治る傷でしか無い。
しかし、元々が栄養失調気味だった時に、これだけの傷を負ったのである。早急に、栄養を─────つまりは人間を─────摂らなければならなかった。
その為にユダは一人夜の街を霊体化して探索していた。
昨日見たマスターか、新たなるマスターか、何方でも良い。巷で噂になっている殺人鬼でも良い。
邂逅すればサーヴァントを屠り、マスターを捕らえてカナエに与える。
だが、出来得る事ならば、昨日見た青年とは逢いたくはなかった。従えるサーヴァント(悪魔)は必ず滅ぼすと決めているが、善性であると一目で判るあの青年は殺す事に気が進まない。
新たなマスター、それもその性が悪である。その様な手合いに出会う事を祈りつつ、ユダは当て所なく彷徨い、そして─────獣の咆哮の如き狂声が聞こえたのだった。
「あの女は─────」
堤防の上から公園を見下ろしたユダは、砕けるのではないかと思う程に歯を噛みしめる。
視線の先にあるのは、悪夢の産物とでもいう様な凶相を浮かべて、無数の刃を繰り出す修道服の女と、七つのヴェールを纏い、優美華麗に舞う少女。
修道服の女は知らぬ。だが、もう一人は知っている。直接会った事はないが、その真名も宝具も知っている
知っていて当然だ。同じ時代、同じ土地に生きた者同士。
色欲を司る魔王
アスモデウスと対立しするとされ、‘’あの男”に洗礼を授けた洗礼者─────ヨハネ・パプテスマの首を欲した妖女。
色に狂っ洗礼者の命を奪い‘’’あの男”に涙を流させた狂女。
愚行の報いを受けて惨めに死んだ女が、今更何を血迷って迷い出てきたのか。
あの修道服のサーヴァントの狂態も、あの愚女に惑わされてのものに違いない。
瞬時に怒髪天を衝いたユダは、路面どころか堤防の一部までもが砕けるほどの勢いで跳躍。
空中で
サロメ目掛けて拳を振り上げた。
伝説の殺人鬼と妖舞の舞手の戦いは、未だ勝者が確定していなかった。
悉くを防がれ躱されているとはいえ、
ジャック・ザ・リッパーの一撃は全てが必殺。決まればそこで
サロメは致命の傷を負う。
対して
サロメはこの戦いを即座に終わらせる意思がない。
ヨカナーンが用意した練習相手をそう直ぐに使い潰すなど許されない。
その為、もとより低い攻撃力は一撃一撃が更に軽くなり、致命には至らない。
そして、徒らに長引かせれば、狂乱により痛みと疲労を感じないジャックに利がある。
現状では
サロメが優勢に見えるが、その実ジャックの一撃で勝敗は決する。
そんな戦いが今暫く続くと思えたが─────。
「エエエエェェェェェェイィィイメエエエェェェェェンンン!!!!」
咆哮─────。丁度堤防の方を向いていた
サロメは、咄嗟に言葉の側へと跳躍、ヴェールを翻し、高速で旋回し出した。
一方の狂乱状態のジャックは気づく事なく
サロメのいた位置へ吶喊。
直後、
サロメの立っていた位置へと派手に着弾した‘’ナニカ”により生じた爆風を至近で浴びて、遥かく後方へと吹き飛ぶ羽目となった。
飛来した瓦礫を
サロメのヴェールが悉く撃ち落とし、引っくり返ったジャックを掠めて、コンクリ片が飛び去る。
直径十数mに及ぶクレーターの中心部から、肘まで埋まった右腕を引き抜いた男が立ち上がる。
「貴様……何を血迷って迷い出た」
凄まじい殺意が
サロメに対し放射される。常人ならば、否、猛り狂う飢虎でさえもが怯えて平伏しそうな程の殺意。
だが、
サロメは怯む様子もない。
サロメの心も魂もヨカナーンの事以外は意に介さない。他者から向けられる殺意など、意識する事など全くと言って良い程にない。
「私…貴方と……逢ったことが………ありましたか…?」
「貴様の様な毒婦と縁を持つ様な生を送った覚えなど無い」
目を瞬かせて尋ねる
サロメにユダが極大の蔑みと殺意を乗せた声で応じる。
サロメの声音が淡々としたものだけに、ユダの声に声の篭った感情はより際立った。
「死ね」
簡潔に殺意を言葉にすると、ユダは
