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トランプ

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トランプ











 「また負けたっ!」


 パサッ! と机の上に投げ出されたトランプが、摩擦で滑って反対側の端で止まった。


「本当に汐屋は弱いのお」

「仁王君が強すぎるんだよ」


 先ほどから何度やっても勝てないポーカーに、確率の問題じゃないのか。と汐屋は頬を膨らませる。


「汐屋はすぐ顔にでるけんの、ポーカーなんじゃからポーカーフェイスでないと相手に読まれるたい」

「うそ~。これでもポーカーフェイスでやってるつもりなのに……」


 自信をなくしたのか、汐屋が窓の外に視線を送った。


「は〜あ。しっかしこう雨が降ってたら運動部は練習になんないよね」

「そうじゃの」

「テニス部は真田君もいないし、部活は休み。それなのに何で仁王君ってば教室で私とトランプなんてやってる訳?」

「……汐屋がやろう、言い出したんじゃろ」

「ーーーそうだっけ?」

「そうじゃよ。俺が帰ろうとしとったら走って来て、部活が休みなら暇つぶしに付き合えって言うたじゃろう? 覚えとらんのか?」


 そこで汐屋は仁王に顔を戻して瞬きをした。


「……あ、そうか。みっちゃん待ってる間暇だから誰かに相手してもらおうと思って探してたら、仁王君を見つけたんだった。あんまりポーカーに連続で負けるもんだから、悔しさで忘れてた」


