柊かがみ T-01
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strawberryrowa
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柊かがみ T-01 「絶望の1日の、はじまり」
海浜地区の一角。
そこで、見ようによっては墓石の様な印象ももてる一つの巨大なビルが月の光を浴びて白く輝いていた。
それは超然と、ただ時が進むのを、次の――狂騒の一日が始まるのを待っている。
静かに、ただ今は静かに、立ち並ぶビルの隙間を冷たい海風が抜けるひゅうという音だけを聞いて――……
そこで、見ようによっては墓石の様な印象ももてる一つの巨大なビルが月の光を浴びて白く輝いていた。
それは超然と、ただ時が進むのを、次の――狂騒の一日が始まるのを待っている。
静かに、ただ今は静かに、立ち並ぶビルの隙間を冷たい海風が抜けるひゅうという音だけを聞いて――……
◆ ◆ ◆
目覚まし時計の音が鳴っている。
まどろみの中で少女はそれに気付き、安眠を妨害する忌々しい音の発生源に静寂の鉄槌をくらわせようと手を伸ばした。
目を瞑ったまま、手探りでそれを探すが……しかし、手は空を切るばかりだ。
ジリリリリ……と耳をつんざく音は未だ鳴り止まず、少女の苛立ちを代弁するかのように手の動きは荒々しくなる。
目を瞑ったまま、手探りでそれを探すが……しかし、手は空を切るばかりだ。
ジリリリリ……と耳をつんざく音は未だ鳴り止まず、少女の苛立ちを代弁するかのように手の動きは荒々しくなる。
しかしただただ手は空を切るばかり。
その頃になりようやく少女はいつもの場所にいつもの目覚まし時計が無いことに気付き、億劫ながらも目を開いた。
白い光が瞼に包まれていた眼を射し、刺激に少女は顔を歪め、そして覚醒に至る。
その頃になりようやく少女はいつもの場所にいつもの目覚まし時計が無いことに気付き、億劫ながらも目を開いた。
白い光が瞼に包まれていた眼を射し、刺激に少女は顔を歪め、そして覚醒に至る。
――同時に、けたたましかった音はそれが幻だったかのようにピタリと鳴り止んだ。
少女が起きるのを見てなのか、それとも偶々なのか、それは丁度鳴り止み、辺りはしんとした冷たい静寂を取り戻す。
思考が可能となった少女の脳裏に最初に浮かんだ言葉は――夢。
そう思うほどに現実感のない光景が目の前にある。
思考が可能となった少女の脳裏に最初に浮かんだ言葉は――夢。
そう思うほどに現実感のない光景が目の前にある。
「……あ、あれ?」
そこのことは知っている。だが何故自分がここで寝ていたのかが少女には思い出せない。
目の前にはリノリウムの床の上に並んだ無数のテーブルと、それを囲むプラスチック製の簡素な椅子の数々。
その先には低い囲いやゴミ箱があって、さらに先にはホットドックや焼きそばなんかのジャンクフードのお店が軒を並べている。
一際ビビットな色合いの看板を掲げたアイスクリーム屋さん――そこで買ったアイスクリームの味は記憶に新しい。
目の前にはリノリウムの床の上に並んだ無数のテーブルと、それを囲むプラスチック製の簡素な椅子の数々。
その先には低い囲いやゴミ箱があって、さらに先にはホットドックや焼きそばなんかのジャンクフードのお店が軒を並べている。
一際ビビットな色合いの看板を掲げたアイスクリーム屋さん――そこで買ったアイスクリームの味は記憶に新しい。
別段それだけでは不思議でもなんでもない光景。
しかしそれを夢かと錯覚したのは、そこが完全に無人であったからだ。
少女は首を振ってこのフードコートの中を見回すが、しかしやはり自分以外には誰もいない。客も店員も誰も……。
しかしそれを夢かと錯覚したのは、そこが完全に無人であったからだ。
少女は首を振ってこのフードコートの中を見回すが、しかしやはり自分以外には誰もいない。客も店員も誰も……。
「う、うそ…… もしかして、置いてかれた!?」
少女のまだ半分寝ぼけた頭に思い浮かんだのは、寝ている間に置いてけぼりをくらったということ。
不安と焦燥が彼女に更なる覚醒を促す。
曖昧な記憶も少しずつ鮮明になってきて、少女はここまでに至る経緯を脳内で順に辿り始めた。
不安と焦燥が彼女に更なる覚醒を促す。
曖昧な記憶も少しずつ鮮明になってきて、少女はここまでに至る経緯を脳内で順に辿り始めた。
少女――柊かがみの不幸と絶望の1日。
そのプレリュードとなる、彼女にとっては最後となった幸せな1日の記憶を――……
そのプレリュードとなる、彼女にとっては最後となった幸せな1日の記憶を――……
◆ ◆ ◆
「あー……、やっぱ遠いわねぇこんなとこまで来ると」
銀に蒼のラインが走る列車――ゆりかもめから駅のホームに降りると、かがみは言いながら伸びをした。