サロメ目掛けて地を蹴った。
体幹を揺らさず、頭部を上下動もさせず、脚を殆ど動かさず、高速で地を滑る様に
サロメとの間合いを詰める歩法は、予備動作と呼べるものが無い為に、非常に見切り難い。
だが、伝説の舞手である
サロメには、この歩法は既知のもの。舞踏においてもユダの用いた技術は存在している。
驚きに目を見張ったのも束の間、
サロメも同様の歩法で距離を離しつつ、前に出しているユダの右脚目掛けて左腕のヴェールを剥ぎつける。
これに対してユダは、左脚に体重を預けた上で、左脚の力を抜く。この動きにより自然と左膝は屈折し、右脚は浮く。
そして、右脚を浮かしたまま、体が沈んだ反動を利して左足で地を蹴り、一気に間合いを‘’右脚を全く動かさずに、右脚で
サロメを拳打で捉え得る間合いへと踏み込んだ”。
薄いヴェールの向こうで、驚愕に
サロメが眼を見開いたのがユダには見えた。
「Kyrie eleison!」
男を誑かす為にある脂の塊を四散させ、心臓を微に砕くつもりで放った拳の軌道を変え、横合いから飛んで来たクレイミアを撃砕する。
次いで、クレイミアの死角に隠れて接近、ユダ目掛けて左右の端を振るおうとしていたジャックを蹴り飛ばす。
「うぼおぉぉ!?」
咄嗟に鉈を交差させて受け止めるも、蹴撃の凄まじい勢いに鉈が砕け、衝撃でまたもジャックの身体は後方に飛んで行った。
ユダに飛ばされて、少しばかり勝機に返り、乱入したユダを、
サロメを解体する障害物と判断して、排除しに行った結果がこれであった。
「今の…動き……貴方は…私を見ても…版とも思わないのですか……」
「戯言を、俺の胸中を占めるのは、‘’あの御方”への献身のみ。貴様などに向ける心の動きなど存在しない」
「まあ……………」
感極まった
サロメの声。それを一切意に介さず、即座に放たれる前蹴り。洗礼詠唱の篭った蹴撃は、掠っただけでも
サロメには致命の傷となるだろう。
その爪先に
サロメは右掌を当てがい、時計回りに回転。回転運動に巻き込まれたユダの身体を、回転の勢いとユダの蹴撃の威力を利して放り投げる。
追撃にサマーソルトキックの動きから放たれた右脚のヴェールを、ユダは宙で身を捻り、左腕で掴み取った。
そのまま左腕の力だけで
サロメを宙へと引っ張り上げ、腹部目掛けで右拳を撃ち込む。
サロメは首を振って、胴を覆うヴェールで右手首を薙ぎにいくことで、ユダに拳を止めさせ、右腕のヴェールでユダの顔面を、左腕のヴェールで腕を打って拘束を解く。
宙で分かれた二人は同時に着地。地に足が着くや距離を詰めて洗礼詠唱の籠められた拳打を見舞ってくるユダに対し、
サロメは右に半歩移動しながらで逆時計回りに回転する。
サロメが右半身になった所で、ユダが
サロメが先刻まで立っていた位置を通過。無防備なユダの背中に、回転運動の勢いを乗せた
サロメの右掌が直撃、ユダは緩やかな弧を描いて10mも飛翔し、縦に回転して膝立ちの形で着地した。
「貴様…………!!」
憤怒そのものの声。
サロメの攻撃を受けてみて理解できた。緩慢かつ優雅そのものの動きからは想像もつかない奇怪な威力。
痛みはないが衝撃が全身に伝わり、骨という骨、筋肉という筋肉がバラバラに外れそうだった。
サロメの筋力が低い為に致命傷とはならないが、それでも尚、この結果。
だが、それがどうした?当たらなければ意味など無い。
ユダが完全に全身の力を脱力した立ち姿を取る。その体のどこを見ても、指先に至るまで力みが無い。
現代スポーツでも重要な脱力を、この男は完璧に行なっていた。
そして、前進。只の一歩、初速の段階で最高速に達したその歩法は、武に秀でたサーヴァントといえども棒立ちのまま間合いを奪われる事になるだろう。
それを
サロメは、‘’予め知っていたかの様に”絶妙なタイミングで両腕と胴のヴェールを翻す。
胴のヴェールに視界を遮られ、たたらを踏んだユダの頭部を、上下から挟み打つようにヴェールが襲う。
