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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

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 披露宴も終わり、比奈達は二次会の会場であるバーに移動していた。

 すっかりお酒でご機嫌のはるひは、ザルの竜子に絡んでいる。千代美はそれを必死になだめていた。

「みんな来てくれてありがとー」

「あっ、密さん! おめでとう! すっごい綺麗だったよ~!」

 漸くあちこちで捕まっていた密がやって来て会話することができた。

「本当? 嬉しい。チョビちゃん、氷上君と来れなくて残念だったね。針谷君もツアー中で駄目だったし、志波君もシーズン中だから駄目だし、佐伯君もお店忙しくて駄目だったからちょっと寂しい……」

 千代美と比奈の間に座った密が残念そうに言うと、千代美はハリーの名前を呼びながら竜子にしがみつくはるひの腕を引っ張った。

「何だか皆普通のサラリーマンじゃないですね」

「本当だ、みんなすごいよね」

 比奈も上がった名前と職業を照らし合わせながら笑う。

「そう言えば比奈さん、佐伯君のお店行った事あるって言ってたわよね?」

 思い出したように密が言うと、皆もそれに乗って来た。

「うん、もうすっかり常連。家から近いっていうのがポイントだよね」

「オープンしてからなかなか行く機会が無かったから、今度連れて行って?」

「いいよ。きっと佐伯君も喜ぶよ」

「あ、うちも!」

「あたしも行きたいねえ」

「私もです」

「うん、皆で行こう!」

 皆で佐伯のカフェに行く約束をしていると、遠くの席から密を呼ぶ声が聞こえた。

「あ、ごめんなさい、ちょっと行って来るね。また戻って来るから楽しんでて」

 密が席を立つと、比奈の携帯がタイミングよく鳴った。

 着信を見ると会社からで、比奈は電話を取りながら急いで店の外に出た。






 「もしもし、お疲れ様です……」

 電話は編集長からで、明日取材予定のレストランのシェフの都合が急に悪くなったため、今から別の店を探せないかという内容だった。

 困った比奈は、先ほどの会話に出てきた佐伯をふと思い出す。

 いい所にいい人がいるではないか。

「あ! レストランじゃなくてカフェでよければ友人の店が一軒ありますけど……」

 取りあえずの提案だったが、あっさりOKの返事をもらった。

「それじゃあ友人に確認してまた連絡します……あ、はい。失礼します」

 電話を切ると、直ぐさま佐伯の番号に掛ける。

「ーーーあ、もしもし佐伯君、私」

『おう、どうした? もう二次会終わったのか?』

 すぐに電話に出た佐伯に一瞬ほっとして、比奈はすぐに用件を伝えた。

「まだ途中なんだけど、佐伯君にお願いがあるの、実はねーーー」

「かーのーじょっ」

「えっ?」

 電話の途中で突然肩を叩かれ、比奈は驚いて振り返った。

「あれ、彼氏と電話中?」

「え? い、いいえ。仕事の電話です」

 見知らぬ男に正直に答える間抜けぶりに自分で呆れながら、比奈はどうしようと言葉に詰まる。

『おい、比奈。どうした?』

 携帯の向こうから佐伯の心配そうな声が聞こえて来る。

「邪魔してゴメンね、電話、続けて」

 その男はどうぞと手を前に出してニヤニヤと笑った。

 何か、嫌な感じ……

 比奈は男から逃げるようにその場を離れ、近くの路地に入った。

「ーーーごめん、佐伯君。酔っぱらいに声かけられて……」

『大丈夫なのか?』

「うん、大丈夫。それでね、明日なんだけど、佐伯君のお店を取材させて欲しいな~。なんて……駄目、かな? 明日取材予定だったレストランが急に駄目になっちゃって、もう佐伯君しか頼れる人がいないの。お願い!」

『明日ぁ!? 本当に急だな……う~ん……でも、お前困って俺に電話してきてるんだろ? あ~、ーーーはあっ。分かった、いいよ。その代わり今度ディスプレイ用のランプ買いに行くの付き合えよ。当然昼飯はお前の奢りだ』

