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見返り恋心.6

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見返り恋心











「っかー! ふざけんなよマムシっ! あそこでスネイク使うかあ? せこいっ! せこすぎるぜ~!」


思い切り悔しそうに叫ぶ桃城を見て、海堂と汐屋は満足気にハイタッチをした。といっても汐屋のほうが背が低いので汐屋だけがハイタッチなのだが、海堂は嬉しそうな汐屋の顔が見れて勝って良かったと思った。


「やった~! 私たちの勝ち!」


喜ぶ海堂、汐屋ペアを見て、越前は隣りの桃城を見上げてボソリと言った。


「あそこで桃先輩がでしゃばんなきゃ俺がスネイク取ってタイブレークに持ち込めたのに」

「なんだとコラ!」

「あははは。海堂君、楽しかったね」


こちらを見上げる汐屋に、海堂はまたドキリとして頷いた。


「……ああ」

「でも本当、海堂君のバギーホイップショットすごいよね~。あ、スネイクショットだっけ? 私もやってみたいけど、リーチ短いからあそこまで曲がんないんだよなあ」


そう言いながら何度も海堂の真似をしてラケットを振る汐屋を見ながら、海堂は感心していた。

あの日、遠目で試合を見た限り確かに汐屋は上手いと思った。だが、こうやって一緒にテニスをしているとその上手さがより伝わって来る。

本気で試合をしたら負けるだろう。

アメリカに留学の話があると言っていたのも頷ける。


「そうだ、越前君」

「なんすか?」


桃城のヘッドロックから漸く逃れた越前が、こちらのコートへやって来た。


「ちょっと休憩したら、私と試合してくれないかな?」

「別にいいっすよ」

「本当? やったー」

「随分楽しそうだな」

「「「?」」」


突然声をかけられ、全員が声のした方を振り向く。


「あ! 乾先輩!」


そこへ現れたのは乾だった。


「すまない、外を通りかかったら海堂達が見えて、勝手に入ってしまった」

「あ、全然いいですよ。桃達の先輩さんですよね?」


汐屋はそう言って笑った。


「ああ。乾だ。よろしくーーー君が汐屋さんか……この間ここで試合をしているのを偶然見かけてね」

「ああ、海堂君から聞きました」

「さっきのダブルスも見させてもらったよ。君は来週トーナメントがあるんじゃないのか?」


乾の言葉に、桃城と海堂が汐屋を見る。


「はい。良くご存知ですね」

「雑誌に載っていたからね。この大会で優勝したらアメリカに行くという噂があるみたいだけど、実のところはどうなんだい?」

「え?」


乾の質問に、海堂がピクリと反応をする。

それを目敏く見つけた乾は、こっそりほくそ笑む。


「雑誌にも書いてあったんだが、君はアメリカ行きについて肯定も否定もしていなかったみたいだね」

「ああ……そうですね。へへへ」


曖昧な笑顔でそう答えると、汐屋はすぐに桃城を指差した。


「桃っ! 負けたんだからジュース奢ってよね。私ファンタオレンジ。海堂君は?」

「あ……俺も同じヤツ」

「だそうよ」

「ちぇっ。覚えてやがったか」

「当たり前でしょ!」


仕方ねーなあ。と呟きながら、桃城はコート脇の通路へと越前と一緒に消えて行った。


「あまり、アメリカ行きの話はしたくないのかな?」

「すみませんーーー」


そう言って謝る汐屋に、海堂は何故か不安になった。


「海堂、お前だったらどうする?」


突然話を振られ、海堂は戸惑う。


「え? 俺っすか……」


それでもきちんと考え、チラリと汐屋を見てから答えた。


「そうっすねーーー俺だったら……行くと思います」

「そうだろうな。俺も行くだろう。だがそれをはっきりしないという事は何か理由があるのかい?」

「それはーーー」

「おい汐屋! 買って来てやったぞ!!」


丁度桃城達が戻って来て、会話はそこで途切れてしまった。


「何よ~、桃。買って来てやったぞなんて偉そうに~。負けたんだから当然でしょ?」

「なんだと~! よし、次は負けねえ! 乾先輩! 俺とダブルス組みましょう!」

「いや、遠慮しておく」

「乾先輩まで何でっすか!?」

「あはは~。桃振られまくり」

「うるせえっ!」

「私は次に越前君と試合するんだもん。邪魔しないでよね」

「その次に勝負だ!」


ムキになる桃城を他所に、汐屋は受け取ったジュースを一口飲むと越前を見た。


「はいはい。越前君、試合お願いしてもいい?」

「ういっす」









海堂達は驚いていた。

今目の前で繰り広げられる試合に、瞬きすら出来ずにいた。

越前の強さは誰もが認めていたし、地区予選に始まった今大会も、越前のおかげで関東大会決勝まで来ることが出来たと言っても過言ではない。

そんな越前相手に、汐屋は互角どころかリードしていたのだ。


「はっ!」


華奢な体からは想像もつかないほどパワフルなサーブ。

越前の行動を予測してのプレーは、見事という他なかった。

何より、派手な越前のプレーを冷静に分析してすぐに弱点を見つける眼力はすさまじかった。

乾は汐屋の試合運びを越前攻略になると、詳細にメモを取っている。

ふと顔を上げて小声で尋ねる。


「おい桃……お前の友達はこんなに強かったのか?」


乾の質問に桃城は首を横に振る。


「知りません……去年俺が一緒に練習してた時は、こんなに強くなかったっす」


それはきっと汐屋が手加減をしていたからだろうと海堂は思った。

3人ともコート上の二人から目が離せなかった。

結局試合は6-3で汐屋が勝った。


「ありがとう、ございました……」


握手を交わす二人からは、力を出し尽くし満足した。という感情が伝わって来た。


「汐屋!」


桃城は汐屋に駆け寄る。


「お前、なんでそんなに強いんだよっ!?」

「え? たまたまだよ。越前君はまだまだこんなものじゃないでしょ? 私が今日勝てたのはたまたまだよ……」


そう言って笑う汐屋に、海堂はその場から動く事が出来なかった。

気付ば全身に鳥肌が立っていて、微かに手が震えている。

自分の前の席の少女が見せたプレーに、驚愕しているのだ。


もっと早くに知り合っていたらーーー


チラリと汐屋と越前としゃべる桃城を見る。


羨ましい。


この汐屋雪緒という少女とずっと昔から知り合いだという桃城を、羨ましいと思った。


「海堂君」

「あ?」


急に名前を呼ばれ、海堂は我に返った。


「乾先輩と組んで、私と桃のペアと試合しない?」


先ほどまであんなに激しい戦いを越前と繰り広げていたのに、汐屋はまた試合をやろうと言い出した。

今日から走る距離を5キロ増やそう。

海堂はそう、誓ったのだった。








                                続く…










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