そして隙間から入ってきた冷たい風に身体を震わせると羽織っていたコートの襟を合わせ、逆に縮こまる。
そして隙間から入ってきた冷たい風に身体を震わせると羽織っていたコートの襟を合わせ、逆に縮こまる。
「やだねー、かがみんはおばさん臭くて、やれやれ~……」
そこに彼女と同じ高校の制服を着た……しかし小学生かと疑うような小さな背の少女が茶々を入れる。
膝裏まである長い髪をなびかせかがみの隣を軽いステップで通り過ぎると、身を翻し柔和かついやらしい笑顔で彼女を見上げた。
膝裏まである長い髪をなびかせかがみの隣を軽いステップで通り過ぎると、身を翻し柔和かついやらしい笑顔で彼女を見上げた。
「うっさい! 大体、あんたのためにわざわざやってきたんだから感謝の言葉の一つものべなさい」
見下ろす少女――泉こなたの前に拳を振り上げ、逃げ出す彼女を追いかけて2人はその場を軽く一周。
一時間半ほどの列車の旅でこった身体をそれでほぐすと、かがみはツインテールを翻して一緒にやってきた友達達を振り返った。
一時間半ほどの列車の旅でこった身体をそれでほぐすと、かがみはツインテールを翻して一緒にやってきた友達達を振り返った。
「お姉ちゃんも、こなちゃんもやめなよー」
おっとりした声色でそう言うのは、かがみの双子の妹である柊つかさ。
しかし双子とは言っても反応がクイックな姉とはほぼ正反対で、声色通りにスローペースな少女である。
そして、更にその後ろに同じセーラー服と指定のコートを着た5人の少女達。
しかし双子とは言っても反応がクイックな姉とはほぼ正反対で、声色通りにスローペースな少女である。
そして、更にその後ろに同じセーラー服と指定のコートを着た5人の少女達。
こなたとつかさのクラスメートであり、学年トップの頭脳を持つ良家の才媛――高良みゆき。
2つ下の下級生であり、こなたの従妹にあたる彼女よりも更に小さな女の子――小早川ゆたか。
そんな彼女に終始付き添い優しく世話を焼く、彼女とは対照的に背が高く凛とした――岩崎みなみ。
そして、ゆたかとみなみの2人を見て時折怪しい笑みを浮かべるのは彼女達と同クラスの――田村ひより。
最後に、集まった8人の中でも異彩を放つアメリカからの留学生である――パトリシア・マーティン。
2つ下の下級生であり、こなたの従妹にあたる彼女よりも更に小さな女の子――小早川ゆたか。
そんな彼女に終始付き添い優しく世話を焼く、彼女とは対照的に背が高く凛とした――岩崎みなみ。
そして、ゆたかとみなみの2人を見て時折怪しい笑みを浮かべるのは彼女達と同クラスの――田村ひより。
最後に、集まった8人の中でも異彩を放つアメリカからの留学生である――パトリシア・マーティン。
「じゃあ行きましょう。もうあんまり時間ないし」
半日で授業の終わる土曜の午後。
彼女達がいったん帰る手間を惜しみ、制服のまま遠くまで来たのには勿論わけがある。
それは8人それぞれに微妙に異なり、中にはただの付き合いで来ている者もいるが、それでもそれなりの理由があった。
彼女達がいったん帰る手間を惜しみ、制服のまま遠くまで来たのには勿論わけがある。
それは8人それぞれに微妙に異なり、中にはただの付き合いで来ている者もいるが、それでもそれなりの理由があった。
「かがみんもはりきってるね~。菫川先生のサイン本欲しさにお台場くんだりまで足を運ぶたぁ、もう立派なオ――」
「――ちがっ! 私のはついでで、あんたが限定のなんとかを買うために付き合ってるだけでしょー!」
「――ちがっ! 私のはついでで、あんたが限定のなんとかを買うために付き合ってるだけでしょー!」
と、非オタを掲げながらも本棚の中にあるラノベの数は決して少なくないかがみの理由はそういうものだ。
ともかく8人の少女達は微笑ましい程度に騒がしくしながら連れ立って改札口を抜け、
海風に奪われる熱を自販機で買ったホットドリンクで取り戻しながら広い道を歩いてそこへと向かった。
ともかく8人の少女達は微笑ましい程度に騒がしくしながら連れ立って改札口を抜け、
海風に奪われる熱を自販機で買ったホットドリンクで取り戻しながら広い道を歩いてそこへと向かった。
駅を出てすぐに頂が見え、15分ほどでその全容と大きく口を開けた入り口が見えるショッピングビル。
真っ直ぐに続く道の脇にはいくつもののぼりが立ち、そこには件のサイン会のものも見られる。
他には上映中の映画や開催されるイベントのものも見られたが、一番目立つのは”改装処分セール”の赤文字だ。
真っ直ぐに続く道の脇にはいくつもののぼりが立ち、そこには件のサイン会のものも見られる。
他には上映中の映画や開催されるイベントのものも見られたが、一番目立つのは”改装処分セール”の赤文字だ。
”複合ショッピングビル「ブランシェ(Branche’)」 リニューアルに伴い処分品の大セール中!”
