チェンジ・ザ・ワールド☆
見返り恋心.7
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見返り恋心
あの日から、海堂の中で汐屋の存在が大きくなって行っていた。
汐屋と試合をした桃城と越前もあれ以降随分と頑張っていた。
自分も頑張らなくてはと海堂も気合いを入れる。
なにより、汐屋の強さと努力を見た後、海堂はさらにトレーニングを積んだ。
いつか本気で試合をして汐屋に勝ちたい。
そう思ったから。
夏休みに入った事もあって汐屋に会う事はなかったが、トーナメントの結果だけは乾から情報が入っていた。
ふと部屋のカレンダーに目をやる。明日の日付には赤い丸がついている。
明日、汐屋はトーナメントの決勝を迎える。
「明日……かーーー」
明日は海堂達も全国大会の第一回戦がある。
汐屋も頑張っている。
俺も、頑張らなくちゃな。
そう心の中で呟き、海堂は着替えて外に出た。
夜とはいえ真夏である今は、なまぬるい風が道路の上を吹き抜けて何とも言えず不快だった。
しばらく走って行くと、いつもの公園へと差し掛かる角に来る。
そういえばあの日、ここを曲がったところであいつに会ったんだっけなーーー
そんな事を考えながら曲がると、海堂は驚いた。
「っ……?」
「海堂……君ーーー?」
そこには汐屋がいた。
何故かその瞳には涙がいっぱいにたまっている。
「……どうした?」
汐屋の様子に海堂は思わず声を掛けてしまった。
しまったと思ったがもう遅かった。
ポロリ
とその瞳からこぼれた涙は、堰を切ったように流れ出した。
「おっ、おい」
慌てた海堂はうずくまる汐屋の側へ駆け寄り、おろおろと辺りを見回す。
人気のないその場所で、海堂は汐屋のすぐ隣りにしゃがみ込んでそっと肩に手を置いた。
っ!?
突然汐屋が海堂に抱きついて来た。
驚いた海堂は勢いに押されて尻餅をつく。
そのままの体制で汐屋の体を抱きとめ、ずっとむせび泣く汐屋の頭を撫で続けた。
どのくらいの時間そうしていただろう。
汐屋は漸く落ち着きを取り戻し、ゆっくりと海堂から離れた。
「ーーーごめんね……」
海堂は汐屋の泣き顔を、不謹慎ながら可愛いと思った。
体を離れた汐屋の温もりを、もっと感じていたかったと思った。
海堂の足の間で座り込む汐屋の手には、抱きついてきた時に海堂が手渡したタオルが握られていた。
「落ち着いたか?」
低い海堂の声が、汐屋の体を揺らす。
コクリ
一つ頷いた。
「なお~」
「大介……?」
そこへ汐屋の猫の大介が現れ、海堂と汐屋の間に座った。
汐屋は大介の頭を撫でながら、ふと海堂を見た。
ドキッ……
潤んだ汐屋の瞳に、海堂は胸が躍る。
「海堂君のお母さんは、とっても優しい人だねって……前に話したの覚えてる?」
急に話し出した汐屋に少し驚きつつも、海堂は無言で頷く。
あの日から始まった。
こんなに汐屋の事が気になるなんて、あの日まで思いもしなかったのだから忘れるはずがない。
じっと汐屋を見つめると、汐屋も海堂をじっと見つめた。
そしてふっと小さく、それはとても悲しそうに微笑んだ。
見ている海堂が苦しくなるくらい、悲しそうに。
「私のお母さんね、小学校の6年の時に事故で死んじゃったんだ……」
「…………」
海堂は言葉が出なかった。
海堂の弁当と母親を褒めた汐屋に言った言葉を思い出し、後悔する。
いつも汐屋が持って来ていた弁当は、自分が作っていたのだ。
俺はなんて馬鹿なんだーーー
キュッと歯を食いしばった海堂に、汐屋が続けた。
「アメリカ留学の事もね、本当は小学校の時にもあったの……でも、お母さんの事とかあってなんとなく先延ばしにしてて。そしたら段々怖くなってきて」
「怖い?」
「うん……私がアメリカに行ったらお父さん一人になるからさ。もし、離れてる間にお父さんまでいなくなったらって……そう思ったら怖くて怖くて、アメリカなんか行きたくないって思った。でもまた昨日改めて本格的に留学の話しもらって、お父さんは明日優勝したら迷わず行けって言うの。私は嫌だって言ってるのに、お父さん俺は死なないなんていい加減なこと言って。いつ死ぬかなんて分かんないのに、私、お父さんが自分の知らない所で死んじゃったりしたらテニスなんて二度と出来なくなっちゃう! ーーーでもっ! ……でもね、テニスも好きなのっ! アメリカに行きたいって思ってる自分がいて、でも行きたくない自分もいて、どうしていいか分かんないの!!」
頭を大きく振りながら声を荒げる汐屋に、海堂は心が締め付けられた。
「ーーーもういい……」
海堂はそれ以上汐屋の辛そうな顔を見たくなかった。
「もう、いいからーーー」
そう言って汐屋の体を抱き寄せた。
汐屋は海堂の背中に腕を回し、今度は声を出して泣いた。
「ごめんね、海堂君っ……私っ……私っ!」
どれくらいそうしていたか、汐屋はふと海堂から体を離した。
もう涙は止まっていた。
「汐屋、俺はお前じゃないから上手く言えねえが……」
そう言って海堂は汐屋を見た。
汐屋は黙って海堂を見つめている。
「お前の親父さんはお前にアメリカに行って欲しいんだろ? だったら、お前が親父さんの事でアメリカに行くのを悩んでるのは、きっと見たくないと思う」
「……」
「確かに人間いつ死ぬかなんて分かんねえ、それでも皆精一杯努力して生きてんだ。それにお前はテニスっていう大事な夢があんだろ? お前はもし今死んで、後悔しねえのか?」
「ーーー海堂、君……」
汐屋は海堂の言葉を噛み締めているようだった。
しばらく地面へと視線を落とし、小さく頷いた。
「ーーー私、アメリカ行くよ」
「ーーーああ」
ぶつかった視線の先の汐屋の瞳に、迷いは無かった。
海堂に不安をぶつけて、少しすっきりしたのだろう。
母親を亡くした時のショックは、それほど汐屋の中で大きいものだったのだ。
だが、それを乗り越えようと必死にもがいていたのだ。
アメリカに行くと言った汐屋の言葉が海堂には嬉しかった。
しかし、海堂の心は汐屋のその瞳を見て酷くざわついていた。
続く…
「見返り恋心」第七話。お読み頂きありがとうございます!
やっとこさ次で最終回です(汗)
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お帰りの際は、窓を閉じてくださいv
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