チェンジ・ザ・ワールド☆
HERO.4
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ボーリング当日。私は朝から元気一杯だった。
休みで家にいたお父さんなんか、ずうっと笑顔の私を見て喜んでたくらい。比奈の笑顔はいつ見ても元気になるなあって。
それから私は待ち合わせの駅前へと急いだ。
この間志波君が直してくれた自転車に乗って、動きやすいスポーティな格好でペダルを軽快に漕ぐ。
もうすぐ志波君に会える。そう思うだけで、なんだか嬉しい。
家並みやすれ違う人をどんどん追い越し、私は駅に着いた。
ちょっと早く来すぎたかな? 時計を見ると待ち合わせ時間よりまだ10分ほど早い。自転車を駐輪場に停めてぼんやりとイチョウの木の下に立った。
あと10分したら志波君に会えるーー
学校でほとんど毎日顔を会わせているのに、休日に会えるってだけでどうしてこうウキウキしちゃうんだろう。
だけど10分過ぎても志波君は現れない。
何かあったのかな?
携帯を見るけど連絡はなくて、私は小さくため息を吐いた。
「ねえねえ、彼女っ」
「え?」
と、突然遠慮なく叩かれた肩に顔を上げると、見知らぬ大学生くらいの金髪の男の人が目の前で笑っていた。
誰?
記憶を辿るけど、まだ引っ越して来たばかりでこっちにこんな年上の知り合いはいない。
「もしかして、一人?」
馴れ馴れしいその男の人は、私が逃げられないように少し手を広げて少しずつにじり寄って来る。
「いいえ、人を待ってるんです!」
きっと睨むけど、男の人はやれやれと肩をすぼめて馬鹿にするような笑い顔で言った。
「さっきから見てたけど、誰も来ないじゃん。いいじゃん、一緒に遊ぼうよ。面白いトコ連れてってあげるからさ」
「結構です!」
「そんなつれないこと言うなよ、どうせすっぽかされたんだろ?」
「ち、違います!」
「おい」
「ああ?」
腕を掴まれたところで、男の人の後ろからぬっと大きな影が現れた。
「志波君っ!」
見上げると、すごく怖い顔をした志波君が男の人の肩を掴んでて、一瞬申し訳なさそうに私を見た。
トクン
志波君の顔を確認した瞬間に鳴る心臓。
「お前、いい度胸してるな。こいつをナンパか?」
「はあ? お前には関係ないだろうが」
「残念だが大アリだ。こいつは俺の連れだ。用があるってんなら俺が聞くぜ」
「ふざけんなよ、俺様を誰だと思ってんだ? ああん?!」
男の人は眉間にものすごい皺を作って志波君を睨み上げた。
だけど志波君のほうが全然身長が高いから、あんまり効果はなさそう。
「お前こそ俺の事を知らないらしいな……強肩の志波って言やあ、この辺りじゃ結構知られてるんだぜ?」
「きょっ、狂犬の志波ぁ?」
えっ? そんな恐ろしい異名があるの!?
珍しく饒舌な志波君の言葉に、男の人は一瞬たじろぎ、ギリギリと締め付けられる自分の手首に顔をしかめた。
「うっ、いてててっ! わ、悪かった、かか勘弁してくれえっ!」
とうとう弱音を吐いて逃げて行く男の人が見えなくなると、志波君がふんと息を吐き出した。
「あ、ありがとう。志波君……」
どうしよう、カッコいい。やっぱり志波君はヒーローだ。
どんどんと止まらなくなる心臓の音に、私は志波君の顔をまともに見ることが出来なかった。
頭を下げている私に志波君は謝ってくれた。
「いや、俺の方こそ遅れて悪かった。大丈夫か? 何もされなかったか?」
やっぱり優しいや。
「平気」
駄目だ。心臓の音が煩くて、自分の声が聞こえない。志波君、どうしてあなたはそんなに優しいの?
「そうか。行くぞーーしかし本当、お前は危なっかしいヤツだな……」
「え?」
歩き出した志波君の後ろを慌てて追いかけながら、私は志波君が言った言葉の最後が聞き取れなかった。
なんて言ったんだろう。きっと呆れてるよね。自転車のチェーンが外れてこけて、ハードルが重くてこけて、今日はナンパされて逃げられなくて……しかもその全部を志波君が助けてくれたんだもん。完全に志波君の中では私という女の子はトラブルメーカーに位置づけられてるはずだ。
その日一日、楽しいはずのボーリングはなんだか記憶にすら残らない有様だった。
家まで送ると言ってくれた志波君の申し出も、お母さんに頼まれていた買い物があるからと断って一人で自転車にまたがる。
「はあ……」
何だか自分がおかしい。いや、元からおかしいのは自覚してるけど、こんな気持ちになったのは生まれて初めてだ。
志波君の事を考えると胸が痛くなるし、お話してると上手く言葉が出て来ない。私のヒーローなのに、ヒーローに感謝しなきゃいけないのに、どうしてだろう? 初めて会った時はこんなことなかったのに。まさか捻挫の後遺症?
夕暮れ時の町並みを自転車で駆けながら、自分ではどうしても導き出せない答えに、密さんに相談してみようと思いを決めた。
続く…
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