ビルに近づくにつれ増えていく人の波。
おそらくはほとんどの人はこのセールを目的にやって来ているんだろうと、それぞれに思いながら
8人の少女達もその波の中に混ざり、そして姿を消して行った――……
おそらくはほとんどの人はこのセールを目的にやって来ているんだろうと、それぞれに思いながら
8人の少女達もその波の中に混ざり、そして姿を消して行った――……
◆ ◆ ◆
「えーと、それからどうしたっけ……?」
独り、プラスチックの椅子に腰掛けたままでかがみはそれを思い返そうと頭を捻る。
ビルの中に入り、サイン会まではまだ時間があると――しかし予め並んでおくべきだというこなたの意見を退け、
とっていなかった昼食をこのフードコートでみんなととった。
頼んだラーメンが値段の割にはそんなにおいしくなかったこと。口直し(?)にアイスを食べたことをかがみは覚えている。
そして本屋へと向かったら長蛇の列。並んでいる間ずっとこなたの小言を聞かされ――……
ビルの中に入り、サイン会まではまだ時間があると――しかし予め並んでおくべきだというこなたの意見を退け、
とっていなかった昼食をこのフードコートでみんなととった。
頼んだラーメンが値段の割にはそんなにおいしくなかったこと。口直し(?)にアイスを食べたことをかがみは覚えている。
そして本屋へと向かったら長蛇の列。並んでいる間ずっとこなたの小言を聞かされ――……
「そうだ、サイン本! ……てか荷物っ! …………な、なくなって……あれ?」
かがみの周りには足を棒にした代償に得られたサイン本はもとより、
持ってきていた学生鞄もセールで得られた戦利品を収めたいくつかの買い物袋も見当たらなかった。
ただ、見知らぬ黒いデイパックだけが一つあるだけ……。
持ってきていた学生鞄もセールで得られた戦利品を収めたいくつかの買い物袋も見当たらなかった。
ただ、見知らぬ黒いデイパックだけが一つあるだけ……。
「……つかさが万引きしたって事務所に。 ……その時、それから…………」
じょじょに記憶は新しいものへと、もう直前まで迫ってきている。
8人はそれぞれにビルの中で目的を果たし、遅くなる前にと戦利品を抱えて帰り路に着こうとしたのだ。
しかし警備員に万引きの疑いがあると止められ、事務所に連行――荷物は全部没収されて――…………
8人はそれぞれにビルの中で目的を果たし、遅くなる前にと戦利品を抱えて帰り路に着こうとしたのだ。
しかし警備員に万引きの疑いがあると止められ、事務所に連行――荷物は全部没収されて――…………
「それから……それから、どうなったんだろう……?」
案内された事務所に随分な数の警備員がいて驚いたことをかがみは覚えている。
泣きべそをかいていた妹に冷たく当たる警備員に食って掛かったことも。
しかし、記憶はそこまでだった。次のシーンは今現在。唐突に、起きたら一人ぼっちとそんな状況だった。
泣きべそをかいていた妹に冷たく当たる警備員に食って掛かったことも。
しかし、記憶はそこまでだった。次のシーンは今現在。唐突に、起きたら一人ぼっちとそんな状況だった。
「何……これ? みんなはどこに行っちゃったの……」
無理矢理に考えれば、取調べ中にでも居眠りをしてしまってここに放置され、
そしてその間に店は閉まり、友達はそれに気付かず自分を置き去りにして帰った――としかしかがみは首を振る。
こなたもつかさも他のみんなもそんなに薄情じゃないし、そもそも店員や警備員がほったらかしにするはずもない。
そして、なにより――
そしてその間に店は閉まり、友達はそれに気付かず自分を置き去りにして帰った――としかしかがみは首を振る。
こなたもつかさも他のみんなもそんなに薄情じゃないし、そもそも店員や警備員がほったらかしにするはずもない。
そして、なにより――
「首輪とか……冗談。 ……意味不明すぎるよ」
何時の間にかに――勿論それは寝ている間になのだろうが嵌められていた、首輪。
気付き意識すれば、喉元に刃を当てられている様だと感じられるひんやりとした金属の環。
そこからチャラ……と、鎖で垂らされている名札には”柊かがみ”と、自分の名前が記されている。
気付き意識すれば、喉元に刃を当てられている様だと感じられるひんやりとした金属の環。
そこからチャラ……と、鎖で垂らされている名札には”柊かがみ”と、自分の名前が記されている。
「わけがわかんない……」
零した言葉通りに彼女にはこの状況の意味が解らなかった。
どうしてこうなってしまったのか。これからどうなってしまうのか。そのどちらも全くの不明。
しかし彼女にも唯一つ解っていることがあるとするならば、
それは悪夢の様なこれが現実でしかなく、そして今から悪夢の様なことが起きるであろうという確信めいた予感。
どうしてこうなってしまったのか。これからどうなってしまうのか。そのどちらも全くの不明。
しかし彼女にも唯一つ解っていることがあるとするならば、
それは悪夢の様なこれが現実でしかなく、そして今から悪夢の様なことが起きるであろうという確信めいた予感。
時計の長針と短針が向きを揃え時刻は零時に。
柊かがみの最後の幸福な1日は終了し、次の新しい1日が始まる――……
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