視界を遮っておいて、何らかの攻撃をしてくると予測していたユダは、この攻撃に反応。
右半身になって攻撃を回避すると、再度地を蹴り、突進の勢いと体重を乗せた右拳を
サロメの顔面に見舞おうとするが、
最初からユダがそう動くことを知っていたかの様に、ユダの顔面に右脚のヴェールが直撃。仰け反ったユダの全身に、
サロメが両手足のヴェールを用いて乱撃を見舞う。
サロメが人体の急所について未知である為に、有効な攻撃を今ひとつ行えていないとはいえ、受け続ければユダの耐久力を以ってしても無視できないダメージを負うだろう。
だが、ユダは粗無傷で耐えていた。空手の三戦(サンチン)立ちに似た立ち方で、唯
サロメの攻撃を、防ぐことなく受けているだけだったが、その立ち方が最上の防御方法だと、
サロメは知っていた。
「……ああ…やはり…あの御方の………」
サロメの歓喜に満ちた声。己の乱打を耐えるユダの立ち方。あの立ち方は知っている。牢の中でヨカナーンが行なっていた演武を見た事が有るのだから。
そう、獄に繋がれていたヨカナーンを毎日見ていた。その挙動の全て、息遣いに至るまで、今もこの脳裏に焼き付いている。
「成程…妙に俺の先を行くと思えば、洗礼者の技を盗み見たのか……」
ならば分かる。‘’あの御方”の誕生を人々に告げた先駆者にして、‘’あの御方”に洗礼を授けた洗礼者。彼こそが‘’あの御方”にヤコブの手足を授けた者なのだから。
いわば
サロメは、ユダの師の師に当たる人物の技を知っている事になる。ユダの動きを読めるのは当然だった。
謎は一つ解けたが、もう一つの謎がある。
─────何故、俺の宝具が効果を発揮しない!?
洗礼詠唱が通じない事は予測していた。
サロメがおそらく持っているであろうヨカナーンの首。
イコン画に於いて聖母マリアと同列に描かれる洗礼者の首を所有する
サロメに、洗礼詠唱など通じる筈もない。
ユダが
サロメに洗礼詠唱を用いたのは、いわば念押し。
サロメが洗礼者の首を持っているかを確認する為だった。
だが、宝具が通じない理由にはならない。この宝具は其れこそ、三位一体を成す父と子と聖霊の三者で見ない限りは効果を発揮する。
通じない理由など存在しない─────筈だった。
「私の‘’呪い”を…受けても何も無い………。それに…貴方の用いる体技………まるで…あの…御方の様……………………」
凄艶な気配。
サロメの纏う情欲の気配が、息が詰まるほど濃密になった。
それでもなお、‘’あの御方”への献身以外胸中に存在しないユダには何の効果も及ぼせない。
「情欲に…囚われる様な者には……決して見せませんが………貴方になら見せても……あの方は良しとするでしょう」
「これが………私の…素顔…。今の私は……呪いから解き放たれ…………祝福されている……。私の呪いにも影を受けない貴方には…………私と…あの方の繋がりを…見せ……ても良い」
膨れ上がっていた凄艶な気配が消失。変わって周囲を満たす気配。
ユダは無言のまま、緊張した身体の力を抜く。
死者であるサーヴァントならば誰もが知る死の気配。それこそが
サロメの纏う気配の正体だった。
今の
サロメは七つのヴェールを身に纏い、洗礼者の首を欲して舞う妖女に非ず。
銀の大皿に乗せられた、鮮血滴る洗礼者の首に口付ける狂女だった。
狂気と死の偶像(ァイドル)それが今の
サロメだった。
このときユダは、宝具が通じなかった訳を理解した。
「この宝具は…私があの方の運命だったと……世の人々に認められている証………。私とあの方の繋がりが……人々に知れ渡っている証……。この宝具こそ…私とあの方の愛の証……。私とあの方を繋ぐエンゲージリング」
恍惚と呟く
サロメの瞳には何も映ってはいない。否、
サロメの瞳には確かに見えているのだろう。
己がヨカナーンの運命の女(ファム・ファタール)だったと世界中に人間に祝福されている姿が。
衆人が