 そう言って今度は笑い出す。

 本当にころころ良く表情が変わるものだと、仁王は感心する。


「あとどれくらい友達が戻って来るまで時間がかかるんかの?」


 カードを器用に切りながら尋ねると、汐屋は時計を見て答えた。


「えっと、あと30分くらいかな?」

「それじゃあもう一勝負するかの」

「え~。もういいよ」

「何でじゃ?」

「だって負けるの分かってるもん」


 眉を寄せて仁王を睨む汐屋に、苦笑しながらカードを配る。


「確率じゃろ? それに、今度こそ顔に出さんかったら勝てるかも知れんし」


 そう言ってカードを配り終えニヤリと笑う。

 それを見て汐屋が少し怒ったように言った。


「じゃあ、この勝負で私が勝ったらケーキ奢ってくれる?」

「ええよ」

「よし!」


 ぐっと両手の拳を握りしめて気合いを入れる。


「それじゃあ俺が勝ったら、俺のお願いきいてくれるかの?」

「ええ~!? そんなの私の方が圧倒的不利じゃん!」

「今まで散々勝ってるのに賭けとらんかったからの。一つだけなんじゃ、今までの負けを考えたら安いもんじゃろ?」


 厭味ったらしく微笑む仁王に、汐屋はそれでも暇つぶしの相手をずっとさせていたことに後ろめたさを感じたようで、渋々承知した。


「ーーー分かった。でもお金頂戴は無しよ! 今月私ピンチなんだから!」

「普通遊びで現金は賭けんじゃろ? 心配せんでももっと楽なお願いするけん」

「本気なら賭けるんかい……まあ、楽なお願いならいいよ」


 途端に笑顔になった汐屋に、仁王は再び苦笑すると伏せてあるカードを手に取った。


 スリー・オブ・ア・カインド。


 良い手が来たと、チラリと向かいに座る汐屋を伺う。

 眉間にしわを寄せ、何度もカードの端を摘んでは放すを繰り返している。


「うーーーーー。3枚チェンジ!」

「俺は1枚じゃ」


 それぞれ山からカードを引く。


 ーーー来た。フルハウス。


「勝負!」


 同時にテーブルの上に開かれたカードを見て、仁王は愕然とした。


「う、嘘……じゃろ……」

「やった! 私の勝ちだっ!!!」


 汐屋のカードはフォー・オブ・ア・カインド。

 まさかの大逆転で、仁王は負けてしまったのだ。

 ブタになるように配ったはずなのに……

 確率とはかくも恐るべきものなのか。仁王のささやかな反則が失敗したのだ。

 相手を騙そうとした罰なのか。

 今まで普通に対戦して勝っていて、最後だけずるをしようとしたのが逆にいけなかったらしい。


「はあ……」


 大喜びをする汐屋に、仁王が参ったと両手を上げる。


「すごいの、チェンジの後の汐屋の表情はまさにポーカーフェイスじゃった」

「えへへ。仁王君のアドバイスのおかげだね! あ! やった、これでケーキ奢ってもらえるっ!」


 立ち上がってガッツポーズをする汐屋に、仁王はトランプをたぐり寄せながら小さく舌打ちをした。


 どうしても勝ちたかったのに。


「ふふふ~。勝負は勝負だからね! 早速明日の帰りにでも駅前のケーキ屋の絶品チーズケーキを買ってもらおう!」

「仕方ないの、俺が言い出した事じゃ。約束は守るき」

「やったね……でも、仁王君のお願いって何だったの?」


 気になるらしく、汐屋が立ったまま仁王を見て言った。


「ーーーなんじゃ、今まで負けたから気にしとるんか?」

「う~ん。ちょっとね。やっぱり私だけ最後に勝ったからケーキ奢ってもらうのは気が引けるっていうか……あ、でもお願いの内容によるからね」


 少し笑った汐屋に、仁王はまとめたトランプを返しながら立ち上がった。

 ポスンと汐屋の頭に手を置いて笑う。


「たいしたお願いじゃないんじゃがの……俺の彼女になってくれんかーーーって、お願いじゃ」

「へえ、仁王君の彼女に……………………って、ええええっっっっ!?」


 目を真ん丸に見開いて、汐屋は大声で叫んだ。


「ーーービックリするじゃろう。そげに叫ばんでも……」

「だって、だって! ええっ!? 嘘っ! 何それ、ちょっと! え? 私っ? 彼女っ!?」


 汐屋が顔を真っ赤にさせ、後ろを向いたり窓に手を当てたり落ち着きなく独り言を呟く。


「嘘嘘っ! だって仁王君ってばすっごくモテるし、わ、私なんかチビだし貧乳だし可愛くないし、勉強だって運動だって普通だし、同じクラスってだけで全然何にも仁王君にそんな事言ってもらえるようなものなんてないし!」


 いつもより数倍早口でそう捲し立てると、汐屋は急に無言になった。

 さきほどまでの慌てふためきぶりはどこへやら、電池が切れたみたいに項垂れている。


「どうしたんじゃ? 返事はくれんのかの?」


 じっと動かなくなって俯いた汐屋の頭を見つめながら、仁王は返事を待った。


「……く……す」

「え?」


 ボソリと言った汐屋の声が聞こえなかった仁王は顔を近づける。

 それに慌てて汐屋は飛び退き、後ろの机の上に置いてあった自分の鞄をガッと掴むと、まだ真っ赤な顔を仁王に向けて言った。


「ーーーよ、よろしくお願いしまっす!」

「あ、おいっ!?」


 そして脱兎のごとく教室を飛び出して行ってしまった。

 取り残された仁王は、唖然と汐屋が走り去った廊下を見つめた。


「ーーーおいおい、折角いい返事くれたのに、逃げたらいかんぜよ」


 頭を掻いて呟く。

 先ほどの汐屋の恥ずかしそうな顔を思い出して、仁王は笑った。


「まあ、ええか」


 たまにはトランプをしてみるのは、いかがですか?







                             END








あとがき

どうもー、お読み下さいましてありがとうございました!
仁王……やばい。仁王ってどんな人なの? 全然分からない!(笑)
そして方言おかしいよ? 何? どこの人?
広島っぽいかと思ったら土佐っぽいし……いや、その辺に親戚いるから言葉は分かるんだけど。
でも使い方間違ってる時あるよね?(笑)
私はなるべくおかしくないように方言使ってみたんですけど、危うく博多弁になりそうで困りました。
仁王に当てたお題は「トランプ」でございました。
それでは、またお会いしましょう。




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