「うっ、うん! 奢る! 奢らせて頂きますっ! ありがとー!! 佐伯君大好きっ!」

 佐伯から承諾をもらい、比奈はその場で飛び跳ねて喜んだ。

『ちぇっ、現金なやつ。んじゃ明日な』

「うん、明日10時に珊瑚礁に行くね! 本当にありがとう。おやすみなさい~」

 なんだかんだ言いながら優しい佐伯に感謝し、比奈は電話を切った。

「あー、良かった! ……あ、編集長にメールしなきゃ」

 急いでメールを打つと、比奈はほっと胸を撫でおろした。

「お話は終わった?」

「あっ……」

 路地から出ようとした所で、先ほどの男が再び現れて比奈の進路を塞いだ。

「あの、困ります」

 怒った顔でそう言うと、男はぐいと比奈の目の前まで顔を近づけた。

「ふう~ん。やっぱり可愛いね。年いくつ?」

「…………」

「結婚式の二次会? そのワンピースも可愛いね」

「やめてください」

 男の舐め回すような視線に、比奈は嫌悪感を感じた。

 目の前の男は嫌らしい笑みを浮かべている。

「俺、君があのバーから出て来るのを偶然見かけたんだけど、一目で気に入っちゃったんだ。運命だと思うんだよね。だからさ、これから一緒にお酒飲みに行こうよ」

「やっ、離してくださいっ!」

 男に腕を掴まれ、比奈はぞっとした。

 このままでは酷い目に遭わされてしまう。

 そんな悪い考えが頭をよぎる。

「大丈夫だって、俺、優しいから。じゃ、携帯の番号とアドレス教えてよ。そしたら離してあげるからさ。あ、もちろん赤外線でね」

 どうしよう。このままじゃ本当に逃げられない……

 路地に入ってしまった事を深く後悔し、比奈が男に番号を教えるしかないと覚悟を決めた時だった。

「手、離してあげなよ。彼女嫌がってるじゃないか」

 比奈と男は同時に声の主を振り向いた。

「何だよ兄ちゃん。別に嫌がってないだろ? 見て分かんないの? 俺達の事なんだ、関係無いヤツはどっか行けよ」

「関係無いことないよ。だってその子、僕の知り合いなんだから」

「え?」

 比奈は困惑した。助けてくれるのはありがたいが、その人物に心当たりがなかった。

 というか、逆光で顔が分からないのだ。

 だが、何となく声に聞き覚えがある気がした。

「嘘吐くんじゃねえよ」

 男はぱっと比奈の手を離すと、その人物に詰め寄った。

「本当だよ。おっと、暴力反対。なんならさっきそこの角の所に警察官がいたから、大声で呼ぼうか? どっちが困るかな」

「くっ……」

 男はその一言で黙り、大げさに舌打ちをしながらその場を立ち去った。

「ふう……さてと。大丈夫だった?」

「あ、ありがとうございました」

 漸く状況を理解した比奈は、自分の体が震えている事に気付いた。

「あ……れ……?」

「あっ!」

 ガクリとひざが抜けそうになった比奈を、すぐに暖かい腕が支えてくれた。

「もう大丈夫だよ。まったく、突き飛ばすくらいすれば良かったのに、キミらしくないな」

「え……?」

 比奈は驚いて自分を支えてくれている人物の顔を見上げた。

 っ!?

 あまりの衝撃に、比奈は言葉を失った。

 なんと、自分を助けてくれたのは、高校時代にずっと好きだった男の子。赤城一雪、その人だったのだ。

 ああそうか。だからさっきどこかで聞いた事ある声だと思ったんだーーー

「おっす、久しぶり。元気そうだね……というか、びっくりしたよ。女の人が絡まれてるから慌てて来てみたら、海野さんなんだもんなーーーでも、大事に至らなくて本当に良かった」


 ドクン!