サロメに抱くイメージ。聖者に死を齎し、その首を銀の大皿に乗せた狂女。
ヴェールと共に羽織っていた妖艶な美女の相の下には、総身に死を漲らせた断頭の呪いを帯びた乙女の姿があったのだ。
この呪いが、おそらくはユダの呪いと相殺しあい、
サロメに何らの効果も及びさなかったのだ。
「世迷い言を吐くな狂女」
脱力し終えたユダに対して
サロメも、同じく脱力した態で立つ。
傍目には、双方ともに弛緩の極みにあると見えようが、少なくとも側で見つめる言葉には、二人が互いに相手を必殺する状態にあると理解できた
サロメのヴェールが舞い。ユダの拳と接触した処に白い火花が散った。
無音のまま散った火花が、二人の帯びた巨大な呪いが激突した結果と誰が知ろう。
裏切りと断頭と─────異なる呪いを帯びた男女が対峙する。
【C-6/河川敷公園1日目 午前0時20分】
【
桂言葉@School Days(アニメ版)】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[虚影の塵]一つ
[星座のカード]有
[装備]
[道具]
[所持金]不明。境遇が元いた世界と同じなら、結構なお金持ちなので、活動資金を得られるかもしれない。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得。
1.
サロメに実戦経験を積ませたい
2.セイバー(
ジャック・ザ・リッパー)を確認しました。真名を
ジャック・ザ・リッパーと推測しています
3.バーサーカー(
イスカリオテのユダ)を確認しました
4.セイバー(
ジャック・ザ・リッパー)の格好から、マスターが教会にいるのでは?と考えています
[備考]
※討伐例は未確認です
【アサシン(
サロメ)@新約聖書及びオスカー・ワイルドの戯曲】
[状態]実体化、健康
[装備]七つのヴェール
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1. 実戦経験を積む
2.この敵(ユダ)を殪す
3.セイバー(
ジャック・ザ・リッパー)を確認しました
4.バーサーカー(
イスカリオテのユダ)を確認しました
[備考]顔を覆うヴェールを外しています。
【バーサーカー(
イスカリオテのユダ)@新約聖書、及び関連書籍】
[状態]ダメージ(小)
[星座のカード]有
[装備]
[道具]
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の破壊
1. マスターへの栄養(人間)確保
2.
サロメの殺害
[備考]
サロメの真名を知っています
「どうしよっかなあ~」
少し離れた暗がりに潜み、
ジャック・ザ・リッパーは思考する。
あのサーヴァントが宝具で自分を誑かしてくれた事には非常に腹が立つ。だが、報復するにも、あの幻想種(ヤマトナデシコ)を愉しむにも、あのオッサンは邪魔だ。
「まあ、機械が来るまで待つさ。この私が、殺す機を測り損ねるなんて無いんだから」
何しろ確保は
ジャック・ザ・リッパー。殺人鬼の代名詞でもある彼女は、『殺し』に於いては己がトップだろうと自負している。
全身が痛むがそんな事は問題にもなりはしない。
あの乱入者が隙を見せたその時は─────。
【セイバー(
ジャック・ザ・リッパー)@史実(19世紀 ロンドン)】
[状態]ダメージ(中)
[装備]宝具から手にした両手の鉈。修道服
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:好みの女性を汚(バラ)し、穢(バラ)し、陵辱(バラ)し─────。
1. 幻想種(ヤマトナデシコ)の殺害
2.邪魔になるサーヴァントの排除
[備考]
河川敷公園の何処かに潜んでいます
<その他>
- 河川敷公園に、直径十数mのクレーターができました。
最終更新:2018年02月15日 23:04