チェンジ・ザ・ワールド☆

例えばここに

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例えばここに










 「例えばここに、自分が好きな人が自分の事を好きになるスイッチがあるとする。そうしたら真田はそれを押す?」


 突然変な事を言い出した目の前に座る少女に、真田は部誌を書いていた手を止めて呆れたように視線を向ける。


「ーーーくだらん、そんな事を考える暇があるなら仕事をしろ」

「仕事はもう終わったよ。真田が部誌を書き終えるのを待ってるだけだもん。いいから答えてよ」

「だからくだらんと言っただろう?」


 手元に視線を戻して一蹴すると、少女、汐屋雪緒はほおづえを付いて真田を見て言い放った。


「立海大付属テニス部の副部長ともあろう人が、大切な部員の質問一つ満足に答えられないなんて、情けないなあ……それともなに? 自分にとって有益でない質問には答えられないって訳? すごいねー。真田ってばもしかしてものすごい権力者? 政治家?」

「誰も答えられないとは言っていない。くだらないと言っているだけだ」


 何故こんなことで攻められなければいけないのか、真田はため息を吐く。


「答えられない訳じゃないならいいでしょ? 押すか押さないか。どっち?」


 これはもう答えるまで会話が終わりそうにないので、真田は答えた。


「……そんなものがあっても俺は押さん。もし相手の事を本当に好きなら自分の口からきちんと伝えるべきだろう」

「まあ、そう言うだろうとは思ったけど」


 思ったのなら質問しなくてもいいだろうと思ったが、言うとまた面倒くさそうなので無視をする。


「でもさ」


 雪緒はふと体を椅子の背もたれに預けて天井を見上げた。


「何だ?」

「もし相手が自分の事を好きじゃなかったら告白してもフラれるわけでしょ? それならスイッチ押せば無条件で両思いになれるんだよ? 押した方が良くない?」

「ーーー本当にお前はくだらん事を言うな」

「もう、くだらんくだらんって、私がくだらない人間みたいだからやめてよね。じゃあ真田はフラれてもいいの?」


 天井から真田に視線を戻すと、雪緒は一瞬悲しそうな目をした。

 それに真田は気付かないふりをして質問に答える。


「お前はそんなものの力で互いの気持ちが向き合って嬉しいのか? 本当に好きなら何かに頼らずともそのままぶつかればいいだろう」

「フラれても?」

「だからそれは結果論だろう? 断られることを前提に思いを告げるなら、最初から負けだ。正々堂々、真正面から気持ちを伝えたなら例え思わしくない答えが返ってきたとしても俺は構わない」


 それから雪緒はじっと黙ったまま真田を見ていた。


「何だ?」


 とうとう作業を中止して真田は雪緒を睨む。


「ーーー真田はまだ本当に誰かを好きになった事がないんだね」


 憐れむような雪緒の視線に、真田は目を伏せる。


「くだらん」

「それって肯定と受け取るけど?」

「ならばお前は押すのか?」

「え?」


 戸惑った雪緒に、真田がもう一度質問を浴びせる。


「だからお前はその相手が自分の事を好きになるスイッチとやらがあったら押すのかと聞いている」


 しばらく何か考えていた雪緒は、ふと床に置いていた鞄を手に取り立ち上がった。


「おい、俺の質問に答えろ」


 ドアの前まで歩くと、雪緒はカチャリとドアを開けた。


「例えばここに、真田が私の事を好きになるスイッチがあるとする……」

「なに?」


 真田はドキリとした。

 雪緒はこちらを向かず、俯いたまま続けた。


「ーーー私は……迷わず押すよ……だって、私は真田みたいに自分に自信がないもん」

「……汐屋」


 上手く言葉が出なかった。

 雪緒の言葉に、声に、先ほどから心臓がうるさい。 

 そこでくるりとこちらを向いて、雪緒はにかっと笑った。


「な~んちゃってね! 冗談だよ! 本気にしないでよ? じゃ、また明日! お疲れ!」


 バタンと閉まったドアに、真田は雪緒の残像を見ていた。


 ーーー冗談? それこそ冗談だろう?


 そう、雪緒の顔は真っ赤だった。

 夕日の所為ではない。あれは照れ隠しの言葉。


「……例えば、ここにーーーか」


 真田は握っていたシャープペンでコツンと机を一回叩いた。

 雪緒が押したスイッチは、確かに効果を来したようだ。

 真田の中にある感情に名前をつけるとするならば、それはきっと恋だから。







                          END 






あとがき

いやああああああーーーーーーーーー!!!!!!
せっかく書いたのに! せっかく書いたのにいいいいい!!!!!!
消しちゃいましたよ、私のおばか!!!
泣きたくなった。
初めに書いてたやつ、結構好きだったのに。。
でも仕方ないから書き直しました。でも今度は会話中心にしてみました。そして短くしました。
こっちのほうがいいかな。
うん、もういいや。こっちで!(投げやり)

ここまでお読み下さった皆様、ありがとうございます…




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