 そう言って笑う赤城の顔に、比奈の心臓は大きく跳ね上がった。

 高校生の時、大好きだった人。

 でも、その恋は実らなかった人。

 高校の時よりぐっと大人っぽくなったその表情は、増々格好良くなっていた。

「……どうしてここに?」

 少しずつ冷静さを取り戻しはじめた比奈だが、まだ驚きを隠せず尋ねた。

「うん、高校の先輩の結婚式に招待されてたんだけど仕事で出席出来なくってさ。今さっき仕事が終わったから、二次会だけでも顔出そうと思ってね」

「え? もしかして、そこのバー?」

「そう……え? もしかしたら先輩の奥さんって、海野さんの知り合い?」

「同級生なの」

「本当に? すごい偶然だね! ……良かった、二次会に来て……」

「え?」

 嬉しそうに笑う赤城の顔に、比奈は見蕩れていた。

「だってキミ、突然はばたき市からいなくなるんだもんな……あの時、お互い誤解したままだったろ? ずっと謝りたかったんだ……」

 比奈の心臓はそこから急速に走り出した。

「ご、誤解って?」

 緊張しているのがバレないように、比奈は必死に冷静を装った。

「Super Chargerのライブの時、キミがチケット無くしたって言ったの、僕が信じなかっただろ? 後で聞いて知ったから謝りに行ったけど、キミはあの時僕と一緒にいた女の子を彼女だと誤解して、それきりだったから……大学で同じ所を受験するって氷上に聞いてたから、大学でちゃんと話すつもりだったのに、キミ、県外の大学に行ったんだって?」

「ーーーーー」

 あまりの緊張で赤城の声がはっきりと聞き取れなかったが、比奈はじっと赤城を見上げていた。

「比奈! どこだい?」

「あ、友達が心配して探しに来てくれたみたいだね……」

 そこで竜子の声が聞こえて来て、比奈は我に返った。

 まだ赤城に支えられたままだった事に気付き、慌てて離れる。

「あ、あの、海野さん」

 赤城は急いでジャケットの内ポケットから名刺入れを出すと、一枚抜き取って比奈の前に差し出した。

「これ、僕の名刺。今度ゆっくり会って話しがしたい。いつでもいいから、携帯に電話くれないか? ーーーその……もちろん、キミが良ければ……それじゃ」

 目の前の名刺を無言で受け取った比奈の肩を優しく叩くと、赤城はバーへと歩いて行った。

 比奈はじっと赤城に貰った名刺を見つめる。

 はばたき総合病院 小児科医 赤城一雪

 赤城君、お医者さんになったんだ……

「比奈、どうしたんだい、こんな所で。遅いから心配したんだよ?」

「あ……竜子さん、私明日仕事あるから先に帰るね。密さんに謝っといて……それからはるひと千代美ちゃんの事、よろしく」

 名刺をバックにねじ込み、心配そうにする竜子にそう言付けると、比奈は路地を出てタクシーを拾った。

「あ、おい、比奈……」












 帰りのタクシーの中、比奈は高校の時の出来事を思い出していた。

 あの日、ライブのチケットを私が落としたりなんかしなければ……

 赤城君が放課後、羽ヶ崎に来た時、ちゃんと話しを聞いていれば……

 もっと素直になっていれば……


 ずっと好きだった。

 同じ大学に行って、彼女といる所を見るのは耐えられないと、県外に逃げてしまうくらいに。

 男性に告白されても、付き合う事など考えられないくらいに。

 どうして違う学校で大した接点もない、ただ偶然何度か会って話しをしただけの赤城を、これほどまでに好きになってしまったのか自分でも分からない。

 でも、やっぱり赤城の事が頭から離れないのだ。

 それほど好きなのだ。

 そう、今でもーーー

 涙がポロリと零れた。

 嬉しかった。

 ずっと赤城に会いたいと思っていたのが、こんな偶然の再会をするとは夢にも思わなかった。

 出会いも再会もドラマのようで、何だか可笑しくて今度は小さく笑った。

 そう言えば、さっき赤城君は誤解だって言ってたーーー

 今頃冷静になって来た比奈は、もう一度先ほどの赤城の言葉を思い返す。

 誤解? そうだ、誤解だったんだ。……じゃあ私は赤城君から逃げなくて良かったの?

 バックの中から名刺を出し、次に顔を赤らめた。


 ゆっくり会って話しがしたい。


 「私だって、話したいよ」

 だが、あの時赤城を傷付けてしまった。それが何年も前の事だとしても、比奈には赤城と会う資格などないんだと自分に言い聞かせた。

 終わった事だ。きっともう赤城には素敵な恋人がいるはずだ。ただ、昔のわだかまりを解消したいだけなのだ。

 ふと志波の顔が浮かんで来た。

 ずっと同じ相手を想い続ける。叶わぬ恋と知りながら。

 自分と同じ辛さを、志波もまた味わって来たのだ。

 心が揺らぐ。

 志波はきっと比奈の事を大切にしてくれる。何も聞かずに抱きしめてくれるはずだ。

 それに甘えてしまえれば、どんなに楽だろう。しかし、竜子もまた同じように志波の事を想い続けているのだ。

 どうして全てうまく行かないのだろう。

 そう比奈がため息を吐くと、タクシーは家の前で停車した。









                                続く…







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